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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-200067(P2017-200067A)
(43)【公開日】2017年11月2日
(54)【発明の名称】移動体端末試験装置および試験方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 17/17 20150101AFI20171006BHJP
   H04B 17/29 20150101ALI20171006BHJP
   H04B 1/00 20060101ALI20171006BHJP
【FI】
   H04B17/17
   H04B17/29 200
   H04B1/00 250
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-89825(P2016-89825)
(22)【出願日】2016年4月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079337
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 誠志
(72)【発明者】
【氏名】珍部 涼太
(72)【発明者】
【氏名】音成 伸俊
(72)【発明者】
【氏名】河野 一成
(72)【発明者】
【氏名】波多野 晃
(57)【要約】
【課題】簡易且つ安価なシステム構成で、比較的短時間に測定を完了させる。
【解決手段】送受信部21から出力される複数のダウンリンク信号と、信号発生器22から出力され、フィルタ23を通過したCWの妨害波とを信号合成部24で合成して移動体端末1に与え、複数のダウンリンク信号に対する妨害波周波数毎のスループットを一括的に測定し、一括測定されたスループットのうち規定値に達しないと判定されたダウンリンク信号の周波数帯にフィルタ23の信号抑圧帯域を合わせて当該ダウンリンク信号についてのスループットの再測定と再判定を行なう。ある妨害波周波数で一括測定されたスループットが規定値以上の場合および再測定された全てのダウンリンク信号のスループットが規定値以上の場合、当該妨害波周波数における帯域外ブロッキング性能が基準を満たすものと判断し、妨害波周波数を次の周波数に切替えてスループット一括測定を行なわせる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアアグリゲーション方式に対応した試験対象の移動体端末に与えるための周波数帯が異なる複数のダウンリンク信号を同時並行的に出力するとともに、前記移動体端末から出力されるアップリンク信号を受信する送受信部(21)と、
帯域外ブロッキング性能の測定に必要なCWの妨害波を、所定周波数範囲にわたって所定周波数ステップで出力可能な信号発生器(22)と、
前記信号発生器から出力される妨害波を受け、該妨害波の基本波成分を除く周波数成分から、前記送受信部から出力される可能性のあるダウンリンク信号の周波数帯のうち、指定された周波数帯と重なる周波数成分を抑圧して出力することが可能な周波数可変型のフィルタ(23)と、
前記フィルタから出力される妨害波と前記複数のダウンリンク信号とを合成し、該合成信号を前記移動体端末に与える信号合成部(24)と、
前記合成信号を受けた前記移動体端末の前記複数のダウンリンク信号に対する妨害波周波数毎のスループットを、前記複数のダウンリンク信号に対して一括的に測定するスループット一括測定手段(31)と、
前記スループット一括測定手段によって測定された前記妨害波周波数毎のスループットが規定値以上か否かを判定するスループット判定手段(32)と、
前記スループット判定手段で、前記規定値に達しないと判定されたダウンリンク信号があるとき、当該ダウンリンク信号の周波数帯に前記フィルタの信号抑圧帯域が重なるように指定して、当該ダウンリンク信号についてのスループットの再測定を行なうスループット再測定手段(33)と、
前記スループット再測定手段で再測定されたスループットが前記規定値以上か否かを判定するスループット再判定手段(34)と、
ある妨害波周波数で前記スループット一括測定手段により測定されたスループットが前記スループット判定手段により前記規定値以上と判定された場合、および、前記スループット再測定手段で再測定された全てのダウンリンク信号のスループットが前記スループット再判定手段により前記規定値以上と判定された場合に、当該妨害波周波数における全てのダウンリンク信号の帯域外ブロッキング性能が基準を満たすものと判断し、前記信号発生器から出力される妨害波の周波数を次の妨害波周波数に切替えてスループット一括測定を行なわせる妨害波周波数切替手段(35)とを備えた移動体端末試験装置。
【請求項2】
周波数帯が異なる複数のダウンリンク信号と、帯域外ブロッキング性能の測定に必要で所定周波数範囲にわたって所定周波数ステップで周波数を可変できるCWの妨害波とを合成し、該合成信号をキャリアアグリゲーション方式に対応した試験対象の移動体端末に与えるとともに、前記合成信号を受けた移動体端末の前記複数のダウンリンク信号に対する妨害波周波数毎のスループットを、前記複数のダウンリンク信号に対して一括的に測定するスループット一括測定段階と、
前記スループット一括測定段階で測定された前記妨害波周波数毎のスループットが規定値以上か否かを判定するスループット判定段階と、
前記スループット判定段階で、前記規定値に達しないと判定されたダウンリンク信号があるとき、前記妨害波の周波数成分のうち、当該ダウンリンク信号の周波数帯と重なる周波数成分をフィルタにより抑圧した状態で、当該ダウンリンク信号に対するスループットの再測定を行なうスループット再測定段階と、
前記スループット再測定段階で再測定されたスループットが前記規定値以上か否かを判定するスループット再判定段階と、
ある妨害波周波数で一括測定されたスループットが前記スループット判定段階により前記規定値以上と判定された場合、および、前記スループット再測定段階で再測定された全てのダウンリンク信号のスループットが前記スループット再判定段階により前記規定値以上と判定された場合に、当該妨害波周波数における全てのダウンリンク信号の帯域外ブロッキング性能が基準を満たすものと判断し、前記妨害波の周波数を次の妨害波周波数に切替えて前記スループット一括測定段階に移行させる妨害波周波数切替段階とを含む移動体端末試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話やスマートフォン等の移動体端末の試験を行なう技術に関し、特に、基地局から複数の異なるキャリアで送信されるダウンリンク信号に対する移動体端末の受信性能のうち、妨害波の影響でダウンリンク信号の受信能力が低下するブロッキング性能の測定を簡易なシステムで効率的に行なうための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体端末の受信性能を評価する一つの項目として、帯域外妨害波の影響でダウンリンク信号の受信能力が低下する帯域外ブロッキング性能がある。
【0003】
帯域外ブロッキング性能の測定は、基本的に、移動体端末に与えるダウンリンク信号に所定レベルのCW(無変調連続波)の妨害波を合成して移動体端末に送信し、そのダウンリンク信号に対する移動体端末のスループットを測定するという動作を、妨害波の周波数を、ダウンリンク信号の周波数帯(以下、ダウンリンク周波数帯という)を除いて、初期値(例えば1MHz)から最終値(例えば12750MHz)まで所定ステップ(例えば1MHzステップ)で変更しつつ、そのレベルを規定にしたがって変更しながら行い、ダウンリンク周波数帯を除く全ての妨害波周波数でスループットが規定値以上であれば、その移動体端末は合格となり、いずれかの周波数でスループットが規定値を超えない場合、その移動体端末は不合格となる。
【0004】
ここで、CWの妨害波を発生する手段としては、前記したように1MHzから12750MHzというような非常に広帯域な範囲を決められた周波数ステップと信号レベルで順次発生させる広帯域な信号発生器が必要となる。しかし、このような広帯域な信号発生器の出力には、妨害波として用いる基本波成分の他に、内部の増幅素子の非線形性等に起因して、高調波や相互変調波等のスプリアス成分が含まれている。このスプリアス成分のレベルは一般的に基本波成分に比べて低いが、このスプリアス成分がダウンリンク周波数帯内に入ると、移動体端末の受信性能に影響を与えることが予想される。
【0005】
この問題を解決するために、従来では、信号発生器の出力からダウンリンク周波数帯の信号成分を抑圧するフィルタを用い、このフィルタによってダウンリンク周波数帯の信号成分が抑圧された信号を妨害波として、ダウンリンク信号に合成し、試験対象の移動体端末に与えていた。
【0006】
ところが、近年では、周波数帯が異なる複数のダウンリンク信号を同時に用いることで、高速な情報伝達が可能なキャリアアグリゲーション(以下、CAと記す)方式が採用されており、このCA方式に対応した移動体端末について上記帯域外ブロッキング性能を測定する場合、複数のダウンリンク周波数帯にそれぞれ対応したフィルタを用意する必要がある。
【0007】
CA方式で用いられるダウンリンク周波数帯は、現状で、およそ800MHz帯から3.5GHz帯までの範囲に割当てられたバンドの任意のものを使用する可能性があるので、上記のようにダウンリンク周波数帯が複数ある場合、800MHz〜3.5GHzの範囲内で、信号抑圧帯域を任意に可変できる周波数可変型のフィルタをダウンリンク周波数帯の数分用意しなければならず、構成が複雑化し、コストが高くなるという問題がある。
【0008】
また、上記した周波数可変型のフィルタを一つだけ用いて、複数のダウンリンク周波数帯のうちの一つに周波数可変型のフィルタの周波数を合わせた状態で、そのダウンリンク周波数帯について妨害波の周波数毎のスループットを測定してから、フィルタの周波数を次のダウンリンク周波数帯に合わせて、スループットを測定するという処理を繰り返すことも考えられる。
【0009】
その処理手順を図5のフローチャートで説明する。
始めに、準備段階として、移動体端末との間で相互に通信可能となるようにリンク確立処理を行い、試験装置と移動体端末の送信電力を設定する(S1)。
【0010】
次に、妨害波周波数を指定する変数iを1に初期設定し、妨害波周波数Fif(i) を設定し、複数のダウンリンク信号のうちの一つを指定する変数jを1に初期設定し、j番目のダウンリンク信号DLjの周波数帯にフィルタの信号抑圧帯域を合わせる(S2〜S5)。
【0011】
そして、この状態でj番目のダウンリンク信号DLjについてのスループットを測定し、その測定が終了したら、ダウンリンク信号を指定する変数jを1増加させて、上記処理S5、S6を繰り返し、全てのダウンリンク信号についてのスループットを測定する(S7、S8)。
【0012】
次に、この測定で順次得られたダウンリンク信号DL1〜DLNのスループットの全てが、規格で定められた規定値R以上であるか否かが判定され、その全てが規定値R以上であれば、この妨害波周波数における帯域外ブロッキング性能が基準を満たしているとする合格判定を行い、測定されたスループットのいずれかが規定値Rに満たない場合には、この妨害波周波数における帯域外ブロッキング性能が基準を満たさないとする不合格判定を行う(S9〜S11)。
【0013】
このようにして一つの妨害波周波数についての合否判定が得られた後、妨害波周波数を次の周波数に切替えて前記処理S3〜S11を実行するという処理を繰り返し、最終の妨害周波数についての合否判定が得られた段階で、その判定結果等を表示して測定が終了することになる(S12〜S14)。
【0014】
なお、上記のように一つのフィルタを用い、複数のダウンリンク周波数帯のうちの一つにフィルタの周波数を合わせた状態で、そのダウンリンク信号についてのスループットを測定してから、フィルタの周波数を次のダウンリンク周波数帯に合わせてスループットを測定するという処理を繰り返す方法については、例えば非特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】3GPP TS 36.521−1 V13.0.1(2016−01 TEST CASE 7.6.2A.5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記のように、一つのフィルタを用いて、複数のダウンリンク信号についてのスループットを順番に測定していく方法では、(妨害波1周波数当りに必要なスループット測定時間)×(スループット測定が必要なダウンリンク信号の数N)×(妨害波の周波数のステップ数M)分の測定時間が必要となり、非効率的である。
【0017】
本発明は、この問題を解決し、簡易且つ安価なシステム構成で、比較的短時間に測定を完了させることができる移動体端末試験装置および試験方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1の移動体端末試験装置は、
キャリアアグリゲーション方式に対応した試験対象の移動体端末に与えるための周波数帯が異なる複数のダウンリンク信号を同時並行的に出力するとともに、前記移動体端末から出力されるアップリンク信号を受信する送受信部(21)と、
帯域外ブロッキング性能の測定に必要なCWの妨害波を、所定周波数範囲にわたって所定周波数ステップで出力可能な信号発生器(22)と、
前記信号発生器から出力される妨害波を受け、該妨害波の基本波成分を除く周波数成分から、前記送受信部から出力される可能性のあるダウンリンク信号の周波数帯のうち、指定された周波数帯と重なる周波数成分を抑圧して出力することが可能な周波数可変型のフィルタ(23)と、
前記フィルタから出力される妨害波と前記複数のダウンリンク信号とを合成し、該合成信号を前記移動体端末に与える信号合成部(24)と、
前記合成信号を受けた前記移動体端末の前記複数のダウンリンク信号に対する妨害波周波数毎のスループットを、前記複数のダウンリンク信号に対して一括的に測定するスループット一括測定手段(31)と、
前記スループット一括測定手段によって測定された前記妨害波周波数毎のスループットが規定値以上か否かを判定するスループット判定手段(32)と、
前記スループット判定手段で、前記規定値に達しないと判定されたダウンリンク信号があるとき、当該ダウンリンク信号の周波数帯に前記フィルタの信号抑圧帯域が重なるように指定して、当該ダウンリンク信号についてのスループットの再測定を行なうスループット再測定手段(33)と、
前記スループット再測定手段で再測定されたスループットが前記規定値以上か否かを判定するスループット再判定手段(34)と、
ある妨害波周波数で前記スループット一括測定手段により測定されたスループットが前記スループット判定手段により前記規定値以上と判定された場合、および、前記スループット再測定手段で再測定された全てのダウンリンク信号のスループットが前記スループット再判定手段により前記規定値以上と判定された場合に、当該妨害波周波数における全てのダウンリンク信号の帯域外ブロッキング性能が基準を満たすものと判断し、前記信号発生器から出力される妨害波の周波数を次の妨害波周波数に切替えてスループット一括測定を行なわせる妨害波周波数切替手段(35)とを備えている。
【0019】
また、本発明の請求項2の移動体端末試験方法は、
周波数帯が異なる複数のダウンリンク信号と、帯域外ブロッキング性能の測定に必要で所定周波数範囲にわたって所定周波数ステップで周波数を可変できるCWの妨害波とを合成し、該合成信号をキャリアアグリゲーション方式に対応した試験対象の移動体端末に与えるとともに、前記合成信号を受けた移動体端末の前記複数のダウンリンク信号に対する妨害波周波数毎のスループットを、前記複数のダウンリンク信号に対して一括的に測定するスループット一括測定段階と、
前記スループット一括測定段階で測定された前記妨害波周波数毎のスループットが規定値以上か否かを判定するスループット判定段階と、
前記スループット判定段階で、前記規定値に達しないと判定されたダウンリンク信号があるとき、前記妨害波の周波数成分のうち、当該ダウンリンク信号の周波数帯と重なる周波数成分をフィルタにより抑圧した状態で、当該ダウンリンク信号に対するスループットの再測定を行なうスループット再測定段階と、
前記スループット再測定段階で再測定されたスループットが前記規定値以上か否かを判定するスループット再判定段階と、
ある妨害波周波数で一括測定されたスループットが前記スループット判定段階により前記規定値以上と判定された場合、および、前記スループット再測定段階で再測定された全てのダウンリンク信号のスループットが前記スループット再判定段階により前記規定値以上と判定された場合に、当該妨害波周波数における全てのダウンリンク信号の帯域外ブロッキング性能が基準を満たすものと判断し、前記妨害波の周波数を次の妨害波周波数に切替えて前記スループット一括測定段階に移行させる妨害波周波数切替段階とを含んでいる。
【発明の効果】
【0020】
このように、本発明では、ある妨害波周波数について複数のダウンリング信号に対するスループット測定を一括に行い、そのときのスループットが規定値以上であれば、妨害波に含まれるスプリアスの有無に関わらず、移動体端末はその妨害波周波数について帯域外ブロッキング性能が基準を満たしているものと判断し、次の妨害波周波数に切り替えてスループットの一括測定に移行する。したがって、仮に最短のケースとして、全ての妨害波周波数で全てのダウンリンク信号についての一括測定されたスループットが規定値以上で、妨害波1周波数当りのスループット一括測定時間をTa、周波数ステップ数をMとすれば、単純計算でTa×Mで測定を終了することができる。
【0021】
この測定時間は、複数のダウンリンク信号の周波数帯にそれぞれ対応した複数のフィルタを妨害波の出力ラインに挿入しておくことで実現可能であるが、前記したように、システムの構成が大掛かりとなり、高価になる。
【0022】
これに対し、本発明では、フィルタによるスプリアス抑圧は、スループットが規定値に達しないダウンリンク信号に対してのみ行なうので、一つのフィルタで実現でき、構成が容易で低コストで済む。
【0023】
また、本発明では、一括測定されたスループットに規定値を満たさないダウンリンク信号があった場合、フィルタにより、妨害波の周波数成分からそのダウンリンク信号の周波数帯と重なる周波数成分を抑圧した状態で、そのダウンリンク信号に対するスループットの再測定および再判定を行い、再測定されたスループットが規定値以上であれば、最初のスループット判定の結果が妨害波に含まれるスプリアス成分に起因するものであって、移動体端末自体の帯域外ブロッキング性能は基準を満たしているものと判断し、再測定された全てのダウンリンク信号についてのスループットが規定値以上であれば、次の妨害波周波数における一括測定に移行するようにしている。
【0024】
したがって、移動体端末自体の帯域外ブロッキング性能が全妨害波周波数について基準を満たしていると仮定し、妨害波周波数の全ステップ数Mのうち、例えば妨害波に含まれるスプリアス成分が3つのダウンリンク信号の周波数帯に入ってスループットを規定値より低くするような頻度(回数)をそれぞれα、β、γとし、1つのダウンリンク信号についてのスループット測定時間(再測定時間)をTbとすれば、
Ta×M+Tb×(α+β+γ)
で測定を終了することができる。
【0025】
この場合、全ての妨害波周波数についてのスループット一括測定に要する時間Ta×Mに、スループット再測定時間Tb×(α+β+γ)が加わるが、1つのフィルタを用いる場合で、そのフィルタの信号抑圧帯域を1つのダウンリンク信号に合わせてスループットを測定してから、フィルタの信号抑圧帯域を次のダウンリンク信号に合わせてスループットを測定するという動作を繰り返す従来方式に比べて、格段に短時間に測定を完了することができる。
【0026】
つまり、従来方式で、ダウンリンク信号の数をNとすれば、
Tb×M×N
の測定時間が必要となる。仮に、スループット一括測定に要する時間Taと、1つのダウンリンク信号のスループット測定時間Tbをほぼ等しいとし、(α+β+γ)=M/10、N=3とすれば、本発明の場合の測定時間は、
Ta×M+Tb×(α+β+γ)=Tb×M(1+1/10)
となり、従来方式の測定時間Tb×M×3に比べて格段に短くて済む。
【0027】
仮に、スプリアスによる再測定回数(α+β+γ)が毎回あったとしてもα+β+γ=Mであり、測定時間はTb×M×2までで収まり、従来方式の測定時間Tb×M×3に比べて2/3で済む。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態の構成図
図2】本発明の実施形態の要部の処理手順を示すフローチャート
図3】本発明の実施形態の動作を説明するための図
図4】本発明の実施形態の動作を説明するための図
図5】従来方式の測定手順を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用した移動体端末試験装置(以下、単に試験装置と記す)20の構成を示している。
【0030】
この試験装置20は、送受信部21、信号発生器22、フィルタ23、信号合成部24、試験制御部30、操作部40、表示部41を有している。
【0031】
送受信部21は、試験対象の移動体端末1との間で基地局を模擬した通信を行うものであり、ここではキャリアアグリゲーション方式に対応した移動体端末1に与えるための周波数帯が異なる複数Nのダウンリンク信号DL1〜DLNを同時並行的に出力するとともに、移動体端末1から出力されるアップリンク信号ULを受信する。なお、ここでは、周波数帯が異なる複数Nのダウンリンク信号DL1〜DLNが、模擬的に空間的に合成されたダウンリンク合成信号DLsumが送受信部21から出力されるものとする。
【0032】
信号発生器22は、移動体端末1に対する帯域外ブロッキング性能の測定に必要なCWの妨害波Wifを発生するものであり、その妨害波Wifの周波数Fif(基本波周波数)を所定周波数範囲(例えば1〜12750MHz)にわたって所定周波数ステップ(例えば1MHzステップ)で出力可能になっている。なお、実際の帯域外ブロッキング性能の測定には、上記周波数だけでなく、妨害波の出力レベルについても規格化されており、出力される妨害波の周波数に応じてその出力レベルも順次変更されることになる。
【0033】
上記のように、1MHz〜12GHzという広い周波数範囲の信号を生成する場合、一般的に、その上限周波数以上の固定周波数(例えば15GHz)のローカル信号と上限周波数以上で、出力周波数の可変範囲と同等の可変範囲(例えば15GHz〜27GHz)をもつ周波数可変のローカル信号とのミキシング(差のヘテロダイン)により得ている場合が多い。したがって、出力信号の基本波成分以外に、増幅素子の非線形性よる高調波やミキシングの際に発生する相互変調波等のスプリアス成分が含まれており、それらのスプリアス成分が、ダウンリンク信号の周波数帯に入ると、帯域外ブロッキング性能の測定に悪影響を与える可能性がある。
【0034】
フィルタ23は、信号発生器22から出力される妨害波Wifを受け、その妨害波Wifの基本波成分を除く周波数成分から、送受信部21から出力される可能性のあるダウンリンク信号の周波数帯のうち、指定された周波数帯と重なる周波数成分を抑圧して出力することが可能な周波数可変型のものであり、試験制御部30の制御により信号抑圧帯域が可変されるものとする。ここで、フィルタ23としては、キャリアアグリゲーション方式に用いられるダウンリンク信号のいずれの周波数帯(800MHz帯〜3.5GHz帯)にも対応できる広帯域型のものであり、その構成は任意である。
【0035】
信号合成部24は、フィルタ23から出力される妨害波Wif′と送受信部21から出力されたダウンリンク合成信号DLsum (=DL1〜DLN)とを合成し、その合成によって得られた合成信号Dwを移動体端末1に与える。
【0036】
一方、移動体端末1から出力されるアップリンク信号ULは、送受信部21に入力され、受信復調される。
【0037】
試験制御部30は、コンピュータにより構成され、操作部40等の操作で、移動体端末1に対して行なう試験の項目や、それに必要なパラメータ等の情報を設定させ、それらの情報にしたがって、送受信部21、信号発生器22、フィルタ23等に対する制御を行い、それによって得られた試験結果等を表示部41に表示させる。
【0038】
試験制御部30の処理は多くの試験項目に応じて多岐に渡っているが、ここでは、帯域外ブロッキング性能の試験を実行するための構成要件について説明する。
【0039】
帯域外ブロッキング性能の試験を行なうため、試験制御部30には、スループット一括測定手段31、スループット判定手段32、スループット再測定手段33、スループット再判定手段34、妨害波周波数切替手段35が設けられている。
【0040】
スループット一括測定手段31は、合成信号Dwを受けた移動体端末1の複数Nのダウンリンク信号DL1〜DLNに対する妨害波周波数Fif(i) 毎のスループットTP1(i) 〜TPN(i) を一括的に測定する。
【0041】
なお、ここでは、スループット測定の対象となるダウンリンク信号の数を、送受信部21から出力される全てのダウンリンク信号の数Nに等しいものとして説明するが、アップリンク信号ULと対をなして、主に制御情報等のやりとりに使用するダウンリンク信号については、予めスループット測定を行ない、その測定で問題がない場合に限って、残りの複数のダウンリンク信号についてのスループット測定を行なう場合もある。
【0042】
スループットの測定方法については種々考えられるが、ここでは、移動体端末1がダウンリンク信号を受信したことを送信相手に伝えるための受信確認メッセージをアップリンク信号ULに含めて返信してくることを利用している。即ち、送受信部21で受信復調されるアップリンク信号ULに含まれる受信確認メッセージを監視し、これを計数することで、ダウンリンク信号DL1〜DLNについての妨害波周波数Fif(i) 毎のスループットTP1(i)〜TPN(i)を求める。スループットの測定は、送受信部21で受信復調されるアップリンク信号ULから求める方法の他に、移動体端末1の内部の信号を監視して求める方法も採用できる。
【0043】
スループット判定手段32は、スループット一括測定手段31によって測定された妨害波周波数Fif(i) 毎のスループットTP1(i) 〜TPN(i) が、規格で定められた規定値R以上か否かを判定する。
【0044】
スループット再測定手段33は、スループット判定手段32で、規定値Rに達しないと判定されたダウンリンク信号DLxがあるとき、当該ダウンリンク信号DLxの周波数帯にフィルタ23の信号抑圧帯域が重なるように指定して、当該ダウンリンク信号DLxについてのスループットの再測定を行なう。
【0045】
また、スループット再判定手段34は、スループット再測定手段33で再測定されたスループットTPxが規定値R以上か否かを判定する。
【0046】
妨害波周波数切替手段35は、ある妨害波周波数Fif(i) でスループット一括測定手段31により一括測定されたスループットTP1(i) 〜TPN(i) の全てがスループット判定手段32により規定値R以上と判定された場合、および、スループット再測定手段33で再測定されたダウンリンク信号DLx1、DLx2、…のスループットTPx1、TPx2、…の全てがスループット再判定手段34により規定値R以上と判定された場合に、当該妨害波周波数Fif(i) における全てのダウンリンク信号DL1(i)〜DLN(i)の帯域外ブロッキング性能が基準を満たすものと判断し、信号発生器22から出力される妨害波Wifの周波数を次の妨害波周波数Fif(i+1) に切替えてスループット一括測定を行なわせる。
【0047】
図2は、この試験制御部30の処理手順の一例を示すフローチャートである。以下、このフローチャートにしたがって、本発明の試験装置20の動作を説明する。
【0048】
試験開始前に、予めキャリアアグリゲーション方式の通信に用いる周波数帯などの情報が試験者によって設定されているものとする。
【0049】
始めに試験の準備処理として、試験者によって指定された周波数帯のいずれかを用いて、移動体端末1との間でリンクが確立され、通信に使用する電力等の設定がなされる(S21)。また、この準備段階では、フィルタ23は妨害波の基本波成分さえ通過できる状態であれば任意の特性でよく、スルー状態であってもよい。
【0050】
次に、妨害波周波数のステップ数を表す変数iを1に初期設定し、妨害波周波数をFif(i) に設定(出力レベルの設定も含む)する(S22、S23)。
【0051】
これによって、送受信部21から出力された複数Nのダウンリンク信号に周波数Fif(i) に設定された妨害波Wifが合成され、その合成信号Dwが移動体端末1に入力される。この合成信号Dwを受けた移動体端末1は、合成信号Dwに含まれるダウンリンク信号DL1〜DLNを受信し、それに対する受信確認メッセージを含むアップリンク信号ULを送信する。
【0052】
このアップリンク信号ULに含まれる受信確認メッセージから、妨害波周波数Fif(i) における各ダウンリンク信号DL1(i) 〜DLN(i) についてのスループットTP1(i) 〜TPN(i) が一括測定される(S24)。
【0053】
そして、これら測定されたスループットTP1(i) 〜TPN(i) が、規定値R以上か否かが判定され(S25)、全てのスループットTP1(i) 〜TPN(i) が規定値R以上であれば、妨害波周波数Fif(i) に対する帯域外ブロッキング性能が合格範囲に入っていることを表す合格判定結果を図示しないメモリに記憶する(S26)。
【0054】
ここで、例えば、図3の(a)のようにスループットの測定対象となる3つのダウンリンク信号DL1〜DL3の周波数帯がB1〜B3のように設定されている状態で、図3の(b)のように、基本波成分Wrの妨害波Wifのスプリアス成分Wsp1、Wsp2、…のレベルがダウンリンク信号のレベルに比べて十分低く且つ周波数帯B1〜B3に入らない状態、あるいは、図3の(c)のように妨害波Wifのスプリアス成分Wsp1、Wsp2、…のうち、周波数帯B1〜B3に入るものがあったとしてもそのレベルがダウンリンク信号のレベルに比べて十分低い状態であれば、それらのスプリアス成分よるダウンリンク信号のスループットへの影響が小さく、その妨害波周波数Fif(i) についての移動体端末1自体の帯域外ブロッキング性能が基準を満たしていれば、測定されるスループットは、規定値R以上となる可能性が高くなる。つまり、このようなフィルタ23によるスプリアス成分抑圧がない悪条件下で全てのスループットが規定値R以上であれば、この妨害波周波数における移動体端末1の帯域外ブロッキング性能が基準を満たしていると判断できる。
【0055】
また、例えば図4の(a)の3つのダウンリンク信号DL1〜DL3の周波数帯B1〜B3に対し、図4の(b)のように、妨害波Wifのスプリアス成分Wsp1、Wsp2、…のいずれか(ここでは、Wsp1、Wsp3)が比較的大きなレベルで周波数帯B1〜B3のいずれか(ここでは、B1、B3)に入いると、その周波数帯を用いているダウンリンク信号についてのスループットが規定値Rに達しなくなる可能性がある。
【0056】
このように一括測定されたスループットTP1(i) 〜TPN(i) のいずれかが、規定値Rに達していないと判定された場合、例えば、図4の(c)のように、規定値Rに達していないスループットTPxに対応するダウンリンク信号DLx(ここでは、DL1、DL3)の周波数帯(ここでは、B1、B3)の一つ(ここではB1)にフィルタ23の信号抑圧帯域が重なるようにフィルタ23を制御して、図4の(d)のように、ダウンリンク信号DLx(ここでは、DL1)の周波数帯(ここでは、B1)に入るスプリアス成分(ここでは、Wsp1)を十分低いレベルに抑圧した状態でダウンリンク信号DLxについてのスループットを再測定する(S27、S28)。
【0057】
また、他にも規定値Rに達していないスループットTPxがある場合には、図4の(e)のように、別の周波数帯(ここではB3)に対して同様のフィルタ制御を行い、図4の(f)のように、ダウンリンク信号DLx(ここでは、DL3)の周波数帯(ここでは、B3)に入るスプリアス成分(ここでは、Wsp3)を十分低いレベルに抑圧した状態で、スループット再測定を行なうという処理を繰り返し、規定値Rに達していない全てのスループットTPx1、TPx2、…についての再測定が完了した後に、それら再測定されたスループットTPx1′、TPx2′、…が規定値R以上か否かの再判定を行なう(S29、S30)。
【0058】
そして、再判定処理(S30)で、全てのスループットTPx1′、TPx2′、…が規定値R以上と判定された場合には、最初のスループット判定結果が、妨害波に含まれるスプリアス成分に起因するものであるとし、処理S26に移行して、妨害波周波数Fif(i) に対する帯域外ブロッキング性能が合格範囲に入っていることを表す合格判定結果を記憶する。
【0059】
また、再判定処理(S30)で、スループットTPx1′、TPx2′、…のいずれかが規定値Rに達していないと判定された場合には、妨害波周波数Fif(i) に対する帯域外ブロッキング性能が不合格であることを表す不合格判定結果を図示しないメモリに記憶する(S31)。
【0060】
このようにして、妨害波周波数Fif(i) についての帯域外ブロッキング性能の合否判定結果が記憶されると変数iが1増加され、処理S23に戻って妨害波の周波数が次の周波数Fif(i) に変更されて同様の処理が繰り返され、i=Mの最終の妨害波周波数Fif(i) についての合否判定結果が得られると、全ての妨害波周波数についての合否判定結果等が表示されて、測定が終了する(S32〜S34)。
【0061】
以上のように、実施形態の試験装置20は、妨害波に含まれる有害なスプリアス成分に対する抑圧処理は、スループットが規定値に達しないダウンリンク信号に対してのみ行なっているから、一つの周波数可変型のフィルタ23で実現でき、構成が容易で低コストで済む。
【0062】
また、一括測定されたスループットに規定値Rを満たさないダウンリンク信号があった場合、フィルタ23により、妨害波の周波数成分からそのダウンリンク信号の周波数帯と重なる周波数成分を抑圧した状態で、そのダウンリンク信号に対するスループットの再測定および再判定を行い、再測定されたスループットが規定値R以上であれば、最初のスループット判定の結果が妨害波に含まれるスプリアス成分に起因するものであって、移動体端末自体の帯域外ブロッキング性能は基準を満たしているものと判断し、再測定された全てのダウンリンク信号についてのスループットが規定値以上であれば、次の妨害波周波数における一括測定に移行している。
【0063】
したがって、移動体端末1自体の帯域外ブロッキング性能が全妨害波周波数について基準を満たしていると仮定し、妨害波周波数の全ステップ数Mのうち、例えば妨害波に含まれるスプリアス成分が3つのダウンリンク信号(N=3)の周波数帯に入ってスループットを規定値Rより低くするような頻度(回数)をそれぞれα、β、γとし、1つのダウンリンク信号についてのスループット測定時間(再測定時間)をTbとすれば、
Ta×M+Tb×(α+β+γ)
で測定を終了することができる。ただし、妨害波周波数の切替えに要する時間やフィルタ23の信号抑圧帯域の切替えに要する時間は無視している。
【0064】
これに対し、1つのフィルタを用いる場合で、そのフィルタの信号抑圧帯域を1つのダウンリンク信号に合わせた状態でスループットを測定してから、フィルタの信号抑圧帯域を次のダウンリンク信号に合わせてスループットを測定するという動作を繰り返して、全ての妨害波周波数についてのスループットを測定する従来方式では、ダウンリンク信号の数をNとすれば、
Tb×M×N
の測定時間が必要となる。仮に、スループット一括測定に要する時間Taと、1つのダウンリンク信号のスループット測定時間Tbをほぼ等しいとし、(α+β+γ)=M/10、N=3とすれば、本発明の実施形態の試験装置20による測定時間は、
Ta×M+Tb×(α+β+γ)=Tb×M(1+1/10)
となり、従来方式の測定時間Tb×M×3に比べて格段に短くて済む。
【0065】
仮に、スプリアスによる再測定回数(α+β+γ)が毎回あったとしてもα+β+γ=Mであり、測定時間はTb×M×2までで収まり、従来方式の測定時間Tb×M×3に比べて2/3で済む。
【0066】
なお、上記説明では、ある妨害波周波数において、ダウンリンク信号についてのスループットの再測定結果のいずれかが規定値Rを満たさない場合に、不合格判定結果を記憶して、次の妨害波周波数への測定に移行していたが、スループットの再測定結果のいずれかが規定値Rを満たさない場合に、測定を終了する方法や、別の処理(例えば妨害波レベルを下げて再度測定を行なう処理)を実行することも可能ある。
【符号の説明】
【0067】
20……移動体端末試験装置、21……送受信部、22……信号発生器、23……フィルタ、24……信号合成部、30……試験制御部、31……スループット一括測定手段、32……スループット判定手段、33……スループット再測定手段、34……スループット再判定手段、35……妨害波周波数切替手段、40……操作部、41……表示部
図1
図2
図3
図4
図5