特開2017-199032(P2017-199032A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ デクセリアルズ株式会社の特許一覧

特開2017-199032配向フィルムおよびその製造方法、ならびに位相差フィルムおよびその製造方法
<>
  • 特開2017199032-配向フィルムおよびその製造方法、ならびに位相差フィルムおよびその製造方法 図000003
  • 特開2017199032-配向フィルムおよびその製造方法、ならびに位相差フィルムおよびその製造方法 図000004
  • 特開2017199032-配向フィルムおよびその製造方法、ならびに位相差フィルムおよびその製造方法 図000005
  • 特開2017199032-配向フィルムおよびその製造方法、ならびに位相差フィルムおよびその製造方法 図000006
  • 特開2017199032-配向フィルムおよびその製造方法、ならびに位相差フィルムおよびその製造方法 図000007
  • 特開2017199032-配向フィルムおよびその製造方法、ならびに位相差フィルムおよびその製造方法 図000008
  • 特開2017199032-配向フィルムおよびその製造方法、ならびに位相差フィルムおよびその製造方法 図000009
  • 特開2017199032-配向フィルムおよびその製造方法、ならびに位相差フィルムおよびその製造方法 図000010
  • 特開2017199032-配向フィルムおよびその製造方法、ならびに位相差フィルムおよびその製造方法 図000011
  • 特開2017199032-配向フィルムおよびその製造方法、ならびに位相差フィルムおよびその製造方法 図000012
  • 特開2017199032-配向フィルムおよびその製造方法、ならびに位相差フィルムおよびその製造方法 図000013
  • 特開2017199032-配向フィルムおよびその製造方法、ならびに位相差フィルムおよびその製造方法 図000014
  • 特開2017199032-配向フィルムおよびその製造方法、ならびに位相差フィルムおよびその製造方法 図000015
  • 特開2017199032-配向フィルムおよびその製造方法、ならびに位相差フィルムおよびその製造方法 図000016
  • 特開2017199032-配向フィルムおよびその製造方法、ならびに位相差フィルムおよびその製造方法 図000017
  • 特開2017199032-配向フィルムおよびその製造方法、ならびに位相差フィルムおよびその製造方法 図000018
  • 特開2017199032-配向フィルムおよびその製造方法、ならびに位相差フィルムおよびその製造方法 図000019
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-199032(P2017-199032A)
(43)【公開日】2017年11月2日
(54)【発明の名称】配向フィルムおよびその製造方法、ならびに位相差フィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20171006BHJP
   G02F 1/13363 20060101ALI20171006BHJP
【FI】
   G02B5/30
   G02F1/13363
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-148846(P2017-148846)
(22)【出願日】2017年8月1日
(62)【分割の表示】特願2016-19669(P2016-19669)の分割
【原出願日】2011年8月24日
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】特許業務法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田桐 広和
(72)【発明者】
【氏名】星 光成
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 眞哉
(72)【発明者】
【氏名】野崎 治朗
(72)【発明者】
【氏名】片倉 等
【テーマコード(参考)】
2H149
2H291
【Fターム(参考)】
2H149AA02
2H149AA20
2H149AB18
2H149DA01
2H149DB03
2H149FA24Y
2H291FA30X
2H291FC01
2H291FC41
2H291HA06
2H291HA09
2H291HA11
2H291HA15
2H291MA01
2H291PA50
2H291PA84
2H291PA87
(57)【要約】
【課題】プロセスステップを削減しつつ、フィルム基材の寸法を安定させることの可能な配向フィルムおよび位相差フィルム並びにそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】ナノメータオーダの微細な線状の凹凸を表面に有する原盤を、基材フィルムのガラス転移温度よりも低い温度で、基材フィルムの表面に直接、押圧することにより、基材フィルムの表面に、原盤の凹凸に対応するパターンを転写する。これにより、基材フィルムの内部に、面内方向の成形歪みを残留させずに、凹凸を形成する。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノメータオーダの微細な線状の凹凸を表面に有する原盤を、基材フィルムのガラス転移温度よりも低い温度で、前記基材フィルムの表面に直接、押圧し、それにより、前記基材フィルムの表面に、前記原盤の凹凸に対応するパターンを転写する
配向フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記基材フィルムは、単層または積層の樹脂フィルムである
請求項1に記載の配向フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記基材フィルムは、面角が136度のダイヤモンド格子を、当該基材フィルムの表層の塑性変形領域に達する程度の力で当該基材フィルムの表面に押し込んだ後、押し込み力を解除したときに当該基材フィルムに残存する塑性変形量が以下の式を満たす材料からなる
請求項2に記載の配向フィルムの製造方法。
Dp≧0.25×Dmax
Dp:押し込み力を解除したときに当該基材フィルムに残存する塑性変形量
Dmax:前記ダイヤモンド格子を1mNの力で前記基材フィルムの表面に押し込んだときの最大押し込み変形量
【請求項4】
前記原盤の凹凸は、第1方向に延在した第1凹凸を含む複数の第1領域と、前記第1方向と交差する第2方向に延在した第2凹凸を含む複数の第2領域とを有し、
前記第1領域および前記第2領域は、それぞれ帯状となっており、かつ交互に配置されている
請求項2に記載の配向フィルムの製造方法。
【請求項5】
ナノメータオーダの微細な線状の凹凸を表面に有する原盤を、基材フィルムのガラス転移温度よりも低い温度で、前記基材フィルムの表面に直接、押圧することにより、前記基材フィルムの表面に、前記原盤の凹凸に対応するパターンを転写する第1ステップと、
前記パターンを有する基材フィルムの表面に直接、液晶性モノマーを含む溶液を配置して、液晶性モノマーを配向させたのち、配向した後の液晶性モノマーを重合させる第2ステップと
を含む位相差フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、液晶性モノマーなどを配向させる配向フィルムおよびその製造方法に関する。また、本技術は、光の偏光状態を変化させる位相差フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、偏光眼鏡を用いるタイプの立体映像表示装置として、左目用画素と右目用画素とで異なる偏光状態の光を射出させるものがある。このような表示装置では、視聴者が偏光眼鏡をかけた上で、左目用画素からの射出光を左目のみに入射させ、右目用画素からの射出光を右目のみに入射させることにより、立体映像の観察を可能とするものである。
【0003】
例えば、特許文献1では、左目用画素と右目用画素とで異なる偏光状態の光を射出させるために位相差フィルムが用いられている。この位相差フィルムでは、一の方向に遅相軸を有する位相差領域が左目用画素に対応して設けられ、上記位相差領域とは異なる方向に遅相軸を有する位相差領域が右目用画素に対応して設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3360787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の位相差フィルムは、例えば、以下のようにして形成することが可能である。まず、フィルム基材の表面に、易接着層を介して紫外線硬化樹脂を塗布し、塗布した紫外線硬化樹脂に形状を転写することにより、フィルム基材上に配向膜を有する配向フィルムを形成する。次に、その配向フィルムの上に液晶性モノマーを塗布し、それを加熱し、硬化させることにより、配向フィルム上に位相差層を有する位相差フィルムを形成する。このように、位相差フィルムの形成には多くのプロセスステップが必要である。
【0006】
近年、プロセスステップを削減するために、例えば、溶融押出法により、フィルム基材に直接、配向機能を有する形状を付与する試みが行われている。しかし、溶融押出法では、冷却時の成形歪みがフィルム基材の内部に在留するので、成形後、時間の経過とともにフィルム基材が寸法収縮を起こす。寸法収縮の長期的な進行は、位相差フィルムが表示装置に搭載されてからも、位相差領域と画素との相対的な位置関係が変化することを意味しており、立体視性能を著しく阻害し、商品性を損ねる危険性を孕んでいる。従って、少なくとも、位相差フィルムの表示装置への搭載後には、フィルム基材の寸法が安定していることが求められる。このように、溶融押出法では、プロセスステップを削減することができるものの、フィルム基材の寸法が安定していないという問題があった。
【0007】
本技術はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、プロセスステップを削減しつつ、フィルム基材の寸法を安定させることの可能な配向フィルムの製造方法および位相差フィルムの製造方法を提供することにある。また、第2の目的は、そのような方法で形成された配向フィルムおよび位相差フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本技術による配向フィルムの製造方法は、ナノメータオーダの微細な線状の凹凸を表面に有する原盤を、基材フィルムのガラス転移温度よりも低い温度で、基材フィルムの表面に直接、押圧し、それにより、基材フィルムの表面に、原盤の凹凸に対応するパターンを転写するステップを含むものである。
【0009】
本技術による位相差フィルムの製造方法は、以下の2つのステップを含むものである。
(A1)ナノメータオーダの微細な線状の凹凸を表面に有する原盤を、基材フィルムのガラス転移温度よりも低い温度で、基材フィルムの表面に直接、押圧することにより、基材フィルムの表面に、原盤の凹凸に対応する第1パターンが転写された配向フィルムを形成する第1ステップ
(A2)前記配向フィルムの表面に直接、液晶性モノマーを含む溶液を配置して、液晶性モノマーを配向させたのち、配向した後の液晶性モノマーを重合させる第2ステップ
【0010】
本技術による配向フィルムの製造方法および本技術による位相差フィルムの製造方法では、ナノメータオーダの微細な線状の凹凸を表面に有する原盤が、基材フィルムのガラス転移温度よりも低い温度で、基材フィルムの表面に直接、押圧される。これにより、基材フィルムの内部に、面内方向の成形歪みを残留させずに、凹凸を形成することが可能となる。また、基材フィルムに配向膜を形成する場合よりも少ないプロセスステップで配向フィルムを形成することができる。
【0011】
本技術による配向フィルムは、ナノメータオーダの微細な線状の凹凸を基材フィルムの表面に有している。上記の凹凸は、当該凹凸に対応するパターンを表面に有する原盤を、基材フィルムのガラス転移温度よりも低い温度で、基材フィルムの表面に直接、押圧することにより形成されたものである。
【0012】
本技術による位相差フィルムは、ナノメータオーダの微細な線状の凹凸を表面に有する配向フィルムと、配向フィルムの表面に直接、接するとともに、配向フィルムの凹凸に応じた遅相軸を有する位相差層とを備えている。上記の凹凸は、当該凹凸に対応するパターンを表面に有する原盤を、基材フィルムのガラス転移温度よりも低い温度で、基材フィルムの表面に直接、押圧することにより形成されたものである。
【0013】
本技術による配向フィルムおよび本技術による位相差フィルムでは、ナノメータオーダの微細な線状の凹凸を表面に有する原盤を、基材フィルムのガラス転移温度よりも低い温度で、基材フィルムの表面に直接、押圧することにより配向フィルムが形成されている。そのため、配向フィルムの内部に、面内方向の成形歪みがほとんど残留していない。また、本技術では、凹凸が基材フィルムの表面に直接、形成されている。そのため、基材フィルム上に配向膜を形成する場合よりも少ないプロセスステップで配向フィルムが形成されている。
【発明の効果】
【0014】
本技術による配向フィルムの製造方法および本技術による位相差フィルムの製造方法によれば、基材フィルムの内部に、面内方向の成形歪みをほとんど残留させずに、凹凸を形成するとともに、少ないプロセスステップで配向フィルムを形成することができるようにしたので、プロセスステップを削減しつつ、フィルム基材の寸法を安定させることができる。また、上記の方法を用いることにより、従来よりも少ないプロセスステップでフィルム基材の寸法の安定した配向フィルムおよび位相差フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本技術による一実施の形態に係る表示装置の構成の一例を偏光眼鏡と共に表す斜視図である。
図2図1の表示装置の内部構成の一例を表す断面図である。
図3図2の位相差フィルムの構成の一例を表す斜視図である。
図4】基材フィルムの塑性変形量の計測方法について説明するための図である。
図5】実施例に係る基材フィルムの塑性変形量の一例を表す図である。
図6】比較例に係る基材フィルムの塑性変形量の一例を表す図である。
図7図3の配向フィルムの構成の一例を表す斜視図である。
図8図3の位相差層の遅相軸の一例を表す図である。
図9図3の右目用位相差領域および左目用位相差領域の遅相軸の一例を他の光学部材の遅相軸または透過軸と共に表す概念図である。
図10図1の偏光眼鏡の右目用光学素子および左目用光学素子の構成の一例を表す斜視図である。
図11図7の配向フィルムの製造方法の一例を表す図である。
図12図3の位相差フィルムの製造方法の一例を表す図である。
図13図1の表示装置の映像を右目で観察する際の透過軸および遅相軸の一例について説明するための概念図である。
図14図1の表示装置の映像を右目で観察する際の透過軸および遅相軸の他の例について説明するための概念図である。
図15図1の表示装置の映像を左目で観察する際の透過軸および遅相軸の一例について説明するための概念図である。
図16図1の表示装置の映像を左目で観察する際の透過軸および遅相軸の他の例について説明するための概念図である。
図17】実施例および比較例に係る配向フィルムの寸法変化率の一例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態
1.1 表示装置の構成
1.2 偏光眼鏡の構成
1.3 製造方法
1.4 基本動作
1.5 効果
2.変形例
【0017】
<1.実施の形態>
[1.1 表示装置1の構成]
図1は、本技術による一実施の形態に係る表示装置1を、後述する偏光眼鏡2とともに斜視的に表したものである。図2は、図1の表示装置1の断面構成の一例を表したものである。表示装置1は、偏光眼鏡2を眼球の前に装着した観察者(図示せず)に対して立体映像を表示する偏光眼鏡方式の表示装置である。この表示装置1は、バックライトユニット10、液晶表示パネル20および位相差フィルム30をこの順に積層して構成されたものである。この表示装置1において、位相差フィルム30の表面が映像表示面1Aとなっており、観察者側に向けられている。
【0018】
なお、本実施の形態では、映像表示面1Aが垂直面(鉛直面)と平行となるように表示装置1が配置されている。映像表示面1Aは、例えば長方形状となっており、映像表示面1Aの長手方向が、例えば水平方向(図中のy軸方向)と平行となっている。観察者は偏光眼鏡2を眼球の前に装着した上で、映像表示面1Aを観察するものとする。偏光眼鏡2は円偏光タイプであり、表示装置1は円偏光眼鏡用の表示装置である。
【0019】
(バックライトユニット10)
バックライトユニット10は、液晶表示パネル20を背後から照明するものであり、例えば、反射板、光源および光学シート(いずれも図示せず)を有している。反射板は、光源からの射出光を光学シート側に戻すものであり、反射、散乱、拡散などの機能を有している。光源は、例えば、複数の線状光源が等間隔で並列配置されたり、複数の点状光源が2次元配列されたりしたものである。なお、線状光源としては、例えば、熱陰極管(HCFL;Hot Cathode Fluorescent Lamp)、冷陰極管(CCFL;Cold Cathode Fluorescent Lamp)などが挙げられる。点状光源としては、例えば、発光ダイオード(LED;Light Emitting Diode)などが挙げられる。光学シートは、光源からの光の面内輝度分布を均一化したり、光源からの光の発散角や偏光状態を所望の範囲内に調整したりするものであり、例えば、拡散板、拡散シート、プリズムシート、反射型偏光素子、位相差板などを含んで構成されている。なお、光源は、エッジライト方式のものでもよく、その場合には、必要に応じて導光板や導光フィルムが用いられる。
【0020】
(液晶表示パネル20)
液晶表示パネル20は、複数の画素が2次元配列された透過型の表示パネルであり、映像信号に応じて各画素を駆動することによって画像を表示するものである。液晶表示パネル20は、例えば、図2に示したように、バックライトユニット10側から順に、偏光子21A、透明基板22、画素電極23、配向膜24、液晶層25、配向膜26、共通電極27、カラーフィルタ28、透明基板29および偏光子21Bを有している。
【0021】
ここで、偏光子21Aは、液晶表示パネル20の光入射側に配置された偏光板であり、偏光子21Bは液晶表示パネル20の光射出側に配置された偏光板である。偏光子21A,21Bは、光学シャッタの一種であり、ある一定の振動方向の光(偏光)のみを通過させる。偏光子21A,21Bはそれぞれ、例えば、偏光軸が互いに所定の角度だけ(例えば90度)異なるように配置されており、これによりバックライトユニット10からの射出光が液晶層を介して透過し、あるいは遮断されるようになっている。なお、偏光板は、板状に限定されない。
【0022】
偏光子21Aの透過軸の向きは、バックライトユニット10から射出された光を透過可能な範囲内に設定される。例えば、バックライトユニット10から射出される光の偏光軸が垂直方向となっている場合には、偏光子21Aの透過軸も垂直方向を向いており、バックライトユニット10から射出される光の偏光軸が水平方向となっている場合には、偏光子21Aの透過軸も水平方向を向いている。なお、バックライトユニット10から射出される光は直線偏光光である場合に限られるものではなく、円偏光や、楕円偏光、無偏光であってもよい。
【0023】
偏光子21Bの偏光軸の向きは、液晶表示パネル20を透過した光を透過可能な範囲内に設定される。例えば、偏光子21Aの偏光軸の向きが水平方向となっている場合には、偏光子21Bの偏光軸は偏光子21Aの偏光軸と直交する方向(垂直方向)を向いている。また、例えば、偏光子21Aの偏光軸の向きが垂直方向となっている場合には、偏光子21Bの偏光軸は偏光子21Aの偏光軸と直交する方向(水平方向)を向いている。なお、上記の偏光軸と、上記の透過軸とは互いに同義である。
【0024】
透明基板22,29は、一般に、可視光に対して透明な基板である。なお、バックライトユニット10側の透明基板22には、例えば、画素電極23に電気的に接続された駆動素子としてのTFT(Thin Film Transistor;薄膜トランジスタ)および配線などを含むアクティブ型の駆動回路が形成されている。画素電極23は、例えば酸化インジウムスズ(ITO;Indium Tin Oxide)からなり、画素ごとの電極として機能する。配向膜24,26は、例えばポリイミドなどの高分子材料からなり、液晶に対して配向処理を行う。液晶層25は、例えばVA(Vertical Alignment)モード、IPS(In-Plane Switching)モード、TN(Twisted Nematic)モードまたはSTN(Super Twisted Nematic)モードの液晶からなる。液晶層25は、図示しない駆動回路からの印加電圧により、バックライトユニット10からの射出光を画素ごとに透過または遮断する機能を有している。共通電極27は、例えばITOからなり、各画素電極23に対する共通の対向電極として機能する。
【0025】
カラーフィルタ28は、画素電極23に対応して配置された複数のフィルタ部28Aと、画素電極23の周辺領域に対応して配置されたブラックマトリクス部28Bとを有している。フィルタ部28Aは、光透過性を有しており、かつ、バックライトユニット10からの光を、例えば、赤、緑または青に色分離するようになっている。ブラックマトリクス部28Bは、遮光性を有している。液晶表示パネル20において、フィルタ部28Aと対向する部分が液晶表示パネル20の画素20Aを構成しており、画素20A内において、フィルタ部28Aは、映像表示面1A側に配置されている。
【0026】
(位相差フィルム30)
次に、位相差フィルム30について説明する。図3は、位相差フィルム30の構成の一例を斜視的に表したものである。位相差フィルム30は、液晶表示パネル20の偏光子21Bを透過した光の偏光状態を変化させるものである。位相差フィルム30は、液晶表示パネル20の光射出側の表面(偏光子21B)に粘着剤(図示せず)などによって貼り付けられている。位相差フィルム30は、例えば、図2図3に示したように、映像表示面1A側から順に、配向フィルム31および位相差層32を有している。なお、図示しないが、配向フィルム31および位相差層32は、液晶表示パネル20側からこの順に配置されていてもよい。
【0027】
配向フィルム31は、所定の特性を有する樹脂フィルムで構成されており、例えば、所定の特性を有する単層の樹脂フィルムであってもよいし、所定の特性を有する樹脂層を最表面に有する積層の樹脂フィルムであってもよい。ここで、「所定の特性」とは、面角が136度のダイヤモンド格子を、基材フィルム(単層の樹脂フィルムまたは樹脂層を最表面に有する積層の樹脂フィルム)の表層の塑性変形領域に達する程度の力で、基材フィルムの表面に押し込んだ後、押し込み力を解除したときに当該基材フィルムに残存する塑性変形量が以下の式(1)を満たす特性を指している。なお、上記の「所定の特性」の計測は、配向フィルム31表面の凹凸を形成する前のフィルム(後述の基材フィルム31D)に対して行われる。ここで、「塑性変形領域に達する程度の力」は、例えば、1mN以上である。
【0028】
Dp≧0.25×Dmax…(1)
Dp:押し込み力を解除したときに基材フィルム31Dに残存する塑性変形量
Dmax:ダイヤモンド格子を1mNの力で基材フィルム31Dの表面に押し込んだときの最大押し込み変形量
【0029】
上記の式(1)中のDp、Dmaxは、ビッカース硬度計によって計測することが可能である。例えば、図4に示したように、押し込み力をゼロ(図中のA)から徐々に上昇させ、押し込み力が1mNに達したら(図中のB)、押し込み力をゼロ(図中のC)になるまで徐々に減少させ、その間ずっと塑性変形量(変位量)を計測する。上記の式(1)のDmaxは、押し込み力が1mNに達した図中のBの時点での変位量を計測することにより得られる値である。また、上記の式(1)のDpは、押し込み力が解除され0mNとなった図中のCの時点での変位量を計測することにより得られる値である。
【0030】
上記の式(1)を満たす材料としては、例えば、図5(A)〜(C)に示したように、COP(シクロオレフィンポリマー)やCOC(シクロオレフィンコポリマー)等のシクロオレフィン系樹脂や、PC(ポリカーボネート)等の熱可塑性樹脂が挙げられる。上記の式(1)を満たさない材料としては、例えば、図6(A)〜(C)に示したように、PET(ポリエチレンテレフタラート)、TAC(トリアセチルセルロース)などが挙げられる。
【0031】
配向フィルム31は、非加熱押接転写法または低温加熱押接転写法により形成されたものである。ここで、「非加熱」とは、転写時にヒータなどで意図的な加熱を行わないことを意味している。また、「低温加熱」とは、転写時に基材フィルム31Dのガラス転移温度よりも低い温度で加熱を行うことを意味している。「押接転写法」とは、基材フィルムの表面に直接、原盤の凹凸を押圧し、塑性変形により、基材フィルムの表面に、原盤の凹凸に対応するパターンを転写する方法を指している。なお、非加熱押接転写法および低温加熱押接転写法についての説明は、後に詳述するものとする。
【0032】
配向フィルム31は、液晶などの配向性材料を特定の方向に配向させる機能を有している。配向フィルム31は、位相差層32側の表面に、例えば、図3図7(A)に示したように、配向方向が互いに異なる2種類の配向領域(右目用配向領域31A,左目用配向領域31B)を有している。右目用配向領域31Aおよび左目用配向領域31Bは、例えば、共通する一の方向(水平方向)に延在する帯状の形状となっており、右目用配向領域31Aおよび左目用配向領域31Bの短手方向(垂直方向)に交互に配置されている。右目用配向領域31Aおよび左目用配向領域31Bは、液晶表示パネル20の画素に対応して配置されており、例えば、液晶表示パネル20の短手方向(垂直方向)の画素ピッチに対応するピッチで配置されている。
【0033】
右目用配向領域31Aは、例えば、図7(A),(B)に示したように、偏光子21Bの偏光軸AX3と45°で交差する方向に延在する複数の溝V1を有している。一方、左目用配向領域31Bは、例えば、図7(A),(B)に示したように、偏光子21Bの偏光軸AX3と45°で交差する方向であって、かつ溝V1の延在方向と直交する方向に延在する複数の溝V2を有している。溝V1,V2はそれぞれ、例えば、図7(B)に示したように、偏光子21Bの偏光軸AX3が垂直方向または水平方向を向いている場合には斜め45°方向に延在している。また、図示しないが、偏光子21Bの偏光軸AX3が斜め45°方向を向いている場合には、溝V1が例えば水平方向に延在しており、溝V2が例えば垂直方向に延在している。
【0034】
各溝V1,V2は、一の方向に直線状に延在していてもよいし、例えば、揺らぎながら(蛇行しながら)一の方向に延在していてもよい。各溝V1,V2の断面形状は、例えばV字状となっている。各溝V1,V2のピッチは小さい方が好ましく、ナノメーターオーダー(1μm未満)であることが好ましい。各溝V1,V2の深さは、ピッチの1/5以上であることが好ましい。ただし、製造のしやすさを考えると、各溝V1,V2のピッチが50nm以上1μm未満であることが好ましく、各溝V1,V2の深さは、10nm以上250nm未満となっていることが好ましい。各溝V1,V2の深さがピッチの1/5未満の場合には、製造過程において液晶性モノマーを正しく配向させることが困難となり、各溝V1,V2の深さが1μm以上となる場合には、基材フィルムと液晶層の屈折率の差により、若干ヘーズが生じてしまう傾向がある。
【0035】
位相差層32は、光学異方性を有する薄い層である。位相差層32は、配向フィルム31(右目用配向領域31Aおよび左目用配向領域31B)の表面に直接、接して形成されている。位相差層32は、配向フィルム31の凹凸に応じた遅相軸を有している。位相差層32は、例えば、図3に示したように、遅相軸の向きが互いに異なる2種類の位相差領域(右目用位相差領域32A,左目用位相差領域32B)を有している。右目用位相差領域32Aは、右目用配向領域31Aに直接、接して形成されており、左目用位相差領域32Bは、左目用配向領域31Bに直接、接して形成されている。
【0036】
右目用位相差領域32Aおよび左目用位相差領域32Bは、例えば、図3に示したように、共通する一の方向(水平方向)に延在する帯状の形状となっており、右目用位相差領域32Aおよび左目用位相差領域32Bの短手方向(垂直方向)に交互に配置されている。右目用位相差領域32Aおよび左目用位相差領域32Bは、液晶表示パネル20の画素に対応して配置されており、例えば、液晶表示パネル20の短手方向(垂直方向)の画素ピッチに対応するピッチで配置されている。
【0037】
右目用位相差領域32Aは、例えば、図3図8に示したように、偏光子21Bの偏光軸AX3と45°で交差する方向に遅相軸AX1を有している。一方、左目用位相差領域32Bは、例えば、図3図8に示したように、偏光子21Bの偏光軸AX3と45°で交差する方向であって、かつ遅相軸AX1と直交する方向に遅相軸AX2を有している。遅相軸AX1,AX2はそれぞれ、例えば、図8に示したように、偏光子21Bの偏光軸AX3が垂直方向または水平方向を向いている場合には斜め45°方向を向いている。また、図示しないが、偏光子21Bの偏光軸AX3が斜め45°方向を向いている場合には、遅相軸AX1が例えば水平方向に延在しており、遅相軸AX2が例えば垂直方向を向いている。遅相軸AX1は、溝V1の延在方向を向いており、遅相軸AX2は、溝V2の延在方向を向いている。
【0038】
さらに、遅相軸AX1は、例えば、図9(A),(B)に示したように、偏光眼鏡2の右目用位相差板41A(後述)の遅相軸AX4の向きと同一の方向を向いており、偏光眼鏡2の左目用位相差板42A(後述)の遅相軸AX5の向きと異なる方向を向いている。一方、遅相軸AX2は、例えば、遅相軸AX5の向きと同一の方向を向いており、遅相軸AX4の向きと異なる方向を向いている。
【0039】
位相差層32は、例えば、重合した高分子液晶材料を含んで構成されている。すなわち、位相差層32では、液晶分子の配向状態が固定されている。高分子液晶材料としては、相転移温度(液晶相−等方相)、液晶材料の屈折率波長分散特性、粘性特性、プロセス温度などに応じて選定された材料が用いられる。
【0040】
位相差層32において、溝V1と右目用位相差領域32Aとの界面付近では、液晶分子の長軸が、溝V1の延在方向に沿うように配列しており、溝V2と左目用位相差領域32Bとの界面付近では、液晶分子の長軸が、溝V2の延在方向に沿うように配列している。すなわち、溝V1および溝V2の形状および延在方向により、液晶分子の配向が制御され、右目用位相差領域32Aおよび左目用位相差領域32Bの光学軸が設定される。
【0041】
また、位相差層32において、右目用位相差領域32Aおよび左目用位相差領域32Bの構成材料や厚みを調整することにより、右目用位相差領域32Aおよび左目用位相差領域32Bのリタデーション値が設定される。このリタデーション値は、基材31が位相差を有する場合には、基材31の位相差をも考慮して設定されることが好ましい。なお、本実施の形態では、右目用位相差領域32Aおよび左目用位相差領域32Bは互いに同一の材料および厚みにより構成され、これにより、リタデーションの絶対値が互いに等しくなっている。
【0042】
[1.2 偏光眼鏡2]
次に、図1図10を参照しつつ、偏光眼鏡2について説明する。偏光眼鏡2は、観察者(図示せず)の眼球の前に装着されるものであり、表示装置1の映像表示面1Aに映し出される映像を観察する際に観察者によって用いられるものである。この偏光眼鏡2は、例えば、円偏光眼鏡であり、例えば、図1に示したように、右目用光学素子41、左目用光学素子42、およびフレーム43を有している。
【0043】
フレーム43は、右目用光学素子41および左目用光学素子42を支持するものである。フレーム43の形状は、特に限られるものではないが、例えば、図1に示したように、観察者(図示せず)の鼻および耳にひっかける形状となっている。右目用光学素子41および左目用光学素子42は、表示装置1の映像表示面1Aと対向した状態で用いられる。右目用光学素子41および左目用光学素子42は、図1に示したように、できるだけ一の水平面内に配置した状態で用いられることが好ましいが、多少傾いた平坦面内に配置した状態で用いられてもよい。
【0044】
右目用光学素子41は、例えば、図10に示したように、右目用位相差板41Aおよび偏光板41Bを有している。右目用位相差板41Aおよび偏光板41Bは、表示装置1側から順に配置されている。一方、左目用光学素子42は、例えば、図10に示したように、左目用位相差板42Aおよび偏光板42Bを有している。左目用位相差板42Aおよび偏光板42Bは、表示装置1側から順に配置されている。
【0045】
右目用光学素子41および左目用光学素子42は、上で例示したもの以外の部材を有していてもよい。例えば、右目用光学素子41および左目用光学素子42の光射出側(観察者側)の面に、偏光板41B,42Bが破損したときに破損片が観察者の眼球に飛散するのを防止する保護フィルム(図示せず)や保護のためのコーティング層(図示せず)が設けられていてもよい。また、右目用光学素子41および左目用光学素子42は、例えば、図10に示したように、平坦な板状の形状となっていてもよいし、図示しないが、光入射側に突出した湾曲形状となっていてもよい。
【0046】
偏光板41B,42Bは、ある一定の振動方向の光(偏光)のみを通過させるようになっている。例えば、図9(A),(B)に示したように、偏光板41B,42Bの偏光軸AX6,AX7はそれぞれ、表示装置1の偏光板21Bの偏光軸AX3と直交する方向を向いている。偏光軸AX6,AX7はそれぞれ、例えば、図9(A)に示したように、偏光板21Bの偏光軸AX3が垂直方向を向いている場合には水平方向を向いており、例えば、図9(B)に示したように、偏光板21Bの偏光軸AX3が水平方向を向いている場合には垂直方向を向いている。また、図示しないが、偏光板21Bの偏光軸AX3が斜め45°方向を向いている場合には、偏光軸AX6,AX7は、それと直交する方向(−45°)を向いている。
【0047】
右目用位相差板41Aおよび左目用位相差板42Aは、光学異方性を有する薄い層またはフィルムである。右目用位相差板41Aの遅相軸AX4は、図9(A),(B)に示したように、偏光軸AX6と45°で交差する方向を向いている。また、左目用位相差板42Aの遅相軸AX5は、図9(A),(B)に示したように、偏光軸AX7と45°で交差する方向を向いており、かつ遅相軸AX4と直交する方向を向いている。遅相軸AX4,AX5はそれぞれ、例えば、図9(A),(B)に示したように、偏光軸AX6,AX7が水平方向または垂直方向を向いている場合には、水平方向および垂直方向のいずれの方向とも交差する方向を向いている。また、図示しないが、偏光軸AX6,AX7が斜め45°方向を向いている場合には、遅相軸AX4が例えば水平方向を向いており、遅相軸AX5が例えば垂直方向を向いている。
【0048】
また、遅相軸AX4は、右目用位相差領域32Aの遅相軸AX1の向きと同一の方向を向いており、左目用位相差領域32Bの遅相軸AX2の向きと異なる方向を向いている。一方、遅相軸AX5は、遅相軸AX2と同一の方向を向いており、遅相軸AX1の向きと異なる方向を向いている。
【0049】
[1.3 製造方法]
次に、位相差フィルム30の製造方法の一例について説明する。なお、以下では、まず、位相差フィルム30の基材に相当する配向フィルム31の製造方法の一例について説明する。その後、配向フィルム31を用いて位相差フィルム30を製造する方法の一例について説明する。
【0050】
(配向フィルム31の製造方法)
図11は、配向フィルム31の製造方法の一例を表したものである。図11に示した製造装置100は、互いに対向する型ロール110およびニップロール120を備えている。製造装置100は、さらに、基材フィルム31Dを巻き出すロール130と、製造後の配向フィルム31を巻き取るロール140とを備えている。
【0051】
ここで、型ロール110は、配向フィルム31の表面の凹凸に対応するパターンを表面に有している。具体的には、型ロール110は、第1方向に延在した凹凸を含む複数の第1領域と、第1方向と交差する第2方向に延在した凹凸を含む複数の第2領域とを表面に有している。そして、第1領域および第2領域は、それぞれ帯状となっており、かつ型ロール110の表面において交互に配置されている。第1領域は、右目用配向領域31Aの凹凸の反転パターンとなっており、第2領域は、左目用配向領域31Bの凹凸の反転パターンとなっている。つまり、型ロール110は、ナノメータオーダの微細な線状の凹凸を表面に有している。型ロール110とニップロール120との間には、配向フィルム31表面の凹凸を形成する前のフィルムである基材フィルム31Dが挿通される。
【0052】
型ロール110およびニップロール120は、例えば、一般構造用炭素鋼、SUS、または、高圧プレス用のベアリング鋼などの一般的なプレス用材料で構成されている。ニップロール120の表面は、例えば、フッ素樹脂、シリコーン、ナイロン、ポリエチレンなどの樹脂で数十nmの厚さでコーティングされていてもよい。そのようなコーティングがなされている場合には、ニップロール120の幅方向の押圧力の均一化が容易になる。
【0053】
基材フィルム31Dは、上述の「所定の特性」を有する樹脂フィルムで構成されている。基材フィルム31Dは、例えば、「所定の特性」を有する単層の樹脂フィルムであってもよいし、「所定の特性」を有する樹脂層を最表面に有する積層の樹脂フィルムであってもよい。基材フィルム31Dは、配向フィルム31の表面に形成されたパターンの深さよりも十分に厚くなっており、例えば、配向フィルム31の表面に形成されたパターンの深さの10倍以上の厚さとなっている。例えば、配向フィルム31の表面に形成されたパターンの深さが250nm未満となっている場合、基材フィルム31Dが、配向フィルム31の表面に形成されたパターンの深さの約400倍に相当する100μmとなっていてもよい。
【0054】
ここで、「非加熱押接転写法」を用いる場合には、型ロール110およびニップロール120のいずれにも、ヒータなどによる意図的な加熱がなされない。従って、この場合には、型ロール110およびニップロール120の温度は、基材フィルム31Dのガラス転移温度よりも低くなっている。また、「低温加熱押接転写法」を用いる場合には、型ロール110およびニップロール120の少なくとも一方に対して、ヒータなどによる意図的な加熱がなされる。しかし、型ロール110およびニップロール120の温度は、基材フィルム31Dのガラス転移温度よりも低くなっている。以上のことから、いずれの方法を採った場合であっても、型ロール110およびニップロール120の温度は、基材フィルム31Dのガラス転移温度よりも低くなっている。
【0055】
まず、製造装置100は、ロール130から基材フィルム31Dを巻き出して、型ロール110とニップロール120との間に挿通する。次に、製造装置100は、基材フィルム31Dを、型ロール110とニップロール120とで挟み込むことで、型ロール110の表面の凹凸を基材フィルム31Dの表面に直接、押圧する。このとき、製造装置100は、型ロール110の凹凸を、基材フィルム31Dの表面に対して、200〜500kgf/cm以上の線圧で押圧する。さらに、製造装置100は、基材フィルム31Dのガラス転移温度よりも低い温度で、押圧を実行する。
【0056】
ここで、基材フィルム31Dには、上記の式(1)を満たす樹脂フィルムまたは樹脂層が用いられている。そのため、基材フィルム31Dがガラス転移温度以上の温度で加熱されていなくても、上記の線圧以上の線圧で型ロール110の凹凸を基材フィルム31Dの表面に押圧し、基材フィルム31Dの表面を塑性変形させることにより、製造装置100は、型ロール110の凹凸に対応するパターンを基材フィルム31Dの表面に転写することができる。このようにして、配向フィルム31が製造される。その後、製造装置100は、製造された配向フィルム31をロール140に巻き取る。
【0057】
(位相差フィルム30の製造方法)
図12は、位相差フィルム30の製造方法の一例を表したものである。図12に示した製造装置200は、液晶を滴下する吐出機210と、滴下した液晶を加熱し、配向させるヒータ220と、配向した液晶を硬化させる紫外線照射機230とを備えている。製造装置200は、さらに、配向フィルム31を巻き出すロール240と、製造後の位相差フィルム30を巻き取るロール250とを備えている。
【0058】
まず、製造装置200は、ロール240から配向フィルム31を巻き出す。次に、製造装置200は、巻き出した配向フィルム31の表面に、液晶性モノマーを含む液晶210Aを吐出機210から滴下して、液晶層32Dを形成する。続いて、製造装置200は、ヒータ220を用いて、配向フィルム31の表面に塗布された液晶層32Dの液晶性モノマーの配向処理(加熱処理)を行った後、液晶層32Dを相転移温度よりも少し低い温度まで徐冷する。これにより、液晶性モノマーは、配向フィルム31の表面に形成された複数の溝V1,V2のパターンに応じて配向する。すなわち、液晶性モノマーが複数の溝V1,V2の延在方向に沿って配向する。
【0059】
次に、製造装置200は、紫外線照射機230から、配向処理後の液晶層32Dに対して、紫外線を照射して、液晶層32D内の液晶性モノマーを重合させる。なお、このとき、処理温度は、一般に室温付近であることが多いが、リタデーション値を調整するために温度を相転移温度以下の温度まで上げてもよい。これにより、複数の溝V1,V2の延在方向に沿って液晶分子の配向状態が固定され、位相差層32(右目用位相差領域32Aおよび左目用位相差領域32B)が形成される。以上により、位相差フィルム30が完成する。その後、製造装置200は、位相差フィルム30をロール250に巻き取る。
【0060】
なお、上記では、ロールを用いて配向フィルム31や位相差フィルム30を製造する場合が例示されていたが、配向フィルム31や位相差フィルム30を枚葉式で(つまり、板状の原盤を用いて)製造することももちろん可能である。
【0061】
[1.4 基本動作]
次に、本実施の形態の表示装置1において画像を表示する際の基本動作の一例について、図13(A),(B)〜図16(A),(B)等を参照しつつ説明する。
【0062】
まず、バックライトユニット10から照射された光が液晶表示パネル20に入射している状態で、映像信号として右目用画像および左目用画像を含む視差信号が液晶表示パネル20に入力される。すると、奇数行の画素から右目用画像光L1が出力され(図13(A),(B)または図14(A),(B))、偶数行の画素から左目用画像光L2が出力される(図15(A),(B)または図16(A),(B))。なお、実際には、右目用画像光L1および左目用画像光L2は、混在した状態で出力されるが、図13(A),(B)〜図16(A),(B)では、説明の便宜上、右目用画像光L1と左目用画像光L2が別個に分けて記述されている。
【0063】
その後、右目用画像光L1および左目用画像光L2は、位相差フィルム30の右目用位相差領域32Aおよび左目用位相差領域32Bによって楕円偏光に変換され、位相差フィルム30の配向フィルム31を透過したのち、表示装置1の画像表示面から外部に出力される。
【0064】
その後、表示装置1の外部に出力された光は、偏光眼鏡2に入射し、右目用位相差板41Aおよび左目用位相差板42Aによって楕円偏光から直線偏光に戻されたのち、偏光眼鏡2の偏光板41B,42Bに入射する。
【0065】
このとき、偏光板41B,42Bへの入射光のうち右目用画像光L1に対応する光の偏光軸は、偏光板41Bの偏光軸AX6と平行となっており(図13(A)、図14(A))、偏光板42Bの偏光軸AX7と直交している(図13(B)、図14(B))。従って、偏光板41B,42Bへの入射光のうち右目用画像光L1に対応する光は、偏光板41Bだけを透過して、観察者の右目に到達する(図13(A),(B)または図14(A),(B))。
【0066】
一方、偏光板41B,42Bへの入射光のうち左目用画像光L2に対応する光の偏光軸は、偏光板41Bの偏光軸AX6と直交しており(図15(A)、図16(A))、偏光板42Bの偏光軸AX7と平行となっている(図15(B)、図16(B))。従って、偏光板41B,42Bへの入射光のうち左目用画像光L2に対応する光は、偏光板42Bだけを透過して、観察者の左目に到達する(図15(A),(B)または図16(A),(B))。
【0067】
このようにして、右目用画像光L1に対応する光が観察者の右目に到達し、左目用画像光L2に対応する光が観察者の左目に到達した結果、観察者は表示装置1の映像表示面に立体画像が表示されているかのように認識することができる。
【0068】
[1.5 効果]
次に、本実施の形態の表示装置1の効果について説明する。
【0069】
従来では、まず、フィルム基材の表面に、易接着層を介して紫外線硬化樹脂を塗布し、塗布した紫外線硬化樹脂に形状を転写することにより、フィルム基材上に配向膜を有する配向フィルムが形成される。次に、その配向フィルムの上に液晶性モノマーを塗布し、それを加熱し、硬化させることにより、配向フィルム上に位相差層を有する位相差フィルムが形成される。このように、従来の方法では、位相差フィルムの形成には多くのプロセスステップが必要である。
【0070】
近年、プロセスステップを削減するために、例えば、溶融押出法により、フィルム基材に直接、配向機能を有する形状を付与する試みが行われている。しかし、溶融押出法では、冷却時の成形歪みがフィルム基材の内部に在留するので、成形後、時間の経過とともにフィルム基材が寸法収縮を起こす。例えば、図17に示したように、溶融押出法では、転写後の初期の段階で寸法収縮が激しく起こり、その後、時間の経過とともに、ゆるやかに寸法収縮が起こっている。なお、図17の例では、初期の段階の寸法変化率は、約1.2%である。
【0071】
寸法収縮の長期的な進行は、位相差フィルムが表示装置に搭載されてからも、位相差領域と画素との相対的な位置関係が変化することを意味しており、立体視性能を著しく阻害し、商品性を損ねる危険性を孕んでいる。従って、少なくとも、位相差フィルムの表示装置への搭載後には、フィルム基材の寸法が安定していることが求められる。このように、溶融押出法では、プロセスステップを削減することができるものの、フィルム基材の寸法が安定していないという問題があった。
【0072】
一方、本実施の形態では、配向フィルム31の製造過程において、ナノメータオーダの微細な線状の凹凸を表面に有する型ロール110が、基材フィルム31Dのガラス転移温度よりも低い温度で、基材フィルム31Dの表面に直接、押圧される。これにより、基材フィルム31Dの内部に、面内方向の成形歪みをほとんど残留させずに、凹凸を形成することが可能となる。例えば、図17に示したように、押接転写法では、転写後の初期の段階でわずかに寸法が変化しているが、その後、時間が経過しても、寸法変化は全く行っていない。なお、図17の例では、初期の段階の寸法変化率は、溶融押出法における初期の段階の寸法変化率の約1/8であり、わずか0.15%である。従って、押接転写法を用いることにより、配向フィルム31の寸法を安定させることができる。また、基材フィルムに配向膜を形成する従来の方法よりも、少ないプロセスステップで配向フィルム31を形成することができ、さらに、使用材料の種類も削減することができる。従って、本実施の形態では、プロセスステップを削減しつつ、配向フィルム31の寸法を安定させることができる。
【0073】
<2.変形例>
上記実施の形態では、位相差フィルム30の位相差領域(右目用位相差領域32A,左目用位相差領域32B)が水平方向に延在している場合が例示されていたが、それ以外の方向に延在していてもかまわない。例えば、図示しないが、位相差フィルム30の位相差領域(右目用位相差領域32A,左目用位相差領域32B)が垂直方向に延在していていてもよい。ただし、その場合には、上記実施の形態の説明において、「垂直方向」を「水平方向」に読み替え、「水平方向」を「垂直方向」に読み替えることが必要である。
【0074】
また、上記実施の形態では、位相差フィルム30には、遅相軸の向きが互いに異なる2種類の位相差領域(右目用領域32A,左目用領域32B)が設けられていたが、遅相軸の向きが互いに異なる3種類以上の位相差領域が設けられていてもよい。
【0075】
また、上記実施の形態では、位相差フィルム30を液晶表示パネル20に貼り合わせた場合が例示されていたが、他のディスプレイパネルに貼り合わせることはもちろん可能である。
【0076】
以上では、偏光眼鏡2が円偏光タイプであり、表示装置1としては円偏光眼鏡用の表示装置である場合について説明をしたが、本技術は、偏光眼鏡2が直線偏光タイプであり、表示装置1として直線偏光眼鏡用の表示装置である場合についても適用可能である。
【0077】
なお、本明細書において、「等しい」、「同一」、「平行」、「直交」、「垂直」、「水平」という場合には、本技術の効果を損なわない限度において、それぞれが、略等しい、略同一、略平行、略直交、略垂直、略水平の場合を含むものとする。例えば、製造誤差、バラツキ等の諸要因に起因する誤差を含んでもよいものとする。
【0078】
また、例えば、本技術は以下のような構成を取ることができる。
(1)
ナノメータオーダの微細な線状の凹凸を表面に有する原盤を、基材フィルムのガラス転移温度よりも低い温度で、前記基材フィルムの表面に直接、押圧し、それにより、前記基材フィルムの表面に、前記原盤の凹凸に対応するパターンを転写する
配向フィルムの製造方法。
(2)
前記基材フィルムは、単層または積層の樹脂フィルムである
(1)に記載の配向フィルムの製造方法。
(3)
前記基材フィルムは、面角が136度のダイヤモンド格子を、当該基材フィルムの表層の塑性変形領域に達する程度の力で当該基材フィルムの表面に押し込んだ後、押し込み力を解除したときに当該基材フィルムに残存する塑性変形量が以下の式を満たす材料からなる
(1)または(2)に記載の配向フィルムの製造方法。
Dp≧0.25×Dmax
Dp:押し込み力を解除したときに当該基材フィルムに残存する塑性変形量
Dmax:前記ダイヤモンド格子を1mNの力で前記基材フィルムの表面に押し込んだときの最大押し込み変形量
(4)
前記原盤の凹凸は、第1方向に延在した第1凹凸を含む複数の第1領域と、前記第1方向と交差する第2方向に延在した第2凹凸を含む複数の第2領域とを有し、
前記第1領域および前記第2領域は、それぞれ帯状となっており、かつ交互に配置されている
(1)ないし(3)のいずれか1つに記載の配向フィルムの製造方法。
(5)
ナノメータオーダの微細な線状の凹凸を表面に有する原盤を、基材フィルムのガラス転移温度よりも低い温度で、前記基材フィルムの表面に直接、押圧することにより、前記基材フィルムの表面に、前記原盤の凹凸に対応するパターンを転写する第1ステップと、
前記パターンを有する基材フィルムの表面に直接、液晶性モノマーを含む溶液を配置して、液晶性モノマーを配向させたのち、配向した後の液晶性モノマーを重合させる第2ステップと
を含む位相差フィルムの製造方法。
(6)
前記基材フィルムは、単層または積層の樹脂フィルムである
(5)に記載の位相差フィルムの製造方法。
(7)
前記基材フィルムは、面角が136度のダイヤモンド格子を、当該基材フィルムの表層の塑性変形領域に達する程度の力で当該基材フィルムの表面に押し込んだ後、押し込み力を解除したときに当該基材フィルムに残存する塑性変形量が以下の式を満たす材料からなる
(5)または(6)に記載の位相差フィルムの製造方法。
Dp≧0.25×Dmax
Dp:押し込み力を解除したときに当該基材フィルムに残存する塑性変形量
Dmax:前記ダイヤモンド格子を1mNの力で前記基材フィルムの表面に押し込んだときの最大押し込み変形量
(8)
前記原盤の凹凸は、第1方向に延在した第1凹凸を含む複数の第1領域と、前記第1方向と交差する第2方向に延在した第2凹凸を含む複数の第2領域とを有し、
前記第1領域および前記第2領域は、それぞれ帯状となっており、かつ交互に配置されている
(5)ないし(7)のいずれか1つに記載の位相差フィルムの製造方法。
(9)
ナノメータオーダの微細な線状の凹凸を基材フィルムの表面に有し、
前記凹凸は、当該凹凸に対応するパターンを表面に有する原盤を、基材フィルムのガラス転移温度よりも低い温度で、前記基材フィルムの表面に直接、押圧することにより形成されたものである
配向フィルム。
(10)
ナノメータオーダの微細な線状の凹凸を表面に有する基材フィルムと、
前記基材フィルムの表面に直接、接するとともに、前記基材フィルムの凹凸に応じた遅相軸を有する位相差層と
を備え、
前記凹凸は、当該凹凸に対応するパターンを表面に有する原盤を、基材フィルムのガラス転移温度よりも低い温度で、前記基材フィルムの表面に直接、押圧することにより形成されたものである
位相差フィルム。
【符号の説明】
【0079】
1…表示装置、1A…映像表示面、2…偏光眼鏡、10…バックライトユニット、20…液晶表示パネル、20A…画素、21A,21B…偏光板、22,29…透明基板、23…画素電極、24,26…配向膜、25…液晶層、27…共通電極、28…カラーフィルタ、28A…フィルタ部、28B…ブラックマトリクス部、30…位相差フィルム、31…配向フィルム、31A…右目用配向領域、31B…左目用配向領域、32…位相差層、32A…右目用位相差領域、32B…左目用位相差領域、41…右目用光学素子、41A…右目用位相差領域、41B,42B…偏光板、42…左目用光学素子、42A…左目用位相差板、43…フレーム、AX3,AX6,AX7…偏光軸、AX1,AX2,AX4,AX5…遅相軸、L1…右目用画像光、L2…左目用画像光、V1,V2…溝。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17