【実施例】
【0062】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0063】
<実施例1>
ケイ素アルコキシドとしてのテトラエトキシシラン(TEOS)34.66gにエタノール(沸点78.3℃)34.56gを有機溶媒として添加し、イオン交換水29.78gをセパラブルフラスコ内で20℃の温度で15分間撹拌することにより第1液を調製した。また、この第1液とは別に、エタノール0.56gと濃度60質量%の硝酸0.44gをビーカー内に投入して混合し、20℃の温度で15分間撹拌することにより第2液を調製した。次に、上記調製した第1液を、ウォーターバスにて60℃の温度に保持してから、この第1液に第2液を添加し、60℃で2時間撹拌した。これにより、上記ケイ素アルコキシドの第1加水分解物を得た。上記ケイ素アルコキシドの第1加水分解物を生成した液に、上記式(28)に示されるフッ素含有シラン0.15gと有機溶媒としてのエタノール(沸点78.3℃)211.26gと2−イソプロポキシエタノール(沸点142℃)35.21gとジアセトンアルコール(沸点169℃)5.03gを添加し、25℃で1時間撹拌した。これにより、液中にケイ素アルコキシドの第1加水分解物に加えて、フッ素含有シランの第2加水分解物が生成された液組成物を得た。
【0064】
<実施例2>
表1及び表2に示すように、ケイ素アルコキシドをテトラメトキシシラン(TMOS)の3〜5量体のオリゴマー(三菱化学製商品名MS-51)に変え、有機溶媒をメタノールに変え、触媒をテトライソプロポキシチタン(Ti(isoPrO)
4)に変え、フッ素含有シランを式(27)に変え、液組成物の原料の各配合量(g)を変えた以外、実施例1と同様にして、液中にケイ素アルコキシドの第1加水分解物に加えて、フッ素含有シランの第2加水分解物が生成された液組成物を得た。
【0065】
<実施例3>
表1及び表2に示すように、フッ素含有シランを式(19)に変え、液組成物の原料の各配合量(g)を変えた以外、実施例1と同様にして、液組成物を得た。
【0066】
<実施例4>
表1及び表2に示すように、触媒を塩酸に変え、液組成物の原料の各配合量(g)を変えた以外、実施例1と同様にして液組成物を得た。
【0067】
<実施例5>
表1及び表2に示すように、液組成物の原料の各配合量(g)を変えた以外、実施例1と同様にして液組成物を得た。
【0068】
<実施例6>
表1及び表2に示すように、触媒を85%リン酸水溶液に変え、第1溶媒を2-エトキシエタノールと2−メトキシエタノールの質量比にて1:1の混合溶媒に、第3溶媒をエタノール85%、n−プロピルアルコール10%、2−プロピルアルコール5%の混合溶媒に変え、液組成物の原料の各配合量(g)を変えた以外、実施例1と同様にして液組成物を得た。
【0069】
<実施例7>
表1及び表2に示すように、第1溶媒を1−メトキシ−2−プロパノールと1−エトキシ−2−プロパノールの質量比にて1:1の混合溶媒に、第3溶媒をエタノール85%、n−プロピルアルコール10%、2−プロピルアルコール5%の混合溶媒に変え、液組成物の原料の各配合量(g)を変えた以外、実施例1と同様にして液組成物を得た。
【0070】
<実施例8>
表1及び表2に示すように、第2溶媒をジエチレングリコールモノメチルエーテルと3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの質量比にて1:3の混合溶媒に変え、液組成物の原料の各配合量(g)を変えた以外、実施例1と同様にして液組成物を得た。
【0071】
<実施例9>
表1及び表2に示すように、第2溶媒をN−メチルピロリドン及び3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの質量比にて1:3の混合溶媒に変え、液組成物の原料の各配合量(g)を変えた以外、実施例1と同様にして液組成物を得た。
【0072】
<実施例10>
表1及び表2に示すように、組成比を変えた以外、実施例1と同様にして、液組成物を得た。
【0073】
<比較例1>
表1及び表2に示すように、フッ素含有シラン添加しないで、液組成物の原料の各配合量(g)を変えた以外、実施例1と同様にして、液組成物を得た。
【0074】
<比較例2>
表1及び表2に示すように、液組成物の原料の各配合量(g)を変えた以外、実施例1と同様にして、液組成物を得た。
【0075】
<比較例3>
表1及び表2に示すように、液組成物の原料の各配合量(g)を変えた以外、実施例1と同様にして、液組成物を得た。
【0076】
<比較例4>
表1及び表2に示すように、第1溶媒を添加しないで、液組成物の原料の各配合量(g)を変えた以外、実施例1と同様にして、液組成物を得た。
【0077】
<比較例5>
表1及び表2に示すように、第2溶媒を添加しないで、液組成物の原料の各配合量(g)を変えた以外、実施例1と同様にして、液組成物を得た。
【0078】
<比較例6>
表1及び表2に示すように、第1溶媒及び第2溶媒を添加しないで、液組成物の原料の各配合量(g)を変えた以外、実施例1と同様にして、液組成物を得た。
【0079】
<比較例7>
表1及び表2に示すように、第1溶媒を1−エトキシ−2−プロパノールに変え、第2溶媒をN−メチルピロリドンに変え、液組成物の原料の各配合量(g)を変えた以外、実施例1と同様にして液組成物を得た。
【0080】
<比較例8>
表1及び表2に示すように、第1溶媒を1−エトキシ−2−プロパノールに変え、第2溶媒をN−メチルピロリドンに変え、液組成物の原料の各配合量(g)を変えた以外、実施例1と同様にして液組成物を得た。
【0081】
実施例1〜10及び比較例1〜8の液組成物の原料となるケイ素アルコキシドの第1加水分解物を調製するための第1液及び第2液の種類と配合量を表1に示す。また第1加水分解物を含む液にフッ素含有シランと第1溶媒、第2溶媒及び第3溶媒を添加してフッ素含有シランの第2加水分解物を調製するための各原料の種類と配合量を表2に示す。表2において、フッ素含有シランの種類として、例えば「式(28)」と記載したものは、「式(28)に示される化合物」を意味する。更にケイ素アルコキシドの第1加水分解物の質量%及びフッ素含有シランの第2加水分解物の質量%、液組成物100質量%に対する第1加水分解物と第2加水分解物の合計量の含有割合、この合計量100質量%に対するに対するフッ素含有シランの含有割合、第1溶媒、第2溶媒及び第3溶媒の質量比、及び液組成物中の水の含有割合を表3に示す。なお、第3溶媒は、ケイ素アルコキシドの加水分解によって生じる溶媒も含む。また表3の水は液組成物に対する質量%である。表3に示される液組成物に対するケイ素アルコキシドの第1加水分解物の質量%はケイ素アルコキシドの質量から加水分解により分解するアルコキシドの質量の差を求め、この差を全溶液量で割ることにより算出され、液組成物に対するフッ素含有シランの第2加水分解物の質量%も同様にして算出される。液組成物に対する第1及び第2加水分解物の合計量の質量%は上記で算出された第1加水分解物の質量と第2加水分解物の合計量の質量を、全溶液量で割ることにより算出される。また第1及び第2加水分解物の合計量に対するフッ素含有シランの第2加水分解物の質量%は第2加水分解物の質量を第1及び第2加水分解物の合計量の質量で割ることにより算出される。更に加水分解によって生じる溶媒と、後から添加する溶媒を合計した数値を用いて、第1溶媒と第2溶媒と第3溶媒の質量比は算出される。更に液組成物に対する水の質量%は加水分解時に添加した水の量を全溶液量で割ることにより算出される。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
<比較試験及び評価>
実施例1〜10及び比較例1〜8で得られた液組成物を、バーコーター(安田精機製作所製、型番No.3)を用いて、厚さ2mm、たて150mm、よこ75mmのSUS基材上にそれぞれ乾燥後の厚さが0.5〜1μmとなるように塗布し、18種類の塗膜を形成した。ここで、先ずバーコーターによる塗布時の成膜性を評価した。続いてすべての塗膜を室温にて、3時間乾燥して18種類の防汚性と離型性が付与された膜を得た。これらの膜について、膜表面の撥水性、撥油性、膜の耐水性、膜の強度、膜の基材への密着性及び膜付き基材からの離型性を評価した。これらの結果を表4に示す。
【0086】
(1) 成膜性
成膜性は、膜を目視にて評価した。膜全体に弾き、筋等の発生がなく、液組成物を均一に塗布できたものは「良好」とし、膜の一部に僅かに弾き、筋等が生じたものは「可」とし、膜全体に弾き、筋等が生じたものは「不良」とした。
【0087】
(2) 膜表面の撥水性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のイオン交換水を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するSUS基材上の防汚性膜をこの液滴に近づけて防汚性膜に液滴を付着させる。この付着した水の接触角を測定した。静止状態で水が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を水の接触角とし、膜表面の撥水性を評価した。
【0088】
(3) 膜表面の撥油性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のn−ヘキサデカン(以下、油という。)を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するSUS基材上の防汚性膜をこの液滴に近づけて防汚性膜に液滴を付着させる。この付着した油の接触角を測定した。静止状態で油が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を油の接触角とし、膜表面の撥油性を評価した。
【0089】
(4) 膜の耐水性
評価する防汚性膜をSUS基材とともに5〜15℃の水道水が500mL/分の速度で流れている水中に、水平状態で24時間置き、室温にて乾燥した後、水と油の接触角を測定し、浸漬前の接触角と15度未満の差である場合を「良好」とし、15度以上異なる場合は、「不良」とし、膜の耐水性を評価した。
【0090】
(5) 膜の強度
水を含ませたスポンジで、膜を20回擦り、膜を目視にて評価した。膜に全く剥離が生じていない場合を「良好」とし、膜の一部に僅かに剥離が生じている場合を「可」とし、膜の大部分に剥離が生じている場合を「不良」とした。
【0091】
(6) 膜の基材への密着性及び膜付き基材からの離型性
75mm×150mm×厚さ2mmのSUS304基材上に塗膜を形成した。塗膜の上に、セロファンテープを貼り付けた後、テープを剥がしたときに、塗膜がテープ側に全く付かなかった場合を「密着良好」とし、塗膜の一部が僅かにテープ側に付いたが、最終的にテープ側に貼り付かなかった場合を「密着可」とし、塗膜の大部分がテープ側に貼り付き、SUS基材界面で塗膜が剥がれてしまった場合を「密着不良」とした。
【0092】
膜の基材への密着性を確認するために用いたSUS304基材と同一の基材に膜を形成した。膜の上に、コニシ製エポキシ樹脂とガラスクロスを積層し、8時間乾燥させFRP層を形成した。形成したFRP層をSUS304基材から剥がしたときに、FRP層のみが膜から剥離したものは、膜の基材への密着性と膜からの離型性が「良好」であるとした。FRP層が膜とともにSUS基材から剥離したものは密着性が不十分であるが、離型性は「可」とした。FRP層がSUS基材上の膜から全く剥離しなかったものは、離型性は「不良」であるが、膜の基材への密着性は「密着良好」とした。
【0093】
【表4】
【0094】
表4から明らかなように、比較例1の液組成物では、フッ素を含有していないため、成膜性に優れるが、水及びヘキサデカンの接触角から明らかなように、撥水撥油性の機能が発現していなかった。そのため、離型性試験にてもFRP層の剥離ができなかった。比較例2の液組成物では、第1及び第2加水分解物を合計した配合量が少なすぎるため、水及びヘキサデカンの接触角も悪く、膜が薄すぎるため膜強度も不足していた。
【0095】
また比較例3の液組成物では、第1及び第2加水分解物を合計した配合量が多すぎるため、粘度も高く、均一に成膜することができなかった。そのため、スポンジで擦る試験にて、一部塗膜が剥離した。また、離型性試験でも剥離する箇所としない箇所がまだらに存在する結果となっていた。比較例4の液組成物では第2溶媒が配合されていなかっため、塗膜の急激な乾燥を防止できなかった。また比較例5の液組成物では第1溶媒が配合されていなかったため、乾燥速度の調整が難しかった。また比較例6の液組成物では第1溶媒も第2溶媒も配合されていなかったため、更に乾燥速度の調整を行うことができなかった。
【0096】
また比較例7の液組成物では、第1溶媒が多過ぎ、第3溶媒が少な過ぎるため、乾燥速度の調整を行うことができなかった。結果として比較例4〜7の液組成物では、成膜時に筋、水玉等が発生し、表面の荒れた状態となった。そのため、膜強度試験にてスポンジで擦ると、一部の塗膜が剥離した。また離型性試験でも離型する箇所としない箇所が生じていた。更に比較例8の液組成物では、高沸点の第2溶媒が多過ぎるため、塗布状態において基材への弾きも見られ、室温24時間の乾燥条件でも膜が乾燥しなかった。そのため、接触角、離型性試験は実施できなかった。
【0097】
これに対して、表4から明らかなように、実施例1〜9の液組成物では、成膜性、塗膜の撥水撥油性、耐水性、膜の強度において、良好な結果であり、膜付き基材からの離型性も良好であった。また実施例10の液組成物では、全加水分解物に対してフッ素含有シランの含有量が多めであったため、撥水撥油性及び膜の基材への密着性は優れていたが、成膜性、膜の強度及び離型性はいずれも「可」であり、膜付き基材からの離型性試験では「密着可」であった。