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特開2017-197441エンドパーオキサイドの製造方法、及びγ−ヒドロキシエノンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-197441(P2017-197441A)
(43)【公開日】2017年11月2日
(54)【発明の名称】エンドパーオキサイドの製造方法、及びγ−ヒドロキシエノンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 493/08 20060101AFI20171006BHJP
   C07C 49/717 20060101ALI20171006BHJP
   C07C 45/57 20060101ALI20171006BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20171006BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20171006BHJP
【FI】
   C07D493/08 C
   C07C49/717
   C07C45/57
   C09K3/00 T
   B81B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-87202(P2016-87202)
(22)【出願日】2016年4月25日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(72)【発明者】
【氏名】小池 伸幸
【テーマコード(参考)】
3C081
4C071
4H006
【Fターム(参考)】
3C081BA24
3C081DA06
3C081EA28
4C071AA03
4C071AA07
4C071BB01
4C071BB05
4C071CC12
4C071EE06
4C071FF07
4C071KK01
4C071LL07
4H006AA02
4H006AC41
4H006AC44
4H006AD17
(57)【要約】
【課題】 安全、かつ低コストな方法であって、さらにエンドパーオキサイドを高収率に製造できる、エンドパーオキサイドの製造方法の提供。
【解決手段】 反応溶媒を用い、共役ジエンと酸素とを光反応させることによりエンドパーオキサイドを製造するエンドパーオキサイドの製造方法であって、
前記反応溶媒が、メタノール及びエタノールの少なくともいずれかと、溶媒中における一重項酸素の寿命が30μ秒以上を示す非プロトン性の溶媒との混合溶媒であり、
前記光反応で使用する光が、600nm〜680nmに発光ピーク波長を有する光であることを特徴とするエンドパーオキサイドの製造方法である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応溶媒を用い、共役ジエンと酸素とを光反応させることによりエンドパーオキサイドを製造するエンドパーオキサイドの製造方法であって、
前記反応溶媒が、メタノール及びエタノールの少なくともいずれかと、溶媒中における一重項酸素の寿命が30μ秒以上を示す非プロトン性の溶媒との混合溶媒であり、
前記光反応で使用する光が、600nm〜680nmに発光ピーク波長を有する光であることを特徴とするエンドパーオキサイドの製造方法。
【請求項2】
前記非プロトン性の溶媒が、トルエン、アセトニトリル、及び酢酸エチルの少なくともいずれかである請求項1に記載のエンドパーオキサイドの製造方法。
【請求項3】
前記光を出力する光源が、赤色LEDである請求項1から2のいずれかに記載のエンドパーオキサイドの製造方法。
【請求項4】
前記光反応において、光増感剤を用いる請求項1から3のいずれかに記載のエンドパーオキサイドの製造方法。
【請求項5】
前記光増感剤が、メチレンブルーである請求項4に記載のエンドパーオキサイドの製造方法。
【請求項6】
前記メチレンブルーの使用量が、前記共役ジエン1molに対し0.3mol%以上である請求項5に記載のエンドパーオキサイドの製造方法。
【請求項7】
前記混合溶媒において、前記非プロトン性の溶媒と、前記メタノール及び/又は前記エタノールとの混合比(非プロトン性の溶媒/(メタノール及び/又はエタノール))が、1/1体積比〜4/1体積比である請求項1から6のいずれかに記載のエンドパーオキサイドの製造方法。
【請求項8】
前記共役ジエンが、シクロヘプタジエンである請求項1から7のいずれかに記載のエンドパーオキサイドの製造方法。
【請求項9】
前記共役ジエンと前記反応溶媒とを含有する液相成分と、前記酸素の気相成分とを交互に供給し、それらが接触した状態下で光照射を行う透光性フローリアクター装置を用いる請求項1から8のいずれかに記載のエンドパーオキサイドの製造方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載のエンドパーオキサイドの製造方法により得られたエンドパーオキサイドを使用することを特徴とするγ-ヒドロキシエノンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドパーオキサイドの製造方法、及び該エンドパーオキサイドを用いたγ−ヒドロキシエノンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
γ-ヒドロキシエノンは、合成化学的機能性に優れ、多様な合成展開が可能なものであり、いわゆるビルディングブロックと呼ばれている。特に医薬や農薬の分野においては、有用性が期待されており、γ−ヒドロキシエノンを核とした天然物合成などに関する報告がなされている(例えば、非特許文献1参照)。
エンドパーオキサイド、及びそれから得られるγ−ヒドロキシエノンの製造方法としては、共役ジエンをジクロロメタン溶媒に溶かし、光増感剤となるテトラフェニルポルフィリン(TPP)を加えて、酸素雰囲気中で光照射下にて撹拌することで、フラスコを用いたバッチ処理による光酸素酸化反応によりγ-エンドパーオキサイドを合成し、その後、触媒を添加してさらに撹拌することで、γ−ヒドロキシエノンを製造する方法が知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【0003】
一方、エンドパーオキサイドは、潜在的に爆発性を有することから、通常行なうバッチ反応で多量に合成することは危険を伴う。この解決策として、特許文献1に示されるようなマイクロリアクターを用いて、少量ずつ連続的に反応させることで、エンドパーオキサイドを合成する方法が提案されている(例えば、非特許文献3参照)。
この非特許文献3に記載の合成方法は、共役ジエンをジクロロメタン溶媒に溶かし、TPPを加えた溶液を作製し、この配合溶液と酸素とを、微細流路を形成したガラス製マイクロリアクター内に流し、UV光を照射し、光酸素酸化反応を起こさせるというものである。
しかし、非特許文献3に記載の方法では、光源に375nmのUV−LEDを用いていることから大量合成を考慮した場合、LED設備コストが非常に高価になることが懸念される。また、UV-LED光源を用いた場合、リアクターチップの温度上昇が見られ、冷却による反応温度の制御が必要となる。その場合、ペルチェ素子などで冷却する方法もあるが、設備コストが増加する。また、UV-LED素子の発熱によりLED自体の寿命が短くなり、設備コストが増える恐れもある。
そこで、安全、かつ低コストな方法で、エンドパーオキサイドやヒドロキシエノンを、収率良く製造できる方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−75247号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M.Kawasumi, N.Kanoh and Y.Iwabuchi, Organic Letters, 2011, vol13, No.14, 3620−3623
【非特許文献2】Steven T.Staben, Xin Linghu, and F.Dean Toste, J.AM CHEM SOC. 2006, 128, 12658−12659
【非特許文献3】久我哲也・笹野裕介・岩渕好治,プロセス化学会2014サマーシンポジウム講演要旨252−253
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、安全、かつ低コストな方法であって、さらにエンドパーオキサイドを高収率に製造できる、エンドパーオキサイドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 反応溶媒を用い、共役ジエンと酸素とを光反応させることによりエンドパーオキサイドを製造するエンドパーオキサイドの製造方法であって、
前記反応溶媒が、メタノール及びエタノールの少なくともいずれかと、溶媒中における一重項酸素の寿命が30μ秒以上を示す非プロトン性の溶媒との混合溶媒であり、
前記光反応で使用する光が、600nm〜680nmに発光ピーク波長を有する光であることを特徴とするエンドパーオキサイドの製造方法である。
<2> 前記非プロトン性の溶媒が、トルエン、アセトニトリル、及び酢酸エチルの少なくともいずれかである前記<1>に記載のエンドパーオキサイドの製造方法である。
<3> 前記光を出力する光源が、赤色LEDである前記<1>から<2>のいずれかに記載のエンドパーオキサイドの製造方法である。
<4> 前記光反応において、光増感剤を用いる前記<1>から<3>のいずれかに記載のエンドパーオキサイドの製造方法である。
<5> 前記光増感剤が、メチレンブルーである前記<4>に記載のエンドパーオキサイドの製造方法である。
<6> 前記メチレンブルーの使用量が、前記共役ジエン1molに対し0.3mol%以上である前記<5>に記載のエンドパーオキサイドの製造方法である。
<7> 前記混合溶媒において、前記非プロトン性の溶媒と、前記メタノール及び/又は前記エタノールとの混合比(非プロトン性の溶媒/(メタノール及び/又はエタノール))が、1/1体積比〜4/1体積比である前記<1>から<6>のいずれかに記載のエンドパーオキサイドの製造方法である。
<8> 前記共役ジエンが、シクロヘプタジエンである前記<1>から<7>のいずれかに記載のエンドパーオキサイドの製造方法である。
<9> 前記共役ジエンと前記反応溶媒とを含有する液相成分と、前記酸素の気相成分とを交互に供給し、それらが接触した状態下で光照射を行う透光性フローリアクター装置を用いる前記<1>から<8>のいずれかに記載のエンドパーオキサイドの製造方法である。
<10> 前記<1>から<9>のいずれかに記載のエンドパーオキサイドの製造方法により得られたエンドパーオキサイドを使用することを特徴とするγ-ヒドロキシエノンの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、安全、かつ低コストな方法であって、さらにエンドパーオキサイドを高収率に製造できる、エンドパーオキサイドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、マイクロリアクターの構成の一例を示す平面図である。
図2図2は、透光性フローリアクター装置の構成の一例を示す平面図である。
図3図3は、シクロヘプタジエンからエンドパーオキサイドへの反応図を示す。
図4図4は、シクロヘプタジエンからγ−ヒドロキシエノンへの反応図を示す。
図5図5は、透光性フローリアクター装置の構成の他の一例を示す平面図である。
図6図6は、実施例2のエンドパーオキサイドの反応率の結果を示す図である。
図7図7は、実施例3のエンドパーオキサイドの反応率の結果を示す図である。
図8図8は、実施例4のエンドパーオキサイドの反応率の結果を示す図である。
図9図9は、実施例5のエンドパーオキサイドの反応率の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(エンドパーオキサイドの製造方法)
本発明は、共役ジエンと酸素との光酸素酸化反応を行うことにより、γ−ヒドロキシエノンの原料となるエンドパーオキサイドを製造する方法である。
前記エンドパーオキサイドの製造方法において、光反応で使用する反応溶媒は、メタノール及びエタノールの少なくともいずれかと、非プロトン性の溶媒との混合溶媒である。
前記非プロトン性の溶媒は、該非プロトン性の溶媒中における一重項酸素の寿命が30μ秒以上を示すものである。
また、光反応で使用する光は、600nm〜680nmに発光ピーク波長を有する光である。
発明者は、反応溶媒として、溶媒中での一重項酸素の寿命が30μ秒以上と寿命が長い非プロトン性の溶媒と、特定のアルコールとの混合溶媒を用いることで、赤色光(600nm〜680nmに発光ピーク波長を有する光)を用いても、高い反応率でエンドパーオキサイドを合成できることを見出した。
上記構成の本発明の製造方法により、短時間で収率よく、つまり効率よくエンドパーオキサイドを製造することができる。
溶媒中における一重項酸素の寿命が30μ秒以上を示す前記非プロトン性の溶媒としては、例えば、トルエン、アセトニトリル、及び酢酸エチルの少なくともいずれかであることが好ましい。中でも、トルエンであることがより好ましい。
本発明では、前記反応溶媒に光増感剤を含有させることができる。
【0011】
<光反応>
本発明は、共役ジエンと一重項酸素とのDiels−Alder反応によりエンドパーオキサイドを合成する。
光反応に供する共役ジエンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、7員環のシクロヘプタジエン、6員環のシクロヘキサジエン、8員環のシクロオクタジエンなどが挙げられる。これらの中でも、シクロヘプタジエンからエンドパーオキサイドを合成するのがより好ましい。
例えば、前記シクロヘプタジエンからエンドパーオキサイドへの反応は図3に示す通りである。
【0012】
前記反応溶媒は、メタノール及びエタノールの少なくともいずれかと、前記非プロトン性の溶媒との混合溶媒からなる。このように、本発明においては、炭素数が小さいアルコール系溶媒を反応溶媒として用いることが重要である。特に、最も炭素数の小さいアルコール溶液であるメタノールと、前記非プロトン性の溶媒(例えばトルエン)のように以下に記載する光増感剤(メチレンブルー)を溶解できないが、Diels−Alder反応に適した溶媒とを混合することで、反応効率を上げることができる。
これは、一般的なアルコール溶媒中において、一重項酸素の寿命が10μsec〜15μsec程度であることに対し、前記非プロトン性の溶媒では、一重項酸素の寿命が倍程度又は倍以上長いこと(例えば、トルエン溶媒中の一重項酸素の寿命は30μsec、アセトニトリル中では58μsec、酢酸エチルでは43μsec)が、効率的な酸化反応に寄与していると考えられる。炭素数が小さいアルコール系溶媒と、アルコール系溶媒よりも一重項酸素の寿命の長い前記非プロトン性の溶媒との混合溶媒とすることにより、メチレンブルーを増感剤とした赤色光による光酸素酸化反応においても効率を上げることができたと思われる。前記非プロトン性の溶媒やアルコール系の混合溶媒であれば、工業的にも十分に使用できる。上記非特許文献1から3に記載のような、毒性が高いCHCl溶媒を使用する必要がないというメリットがある。
【0013】
前記反応溶媒における、メタノール及びエタノールの少なくともいずれかと、前記非プロトン性の溶媒との混合割合としては、前記非プロトン性の溶媒と、前記メタノール及び/又は前記エタノールとの混合比(非プロトン性の溶媒/(メタノール及び/又はエタノール))は、1/1体積比〜4/1体積比であることが好ましい。
上述したように、前記非プロトン性の溶媒(例えば、トルエン)の単一溶媒では、以下に記載する光増感剤(メチレンブルー)を溶解しづらい。非プロトン性の溶媒/メタノール及び/又はエタノール=4/1より大きいときは、光増感剤(メチレンブルー)が溶媒に溶解しにくくなるため、試薬溶液を作製することが困難となる。そのため、非プロトン性の溶媒/(メタノール及び/又はエタノール)比率は1/1から4/1以下であることが好ましい。
【0014】
前記光増感剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メチレンブルー、ローズベンガルなどが挙げられる。これらの中でも、メチレンブルーが好ましい。
前記光増感剤の使用量は、前記共役ジエン1molに対し、0.1mol%以上1mol%以下であると好ましい。特に光増感剤がメチレンブルーである場合には、前記メチレンブルーの使用量としては、前記共役ジエン1molに対し、0.3mol%以上であるとより好ましい。
光増感剤の使用量が0.1mol%以下では、使用量が低すぎて光増感剤としての効果が十分に機能しない。尚、0.1mol%であれば増感剤として機能するが、光源のばらつきによる光増感効果の低下の懸念も考えられる。そのため、0.3mol%以上であれば、増感剤として十分に機能するため、より好ましい。一方、1.0mol%以上では、メチレンブルーが溶媒に溶解しにくくなる。
【0015】
前記光反応は、前記共役ジエンと前記反応溶媒とを含有する液相成分と、前記酸素の気相成分とを交互に供給し、それらが接触した状態下で光照射を行う透光性フローリアクター装置を用いて行うことが好ましい。
【0016】
<透光性フローリアクター装置>
前記透光性フローリアクター装置としては、例えば、以下に記載するマイクロリアクターと、赤色光を出力する光源とを少なくとも有し、必要に応じて試料供給量制御部材、反応溶液回収部材などのその他の部材を有する。
前記マイクロリアクターとしては、例えば、上記特許文献1に記載のマイクロリアクター等が利用できる。
【0017】
<<マイクロリアクター>>
本発明で使用するマイクロリアクターは、化学反応を進行させる反応流路と、
該反応流路の一端に連結している、反応流路に反応させる試料を供給するための導入口と、
該反応流路の他端に連結している、反応流路から反応した生成物を排出するための排出口とが形成された透明基板を有する。
本発明のマイクロリアクターは、気相と液相の界面において、化学反応を起こし、反応生成物を製造する製造容器をいう。
【0018】
−反応流路−
前記反応流路は、気液界面において化学反応を行うために形成された流路であり、該反応流路で化学反応が進行する。
以下、マイクロリアクターの構成について図を参照しながら説明する。
【0019】
図1で示すように、マイクロリアクター1において、矩形状の透明基板の内部には、液体や気体の試料が流される小径流路の反応流路16が設けられている。一面側から赤色光源の光線が照射されると、気液界面において化学反応が進行する。
前記反応流路では、液相成分や気相成分の試料が導入口11及び12から注入されることにより、液相と気相のスラグ流(スラグとは塊状に分散したものをいう)が形成される。このスラグ流により反応性の高い混合状態を作り出すことができる。該スラグ流が反応流路を流れている状態下で、光照射する。スラグ流の形成により、酸素との接触面積が大きく、気液界面に光が有効に作用し、確実に安定した収率でエンドパーオキサイドを生成することができる。
【0020】
反応流路16が形成された流路エリア14や流路エリア15の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、流路エリア14:30mm〜200mm×流路エリア15:30mm〜200mmであると好ましい。
反応流路の大きさとしては、流路断面積が0.01mm〜10mmであると好ましい。反応流路の全長は、50mm〜20mであると好ましい。
但し、光増感剤を励起するための光源エリアが十分に確保されていれば、反応流路の大きさは特に制限はなく、より流路断面積を大きくしても、反応流路の全長を長くしても構わない。
流路断面積を大きく、反応流路の全長を長くすることで、反応流路の容積を大きくすることができる。反応流路の容積が大きいと、反応溶液の流路内での滞在時間が長くなるため、さらに反応率が向上する。
また、反応流路内の液相及び気相の流速をより上げても、高い反応率を得ることができる。
前記反応流路の一端には、導入口と、該反応流路の他端には、排出口とが連結されている。
図1においては、マイクロリアクター内を1回のみ通液する態様を示しているが、複数回通液させるように構成してもよい。反応流路を通過する時間は長くなるが、複数回通液することで反応率をあげることができ、原料から生成物への合成を確実に完了させることができる。
【0021】
−導入口−
前記導入口は、反応流路に反応させる試料を供給するための流路である。
例えば、図1において、マイクロリアクター1は、2つの導入口11及び12を有している。導入口の直後にはY字形状の混合部を備えており、後述するような気相と液相の反応において、スラグ流と呼ばれる反応性の高い混合状態を作り出すことができる。
【0022】
<<光源>>
前記赤色光(600nm〜680nmに発光ピーク波長を有する光)を出力する前記光源としては、例えば、LED、半導体レーザーなどが挙げられる。前記赤色光の発光ピーク波長は、630nm〜670nmであることがより好ましい。
本発明においては、赤色LEDの光源を用いることがより好ましい。該LEDにおいて、パワーの高いLEDを使用したり、LEDの個数を増やすことなどにより、反応をより高めることもできる。
【0023】
<<その他の部材>>
上記導入口に試料を注入する際、共役ジエンを含有する反応溶液の流量や酸素供給量を調整するため、試料供給量制御機能を有する試料供給量制御部材を設けてもよい。
また、反応後の溶液を回収する回収部材を設けてもよい。
【0024】
以下、透光性フローリアクター装置の構成について図を参照しながら説明する。
本発明で使用する透光性フローリアクター装置は、図2で示すように、マイクロリアクター1、LED光源2、反応溶液を供給するためのシリンジポンプ3、酸素ボンベ4、マスフローコントローラー5、溶液回収部材6を有する。
試料供給量制御部材である前記シリンジポンプ3と前記マスフローコントローラー5により、反応溶液、および酸素の流量をそれぞれ制御することができる。
前記溶液回収部材6によって、合成済みの溶液を回収する。
【0025】
(γ−ヒドロキシエノンの製造方法)
本発明は、上記のようにして得られたエンドパーオキサイドを用いて、γ−ヒドロキシエノンを製造する方法である。
本発明は、エンドパーオキサイドに塩基を付与してヒドロキシエノンに変換する。
上記のようにして得られた前記エンドパーオキサイドに対し塩基処理することで、γ−ヒドロキシエノンを効率よく製造することができる。
前記シクロヘプタジエンからエンドパーオキサイドを経て、γ−ヒドロキシエノンへの反応を図4に示す。
前記塩基処理に使用する塩基性試薬としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トリエチルアミン、キニジン(またはキニーネ)由来のキナアルカロイド誘導体触媒などが挙げられる。中でも、トリエチルアミンを用いることがより好ましい。
γ−ヒドロキシエノンの製造においても透光性フローリアクター装置を用いて行うことが好ましい。
【0026】
<透光性フローリアクター装置>
透光性フローリアクター装置を用いて、γ−ヒドロキシエノンを製造する好ましい態様として、マイクロリアクターから排出された前記合成済みの溶液に対し塩基試薬を加える方法が挙げられる。しかし、この態様以外にも、マイクロリアクターにもう1つの導入口を設け、そこから塩基試薬を導入することで、流路内で塩基処理まで完結させる方法としてもよい。あるいは、マイクロリアクターを2個直列接続した構成とし、2つ目のマイクロリアクターには、1つ目のマイクロリアクターから排出された溶液を導入する導入口と、塩基試薬を導入する導入口を備え、2つ目のマイクロリアクター内で塩基反応を起こさせる方法としてもよい。
一般的に塩基処理に用いる塩基用試薬は、酸化しやすい傾向がある。マイクロリアクターから排出される溶液は、一重項酸素、または失活した三重項酸素を含んでいるため、排出溶液にそのまま塩基を加えた場合、塩基用試薬が酸化されてヒドロキシエノンへの転換が遅くなる懸念がある。そこで、排出溶液を例えば脱気装置(例えばアズワン製DG−7110)に通液し、酸素を除去してから塩基試薬を加えると、ヒドロキシエノンへの転換が早くなり好ましい。脱気装置を有する透光性フローリアクター装置の構成概略図を図5に示す。図5中、符号7は脱気装置、符号8は脱気後の合成済み溶液に対し塩基試薬を混合させる混合部材を表す。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
<透光性フローリアクター装置>
図1に示すマイクロリアクターを用意した。2つの導入口、および1つの排出口を備えたガラス製マイクロリアクターである。
反応流路の断面は長方形であり、断面積のサイズは1.0mm×0.5mm、反応流路の全長は1,000mmのものを用いた。
次に、図2に示す透光性フローリアクター装置を用意した。
光反応に用いる光源として、660nmのLEDを、7mm間隔で49mmの面積に100個並べた光源ユニットを準備した。
<液相>
バイアル瓶を用いて、反応試薬(1,3−シクロヘプタジエン94.2mg(1mmol)、メチレンブルー2.0mg(0.0033mmol)を、トルエン/メタノール=1/1体積比の混合溶媒1mL(濃度1M)に溶解し、試薬溶液の調製を行い、シリンジ(HSW社製Norm−Jet)に試薬溶液を充填した。その後、シリンジをシリンジポンプ(YMC社製YSP−101)にセットした。
さらに、シリンジからテフロン製チューブを通してマイクロリアクターの導入口の1つにセットし、試薬溶液を通液できるようにした。
【0029】
<気相>
次に、酸素ボンベを準備し、酸素ボンベから、レギュレーター、マスフローコントローラーを通じてマイクロリアクターのもう一方の導入ロに酸素を導入できるようにセットした。
【0030】
上記試薬溶液、および上記装置構成において、試薬溶液を流速2.5mL/h、酸素を流速1.0mL/hでマイクロリアクターに通液しながら、マイクロリアクター上面から上記LED光を照射した。
この通液条件において、試薬溶液と酸素のスラグ流は安定して形成・維持されていた。スラグ流状態の1つの液滴がリアクター内に滞留する時間は、約12秒であった。また、全ての試薬溶液を処理するために要した時間は、約25分であった。
排出口から出てきた試薬溶液を回収し、NMR(JEOL製JNM−AL400)測定により、シクロヘプタジエンとエンドパーオキサイド(体系名:6,7−ジオキシビシクロ[3.2.2]ノナ−8−エン)の存在比を測定することで、エンドパーオキサイドの反応率として、反応生成物中におけるエンドパーオキサイドの占める割合(エンドパーオキサイドの収率)を求めた。
【0031】
実施例1の反応条件では,原料であるシクロヘプタジエンはほぼ消費され、エンドパーオキサイドが91%の高い反応率で得られた。液滴の流路内滞在時間はわずか12秒、全量の処理に要した時間は約25分いうごく短い時間であるにも関わらず、高収率でエンドパーオキサイドを得ることができた。
例えば,バッチ式の反応でエンドパーオキサイドを合成する手法が、上記非特許文献1に付随したSupporting Informationに記載されているが、この方法によると、10gのシクロヘプタジエンを反応させるには、60時間必要であると述べられている。
しかし、本実施例1においては、94.2mgのシクロヘプタジエンが25分間で、反応率91%で処理できる。つまり、本発明の方式を用いて10gのシクロヘプタジエンを完全に反応させるには、約22.5時間で処理が完了することになる。
このように、ある程度まとまった量のシクロヘプタジエンを処理する場合、本実施例のような方法が非常に有効であることがわかった。フロー方式であるため、さらに大量のスケールになった場合でも、マイクロリアクターと光源の数を増加させれば、新たに条件を検討する必要がない。かつ,光源の数を増やすにあたり、非常に低コストの赤色LEDを用いているため、設備コストが抑制できる。一般的な660nmLEDの市販価格は、上記非特許文献3に記載のような375nmLEDと比較して1/200以下であり、大きなメリットがある。
【0032】
(実施例2)
メタノール単一溶媒、またはトルエン/メタノールの混合溶液を反応溶媒として用い、トルエン/メタノールの体積比を変えた場合のエンドパーオキサイドの生成率について検討した。実験は、反応溶媒の組成比を変更した以外は実施例1と同様に行った。
反応溶媒の組成比を変更した際のエンドパーオキサイドの反応率を図6に示す。
メタノール単一溶媒では,反応率が45%と低かったが、トルエン/メタノール=1/1以上の体積比でトルエンを加えた混合溶媒することで、反応率は80%以上と高くなった。特に、トルエン/メタノール=1/1、および2/1では、反応率が90%以上と高い値を得ることができた。
【0033】
(実施例3)
次に、トルエン/メタノール=1/1の混合溶液を反応溶媒として用い、光増感剤であるメチレンブルーの濃度を変えた場合のエンドパーオキサイドの生成率について検討した。実験は、メチレンブルーの使用量(つまり反応溶媒におけるメチレンブルーの濃度)を変更した以外は実施例1と同様に行った。
メチレンブルーの濃度を変更した際のエンドパーオキサイドの反応率を図7に示す。
メチレンブルーの使用量は、シクロヘプタジエン1molに対するmol%で表す。0.3mol%以上において、80%以上の高い反応率が得られる。この結果により、メチレンブルーの使用量は、前記共役ジエン1molに対し0.3mol%以上であることが好ましい。
【0034】
(実施例4)
エタノール単一溶媒、またはトルエン/エタノールの混合溶液を反応溶媒として用い、トルエン/エタノールの体積比を変えた場合のエンドパーオキサイドの生成率について検討した。実験は、反応溶媒の組成比を変更した以外は実施例1と同様に行った。
反応溶媒の組成比を変更した際のエンドパーオキサイドの反応率を図8に示す。
エタノール単一溶媒では、反応率が70%程度であったが、混合溶媒にトルエン/エタノール=1/1以上の体積比でトルエンを加えた混合溶媒することで,反応率は80%以上と高い値を得ることができた。
【0035】
(実施例5)
次に、トルエン/エタノール=1/1の混合溶液を反応溶媒として用い、光増感剤であるメチレンブルーの濃度を変えた場合のエンドパーオキサイドの生成率について検討した。実験は、メチレンブルーの使用量(つまり反応溶媒におけるメチレンブルーの濃度)を変更した以外は実施例1と同様に行った。
メチレンブルーの濃度を変更した際のエンドパーオキサイドの反応率を図9に示す。
メチレンブルーの使用量は、シクロヘプタジエン1molに対するmol%で表す。0.3mol%以上において、80%以上の高い反応率が得られる。これは実施例3と同様の結果を示している。この結果からも、メチレンブルーの使用量は、前記共役ジエン1molに対し0.3mol%以上であることが好ましい。
【0036】
(比較例1)
2−プロパノール、またはトルエン/2−プロパノール=1/1の混合溶液を反応溶媒として用い、エンドパーオキサイドの生成率について検討した。実験は、反応溶媒の種類を変更した以外は実施例1と同様に行った。
2−プロパノール単一溶媒を用いた場合、反応率は48%、トルエン/2−プロパノール=1/1の混合溶液を用いた場合、反応率は40%であった。
2−プロパノールは、アルコール系の代表的な溶媒であるが、トルエンと混合したとしても本発明の製造方法には適さないことがわかる。
【0037】
(実施例6)
アセトニトリル/メタノール=1/1の混合溶液を反応溶媒として用い、エンドパーオキサイドの生成率について検討した。実験は、反応溶媒の種類を変更した以外は実施例1と同様に行った。
アセトニトリル/メタノール=1/1の混合溶液を用いた場合、反応率は92%であった。
【0038】
(実施例7)
酢酸エチル/メタノール=1/1の混合溶液を反応溶媒として用い、エンドパーオキサイドの生成率について検討した。実験は、反応溶媒の種類を変更した以外は実施例1と同様に行った。
酢酸エチル/メタノール=1/1の混合溶液を用いた場合、反応率は81%であった。
【0039】
(実施例8)
実施例1と同様の方法において、エンドパーオキサイドをマイクロリアクター内で生成した後、排出された溶液にすぐにトリエチルアミンを投入した。原料に対してトータルで1.5当量となる量を投入した。室温にて6時間撹拌後、NMR測定を行ったところ、エンドパーオキサイドが完全に消費され、ラセミ体のヒドロキシエノン(体系名:4−ヒドロキシ−2−シクロヘプテン−1−オン)が得られた。さらに、上記のようにして作製した反応後溶液を、カラムを用いて精製し、ヒドロキシエノンのみを取り出したのち、高速液体クロマトグラフイ(HPLC)にて純度を測定した結果、ラセミ体のヒドロキシエノンが98%以上の高純度で得られていることが分かった。
この方法を用いることで、大量合成時においても、潜在的に爆発性を有するエンドパーオキサイドを大量に存在させることなく、ヒドロキシエノンへの転換が可能となる。
【0040】
上記実験結果より、本発明によれば、安全、かつ低コストで、および高収率にエンドパーオキサイド並びにヒドロキシエノンを製造することができることがわかった。
本発明の製造方法は、特に簡便で再現可能な様式で実行可能であり、人及び環境に対する高い安全性を有し、短時間に良好な収率で目的物を得ることができ、反応条件も極めて容易に制御可能である。共役ジエンと酸素をマイクロリアクター中で混合することで気相と液相の接触面積が増加し、さらに赤色LEDの光励起によって効率的、かつ低消費電力で一重項酸素を発生させることで、より効率的・低コストで反応を行うことができる。UV−LED光と異なり、基板温度の上昇も抑制され、反応低下の懸念が少ない。よってベルチェステージなどが不要でコストも抑制できる。本発明を用いることで、医薬や農薬に応用可能性のあるヒドロキシエノンを効率よく製造することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2016年6月29日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0002
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0002】
γ−ヒドロキシエノンは、合成化学的機能性に優れ、多様な合成展開が可能なものであり、いわゆるビルディングブロックと呼ばれている。特に医薬や農薬の分野においては、有用性が期待されており、γ−ヒドロキシエノンを核とした天然物合成などに関する報告がなされている(例えば、非特許文献1参照)。
エンドパーオキサイド、及びそれから得られるγ−ヒドロキシエノンの製造方法としては、共役ジエンをジクロロメタン溶媒に溶かし、光増感剤となるテトラフェニルポルフィリン(TPP)を加えて、酸素雰囲気中で光照射下にて撹拌することで、フラスコを用いたバッチ処理による光酸素酸化反応によりエンドパーオキサイドを合成し、その後、触媒を添加してさらに撹拌することで、γ−ヒドロキシエノンを製造する方法が知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0003
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0003】
一方、エンドパーオキサイドは、潜在的に爆発性を有することから、通常行なうバッチ反応で多量に合成することは危険を伴う。この解決策として、特許文献1に示されるようなマイクロリアクターを用いて、少量ずつ連続的に反応させることで、エンドパーオキサイドを合成する方法が提案されている(例えば、非特許文献3参照)。
この非特許文献3に記載の合成方法は、共役ジエンをジクロロメタン溶媒に溶かし、TPPを加えた溶液を作製し、この配合溶液と酸素とを、微細流路を形成したガラス製マイクロリアクター内に流し、UV光を照射し、光酸素酸化反応を起こさせるというものである。
しかし、非特許文献3に記載の方法では、光源に375nmのUV−LEDを用いていることから大量合成を考慮した場合、LED設備コストが非常に高価になることが懸念される。また、UV−LED光源を用いた場合、リアクターチップの温度上昇が見られ、冷却による反応温度の制御が必要となる。その場合、ペルチェ素子などで冷却する方法もあるが、設備コストが増加する。また、UV−LED素子の発熱によりLED自体の寿命が短くなり、設備コストが増える恐れもある。
そこで、安全、かつ低コストな方法で、エンドパーオキサイドやγ−ヒドロキシエノンを、収率良く製造できる方法が望まれていた。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0025
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0025】
(γ−ヒドロキシエノンの製造方法)
本発明は、上記のようにして得られたエンドパーオキサイドを用いて、γ−ヒドロキシエノンを製造する方法である。
本発明は、エンドパーオキサイドに塩基を付与してγ−ヒドロキシエノンに変換する。
上記のようにして得られた前記エンドパーオキサイドに対し塩基処理することで、γ−ヒドロキシエノンを効率よく製造することができる。
前記シクロヘプタジエンからエンドパーオキサイドを経て、γ−ヒドロキシエノンへの反応を図4に示す。
前記塩基処理に使用する塩基性試薬としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トリエチルアミン、キニジン(またはキニーネ)由来のキナアルカロイド誘導体触媒などが挙げられる。中でも、トリエチルアミンを用いることがより好ましい。
γ−ヒドロキシエノンの製造においても透光性フローリアクター装置を用いて行うことが好ましい。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0026
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0026】
<透光性フローリアクター装置>
透光性フローリアクター装置を用いて、γ−ヒドロキシエノンを製造する好ましい態様として、マイクロリアクターから排出された前記合成済みの溶液に対し塩基試薬を加える方法が挙げられる。しかし、この態様以外にも、マイクロリアクターにもう1つの導入口を設け、そこから塩基試薬を導入することで、流路内で塩基処理まで完結させる方法としてもよい。あるいは、マイクロリアクターを2個直列接続した構成とし、2つ目のマイクロリアクターには、1つ目のマイクロリアクターから排出された溶液を導入する導入口と、塩基試薬を導入する導入口を備え、2つ目のマイクロリアクター内で塩基反応を起こさせる方法としてもよい。
一般的に塩基処理に用いる塩基用試薬は、酸化しやすい傾向がある。マイクロリアクターから排出される溶液は、一重項酸素、または失活した三重項酸素を含んでいるため、排出溶液にそのまま塩基を加えた場合、塩基用試薬が酸化されてγ−ヒドロキシエノンへの転換が遅くなる懸念がある。そこで、排出溶液を例えば脱気装置(例えばアズワン製DG−7110)に通液し、酸素を除去してから塩基試薬を加えると、γ−ヒドロキシエノンへの転換が早くなり好ましい。脱気装置を有する透光性フローリアクター装置の構成概略図を図5に示す。図5中、符号7は脱気装置、符号8は脱気後の合成済み溶液に対し塩基試薬を混合させる混合部材を表す。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0039】
(実施例8)
実施例1と同様の方法において、エンドパーオキサイドをマイクロリアクター内で生成した後、排出された溶液にすぐにトリエチルアミンを投入した。原料に対してトータルで1.5当量となる量を投入した。室温にて6時間撹拌後、NMR測定を行ったところ、エンドパーオキサイドが完全に消費され、ラセミ体のγ−ヒドロキシエノン(体系名:4−ヒドロキシ−2−シクロヘプテン−1−オン)が得られた。さらに、上記のようにして作製した反応後溶液を、カラムを用いて精製し、γ−ヒドロキシエノンのみを取り出したのち、高速液体クロマトグラフイ(HPLC)にて純度を測定した結果、ラセミ体のγ−ヒドロキシエノンが98%以上の高純度で得られていることが分かった。
この方法を用いることで、大量合成時においても、潜在的に爆発性を有するエンドパーオキサイドを大量に存在させることなく、γ−ヒドロキシエノンへの転換が可能となる。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0040
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0040】
上記実験結果より、本発明によれば、安全、かつ低コストで、および高収率にエンドパーオキサイド並びにγ−ヒドロキシエノンを製造することができることがわかった。
本発明の製造方法は、特に簡便で再現可能な様式で実行可能であり、人及び環境に対する高い安全性を有し、短時間に良好な収率で目的物を得ることができ、反応条件も極めて容易に制御可能である。共役ジエンと酸素をマイクロリアクター中で混合することで気相と液相の接触面積が増加し、さらに赤色LEDの光励起によって効率的、かつ低消費電力で一重項酸素を発生させることで、より効率的・低コストで反応を行うことができる。UV−LED光と異なり、基板温度の上昇も抑制され、反応低下の懸念が少ない。よってベルチェステージなどが不要でコストも抑制できる。本発明を用いることで、医薬や農薬に応用可能性のあるγ−ヒドロキシエノンを効率よく製造することができる。