【0022】
本発明で用いることができる微生物としては、特許文献4に開示されるのと同様に、以下の鉄還元細菌を挙げることができる。
・シワネラ アルゲ[Shewanella algae:ATCC51181株]
・ゲオバクター属[代表種:Geobacter metallireducens:ゲオバクター メタリレデューセンス、ATCC53774株]
・デスルフォモナス属[代表種:Desulfuromonas palmitatis:デスルフォモナス パルミタティス:ATCC51701株]
・デスルフォムサ属[代表種:Desulfuromusa kysingii:デスルフォムサ キシンリDSM(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen)7343株]
・ペロバクター属[代表種:Pelobacter venetianus:ペロバクター ベネティアヌス:ATCC2394株]
・フェリモナス属[Ferrimonas balearica:フェリモナス バレアリカ:DSM9799株]
・エアロモナス属[Aeromonas hydrophila:エアロモナス ヒドロフィラ:ATCC15467株]
・スルフロスピリルム属[代表種:Sulfurospirillum barnesii:スルフロスピリルム バーネシイ:ATCC700032株]
・ウォリネラ属[代表種:ウォリネラ スシノゲネス:Wolinella succinogenes:ATCC29543株]
・デスルフォビブリオ属[代表種:Desulfovibrio desulfuricans:デスルフォビブリオ デスルフリカンス:ATCC29577株]
・ゲオトリクス属[代表種:Geothrix fermentans:ゲオトリクス フェルメンタンス:ATCC700665株]
・デフェリバクター属[代表種:Deferribacter thermophilus:デフェリバクター テルモフィルス:DSM14813株]
・ゲオビブリオ属[代表種:Geovibrio ferrireducens:ゲオビブリオ フェリレデューセンス:ATCC51996株]
・ピロバクルム 属[代表種:Pyrobaculum islandicum:テルモプロテウス アイランディカム:DSM4184株]
・テルモトガ属[代表種:Thermotoga maritima:テルモトガ マリティマ:DSM3109株]
・アルカエグロブス属[代表種:Archaeoglobus fulgidus:アルカエグロブス フルギダス:ATCC49558株]
・ピロコックス属[代表種:Pyrococcus furiosus:ピロコックス フリオサス:ATCC43587株]
・ピロディクティウム属[代表種:Pyrodictium abyssi:ピロディクティウム アビーシイ:DSM6158株]
【実施例】
【0031】
以下、本願に係る各発明につき、鉄還元細菌としてシワネラ、または、他の微生物として酵母を用い、種々の被回収液で検証した好適形態を例示する。まず始めに、本実施例で用いた金属回収用バッグの構成について説明する。
【0032】
《実施例1:金属回収用バッグの調製》
本実施例では、以下の表1に示すバッグA及びバッグBの2種類(何れも外寸が15mm×55mmであり、開口部の間口は約10mm)を準備した。
【0033】
【表1】
【0034】
この2つのバッグでは、外層となるヒートシール性不織布は、公知の湿式法により、ポリプロピレンとポリエチレンとからなる市販の芯鞘型複合繊維「ウベニットウSCE」(商品名:宇部日東化成(株)製)のみからなる湿式不織布を作製し、共用した。ここで、各バッグを構成する外層の厚さは、「デジマチック標準外側マイクロメータ MDC−MJ/PJ 1/1000mm」(商品名:(株)ミツトヨ製)により500g荷重時の測定を5点行い、算術平均値で記録した。また、最大開孔径は、ポロメータ(Perm Porometer、商品名:PMI社製)を用いてバブルポイント法で測定した。平均繊維径は、電子顕微鏡により視野範囲にある繊維の直径から平均値により測定算出した。
【0035】
さらに、各内層となる静電紡糸不織布として、バッグAでは「ホモポリアクリロニトリル」(商品名:三井化学(株)製)のみを用い、バッグBでは「スミカエクセル5200P」(商品名:住友化学(株)製)を主体とし、親水性を付加する目的で市販のポリビニルピロリドンを添加して作製した。静電紡糸不織布の調製に当たっては、公知の静電紡糸技術によった。始めに、上記各組成に調製した紡糸用のポリマー溶液を用意した。次いで、ケースに周囲を囲われた空間(縦:1000mm、横:1000mm、高:1000mm)内に、ポリマー溶液を吐出できる内径0.40mmの金属製ノズルを直流高電圧装置に接続した状態で配置し、吐出されたポリマー溶液を捕集するための無端ベルトをアースし、ケース内に配置した。この金属製ノズルに17kVの電圧を印加することで、ポリマー溶液を3g/hの速度で吐出させて繊維化し、表1に示す目付並びに厚さを有する不織布を得た。
【0036】
尚、前述のとおり、微生物の封入には、内層に使用する静電紡糸不織布の最大開孔径が直接的に関連する。従って、金属回収のために用いるシワネラの見掛け上の大きさは2μm×0.5μmであることから、内層を構成する静電紡糸不織布としては、何れのバッグも適正な最大開孔径を有することが理解できる。
【0037】
《実施例2:金属回収用包装体による前培養》
次いで、本発明の金属回収用包装体の実施例として、上述した2種のバッグA及びバッグBをオートクレーブによって滅菌した。また、本実施例では、シワネラを予め包装体外で前培養した。前培養操作は、市販のTSB(Trypticase Soy Broth:トリプティカーゼ ソイ ブロス)培地により、30℃に保ったインキュベーターで14時間行った後、細菌細胞計数盤での計数によって所定個数の菌体を含む培養液とした。この培養液を各バッグの内層間に開口から接種後、ヒートシラーで封入することで各金属回収用包装体(以下、各々、包装体A若しくは包装体Bと称する)とした。この包装体は生理食塩水で洗い、後に述べる各回収実験に供した。さらに、包装体の外部環境への漏出防止効果を検証するため、別途用意した培養液に包装体を浸漬し、インキュベーター中で培養操作を続けたが、濁り等は確認されず、包装体へのシワネラ封入が確実に行われたことを確認した。
【0038】
《実施例3:バッチ式のパラジウム回収》
続けて、パラジウムを所定濃度に調製した以下の表2に示す被回収液Aに包装体Aをバッチ式で浸漬し、金属回収を行った実施例3について説明する。まず、この実施例3では、内層にPANからなる静電紡糸不織布を用いた包装体A(2.6×10
9cells/袋:乾燥重量3.0×10
−4g/袋)を2袋用い、pHが6.8〜6.9のパラジウム含有水溶液(被回収液A)を10mL容れたバイアル瓶中に浸漬した。当該バイアル瓶のヘッドスペースを窒素ガスでパージしながら、120rpmのマグネチックスターラーで5時間にわたって撹拌し、包装体A内に封入されたシワネラ(バイアル中における菌体濃度0.52×10
15cells/m
3相当)に取り込ませた。これら一連の回収によって、被回収液Aの初期濃度に含まれるパラジウムに対する上記濾液中のパラジウムの回収率を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)を光源とする発光分光分析法(以下、ICP法)によって求めたところ約54%であった。このナノメタル粒子の収率から、回収に用いた菌体乾燥重量6.1×10
−4gと得られたメタル粒子の重量は5.8×10
−4gであった。この回収例から、乾燥菌体重量に対する回収されたパラジウムからなるメタルの重量との比は、0.9倍となった。
【0039】
【表2】
【0040】
《実施例4:連続式のパラジウム回収》
次いで、実施例3で上述したバッチ式の代わりに、連続式のパラジウム回収とした実施例4について説明する。この実施例4では、実施例3の包装体Aを2袋用い、前述したバイアル瓶の蓋に取り付けたチューブを介して、表3に示すパラジウムを含有するリン酸ナトリウムカリウム緩衝液(pH6.7)と、金属を取り込むための電子供与体としてのギ酸を含有する同緩衝液とを所定の供給速度で個別かつ連続的に供給しながら、瓶内の被回収液Bを約7.5mLに保ち、前述の窒素パージ並びに攪拌条件下、30時間にわたって金属取り込みを行った(バイアル中における菌体濃度0.69×10
14cells/m
3相当)。この実施例4に係る連続式の金属回収では、パラジウムの回収率が約90%(回収重量8.8×10
−3g)であった。
【0041】
【表3】
【0042】
《実施例5及び比較例:バッチ式における包装体の通液性検証》
次に、本発明の包装体を使用した回収方法において、包装体の有無による金属回収速度を検証した結果について説明する。まず、実施例5として内層がポリエーテルスルホンを主体とする静電紡糸不織布で構成される包装体B(5.3×10
10cells/袋:乾燥重量6.2×10
−3g/袋)を1袋用意し、以下に示す表4のパラジウム含有組成の被回収液Cに浸漬し、当該被回収液C(pH5.5)を部分標品としてICP法による液相パラジウム濃度を2時間にわたって経時的に求めた(バイアル中における菌体濃度5.3×10
15cells/m
3相当)。また、比較のため、包装体を使用せず、表5に示す被回収液D(pH6)にシワネラを直接懸濁(バイアル中における菌体濃度5.0×10
15cells/m
3相当)させ、同様に液層パラジウム濃度の経時的変化を確認した。その結果、縦軸に液層パラジウム濃度(ppm)、横軸に時間(h)を採った
図2から理解できるように、双方ともほぼ同等の液層パラジウム濃度の減少傾向が確認できた。このことから、本発明の好適例としての実施例5と、直接被回収液にシワネラを懸濁した系とでは、シワネラに対する金属取り込みの速度は実質的に同等であり、本発明の技術を適用することにより、包装体が被回収液の通液性に影響せず、極めて効率的な金属回収を行い得ることが実証された。この検証では、従来知られているマクロカプセルなどの微生物封入形態との比較を省略するが、多孔質の不織布素材で構成された本発明の金属回収用バッグでは、実質的に通液抵抗の無い空隙に富む形態を採るため、
図2に例示する2時間程度であっても効率的な金属回収を実現することができた。
【0043】
【表4】
【0044】
【表5】
【0045】
《実施例6:バッチ式によるICチップ由来の金回収》
次いで、使用済のICチップから王水で有価金属を抽出し、これを被回収液Eとした実施例について説明する。始めに、ICチップを王水に浸漬し、種々の有価金属を平衡濃度に達するまで抽出した。この操作で抽出した被回収液E中(pH1.3)の有価金属をICP法で定量した結果を表6に示す。
【0046】
【表6】
【0047】
前記被回収液Eに対して、内層がポリエーテルスルホンを主体に構成された耐酸性の包装体B(5.0×10
10cells/袋:乾燥重量5.8×10
−3g/袋)を2袋用い、実施例3と同様なバッチ式で金属の取り込みを実施した。この際、バイアル瓶中の被回収液Eに対する菌体濃度は1×10
16cells/m
3相当であり、バッグ投入時の初期pHは1.3であった。約6時間にわたって金属の取り込みを行い、ICP法による被回収液中の各種金属の濃度を測定した。その結果、初期濃度が112ppmの金の場合、6時間後の被回収液E中の金濃度は2.2ppmとなり、約98%を回収することができた。この実施例6から、2袋の菌体乾燥重量1.2×10
−2g並びにメタル粒子としての金の重量1.1×10
−3gの比から、0.09と算出できる。尚、詳細な数値は省略するが、この回収試験におけるコバルトやニッケルについて同様な測定を実施したところ、6時間においては各々20〜30%程度の回収率であることを確認した。
【0048】
ここで、外層に使用したヒートシール性不織布の王水耐性を検証した結果について説明する。前述のバッグに使用したヒートシール性不織布(目付10g/m
2)の生産方向であるタテ方向、及びこれとは直交するヨコ方向に関し、各々、幅5cm×長さ20cmに12枚ずつ裁断し、短冊状のサンプルを24枚調製した。このサンプルのうちの16枚を、塩酸と硝酸とを3:1の体積比で混合した王水272mLに完全に浸した。これらサンプルは、所定時間の経過後、大量の純水で洗浄、乾燥した。浸漬しなかった処理前のサンプル、8時間浸漬したサンプル、並びに、72時間浸漬したサンプルに関し、各々、JIS L1096「一般織物試験法」に規定された破断時の引張強さ並びに伸び率を引張試験器((株)オリエンテック社製)によって、チャック間距離10cm、引張速さ100mm/分で測定した。その結果をn=4の平均値として表7に示す。
【0049】
【表7】
【0050】
この表7からも理解できるとおり、本実施例で用いたヒートシール性不織布は、上記王水への浸漬が最大72時間であっても実質的に強度に影響は認められなかった。また、係る各サンプルの外観は肉眼で観察したところ、処理前サンプルと王水浸漬を経たサンプルとに差違はなかった。別途、溶融紡糸に使われる市販のポリエチレン並びにポリプロピレンの各ペレットに上記浸漬検証を行ったところ、外観上、若干の黄変は観察されたが、重量変化も含めて樹脂の性状に変化はなかった。このことから、本実施例で用いたバッグ並びに包装体は、王水に対する耐酸性を有することが確認できた。
【0051】
《実施例7:バッチ式による自動車用排気ガス触媒由来の金属回収》
次いで、白金属が多用されている使用済の自動車用排気ガス触媒から王水で有価金属を抽出した後、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH6.5に調整した被回収液Fを用い、金属回収を行った実施例を説明する。抽出対象が異なり、被回収液のpHを中性域としたこと以外は、上述の実施例6と同様に操作を行った。当該被回収液Fに含まれる各金属の濃度を表8に示す。
【0052】
【表8】
【0053】
この被回収液Fに、包装体A(6.0×10
9cells/袋)を2袋用い、実施例3と同様なバッチ式で金属の取り込みを実施した。バイアル瓶の容積から算出した被回収液Fに対する菌体濃度は6.0×10
14cells/m
3相当であり、電子供与体として50mmol/Lのギ酸ナトリウムも添加し、約6時間にわたって金属の取り込みを行い、ICP法による被回収液中の各種金属の濃度を測定した。その結果、初期濃度が53.5ppmのPdの場合、6時間後の被回収液中のPd濃度は2.1ppm、また、初期濃度が47.2ppmのPtも、6時間後の被回収液中のPt濃度は3.3ppmとなり、それぞれ約96%、約93%を回収することができた。
【0054】
《実施例8:酵母を用いたバッチ式によるICチップ由来の金回収》
次に、実施例6と同様な使用済のICチップから王水で有価金属を抽出し、これを被回収液Gとした系で、鉄還元細菌に代えて酵母を利用した実施例について説明する。前述した様にICチップを王水に浸漬して平衡濃度に達するまで有価金属を抽出し、pH3.3に調整した被回収液Gとした。この被回収液Gに含まれる各種の有価金属をICP法で定量した結果を表9に示す。
【0055】
【表9】
【0056】
この被回収液Gに、耐酸性を有する前述の包装体B(1.0×10
9cells/袋)を1袋用い、前述のバッチ式で金属回収を行った。使用する酵母として市販のドライイーストを用い、十分量の菌数(バイアル瓶の容積から算出した被回収液Fに対する菌体濃度は1.0×10
14cells/m
3相当)を前述の包装体Bに封入した。この包装体を予め1%グルコース水溶液10mLに浸漬し、33℃で90分間、振とう撹拌し、乾燥酵母を再水化(復水化)した。つぎに、グルコース水溶液から包装体を取り出し、生理食塩水で洗浄した後、吸水ろ紙を用いて包装体内の残液を置換除去した。このような包装体によって、電子供与体を添加しない条件で、約24時間後まで金属回収実験を行った。ICP法による被回収液中の各種金属の濃度測定の結果、初期濃度が123ppmであったAu(金)は6時間後に87%(残留量として16.0ppm)が微生物によって回収され、24時間後には97%(残留量として3.7ppm)を回収することができた。尚、この実施例8による6時間経過後の金の回収率は、前述した実施例6の98%と比較すると低くなり、また、この経過時間におけるコバルト、鉄、ニッケル及び銅の回収率は何れも1%以下であった。従って、この実施例8と前述した実施例6の結果を較べることによって、酵母利用による金属回収の特性として、酵母の金属吸着速度はシワネラに較べて緩やかではあるが、金に対して特異性の高い吸着を行い得ることが判った。
【0057】
《実施例9:各種サンプルによる微生物の透過性評価試験》
続いて、各種製法によって異なる平均開孔径の不織布等を準備し、前述したドライイーストの懸濁液によって芽胞を含む微生物の透過性を評価した結果について説明する。前述のとおり、本発明の金属回収用バッグでは、内層に表1で例示した、比較的小さな繊維径の不織布を用いることによって開孔径を小さく採り、微生物がバッグ内部から外部への漏洩を防ぐ構成を採用している。このような乾燥状態の微生物封入機能を検証する目的で、表10に示すような不織布及び織物を作製、準備した。尚、同表中、目付を始めとする各パラメータは、前述した表1を参照して説明した測定手段によって求めた(段落[0034]参照)。また、繊維組成欄の略号は表1と同一にしてある。
【0058】
【表10】
【0059】
微生物の透過性評価手順として、まず、前述した市販のドライイーストを乾燥した粉末のまま滅菌処理した純水に所定量懸濁した。この懸濁操作の後、直ちに、表10に示す5種類のサンプルを、各々、バイアル瓶の口にかぶせた状態で、それぞれのサンプルに調製した懸濁液を速やかに室温で流下させた。この流下液は、その一部を前述したGYP培地に加え、好気的に64時間培養した。この培養後の濁度を目視で観察したところ、前述した2種類のバッグの内層に用いている不織布a並びに不織布bの流下液では全く濁りを認めず、同バッグの外層に用いている不織布c、分割繊維を用いた不織布d、並びに分割繊維を用いた織物では明らかに濁っていた。これらのことから、最大開孔径が2μm以下である2つの不織布は、芽胞状態を含む酵母の封入に有効であることが確認された。