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特開2017-20100金属回収用バッグ、金属回収用包装体並びに金属の回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-20100(P2017-20100A)
(43)【公開日】2017年1月26日
(54)【発明の名称】金属回収用バッグ、金属回収用包装体並びに金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/18 20060101AFI20170105BHJP
   C22B 11/00 20060101ALI20170105BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20170105BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20170105BHJP
【FI】
   C22B3/18
   C22B11/00 101
   B01J20/22 B
   B01D15/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-58956(P2016-58956)
(22)【出願日】2016年3月23日
(31)【優先権主張番号】特願2015-137486(P2015-137486)
(32)【優先日】2015年7月9日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
(71)【出願人】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】小西 康裕
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 範三
(72)【発明者】
【氏名】小林 剛
(72)【発明者】
【氏名】道畑 典子
(72)【発明者】
【氏名】松井 康裕
【テーマコード(参考)】
4D017
4G066
4K001
【Fターム(参考)】
4D017AA01
4D017BA13
4D017CA12
4D017CB05
4D017DA01
4D017EA07
4G066AB29B
4G066BA03
4G066BA05
4G066BA16
4G066BA38
4G066CA46
4G066DA08
4K001AA04
4K001AA41
4K001BA19
4K001DB38
(57)【要約】
【課題】微生物によって種々の金属を回収するに際して、外部環境の汚染を回避し、しかも効率的にメタル粒子を得ることが可能な金属回収用バッグ、金属回収用包装体、及び金属回収方法を提供する。
【解決手段】前記金属回収用バッグ11は、金属回収用の微生物を封入するためのバッグであって、バッグの外層13にヒートシール性不織布が配され、バッグの内層15に微生物が非透過である静電紡糸不織布を配してなる。前記金属回収用包装体は、前記金属回収用バッグに微生物が封入されている。前記金属回収方法では、前記金属回収用包装体を被回収液に浸漬する工程、前記金属回収用包装体を前記被回収液から取り出した後、前記金属を取り込んだ微生物を破壊処理し、前記金属をメタル粒子として取り出す工程を含む。前記微生物としては、鉄還元細菌又は酵母が好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属回収用の微生物を封入するためのバッグであって、前記バッグの外層にヒートシール性不織布が配され、前記バッグの内層には微生物が非透過である静電紡糸不織布を配してなることを特徴とする、金属回収用バッグ。
【請求項2】
請求項1に記載の金属回収用バッグに微生物を封入したことを特徴とする、金属回収用包装体。
【請求項3】
前記微生物が鉄還元細菌である、請求項2に記載の金属回収用包装体。
【請求項4】
前記微生物が酵母である、請求項2に記載の金属回収用包装体。
【請求項5】
金属回収用包装体が耐酸性を有する、請求項2〜4のいずれか一項に記載の金属回収用包装体。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか一項に記載の金属回収用包装体を金属が含まれた被回収液に浸漬する工程、前記金属回収用包装体を前記被回収液から取り出した後、前記金属を取り込んだ微生物を破砕処理した後、前記金属をメタル粒子として取り出す工程を含むことを特徴とする、金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の金属を回収するため、金属が含まれる液体中に、当該金属を吸着若しくは還元により粒子化する微生物を利用した金属回収技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、我が国は様々な鉱物資源を輸入することで産業発展を営んできた。昨今では、限られた国土を海洋に取り囲まれる我が国の地理的優位性を活かすため、希少な鉱物資源の有効利用を図る様々な試みがなされている。係る技術の一例として、特公昭47−14602号公報(以下、特許文献1)には、硫化鉱物に作用する特殊な微生物であるフェロバチラス フェロオキシダンス(Ferrobacillus Ferrooxidans)などを用いた、微生物による硫化鉱物中の金属回収技術が開示されている。この技術では、上記微生物を接種し、かつ微量の燐酸アンモニアが添加された酸性撒水液を、低品位鉱石あるいは微量の有価金属を含む廃滓(工場等から排出される泥状の廃棄物)などに作用させ、当該撒水液内に抽出された鉄及び銅を回収する方法が開示される。
【0003】
この特許文献1の技術では、金属の被回収対象に接触させる撒水液に微生物を含有せしめるが、回収環境によっては使用した撒水液を全て収集することが難しい場合がある。これに対して、特開2003−113427号公報(以下、特許文献2)では、有価金属として銅を例示し、廃水中の銅を回収するため、疎水性金属抽出薬である5−ドデシルサリシルアルドオキシムが主成分である「LIX860」(商品名:BASF社製)をアルギン酸塩からなるマイクロカプセル中に包含させる技術が提案されている。この特許文献2では、銅含有廃液を当該マイクロカプセル型金属抽出剤が充填されたカラムに通して銅を吸着し、次いで1〜2N程度の希硫酸により逆抽出を行うことで回収が図られる。このような金属吸着並びに回収操作を繰り返し行うことでマイクロカプセル型金属抽出剤の分離能力は低下するが、所定濃度の硫酸銅溶液によって分離能力の再生を行い得るとの開示がある。
【0004】
また、金属を回収する上で、死菌体であっても有価金属との接触により回収を可能とする技術が特開2009−6269号公報(以下、特許文献3)で開示されている。当該特許文献3の技術によれば、有価金属としてパラジウム若しくは抗菌効果を有する銀を例示し、応用例として銀イオンを共存させて洗濯を行い、係る洗濯水にシワネラ(Shewanella)属の微生物を含む液体に接触させ、当該微生物の生死に関わらず、効率的に銀回収を行い得るとの記載がある。この特許文献3の技術では、有価金属回収に用いる微生物を活性炭等に担持する態様が開示されている。
【0005】
さらに、特開2007−113116号公報(以下、特許文献4)には、金属イオンの状態で溶液中に存在する貴金属類および白金属金属類からなる群から選ばれた1種以上の金属を短時間内に還元し、0価のメタルナノ粒子として回収する技術が開示されている。この技術によれば、シワネラ アルゲ(Shewanella Algae:ATCC51181株)に代表されるシワネラ属を始めとする様々な嫌気性の鉄還元細菌を例示し、当該細菌の浸出作用により深海鉱物資源や陸上鉱物である金属含有酸化鉱などから水溶液中に溶出せしめた、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄、亜鉛、鉛などの酸化物または水酸化物を、弱酸性若しくは弱塩基性環境下で還元して菌体に濃縮回収し得るとの開示がある。加えて、被回収物に含まれる白金、レニウム、オスニウム、イリジウム、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウムなどの白金属金属類は、菌体と共存する上記水溶液に少量しか含まれず、上記鉱物残渣に残存するとの記載がある。しかしながら、これら白金属金属類を含む残渣を破砕、粉砕した後に菌体に対する各種金属の取り込みを行うことでバッチ式の反応容器であっても効率的に浸出処理が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭47−14602号公報([特許請求の範囲]など)
【特許文献2】特開2003−113427号公報([特許請求の範囲]、[0012]〜[0015]、[図3]など)
【特許文献3】特開2009−6269号公報([特許請求の範囲]、[0001]、[0050]、[0106]及び[0107]など)
【特許文献4】特開2007−113116号公報([特許請求の範囲]、[0013]、[0018]、[0023]及び[0024]、並びに[0026]及び[0027]など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した有価金属の回収に関わる背景技術では、各金属に種々の化合物ないしは特殊な微生物を用い、良好な回収率を発揮すべく工夫がなされているが、例えば微生物を封入したマイクロカプセルを用いる場合、当該カプセルの材質を介して菌体と被回収液とが接触する必要があり、菌体を被回収液側に透過させず、しかも通液抵抗を低くして回収速度を高めることは難しい。同様に、微生物を濾過し得る素材としてメンブレンフィルタが広く使われているが、メンブレンフィルタの場合、後段で述べるとおり、空隙率が比較的低いため、通液抵抗自体が高く効率的な被回収液の疎通を図ることはできない。また、ICチップや自動車の排気ガス用触媒を被回収物とする場合、例えば白金に対する王水など、金属によっては酸性抽出液のみで被回収液側に抽出し得る。しかしながら、被回収液での有価金属の濃度は数ppmと低い場合もあり、上記微生物と酸性抽出液である被回収液との接触を確保し、しかも、微生物による外部環境への汚染を回避することは、さらに難易度が高いという問題点があった。
【0008】
他方、前述した特許文献4の技術では、微生物による回収を促進するための電子供与体として乳酸ナトリウムまたはギ酸ナトリウムを用いた実施例が開示されている。これらの添加成分が電子供与体となって種々の金属をメタル化させ、被回収液からの回収効率を向上させることが可能である。金属は微生物内にイオン化状態で取り込まれ、電子供与体によって還元され、0価のメタルナノ粒子として析出する。貴金属のナノ粒子は、電子材料、触媒などとして極めて有用であるが、過剰の電子供与体及びイオン化金属が存在すると微生物内にあるメタルナノ粒子が核となって粒径が大きくなり、当該粒子の収率が低下するという課題があった。以下、本明細書では、実質的にナノサイズのメタル粒子を狭義に「ナノメタル粒子」と称し、これを含み、後に示す微生物に還元吸着する程度の比較的大きな粒径までの有価金属粒子を包括的に「メタル粒子」と称する。
本出願に係る発明者は、係る微生物を封じ込めた状態で不特定領域への微生物拡散を防ぐことができ、しかも、被回収液由来の有価金属が吸着した微生物回収を迅速に実施することによって、メタル粒子を確保することが可能な金属回収技術を鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。従って、本発明の目的は、微生物によって種々の金属を回収するに際して、外部環境の汚染を回避し、しかも効率的に有価金属としてのメタル粒子を得る技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的の達成を図るため、本発明に係る金属回収用バッグ(以下、バッグと称する場合もある)の構成によれば、金属回収用の微生物を封入するためのバッグであって、このバッグの外層にヒートシール性不織布が配され、このバッグの内層に微生物が非透過である静電紡糸不織布を配してなることを特徴としている。
【0010】
また、前記金属回収用バッグに微生物を封入した本発明に係る金属回収用包装体(以下、単に包装体と称する場合がある)にあっては、上述した本発明に係るバッグに鉄還元細菌を封入したことを特徴としている。さらに、上述の微生物として、酵母を封入した金属回収用包装体とすることもできる。
【0011】
本発明においては、前記包装体が耐酸性を有するのが好適である。尚、本発明に言う「耐酸性」とは、後段で実証するとおり、白金属の金属を溶解し得る王水に対して、実質的に強度低下を来さないことを表す。
【0012】
加えて、本出願に係る金属の回収方法は、上述した鉄還元細菌が封入された金属回収用包装体を、金属が含まれた被回収液に浸漬する工程、この包装体を前述した被回収液から取り出した後、前述した金属を取り込んだ微生物(例えば鉄還元細菌、酵母など)を破壊処理した後、当該金属をメタル粒子として取り出す工程を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本出願に係る各発明を適用することにより、微生物によって有価金属を回収するに際して、外部環境の汚染を回避し、かつ微生物が効率的に有価な金属を取り込むことができ、しかも効率的な有価金属を回収し得る技術を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の金属回収用バッグの一形態を説明するための平面図及び断面図である。
図2】本発明の実施例を説明するため、被回収液に残存する金属濃度と、微生物及び被回収液の接触経過時間とをプロットした特性曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。尚、以下の説明では、この発明の理解を容易とするため、特定の形状、配置関係などを例示して説明するが、本発明はこれら図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内で任意好適に設計することができる。
【0016】
まず、本発明に係る金属回収用バッグの構成では、金属回収用の微生物を封入するためのバッグとして、その外層にヒートシール性不織布、内層に微生物が非透過である静電紡糸不織布を配する。図1は、後段で述べる実施例欄で例示使用したバッグの概要を説明する図であり、図示上側に平面図を示すと共に、同平面図の一点鎖線部分における断面図を図示下側に示し、断面を示すハッチングは省略する。この図から理解できるように、好適実施形態としての金属回収用バッグ11は、ヒートシール性不織布からなる外層13並びに静電紡糸不織布からなる内層15の2層構造となっている。これら互いに接着していない積層状態の不織布を、内層15が内側になるように2つ折りにし、対向する2辺の所定位置でヒートシール部17を設けて袋状とした構成となっている(図示上側平面図参照)。この袋状とした金属回収用バッグ11は、開口19から不図示の微生物を容れ、開口19側でヒートシール処理を行うことによって金属回収用包装体を得ることができる。
【0017】
ここで、金属回収用包装体では、外層13を構成するヒートシール性不織布の接着樹脂成分を利用して微生物を封入し、静電紡糸不織布からなる内層15に包囲された微生物を外部環境に漏洩せず、しかも金属を含む被回収液が微生物との接触を効率的に行い得る。
【0018】
まず、このような内層15を構成する静電紡糸不織布の材質として、紡糸性に優れた種々の合成樹脂、例えば、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ナイロン、ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエーテルスルホン、ポリテトラフルオロエチレンなどから選択することができる。
【0019】
係る内層の目付の下限値は微生物の大きさ、特に乾燥時に封入可能な内層の繊維径と最大開孔径の設計に応じて設計することができるが、内層のみの取り扱い性を考慮して1g/m以上とするのが好ましい。さらに、内層を構成する静電紡糸不織布の生産性を考慮すれば10g/m未満とすることにより所期の最大開孔径を安価に実現できる。
【0020】
また、既に説明したとおり、内層15には微生物を封入し、かつ、包装体として当該内層15を介して被回収液を疎通させる必要がある。この際、本発明に言う外層は比較的大きな最大開孔径とすることから通液抵抗に大きく影響することがないため、内層を構成する静電紡糸不織布としては、50%以上、さらに好ましくは80%以上の空隙率とすることによって、粘性を有する被回収液であっても効率的な通液を確保することが期待できる。尚、本明細書に言う「最大開孔径」とは周知のバブルポイント法によって測定することができる値を表す。
【0021】
さらに、貴金属および白金属金属類の溶剤として、王水、または希硫酸や塩酸水溶液に酸化剤を添加した酸が一般的である。このうち、王水を溶剤とする場合、当該液に浸漬される包装体の内表面側でふるいとして機能し、かつ、微生物の封入を維持し得る内層15として、ポリエーテルスルホン又はポリフッ化ビニリデンを主体とする静電紡糸不織布とするのが好適である。
【0022】
本発明で用いることができる微生物としては、特許文献4に開示されるのと同様に、以下の鉄還元細菌を挙げることができる。
・シワネラ アルゲ[Shewanella algae:ATCC51181株]
・ゲオバクター属[代表種:Geobacter metallireducens:ゲオバクター メタリレデューセンス、ATCC53774株]
・デスルフォモナス属[代表種:Desulfuromonas palmitatis:デスルフォモナス パルミタティス:ATCC51701株]
・デスルフォムサ属[代表種:Desulfuromusa kysingii:デスルフォムサ キシンリDSM(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen)7343株]
・ペロバクター属[代表種:Pelobacter venetianus:ペロバクター ベネティアヌス:ATCC2394株]
・フェリモナス属[Ferrimonas balearica:フェリモナス バレアリカ:DSM9799株]
・エアロモナス属[Aeromonas hydrophila:エアロモナス ヒドロフィラ:ATCC15467株]
・スルフロスピリルム属[代表種:Sulfurospirillum barnesii:スルフロスピリルム バーネシイ:ATCC700032株]
・ウォリネラ属[代表種:ウォリネラ スシノゲネス:Wolinella succinogenes:ATCC29543株]
・デスルフォビブリオ属[代表種:Desulfovibrio desulfuricans:デスルフォビブリオ デスルフリカンス:ATCC29577株]
・ゲオトリクス属[代表種:Geothrix fermentans:ゲオトリクス フェルメンタンス:ATCC700665株]
・デフェリバクター属[代表種:Deferribacter thermophilus:デフェリバクター テルモフィルス:DSM14813株]
・ゲオビブリオ属[代表種:Geovibrio ferrireducens:ゲオビブリオ フェリレデューセンス:ATCC51996株]
・ピロバクルム 属[代表種:Pyrobaculum islandicum:テルモプロテウス アイランディカム:DSM4184株]
・テルモトガ属[代表種:Thermotoga maritima:テルモトガ マリティマ:DSM3109株]
・アルカエグロブス属[代表種:Archaeoglobus fulgidus:アルカエグロブス フルギダス:ATCC49558株]
・ピロコックス属[代表種:Pyrococcus furiosus:ピロコックス フリオサス:ATCC43587株]
・ピロディクティウム属[代表種:Pyrodictium abyssi:ピロディクティウム アビーシイ:DSM6158株]
【0023】
これらの鉄還元細菌は何れも嫌気性細菌であるが、本発明に適用し得る微生物として、上述のシワネラ アルゲ(以下、単にシワネラと称する場合もある)を用いるのが良い。このシワネラは通性嫌気性菌であり、好気的条件においても約20分程度と比較的短い倍加時間であるため、工業的応用に適した微生物である。また、本出願に係る発明者の検証によれば、シワネラは2μm×0.5μmの桿菌である。このため、シワネラを封入した包装体にあっては、その最大開孔径を2μm未満とする必要があり、最大開孔径を0.5μm程度とすることによって、確実に封入することが可能である。係る最大開孔径を実現するため、内層を構成する静電紡糸不織布の平均繊維径は300nm未満とすることが好適である。上記最大開孔径を維持する為には、生産性を考慮すれば、平均繊維径は100nm以上とすることによって、金属回収時の通液抵抗を上げずに、菌体封入を実現することができる。
【0024】
さらに、本発明の金属回収用包装体に封入される微生物として、上述した鉄還元細菌の代わりに、ドライイーストとして製パン用途に市販されている酵母(サッカロマイセス セルビシエ[Saccharomyces Cervisiae])を利用することもできる。酵母は食品にも利用されるほど安全性が高く、しかも、鉄還元細菌と同様にナノメタル粒子の回収を図ることができる。また、ある種の微生物は、乾燥状態を含む栄養欠乏状態では比較的小さな芽胞を形成し、外部環境に対して安定な状態を自ら作り出す特性がある。本発明に係る金属回収用バッグでは前述した静電紡糸不織布による内層を備えることによって微細な開孔径(後段で詳述)を実現しているため、上述した酵母を含む微生物の封入状態を維持することができる。さらに詳細には、乾燥菌体の運搬時に、芽胞形成能を有する微生物の透過による外部環境の汚染を阻止すると共に、安定な状態で保管することができる。このような芽胞は、例えば予め前培養を行うことによっても容易に栄養細胞として再生するため、金属回収時には、その優れた活性を発揮することが期待できる。
【0025】
他方、外層13を構成するヒートシール不織布として、熱可塑性樹脂からなる構成繊維、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン等を使用できる。このようなヒートシール不織布からなる外層は、湿式法や乾式法など公知の不織布製造技術を採用することができ、目付1〜100g/m程度、より好ましくは5〜20g/mとすることによって、包装体の内層保護と取扱い性の向上を図り、しかも通液抵抗を低く抑えることができる。また、前述した王水を被回収液とする場合、外層の構成繊維として、耐アルカリ性、耐酸性の双方に優れるポリプロピレンと、接着成分としてポリエチレンを含む、芯鞘型或いはサイドバイサイド型の複合繊維が好適である。この外層は上述した内層の微生物のふるいとしての機能に寄与する必要はなく、ヒートシール部17の領域内にあって、2枚の外層間で一体化した接着成分内に内層の構成繊維を包埋し、かつヒートシール部17を除く部分では内層を物理的な外力から保護し、しかも、被回収液の内層側への通液抵抗とならない範囲の目付並びに厚さであればよい。
【0026】
さらに、本発明に係る金属回収用バッグ並びに金属回収用包装体は、図1に例示される2層構造に限定されるものではなく、外層として回収作業に伴う摩耗等の物理的耐性を有し、かつヒートシール性を確保でき、他方、内層として微生物を外部環境に漏洩しない程度の小さな開孔径を上記バッグ並びに同包装体にもたらすことができれば、他の構成成分の付加など、寸法、配置関係、形状、他の数値的条件などは任意好適に設計し得る。
【0027】
次いで本発明に係る金属の回収方法では、前述した鉄還元細菌が封入された金属回収用包装体を、金属が含まれた被回収液に浸漬する工程、この金属回収用包装体を係る被回収液から取り出して金属の取り込みを速やかに停止せしめた後、前述した金属を取り込んだ微生物(例えば鉄還元細菌、酵母など)を破壊処理し、この金属をメタル粒子として取り出す工程を含むものである。
【0028】
以下、本発明の理解を容易とするため、回収手順を説明すれば、本発明の包装体に封入された微生物を前培養する。この前培養は、当該包装体が微生物を外部環境に漏洩汚染しない構成としているため、封入された当該微生物に応じた培地内で、十分な菌数となるまで、周知の手法によって行うことができる。後段の実施例で説明するが、メタル粒子を効率的に回収するため、封入された微生物の単位乾燥重量(g)とナノメタル粒子の重量(g)との間には、好適な当量関係があると推定される。一例として、鉄還元細菌として好適なシワネラの場合、菌体の乾燥重量に対して、回収できるメタル粒子としてのパラジウム重量は0.3倍、金の場合は約0.9倍、並びに白金の場合は約1.1倍とするのが好適である。
【0029】
次いで、この前培養された包装体を、金属が含まれた被回収液に浸漬し、微生物の機能を利用して、当該菌体に金属を取り込ませる。この取り込みに当たっては、ひとたび増殖能力を失った微生物であっても、有効に金属蓄積能力を発揮せしめることが知られている(特許文献3参照)。また、本発明を実施するにあたり、被回収液と包装体とを入れた容器内で、被回収液を交換せずに行うバッチ式、或いは、連続的に被回収液を供給・排出する連続式の何れの手段を採っても良い。特に、本発明の技術では微生物が包装体内に封入されて外部環境を汚染せずに金属の取り込みを実現できるため、比較的小さな容器であっても、連続式の工程を採用し、被回収液と微生物との接触滞留時間を任意好適に設計することで、金属の含有濃度が低い被回収液から効率的に金属回収を行うことができる。
【0030】
このように、包装体内の微生物に金属を取り込んだ後の菌体を破壊し、菌体内に取り込まれたメタル粒子を回収する。この回収に当たっては、例えば超音波破砕機やらい潰機による物理的手段、或いは界面活性剤やアルカリによる化学的手段など、菌体の細胞膜構造を破壊し得る手段であれば周知の技術を適用することができる。この細胞膜の破壊は、破壊手段に応じて菌体を包装体内に収めたまま、或いは、包装体を開封し、菌体を洗浄・集菌した何れの手順で行うこともできる。続いて、破壊された菌体を含む液をメンブレンフィルタ等で濾過することにより、その濾液にメタル粒子が含まれた状態で金属回収を行うことができる。
【実施例】
【0031】
以下、本願に係る各発明につき、鉄還元細菌としてシワネラ、または、他の微生物として酵母を用い、種々の被回収液で検証した好適形態を例示する。まず始めに、本実施例で用いた金属回収用バッグの構成について説明する。
【0032】
《実施例1:金属回収用バッグの調製》
本実施例では、以下の表1に示すバッグA及びバッグBの2種類(何れも外寸が15mm×55mmであり、開口部の間口は約10mm)を準備した。
【0033】
【表1】
【0034】
この2つのバッグでは、外層となるヒートシール性不織布は、公知の湿式法により、ポリプロピレンとポリエチレンとからなる市販の芯鞘型複合繊維「ウベニットウSCE」(商品名:宇部日東化成(株)製)のみからなる湿式不織布を作製し、共用した。ここで、各バッグを構成する外層の厚さは、「デジマチック標準外側マイクロメータ MDC−MJ/PJ 1/1000mm」(商品名:(株)ミツトヨ製)により500g荷重時の測定を5点行い、算術平均値で記録した。また、最大開孔径は、ポロメータ(Perm Porometer、商品名:PMI社製)を用いてバブルポイント法で測定した。平均繊維径は、電子顕微鏡により視野範囲にある繊維の直径から平均値により測定算出した。
【0035】
さらに、各内層となる静電紡糸不織布として、バッグAでは「ホモポリアクリロニトリル」(商品名:三井化学(株)製)のみを用い、バッグBでは「スミカエクセル5200P」(商品名:住友化学(株)製)を主体とし、親水性を付加する目的で市販のポリビニルピロリドンを添加して作製した。静電紡糸不織布の調製に当たっては、公知の静電紡糸技術によった。始めに、上記各組成に調製した紡糸用のポリマー溶液を用意した。次いで、ケースに周囲を囲われた空間(縦:1000mm、横:1000mm、高:1000mm)内に、ポリマー溶液を吐出できる内径0.40mmの金属製ノズルを直流高電圧装置に接続した状態で配置し、吐出されたポリマー溶液を捕集するための無端ベルトをアースし、ケース内に配置した。この金属製ノズルに17kVの電圧を印加することで、ポリマー溶液を3g/hの速度で吐出させて繊維化し、表1に示す目付並びに厚さを有する不織布を得た。
【0036】
尚、前述のとおり、微生物の封入には、内層に使用する静電紡糸不織布の最大開孔径が直接的に関連する。従って、金属回収のために用いるシワネラの見掛け上の大きさは2μm×0.5μmであることから、内層を構成する静電紡糸不織布としては、何れのバッグも適正な最大開孔径を有することが理解できる。
【0037】
《実施例2:金属回収用包装体による前培養》
次いで、本発明の金属回収用包装体の実施例として、上述した2種のバッグA及びバッグBをオートクレーブによって滅菌した。また、本実施例では、シワネラを予め包装体外で前培養した。前培養操作は、市販のTSB(Trypticase Soy Broth:トリプティカーゼ ソイ ブロス)培地により、30℃に保ったインキュベーターで14時間行った後、細菌細胞計数盤での計数によって所定個数の菌体を含む培養液とした。この培養液を各バッグの内層間に開口から接種後、ヒートシラーで封入することで各金属回収用包装体(以下、各々、包装体A若しくは包装体Bと称する)とした。この包装体は生理食塩水で洗い、後に述べる各回収実験に供した。さらに、包装体の外部環境への漏出防止効果を検証するため、別途用意した培養液に包装体を浸漬し、インキュベーター中で培養操作を続けたが、濁り等は確認されず、包装体へのシワネラ封入が確実に行われたことを確認した。
【0038】
《実施例3:バッチ式のパラジウム回収》
続けて、パラジウムを所定濃度に調製した以下の表2に示す被回収液Aに包装体Aをバッチ式で浸漬し、金属回収を行った実施例3について説明する。まず、この実施例3では、内層にPANからなる静電紡糸不織布を用いた包装体A(2.6×10cells/袋:乾燥重量3.0×10−4g/袋)を2袋用い、pHが6.8〜6.9のパラジウム含有水溶液(被回収液A)を10mL容れたバイアル瓶中に浸漬した。当該バイアル瓶のヘッドスペースを窒素ガスでパージしながら、120rpmのマグネチックスターラーで5時間にわたって撹拌し、包装体A内に封入されたシワネラ(バイアル中における菌体濃度0.52×1015cells/m相当)に取り込ませた。これら一連の回収によって、被回収液Aの初期濃度に含まれるパラジウムに対する上記濾液中のパラジウムの回収率を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)を光源とする発光分光分析法(以下、ICP法)によって求めたところ約54%であった。このナノメタル粒子の収率から、回収に用いた菌体乾燥重量6.1×10−4gと得られたメタル粒子の重量は5.8×10−4gであった。この回収例から、乾燥菌体重量に対する回収されたパラジウムからなるメタルの重量との比は、0.9倍となった。
【0039】
【表2】
【0040】
《実施例4:連続式のパラジウム回収》
次いで、実施例3で上述したバッチ式の代わりに、連続式のパラジウム回収とした実施例4について説明する。この実施例4では、実施例3の包装体Aを2袋用い、前述したバイアル瓶の蓋に取り付けたチューブを介して、表3に示すパラジウムを含有するリン酸ナトリウムカリウム緩衝液(pH6.7)と、金属を取り込むための電子供与体としてのギ酸を含有する同緩衝液とを所定の供給速度で個別かつ連続的に供給しながら、瓶内の被回収液Bを約7.5mLに保ち、前述の窒素パージ並びに攪拌条件下、30時間にわたって金属取り込みを行った(バイアル中における菌体濃度0.69×1014cells/m相当)。この実施例4に係る連続式の金属回収では、パラジウムの回収率が約90%(回収重量8.8×10−3g)であった。
【0041】
【表3】
【0042】
《実施例5及び比較例:バッチ式における包装体の通液性検証》
次に、本発明の包装体を使用した回収方法において、包装体の有無による金属回収速度を検証した結果について説明する。まず、実施例5として内層がポリエーテルスルホンを主体とする静電紡糸不織布で構成される包装体B(5.3×1010cells/袋:乾燥重量6.2×10−3g/袋)を1袋用意し、以下に示す表4のパラジウム含有組成の被回収液Cに浸漬し、当該被回収液C(pH5.5)を部分標品としてICP法による液相パラジウム濃度を2時間にわたって経時的に求めた(バイアル中における菌体濃度5.3×1015cells/m相当)。また、比較のため、包装体を使用せず、表5に示す被回収液D(pH6)にシワネラを直接懸濁(バイアル中における菌体濃度5.0×1015cells/m相当)させ、同様に液層パラジウム濃度の経時的変化を確認した。その結果、縦軸に液層パラジウム濃度(ppm)、横軸に時間(h)を採った図2から理解できるように、双方ともほぼ同等の液層パラジウム濃度の減少傾向が確認できた。このことから、本発明の好適例としての実施例5と、直接被回収液にシワネラを懸濁した系とでは、シワネラに対する金属取り込みの速度は実質的に同等であり、本発明の技術を適用することにより、包装体が被回収液の通液性に影響せず、極めて効率的な金属回収を行い得ることが実証された。この検証では、従来知られているマクロカプセルなどの微生物封入形態との比較を省略するが、多孔質の不織布素材で構成された本発明の金属回収用バッグでは、実質的に通液抵抗の無い空隙に富む形態を採るため、図2に例示する2時間程度であっても効率的な金属回収を実現することができた。
【0043】
【表4】
【0044】
【表5】
【0045】
《実施例6:バッチ式によるICチップ由来の金回収》
次いで、使用済のICチップから王水で有価金属を抽出し、これを被回収液Eとした実施例について説明する。始めに、ICチップを王水に浸漬し、種々の有価金属を平衡濃度に達するまで抽出した。この操作で抽出した被回収液E中(pH1.3)の有価金属をICP法で定量した結果を表6に示す。
【0046】
【表6】
【0047】
前記被回収液Eに対して、内層がポリエーテルスルホンを主体に構成された耐酸性の包装体B(5.0×1010cells/袋:乾燥重量5.8×10−3g/袋)を2袋用い、実施例3と同様なバッチ式で金属の取り込みを実施した。この際、バイアル瓶中の被回収液Eに対する菌体濃度は1×1016cells/m相当であり、バッグ投入時の初期pHは1.3であった。約6時間にわたって金属の取り込みを行い、ICP法による被回収液中の各種金属の濃度を測定した。その結果、初期濃度が112ppmの金の場合、6時間後の被回収液E中の金濃度は2.2ppmとなり、約98%を回収することができた。この実施例6から、2袋の菌体乾燥重量1.2×10−2g並びにメタル粒子としての金の重量1.1×10−3gの比から、0.09と算出できる。尚、詳細な数値は省略するが、この回収試験におけるコバルトやニッケルについて同様な測定を実施したところ、6時間においては各々20〜30%程度の回収率であることを確認した。
【0048】
ここで、外層に使用したヒートシール性不織布の王水耐性を検証した結果について説明する。前述のバッグに使用したヒートシール性不織布(目付10g/m)の生産方向であるタテ方向、及びこれとは直交するヨコ方向に関し、各々、幅5cm×長さ20cmに12枚ずつ裁断し、短冊状のサンプルを24枚調製した。このサンプルのうちの16枚を、塩酸と硝酸とを3:1の体積比で混合した王水272mLに完全に浸した。これらサンプルは、所定時間の経過後、大量の純水で洗浄、乾燥した。浸漬しなかった処理前のサンプル、8時間浸漬したサンプル、並びに、72時間浸漬したサンプルに関し、各々、JIS L1096「一般織物試験法」に規定された破断時の引張強さ並びに伸び率を引張試験器((株)オリエンテック社製)によって、チャック間距離10cm、引張速さ100mm/分で測定した。その結果をn=4の平均値として表7に示す。
【0049】
【表7】
【0050】
この表7からも理解できるとおり、本実施例で用いたヒートシール性不織布は、上記王水への浸漬が最大72時間であっても実質的に強度に影響は認められなかった。また、係る各サンプルの外観は肉眼で観察したところ、処理前サンプルと王水浸漬を経たサンプルとに差違はなかった。別途、溶融紡糸に使われる市販のポリエチレン並びにポリプロピレンの各ペレットに上記浸漬検証を行ったところ、外観上、若干の黄変は観察されたが、重量変化も含めて樹脂の性状に変化はなかった。このことから、本実施例で用いたバッグ並びに包装体は、王水に対する耐酸性を有することが確認できた。
【0051】
《実施例7:バッチ式による自動車用排気ガス触媒由来の金属回収》
次いで、白金属が多用されている使用済の自動車用排気ガス触媒から王水で有価金属を抽出した後、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH6.5に調整した被回収液Fを用い、金属回収を行った実施例を説明する。抽出対象が異なり、被回収液のpHを中性域としたこと以外は、上述の実施例6と同様に操作を行った。当該被回収液Fに含まれる各金属の濃度を表8に示す。
【0052】
【表8】
【0053】
この被回収液Fに、包装体A(6.0×10cells/袋)を2袋用い、実施例3と同様なバッチ式で金属の取り込みを実施した。バイアル瓶の容積から算出した被回収液Fに対する菌体濃度は6.0×1014cells/m相当であり、電子供与体として50mmol/Lのギ酸ナトリウムも添加し、約6時間にわたって金属の取り込みを行い、ICP法による被回収液中の各種金属の濃度を測定した。その結果、初期濃度が53.5ppmのPdの場合、6時間後の被回収液中のPd濃度は2.1ppm、また、初期濃度が47.2ppmのPtも、6時間後の被回収液中のPt濃度は3.3ppmとなり、それぞれ約96%、約93%を回収することができた。
【0054】
《実施例8:酵母を用いたバッチ式によるICチップ由来の金回収》
次に、実施例6と同様な使用済のICチップから王水で有価金属を抽出し、これを被回収液Gとした系で、鉄還元細菌に代えて酵母を利用した実施例について説明する。前述した様にICチップを王水に浸漬して平衡濃度に達するまで有価金属を抽出し、pH3.3に調整した被回収液Gとした。この被回収液Gに含まれる各種の有価金属をICP法で定量した結果を表9に示す。
【0055】
【表9】
【0056】
この被回収液Gに、耐酸性を有する前述の包装体B(1.0×10cells/袋)を1袋用い、前述のバッチ式で金属回収を行った。使用する酵母として市販のドライイーストを用い、十分量の菌数(バイアル瓶の容積から算出した被回収液Fに対する菌体濃度は1.0×1014cells/m相当)を前述の包装体Bに封入した。この包装体を予め1%グルコース水溶液10mLに浸漬し、33℃で90分間、振とう撹拌し、乾燥酵母を再水化(復水化)した。つぎに、グルコース水溶液から包装体を取り出し、生理食塩水で洗浄した後、吸水ろ紙を用いて包装体内の残液を置換除去した。このような包装体によって、電子供与体を添加しない条件で、約24時間後まで金属回収実験を行った。ICP法による被回収液中の各種金属の濃度測定の結果、初期濃度が123ppmであったAu(金)は6時間後に87%(残留量として16.0ppm)が微生物によって回収され、24時間後には97%(残留量として3.7ppm)を回収することができた。尚、この実施例8による6時間経過後の金の回収率は、前述した実施例6の98%と比較すると低くなり、また、この経過時間におけるコバルト、鉄、ニッケル及び銅の回収率は何れも1%以下であった。従って、この実施例8と前述した実施例6の結果を較べることによって、酵母利用による金属回収の特性として、酵母の金属吸着速度はシワネラに較べて緩やかではあるが、金に対して特異性の高い吸着を行い得ることが判った。
【0057】
《実施例9:各種サンプルによる微生物の透過性評価試験》
続いて、各種製法によって異なる平均開孔径の不織布等を準備し、前述したドライイーストの懸濁液によって芽胞を含む微生物の透過性を評価した結果について説明する。前述のとおり、本発明の金属回収用バッグでは、内層に表1で例示した、比較的小さな繊維径の不織布を用いることによって開孔径を小さく採り、微生物がバッグ内部から外部への漏洩を防ぐ構成を採用している。このような乾燥状態の微生物封入機能を検証する目的で、表10に示すような不織布及び織物を作製、準備した。尚、同表中、目付を始めとする各パラメータは、前述した表1を参照して説明した測定手段によって求めた(段落[0034]参照)。また、繊維組成欄の略号は表1と同一にしてある。
【0058】
【表10】
【0059】
微生物の透過性評価手順として、まず、前述した市販のドライイーストを乾燥した粉末のまま滅菌処理した純水に所定量懸濁した。この懸濁操作の後、直ちに、表10に示す5種類のサンプルを、各々、バイアル瓶の口にかぶせた状態で、それぞれのサンプルに調製した懸濁液を速やかに室温で流下させた。この流下液は、その一部を前述したGYP培地に加え、好気的に64時間培養した。この培養後の濁度を目視で観察したところ、前述した2種類のバッグの内層に用いている不織布a並びに不織布bの流下液では全く濁りを認めず、同バッグの外層に用いている不織布c、分割繊維を用いた不織布d、並びに分割繊維を用いた織物では明らかに濁っていた。これらのことから、最大開孔径が2μm以下である2つの不織布は、芽胞状態を含む酵母の封入に有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、微生物によるナノサイズの有価金属回収に利用することができる。
【0061】
以上、本出願に係る各発明について好適形態を例示して説明したが、本出願に係る各発明は、上述した寸法、形状、配置関係、並びに数値的条件にのみ限定されるものではなく、この発明の目的の範囲内で、種々の設計変更、及び変形を実施し得る。
【符号の説明】
【0062】
11・・・金属回収用バッグ;13・・・外層;15・・・内層;
17・・・ヒートシール部;19・・・開口。
図1
図2