【課題】 DHA/EPAによるアトピー性皮膚炎様皮膚疾患の改善について、分子レベルでの作用機序を解明し、FK506含有軟膏、すなわち、タクロリムス軟膏剤と併用することによる、有効なDHA/EPA含有軟膏剤の効果的な使用方法を提供すること。
【解決手段】 ドコサヘキサエン酸(DHA)及び/又はエイコサペンタエン酸(EPA)含有軟膏剤からなる、ジヒドロキシロイコトリエン(LTB4)の産生阻害によることを特徴とするアトピー性皮膚炎様皮膚疾患の改善外用剤であり、特に、タクロリムス軟膏剤(FK506軟膏剤)とを併用することを特徴とする、ジヒドロキシロイコトリエン(LTB4)の産生阻害活性に基づくアトピー性皮膚炎様皮膚疾患の改善剤である。
ドコサヘキサエン酸(DHA)及び/又はエイコサペンタエン酸(EPA)含有軟膏剤からなる、ジヒドロキシロイコトリエン(LTB4)の産生阻害によることを特徴とするアトピー性皮膚炎様皮膚疾患の改善外用剤。
ドコサヘキサエン酸(DHA)及び/又はエイコサペンタエン酸(EPA)含有軟膏剤と、タクロリムス軟膏剤の併用することを特徴とする、ジヒドロキシロイコトリエン(LTB4)の産生阻害活性に基づくアトピー性皮膚炎様皮膚疾患の改善剤。
ドコサヘキサエン酸(DHA)及び/又はエイコサペンタエン酸(EPA)含有軟膏剤からなる、タクロリムス含有軟膏剤のアトピー性皮膚炎様皮膚疾患の治療効果の改善・増強剤。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚疾患(Atopic Dermatitis:以下、「AD」と記載する場合もある)は、異常免疫反応、並びに皮膚の角質層のバリア崩壊により生ずる疾患であり、AD患者は、一般的に免疫グロブリンであるIgEの上昇と、ヘルパーT細胞であるTh1、Th2細胞(ヘルパーT細胞の一種)の分化が強まっている。
例えば、AD患者は、ヘルパーT細胞のサブセットであり、サイトカインであるインターロイキン−17(IL−17)の産生能を有する、自己免疫疾患の病態形成に密接に関与するといわれているTh17細胞数を上昇させ、AD重症度を引き起こしている。
【0003】
一方、皮膚バリアの崩壊に関しては、表皮の顆粒細胞で産出され、皮膚のバリア機能を担う重要な塩基性蛋白質の一種であるフィラグリン(Filaggrin)の機能の喪失であり、これがアトピー性皮膚疾患の重要な発症因子であるといわれている。
事実、フィラグリン欠乏マウスでは皮膚炎症が生じるものであり、また、Th17細胞の分化を上昇させている。
【0004】
したがって、ADの一般的な治療としては、ADの症状の重症度に応じて、経口抗ヒスタミン剤、抗ロイコトリエン剤(ロイコトリエン受容体拮抗薬)並びに、ステロイド剤、免疫抑制剤であるタクロリスム(以下、「FK506」と記す場合もある)軟膏[商品名:プロトピック(登録商標)軟膏]、或いは、非ステロイド性消炎鎮痛剤(非ス剤:NSAID)軟膏(例えば、アンダーム軟膏/有効成分:ブヘキサマック)等の投与が一般的である。
しかしながら、ステロイド剤、或いはFK506の長期投与は、重篤な副作用を生じ、特に、小児〜若年層の患者にとっては大きな問題となっている。
【0005】
ところで、サプリメント或いは食物として、α−リノレン酸、エイコサペンタエン酸(以下、「EPA」と記す場合もある)、ドコサヘキサエン酸(以下、「DHA」と記す場合もある)に代表されるω−3遊離脂肪酸(FFA)の摂取は、炎症性疾患を抑制していることが知られている。これらの遊離脂肪酸(FFA)は、IL−6並びにプロスタグランジン及びロイコトリエンの産生を抑制することに対応して、炎症症状を抑制するとされている。
すなわち、ロイコトリエンの産生は、T細胞並びに好中球の活性化を促し、その活性化に伴い皮膚炎症を生じさせている。
【0006】
ロイコトリエンはI型アレルギー反応により産生される脂質メディエーターであり、細胞膜リン脂質からのアラキドン酸を材料として、細胞内で5−リポキシゲナーゼによってアラキドン酸から合成され、強力な気管支平滑筋収縮作用を持ち、また繊維芽細胞、気道上皮細胞、平滑筋の増殖にも関与しているといわれている。
リポキシゲナーゼの触媒作用は、アラキドン酸骨格の特定の位置に酸素残基を挿入する際に必要となり、リポキシゲナーゼ経路は、肥満細胞や好酸球、好中球、単球、好塩基球を含む白血球で活発である。これらの細胞が活性化すると、アラキドン酸はホスホリパーゼA2によって細胞膜リン脂質から放出され、5−リポキシゲナーゼ活性化タンパク質(FLAP)によって5−リポキシゲナーゼが活性化される。5−リポキシゲナーゼの触媒作用により、アラキドン酸にO
2が付加して5−モノヒドロペルオキシエイコサテトラエン酸(HPETE)が生じ、これが脱水反応を経ることで不安定なエポキシドであるロイコトリエンA4(LTA4)が生成する。
好中球や単球などのロイコトリエンA4加水分解酵素を備えている細胞中では、ロイコトリエンA4がロイコトリエンB4(ジヒドロキシロイコトリエン、LTB4)へと変換され、このLTB4は、好中球や単球などの原形質膜上に存在するBLT1とBLT2受容体を刺激し、これらの細胞を活性化する強力な化学誘発因子である。
【0007】
事実、ロイコトリエンB4受容体アンタゴニスト(拮抗薬)であるONO−4057は、アトピー性皮膚疾患モデルマウスであるNC/Ngaマウスにおける自発的なかゆみ表現を抑制したと報告されている。
かかる事実は、ADの症状の進捗には、ロイコトリエンB4(ジヒドロキシロイコトリエン、LTB4)が重要な要因であることを示唆しているものである。
本発明者らは、これまでに、DHA及びEPA(以下、併せて、「DHA/EPA」と記す場合もある。)を含有する軟膏剤のアトピー性皮膚疾患に対する治療薬をしての開発を検討してきており(特許文献1)、この軟膏剤が、アトピー性皮膚疾患の治療に有効であることを見出し、商品化を行ってきた(商品名:ダイヤフラジン軟膏)。
【0008】
今回本発明者らは、当該DHA/EPAを含有する軟膏剤の有効性に関する分子メカニズムを確立するために、DHA/EPAの、アトピー性皮膚炎モデルマウスであるNC/NgaマウスにおけるAD様皮膚炎に対する効果を検討した。
【0009】
その結果、DHA/EPAは、FK506と併用することで、ロイコトリエンB4(LTB4)の産生を抑制することにより、AD症状を改良することを見出した。これらの検討の結果は、ADに対するDHA/EPAの特異的な治療効果を示唆するものであり、DHA/EPAは、従来から使用されてきているFK506含有軟膏、すなわち、タクロリムス軟膏剤と併用することにより、ADの治療に際して、極めて有効な軟膏剤であることが判明し、本発明を完成させるに至った。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明で用いられるドコサヘキサエン酸及びエイコサペンタエン酸は、魚脂その他から得られる天然型グリセリンエステル類を加水分解してグリセリン部分を除去することにより、容易に入手することができる。本発明のドコサヘキサエン酸及びエイコサペンタエン酸としては、その塩の形態であってもよく、例えばナトリウム、あるいはカリウムとの塩を選択することもできる。
【0019】
本発明で用いられるドコサヘキサエン酸又はエイコサペンタエン酸としては、そのエステル体をも意味し、具体的には、グリセリンエステル類及び低級アルキルエステル類を挙げることができる。
このうちグリセリンエステル類は、上記のとおり天然型グリセリンエステル類として天然資源から容易に抽出可能である。一方、低級アルキルエステル類は、ドコサヘキサエン酸又はエイコサペンタエン酸に脂肪族低級アルコールを脱水縮合させて容易に製造することができる。かかる低級アルキルエステル類としては、例えばメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、n−ブチルエステル、イソブチルエステル、t−ブチルエステル等を挙げることができ、好ましくはメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステルであり、特に好ましくはエチルエステルである。
【0020】
このようなドコサヘキサエン酸及びエイコサペンタエン酸としては、日油株式会社製の、タラの肝油(DHA20%及びEPA10%含有)、或いは、同じ日油株式会社から市販されている「Nネオパウダー」シリーズの製品を使用することができ、なかでもタラの肝油(DHA20%及びEPA10%含有)を好ましく使用することができる。
また、Nネオパウダーシリーズとしては、「NネオパウダーDHA20」を好ましく使用することができ、この「NネオパウダーDHA20」は、DAH/EPAを35mg/g含有する粉末油脂である。
これらのドコサヘキサエン酸及びエイコサペンタエン酸を使用して、当業者に汎用されている製剤技術により軟膏剤を調製することができる。
【0021】
本発明の外用軟膏剤中のドコサヘキサエン酸及びエイコサペンタエン酸(エステル体を包含する)の含有量は特に制限されるものではないが、これらを単独で用いる場合、その含有量は製剤全重量に対して0.01〜80重量%の範囲内であれば良く、0.1〜20重量%の範囲内であればより好ましく、0.1〜10重量%であれば特に好ましい。また、これらの中から選択される2種以上の成分を同時に含有させる場合は、これらの化合物の含有量の合計が製剤全重量に対して0.01〜80重量%の範囲内であれば良く、0.1〜20重量%の範囲内であればより好ましく、0.1〜10重量%であれば特に好ましい。
【0022】
本発明におけるDHA/EPA(タラ肝油DHA/EPA)含有軟膏は、既に本発明者らにより開発された軟膏剤をそのまま使用することができる。
また、タクロリムス軟膏についても、製品名:プロトピック軟膏として、アトピー性皮膚炎治療剤として臨床的に使用されている軟膏をそのまま使用することができる。
【0023】
本願発明が目的とするアトピー性皮膚炎様皮膚疾患の改善としてのアトピー性皮膚炎症の病態には、(a)皮膚のリンパ球・好中球などの免疫異常に代表される炎症反応、及び、(b)皮膚(角層)のバリア機能障害、という二つの側面がある。また、最近では、アトピー性皮膚疾患を慢性化、難治化させているものとして(c)リモデリングが挙げられている。
【0024】
上記(a)の免疫的な異常としては、Th2サイトカイン異常が基盤にあり、IL−4、IL−5、IL−13などの産生亢進が関与している。最近、Th17由来のIL−17AがTh2サイトカインに促進的に作用してアトピーの病態に深く関与していることが明らかにされており、このことからアトピー性皮膚炎の最新治療のターゲットとして、IL−17A抑制薬の開発が非常に期待されている。
今回のモデルマウスを用いた動物実験においても、DHA/EPAは、IL−17Aの産生を有意に抑制しているものであった。このことは、DHA/EPAがIL−17A産生抑制剤として有効なものであることを示していることに他ならない。
【0025】
一方、(b)の皮膚(角層)のバリア機能の障害は、アトピー性皮膚炎の発症及び悪化の原因として非常に重要である。皮膚のバリア機能を担う重要なタンパク質がフィラグリンである。前述したIL−17Aは、このフィラグリンの産生を抑制することが報告されており、今回のモデルマウスを用いた動物実験においても、DHA/EPAは、IL−17Aの産生を有意に抑制するものであることから、DHA/EPAが皮膚のバリア機能の障害を有意に改善することを示唆するものでもあった。
ところで、フィラグリンの欠乏は、乾燥肌誘引にもつながることから、フィラグリン減少の原因となるIL−17Aの産生を抑制する本発明のDHA/EPAは、皮膚(角層)の保湿・保護材として有効であることも示唆された。
【0026】
(c)のリモデリングは、(1)炎症による組織障害の再構築と修復過程として、(2)アレルギー炎症の不可逆性、難治化に関与し、(3)過剰なリモデリングが慢性炎症を持続させるという3つの要素から構成されており、組織修復に向かうプロセスというよりは、むしろ、慢性化、難治化に向かう組織反応と考えられ、IL−17Aは、このリモデリングの一因といわれている。
本発明のDHA/EPAは、今回のモデルマウス動物実験において、IL−17Aの産生を抑制していることから、上記のリモデリングに対する治療薬となり得ることが期待される。
【0027】
ところで、皮膚疾患の一つとして、乾癬がある。乾癬の症状としては、一般的には、皮膚から少し盛り上がった赤い発疹(紅斑)の上に、銀白色のフケのような鱗屑が付着し、ポロポロとはがれ落ちる皮膚疾患である。
乾癬の皮膚では、炎症を引き起こす細胞(炎症細胞)が集まって活性化しているため10倍以上の速度で生まれ変わり、生産が過剰な状態になっている。この過剰に生産された表皮の細胞は厚く積み上がり、鱗屑となってはがれ落ちていく経緯をとる。
【0028】
最近に至り、乾癬の発症及び維持の有力な原因としてTh17細胞から産生されるIL−17Aが判明し、このIL−17Aの生物活性を中和する目的で、ヒト型抗ヒトIL−17Aモノクローナル抗体である「コセンティクス」(登録商標)が尋常乾癬と関節性乾癬の治療薬として発売されるに至っている。しかしながら、種々の副作用も指摘されており、より安全性の高い乾癬治療薬の開発が望まれている。
本発明のDHA/EPAは、モデルマウス動物実験において、IL−17Aの産生を有意に抑制している。このことは、乾癬の発症、維持の直接的な原因物質であるIL−17Aの産生を抑制するものであることから、それにより、安全性の高い乾癬治療薬となるものである。
【0029】
以下に、本発明者らが検討した結果の具体的内容の詳細を、実施例に代えて記載していくことにより、本発明を説明していく。
【0031】
<マウス>
8〜10週齢のNC/Ngaマウス(チャールズリバー社より購入)を使用した。
なお、マウスは、徳島大学の動物実験管理委員会の許可の下、徳島大学の無菌動物飼育管理室にて使用まで飼育した。
【0032】
<DHA/EPA>
日油株式会社より入手した、タラ肝油(DHA20%及びEPA10%含有)を使用した。なお、このものを含有するDHA/EPA軟膏は、通常の製剤技術により、油性軟膏基剤を用いて調製した。
【0033】
<皮膚モデル>
マウス背部の吻側部の毛を脱毛クリームにより除去した。ついでコナヒョウダニ抽出物(Dermatophagoides farinae)含有軟膏(商品名:Biosta AD:アトピー性皮膚炎誘発試薬)を、週2回/3週間塗布し、アトピー性皮膚疾患を誘発させた。最初の塗布時(0日)に皮膚バリアを4%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)で破壊し、FK506(0.3mg)軟膏及び/又はDHA/EPA軟膏(タラ肝油100mg:EPA8.3%/DHA24.6%)を、4、8、12、16、20日に塗布した。
【0034】
<皮膚からの細胞の単離・精製及びフローサイトメトリー>
皮膚を、2.5mg/mLのディスパーゼII(Roche社)、3mg/mLのコラーゲナーゼ(Worthington biochemidals社、UAS)および5μgのDNase(Roche社)により37℃にて120分間消化させた。細胞破片を除去し、細胞を;
APC-conjugated anti-CD3(アロフィコシアニン抱合CD3抗体)、
FITC-conjugated anti-B220(フルオレセイン・イソチオシアネート抱合B220抗体:CD45R)、
PE-Cy7-conjugated Gr-1(抗体)
APC-Cy7-conjugated CD11b(抗体)或いは、
PE-conjugated Siglec-F antibody(フィコエリトリン抱合シグレックF抗体)、
により染色した。
フローサイトメトリーは、FCAS Canto II(Beckton Dickinson, Mountain View, CA)により行った。
【0035】
<細胞培養>
CD4
+T細胞を、流入領域リンパ節から、anti-B220、anti-CD32/16、anti-CD 11b、及びanti-CD8 mAbsと共に培養し、次いで抗ラットIgG-coated Dynabeads(Dynal Inc.)と共に培養した。
精製したCD4
+T細胞を、1μg/mLのanti-CD3 mAb の存在下2日間照射脾臓細胞と共に刺激させた。
【0036】
<ロイコトリエンの測定>
皮膚(直径2cm)を単離し、ハサミで裁断し、インドメタシン及びジレウトン(注:モンテルカストナトリウム:ロイコトリエン受容体拮抗薬:気管支喘息治療薬)含有エタノール液に入れ、ホモジナイズした後、4℃にて5分間600×gで遠心分離した。上清を水と混合し、C18 Sep-Pak カートリッジ(Waters, milford, MA, USA)に充填し、メタノールにて平衡化した。カートリッジをヘキサン、ついて水にて洗浄後、脂質をエタノールにて溶出させた。濃縮後、残渣をロイコトリエンB4分析キット(Cayman Chemical, Ann Arbor, MI, USA)用の酵素免疫測定バッファーに懸濁させた。タンパク濃度を測定し、そして、ロイコトリエンB4の量を、タンパク質量から標準化した。
【0037】
<ELISA測定>
培養上清液中のIL−13、IFN−γ、IL−17A及びIL−22をELISAキット(R&D systems)により測定した。
【0038】
マウスの血清、或いは標準IgG1、IgM、IgG2b、またはIgE(いずれも、Southern Biotech, AL, USA)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈し、96ウェルマイクロプレートにコートし、4℃にて一夜放置した。プレートをPBS/0.1% Tween 20で洗浄後、alkaline phosphatase-conjugated goat anti-mouse IgG1、IgM、IgG2b、またはIgE(いずれも、Southern Biotech, AL, USA)を加え、室温にて2時間培養した。プレートをPBS/0.1% Tween 20で洗浄後、alkaline phosphatase活性を、4-nitrophenyl phosphate disodium salt hexahydrate(Sigma-Aldrich, MO, USA)を基質として使用し、測定した。
【0039】
<皮膚領域の臨床学的スコアリング>
以下の基準によりスコアリングした。
(1)紅斑/出血 0(なし)
(2)瘢痕化/乾燥 1(軽度)
(3)浮腫 2(中程度)
(4)皮剥/腐食 3(重度)
全スキンスコアを個々のスコアのトータルで示した。
【0040】
<組織学的所見>
皮膚を10%ホルマリンで固定し、パラフィン包埋し、切片を作成した。なお、組織片は、ヘマトキシリン及びエオシンにて染色した。
【0041】
<統計学的解析>
Student's t-テストにより行った。
有意差:p<0.05
【0042】
[結果]
以上に記載した材料及び方法に基づく試験結果について、以下に詳細に記載する。
【0043】
試験1:DHA/EPA軟膏は、アトピー性皮膚炎様疾患(AD)を軽減していた。
DHA/EPA軟膏を用いた、NC/Ngaマウスにおけるアトピー性皮膚炎様疾患(AD)の効果を検討した。
コナヒョウダニ抽出物(Dermatophagoides farinae)含有軟膏(バイオスタAD:Biosta AD)を、NC/Ngaマウス皮膚に塗布することにより、ADを惹起させた。
DHA/EPA軟膏、FK506軟膏の単独、並びにDHA/EPA及びFK506の併用投与を、ADに塗布し、
(a)臨床スコア、
(b)最初の誘発後30日後にHE染色を行い皮膚組織学的検討、
を行った。
結果は、n=8で行い、平均値±S.D.(有意差:p<0.01)で示した。
DHA/EPA単独では、ADの改善は臨床スコア上並びに組織学的評価では認められなかった。
FK506投与群では、ADを改善し、FK506とDHA/EPAの併用は、ADをさらに改良するものであった(その結果を、
図1A,1B示した)。
これらのデータは、DHA/EPA軟膏は、FK506軟膏と共に使用することにより、ADを抑制する機能があることが判明した。
【0044】
試験2:DHA/EPA軟膏は、皮膚において浸潤したT細胞を減少させていた。
次いで本発明者らは、薬剤処理後の皮膚における、免疫関係細胞の数を評価した。
初期誘発後20日後の皮膚について、コラーゲナーゼ及びディスパーゼにより消化し、CD3、IgM、B220、CD11b、Grl或いは、SiglecF抗体で染色させ、細胞数をカウントし、T−細胞(CD3
+)、B細胞(IgM
+B220
+)、好中球(CD11b
+、Crl
+)及び好酸球(CD11b
+、SiglecF
+)の数を評価した。
T細胞(CD3
+)、B細胞(IgM
+、B220
+)、好中球(CD11b
+、Grl
+)及び好酸球(CD11b
+、SiglecF
+)数を、全細胞数/皮膚組織(g)として示した。
結果は、n=8で行い、平均値±S.D.(有意差:p<0.01)で示した。
その結果を、
図2に示した。
【0045】
その結果より明らかなように、FK506軟膏の単独投与処理群では、いずれの細胞にも有意な変化(減少)はなかった。
これに対して、FK506軟膏とDHA/EPA軟膏の併用投与群では、T細胞、好中球並びに好酸球の数が有意に減少していた(
図2)。
このことは、DHA/EPA軟膏は、皮膚におけるT細胞、好中球並びに好酸球の浸潤を減少させるものであることを意味するものであった。
【0046】
試験3:DHA/EPA軟膏は、血清IgEを減少させ、CD4+T細胞からのIL−13及びIL−17Aの産生を減少させていた。
次いで、本発明者らは、DHA/EPA軟膏の投与後の血清免疫グロブリンレベルの評価を行った。
すなわち、コナヒョウダニ抽出物(Dermatophagoides farinae)含有軟膏(Biosta AD:アトピー性皮膚炎誘発試薬)を、NC/Ngaマウス皮膚に塗布することにより、ADを惹起させた。
FK506軟膏の単独投与、並びにDHA/EPA軟膏及びFK506軟膏を併用投与し、30日後における血清中のIgE、IgG1、IgG2及びIgMを評価した。
結果は、n=8で行い、平均値±S.D.(有意差:p<0.05)で示した。
【0047】
その結果を
図3に示した。
IgEレベルは、DHA/EPA及びFK506の併用投与群でのみ減少していた。しかしながら、DHA/EPA及びFK506の併用投与群であっても、IgM、IgG1、及びIgG2bレベルは変化なかった。
【0048】
さらに、本発明者らは、FK506、FK506とDHA/EPAの併用投与群におけるCD4
+T細胞からのサイトカインの分泌を比較した。
CD4
+T細胞を、draining lymph node(流入領域リンパ節)で精製し、プレートコートした抗−Dd3mAbと2日間刺激させた。
上清液について、ELISA法にて、IL−13、IL−17A、IL−22及びINF−γを測定した。
結果は、n=8で行い、平均値±S.D.(有意差:p<0.01)で示した。
【0049】
その結果を
図4に示した。
IL−13、IL−22、IL−17A及びIFN−γはバイオスタ(Biosta AD)処理により亢進されていたが、バイオスタ(Biosta AD)処理後においても、IL−4を検出することはできなかった。
また、FK506及びDHA/EPAの併用投与群では、IL−13及びIL−17Aの産生を減少させているが、FH506の単独投与群では、いずれのサイトカインも減少は生じなかった。
これらの結果は、DHA/EPAの投与は、CD4+T細胞からのIL−13及びIL−17Aの産生を有意に減少させるものであった。
特に、IL−17Aの産生に関しては、FK506単独投与群では減少を認められなかったが、FK506及びDHA/EPAの併用投与群においてはFK506単独投与群と比べて、有意なIL−17Aの産生抑制が認められた。
このことは、本発明のDHA/EPAには、顕著なIL−17A産生抑制作用があることを証明するものであり、乾癬治療に対して有効なものであることを示しているものであった。
【0050】
試験4:DHA/EPA軟膏は、ロイコトリエンB4を減少させていた
DHA/EPAは、インターロイキン(ILs)産生を抑制することが知られている。したがって、本発明者らは、DHA/EPA軟膏投与後の皮膚におけるロイコトリエンB4(LTB4)の評価を行った。
すなわち、コナヒョウダニ抽出物(Dermatophagoides farinae)含有軟膏(Biosta AD:アトピー性皮膚炎誘発試薬)を、NC/Ngaマウス皮膚に塗布することにより、ADを惹起させた。
(a)DHA/EPA軟膏、FK506軟膏の単独投与、並びにDHA/EPA軟膏及びFK506軟膏を併用投与し、20日後に皮膚を単離し、ELISA法にてタンパクに対するロイコトリエンB4(LTB4)を測定し、また、
(b)DHA/EPA軟膏、FK506軟膏の単独、並びにDHA/EPA軟膏及びFK506軟膏を併用投与し、皮膚の10カ所にロイコトリエンB4(LTB4)を注射し、臨床スコアを評価した。
試験は、n=8で行い、結果は、平均値±S.D.(p<0.05)で示した。
【0051】
その結果を
図5に示した。
図中、(a)はロイコトリエンB4(LTB4)の結果を示した図であり、(b)は臨床スコアの結果を示した図である。
図中に示した結果からも判明するように、FK506単独投与群では、ロイコトリエンB4(LTB4)の減少は認められなかったが、DHA/EPA及びFK506の併用投与群では、ロイコトリエンB4(LTB4)レベルは有意に減少しており、DHA/EPAがロイコトリエンB4(LTB4)の産生抑制に効果的であることを示唆している。
【0052】
ロイコトリエンB4(LTB4)の産生抑制が、DHA/EPA軟膏投与により、AD(アトピー性様皮膚疾患)の抑制に寄与するものであるか否かを評価するため、本発明者らは、DHA/EPA軟膏投与モデルマウスの皮膚へロイコトリエンB4(LTB4)を注射し、臨床スコアを検討したが、ロイコトリエンB4(LTB4)の注射は、DHA軟膏治療の効果を相殺するものであり、このことは、DHA/EPA軟膏投与により生じたADの抑制は、ロイコトリエンB4(LTB4)産生の抑制に起因するものであることを示唆していた。
【0053】
[結果の考察と検討]
生物活性である脂質、例えば、ロイコトリエン(LTs)及びプロスタグランジン(PGs)、エイコサノイドは、5−リポオキシナーゼ及びシクロオキシナーゼにより、アラキドン酸から生成される。
ロイコトリエン(LTs)及びプロスタグランジン(PGs)は、皮膚炎症を含む各種炎症を引き起こすメディエーターである。
本発明者らは、既に、DHA/EPAがマウスモデルADで治療効果があることから、DHA/EPAの投与によりAD患者における種々の症状を抑制するものであることを提案してきた。
今回、DAH/EPA軟膏単独投与では、ADに対しては、病理学的に効果は認められなかったが、FK506軟膏と併用することで、ADモデルに対して高い治療効果を有するものであることが判明した。
さらに、DHA/EPAの効果は、ロイコトリエンB4(LTB4)の産生抑制に起因するものであり、これらのデータは、DHA/EPA軟膏は、炎症性の主要エイコサノイドの産生を抑制することによりADを有効に抑制するものであることを示唆しているものであった。
【0054】
先の研究では、遊離脂肪酸(FFA)の炎症症状の抑制効果は、細胞脂質における遊離脂肪酸(FFA)組成物の変化に起因することを示したものである。FFAは、アラキドン酸に代わって細胞膜中に取り込まれる。
FFAは、5−リポオキシナーゼ及びシクロオキシナーゼのための弱い基質であることから、FFAの取り込みは、エイコサノイドメディエーターの産生を抑制する。DHA/EPA投与によるロイコトリエンB4(LTB4)の抑制に関する本発明者らの先の研究は、アラキドン酸に対するDHA/EPAの抑制効果を示唆した。
【0055】
他のメカニズムとして、DHA/EPA、及び他のFFAは、細胞表面でのGPR120を活性化することによる。このGPR120は、TAK1のリン酸化を阻害するものであり、RNAiによるTAK1の抑制は、ターゲッティング骨髄性細胞(myeloid cells)によるTh1及びTh17を抑制する。したがって、DHA/EPAが生体においてTAK1に効果があるか否かは、ADの病理学的抑制と同調するか否かで重要なことである。
【0056】
DHA/EPAの治療効果を、FK506と併用することで確認した(DHA/EPA単独ではADの病理学的な効果は無かった)。
この点については、二つの可能性があると思われる。
最初の可能性は、DHA/EPAの単独投与は、ADの抑制効果であるが、ADモデルにおける病理学的な改善は、弱いものである。
第二の可能性は、FK506は、このADモデルにおけるDHA/EPAの効果に影響を与えるものであり、ADの病理学的進行に関係する引っ掻き行動を阻害した。FK506は、引掻き行動を抑制するが、DHA/EPAとの併用投与を必要とするものであった。
これに対して、DHA/EPA単独投与ではAD患者の治療に有効である。
このことは、NC/Ngaマウスに比較して、ヒトにおいては、引っ掻き行動が少ない点に起因しているものであった。
【0057】
結論的に、本発明により、DHA/EPAによるAD患者の症状を抑制させることに成功した。ADモデルマウスでは、DHA/EPAは、ロイコトリエンB4(LTB4)産生を阻害することによりAD病変を抑制させていた。しかしながら、DHA/EPAがどのようにロイコトリエンB4(LTB4)を抑制するかADモデルで検討する必要があり、これらのデータは、DHA/EPAがFK506と併用することにより、AD患者に適用することで、FK506の治療効果がより効果的なものであることを示唆するものであった。