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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-201487(P2017-201487A)
(43)【公開日】2017年11月9日
(54)【発明の名称】カバリング糸状圧電素子
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20171013BHJP
   H01L 41/113 20060101ALI20171013BHJP
   H01L 41/193 20060101ALI20171013BHJP
   H01L 41/047 20060101ALI20171013BHJP
   H01L 41/087 20060101ALI20171013BHJP
   G01L 1/16 20060101ALI20171013BHJP
【FI】
   G06F3/041 602
   H01L41/113
   H01L41/18 102
   H01L41/047
   H01L41/087
   G01L1/16 A
   G06F3/041 640
   G06F3/041 495
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-93330(P2016-93330)
(22)【出願日】2016年5月6日
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(72)【発明者】
【氏名】田實 佳郎
(72)【発明者】
【氏名】小野 雄平
(72)【発明者】
【氏名】兼松 俊介
(57)【要約】      (修正有)
【課題】比較的小さな変形で生じる応力によっても、大きな電気信号を取り出すことが可能な繊維状の圧電素子を提供する。
【解決手段】カバリング糸状圧電素子1では、少なくとも一本の導電性繊維Bの外周面を少なくとも1本の圧電性繊維Aが取り巻いている。カバリング糸状圧電素子1に変形が生じると、圧電性繊維Aに変形による応力が生じ、それにより圧電性繊維Aに分極が生じ(圧電効果)、その結果、導電性繊維Bを取り巻く圧電性繊維Aの電場に起因した電荷移動が導電性繊維Bに生じる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯糸である導電性繊維に圧電性繊維が鞘糸としてカバリング撚糸されたカバリング糸状圧電素子。
【請求項2】
前記芯糸に用いる導電性繊維の導電性が100kΩ/m以下である、請求項1に記載のカバリング糸状圧電素子。
【請求項3】
前記導電性繊維の繊度が20dtex以上である、請求項1または2に記載のカバリング糸状圧電素子。
【請求項4】
前記導電性繊維が金属コートされた有機繊維である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のカバリング糸状圧電素子。
【請求項5】
前記圧電性繊維が主としてポリ乳酸からなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載のカバリング糸状圧電素子。
【請求項6】
前記圧電性繊維のカバリング角度が30〜80°である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のカバリング糸状圧電素子。
【請求項7】
前記圧電性繊維の繊度が100dtex以下である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のカバリング糸状圧電素子。
【請求項8】
前記圧電性繊維の繊度が前記導電性繊維の繊度の1/10〜2倍である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のカバリング糸状圧電素子。
【請求項9】
前記圧電性繊維のカバリング回数が1000〜15000回/mである、請求項1〜8のいずれか一項に記載のカバリング糸状圧電素子。
【請求項10】
カバリング撚糸されたカバリング糸状圧電素子の表面に、更に導電層を有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載のカバリング糸状圧電素子。
【請求項11】
前記導電層が導電性繊維のカバリング撚糸である、請求項10に記載のカバリング糸状圧電素子。
【請求項12】
前記導電層の導電性繊維の導電性が100kΩ/m以下である、請求項11に記載のカバリング糸状圧電素子。
【請求項13】
前記導電層の導電性繊維の繊度が100dtex以下である、請求項11または12に記載のカバリング糸状圧電素子。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のカバリング糸状圧電素子を含む構造体。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のカバリング糸状圧電素子と、
印加された応力に応じて前記圧電素子から出力される電気信号を増幅する増幅手段と、
前記増幅手段で増幅された電気信号を出力する出力手段と、
を備えるデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電性繊維を用いたカバリング糸状の圧電素子、その圧電素子を用いた構造体およびそれらを用いたデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、いわゆるウェアラブルセンサーが注目を浴びており、眼鏡型や腕時計といった形状の商品が世に出始めた。しかし、これらのデバイスは、装着しているという感覚があり、究極のウェアラブルである、布状、つまり衣類のような形状のものが望まれている。そのようなセンサーとして、圧電性繊維の圧電効果を用いた圧電素子が知られている。例えば、特許文献1には、2本の導電性繊維および1本の圧電性繊維を含み、これらが互いに接点を有しつつ、略同一平面上に配置されている圧電単位を含む圧電素子が開示されている。さらに、特許文献1のその他の様態1に、圧電性高分子の繊維を導電性繊維に巻き付けることで被覆することが記載されている。また、特許文献2には、圧電高分子からなる繊維状物、または成形物であり、これの軸方向に付加される張力によって圧電性を発生させるために、かかる張力の付加方向と異なる方向に捩りを加えて構成したことを特徴とする圧電材が開示されている。
【0003】
一方、近年、いわゆるタッチパネル方式を採用した入力装置、すなわちタッチ式入力装置が大幅に増加している。銀行ATMや駅の券売機のみならず、スマートフォン、携帯電話機、携帯ゲーム機、携帯音楽プレーヤなどにおいて、薄型ディスプレイ技術の発展と相まって、入力インターフェースとしてタッチパネル方式を採用した機器が大幅に増加している。そのようなタッチパネル方式を実現する手段として、圧電シートや圧電性繊維を用いる方式が知られている。例えば、特許文献3には、所定方向に向く延伸軸を有するL型ポリ乳酸からなる圧電シートを用いるタッチパネルが開示されている。
【0004】
これらウェアラブルセンサーやタッチパネル方式のセンサーでは、圧電材料に印加される小さな変形により圧電材料内に生じる小さな応力に対しても、大きな電気信号を取り出すことが望まれる。例えば、指の曲げ伸ばし動作や指などで表面を擦る行為により圧電材料に生じる比較的小さな応力によっても大きな電気信号を安定的に取り出すことが望まれる。
【0005】
特許文献1の圧電性繊維は、様々な用途に適用可能な優れた素材であるが、比較的小さな変形で生じる応力に対して大きい電気信号を出力できるとは必ずしもいえず、大きな電気信号を得る技術についても明示していない。また、変形に対する信号強度のバラツキを少なくしたり、繰り返し使用時の信号強度の再現性を向上させたりする技術についても明示していない。さらに言えば、圧電性高分子の繊維を導電性繊維に巻き付けることで被覆することは記載されているが、その詳細については記載がない。
【0006】
特許文献2の圧電性繊維は、特殊な製造方法で圧電性繊維をあらかじめ捩じらせておくことにより、圧電性繊維への引張や圧縮に対して電気信号を出力できる。しかし、特許文献2には、圧電性繊維を曲げたり伸ばしたりする屈曲や、圧電性繊維の表面を擦る行為によるせん断応力に対して十分な電気信号を発生させる技術は開示されていない。したがって、このような圧電性繊維を用いた場合、表面を擦るような比較的小さい変形で生じる応力だけで十分な電気信号を取り出すことは困難である。
【0007】
特許文献3の圧電シートは、圧電シートに対する変形(応力)によって電気信号を出力できる。しかしながら、そもそもシート状であるために柔軟性に乏しく布のように自由に屈曲できるような使い方は不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2014/058077号
【特許文献2】特許第3540208号公報
【特許文献3】特開2011−253517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、比較的小さな変形で生じる応力によっても、大きな電気信号を取り出すことが可能な繊維状の圧電素子を提供することになる。本発明のさらなる目的は、生産性に優れる繊維状の圧電素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、導電性繊維と圧電性繊維との組み合わせとして、芯糸となる導電性繊維の表面を圧電性繊維を鞘糸としてカバリング撚糸した、カバリング糸状圧電素子により効率よく電気を取り出せることを発見し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
1.芯糸である導電性繊維に圧電性繊維が鞘糸としてカバリング撚糸されたカバリング糸状圧電素子。
2.前記芯糸に用いる導電性繊維の導電性が100kΩ/m以下である、上記1に記載のカバリング糸状圧電素子。
3.前記導電性繊維の繊度が20dtex以上である、上記1または2に記載のカバリング糸状圧電素子。
4.前記導電性繊維が金属コートされた有機繊維である、上記1〜3のいずれか一項に記載のカバリング糸状圧電素子。
5.前記圧電性繊維が主としてポリ乳酸からなる、上記1〜4のいずれか一項に記載のカバリング糸状圧電素子。
6.前記圧電性繊維のカバリング角度が30〜80°である、上記1〜5のいずれか一項に記載のカバリング糸状圧電素子。
7.前記圧電性繊維の繊度が100dtex以下である、上記1〜6のいずれか一項に記載のカバリング糸状圧電素子。
8.前記圧電性繊維の繊度が前記導電性繊維の繊度の1/10〜2倍である、上記1〜7のいずれか一項に記載のカバリング糸状圧電素子。
9.前記圧電性繊維のカバリング回数が1000〜15000回/mである、上記1〜8のいずれか一項に記載のカバリング糸状圧電素子。
10.カバリング撚糸されたカバリング糸状圧電素子の表面に、更に導電層を有する、上記1〜9のいずれか一項に記載のカバリング糸状圧電素子。
11.前記導電層が導電性繊維のカバリング撚糸である、上記10に記載のカバリング糸状圧電素子。
12.前記導電層の導電性繊維の導電性が100kΩ/m以下である、上記11に記載のカバリング糸状圧電素子。
13.前記導電層の導電性繊維の繊度が100dtex以下である、上記11または12に記載のカバリング糸状圧電素子。
14.上記1〜13のいずれか一項に記載のカバリング糸状圧電素子を含む構造体。
15.上記1〜13のいずれか一項に記載のカバリング糸状圧電素子と、
印加された応力に応じて前記圧電素子から出力される電気信号を増幅する増幅手段と、
前記増幅手段で増幅された電気信号を出力する出力手段と、
を備えるデバイス。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、比較的小さな変形で生じる応力によっても、大きな電気信号を取り出すことが可能なカバリング糸状の圧電素子を提供できる。さらには、本発明により、生産性に優れる繊維状の圧電素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係るカバリング糸状圧電素子の構成例を示す模式図である。
図2】導電性繊維と圧電性繊維との組み合わせに基づく電気信号の発生原理を説明する模式的な断面図である。
図3】好ましい実施形態に係るカバリング糸状圧電素子の構成例を示す模式図であり、(A)は、鞘部を導電層によって被覆したカバリング糸状圧電素子を示し、(B)は、導電性繊維の巻き付けによって導電層を形成したカバリング糸状圧電素子を示す。
図4】実施形態に係るカバリング糸状圧電素子を用いた布帛状圧電素子の構成例を示す模式図である。
図5】本発明の圧電素子を備えるデバイスを示すブロック図である。
図6】実施の形態に係るカバリング糸状圧電素子を備えるデバイスの構成例を示す模式図である。
図7図3(B)の実施形態に係る導電層付カバリング糸状圧電素子を用いた実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(カバリング糸状圧電素子)
図1は実施形態に係るカバリング糸状圧電素子の構成例を示す模式図である。
カバリング糸状圧電素子1は、導電性繊維Bで形成された芯部3と、芯部3を圧電性繊維Aを用いてカバリング撚糸した鞘部2と、を備えている。
【0015】
図1に示すように、カバリング糸状圧電素子1では、少なくとも一本の導電性繊維Bの外周面を少なくとも1本の圧電性繊維Aが取り巻いている。特定の理論に束縛されるものではないが、カバリング糸状圧電素子1に変形が生じると、圧電性繊維Aに変形による応力が生じ、それにより圧電性繊維Aに分極が生じ(圧電効果)、その結果、導電性繊維Bを取り巻く圧電性繊維Aの電場に起因した電荷移動が導電性繊維Bに生じるものと推測される。なお、導電性繊維Bおよび圧電性繊維Aは複数本であってもよい。以下では、本発明によるカバリング糸状圧電素子1におけるこのような導電性繊維と圧電性繊維との組み合わせに基づく電気信号の発生原理についてより詳しく説明する。
【0016】
(導電性繊維と圧電性繊維との組み合わせに基づく電気信号の発生原理)
図2は、導電性繊維と圧電性繊維との組み合わせに基づく電気信号の発生原理を説明する模式的な断面図である。増幅手段12の入力端子には、導電性繊維Bからの引出し線を接続する。以下、折り曲げの変形を与えた場合を例にとり説明する。図2(A)において、導電性繊維B及び圧電性繊維Aが折り曲げられておらず伸びた状態では、導電性繊維B及び圧電性繊維Aにおいて、正負各電荷は均一に分布している。圧電性繊維Aの折り曲げが始まると、図2(B)に示すように、圧電性繊維Aにおいて分極が発生し、電荷の正負が一方向に配列された状態になる。圧電性繊維Aの分極により発生した正負各電荷の配列につられて、導電性繊維Bから負の電荷が流出する。この負の電荷の移動は微小な電気信号の流れ(すなわち電流)として現れ、増幅手段12はこの電気信号を増幅し、出力手段13は、増幅手段12で増幅された電気信号を出力する。図2(B)に示す分極状態は、圧電性繊維Aの折り曲げが維持(固定)される限り継続する。
【0017】
圧電性繊維Aの折り曲げ形状が維持(固定)された状態(図2(B))から圧電性繊維Aを伸ばす動作が始まると、図2(C)に示すように圧電性繊維Aにおいて分極は解消し、圧電性繊維Aにおいて正負各電荷が均一に分布した状態になる。圧電性繊維Aにおける正負各電荷の均一分布につられて、導電性繊維Bへ負の電荷が流入する。この負の電荷の移動は微小な電気信号の流れ(すなわち電流)として現れるが、増幅手段12ではこの電気信号を増幅し、増幅された電気信号を出力手段13にて出力する。なお、圧電性繊維Aの折り曲げ動作中の状態(図2(B))と折り曲げ動作から伸ばす動作に遷移している状態(図2(C))とでは、負の電荷の移動の向きは逆向きになるので、折り曲げ動作と伸ばし動作とでは逆極性の電気信号が発生する。例えば、圧電性繊維Aの折り曲げ動作時には正の電気信号が発生し、圧電性繊維Aの伸ばし動作時には負の電気信号が発生する。
【0018】
本発明では、圧電性繊維Aに対する折り曲げ動作及び伸ばし動作に伴い発生する微小な電気信号を、増幅手段12によって増幅して出力手段12によって出力し、外部機器(図示せず)における演算処理により、増幅電気信号が正か負かを切り分け、圧電性繊維Aの折り曲げの有無及び折り曲げの度合いを検出する。例えば、外部機器(図示せず)において、増幅手段12にて増幅され出力手段13から出力された増幅電気信号を時間積分し、そして、この積分値が、所定の上限値以上になったときは「折り曲げ動作」と判定し、所定の下限値未満となったときは「伸ばし動作」と判定する演算処理を実行することができる。なお、本明細書において、圧電性繊維Aに印加された応力に応じて電気信号が発生するとの記載は、圧電性繊維Aの歪みに応じて電気信号が発生することと同義である。
以上、折り曲げの変形を与えた場合の電気信号の発生原理について説明したが、圧電性繊維Aに応力が与えられればその変形は特に限定されず、例えば、捩じり、伸縮、ずり、押圧などが挙げられ、折り曲げも含めたそれらの複合的な変形が与えられた場合であっても圧電性繊維Aに応力が与えられる変形であれば電気信号を発生することができる。
【0019】
ここで、圧電性繊維Aは主成分としてポリ乳酸を含むことが好ましい。「主成分として」とは、圧電性繊維Aの成分のうち最も多い成分がポリ乳酸であるとの意味である。ポリ乳酸中の乳酸ユニットは90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましく、98モル%以上がさらに好ましい。
【0020】
図1を参照してさらに説明すると、導電性繊維Bに対する圧電性繊維Aのカバリング角度αは一般的には10°以上、80°以下であってよい。すなわち、導電性繊維B(芯部3)の中心軸CLの方向に対して、圧電性繊維Aのカバリング角度αが一般的に10°以上、80°以下であってよい。ただし、本実施形態では、導電性繊維Bの中心軸CLは、圧電性繊維Aのカバリング部(鞘部2)の中心軸(以下、「カバリング糸軸」ともいう。)と重なることから、圧電性繊維Aのカバリング部の軸の方向に対して、圧電性繊維Aのカバリング角度αが一般的に10°以上、80°以下であってよい、ということもできる。
【0021】
圧電性繊維Aのカバリング角度が10°未満あるいは80°より大きくなると、圧電性繊維Aから生じる信号強度が低下し、すなわち十分な信号強度が得られない場合がある。ここで、圧電性繊維Aから生じる信号強度が低下する理由は以下のとおりである。圧電性繊維Aはポリ乳酸を主成分とし、圧電性繊維Aの繊維軸の方向に一軸配向している。ここで、ポリ乳酸は、その配向方向(この場合には圧電性繊維Aの繊維軸の方向)に対してせん断応力が生じた場合に分極を生じるが、その配向方向に対して引張応力や圧縮応力が生じた場合に分極をあまり生じない。したがって、カバリング糸軸の方向に平行に変形したときに圧電性繊維Aにせん断応力が生じるようにするためには、圧電性繊維A(ポリ乳酸)の配向方向がカバリング糸軸に対して所定の角度範囲にあることがよいと推測される。より大きな電気信号を取り出す観点からは、カバリング角度αは20°以上、70°以下であることが好ましく、30°以上、60°以下であることがより好ましく、40°以上、50°以下であることがさらに好ましい。カバリング角度αがこの角度範囲を外れると、圧電性繊維Aに生じる分極が低下し、それにより導電性繊維Bで得られる電気信号が著しく低下してしまうからである。最も好ましくは、カバリング角度αは45°である。
【0022】
なお、上記カバリング角度αについては、鞘部2を形成する圧電性繊維Aの主方向と導電性繊維Bの中心軸CLとのなす角ともいうことができ、圧電性繊維Aの一部が弛んでいたり、毛羽だっていてもよい。
【0023】
信号強度の観点からは、カバリング角度は45°に近いことが好ましいが、カバリング角度を、30°未満とするためには巻きつける圧電性繊維を疎に巻くか、圧電性繊維の繊維束を太くする必要があるが、前者は信号強度の低下、後者はカバリング糸が太くなり実用的ではなくなるという課題がある。その結果、本発明のカバリング糸状圧電素子については、圧電性繊維のカバリング角度は30°以上、80°未満であることが好ましいということになる。理想的なカバリング角度は、上述したように45°であるが、カバリング糸状圧電素子の求められる形状、機械的特性、信号強度あるいは生産性などにより、カバリング角度は適宜決められる。
【0024】
なお、カバリング糸状圧電素子1では、本発明の目的を達成する限り、鞘部2では圧電性繊維A以外の他の繊維と組み合わせて混繊等を行ってもよいし、芯部3では導電性繊維B以外の他の繊維と組み合わせて混繊等を行ってもよい。
【0025】
なお、カバリング糸状圧電素子の長さは特に限定はない。例えば、カバリング糸状圧電素子は製造において連続的に製造され、その後に必要な長さに切断して利用してもよい。カバリング糸状圧電素子の長さは1mm〜10m、好ましくは、5mm〜2m、より好ましくは1cm〜1mである。長さが短過ぎると繊維形状である利便性が失われ、また、長さが長過ぎると導電性繊維Bの抵抗値を考慮する必要が出てくるであろう。
【0026】
また、カバリング糸状圧電素子を長尺のまま、織物や編物などの布帛あるいはその他の構造体に用いることも可能である。
【0027】
また、カバリング糸状圧電素子の圧電性繊維をさらに導電層4で被覆することができる。さらにいえば、鞘部2とは別の圧電性繊維を含む層や導電層あるいは後述する保護層を複数設けることも可能である。
【0028】
以下、各構成について詳細に説明する。
【0029】
(導電性繊維)
導電性繊維Bとしては、導電性を示すものであればよく、公知のあらゆるものが用いられる。導電性繊維Bとしては、例えば、金属繊維、導電性高分子からなる繊維、炭素繊維、繊維状あるいは粒状の導電性フィラーを分散させた高分子からなる繊維、あるいは繊維状物の表面に導電性を有する層を設けた繊維が挙げられる。繊維状物の表面に導電性を有する層を設ける方法としては、金属コート、導電性高分子コート、導電性繊維の巻付けなどが挙げられる。なかでも金属コートが導電性、耐久性、柔軟性などの観点から好ましい。金属をコートする具体的な方法としては、蒸着、スパッタ、電解メッキ、無電解メッキなどが挙げられるが生産性などの観点からメッキが好ましい。このような金属をメッキされた繊維は金属メッキ繊維ということができる。
【0030】
金属をコートされるベースの繊維として、導電性の有無によらず公知の繊維を用いることができ、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、塩化ビニル繊維、アラミド繊維、ポリスルホン繊維、ポリエーテル繊維、ポリウレタン繊維等の合成繊維の他、綿、麻、絹等の天然繊維、アセテート等の半合成繊維、レーヨン、キュプラ等の再生繊維を用いることができる。ベースの繊維はこれらに限定されるものではなく、公知の繊維を任意に用いることができ、これらの繊維を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
ベースの繊維にコートされる金属は導電性を示し、本発明の効果を奏する限り、いずれを用いてもよい。例えば、金、銀、白金、銅、ニッケル、スズ、亜鉛、パラジウム、酸化インジウム錫、硫化銅など、およびこれらの混合物や合金などを用いることができる。
【0032】
導電性繊維Bに屈曲耐性のある金属コートした有機繊維を使用すると、導電性繊維が折れることが非常に少なく、圧電素子を用いたセンサーとしての耐久性や安全性に優れる。
【0033】
導電性繊維Bはフィラメントを複数本束ねたマルチフィラメントであっても、また、フィラメント一本からなるモノフィラメントであってもよい。マルチフィラメントの方が電気特性の長尺安定性の観点で好ましい。モノフィラメント(紡績糸を含む)の場合、その単糸径は1μm〜5000μmであり、好ましくは2μm〜100μmである。さらに好ましくは3μm〜50μmである。マルチフィラメントの場合、フィラメント数としては、1本〜100000本が好ましく、より好ましくは5本〜500本、さらに好ましくは10本〜100本である。ただし、導電性繊維Bの繊度・本数とは、カバリング糸を作製する際に用いる芯部3の繊度・本数であり、複数本の単糸(モノフィラメント)で形成されるマルチフィラメントも一本の導電性繊維Bと数えるものとする。ここで芯部3とは、導電性繊維以外の繊維を用いた場合であっても、それを含めた全体の量とする。
【0034】
芯部3に用いる導電性繊維は、効率よく圧電信号を検出するために、その繊度は20dtex以上であることが好ましく、より好ましくは40dtex以上であり、さらに好ましくは60dtex以上、さらにより好ましくは80dtex以上、最も好ましくは100dtex以上である。20dtex未満であると導電性繊維と圧電性繊維との接触面積が狭くなり、信号強度が小さくなってしまう。また、導電性繊維の導電性は検出した信号を効率よく伝えるという観点から100kΩ/m以下であることが好ましく、より好ましくは10kΩ/m以下であり、さらに好ましくは1kΩ/m以下であり、最も好ましくは500Ω/m以下である。導電性繊維の導電性が100kΩ/mより大きいと、検出器側での信号検出がうまくできないという問題がある。また、導電性繊維が例えば金属コートされた有機繊維である場合には、上記導電性を満たすという観点からも表面積を広くするために、繊度は大きい方が好ましい。
【0035】
導電性繊維Bの断面形状としては円または楕円であることが、圧電素子の設計および製造の観点で好ましいが、これに限定されない。
【0036】
(圧電性繊維)
圧電性繊維Aの材料である圧電性高分子としてはポリフッ化ビニリデンやポリ乳酸のような圧電性を示す高分子を利用できるが、本実施形態では上記のように圧電性繊維Aは主成分としてポリ乳酸を含むことが好適である。ポリ乳酸は、例えば溶融紡糸後に延伸によって容易に配向して圧電性を示し、ポリフッ化ビニリデンなどで必要となる電界配向処理が不要な点で生産性に優れている。しかしこのことは、本発明を実施するに際してポリフッ化ビニリデンその他の圧電性材料の使用を排除することを意図するものではない。
【0037】
ポリ乳酸としては、その結晶構造によって、L−乳酸、L−ラクチドを重合してなるポリ−L−乳酸、D−乳酸、D−ラクチドを重合してなるポリ−D−乳酸、さらに、それらのハイブリッド構造からなるステレオコンプレックスポリ乳酸などがあるが、圧電性を示すものであればいずれも利用できる。圧電率の高さの観点で好ましくは、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸である。ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸はそれぞれ、同じ応力に対して分極が逆になるために、目的に応じてこれらを組み合わせて使用することも可能である。
【0038】
ポリ乳酸の光学純度は96%以上であることが好ましく、97%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは98%以上であり、99%以上であることが最も好ましい。光学純度が96%未満であると著しく圧電率が低下する場合があり、圧電性繊維Aの形状変化よって十分な電気信号を得ることが難しくなる場合がある。特に、圧電性繊維Aは、主成分としてポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸を含み、これらの光学純度が96%以上であることが好ましい。
【0039】
ポリ乳酸を主成分とする圧電性繊維Aは、製造時に延伸されて、その繊維軸方向に一軸配向している。さらに、圧電性繊維Aは、その繊維軸方向に一軸配向しているだけでなく、ポリ乳酸の結晶を含むものであることが好ましく、一軸配向したポリ乳酸の結晶を含むものであることがより好ましい。なぜなら、ポリ乳酸はその結晶性が高いことおよび一軸配向していることでより大きな圧電性を示すためである。
【0040】
結晶性および一軸配向性はホモPLA結晶化度Xhomo(%)および結晶配向度Ao(%)で求められる。本発明の圧電性繊維Aとしては、ホモPLA結晶化度Xhomo(%)および結晶配向度Ao(%)が下記式(1)を満たすことが好ましい。
homo×Ao×Ao÷106≧0.26 (1)
上記式(1)を満たさない場合、結晶性および/または一軸配向性が十分でなく、動作に対する電気信号の出力値が低下したり、特定方向の動作に対する信号の感度が低下したりするおそれがある。上記式(1)の左辺の値は、0.28以上がより好ましく、0.3以上がさらに好ましい。ここで、各々の値は下記に従って求める。
【0041】
ホモポリ乳酸結晶化度Xhomo
ホモポリ乳酸結晶化度Xhomoについては、広角X線回折分析(WAXD)による結晶構造解析から求める。広角X線回折分析(WAXD)では、リガク製ultrax18型X線回折装置を用いて透過法により、以下条件でサンプルのX線回折図形をイメージングプレートに記録する。
X線源: Cu−Kα線(コンフォーカル ミラー)
出力: 45kV×60mA
スリット: 1st:1mmΦ,2nd:0.8mmΦ
カメラ長: 120mm
積算時間: 10分
サンプル: 35mgのポリ乳酸繊維を引き揃え3cmの繊維束とする。
得られるX線回折図形において方位角にわたって全散乱強度Itotalを求め、ここで2θ=16.5°,18.5°,24.3°付近に現れるホモポリ乳酸結晶に由来する各回折ピークの積分強度の総和ΣIHMiを求める。これらの値から下式(2)に従い、ホモポリ乳酸結晶化度Xhomoを求める。
ホモポリ乳酸結晶化度Xhomo(%)=ΣIHMi/Itotal×100 (2)
なお、ΣIHMiは、全散乱強度においてバックグランドや非晶による散漫散乱を差し引くことによって算出する。
【0042】
(2)結晶配向度Ao:
結晶配向度Aoについては、上記の広角X線回折分析(WAXD)により得られるX線回折図形において、動径方向の2θ=16.5°付近に現れるホモポリ乳酸結晶に由来する回折ピークについて、方位角(°)に対する強度分布をとり、得られた分布プロファイルの半値幅の総計ΣWi(°)から次式(3)より算出する。
結晶配向度Ao(%)=(360−ΣWi)÷360×100 (3)
【0043】
なお、ポリ乳酸は加水分解が比較的速いポリエステルであるから、耐湿熱性が問題となる場合においては、公知の、イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物などの加水分解防止剤を添加してもよい。中でも、カルボジイミド化合物が好適であり、とりわけ環状構造を有するカルボジイミド化合物が好ましい。また、必要に応じてリン酸系化合物などの酸化防止剤、可塑剤、光劣化防止剤などを添加して物性改良してもよい。
【0044】
また、ポリ乳酸は他のポリマーとのアロイとして用いてもよいが、ポリ乳酸を主たる圧電性高分子として用いるならば、アロイの全質量を基準として少なくとも50質量%以上でポリ乳酸を含有していることが好ましく、さらに好ましくは70質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。
【0045】
アロイとする場合のポリ乳酸以外のポリマーとしては、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート共重合体、ポリメタクリレート等が好適な例として挙げられるが、これらに限定されるものではなく、本発明で目的とする圧電性を奏する限り、どのようなポリマーを用いてもよい。
【0046】
圧電性繊維Aはフィラメントを複数本束ねたマルチフィラメントであっても、また、フィラメント一本からなるモノフィラメントであってもよい。モノフィラメント(紡績糸を含む)の場合、その単糸径は1μm〜5mmであり、好ましくは5μm〜2mm、さらに好ましくは10μm〜1mmである。マルチフィラメントの場合、その単糸径は0.1μm〜5mmであり、好ましくは2μm〜100μm、さらに好ましくは3μm〜50μmである。マルチフィラメントのフィラメント数としては、1本〜100000本が好ましく、より好ましくは50本〜50000本、さらに好ましくは100本〜20000本である。
【0047】
このような圧電性高分子を圧電性繊維Aとするためには、高分子から繊維化するための公知の手法を、本発明の効果を奏する限りいずれも採用することができる。例えば、圧電性高分子を押し出し成型して繊維化する手法、圧電性高分子を溶融紡糸して繊維化する手法、圧電性高分子を乾式あるいは湿式紡糸により繊維化する手法、圧電性高分子を静電紡糸により繊維化する手法、フィルムを形成した後に細くカットする手法、などを採用することができる。これらの紡糸条件は、採用する圧電性高分子に応じて公知の手法を適用すればよく、通常は工業的に生産の容易な溶融紡糸法を採用すればよい。さらに、繊維を形成後には形成された繊維を延伸する。それにより一軸延伸配向しかつ結晶を含む大きな圧電性を示す圧電性繊維Aが形成される。
【0048】
また、圧電性繊維Aは、上記のように作製されたものをカバリング糸とする前に、染色、撚糸、合糸、熱処理などの処理をすることができる。
【0049】
さらに、圧電性繊維Aは、カバリング糸を形成する際に繊維同士が擦れて断糸したり、毛羽が出たりする場合があるため、その強度と耐摩耗性は高い方が好ましく、強度は1.5cN/dtex以上であることが好ましく、2.0cN/dtex以上であることがより好ましく、2.5cN/dtex以上であることがさらに好ましく、3.0cN/dtex以上であることが最も好ましい。
【0050】
(カバリング)
導電性繊維B、すなわち芯部3は、圧電性繊維A、すなわち鞘部2によりカバリング撚糸されている。導電性繊維Bを被覆する鞘部2の厚みは1μm〜10mmであることが好ましく、5μm〜5mmであることがより好ましく、10μm〜1mmであることがさらに好ましく、15μm〜0.5mmであることが最も好ましい。
【0051】
また、圧電性繊維の繊度は前記導電性繊維の繊度の1/10以上、2倍以下であることが好ましい。1/10未満であるとカバリング角度が小さくなってしまい、一方、2倍より大きいとカバリング角度が大きくなってしまうという課題がある。なお、導電性繊維Bに金属繊維を用いた場合や、金属繊維を導電性繊維Aあるいは圧電性繊維Bに混繊した場合は、繊度の比率は上記の限りではない。本発明において、上記比率は、カバリング角度や接触面積や被覆率、すなわち、円周の長さ、面積、体積の観点で重要であるからである。例えば、それぞれの繊維の比重が2を超えるような場合には、繊維の平均断面積の比率が上記繊度の比率であることが好ましい。
【0052】
さらに、圧電性繊維のカバリング回数は1000〜15000回/mであることが好ましい。1000回/m未満であると、カバリング角度が小さくなってしまい、一方、15000回/mより大きいとカバリング角度が大きくなってしまうという課題がある。カバリング角度は、導電性繊維と圧電性繊維の繊度の比率から適宜決められるが、圧電性繊維の繊度が小さい場合にカバリング回数を大きくすることが、緻密なカバリング糸状圧電素子を得ることに有効である。なお、上記のとおり、圧電性繊維のカバリング回数は1000〜15000回/mであることが好ましいが、これは1000〜15000回/mの範囲外のカバリング回数を完全に排除することを意味するものではない。例えば、鞘部2は、1000回/m未満や15000回/mよりも大きいカバリング回数を有する圧電性繊維の層を一部に含んでもよい。また、圧電性繊維以外の層も本発明の目的を達する限り、1000回/m未満や15000回/mよりも大きいカバリング回数であってもよい。
【0053】
圧電性繊維の繊度は100dtex以下であることが好ましい。100dtexより大きくなるとカバリング糸全体として太くなってしまい実用性が低くなってしまう。圧電性繊維の繊度は、カバリング糸状圧電素子の求められる形状、機械的特性、信号強度あるいは生産性などにより、その繊度は適宜決められるが、例えば、カバリング糸状圧電素子の柔軟性を重視する場合には、その繊度は80dtex以下であることが好ましく、より好ましくは60dtex以下であり、最も好ましくは40dtex以下である。
【0054】
圧電性繊維Aと導電性繊維Bとはできるだけ密着していることが好ましいが、密着性を改良するために、導電性繊維Bと圧電性繊維Aとの間にアンカー層や接着層などを設けてもよい。
【0055】
カバリングの方法は導電性繊維Bを芯糸として、その周りに圧電性繊維Aを巻きつける、カバリング撚糸機を用いた、いわゆるカバリング法が取られる。このようなカバリング法によるカバリング糸状圧電素子の製造は、他の芯鞘構造、例えば、導電性繊維Bを芯糸として、その周りに圧電性繊維Aを組紐状に巻きつけたような複雑な構造と比べると、非常に速くかつ容易に圧電素子を製造することが可能である。したがって、本発明によるカバリング糸状圧電素子は、生産性の観点からも非常に有利である。
【0056】
芯部3と鞘部2の形状としては特に限定されるものではないが、できるだけ同心円状に近いことが、好ましい。なお、導電性繊維Bとしてマルチフィラメントを用いる場合、圧電性繊維Aは、導電性繊維Bのマルチフィラメントの表面(繊維周面)の少なくとも一部が接触しているように被覆していればよく、マルチフィラメントを構成するすべてのフィラメント表面(繊維周面)に圧電性繊維Aが被覆していてもよいし、被覆していなくともよい。導電性繊維Bのマルチフィラメントを構成する内部の各フィラメントへの圧電性繊維Aの被覆状態は、圧電性素子としての性能、取扱い性等を考慮して、適宜設定すればよい。
【0057】
また、本発明において、圧電性繊維はシングルカバリングでもよいしダブルカバリングでもよい。なお、ダブルカバリングの場合は、その巻方向は逆方向であることが好ましい。
【0058】
(導電層)
本発明のカバリング糸状圧電素子においては、図3(A)に示すように、鞘部2をさらに被覆する導電層4を有することが望ましい。この導電層4は、芯部3における電気信号への電磁波シールドの役目を果たすものである。このような導電層を電磁波シールドとして鞘部2の周囲に設けることで、ノイズ信号を抑制することができ、すなわちカバリング糸状圧電素子のS/N比(信号対雑音比)を著しく向上させることが可能である。したがって、このような本発明の好ましい実施形態によれば、圧電素子を変形した際に出力される信号強度のバラツキを抑制し、また繰り返し使用しても信号強度の再現性に優れるカバリング糸状圧電素子を確実に得ることが可能となる。
【0059】
導電層4による鞘部2の被覆率は25%以上が好ましい。ここで被覆率とは、導電層4を鞘部2へ投影した際の導電層4に含まれる導電性を示す物質(導電性物質)の面積と鞘部2の表面積の比率であり、その値は25%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、75%以上であることがさらに好ましい。導電層4の被覆率が25%を下回るとノイズ信号の抑制効果が十分に発揮されない場合がある。導電性物質が導電層4の表面へ露出していない場合、例えば導電性物質を内包する繊維を導電層4として使用して鞘部2を被覆している場合は、その繊維の鞘部2へ投影した際の面積と鞘部2の表面積の比率を被覆率とすることができる。
【0060】
導電層4の様態としては、コーティングの他、フィルム、布帛、繊維の巻き付けが考えられ、またそれらを組み合わせてもよい。
【0061】
導電層4を形成するコーティングには導電性を示す物質を含むものが使用されていればよく、公知のあらゆるものが用いられる。例えば、金属、導電性高分子、導電性フィラーを分散させた高分子が挙げられる。
【0062】
導電層4をフィルムの巻き付けにより形成する場合は、導電性高分子、導電性フィラーを分散させた高分子を製膜して得られるフィルムが用いられ、また表面に導電性を有する層を設けたフィルムが用いられてもよい。
【0063】
導電層4を繊維の巻き付けにより形成する場合、その手法としては、図3(B)に示すように、導電性繊維5を用いたカバリングが好適であり、公知のあらゆる導電繊維を用いることができ、とりわけ、金属コートした有機繊維を使用すると、導電性繊維が折れることが非常に少なく、圧電素子を用いたセンサーとしての耐久性や安全性に優れる。
【0064】
導電性繊維5はフィラメントを複数本束ねたマルチフィラメントであっても、また、フィラメント一本からなるモノフィラメントであってもよい。マルチフィラメントの方が電気特性の長尺安定性の観点で好ましい。モノフィラメント(紡績糸を含む)の場合、その単糸径は1μm〜5000μmであり、好ましくは2μm〜100μmである。さらに好ましくは3μm〜50μmである。マルチフィラメントの場合、フィラメント数としては、1本〜100000本が好ましく、より好ましくは5本〜500本、さらに好ましくは10本〜100本である。ただし、導電性繊維5の繊度・本数とは、カバリング糸を作製する際に用いる導電層4の繊度・本数であり、複数本の単糸(モノフィラメント)で形成されるマルチフィラメントも一本の導電性繊維5と数えるものとする。ここで導電層4とは、導電性繊維以外の繊維を用いた場合であっても、それを含めた全体の量とする。
【0065】
導電層4に用いる導電性繊維5は、圧電素子が太くならないように、その繊度は100dtex以下であることが好ましく、より好ましくは80dtex以下であり、さらに好ましくは60dtex以下、最も好ましくは40dtex以下である。圧電素子が太くなると柔軟性がなくなり信号検出性能が低下してしまう場合や、使用感が悪くなってしまう場合がある。
【0066】
また、導電性繊維5の導電性は電磁波をシールドするという観点から100kΩ/m以下であることが好ましく、より好ましくは10kΩ/m以下であり、さらに好ましくは1kΩ/m以下であり、最も好ましくは500Ω/m以下である。導電性繊維の導電性が100kΩ/mより大きいと、シールド効果が得られないという問題がある。
【0067】
なお、カバリング糸状圧電素子を細く柔軟にし、かつ生産性を両立するという観点においては、ダブルカバリングの製法において、圧電性繊維と導電性繊維を同時に逆向きにカバリングすることが好ましい。
【0068】
また、導電層4は複数層積層してもよく、間に別の層を有してもよい。さらに言えば、別の層が圧電繊維からなる層であってもよい。
【0069】
(保護層)
本発明の圧電素子には保護層を設けてもよい。この保護層は絶縁性であることが好ましく、フレキシブル性などの観点から高分子からなるものがより好ましい。保護層に絶縁性を持たせる場合には、もちろん、この場合には保護層ごと変形させたり、保護層上を擦ったりすることになるが、これらの外力が圧電性繊維Aまで到達し、その分極を誘起できるものであれば特に限定はない。保護層としては、高分子などのコーティングによって形成されるものに限定されず、フィルム、布帛、繊維などを巻付けてもよく、あるいは、それらが組み合わされたものであってもよい。
【0070】
保護層の厚みとしては出来るだけ薄い方が、せん断応力を圧電性繊維Aに伝えやすいが、薄すぎると保護層自体が破壊される等の問題が発生しやすくなるため、好ましくは10nm〜200μm、より好ましくは50nm〜50μm、さらに好ましくは70nm〜30μm、最も好ましくは100nm〜10μmである。この保護層により圧電素子の形状を形成することもできる。
【0071】
この保護層は再表面にあってもよいし、導電層の内側にあってもよく、複数層積層されていてもよく、その順番も目的に応じて適宜決められる。
【0072】
さらには、圧電性繊維からなる層を複数層設けたり、信号を取り出すための導電性繊維からなる層を複数層設けたりすることもできる。もちろん、これらの導電層、保護層、圧電性繊維からなる層、導電性繊維からなる層は、その目的に応じて、その順番および層数は適宜決められる。
【0073】
(作用)
本発明のカバリング糸状圧電素子1は、例えばカバリング糸状圧電素子1の表面を擦るなどで、カバリング糸状圧電素子1に荷重が印加されて生じる応力、すなわちカバリング糸状圧電素子1に印加される応力について、その大きさおよび/又は印加位置を検出するセンサーとして利用することができる。また、本発明のカバリング糸状圧電素子1は、擦る以外の押圧力や曲げ変形などによっても圧電性繊維Aにせん断応力が与えられるならば、電気信号を取り出すことはもちろん可能である。例えば、カバリング糸状圧電素子1に「印加される応力」としては、圧電素子の表面、すなわち圧電性繊維Aの表面と指のような被接触物の表面との間の摩擦力や、圧電性繊維Aの表面または先端部に対する垂直方向の抵抗力、圧電性繊維Aの曲げ変形に対する抵抗力などが挙げられる。特に、本発明のカバリング糸状圧電素子1は、導電性繊維Bに対して平行方向に屈曲させたり、捩じったり、引っ張ったり、擦った場合に大きな電気信号を効率的に出力することができる。
【0074】
ここで、カバリング糸状圧電素子1に「印加された応力」とは、例えば表面を指で擦る程度の大きさの応力の場合、その目安としては、おおよそ1〜1000Paである。もちろん、これ以上であっても印加された応力の大きさおよびその印加位置を検出することが可能であることはいうまでもない。指などで入力する場合には、1Pa以上500Pa以下の荷重であっても動作することが好ましく、さらに好ましくは1Pa以上100Pa以下の荷重で動作することが好ましい。もちろん、500Paを超える荷重であっても動作することは、上述の通りである。
【0075】
(カバリング糸状圧電素子を用いた構造体)
本発明のカバリング糸状圧電素子は、構造体に用いることができる。具体的には、織物や編物の経糸や緯糸として用いて布帛としたり、布帛に刺繍したり接着してもよい。また、成型体や他の構造体に接着や内包させることができる。この際、カバリング糸状圧電素子は、複数本使用してもよい。
【0076】
(布帛状圧電素子)
図4は実施形態に係るカバリング糸状圧電素子を用いた布帛状圧電素子の構成例を示す模式図である。
布帛状圧電素子6は、少なくとも1本のカバリング糸状圧電素子1を含む布帛7を備えている。布帛7は、布帛を構成する繊維(カバリング糸を含む)の少なくとも1本がカバリング糸状圧電素子1であり、カバリング糸状圧電素子1が圧電素子としての機能を発揮可能である限り何らの限定は無く、どのような織編物であってもよい。布状にするにあたっては、本発明の目的を達成する限り、他の繊維(カバリング糸を含む)と組み合わせて、交織、交編等を行ってもよい。もちろん、カバリング糸状圧電素子1を、布帛を構成する繊維(例えば、経糸や緯糸)の一部として用いてもよいし、カバリング糸状圧電素子1を布帛に刺繍してもよいし、接着してもよい。図4に示す例では、布帛状圧電素子6は、経糸として、少なくとも1本のカバリング糸状圧電素子1および絶縁性繊維8を配し、緯糸として絶縁性繊維8を配した平織物である。絶縁性繊維8については後述される。
【0077】
この場合、布帛状圧電素子6が曲げられるなどして変形したとき、その変形に伴いカバリング糸状圧電素子1も変形するので、カバリング糸状圧電素子1から出力される電気信号により、布帛状圧電素子6の変形を検出できる。そして、布帛状圧電素子6は、布帛(織編物)として用いることができるので、例えば衣類形状のウェアラブルセンサーに適用することができる。
【0078】
ここで、布帛状圧電素子に用いるカバリング糸状圧電素子は、導電層4を有するものであることが好ましい。導電層4を有さない場合は、絶縁性繊維8の一部または全部を導電性繊維とすることで、電磁波シールドの効果をもたせることができる。
【0079】
織物の織組織としては、平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。編物の種類は、丸編物(緯編物)であってもよいし経編物であってもよい。丸編物(緯編物)の組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示される。経編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。更には、カットパイルおよび/またはループパイルからなる立毛部と地組織部とで構成される立毛織物、立毛編み物であってもよい。もちろん、布帛の組織は、これらに限定されるものではなく、公知のあらゆる布帛に本発明のカバリング糸状圧電素子を用いることができる。
【0080】
(複数の圧電素子)
また、布帛状圧電素子6では、カバリング糸状圧電素子1を複数並べて用いることも可能である。並べ方としては、例えば経糸または緯糸としてすべてにカバリング糸状圧電素子1を用いてもよいし、数本ごとや一部分にカバリング糸状圧電素子1を用いてもよい。また、ある部分では経糸としてカバリング糸状圧電素子1を用い、他の部分では緯糸としてカバリング糸状圧電素子1を用いてもよい。
【0081】
このようにカバリング糸状圧電素子1を複数本並べて布帛状圧電素子6を形成するときには、カバリング糸状圧電素子1は表面に電極を有さないため、その並べ方、編み方が広範に選択することができるという利点がある。
【0082】
(絶縁性繊維)
布帛状圧電素子6では、カバリング糸状圧電素子1以外の部分には、絶縁性繊維を使用することができる。この際、絶縁性繊維は布帛状圧電素子6の柔軟性を向上する目的で伸縮性のある素材、形状を有する繊維を用いることができる。
【0083】
このようにカバリング糸状圧電素子1以外にこのように絶縁性繊維を配置することで、布帛状圧電素子6の操作性(例示:ウェアラブルセンサーとしての動き易さ)を向上させることが可能である。
【0084】
このような絶縁性繊維としては、導電性が100kΩ/mより大きければ用いることができ、より好ましくは10MΩ/m以上、さらに好ましくは1GΩ/m以上、最も好ましくは100GΩ/m以上であることがよい。
【0085】
絶縁性繊維として例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、塩化ビニル繊維、アラミド繊維、ポリスルホン繊維、ポリエーテル繊維、ポリウレタン繊維等の合成繊維他、綿、麻、絹等の天然繊維、アセテート等の半合成繊維、レーヨン、キュプラ等の再生繊維を用いることができる。これらに限定されるものではなく、公知の絶縁性繊維を任意に用いることができる。さらに、これらの絶縁性繊維を組み合わせて用いてもよく、絶縁性を有しない繊維と組み合わせ、全体として絶縁性を有する繊維としてもよい。
【0086】
また、公知のあらゆる断面形状の繊維も用いることができる。
【0087】
(圧電素子の適用技術)
本発明のカバリング糸状圧電素子1や布帛状圧電素子6のような圧電素子はいずれの様態であっても、表面への接触、圧力、形状変化を電気信号として出力することができるので、その圧電素子に印加された応力の大きさおよび/又は印加された位置を検出するセンサー(デバイス)として利用することができる。また、この電気信号を他のデバイスを動かすための電力源あるいは蓄電するなど、発電素子として用いることもできる。具体的には、人、動物、ロボット、機械など自発的に動くものの可動部に用いることによる発電、靴底、敷物、外部から圧力を受ける構造物の表面での発電、流体中での形状変化による発電、などが挙げられる。また、流体中での形状変化により電気信号を発するために、流体中の帯電性物質を吸着させたり付着を抑制させたりすることも可能である。
【0088】
図5は、本発明の圧電素子11を備えるデバイス10を示すブロック図である。デバイス10は、圧電素子11(例示:カバリング糸状圧電素子1、布帛状圧電素子6)と、印加された応力に応じて圧電素子11から出力される電気信号を増幅する増幅手段12と、増幅手段12で増幅された電気信号を出力する出力手段13と、出力手段13から出力された電気信号を外部機器(図示せず)へ送信する送信手段14とを備える。このデバイス10を用いれば、圧電素子11の表面への接触、圧力、形状変化により出力された電気信号に基づき、外部機器(図示せず)における演算処理にて、圧電素子11に印加された応力の大きさおよび/又は印加された位置を検出することができる。あるいは、デバイス10内に、出力手段13から出力された電気信号に基づき圧電素子11に印加された応力の大きさおよび/又は印加された位置を演算する演算手段(図示せず)を設けてもよい。
【0089】
なお、増幅手段12は、例えば各種電子回路で構築されてもよく、あるいはプロセッサ上で動作するソフトウェアプログラムにより実装される機能モジュールとして構築されてもよく、あるいは各種電子回路とソフトウェアプログラムとの組み合わせで構築されてもよい。プロセッサとしては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、DSP(digital signal processor)、LSI(large scale integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programming Gate Array)等がある。また、出力手段13は、例えば各種コネクタにて単独に構築されてもよく、あるいは送信手段14と一体化した通信装置として構築されてもよい。またあるいは、増幅手段12、出力手段13および送信手段14の機能をまとめて、ソフトウエアプログラムを書き込んだ集積回路もしくはマイクロプロセッサなどで実現してもよい。なお、送信手段14による送信方式を無線によるもの有線によるものにするかは、構成するセンサーに応じて適宜決定すればよい。
【0090】
また、増幅手段だけではなく、ノイズを除去するフィルタ手段や他の信号と組み合わせて処理する手段などの公知の信号処理手段を組み合わせて用いることができる。これらの手段の接続の順序は目的に応じて適宜変えることができる。例えば、圧電素子11から出力される電気信号に含まれるノイズを除去してS/N比(信号対雑音比)を向上させるフィルタ手段(図示せず)を、増幅手段12の前段、増幅手段12と出力手段13との間、出力手段13と送信手段14との間、あるいは送信手段14の後段、に設けてもよい。もちろん、圧電素子11から出力される電気信号をそのまま外部機器へ送信した後で信号処理してもよく、例えば、外部機器内にフィルタ手段を設けてもよい。なお、図3(A)及び図3(B)に示したカバリング糸状圧電素子によれば、S/N比(信号対雑音比)の優れた電気信号が出力されるので、このようなフィルタ手段を省略することも可能である。
【0091】
図6は、実施の形態に係るカバリング糸状圧電素子を備えるデバイスの構成例を示す模式図である。図6の増幅手段12は、図5を参照して説明したものに相当するが、図5の出力手段13および送信手段14については図6では図示を省略している。例えば、図6に示すように、布帛状圧電素子6を備えるデバイスを構成する場合、増幅手段12の入力端子にカバリング糸状圧電素子1の芯部3からの引出し線を接続し、接地(アース)端子には、増幅手段12の入力端子に接続したカバリング糸状圧電素子1の導電層4を接続する。
【0092】
また、複数のカバリング糸状圧電素子1を用いる場合には、それぞれの導電層4を接地(アース)し、それぞれのカバリング糸状圧電素子1の芯部3からの引出し線を異なる増幅手段12の入力端子に接続してもよいし、1本のカバリング糸状圧電素子1の芯部3からの引出し線を増幅手段12の入力端子に接続し、当該カバリング糸状圧電素子1とは別のカバリング糸状圧電素子1の芯部3からの引出し線を、接地(アース)してもよい。
【0093】
本発明のデバイス10は柔軟性があり、紐状および布帛状いずれの形態でも使用できるため、非常に広範な用途が考えられる。本発明のデバイス10の具体的な例としては、帽子や手袋、靴下などを含む着衣、サポーター、ハンカチ状などの形状をした、タッチパネル、人や動物の表面感圧センサー、例えば、手袋やバンド、サポーターなどの形状をした関節部の曲げ、捩じり、伸縮を感知するセンサーが挙げられる。例えば人に用いる場合には、接触や動きを検出し、医療用途などの関節などの動きの情報収集、アミューズメント用途、失われた組織やロボットを動かすためのインターフェースとして用いることができる。他には、動物や人型を模したぬいぐるみやロボットの表面感圧センサー、関節部の曲げ、捩じり、伸縮を感知するセンサーとして用いることができる。他には、シーツや枕などの寝具、靴底、手袋、椅子、敷物、袋、旗などの表面感圧センサーや形状変化センサーとして用いることができる。
【0094】
さらに、本発明のデバイス10はカバリング糸状あるいは布帛状であり、柔軟性があるので、あらゆる構造物の全体あるいは一部の表面に貼付あるいは被覆することにより表面感圧センサー、形状変化センサーとして用いることができる。
【0095】
さらに、本発明のデバイス10は、カバリング糸状圧電素子1の表面を擦るだけで十分な電気信号を発生することができるので、タッチセンサーのようなタッチ式入力装置やポインティングデバイスなどに用いることができる。また、カバリング糸状圧電素子1で被計測物の表面を擦ることによって被計測物の高さ方向の位置情報や形状情報を得ることができるので、表面形状計測などに用いることができる。
【実施例】
【0096】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に記載するが本発明はこれによって何らの限定を受けるものではない。
【0097】
圧電素子用の布帛は以下の方法で製造した。
(ポリ乳酸の製造)
実施例において用いたポリ乳酸は以下の方法で製造した。
L−ラクチド((株)武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100質量部に対し、オクチル酸スズを0.005質量部加え、窒素雰囲気下、撹拌翼のついた反応機にて180℃で2時間反応させ、オクチル酸スズに対し1.2倍当量のリン酸を添加しその後、13.3Paで残存するラクチドを減圧除去し、チップ化し、ポリ−L−乳酸(PLLA1)を得た。得られたPLLA1の質量平均分子量は15.2万、ガラス転移点(Tg)は55℃、融点は175℃であった。
【0098】
(圧電性繊維)
240℃にて溶融させたPLLA1を12ホールのキャップから8g/minで吐出し、1050m/minにて引き取った。この未延伸マルチフィラメント糸を80℃、2.3倍に延伸し、150℃で熱固定処理することにより33dtex/12フィラメントのマルチフィラメント延伸糸を得た。
【0099】
(導電性繊維)
ミツフジ(株)製の銀メッキナイロン、品名『AGposs』100d34fを導電性繊維Bとして使用した。この繊維の導電性は250Ω/mであった。
また、ミツフジ(株)製の銀メッキナイロン、品名『AGposs』30d10fを導電性繊維5として使用した。この繊維の導電性は950Ω/mであった。
【0100】
(絶縁性繊維)
280℃にて溶融させたポリエチレンテレフタレートを24ホールのキャップから45g/minで吐出し、800m/minにて引き取った。この未延伸糸を80℃、2.5倍に延伸し、180℃で熱固定処理することにより84dtex/24フィラメントのマルチフィラメント延伸糸を得、これを絶縁性繊維とした。
【0101】
(カバリング糸状圧電素子)
実施例1の試料として、上記の導電性繊維Bを芯糸とし、上記の圧電性繊維Aを芯糸の周りにS方向に3400回/mのカバリング回数で巻きつけ、連続的にさらに圧電性繊維AをZ方向に3400回/mのカバリング回数で巻きつけ、導電性繊維Bで形成された芯部と、当該芯部を圧電性繊維Aを用いてカバリング撚糸した鞘部とを備えたカバリング糸状圧電素子を得た。カバリング角度はそれぞれS方向62°、Z方向66°であった。
さらにこのカバリング糸状圧電素子を芯糸とし、導電性繊維5を芯糸の周りにS方向に3000回/mのカバリング回数で巻きつけ、連続的にさらに導電性繊維5をZ方向に3000回/mのカバリング回数で巻きつけ、導電層付カバリング糸状圧電素子を得た。カバリング角度はそれぞれS方向72°、Z方向73°であった。また、導電層による上記鞘部の被覆率は100%であった。
【0102】
(性能評価及び評価結果)
導電層付カバリング糸状圧電素子の性能評価及び評価結果は以下のとおりである。
【0103】
(実施例1)
導電層付カバリング糸状圧電素子1中の導電性繊維Bを信号線としてKeithley社製6514プログラマブル・エレクトロメータに接続し、50°/秒の早さで、径方向に15°のねじりを繰り返し印加した。
その結果、カバリング糸状圧電素子1からの出力として、図7に示すとおり、15°のねじりによる比較的小さな変形で生じる応力によっても検出可能なほどに十分大きく、かつ繰り返し精度に優れるS/N比(信号対雑音比)の非常に良好な電気信号が検出されることが確認された。
【0104】
(実施例2)
導電層を有さないカバリング糸状圧電素子1中の導電性繊維Bを信号線としてKeithley社製6514プログラマブル・エレクトロメータに接続し、カバリング糸状圧電素子1および測定機を金網の電磁波シールドボックス内に設置し、50°/秒の早さで、径方向に15°のねじりを繰り返し印加した。
その結果、カバリング糸状圧電素子1からの出力として、図7と同様に、15°のねじりによる比較的小さな変形で生じる応力によっても検出可能なほどに十分大きく、かつ繰り返し精度に優れるS/N比(信号対雑音比)の非常に良好な電気信号が検出されることが確認された。
【符号の説明】
【0105】
A 圧電性繊維
B 導電性繊維
1 カバリング糸状圧電素子
2 鞘部
3 芯部
4 導電層
5 導電性繊維
6 布帛状圧電素子
7 布帛
8 絶縁性繊維
10 デバイス
11 圧電素子
12 増幅手段
13 出力手段
14 送信手段
CL 中心軸
α カバリング角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7