【実施例】
【0048】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
【0049】
[実施例1:
1−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(TeFTFEE)の合成]
【化11】
2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタノール205.0g、48%KOH水溶液8.2gをオートクレーブに投入した後、内温が30℃になるまで昇温した。このオートクレーブを撹拌条件下、内温を30〜40℃に維持しながら、0.4〜1.5MPaの圧力でテトラフルオロエチレンをオートクレーブに導入した。放冷後、オートクレーブを開放し、水を加え、有機層を分取した。同量の水で洗浄後、蒸留(89.5 ℃/15kPa)により精製することにより、1−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(以下、TeFTFEEと略す)331.7gを得た(収率95.5%)。
【0050】
得られたTeFTFEEの沸点は、常圧換算で156℃であり、また、JIS K0065「化学製品の凝固点測定方法」に従い測定した凝固点は−50℃以下であった。このため、実施例1の当該化合物は、従来知られているパーフルオロアルキルエーテル化合物等と比較して広い温度範囲で取り扱い可能な液体であることが確認された。
【0051】
1H-NMR(400MHz,CDCl
3):δ5.73(tt,J=53.4Hz,2.8Hz,1H),δ4.14(m,2H),δ3.90(q,J=8.6Hz,2H),δ3.88(m,2H),
19F-NMR(376MHz,CDCl
3):δ−74.9(t,J=8.6Hz,3F),δ−92.3(td,J=5.3Hz,2.8Hz,1H),δ−137.3(dt,J=53.4Hz,5.3Hz,1H)
【0052】
[試験例1:含フッ素鎖状エーテル化合物の酸化分解電位]
化合物の電気化学的安定性はリニアスィープボルタンメトリー(LSV)測定によって評価した。LSVの測定は、マルチチャンネルポテンショスタット/ガルバノスタット(Biologic社製、VMP−3)を用いて行った。
アルゴン雰囲気下、含フッ素鎖状エーテル化合物として、実施例1で得られたTeFTFEE0.24gに六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)0.30gを加えた。得られた混合物にエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート混合溶液(体積比:3/7)を加え10mlの実施例1aの電解液を調製した。この実施例1aの電解液におけるTeFTFEE濃度、LiPF6濃度は、それぞれ0.1mol/L、0.2mol/Lであった。
【0053】
この実施例1aの電解液に、作用電極として白金、対極としてリチウム箔、参照極としてリチウム箔を挿入し、5mV/secの走査速度で貴側に掃引し、酸化分解電位の測定を行った。結果を
図1に示す。さらに得られたLSVのグラフから、1mA/cm2の電流が観測された電圧を分解電位として表1に示す。なお、LSVの測定は全てアルゴン雰囲気で充満したグローブボックス中で実施した。
【0054】
比較例1の含フッ素鎖状エーテル化合物としてビス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(以下、BTFEEと略す)を用いた以外は、実施例1aと同様の方法で比較例1aの電解液を調製した。この比較例1aの電解液を用いて、実施例1aのLSVの方法で酸化分解電位の測定を行った。
【0055】
実施例1a、比較例1aの結果を
図1および表1に示す。
【0056】
【表1】
TeFTFEE:1−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−2−
(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン
BTFEE:ビス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン
【0057】
表1および
図1の結果から、本発明の含フッ素鎖状エーテル化合物の1つであるTeFTFEEが、BTFEEに比べ耐酸化性に優れることが明らかとなった。この要因は明らかではないが、フッ素原子の数、及び酸素原子隣接炭素へのフッ素原子の結合等の構造的影響から、耐酸化性が向上したと考えられる。
【0058】
[試験例2:含フッ素鎖状エーテル化合物の粘度]
実施例1で合成したTeFTFEEの粘度を測定した。具体的には、ウベローデ式粘度計を用いて、JIS Z 8803:1991の方法に準じて、20℃の恒温槽中での動粘度を測定し、動粘度と20℃の密度の積から含フッ素鎖状エーテルの粘度を算出した。結果を表2に示す。
また、比較例2として用いたビス(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)エタン(以下、BTeFEEと略す)の動粘度、密度から算出した粘度も併せて、表2に示す。
【0059】
【表2】
TeFTFEE:1−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−2−(2,2,2 −トリフルオロエトキシ)エタン
BTeFEE:ビス(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)エタン
【0060】
表2から本発明の含フッ素鎖状エーテル化合物の1つであるTeFTFEEは、従来知られるBTeFEEに比べ低粘度であることが判る。
【0061】
[試験例3:含フッ素鎖状エーテル化合物の有機溶媒との相溶性]
TeFTFEE2.0gに各有機溶媒を2.0g混合し、1分間振り混ぜた。その後、しばらく静置し、目視で液の状態を確認した。判定は二液が均一になっているものを○(相溶可能)、二層分離したものを×(相溶不可)として表3に記載した。
【0062】
比較例3としてパーフルオロアルキルエーテル[C2F5CF(−O−CH3)C3F7、3M社製、商品名Novec7300]を用い、実施例と同様の方法で相溶性を検討した。結果を表3に示す。
【0063】
【表3】
TeFTFEE:1−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−2−(2,2,2 −トリフルオロエトキシ)エタン
Novec7300:ビス(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)エタン
PC:プロピレンカーボネート
【0064】
表3から、ノベック7300に比べ、本発明の含フッ素鎖状エーテル化合物の1つであるTeFTFEEはより多くの非水溶媒と相溶可能であり、相溶性により優れることは明らかである。
【0065】
[試験例4:洗浄剤としての使用]
テストピース(SUS−304製)を鉱物油(松村石油製、ネオバックMR−100)に浸漬し、180℃、1分間加熱処理した。このテストピースをTeFTFEEに浸漬し、25℃の温度条件下、30秒間超音波洗浄を行った。引き続き、超音波洗浄後のテストピースをドライヤーで温風乾燥した結果、鉱物油の残存は認められず、油汚れが良好に除去できることが確認された。
【0066】
[試験例5:含フッ素鎖状エーテル化合物(1)の有機合成用溶媒としての利用例(クロスカップリング反応)]
【0067】
100mlシュレンク管に実施例1で得られたTeFTFEE 20mlを入れ、4−n−プロピルフェニルボロン酸 1.1を加え溶解させた。窒素置換後、撹拌下でトリフェニルホスフィン 0.040g、ブロモベンゼン 0.97g、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)0.047g及び炭酸セシウム 4.0gを添加し、80℃で4時間反応させた。
【0068】
反応後、反応液を20mlの水で水洗後、有機層(下層)をGC分析したところ、収率99%でクロスカップリング生成物である4−n−プロピルビフェニルが生成していることが確認された。
【0069】
本結果より、上述のとおり相溶性に優れる本発明の含フッ素鎖状エーテル化合物の1つであるTeFTFEEは、有機合成用の溶媒として利用可能であることが確認された。
【0070】
[試験例6:非水系電解液におけるイオン伝導度および粘度の評価]
実施例1により得られたつであるTeFTFEEを含む非水系電解液について、イオン伝導度と粘度の評価を行った。
【0071】
非水系電解液のイオン伝導度(単位:mS/cm)の測定は、「電気化学測定マニュアル、基礎編、2002、45、電気化学会編、丸善株式会社」に記載の方法を用いて20℃で行った。すなわち、
図2に記載の白金電極4を向い合せに組み合わせた電気化学セル3に、あらかじめ電気伝導度既知の標準液を注入し、セル定数を算出した。調製した電解液をこの電気化学セルに注入し密封した。溶液抵抗を、当該電気化学セルを20℃恒温槽中に1時間静置した後、ポテンショスタット/ガルバノスタット(東陽テクニカ社製、VersaSTAT4−400)を用い、複素インピーダンス法により測定した。得られた溶液抵抗値より、各非水電解液のイオン伝導度を算出した。
算出式:イオン伝導度(mS/cm)=溶液抵抗値(Ω)/セル定数
【0072】
また、非水系電解液の粘度(単位:mPa・sec)の測定は、コーンプレート型回転粘度計(BrookField社製、DV−I PRIME)を用いて行った。すなわち、流動式恒温装置を接続した回転粘度計のカップに、調製した電解液を導入し、温度が20℃で一定となるまで流通させて測定した。
【0073】
実施例の非水系電解液の調製は以下のようにして行った。
エチレンカーボネート(以下、ECと略す)、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)(以下、TFEPと略す)、TeFTFEEを体積比、50/25/25の比率で混合した。得られた混合物に電解質として六フッ化リン酸リチウム(以下、LiPF6と略す)を1.0mol/Lの濃度となるように加え、20℃で充分に撹拌して完全に溶解し、実施例1bの非水系電解液を作成した。この実施例1bの非水系電解液について、上述の方法でイオン伝導度および粘度を測定した。
【0074】
また、TeFTFEEを加えず、ECとTFEPを50/50の体積比で混合した以外は、実施例1bと同様の操作で比較例4の非水系電解液を作成した。この比較例4の非水系電解液についても上述の方法でイオン伝導度および粘度を測定した。
結果を表4に示す。
【0075】
【表4】
LiPF6:六フッ化リン酸リチウム
EC:エチレンカーボネート
TFEP:リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)
TeFTFEE:1−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−2−(2,2,2 −トリフルオロエトキシ)エタン
【0076】
表4に示す結果から、実施例1bの非水系電解液は、比較例4の非水系電解液と比較して、イオン伝導度が高く、また、粘度も低いことが理解できる。