特開2017-197712(P2017-197712A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-197712(P2017-197712A)
(43)【公開日】2017年11月2日
(54)【発明の名称】ポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/0204 20160101AFI20171006BHJP
【FI】
   C08G75/0204
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-2112(P2017-2112)
(22)【出願日】2017年1月10日
(31)【優先権主張番号】62/277,091
(32)【優先日】2016年1月11日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】105142916
(32)【優先日】2016年12月23日
(33)【優先権主張国】TW
(71)【出願人】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】ホ、ポ−シェン
(72)【発明者】
【氏名】リン、チー−シャン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、メン−シン
(72)【発明者】
【氏名】ファン、チェン−シン
(72)【発明者】
【氏名】カオ、シン−チン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、イー−ハー
【テーマコード(参考)】
4J030
【Fターム(参考)】
4J030BA04
4J030BA49
4J030BB45
4J030BD01
4J030BF07
4J030BF15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】結晶性が比較的高くなるため、該ポリマーの融点が比較的高いものとなり(例えば約330℃以上)、さらには耐熱性、耐化学性、耐火性、および電気絶縁性が向上するポリマーの提供。
【解決手段】式(1)又は式(1)のスルホニウムを還元して−S−としたポリアリーレンスルフィド(2)で示される構造の繰り返し単位を有するポリマー。

(Ar及びArは夫々独立に同じでない二価アリール;YはRSO又はClO;Rはアルキル;Rは芳香環又はハロアルキル)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)または式(II)で示される構造の繰り返し単位を有するポリマー。
【化1】

【化2】

(式中、ArおよびArはそれぞれ独立に、置換されたまたは非置換の二価アリール基であり;YはRSOまたはClOであり;RはC1−6アルキル基であり;ArとArは同じでなく;RはC1−6アルキル基、置換されたもしくは非置換の芳香環、またはC1−6ハロアルキル基である。)
【請求項2】
ArおよびArがそれぞれ独立に、
【化3】

であり、Rはそれぞれ独立に水素、またはC1−6アルキル基である請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
がそれぞれ独立に水素、メチル(methyl)、エチル(ethyl)、プロピル(propyl)、イソプロピル(isopropyl)、n−ブチル(n-butyl)、t−ブチル(t-butyl)、sec−ブチル(sec-butyl)、イソブチル(isobutyl)、ペンチル(pentyl)、またはヘキシル(hexyl)である請求項2に記載のポリマー。
【請求項4】
式(I)で示される構造の前記繰り返し単位が、
【化4】

であり、式中、RはC1−6アルキル基であり;Rはそれぞれ独立に水素、またはC1−6アルキル基であり;YはRSOまたはClOである請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項5】
式(II)で示される構造の前記繰り返し単位が、
【化5】

であり、式中、Rはそれぞれ独立に水素、またはC1−6アルキル基である請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項6】
が、メチル(methyl)、エチル(ethyl)、プロピル(propyl)、イソプロピル(isopropyl)、n−ブチル(n-butyl)、t−ブチル(t-butyl)、sec−ブチル(sec-butyl)、イソブチル(isobutyl)、ペンチル(pentyl)、またはヘキシル(hexyl)である請求項1に記載のポリマー。
【請求項7】
ArおよびArがそれぞれ独立に、置換されたもしくは非置換のフェニレン基(phenylene group)、ビフェニレン基(biphenylene group)、ナフチレン基(naphthylene group)、チエニレン基(thienylene group)、インドリレン基(indolylene)、フェナントレニレン基(phenanthrenylene)、インデニレン基(indenylene)、アントラセニレン基(anthracenylene)、またはフルオレニレン基(fluorenylene)である請求項1に記載のポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はポリマーに関し、特にポリアリーレンスルフィドまたはその塩に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィドは、耐熱性、耐化学性、耐火性、および電気絶縁性といった優れた物理特性を備えるため、コンピュータ用アクセサリ、自動車用アクセサリに、耐化学性を有する工業用繊維として、および腐食性化学物質と接触する部品の塗料として広く利用されている。
【0003】
しかしながら、従来のポリアリーレンスルフィドの製造方法はハロゲン含有処理が主であり、ポリアリーレンスルフィド樹脂の収率が低いことに加え、環境汚染を引き起こす可能性のある再利用不可能なハロゲン含有副産物を生ずるものである。また、少なくとも2つの繰り返し単位を有する従来のポリアリーレンスルフィドは、その繰り返し単位が通常無秩序に配列している(arranged in a random fashion)ため、ポリアリーレンスルフィドの耐熱性、耐化学性、耐火性、および電気絶縁性のさらなる向上は不可能だった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的の1つは、ポリアリーレンスルフィドまたはその塩を提供し、その電気特性および化学特性を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の実施形態によれば、本開示は、式(I)または式(II)で示される構造の繰り返し単位を有し得るポリマーを提供する:
【0006】
【化1】
【0007】
【化2】
【0008】
式中、ArおよびArはそれぞれ独立に、置換されたまたは非置換の二価アリール基であり;YはRSOまたはClOであってよく;RはC1−6アルキル基であってよく;ArとArは同じでなく;RはC1−6アルキル基、置換されたもしくは非置換の芳香環、またはC1−6ハロアルキル基であってよい。
【発明の効果】
【0009】
本開示の実施形態は、ポリマー、例えばポリアリーレンスルフィドまたはその塩を提供する。本開示の実施形態によれば、本開示に係るポリマーは、異なるアリール基が交互に配列する形式でその主鎖構造が構成されるので、結晶性が比較的高くなるため、該ポリマーの融点が比較的高いものとなり(例えば約330℃以上)、さらには耐熱性、耐化学性、耐火性、および電気絶縁性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の実施形態によれば、本開示に係るポリマーは、式(I)または式(II)で示される構造の繰り返し単位を有し得る:
【0011】
【化3】
【0012】
【化4】
【0013】
式中、ArおよびArはそれぞれ独立に、置換されたまたは非置換の二価アリール基であり;YはRSOまたはClOであってよく;RはC1−6アルキル基であってよく;ArとArは同じでなく;RはC1−6アルキル基、置換されたもしくは非置換の芳香環、またはC1−6ハロアルキル基であってよい。ここで、本開示に係る置換された二価アリール基とは、該二価アリール基の少なくとも1つの炭素上の水素がC1−6アルキル基で置換されているものを指す。本開示の実施形態によれば、該置換された芳香環とは、該芳香環の少なくとも1つの炭素上の水素がC1−6アルキル基で置換されているものを指す。
【0014】
本開示の実施形態によれば、ArおよびArはそれぞれ独立に、置換されたもしくは非置換のフェニレン基(phenylene group)、ビフェニレン基(biphenylene group)、ナフチレン基(naphthylene group)、チエニレン基(thienylene group)、インドリレン基(indolylene)、フェナントレニレン基(phenanthrenylene)、インデニレン基(indenylene)、アントラセニレン基(anthracenylene)、またはフルオレニレン基(fluorenylene)であり、このうち、置換されたフェニレン基(phenylene group)、ビフェニレン基(biphenylene group)、ナフチレン基(naphthylene group)、チエニレン基(thienylene group)、インドリレン基(indolylene)、フェナントレニレン基(phenanthrenylene)、インデニレン基(indenylene)、アントラセニレン基(anthracenylene)、またはフルオレニレン基(fluorenylene)とは、前記二価アリール基の少なくとも1つの炭素上の水素がC1−6アルキル基で置換されたものを指す。
【0015】
本開示の実施形態によれば、C1−6アルキル基は直鎖(linear)または分枝鎖(branched)のアルキル基であり得る。例えば、Rは、メチル(methyl)、エチル(ethyl)、プロピル(propyl)、イソプロピル(isopropyl)、n−ブチル(n-butyl)、t−ブチル(t-butyl)、sec−ブチル(sec-butyl)、イソブチル(isobutyl)、ペンチル(pentyl)、またはヘキシル(hexyl)であり得る。
【0016】
本開示の実施形態によれば、ArおよびArはそれぞれ独立に、
【0017】
【化5】
【0018】
であってよく、xは0、1、または2であり;Rはそれぞれ独立に水素、またはC1−6アルキル基であり得る。例えば、Rはそれぞれ独立に水素、メチル(methyl)、エチル(ethyl)、プロピル(propyl)、イソプロピル(isopropyl)、n−ブチル(n-butyl)、t−ブチル(t-butyl)、sec−ブチル(sec-butyl)、イソブチル(isobutyl)、ペンチル(pentyl)、またはヘキシル(hexyl)であり得る。
【0019】
本開示の実施形態によれば、式(I)で示される構造の上記繰り返し単位は、
【0020】
【化6】
【0021】
であってよく、式(II)で示される構造の上記繰り返し単位は、
【0022】
【化7】
【0023】
であってよく、式中、R、R、およびYの定義は上述と同じである。
【0024】
本開示の実施形態によれば、本開示に係るポリマーの重合度は必要に応じて調整可能であり、例えば約600から120,000の数平均分子量または約10,000から30,000の数平均分子量を有するようにすることができる。
【0025】
本開示の実施形態によれば、本開示に係るポリマーの製造方法は、式(III)で示される構造を有する化合物と酸とを反応させて、式(I)で示される構造の繰り返し単位を有するポリマーを得る工程を含む:
【0026】
【化8】
【0027】
式中、Arは、置換されたまたは非置換のアリール基、例えば、置換されたもしくは非置換のフェニレン基(phenylene group)、ビフェニレン基(biphenylene group)、ナフチレン基(naphthylene group)、チエニレン基(thienylene group)、インドリレン基(indolylene)、フェナントレニレン基(phenanthrenylene)、インデニレン基(indenylene)、アントラセニレン基(anthracenylene)、またはフルオレニレン基(fluorenylene)であってよく;Arは、置換されたまたは非置換のアリール基、例えば置換されたもしくは非置換のフェニル基(phenyl group)、ビフェニル基(biphenyl group)、ナフチル基(naphthyl group)、チエニル基(thienyl group)、インドリル基(indolyl)、フェナントレニル基(phenanthrenyl)、インデニル基(indenyl)、アントラセニル基(anthracenyl)、またはフルオレニレン基(fluorenylene)であってよく、このうち、置換されたアリール基とは、アリール基の少なくとも1つの炭素上の水素がC1−6アルキル基で置換されたものを指す。ArはArとは異なる化合物から誘導されたものであり、例えば、Arがフェニレン基(phenylene group)であるとき、Arはフェニル基(phenyl)ではない。上述の酸は例えば、硫酸(sulfuric acid)、メタンスルホン酸(methanesulfonic acid)、ベンゼンスルホン酸(benzenesulfonic acid)、p−トルエンスルホン酸(p-toluenesulfonic acid)、またはトリフルオロメタンスルホン酸(trifluoromethanesulfonic acid)であってよい。上述の酸は、式(III)で示される構造を有する化合物と反応する他、過剰量を添加して溶媒とすることもできる。
【0028】
また、得られた式(I)で示される構造の繰り返し単位を有するポリマーについて、さらにその他の陰イオン(例えば:CHSO)で、式(I)で示される構造の繰り返し単位を有するポリマーの陰イオン(Y)基を置換すれば、他の異なる陰イオンを有するポリマーを得ることができる。
【0029】
加えて、式(I)で示される構造の繰り返し単位を有するポリマーに、さらに求核試薬を用いて脱アルカリ化(dealkylation)反応を進行させて、式(II)で示される構造を有するポリマーを得ることができる。本開示の実施形態によれば、該求核試薬(nucleophile)は、金属ハロゲン化物、金属水酸化物、アルコール、アミン(例えば二級アミン、もしくは三級アミン)、またはチオールとすることができる。例として、該求核試薬は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アルミニウム、または4−メチルピリジンであり得る。
【0030】
本開示の上述およびその他の目的、特徴、および長所がより明確にかつ理解しやすくなるよう、以下にいくつかの実施例および比較例を挙げて詳細に説明する。
【0031】
[実施例1]
メチルフェニルスルホキシド(methyl phenyl sulfoxide)0.7gおよびメチルビフェニルスルフィド(methyl biphenyl sulfide)1gを窒素下で反応容器中に加え、0℃まで降温した。次いで、メタンスルホン酸(methanesulfonic acid)10mlをゆっくりと反応容器に加え、約30分撹拌した。次いで、室温まで戻し、約20時間撹拌を続けた。次いで、得られた生成物を過塩素酸40ml中に注ぎ入れ、約1時間撹拌し、ジクロロメタン50mlと脱イオン水100mlで3回抽出した。有機層を濃縮、脱水した後、化合物(1)を収率約92%で得た。上記反応の反応式は以下に示すとおりである:
【0032】
【化9】
【0033】
核磁気共鳴分光により化合物(1)を分析して得られたスペクトルデータは次のとおりである:H NMR(400MHz,ppm,CDCl):2.48(−CH,s),3.67(sulfonium−CH,s),7.40−7.94(aromatic H,13H,m)。液体クロマトグラフィータンデム型質量分析計(LC−MS:liquid chromatography-mass spectrometry)により化合物(1)を分析したところ、m/z=323(CHSO陰イオンを含まない)が測定された。
【0034】
次いで、化合物(1)1.9gおよび氷酢酸30mlを窒素下で反応容器中に入れた。数分撹拌した後、過酸化水素2.02mlをゆっくり加えた。約90分反応させた後、得られた生成物を、ジクロロメタン50mlおよび脱イオン水100mlを用いて3回抽出した。有機層を濃縮、脱水した後、化合物(2)(オレンジ色)を得た。次いで、4−メチルピリジン(4-methylpyridine)10mlと化合物(2)を窒素下で反応容器中に入れ、30分撹拌した。約20分加熱還流した後、化合物(3)を得た。上記反応の反応式は以下に示すとおりである:
【0035】
【化10】
【0036】
核磁気共鳴分光により化合物(3)を分析して得られたスペクトルデータは次のとおりである:H NMR(400MHz,ppm,CDCl):2.72(−CH,s),7.38−7.63(aromatic H,13H,m)。液体クロマトグラフィータンデム型質量分析計(LC−MS:liquid chromatography-mass spectrometry)により化合物(3)を分析したところ、m/z=325(M+H)、347(M+Na)および671(2M+Na)の3組のシグナルが測定された(Mは分子量)。
【0037】
次いで、化合物(3)1gを窒素下で反応容器中に入れ、0℃まで降温した。次いで、トリフルオロメタンスルホン酸(trifluoromethanesulfonic acid)15mlをゆっくり加え、約2時間撹拌した。次いで、約18℃まで戻してから、生成物を0℃の脱イオン水中に注ぎ入れたところ、白色の沈殿が析出したのが観察された。次いで、白色の沈殿を回収し、白色の沈殿が中性を呈するまで脱イオン水で繰り返し洗浄した。次いで、得られた白色の沈殿に対して約6時間真空乾燥を行い、ポリマー(1)を収率100%で得た。次いで、ポリマー(1)1gを窒素下で反応容器に入れ、4−メチルピリジン(4-methylpyridine)10mlをゆっくり加えた。室温下で約30分反応させた後、反応容器を150℃に加熱して還流した。5時間撹拌を続けた後、室温まで冷却し、反応溶液を10%塩酸(HCl)含有メタノール溶液200ml中に注ぎ入れたところ、白色の沈殿が析出したのが観察された。次いで、白色の沈殿を回収し、ポリマー(2)を収率98%で得た。上記反応の反応式は以下に示すとおりである:
【0038】
【化11】
【0039】
測定により、ポリマー(1)およびポリマー(2)の数平均分子量は約17,000から19,000ということが分かった。
【0040】
示差走査熱量計(DSC:differential scanning calorimetry)を用いて、得られたポリマー(2)を測定したところ、その融解温度(Tm)が約330℃に達し、かつその降温再結晶化温度(Tcc)が約251℃に達したことがわかった。次いで、赤外分光光度計(FT−IR)でポリマー(2)を測定した。その結果は次の通りであった:IR(cm−1):3023,1593,1472,1388,1090,1006,808。
【0041】
上述したように、本開示に係るポリマー(例えばポリアリーレンスルフィドまたはその塩)は、異なるアリール基が交互に配列する形式でその主鎖構造が構成されるため、結晶性が備わって、該ポリマーの融点が比較的高いものとなり(例えば約330℃以上)、さらには耐熱性、耐化学性、および耐火性が向上する。
【0042】
いくつかの実施形態により本発明を上述のとおり開示したが、本発明はこれによって限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の趣旨および範囲から逸脱しない範囲で、任意の変更および修正を加えることができる。本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲で定義されたものを基準に判断するものとする。
【外国語明細書】
2017197712000001.pdf