【解決手段】液体バインダ組成物であって、当該組成物は、a)1種又は複数種の多官能性エポキシ樹脂と、b)少なくとも1種の熱可塑性ポリマーと、c)アニオン性界面活性剤と、d)水と、を含有し、本質的に有機溶媒を含まない水性分散液である。
請求項1〜4のいずれか一項に記載の液体バインダ組成物であって、前記ポリアリールスルホンポリマーが、2000〜30,000の範囲の分子量及び、示差走査熱分析(DSC)によって測定された、150℃より高いガラス転移温度(Tg)を有する、前記組成物。
請求項9に記載の繊維材料であって、前記バインダ組成物が、前記材料の全重量を基準として1wt%〜20wt%の範囲内の量で存在し、前記材料が液体樹脂に対して浸透性がある、前記繊維材料。
繊維材料の集成体を含む樹脂注入可能なプリフォームであって、該繊維材料が、請求項1に記載のバインダ組成物によって一体に保持され、かつ、前記プリフォーム中のバインダ組成物の量が、前記プリフォームの全重量を基準として10wt%までである、前記プリフォーム。
請求項13に記載の樹脂注入可能なプリフォームであって、前記繊維材料が、織布又は不織布、無作為に配置された繊維の不織層、繊維トウ、糸、組紐、及びそれらの組み合わせより選択される、前記プリフォーム。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示は、プリフォームを作製する繊維材料中に導入される液体バインダ組成物を提供する。該バインダ組成物は環境に優しい方法で塗布することができ、乾燥プリフォームの作製に用いられる繊維材料の取扱い、スリッティング及び賦形を改善することができる。複雑な形状を有するプリフォームの場合、繊維材料中の上記液体バインダ組成物は、プリフォームへの液体マトリクス樹脂の射出の間に、プリフォームがその形状を保持することを可能にする。上記バインダ組成物は、積層操作又は複合材製造、特には、樹脂射出工程を阻害しないことが望ましい。加えて、上記バインダ組成物は、かかるプリフォームに由来して得られる複合材の機械的性能に概して影響を与えるべきものではないのみならず、複合材のガラス転移温度(T
g)を大幅に低下させるべきものでもない。その目的のためには、本開示の液体バインダ組成物は、プリフォーム中に射出されることとなる樹脂マトリクス、特にエポキシ系樹脂と化学的に相溶するように配合される。
【0008】
本開示の液体バインダ組成物は、a)1種又は複数種の多官能性エポキシ樹脂と、b)少なくとも1種の熱可塑性ポリマーと、c)アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、及びそれらの組み合わせより選択される1種又は複数種の界面活性剤と、d)水と、を含有する水性分散液であり、本質的に有機溶媒を含まない。該バインダ組成物には、有機又は無機充填剤及び消泡剤などの任意選択の添加剤もまた、含まれていてよい。
【0009】
液体バインダ組成物は、好ましくは高せん断乳化工程によって製造され、以下の特性を有することができる。すなわち、当該組成物の全重量を基準として、45%〜70%の範囲内の固形分含有量、及び50nm〜10000nmの範囲の粒径分布である。
【0010】
上記乳化工程から製造されたバインダ乳化液は、上記固形分含有量において数週間安定であることが示されており、また、脱イオン水による希釈時に、例えば0.1%〜10%の、より低い固形分含有量の安定な乳化液を生成することができる。従って、上記バインダ乳化液は、該乳化液が十分に希釈され、プリフォームの作製に適した低固形分含有量に達したときに、プリフォームの作製に用いられる繊維材料に塗布することができる。
【0011】
一般的に、多官能性エポキシ樹脂の量及び種類は、高せん断乳化に適合する粘度水準に到達させるため、及び、室温において粘着性を有さず、70℃を超える温度において十分な水準の粘着性を有する、バインダ処理された繊維材料を製造するために十分な量である。熱可塑性物質の性質、数平均分子量、含有量、連鎖末端基又はペンダント基の種類及び含有量は、乳化液のイオン的均衡を崩すことなくバインダ組成物を靭性化するために十分なものであり、また、所望の粘度水準を維持するために選択される。界面活性剤(複数可)の量は、エポキシ/熱可塑性物質混合物を乳化するため、及びバインダ乳化液を安定化させるために十分な量である。
【0012】
一実施形態において、バインダ組成物中の構成成分の相対量は、該組成物の全重量を基準とする重量パーセンテージにおいて、以下の通りである。
0.1〜70%の1種又は複数種の多官能性エポキシ樹脂(複数可)
0.01〜30%の1種又は複数種の熱可塑性ポリマー(複数可)
0.01〜15%の1種又は複数種の界面活性剤(複数可)
0.001〜10%の任意選択の添加剤(複数可)
残余分の水
ここで、任意選択の添加剤としては、ポリシロキサン、フッ化炭素、鉱油、又はアセチレン系消泡剤などの消泡剤が挙げられるが、表面張力を低下させることができる、及び/又は他の手段により泡を崩壊させることができる他の化合物もまた利用することができる。
【0013】
バインダ組成物を製造するためには、上記熱可塑性ポリマー(複数可)及び多官能性エポキシ樹脂(複数可)は、一般的には、初めにこれらを一体に配合し、任意選択で加熱して、熱可塑性ポリマー(複数可)をエポキシ樹脂(複数可)中に分散及び/又は溶解させる。界面活性剤(複数可)及び任意選択の添加剤は、上記樹脂配合物中に添加され、完全に分散されて樹脂混合物を形成する。次に、該樹脂混合物は、混合装置、例えば、再循環加熱システムに接続された開放槽を備える高せん断混合機に投入される。その後、比較的に高い温度で、徐々に水を添加しながら混合が行われ、樹脂混合物を乳化する。あるいは、せん断条件下で、(多くの場合界面活性剤を含有する)水相に、(界面活性剤と共に又は界面活性剤なしで)樹脂が添加される。これは、乳化液製造の直接法と呼ばれる。添加剤は、また、乳化又は繊維基材への塗布の前の希釈ステップの最中若しくはその後に、バインダ組成物に添加されてもよい。
【0014】
一実施形態において、乳化中の高せん断混合機内の温度は90℃〜110℃である。上記温度は、水が取り込まれるように、バインダ組成物がせん断下で均一に撹拌され得ることを確保するのに十分であるべきであるが、反応器中の所与の圧力において、水を急速に沸騰、揮散させる程に高過ぎないようにすべきである。また、上記温度は、組成物の構成成分が、加水分解又はアドバンス化などの望ましくない副反応を起こす程に高くするべきではない。混合機のせん断速度は、初期は低い値に設定され、その後転換点(液中固の混合物がより均質な相になる時点)において、より高いせん断速度が印加され、粒径を低減し、最適な均質化及び乳化液安定性を確保する。乳化の間に十分な量の水が混合機に添加され、所望の固形分含有量及び粘度に到達させる。消泡剤などの追加の添加剤は、繊維製品への塗布の前にバインダ組成物に添加されてもよい。
【0015】
本開示の液体バインダ組成物は、以下を始めとするいくつかの利点を提供する。
(i)水への分散性、従って、該組成物は環境に優しい。
(ii)布帛中の繊維トウを均質に被覆できること、それにより、繊維トウの保全性を高める。
(iii)既存の織物製造プロセスへの適合性。
(iv)樹脂注入に用いられている従来のエポキシ系樹脂マトリクスに対する、十分な水準の接着性/相溶性を提供する。
(v)粉末被覆織物において通常見られる接合性の変動を最小化/排除できること。
(vi)当該液体バインダによって処理された繊維プリフォームから製造される複合材部品の熱的−機械的性能に与える影響が限られる又はないこと。
【0016】
更に、本開示の液体バインダ組成物は、従来の粉末形態のバインダに対するいくつかの利点を提供する。固体形態のバインダは、必要な微細で均一な粉末を製造するための高価な摩砕及びふるい分け装置を必要とするのみならず、繊維材料又は布帛上に該バインダを効果的に塗布するためには、高価な粉体被覆装置を必要とする。更には、粉末の塗布は、繊維材料又は布帛に対して斑で不均一な塗布を供し、積層に望まれる最適な接合特性を与え得ない。粉末は、また、特に自動化された工程における取扱い及び敷設の間に摩擦に供
せられると、繊維基材から容易に剥離する傾向にあり、特定の点における粘着性の欠如に起因する更なる変動及び欠陥をもたらす。これに対して、本開示の水性の乳化された液体バインダ組成物は、高T
gの固体熱可塑性物などの固体成分を、低粘度の有機溶媒を含まない水性組成物中に取り込むことを可能にする。かかる低粘度で溶媒を含まない水性組成物は、すぐに、従来の浸漬工程、ローラー塗布工程又は噴霧工程により容易に均質に塗布することができ、それにより、処理の容易性、自動化の増進、及びコスト削減を始めとする更なる利益を提供する。
【0017】
多官能性エポキシ樹脂
バインダ組成物中の1種又は複数種の多官能性エポキシ樹脂は、エポキシ基が末端基である、分子当たり平均2以上のエポキシ基(オキシラン環)を含有するポリエポキシドである。2官能性エポキシ樹脂は、分子当たり平均で2のエポキシ基を含有するエポキシ樹脂であり、3官能性エポキシ樹脂は、分子当たり平均で3のエポキシ基を含有するエポキシ樹脂であり、4官能性エポキシ樹脂は、分子当たり平均で4のエポキシ基を含有する。好ましい実施形態において、多官能性エポキシ樹脂は、90〜240g/当量の範囲の平均エポキシ当量重量(EEW)を有する。エポキシ当量重量は、エポキシ分子中のエポキシ基の数で除した当該分子の分子量である。従って、例えば、400の分子量を有する2官能性エポキシは、200のエポキシ当量重量を有することとなる。一実施形態において、バインダ組成物は、1種又は複数種の3官能性エポキシ樹脂を始めとする複数種の多官能性エポキシ樹脂を含有する。
【0018】
一般的に、上記バインダ組成物に好適な多官能性エポキシ樹脂は、飽和、不飽和、環状又は非環状、脂肪族、脂環式、芳香族又は複素環式のポリエポキシドであってよい。好適なポリエポキシドの例としてはポリグリシジルエーテルが挙げられ、ポリグリシジルエーテルは、アルカリ存在下でのエピクロロヒドリン又はエピブロモヒドリンのポリフェノールとの反応により製造される。従って、好適なポリフェノールとしては、例えば、レゾルシノール、ピロカテコール、ヒドロキノン、ビスフェノールA(ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン)、ビスフェノールF(ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン)、ビスフェノールS、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、フルオレン4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビスフェノールZ(4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール)、及び1,5−ヒドロキシナフタレンである。また、ポリアルコール、アミノフェノール又は芳香族ジアミンのポリグリシジルエーテルも好適である。
【0019】
用いることができる他の種類のポリエポキシドとしては、エピクロロヒドリンを芳香族又は脂肪族ポリカルボン酸と反応させることによって製造されるグリシジルポリエステル樹脂である。別な種類のポリエポキシド樹脂としては、ポリアミンをエピクロロヒドリンと反応させることにより製造されるグリシジルアミンである。その他の好適な多官能性エポキシ樹脂としては、2以上のエポキシ基を有する多官能性エポキシノボラック樹脂が挙げられる。有用なエポキシノボラック樹脂としては、エポキシクレゾールノボラック及びエポキシフェノールノボラックが挙げられる。更なる好適な多官能性エポキシ樹脂としては、ポリグリシジルエーテル型エポキシ及びソルビトールグリシジルエーテルなどの脂肪族多官能性エポキシが挙げられる。
【0020】
2官能性エポキシ樹脂の例としては、モメンティブ社のエポン(商標)828、ダウ・ケミカル・カンパニー社より供給されるDER(登録商標)331、DER(登録商標)661、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社のタクティクス(登録商標)123などのビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社より入手可能なPY306などのビスフェノールFエポキシのジグリシジルエーテル及び1,2−フタル酸ジグリシジル(例えば、グリセルA−100)が挙げられる。
【0021】
3官能性エポキシ樹脂の例としては、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社から全て入手可能なアラルダイト(登録商標)MY0510、MY0500、MY0600、MY0610などのアミノフェノールのトリグリシジルエーテル、エメラルド・パフォーマンス・マテリアルズ社のイパロイ(登録商標)9000などのトリス−(p−ヒドロキシフェニル)エタン系エポキシ又はモメンティブ社のエポン1031が挙げられる。
【0022】
エポキシノボラックの例としては、ダウ・ケミカル・カンパニー社のDEN(登録商標)354、431、438及び439、エメラルド・パフォーマンス・マテリアルズ社のエリシスRN3650などのレゾルシノール変性フェノールノボラック、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社のタクティクス556及び756などのジシクロペンタジエン系フェノールノボラック、及びモメンティブ社の1050、SU−3及びSU−8が挙げられる。4官能性エポキシ樹脂の例としては、三菱ガス化学社のテトラッド−X、エメラルド・マテリアルズ社のエリシス(登録商標)GA―240及びハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社のアラルダイト(登録商標)MY721が挙げられる。その他のエポキシ樹脂前駆体としては、3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(例えば、ハンツマン社のCY179)などの脂環式が挙げられる。
【0023】
熱可塑性ポリマー
好ましい実施形態において、上記バインダ組成物中の熱可塑性ポリマーは、室温(すなわち、20℃〜25℃)において、又は熱硬化性樹脂の完全な硬化に対して十分ではない条件においては、硬化可能な熱硬化性樹脂系に実質的に不溶であるが、熱硬化性樹脂の硬化サイクル中では、少なくとも部分的な流体相への相転移を起こすことができるポリマーである。換言すれば、上記熱可塑性ポリマーは、室温において又は熱硬化性樹脂の完全な硬化に対して十分ではない条件においては、熱硬化性樹脂への溶解性を有しない(又は無視できる程度の溶解性しか有さない)一方で、熱硬化性樹脂の硬化サイクル中では、その溶解性が十分(すなわち、50%超が溶解する)であるか、又は完全(すなわち、完全に溶解する)である材料である。「熱硬化性樹脂系」とは、バインダ組成物中の多官能性エポキシ樹脂又はプリフォームの作製後にプリフォーム中に射出又は導入される液体マトリクス樹脂をいう。プリフォームへの射出用のマトリクス樹脂は、主成分として1種又は複数種の熱硬化性樹脂を、そして少量の、硬化剤、触媒、粘弾性制御剤、粘着性付与剤、無機又は有機充填剤、エラストマー靭性化剤、靭性化粒子、安定剤、重合禁止剤、顔料/染料、難燃剤、反応性希釈剤、及び硬化前及び硬化後の樹脂系の特性を改変するための、当業者に周知のその他の添加剤などの添加剤を含有する。樹脂注入用の熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ビスマレイミド、ビニルエステル樹脂、シアネートエステル樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ベンズオキサジン、(尿素、メラミン又はフェノールとの)ホルムアルデヒド縮合樹脂、ポリエステル、アクリル、及びそれらの組み合わせが挙げられる。一実施形態において、バインダ組成物中の熱可塑性ポリマーは、エポキシ系マトリクス樹脂に、当該マトリクス樹脂の硬化に際して可溶である。
【0024】
本願において用いられる用語「硬化」とは、化学的添加剤、紫外線照射、マイクロ波照射、電子線、γ線照射又はその他の好適な熱的若しくは非熱的照射によりもたらされるポリマー鎖の架橋による、マトリクス樹脂の硬質化をいう。
【0025】
本文脈で議論される、熱可塑性ポリマーの硬化可能な熱硬化性樹脂系への溶解特性は、光学顕微鏡法、分光学的方法等を始めとするいくつかの公知の方法論により測定することができる。
【0026】
一つの物質が別な物質に対して可溶であることに関しては、それらの溶解度パラメータ
の差(Δδ)が可能な限り小さくあるべきである。ポリマーの溶解度パラメータは、Van Krevelenにより記載された(D.W. Van Krevelen、Properties of Polymers、第3改訂版、Elsevier Scientific Publishing、アムステルダム 1990、第7章、189〜224ページを参照のこと。)、原子団寄与法に基づく計算によって求めることができる。
【0027】
ポリマーの溶解度パラメータは、また、一つの物質が別な物質に溶解して溶液を形成するか否かを予見する方法として、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を用いて求めることもできる。ハンセンパラメータは、「似たものは似たものを溶解する」との考え方に基づき、ここにおいて、一つの分子は、それがそれ自身に対して同様な形態で結合する場合に、「似ている」と定義される。
【0028】
樹脂に可溶な熱可塑性ポリマーの例としては、それらに限定されるものではないが、セルロース誘導体、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリスチレン、ポリエステルアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアラミド、ポリアリレート、ポリアクリレート、ポリ(エステル)カーボネート、ポリ(メタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル)、ポリアリールエーテル、ポリアリールスルホン、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)及びポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を含むポリアリールエーテルケトン(PAEK)、それらの組み合わせ及び共重合体よりなる群の構成要素が挙げられる。
【0029】
特に好ましい熱可塑性ポリマーは、エーテル結合した繰り返し単位及び任意選択でチオエーテル結合した繰り返し単位からなるポリアリールスルホンであって、上記単位が
−(Ph−A−Ph)−
及び、任意選択で
−(Ph)
a−
式中、AはCO又はSO
2であり、Phはフェニレンであり、n=1〜2であって非整数であることができ、aが1を超える場合に、上記フェニレンが単化学結合又は−CO−若しくは−SO
2−以外の2価の基を介して直線的に結合するか、あるいは、直接又は酸アルキル基、(ヘテロ)芳香族、環状ケトン、環状アミド、イミド、環状イミン及びそれらの組み合わせからなる群より選択される環状残基を介して一体に縮合するとの条件で、a=1〜4であって非整数であることができる
より選択される上記ポリアリールスルホンである。
【0030】
更に、上記ポリアリールスルホンは、反応性のペンダント基及び/又は末端基を有してもよい。上記反応性のペンダント基及び/又は末端基は、エポキシ基又は硬化剤との反応性を有する基である。反応性基の例としては、OH、NH
2、NHR’又は−SH、但し、R’は8までの炭素原子を含有する炭化水素基である、などの活性水素を提供する基、あるいは、エポキシ、(メタ)アクリレート、(イソ)シアネート、イソシアネートエステル、アセチレン又はビニル若しくはアリル中のエチレン、マレイミド、無水物、及びオキサゾリンなどの架橋活性を付与する基である。
【0031】
一実施形態において、上記ポリアリールスルホンは、繰り返し単位−(PhSO
2Ph)−を含有し、存在する各ポリマー鎖中に、平均で少なくとも2の該−(PhSO
2Ph)
n−単位が連続するような比率で、該−(PhSO
2Ph)−単位が上記ポリアリールスルホン中に存在し、また、上記ポリアリールスルホンは、上記に議論した反応性のペンダント基又は末端基も含有する。
【0032】
一実施形態において、上記ポリアリールスルホンは、以下の単位
X−PhSO
2Ph−X−PhSO
2Ph (「PES」) (I)及び
X−(Ph)
a−X−PhSO
2Ph (「PEES」) (II)
式中、XはO又はSであって単位毎に異なってもよく、aは1〜4である
を含有する共重合体である。一部の実施形態において、IのIIに対するモル比は、約10:90〜80:20、約10:90〜55:45、約25:75〜50:50、約20:80〜70:30、約30:70〜70:30、又は約35:65〜65:35である。別な実施形態において、PES:PEES共重合体は、反応性アミン末端基を有する。
【0033】
上記に議論したポリアリールスルホンポリマーの数平均分子量は、好ましくは2000〜30,000の範囲、特に3000〜15,000又は3000〜13,000の範囲である。ある実施形態において、上記ポリアリールスルホンポリマーは、示差走査熱分析(DSC)によって測定された、150℃より高いガラス転移温度(T
g)を有する。上記特定のT
gはポリマーの分子量に依存する。
【0034】
界面活性剤
上記バインダ組成物用の界面活性剤(複数可)は、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤又は両方の種類の組み合わせより選択することができる。
【0035】
好適なノニオン性界面活性剤は、親水性ブロック及び疎水性ブロックを含む単官能性又は多官能性ブロック又はグラフトブロック共重合体である。上記ノニオン性界面活性剤は、主鎖残基と、該主鎖の一部であるか、あるいは、実質的に又はそれらの全てが主鎖残基から突出してグラフトを形成してもよく、又はそれらの2種の混合体であってもよい疎水性ブロック及び親水性ブロックを含むことができる。
【0036】
好適な親水性ブロックは、一般的には、多価の親水性ブロック前駆体に由来する。親水性ブロックは、好適には、ポリオール又はポリアミンである親水性ブロック前駆体分子に由来する。好ましい親水性ポリマーはポリエチレンオキシドである。あるいは、所望の水への溶解性の基準を達成するとの条件において、ポリ(エチレン−プロピレンオキシド)又はポリ(エチレン−ブチレンオキシド)を用いてもよい。
【0037】
特に好適なノニオン性界面活性剤は、
以下の式
(EO)
x−(PO)
y−(EO)
z
式中、yに対する(x+z)の比が1.32以上であるとの条件で、x、y、z=整数又は非整数である
で表されるポリオキサマー、
又は式
【化1】
式中、a、b、c、d、e、f、g、hは整数又は非整数である
で表されるポリオキサミンなどの、ブロック共重合体である。
【0038】
上記ノニオン性界面活性剤は、20wt%〜99wt%の範囲内であるエチレンオキシド含有量及び1000g/mol〜100,000g/molの範囲内である数平均分子量を有することによって特徴付けられる。
【0039】
好適なアニオン性界面活性剤は、以下の式
A−R
式中、Rは、4〜50の炭素原子(C
4〜C
50)を有するアルキル、アリール、アリール−アルキル、又はアルキレン鎖であり、Aは、カルボン酸基、又はスルホン酸基、又はリン酸基のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、四級アンモニウムアミン塩である
によって特徴付けられる。
【0040】
アニオン性界面活性剤のより詳細な例としては、それらに限定されるものではないが、アルキルアリールスルホネート、ジオクチルスルホサクシネートのナトリウム塩、ラウリルスルホネート、脂肪酸塩、エトキシレートホスフェートなどの脂肪族アルコール、及び第2級アルキルスルホン酸塩(SAS)の分類が挙げられ、これらの界面活性剤は、第2級スルホン酸塩基を含有し、低泡立特性を示す。
【0041】
任意選択の添加剤
上記バインダ組成物は、アミノプラスト、フェノール樹脂、アズラクトン、アジリジン、及びブロック化イソシアネートなどの追加の架橋剤、並びに、消泡剤、防かび剤、粘弾性制御剤、粘着性付与剤、無機又は有機のミクロ又はナノフィラー、エラストマー又は熱可塑性靭性化剤、靭性化粒子、安定剤、重合禁止剤、顔料/染料、難燃剤、反応性希釈剤、及び、乳化、繊維材料に対する塗布、マトリクス樹脂の注入及び硬化の前及び最中のバインダの特性を改変するための、当業者に周知のその他の添加剤などの、任意選択の添加剤を更に含んでもよい。好適な消泡剤としては、それらに限定されるものではないが、アセチレンジオール、シリコーン、及び鉱油が挙げられる。ナノフィラーの例としては、それらに限定されるものではないが、本技術分野において、ナノシリカ、ポリ多面体シルセスキオキサン(POSS)、カーボンナノチューブ(CNT)、窒化ホウ素ナノチューブ、カーボンナノ粒子、カーボンナノファイバー、窒化ホウ素ナノファイバー、カーボンナノロープ、窒化ホウ素ナノロープ、カーボンナノリボン、窒化ホウ素ナノリボン、カーボンナノフィブリル、窒化ホウ素ナノフィブリル、カーボンナノニードル、窒化ホウ素ナノフィブリル、カーボンナノシート、カーボンナノロッド、窒化ホウ素ナノロッド、カーボンナノコーン、窒化ホウ素ナノコーン、カーボンナノスクロール、窒化ホウ素ナノスクロール、カーボンナノオーム、窒化ホウ素ナノオーム、グラファイトナノプレートレット又はナノドット、グラフェン、チョップド/短炭素繊維、カーボンブラックと呼ばれる成分又はそれらの組み合わせであって、部分的若しくは全ての金属被覆を有する又は有しないもの、あるいは他のフラーレン材料並びにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0042】
任意選択の添加剤は、存在する場合、組成物の全重量を基準として15%未満を構成する。
【0043】
繊維材料及びプリフォームの作製
本願において企図されるのは、繊維材料であって、その中に分散した又はその上に非覆された、1wt%〜190wt%の上記バインダ組成物を含む繊維材料である。
【0044】
プリフォームの作製において、繊維の層又は布帛の積み重ねは、乾燥状態で積層配置に積層される。場合により、繊維層を一定の大きさにする切断又はスリッティングが積層操作の前に必要である。その後、RTMなどの液体注入工程において、積層された材料にマトリクス樹脂が注入され、注入されたプリフォームは硬化され、硬質化された複合材部品を形成する。
【0045】
本願において開示される液体バインダ組成物は、プリフォームの積層の前又は最中のいずれかに、希望に応じて繊維材料全体に分散するか、あるいは表面被覆として供給することができる。表面被覆は、プリフォームの積層に用いられる繊維層(例えば、布帛プライ
)の片側又は両側に塗布することができる。供給方法としては、噴霧、液体浸漬、ローラー被覆、又は電着とすることができる。電着は、繊維材料が例えば炭素繊維などの導電性繊維からなる場合に可能である。好ましくは、液体バインダ組成物は、表面被覆として繊維材料に供給される。プリフォーム中のバインダの含有量は、プリフォームの全重量を基準として約20wt%以下、一部の実施形態においては2wt%〜10wt%である。プリフォームは、その浸透性によって、樹脂注入によって液体樹脂を受容するように構成される。これは、従来のプリプレグ積層工程において用いられる樹脂含浸プリプレグプライと対照的であり、該プリプレグプライは、一般的には20wt%〜50wt%のマトリクス樹脂を含有する。
【0046】
一部の例において、非常に軽量、且つより高い浸透性を有する繊維製品に対して、より高いバインダ含有量を適用し、特定の結着性能を達成することがある。例えば、5gsm〜20gsm(平方メートル当たりのグラム)の坪量を有する製品は、50wt%までのバインダを有し得るところ、5gsm未満の坪量及び200cc/cm
2/秒を超える通気値を有する繊維製品は、70wt%までのバインダを含有し得る。
【0047】
バインダ含有繊維層は、乾燥しており、可撓性があり、予め成形可能な繊維製品であり、そのより長い保存寿命並びにより複雑な幾何形状に対する適用性及び狭い半径周りの可撓性により、標準的なプレプリグ材料に対して顕著な利点を提供することができる。バインダが存在することにより、切断/スリッティング及び積層ステップの間における繊維の結束及び繊維材料の保全性が確保される。切断又はスリッティングの間に、繊維層中のバインダ被覆又は分布は、プロセス速度及び処理能力に劇的に影響し得る、毛羽立った縁部の発生を防止する。
【0048】
プリフォーム形成用の繊維材料は、方向性をもつ又は非方向性の引き揃えられたチョップド繊維又は連続繊維、織布又は不織布、編成布帛、不織マット、スクリム、メッシュ、組紐、糸、又はトウの形態をとり得る。不織布は、ノンクリンプ布帛(NCF)を包含し、NCFは一体に縫い付けられた一方向トウを含有する。上記トウは、互いに接触していてもよいし、又は、トウ間に間隙が存在し、それ故に材料中に浸透性を付与するように、互いに接触していなくてもよい。「トウ」は繊維糸の束であり、繊維糸の数は数千であり得る。不織マットは、バインダ、すなわち本願に開示される液体バインダにより一体に保持される、無作為に配置された繊維から形成される。不織マット中の繊維は、チョップド繊維であっても、又は連続繊維ストランドのスワールであってもよい。
【0049】
1〜2000gsmの坪量を有する、市販の製織又は不織繊維製品すなわち布帛が好適である。布帛中の繊維は、任意の有機又は無機繊維及びそれらの混合物であってよい。有機繊維としては、アラミド繊維、金属化ポリマー繊維(ここで、当該ポリマーは樹脂マトリクスに可溶又は不溶であることができる。)、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維若しくは無機繊維又はそれらの組み合わせが挙げられる。無機繊維としては、「E」、「A」、「E−CR」、「C」、「D」、「R」、「S」若しくは石英繊維などのガラス繊維、又はアルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、金属化ガラス、その他のセラミック材料又は金属からなる繊維が挙げられる。強化繊維として特に好適なものは、グラファイト繊維を始めとする炭素系繊維である。グラファイト繊維又は炭素繊維は、(不連続又は連続の金属層により)金属化されていてもよい。市販のグラファイト繊維の例としては、取引上の表示T650−35、T650−42及びT300としてサイテック社により供給されるもの、取引上の表示T1000及びT800−Hとして東レ社により供給されるもの、取引上の表示AS4、AU4、IM9、IM8及びIM7としてヘクセル社より供給されるもの、及び商標IM60として東邦テナックス社より供給されるものが挙げられる。
【0050】
最も基本的な積層方法は手作業での積層であるが、これは非常に労働集約的である。従
って、自動テープ敷設(automated tape laying)(ATL)又は自動繊維配置(automated fiber placement)(AFP)などの自動積層工程により乾燥プリフォームを作製することが、より効率的となる。自動テープ敷設(ATL)及び自動繊維配置(AFP)は、コンピュータ誘導式ロボット工学を用いて1層又は数層の繊維テープ又はトウを型表面上に敷設し、構造体の部品を創り出す。
【0051】
自動繊維配置(AFP)は、「トウ」の形態の繊維を、製造すべき複合材部品の形状を規定する成形用具の表面上に敷設することを伴う。トウは繊維糸からなり、通常はスプールに巻回されている。トウは、コンピュータ制御の下に成形用具に対して相対的に移動する繊維配置ヘッドにより、一連の隣接したストリップとして用具の表面上に敷設され、該ヘッドが用具上にトウの層を構築しつつ積層体を形成する。トウは、トウが敷設される際にトウを成形用具に対して圧縮するための、繊維配置ヘッド上のローラーを通して供給される。配置ヘッドは、トウが敷設される際にイン・サイチュ接合を行うための加熱手段を備えてもよい。
【0052】
自動テープ敷設(ATL)は、単独のトウよりもむしろテープが連続的に敷設されて部品を形成する、一層迅速な自動化工程である。テープは、例えば約数インチ幅から1/4インチという小さい幅までの範囲の幅の、狭い幅を有する繊維材料の長尺ストリップである。テープ付設用のヘッドは、テープの単一又は複数のスプール、巻取機、巻取誘導機、圧縮シュー、位置センサー及びテープカッター又はスリッターを備えてもよい。ヘッドは、材料が宛がわれる成形用具又はマンドレルの周囲を移動する多軸関節ロボットの端部に位置してもよく、又は、ヘッドは、用具の上方に懸垂されるガントリー上に位置してもよい。あるいは、用具又はマンドレルが移動又は回転し、ヘッドが用具の異なる区画へ接近することができる。テープは、経路に沿って用具に宛がわれ、該経路は、1列の任意の長さ、任意の角度の材料からなる。通常は、ある面積又はパターン上に複数の経路が一体に宛がわれ、機械制御ソフトウェアによって規定及び制御される。
【0053】
ATLは、一般的に、平坦な部品又は緩やかな湾曲を有する部品を製造するのに用いられ、一方、AFPは、より複雑な表面幾何形状を有する部品を製造するのに用いられる。上述のような自動化操作は、従来の手作業での積層技法よりもより精緻且つより効率的である傾向にある。
【0054】
かかる自動化工程に関連する技術的課題としては、スリッティング、取扱い及び敷設段階の間に、繊維層に対して結束及び保全性を付与することができるバインダ組成物が必要なことである。本願に開示される液体バインダ組成物は、ATL及びAFPに関する物理的、熱的−機械的及び工程的な要件を満たすものと考えられる。
【0055】
ATL及びAFP工程によりプリフォームを形成するためには、乾燥状態の繊維材料はそれぞれテープ及びトウの形態である。本願に開示される液体バインダ組成物の一つの用途は、ATL向けのバインダ被覆されたテープ又はAFP向けのバインダ被覆されたトウを形成することである。ATL向けのテープを作製するためには、液体バインダが乾燥状態の布帛の片面又は両面に(例えば噴霧により)塗布されてもよく、その後、バインダが被覆された布帛は長尺テープへとスリットされる。バインダの存在が、スリッティング工程の間に繊維材料の結束を維持することを助け、ほつれを防止する。AFPによってプリフォームを形成するためには、敷設工程の前に、繊維トウが個々に液体バインダ組成物によって被覆される。バインダ被覆は、テープ及びトウが敷設工程の間に静止位置に留まるように、粘着性を付与する。従って、バインダ被覆は、最初に敷設されるテープ又はトウの成形用具表面への粘着を促進し、並びに、その前に敷設されたテープ又はトウへの接合も容易にする。
【0056】
まとめると、本開示の液体バインダ組成物により被覆された繊維材料又は布帛に関連する利点としては、
(i)広範な温度(例えば70℃〜210℃)及び圧力水準(例えば10N〜1500N)における自己接合性(又は粘着性)、
(ii)室温において粘着性をもたない被覆繊維材料、
(iii)良好な面内及び厚さ方向の空気/樹脂浸透性、
(iv)収縮なしに限定される、
(v)スリッティング及び敷設工程ステップの間における抗ほつれ性(すなわち、過度の縁部の毛羽立ちがない)
が挙げられる。
【0057】
実施例
以下の例は、代表的なバインダ組成物及び製造方法を更に例証するために提示されるものであり、本発明を限定するものとして理解されるべきではなく、本発明は添付の特許請求の範囲に記述される。
【0058】
例1
液体バインダ組成物を表1に示す組成に基づいて調製した。全ての量は重量パーセンテージ(wt%)による。
【表1】
【0059】
アニオン性界面活性剤のアルキルアリールスルホネートは、連鎖延長された、エトキシ化された天然の脂肪族二酸に基づく。ポリオキサマーノニオン性界面活性剤は、8000〜18000Daの範囲の平均分子量を有する、ポリエチレンオキシド(PEO)とポリプロピレンオキシド(PPO)とのAB型ブロック共重合体である。ポリオキサミンノニオン性界面活性剤は、概略18000〜25000Daの平均分子量を有する、アルコキシ化された脂肪族ジアミンである。
【0060】
ノニオン性界面活性剤に関しては、ポリエチレンオキシドブロックが親水性を有する一方、ポリプロピレンオキシドブロックが強い疎水性及びより良好なバインダ組成物との親和性を確保し、それによって分散の安定性を向上させる。
【0061】
均質な溶融配合物を形成するために熱を掛けながら、熱可塑性ポリマーをエポキシ樹脂中に溶解させることにより、液体バインダ組成物を調製した。次に、界面活性剤の混合物を上記溶融配合物に添加し、得られた混合物を、再循環加熱システムに接続された開放槽を備え、300〜5500rpmのせん断速度範囲で稼働するVMA社Dispermat CN30高せん断混合装置の槽に投入した。次に、表2に示す工程条件に従って、上記混合物を混合機中で乳化した。
【表2】
【0062】
初期には、脱イオン水を徐々に添加しつつ、混合を比較的に低速度に設定した。転換点に至るまで、生じた混合物中への水の分散性を連続的に監視し、転換点においてより高いせん断速度を印加し、粒径を低減し、最適な均質化及び乳化液安定性を確保した。次に、十分な量の脱イオン水を乳化液に添加し、目標の固形分含有量に到達させた。典型的な乳化液の物性を表3に示す。
【表3】
【0063】
動的粘度は、標準法であるDIN EN ISO3219に準拠して、ボーリン粘度計を用い、室温において25s
-1のせん断速度で測定した。粒径分布は、Malvern Nanosizer Sを用い、0.6nm〜6000nmの範囲で運転を行って測定した。
【0064】
例2
例1に記載のバインダ組成物を用いて、概略200gsmの、縫い付け留めされた一方
向ノンクリンプポリエステル布帛(Saertex社、ドイツ)を浸漬被覆した。
【0065】
比較の目的で、多数の市販のバインダも用いて、同一の一方向ノンクリンプ布帛のシートを浸漬被覆した。FILCO 8004(EP1)及び345HP(EP2)は、それぞれ63%及び53%の固形分を有する、2種類の水中エポキシ乳化液である(COIM社(イタリア)より入手可能)。HYDROSIZE PA845(PA1)及びU2022(PU1)は、それぞれ23%の固体ポリアミド4,6及び59%の固体ポリウレタンの水中分散液である(Michelman社(米国)より入手可能)。NEOXIL NX962D(EP3)は、54%固形分ビスフェノールA系エポキシの水中乳化液である(DSMより入手可能)。
【0066】
全てのバインダ被覆された布帛を、100℃にて3分間、更に130℃にて4分間オーブン中で乾燥した。
【0067】
バインダ被覆された布帛を、ドレープ性、抗ほつれ性、収縮、及び自己接合性に関して評価した。
【0068】
ドレープ性は、350×350mmの被覆した布帛を、円錐形の治具(高さ=86mm、内径=120mm、外径=310mm)上で、145℃で(室温からの温度傾斜率が3℃/分)1分間、減圧下(試験中を通して60mmHgの減圧)で加熱ドレープを行うこと、及び折り目の数を計測することにより測定した。6以下の折り目を与えた材料を優れる(excellent)(E)と見なし、7〜12の折り目の結果となった材料を容認可(acceptable)(A)と見なし、一方、12を超える折り目が発生した材料を容認不可(unacceptable)(U)と見なした。抗ほつれ性は、4区画(送り出し、摩擦ローラー、キャッチプレート及び巻取機)を有し、20m/分の速度で稼働する、開発した張力制御毛羽立ち試験機で測定した。5分の間にキャッチプレート上に蓄積した毛羽の量を秤量し、それに応じて材料の階位付けを行った。毛羽は、摩擦ローラーと擦れるトウにより発生し、キャッチプレートによって捕集される細片である。500mgを超える毛羽の結果となった材料を容認不可(U)と見なし、200mgと500mgの間を発生した材料を容認可(A)と見なし、一方、200mg未満の毛羽しか発生しなかった材料を優れる(E)と見なした。収縮は、(100℃で3分間+130℃で4分間)熱処理した後の、未被覆及びバインダ被覆された布帛の幅を測定することによって求めた。1%未満の収縮の結果であった材料を優れる(A)と見なし、1〜2%の収縮を起こした材料を容認可(B)と見なし、一方、2%を超える収縮を起こした材料を容認不可(C)と見なした。自己接合性は、100℃の温度で5秒間、圧縮ローラーを用いて10Nの圧力を印加することによって測定した。結果を表4に示す。
【表4】
【0069】
市販のエポキシ系バインダ(EP1、EP2及びEP3)並びに熱可塑性物系バインダ(PA1及びPU1)のいずれもが、評価した布帛の物理的パラメータを最大化させることに対して有効ではないことが判明した。市販バインダで被覆された布帛の殆どに対して、良好な水準のドレープ及び限定的な水準の収縮が測定されてはいるが、トウの保全性に対する実質的な効果は観察されず、これに相当した水準の毛羽立ちが観測された。PU1及びEP3のみが、3wt%で塗布された際に、非常に限定的な自己接合性を示した。
【0070】
対照的に、例1に記載のバインダ組成物(1a〜1h)が一方向乾燥布帛に塗布された場合には、優れた抗毛羽立ち性及びドレープ性、良好な自己接合性能、並びに収縮なしが観測された。加えて、バインダ含有量を10wt%まで増加させることにより、自己接合性能を更に向上させることができることが見出された。
【0071】
例3
相対比較の例−種々の繊維製品の接合性に対するバインダ組成物の効果
【0072】
例1に記載のバインダ組成物(1d)を用いて、3gsm(平方メートル当たりのグラム)のフィルム重量の不織炭素繊維ベールを浸漬被覆した。バインダ被覆されたベールを、オーブン中、130℃で4分間乾燥及び安定化させた。開示したバインダ組成物の3gsmでの塗布により、それぞれの炭素繊維上に均質な被覆が生成し、2本又はそれ以上の繊維の交点にミクロンサイズの樹脂に富むポケットが生み出された。
図1は被覆された炭素繊維ベールの顕微鏡写真を示す。
図1において、輝く被覆及び繊維間の膜によって示される、均質な被覆を見ることができる。
【0073】
複数の一方向の東邦テナックスIMS65炭素繊維を、上記被覆されたベール上の所定の位置に一方向に保持し、その集成体を概略90〜100℃の温度で数秒間ローラーニップを通すことにより、概略10Nの圧力に供し、製品の接合性及び安定性を評価した。上
記集成体は、狭い角度であっても、また、低圧縮力に供した場合であっても優れた安定性を示し、且つその構造を維持することができることを示すことが見出された。
【0074】
比較のために、同一の炭素繊維ベールの試料を、例2の市販バインダ(EP1、EP2、EP3,PA1、PU1)を同様のバインダ含有量(約4〜10gsm)で用いて被覆した。複数の炭素トウを、上記のそれぞれの被覆されたベール上の所定の位置に一方向に保持し、該集成体を上記に議論したものと同一の試験に供した。評価した、市販バインダに基づく集成体のいずれもが、十分な水準の接合性を達成しなかった。
【0075】
例4
例1に記載の各バインダ組成物(1a〜1h)を用いて、例2に記載の同一の一方向のノンクリンプ布帛を室温で浸漬被覆した。その後、被覆された布帛を、オーブン中、100℃で3分間、更に130℃で4分間乾燥した。
【0076】
次に、各バインダ被覆されたノンクリンプ布帛をより小さなプライに切断し、該プライを段積配列に敷設して積層体を形成した。次に該積層体を、オーブン中、130℃で30分間予備成形し、これにPrism(登録商標)EP2400(サイテック・エンジニアード・マテリアルズ社より入手可能な靭性化エポキシ系)を注入した。注入されたプリフォームを180℃で2時間硬化した後、55%〜57%の範囲のVf(繊維容積分率)を有するパネル(5a〜5h)が製造された。
【0077】
比較の目的のために、同一の未処理(未被覆)の一方向ノンクリンプ布帛を用いて、その他は同一の試験パネル(コントロール1)を調製した。全てのパネルについて、0方向圧縮弾性率(0CM)及び0方向圧縮強さ(0CS)並びに層間せん断強さ(ILSS)を始めとする種々の機械的試験を実施し、結果を下記表5に示す。
【表5】
【0078】
例1に記載のバインダ組成物(1a〜1h)の塗布は、複合材の機械的性能に対して実質的に中立であり、一部の場合において、該性能に対して有益であることが判明した。未修飾の基準線(コントロール1)との比較における、ガラス転移温度(T
g)の若干の低下も観測された。