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特開2017-19737小胞体ストレスによる細胞死抑制剤、小胞体ストレス制御剤、および該制御剤を有効成分とする予防・治療剤
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  • 特開2017019737-小胞体ストレスによる細胞死抑制剤、小胞体ストレス制御剤、および該制御剤を有効成分とする予防・治療剤 図000016
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-19737(P2017-19737A)
(43)【公開日】2017年1月26日
(54)【発明の名称】小胞体ストレスによる細胞死抑制剤、小胞体ストレス制御剤、および該制御剤を有効成分とする予防・治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/353 20060101AFI20170105BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170105BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20170105BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20170105BHJP
【FI】
   A61K31/353
   A61P43/00 105
   A61P25/00
   A61P3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-137590(P2015-137590)
(22)【出願日】2015年7月9日
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】小菅 康弘
(72)【発明者】
【氏名】飯島 洋
(72)【発明者】
【氏名】石内 勘一郎
(72)【発明者】
【氏名】北中 進
(72)【発明者】
【氏名】石毛 久美子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 芳久
(72)【発明者】
【氏名】蒋 文君
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZB21
4C086ZC35
4C086ZC41
(57)【要約】      (修正有)
【課題】特定の化合物を有効成分とする小胞体ストレスによる細胞死抑制剤、小胞体ストレス制御剤、および該制御剤を有効成分とする予防・治療剤の提供。
【解決手段】一般式[1]で表される化合物を有効成分とする小胞体ストレスによる細胞死抑制剤。

(XはH、ヒドロキシ基、無置換/置換のC1〜6アルキル基、又は無置換/置換のC1〜6アルコキシ基;mは0〜4の整数;mが2以上のとき、X同士は各々独立である;RはH若しくはヒドロキシ基)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]で表される化合物を有効成分として含有することを特徴とする小胞体ストレスによる細胞死抑制剤。
【化1】
(一般式[1]中、Xは、ヒドロキシ基、無置換若しくは置換基を有するC1〜6アルキル基、又は無置換若しくは置換基を有するC1〜6アルコキシ基を表し、mは、0〜4のいずれかの整数を表し、mが2以上のとき、X同士は同一でも異なっていてもよい。Rは、水素原子若しくはヒドロキシ基を表す。)
【請求項2】
一般式[1]で表される化合物を有効成分として含有することを特徴とする小胞体ストレス制御剤。
【化2】
(一般式[1]中、Xは、ヒドロキシ基、無置換若しくは置換基を有するC1〜6アルキル基、又は無置換若しくは置換基を有するC1〜6アルコキシ基を表し、mは、0〜4のいずれかの整数を表し、mが2以上のとき、X同士は同一でも異なっていてもよい。Rは、水素原子若しくはヒドロキシ基を表す。)
【請求項3】
請求項2に記載の小胞体ストレス制御剤を有効成分とする神経変性疾患予防・治療剤。
【請求項4】
請求項2に記載の小胞体ストレス制御剤を有効成分とする糖尿病予防・治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小胞体ストレスによる細胞死抑制剤、小胞体ストレス制御剤、および該制御剤を有効成分とする予防・治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体内細胞の小胞体にかかるストレス(以下、「小胞体ストレス」という場合がある。)により、変性タンパク質が蓄積され、細胞死(主に、アポトーシス)を誘導することが知られている。近年、この一連の現象が、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、脳梗塞、ポリグルタミン病などの神経変性疾患、多発性硬化症などの炎症性神経疾患、躁鬱病などの精神疾患、心筋梗塞、動脈硬化などの虚血性心疾患、糖尿病、糸球体腎炎、腎不全などの腎疾患、癌など、様々な疾患の発症および病態進行に密接に関与していることが明らかとなった。これにより小胞体ストレスを制御することはこれらの疾患を予防若しくは治療するために重要である。
【0003】
例えば、特許文献1には、小胞体ストレスを制御する化合物として、特定構造を有するメトキシカルコン、メトキシフラボノイドおよびフラボン系化合物が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、小胞体ストレスを軽減する化合物として、黒米由来の抽出物であるシアニジン及び該抽出物から誘導されたシアニジン配糖体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−314468号公報
【特許文献2】特開2013−151459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている化合物を製造する方法としては、柑橘類の果皮から抽出する方法、若しくは、抽出された化合物の誘導体を用いる方法が開示されているが、医薬品用途で使用する場合には、純度が低く、また収率も悪い。さらに、化学合成による製造方法も可能であるが、合成が困難である。
また、特許文献2に記載されている化合物についても、製造方法として、黒米から抽出する方法、若しくは、抽出された化合物の誘導体を用いる方法が開示されているが、医薬品用途で使用する場合には、純度が低く、また収率も悪い。さらに、化学合成による製造方法も可能であるが、合成が困難である。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、特定の化合物を有効成分とする小胞体ストレスによる細胞死抑制剤、小胞体ストレス制御剤、および該制御剤を有効成分とする予防・治療剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のとおりである。
(1)本発明の小胞体ストレスによる細胞死抑制剤は、一般式[1]で表される化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0009】
【化1】
【0010】
(一般式[1]中、Xは、ヒドロキシ基、無置換若しくは置換基を有するC1〜6アルキル基、又は無置換若しくは置換基を有するC1〜6アルコキシ基を表し、mは、0〜4のいずれかの整数を表し、mが2以上のとき、X同士は同一でも異なっていてもよい。Rは、水素原子若しくはヒドロキシ基を表す。)
【0011】
(2)本発明の小胞体ストレス制御剤は、一般式[1]で表される化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0012】
【化2】
【0013】
(一般式[1]中、Xは、ヒドロキシ基、無置換若しくは置換基を有するC1〜6アルキル基、又は無置換若しくは置換基を有するC1〜6アルコキシ基を表し、mは、0〜4のいずれかの整数を表し、mが2以上のとき、X同士は同一でも異なっていてもよい。Rは、水素原子若しくはヒドロキシ基を表す。)
【0014】
(3)本発明の予防・治療剤は、(2)に記載の小胞体ストレス制御剤を有効成分とする神経変性疾患予防・治療剤である。
(4)本発明の予防・治療剤は、(2)に記載の小胞体ストレス制御剤を有効成分とする糖尿病予防・治療剤である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、小胞体ストレスによる細胞死を抑制若しくは制御するための化合物を、簡便に合成することができ、高い工業性を達成することができる。また、本発明によれば、簡便に小胞体ストレスによる細胞死を抑制又は制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】試験例1においてMTT法による細胞生存率の評価結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、必要に応じて図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
[小胞体ストレスによる細胞死抑制剤]
一実施形態において、本発明は、一般式[1]で表される化合物を有効成分として含有する小胞体ストレスによる細胞死抑制剤を提供する。
【0019】
【化3】
【0020】
一般式[1]中、Xは、ヒドロキシ基、無置換若しくは置換基を有するC1〜6アルキル基、又は無置換若しくは置換基を有するC1〜6アルコキシ基を表し、mは、0〜4のいずれかの整数を表し、mが2以上のとき、X同士は同一でも異なっていてもよい。Rは、水素原子若しくはヒドロキシ基を表す。
【0021】
また、本発明者らにより、本実施形態の一般式[1]で表される化合物((2R,3R)体のみ)が、小胞体ストレスにより誘導される細胞死(主に、アポトーシス)に対して、顕著な効果を発揮することが初めて明らかとなった。
【0022】
本明細書において、「小胞体ストレスによる細胞死抑制」とは、小胞体ストレスにより誘導される細胞死を抑制することを意味する。例えば、一般式[1]で表される化合物を、HT22(hippocampal−derived cell line)細胞等の細胞と、小胞体ストレス誘導物質としてTunicamycin等の化合物を用いたMTT法(Thiazolyl Blue Tetrazolium Bromide Assay)で評価した際に、細胞の生存率が好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上であることを意味する。
【0023】
また、「無置換若しくは置換基を有するC1〜6アルキル基」としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。前記C1〜6アルキル基の置換基としては、特に限定されないが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子などが挙げられる。
また、「無置換若しくは置換基を有するC1〜6アルコキシ基」としては、メトキシ基、エトキシ基、プロトキシ基,ブトキシ基,ペントキシ基,ヘキサトキシ基などが挙げられる。前記C1〜6アルコキシ基の置換基としては、特に限定されないが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子などが挙げられる。
【0024】
小胞体ストレスによる細胞死の抑制効果が高い観点から、一般式[1]中のXは、ヒドロキシ基であることが好ましい。また、mは、2であることが好ましい。Rは、ヒドロキシ基であることが好ましい。
【0025】
一般式[1]で表される化合物の具体例としては、式[1−1]又は[1−2]で表される化合物が挙げられる。
【0026】
【化4】
【0027】
式[1−1]および[1−2]中、Xおよびmは、前記と同様の意味を表す。小胞体ストレスによる細胞死の抑制効果が高い観点から、式[1−1]および[1−2]中のXは、ヒドロキシ基であることが好ましい。また、mは、2であることが好ましい。
【0028】
さらに、式[1−1]および[1−2]で表される化合物の具体例としては、式[1−1−1]又は[1−1−2]で表される化合物が挙げられる。
【0029】
【化5】
【0030】
[小胞体ストレスによる細胞死抑制剤の製造方法]
以下に、前記一般式[1]で表される化合物の製造方法について、詳細に説明する。
【0031】
【化6】
【0032】
一般式[2]で表される化合物を大過剰の水素化ナトリムの存在下に大過剰のクロロメチルメチルエーテル(MOMCl)で水酸基を保護し、一般式[3]で表される化合物を得る。一般式[2]及び一般式[3]中、X、mは、前記と同様の意味を表す。
ベンスアルデヒド誘導体である一般式[4]で表される化合物の水酸基を同様に炭酸カリウムの存在下にMOMClで保護し、一般式[5]で表される化合物を得る。一般式[4]及び一般式[5]中、Rは、前記と同様の意味を表し、Rは、水素原子若しくは−OMOM基を表す。
一般式[3]で表される化合物と一般式[5]で表される化合物をKOHの存在下にアルドール縮合させ、一般式[6]で表される化合物を得る。さらに、一般式[6]で表される化合物をアルカリ性の水溶液中において過酸化水素水で酸化し、エポキシドである一般式[7]で表される化合物を得る。一般式[7]で表される化合物を塩酸で処理し、ラセミ混合物である一般式[1’]で表される化合物を得る。
本実施形態の製造方法において、上記で述べた溶媒や塩基に限定されるものではなく、反応の目的に合致する限り、一般的な溶媒や塩基は標準的なものを用いることができる。
【0033】
さらに、一般式[1’]で表される化合物から、(2R,3R)体である本実施形態の一般式[1]で表される化合物を精製する方法を説明する。
ラセミ混合物である一般式[1’]で表される化合物をメタノールに溶解し、高速液体クロマトグラフィー装置に装着した光学活性支持体カラムを用いて精製する。エタノール−ヘキサン(好ましくは、3:7の割合)で展開することで、(2R,3R)体と(2S,3S)体を分離及び分画することができる。
分離したエナンチオマーについては、エタノール中でナトリウムD線による旋光度を測定することで確認することができる。
【0034】
[小胞体ストレス制御剤]
一実施形態において、本発明は、一般式[1]で表される化合物を有効成分として含有する小胞体ストレス制御剤を提供する。
【0035】
【化7】
【0036】
一般式[1]中、X、m、Rは、前記と同様の意味を表す。
【0037】
また、本発明者らにより、本実施形態の一般式[1]で表される化合物((2R,3R)体のみ)が、小胞体ストレスを効果的に制御できることが初めて明らかとなった。
【0038】
本明細書において、「小胞体ストレス制御」とは、小胞体への変性タンパク質の蓄積を抑制する、又は、小胞体ストレスにより誘導される細胞死を抑制することを意味する。一般式[1]で表される化合物による小胞体ストレス制御機構について、詳細は明らかになっていないが、小胞体ストレス関連遺伝子又はタンパク質の発現を制御することであると推察される。
【0039】
小胞体ストレスの制御効果が高い観点から、一般式[1]中のXは、ヒドロキシ基であることが好ましい。また、mは、2であることが好ましい。Rは、ヒドロキシ基であることが好ましい。
【0040】
一般式[1]で表される化合物の具体例としては、式[1−1]又は[1−2]で表される化合物が挙げられる。
【0041】
【化8】
【0042】
式[1−1]および[1−2]中、Xおよびmは、前記と同様の意味を表す。小胞体ストレスの制御効果が高い観点から、式[1−1]および[1−2]中のXは、ヒドロキシ基であることが好ましい。また、mは、2であることが好ましい。
【0043】
さらに、式[1−1]および[1−2]で表される化合物の具体例としては、式[1−1−1]又は[1−1−2]で表される化合物が挙げられる。
【0044】
【化9】
【0045】
前記一般式[1]で表される化合物の製造方法は、上述のとおりである。
【0046】
本実施形態の小胞体ストレス制御剤は、他の成分として、PBS、Tris−HCl等の緩衝液;アジ化ナトリウム、グリセロール等の添加剤を含んでいてもよい。
【0047】
本実施形態においては、小胞体ストレス制御剤を用いて、小胞体ストレスによって生じる、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、脳梗塞、ポリグルタミン病などの神経変性疾患、多発性硬化症などの炎症性神経疾患、躁鬱病などの精神疾患、心筋梗塞、動脈硬化などの虚血性心疾患、糖尿病、糸球体腎炎、腎不全などの腎疾患、癌など、様々な疾患の治療に使用することができる。
治療対象としては限定されず、ヒト又は非ヒト動物を含む哺乳動物が挙げられ、ヒトが好ましい。
【0048】
本実施形態の小胞体ストレス制御剤の投与量は、被検動物(ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物、好ましくはヒト)の年齢、性別、体重、症状、治療方法、投与方法、処理時間等を勘案して適宜調節され、例えばヒトの大人では、通常、1日当たり有効成分として0.5〜5000mg、子供では通常0.5〜3000mg程度投与することができる。
小胞体ストレス軽減剤の配合比は、剤型によって適宜変更することが可能であるが、被検動物(好ましくはヒト)に対し、経口または粘膜吸収により投与される場合は約0.3〜15.0wt%、注射剤等非経口投与による場合は、0.01〜10wt%程度にするとよい。なお、投与量は、上述の通り、種々の条件で異なるので、前記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、また、範囲を超えて投与する必要のある場合もある。
投与回数としては、1日平均当たり、1回〜数回投与することが好ましい。
投与形態としては、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、または経口的に当業者に公知の方法が挙げられる。
注射剤は、非水性の希釈剤(例えば、ポレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤、又は乳濁剤として調製することもできる。このような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤等の配合により行うことができる。注射剤は、用事調製の形態として製造することができる。即ち、凍結乾燥法などによって、無菌の固体組成物とし、使用前に注射用蒸留水又は他の溶媒に溶解して使用することができる。
【0049】
[神経変性疾患予防・治療剤]
一実施形態において、本発明は、上述の小胞体ストレス制御剤を有効成分とする神経変性疾患予防・治療剤を提供する。
【0050】
本実施形態の神経変性疾患予防・治療剤によれば、小胞体ストレスによって生じる、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、脳梗塞、ポリグルタミン病などの神経変性疾患を効果的に予防若しくは治療することができる。
【0051】
本実施形態の神経変性疾患予防・治療剤は、治療的に有効量の小胞体ストレス制御剤、及び薬学的に許容され得る担体又は希釈剤を含む。薬学的に許容されうる担体又は希釈剤は、賦形剤、稀釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味料、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤、添加剤等が挙げられる。これら担体の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤、又はシロップ剤等の形態の神経変性疾患予防・治療剤を調製することができる。
また、担体としてコロイド分散系を用いることもできる。コロイド分散系は、小胞体ストレス制御剤の生体内安定性を高める効果や、特定の臓器、組織、又は細胞へ、小胞体ストレス制御剤の移行性を高める効果が期待される。コロイド分散系としては、ポリエチレングリコール、高分子複合体、高分子凝集体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、水中油系の乳化剤、ミセル、混合ミセル、リポソームを包含する脂質を挙げることができ、特定の臓器、組織、又は細胞へ、小胞体ストレス制御剤を効率的に輸送する効果のある、リポソームや人工膜の小胞が好ましい。
【0052】
本実施形態の神経変性疾患予防・治療剤における製剤化の例としては、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤として経口的に使用されるものが挙げられる。
または、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用されるものが挙げられる。更には、薬理学上許容される担体又は希釈剤、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化されたものが挙げられる。
【0053】
錠剤、カプセル剤に混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤が用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記の材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0054】
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO−50と併用してもよい。
【0055】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0056】
[糖尿病予防・治療剤]
一実施形態において、本発明は、上述の小胞体ストレス制御剤を有効成分とする糖尿病予防・治療剤を提供する。
【0057】
本実施形態の糖尿病予防・治療剤によれば、糖尿病を効果的に予防若しくは治療することができる。
【0058】
本実施形態の糖尿病予防・治療剤は、治療的に有効量の小胞体ストレス制御剤、及び薬学的に許容され得る担体又は希釈剤を含む。担体又は希釈剤については、前記と同様の意味を表す。本実施形態の糖尿病予防・治療剤の経口投与若しくは非経口投与時の形態については、上述のとおりである。
【0059】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0060】
[実施例1]式[1−1−1]で表される化合物の合成
(1)ラセミ混合物の合成
下記は、2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン(式[8]で表される化合物)及び3−ヒドロキシベンズアルデヒド(式[10]で表される化合物)からラセミ混合物である式[1−1−1’]で表される化合物を合成する工程を示した反応式である。
【0061】
【化10】
【0062】
まず、無水ジメチルホルムアミドに溶解した2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン(式[8]で表される化合物)(5g)に、氷冷下において、水素化ナトリウム(60%流動パラフィン分散,4.8g,4.5当量)を滴下した。反応液の温度が十分に低下した後、継続して氷冷下において、クロロメチルメチルエーテル(9.7g,4.5当量)を、液温が5℃以下を保つように、少量ずつ加えた。その後、反応液を室温で30分攪拌した。氷冷した精製水を加え反応を停止し、酢酸エチルで生成物を抽出した。酢酸エチル画分を水、ついで飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ液を減圧下において濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル)で精製し、無色のオイルとして、2,4,6−トリス(メトキシメトキシ)アセトフェノン(式[9]で表される化合物)を得た(7.26g,収率90%)。
【0063】
次に、氷冷下で、3−ヒドロキシベンズアルデヒド(式[10]で表される化合物)(1.0g)を無水アセトン20mLに溶かし、ついで炭酸カリウム(11.3g,10当量)を加えた。反応液の温度を5℃以下に保ちながら、クロロメチルメチルエーテル(1.0g,1.5当量)を少量ずつ加えた。ついで反応液を室温で30分攪拌した。氷冷した精製水を加え反応を停止し、酢酸エチルで生成物を抽出した。酢酸エチル画分を水、ついで飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ液を減圧下において濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル)で精製し、淡黄色のオイルとして、3−(メトキシメトキシ)ベンズアルデヒド(式[11]で表される化合物)を得た(1.22g,収率90%)。
【0064】
2,4,6−トリス(メトキシメトキシ)アセトフェノン(式[9]で表される化合物)(0.5g)のエタノール溶液20mLに、水酸化カリウム(0.28g, 3当量)エタノール溶液を加えた。5分攪拌後に、3−(メトキシメトキシ)ベンズアルデヒド(式[11]で表される化合物)(0.28g,1当量)を加えた(室温)。室温で3時間反応させた後、氷冷した精製水を加え反応を停止し、酢酸エチルで生成物を抽出した。酢酸エチル画分を水、ついで飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ液を減圧下において濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル)で精製し、淡黄色のオイルとして、カルコン誘導体 3−(3−(メトキシメトキシ)フェニル)−1−(2,4,6―トリス(メトキシメトキシ)フェニル)プロプ−2−エン−1−オン(式[12]で表される化合物)を得た(0.52g,収率70%)。
【0065】
3−(3−(メトキシメトキシ)フェニル)−1−(2,4,6―トリス(メトキシメトキシ)フェニル)プロプ−2−エン−1−オン(式[12]で表される化合物)(0.5g)のメタノール溶液10mLに30%過酸化水素水2mLと2M水酸化ナトリウム水溶液0.5mLを加え、室温で3時間攪拌した。減圧下で、メタノールを留去したのち、精製水を加え、酢酸エチルで抽出した。抽出液を、精製水、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下において溶媒を除去し、エポキシド体である(3−(3−(メトキシメトキシ)フェニル)オキシラン−2−イル)(2,4,6−トリス(メトキシメトキシ)フェニル)メタノン(式[13]で表される化合物)を無色のオイルとして得た(0.49g,収率95%)。
【0066】
(3−(3−(メトキシメトキシ)フェニル)オキシラン−2−イル)(2,4,6−トリス(メトキシメトキシ)フェニル)メタノン(式[13]で表される化合物)(0.5g)を、1M塩酸−無水メタノール10mL中で、55℃25分攪拌し、減圧下においてメタノールを留去した。精製水を加え、酢酸エチルで抽出した。減圧下において溶媒を蒸去して残った赤黄色のオイルをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル)で精製し、フラバノノール誘導体 である3,5,7−トリヒドロキシ−2−(3−ヒドロキシフェニル)クロマン−4−オン(式[1−1−1’で表される化合物])を白色粉末として得た(0.15g,収率48%)。
H NMR(600MHz,Acetone−d6)δ:4.63(d,1H,J=11.4Hz,H−3),5.12(d,1H,J=11.4Hz,H−2),5.98(d,1H,J=1.8Hz,H−6),6.00(d,1H,J=1.8Hz,H−8),6.89(dd,1H,J=8.4,3.0Hz,H−4’),7.06(d,1H,J=8.4Hz,H−6’),7.07(d,1H,J=3.0Hz,H−2’),7.25(dd,1H,J=8.4,8.4Hz,H−5’).13C NMR(150MHz,Acetone−d6)δ:73.3(3−C),84.4(2−C),96.2(6−C),97.3(8−C),101.6(10−C),115.8(2’−C),116.6(4’−C),120.0(6’−C),130.3(5’−C),139.8(1’−C),158.3(3’−C),164.1(4−C),165.1(9−C),167.9(7−C),198.0(4−C).HR−EI−MS:m/s 288.06321[M](Calcd 288.06336 for C1512).
【0067】
(2)ラセミ混合物から式[1−1−1]で表される化合物の分離精製
ラセミ混合物である式[1−1−1’]で表される化合物(20mg)を200μLのメタノールに溶解した。高速液体クロマトグラフィー装置(日本分光PU−1580ポンプ、UV1575紫外吸収検出器)に装着した光学活性支持体カラム((株)ダイセル CHIRALPAK−IA,10mm×250mm)に200μL中50μLを負荷し、エタノール−ヘキサン(3:7)5mL/分で展開することで、(2R,3R)体と(2S,3S)体を分離及び分画した。さらに、残りの150μLについて、50μLずつ上記操作を3回繰り返した。保時時間は、(2R,3R)体が4分25秒、(2S,3S)体が2分45秒であった。
分離したエナンチオマーについては、エタノール中でナトリウムD線による旋光度を測定した。(2R,3R)体は[α]12= 9.4°、(2S,3S)体は[α]12=−7.3°であった。
【0068】
[実施例2]式[1−1−2]で表される化合物の合成
(1)ラセミ混合物の合成
下記は、2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン(式[8]で表される化合物)及び3,5−ジヒドロキシベンズアルデヒドからラセミ混合物である式[1−1−2’]で表される化合物を合成する工程を示した反応式である。
【0069】
【化11】
【0070】
実施例1と同様にして、2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン(式[8]で表される化合物)から2,4,6−トリス(メトキシメトキシ)アセトフェノン(式[9]で表される化合物)を得た。
次に、氷冷下で、3,5−ジヒドロキシベンズアルデヒド(式[14]で表される化合物)(1.0g)を無水アセトン20mLに溶かし、ついで炭酸カリウム(20g,20当量)を加えた。反応液の温度を5℃以下に保ちながら、クロロメチルメチルエーテル(1.75g,1.5当量)を少量ずつ加えた。ついで反応液を室温で30分攪拌した。氷冷した精製水を加え反応を停止し、酢酸エチルで生成物を抽出した。酢酸エチル画分を水、ついで飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ液を減圧下において、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル)で精製し、淡黄色のオイルとして、3,5−ビス(メトキシメトキシ)ベンズアルデヒド(式[15]で表される化合物)を得た(1.47g,収率90%)。
【0071】
2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン(式[8]で表される化合物)(0.5g)のエタノール溶液20mLに、水酸化カリウム(0.28g,3当量)エタノール溶液を加えた。5分攪拌後に、3,5−ビス(メトキシメトキシ)ベンズアルデヒド(式[15]で表される化合物)(0.38g,1当量)を加えた(室温)。室温で3時間反応させた後、氷冷した精製水を加え反応を停止し、酢酸エチルで生成物を抽出した。酢酸エチル画分を水、ついで飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ液を減圧下において、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル)で精製し、淡黄色のオイルとして、カルコン誘導体 である3−(3,5−ビス(メトキシメトキシ)フェニル)−1−(2,4,6−トリス(メトキシメトキシ)フェニル)プロプ−2−エン−1−オン(式[16]で表される化合物)を得た(0.68g,収率80%)。
【0072】
3−(3,5−ビス(メトキシメトキシ)フェニル)−1−(2,4,6−トリス(メトキシメトキシ)フェニル)プロプ−2−エン−1−オン(式[16]で表される化合物)(0.5g)のメタノール溶液10mLに30%過酸化水素水2mLと2M水酸化ナトリウム水溶液0.5mLを加え、室温で3時間攪拌した。減圧下で、メタノールを留去したのち、精製水を加え、酢酸エチルで抽出した。抽出液を、精製水、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下において溶媒を除去し、エポキシド体 である(3−(3,5−ビス(メトキシメトキシ)フェニル)オキシラン−2−イル)(2,4,6−トリス(メトキシメトキシ)フェニル)メタノン(式[17]で表される化合物)を無色のオイルとして得た(0.49g,収率95%)。
【0073】
(3−(3,5−ビス(メトキシメトキシ)フェニル)オキシラン−2−イル)(2,4,6−トリス(メトキシメトキシ)フェニル)メタノン(式[17]で表される化合物)(0.5g)を、1M塩酸−無水メタノール10mL中で、55℃25分攪拌し、減圧下においてメタノールを留去した。精製水を加え、酢酸エチルで抽出した。減圧下において溶媒を蒸去して残った赤黄色のオイルをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル)で精製し、フラバノノール誘導体である3,5,7−トリヒドロキシ−2−(3,5−ジヒドロキシフェニル)クロマン−4−オン(式[1−1−2’]で表される化合物)を白色粉末として得た(0.09g,収率32%)。
H NMR(600MHz,Acetone−d6)δ:4.57(d,1H,J=11.4Hz,H−3),5.02(d,1H,J=11.4Hz,H−2),5.97 (d,1H,J=1.8Hz,H−6),5.99(d,1H,J=1.8Hz,H−8),6.38(t,1H,J=1.8Hz,H−4’),6.56(d,2H,J=1.8Hz,H−2’,H−6’).13C NMR(150MHz,Acetone−d6)δ:73.3(3−C),84.6(2−C),96.1(6−C),97.2(8−C),101.6(10−C),103.8(4’−C), 107.4(2’,6’−2C),140.4(1’−C),159.4(3’,5’−2C),164.1(5−C),165.1(9−C),168.0(7−C),198.0(4−C).HR−EI−MS:m/s 304.05804[M](Calcd 304.05830 for C1512).
【0074】
(2)ラセミ混合物から式[1−1−2]で表される化合物の分離精製
ラセミ混合物である式[1−1−2’]で表される化合物(20mg)を200μLのメタノールに溶解した。高速液体クロマトグラフィー装置(日本分光PU−1580ポンプ、UV1575紫外吸収検出器)に装着した光学活性支持体カラム((株)ダイセル CHIRALPAK−IA,10mm×250mm)に200μL中50μLを負荷し、エタノール−ヘキサン(45:55)5mL/分で展開することで、(2R,3R)体と(2S,3S)体を分離及び分画した。さらに、残りの150μLについて、50μLずつ上記操作を3回繰り返した。保時時間は、(2R,3R)体は7分25秒、(2S,3S)体は4分25秒であった。
分離したエナンチオマーについては、エタノール中でナトリウムD線による旋光度を測定した。(2R,3R)体は[α]12=10.9°、 (2S,3S)体は[α]12=−9.0°であった。
【0075】
[試験例1]MTT法による小胞体ストレス制御剤の評価
実施例1および2で合成された化合物、並びに比較例としてシアニジン(Wako社製)を用いて、以下の通り試験を行った。
HT22(hippocampal−derived cell line)細胞等の細胞を96ウェルプレートへ4000cell/wellの密度で播種し、37℃、5%COのインキュベータにて24時間培養した。培養後、培地を捨てて、新しい培地と共に実施例1および2で合成された化合物、並びに比較例としてシアニジンンを10,30,100μMずつ各ウェルに添加した。10分後、小胞体ストレス誘導剤として、50ng/mL Tunicamycin(Sigma社製)を半分のウェルに添加し、37℃、5%COのインキュベータにて24時間培養した。測定波長570nmを測定し、生細胞を計測した。コントロールとして、何も化合物を添加していない細胞と、小胞体ストレス誘導剤のみを添加した細胞とを準備した。何も化合物を添加していない細胞の生存率を100%として、その他のウェルにおける細胞生存率を計算した。結果を図1に示した。
【0076】
図1から、実施例1及び実施例2で合成された化合物、並びにシアニジンの濃度依存的にHT22細胞の小胞体ストレスによる細胞死が抑制されていることが明らかとなった。さらに、シアニジンと比較して、実施例1及び実施例2で合成された化合物では、小胞体ストレスによる細胞死の抑制効果が有意に高いことが明らかとなった。
【0077】
以上の結果から、本発明によれば、簡便に小胞体ストレスによる細胞死を抑制・制御することができることが明らかとなった。
図1