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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-201672(P2017-201672A)
(43)【公開日】2017年11月9日
(54)【発明の名称】磁性粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/11 20060101AFI20171013BHJP
   C01G 49/06 20060101ALI20171013BHJP
【FI】
   H01F1/11 N
   C01G49/06 Z
   H01F1/11 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-93523(P2016-93523)
(22)【出願日】2016年5月8日
(71)【出願人】
【識別番号】516135265
【氏名又は名称】山本 真平
(71)【出願人】
【識別番号】516135276
【氏名又は名称】小林 斉也
(71)【出願人】
【識別番号】516135287
【氏名又は名称】古林 宏之
(71)【出願人】
【識別番号】596032029
【氏名又は名称】関西触媒化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】516135298
【氏名又は名称】株式会社Future Materialz
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】山本 真平
(72)【発明者】
【氏名】小林 斉也
(72)【発明者】
【氏名】古林 宏之
(72)【発明者】
【氏名】戸田 ▲徳▼
(72)【発明者】
【氏名】大谷 昌司
(72)【発明者】
【氏名】草野 圭弘
(72)【発明者】
【氏名】小川 智之
【テーマコード(参考)】
4G002
5E040
【Fターム(参考)】
4G002AA03
4G002AB02
4G002AD04
4G002AE02
5E040AB03
5E040BC01
5E040HB11
5E040HB14
5E040NN06
5E040NN18
(57)【要約】
【課題】イプシロン型結晶構造を有する酸化鉄粒微粒子をより効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】イプシロン型結晶構造を有するFe粒子を含む磁性粉末を製造する方法であって、(1)少なくとも鉄化合物が有機溶媒に溶解してなる鉄イオン含有溶液を熱処理することによりマグネタイト粒子を析出させる工程、(2)前記マグネタイト粒子を酸化性雰囲気下800〜1200℃で焼成することによってイプシロン型結晶構造を有するFe粒子を生成させる工程を含むことを特徴とする磁性粉末の製造方法に係る。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イプシロン型結晶構造を有するFe粒子を含む磁性粉末を製造する方法であって、
(1)少なくとも鉄化合物が有機溶媒に溶解してなる鉄イオン含有溶液を熱処理することによりマグネタイト粒子を析出させる工程、
(2)前記マグネタイト粒子を酸化性雰囲気下800〜1200℃で焼成することによってイプシロン型結晶構造を有するFe粒子を生成させる工程
を含むことを特徴とする磁性粉末の製造方法。
【請求項2】
有機溶媒が2価アルコール類である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
鉄イオン含有溶液が分散剤を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
鉄イオン含有溶液が酢酸ナトリウムを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記マグネタイト粒子の二次粒子の平均粒径が150〜350nmである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記焼成に先立って、マグネタイト粒子表面にシリカ皮膜を形成させる工程をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イプシロン型結晶構造を有するFe粒子を主成分とする磁性粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性材料は、例えば電子分野、自動車分野、医療分野等のさまざまな分野で利用されており、その用途等に応じて種々の材料が用いられている。例えば、フェライト系をはじめとして、パーマロイ系、ネオジム系、サマリウム系、アルニコ系等の各種の材料が知られている。
【0003】
この中でも、特にフェライト系は鉄成分という入手容易な成分を主体とし、コスト面で有利であることに加え、化学的に安定している等のメリットがある。ところが、フェライト系の磁性材料は、一般に保磁力が低いため、その用途が限られてしまうという欠点がある。
【0004】
これに対し、高い保持磁力を発現するフェライト系磁性材料としてイプシロン型結晶構造を有するフェライト系磁性材料が提案されている。
【0005】
例えば、(a)イプシロン型結晶構造を有するFeの結晶構造に対応するX線回折ピークを有し、イプシロン型結晶構造を有するFe結晶のFe3+イオンサイトの一部がGa3+イオンで置換されたイプシロン型結晶構造を有するGaFe2−x〔ただし0<X<1である〕の結晶からなる磁性材料(特許文献1)、(b)イプシロン型結晶構造を有するFe結晶(Feサイトの一部が金属元素Mで置換されたものを含む)を磁性相にもつ鉄酸化物粒子の充填構造を有し、その充填構造を構成する粒子の磁化容易軸が一方向に沿って配向している磁性材料(特許文献2)、(c)イプシロン型結晶構造を有するFe結晶(Feサイトの一部が金属元素Mで置換されたものを含む)を主相とする鉄酸化物の粒子からなり、TEM写真により測定される粒子径において、平均粒子径が10〜200nm、かつ、粒子径10nm未満の粒子の個数割合が25%以下である磁性粉末(特許文献3)、(d)単相イプシロン型結晶構造を有するFeであって、平均粒径が15nm以下である酸化鉄ナノ磁性粒子を含むことを特徴とする酸化鉄ナノ磁性粒子粉(特許文献4)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−269548
【特許文献2】特開2008−63199
【特許文献3】特開2008−63201
【特許文献4】特開2014−224027
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Jian Jin、 Shinichi Ohkoshi and Kazuhito Hashimoto ADVANCED MATERIALS 2004、16、No.1、January 5、 pp.48-51
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これら従来技術に係る磁性材料は、2つのミセル溶液を調製した後、両者を混合・反応させる工程(いわゆる逆ミセル法)を前提とする製法により合成されているが、この方法では工程が比較的複雑であり、しかも比較的長時間を要するものであるため、工業的規模での生産という見地ではさらなる改善の余地がある。また、非特許文献1に開示されているゾル・ゲル法を用いる方法は、工業的には非常に困難な合成方法であることから、実用化には適していない。
【0009】
従って、本発明の主な目的は、イプシロン型結晶構造を有する酸化鉄粒微粒子をより効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定のプロセスを採用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の磁性粉末の製造方法に係る。
1. イプシロン型結晶構造を有するFe粒子を含む磁性粉末を製造する方法であって、
(1)少なくとも鉄化合物が有機溶媒に溶解してなる鉄イオン含有溶液を熱処理することによりマグネタイト粒子を析出させる工程、
(2)前記マグネタイト粒子を酸化性雰囲気下800〜1200℃で焼成することによってイプシロン型結晶構造を有するFe粒子を生成させる工程
を含むことを特徴とする磁性粉末の製造方法。
2. 有機溶媒が2価アルコール類である、前記項1に記載の製造方法。
3. 鉄イオン含有溶液が分散剤を含む、前記項1に記載の製造方法。
4. 鉄イオン含有溶液が酢酸ナトリウムを含む、前記項1に記載の製造方法。
5. 前記マグネタイト粒子の二次粒子の平均粒径が150〜350nmである、前記項1に記載の製造方法。
6. 前記焼成に先立って、マグネタイト粒子表面にシリカ皮膜を形成させる工程をさらに含む、前記項1に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、イプシロン型結晶構造を有する酸化鉄粒微粒子をより効率的に製造することができる。
【0013】
特に、所定の鉄イオン含有溶液を熱処理することにより比較的微細なマグネタイト粒子を析出させた後、そのマグネタイト粒子を焼成する工程を採用するので、ナノレベルの粒子径を有するイプシロン型酸化鉄粒微粒子も効果的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1で得られたマグネタイト粒子のX線回折分析結果を示す。
図2】実施例1で得られたマグネタイト粒子を透過型電子顕微鏡で観察した結果を示す。
図3】実施例1で得られたイプシロン型結晶構造を有するFe粒子を含む磁性粉末のX線回折分析結果を示す。
図4】実施例1で得られたイプシロン型結晶構造を有するFe粒子を含む磁性粉末を透過型電子顕微鏡で観察した結果を示す。
図5】実施例1で得られたイプシロン型結晶構造を有するFe粒子を含む磁性粉末における磁性ヒステリシスループを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.磁性粉末の製造方法
本発明の製造方法は、イプシロン型結晶構造を有するFe粒子を含む磁性粉末を製造する方法であって、
(1)少なくとも鉄化合物が有機溶媒に溶解してなる鉄イオン含有溶液を熱処理することによりマグネタイト粒子を析出させる工程(析出工程)、
(2)前記マグネタイト粒子を酸化性雰囲気下800〜1200℃で焼成することによってイプシロン型結晶構造を有するFe(イプシロン型結晶構造を有するFe)粒子を生成させる工程(焼成工程)
を含むことを特徴とする。
【0016】
析出工程
析出工程では、少なくとも鉄化合物が有機溶媒に溶解してなる鉄イオン含有溶液を熱処理することによりマグネタイト粒子を析出させる。
【0017】
鉄成分の供給源となる鉄化合物は、使用する有機溶媒に溶解するものであれば限定的でなく、例えば鉄塩を好適に用いることができる。鉄塩としては、例えば塩化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩等の有機酸塩を挙げることができる。また、鉄を含む有機金属化合物も使用することができる。これらは無水物又は水和物のいずれであっても良い。これらの中でも、工業的に用いることを考えると塩化物塩、硫酸塩、硝酸塩等を好適に用いることができる。例えば、FeCl等のような3価の鉄塩を用いることができる。
【0018】
鉄成分の濃度は、特に限定されず、例えば用いる有機溶媒等に応じて、通常は0.03〜1.0mol/L程度の範囲内、好ましくは0.05〜0.8mol/Lの範囲内において適宜調整することができる。
【0019】
有機溶媒としては、鉄化合物を溶解できるものであれば限定されず、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、炭化水素系溶媒等を適宜用いることができる。本発明では、特に反応性及び反応条件面においてアルコール系溶媒を使用することが望ましい。
【0020】
アルコール系溶媒としては、特に限定されないが、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソピロピルアルコール等の1価アルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール等の2価アルコールを挙げることができる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0021】
これらの中でも、本発明では、反応性及び反応条件面という点において、2価アルコールを使用することが好ましく、特に2価アルコールを2種以上併用することがより好ましい。例えば、本発明では、エチレングリコール及びジエチレングリコールを含む混合溶媒を好適に用いることができる。この場合の両者の比率は、限定的ではない。例えば、両者の合計を100体積%として、エチレングリコール30〜70体積%及びジエチレングリコール70〜30体積%とすることができ、特にエチレングリコール40〜60体積%及びジエチレングリコール60〜40体積%とすることができ、さらにはエチレングリコール45〜55体積%及びジエチレングリコール55〜45体積%とすることができる。このように設定することによって、より小さく、より球状に近い粒子(特に凝集体粒子)をいっそう確実に得ることができる。
【0022】
また、鉄イオン含有溶液中には、必要に応じて他の添加剤が配合されていても良い。特に、本発明では、例えば分散安定剤、反応開始剤、粘度調整剤等を適宜添加することができる。
【0023】
分散安定剤は、本発明では特に球状のマグネタイト二次粒子を効果的に生成させ、なおかつ、安定的に分散させる効果を果たす。このような分散安定剤としては、有機溶媒に適用できるものであれば制限されないが、特に非イオン系高分子分散剤を好適に用いることができる。このような分散剤としては、例えばポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリ−N−ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド、ポリアルキレンポリアミド等のほか、高級アルコールアルキレンオキサイド系、アルキルポリアミン系等の化合物を挙げることができる。これらは1種又は2種以上で使用することができる。分散安定剤の添加量は特に制限されず、分散安定剤の種類等に応じて適宜設定できるが、通常は鉄化合物に対して2.5〜6倍重量程度とすれば良い。
【0024】
反応開始剤は、本発明では特に酸化鉄の生成を促進する効果を有する。反応開始剤としては、特に限定されないが、例えば酢酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、硫酸水素塩、リン酸水素塩、アンモニウム塩、炭酸塩等を好適に使用することができる。これらは少なくとも1種を用いることができる。反応開始剤の添加量は特に制限されず、反応開始剤の種類等に応じて適宜設定できるが、通常は鉄化合物に対して2〜5倍重量程度とすれば良い。
【0025】
このようにして、少なくとも鉄化合物が有機溶媒に溶解してなる鉄イオン含有溶液を調製することができる。このような鉄イオン含有溶液を熱処理することによりマグネタイト粒子を析出させる。
【0026】
熱処理条件は、マグネタイト粒子が析出する限りは特に限定されないが、熱処理温度は通常100℃以上の範囲内とし、特に150℃以上とし、さらには180℃以上とすることが好ましい。熱処理温度の上限は限定的ではないが、一般的には300℃程度とすれば良い。
【0027】
また、熱処理時における圧力は限定されないが、通常は大気圧以上とし、特に大気圧を超える圧力とすることが好ましい。従って、例えば密閉雰囲気下において有機溶媒の沸点以上となるように加熱することにより、熱処理を好適に行うことができる。なお、有機溶媒を複数種用いる場合は、最も沸点が低い有機溶媒の沸点以上の温度に加熱すれば良い。熱処理時間は、熱処理温度等に応じて適宜変更できるが、一般的には0.5〜36時間の範囲内で設定すれば良い。
【0028】
このようにして生成したマグネタイト粒子は、通常は一次粒子が凝集してなる凝集体粒子(二次粒子)として得られる。この一次粒子の平均粒径は一般的には1〜30nmであり、好ましくは1〜27nmであり、より好ましくは2〜25nmである。二次粒子の平均粒径は一般的には150〜350nmであり、好ましくは170〜320nmであり、より好ましくは180〜300nmである。また、二次粒子の形状は、通常は球状であるが、これに限定されるものではない。
【0029】
マグネタイト粒子を回収した後、後記の焼成工程に供することができる。この場合、焼成工程に先立って、予めマグネタイト粒子表面に絶縁性を高めるための酸化物皮膜(好ましくは酸化鉄皮膜を除く。)を形成させることができる。
【0030】
酸化物皮膜としては、絶縁性を付与できるものであれば制限されず、例えば酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の少なくとも1種が挙げられるが、特に酸化ケイ素(シリカ)皮膜が好ましい。酸化物皮膜を形成する方法自体は公知の方法に従って実施することができる。シリカ皮膜を形成する場合を例にとると、例えば水系溶媒中にマグネタイト粒子を分散液に分散させたシリカ前駆体(例えばテトラエトキシシラン)を添加・攪拌することより、マグネタイト粒子表面にシリカ皮膜が形成されたマグネタイト/シリカ複合粒子を得ることができる。酸化物皮膜の厚みは限定的ではないが、通常は1〜50nm程度とし、特に10〜40nmとすれば良い。
【0031】
酸化物皮膜は、イプシロン型結晶構造を有するFeを合成した後、強アルカリ性溶液にて適宜全て除去することができる。アルカリ性溶液としては、特に限定されないが、苛性ソーダ、水酸化カリウム等が良い。また、アルカリ性物質の溶液中濃度、処理する温度・時間、撹拌等の諸条件を選ぶことにより酸化物皮膜の厚みを任意に制御できる。
【0032】
また、別の工程として、必要に応じて、公知の方法に従って分級工程、分離工程等を実施することもできる。特に、前記凝集体の中でも極めて小さなものを分離・除去することによって、磁性粉末におけるイプシロン型結晶構造を有するFeの含有量を高めることができる。小さな凝集体は、γ−Feの生成原因となり得るので、これを焼成工程前に取り除くことによって、γ−Feの混入量を低減できる。分級又は分離工程の実施方法は限定的でなく、例えば3000〜25000G程度の遠心力で遠心分離する工程を好適に採用することができる。遠心分離は、公知又は市販の装置を用いて実施することができる。なお、本発明の実施例においては、久保田商事製高速大容量冷却遠心機「7780II」を用いて遠心分離を実施した。
【0033】
さらに、焼成工程を実施前において、余分な鉄系微粒子等を取り除くために酸性溶液による除去処理を適宜行っても良い。酸性溶液としては、特に限定されないが、例えばシュウ酸、酢酸、クエン酸、塩酸、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硝酸等を用いることができる。これら酸性溶液による除去処理条件は、特に限定されないが、例えば、酸性溶液濃度は0.05〜10mol/L程度とし、処理温度は室温(好ましくは約15℃)〜95℃程度とし、処理時間は5分〜48時間程度とすれば良い。
【0034】
焼成工程
焼成工程では、前記マグネタイト粒子を酸化性雰囲気下800〜1200℃で焼成することによってイプシロン型結晶構造を有するFe粒子を生成させる。
【0035】
焼成温度は、通常は800〜1200℃程度とし、好ましくは900〜1200℃とすれば良い。また、焼成雰囲気は、通常は酸化性雰囲気とすれば良く、例えば大気(空気)中、酸素ガス含有雰囲気下等のいずれであっても良い。
【0036】
焼成スケジュールは、特に制限されないが、例えば昇温速度5〜30℃/分とし、上記焼成温度で0.5〜36時間保持した後、炉冷する方法を好適に採用することができる。
【0037】
2.磁性粉末
本発明の製造方法で得られる磁性粉末は、イプシロン型結晶構造を有する酸化鉄粒子(イプシロン型結晶構造を有するFe粒子)を含むことを特徴とする。
【0038】
上記磁性粉末におけるイプシロン型結晶構造を有するFe粒子の含有量は、特に制限されないが、通常は80重量%以上であり、好ましくは85重量%以上である。その他の成分として、本発明の効果を妨げない範囲内において他の鉄化合物等が含まれていても良い。
【0039】
また、上記磁性粉末における二次粒子の平均粒径は、特に制限されないが、一般的には150〜350nm程度の範囲内である。さらに、結晶子径は、通常50〜150nm程度である。
【0040】
磁気特性は、イプシロン型結晶構造を有するFe粒子を含む公知の磁性粉末と同等以上の特性を発揮できる。特に、保磁力は通常1000〜30000Oe程度の範囲内にあり、好ましくは1500〜30000Oeである。また、単位重量当たりの飽和磁化は特に限定されないが、通常10〜20emu/gである。
【0041】
本発明の製造方法により得られる磁性粉末は、公知の磁性粉末と同様の用途に使用することができる。例えば、記録媒体材料、硬質磁石材、高周波(GHz〜THz帯域)用電子部品材料、ハードディスク磁気ヘッド部材等のほか、マルチフェロイック挙動を活かした種々の用途のための材料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下において実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0043】
なお、本実施例において、粒子の平均粒径、磁性ヒステリシスループ等は、以下のようにして測定した。
(1)一次粒子及び二次粒子の平均粒径、粒子表面酸化物皮膜厚みの測定
日本電子株式会社製の透過型電子顕微鏡JEM−1400で試料を観察し、任意の粒子120個の粒径等を測定し、その算術平均値を求めた。
(2)磁性ヒステリシスループ
日本カンタム・デザイン株式会社製の振動試料型磁力計付きPhysical Property Measurement Ststemを用いて磁化の外部磁化による曲線を室温にて測定した。印加磁場は-50000〜50000Oeの条件下にて測定することにより、飽和磁化及び保磁力を求めた。
(3)試料粉末の生成相の確認及び結晶子径
ブルカー・エイエックスエス株式会社製 D8 ADVANCEにてXRD測定(X線回折分析)を行い、その生成相を同定した。また、同社製TOPAS解析ソフトを用いて、生成相の体積分率及び結晶子径を求めた。
【0044】
実施例1
(1)マグネタイト粒子の調製
200mLビーカー中において、塩化鉄6水和物(FeCl・6HO)3.89gを[エチレングリコール72mL+ジエチレングリコール72mL]からなる混合溶媒に溶解させることにより混合溶液を調製した。次に、混合溶液にポリビニルピロリドン14.40gを添加し、ビーカーごと120℃のオイルバスに浸漬し、スターラーで1時間撹拌した。次いで、そのままオイルバス中にて、酢酸ナトリウム10.80gを添加し、スターラーで30分間強力に撹拌した。その後、混合溶液を耐熱容器に移し、オートクレーブ中190℃で12時間熱処理した。熱処理後、エチレングリコール、ジエチレングリコール、エタノール及び水の混合溶液で4000〜15000Gで3回洗浄を行い、取り出したペースト状物を40℃にて乾燥して粉末として取り出した。このようにして得られた生成物をX線回折分析した結果、マグネタイトであることが確認された。また、その粒径を透過型電子顕微鏡(TEM)で測定したところ、一次粒子の平均粒径は12nmであり、二次粒子の平均粒径は224nmであることが確認された。X線回折分析の結果を図1に示し、透過型電子顕微鏡による観察結果を図2に示す。
【0045】
(2)イプシロン型結晶構造を有するFの調製
前記のマグネタイト粒子を洗浄した後、[86%エタノール+14%メタノール]からなる混合溶媒900mLに加え、超音波撹拌下にて十分に邂逅して分散液とした。その後、さらに[28%アンモニア水60mL+水40mL]からなる混合液を分散液に加え、1時間機械・超音波撹拌を行った。そのまま機械・超音波撹拌下において、テトラエトキシシラン(TEOS):99%エタノール=1:15からなる溶液を2mL/hrの速度で合計40mLを分散液に滴下した。その後、分散液を洗浄しながら3500〜12000Gでエタノールを用いて3回遠心分離及び洗浄することにより、γ−Fの元となり得る小さな凝集体を除去した。その後、6mol/Lの塩撒水溶液1L中に試料粉末を固形分として20g投入し、機械撹拌しながら室温、30分間にて余分な鉄系微粒子の除去処理を行った。これを再び遠心分離機を用いて洗浄し、50℃の恒温槽にて乾燥させ、目的とする固形分を得た。このようにして得られたマグネタイト凝集体表面の非晶質シリカ皮膜の厚みは約22nmであった。
この固形分を昇温速度20℃/分で加熱し、大気中1000℃で24時間焼成した後、炉冷した。このようにして得られた粉末をX線回折分析により解析した結果、イプシロン型結晶構造を有するFe粒子を含むことが確認された。また、得られた粉末のイプシロン型結晶構造を有するFeの含有率は90.7重量%であった。イプシロン型結晶構造を有するFeの結晶子径は149.0nmであった。酸化物皮膜の厚みは約21nmであった。磁気特性の測定結果、単位重量当たりの飽和磁化12.8emu/g及び保磁力11273Oeであった。X線回折分析の結果を図3に示し、透過型電子顕微鏡による観察結果を図4に示す。さらに、得られた粉末の磁性ヒステリシスループを図5に示す。
【0046】
実施例2
(1)マグネタイト粒子の調製
オートクレーブ中190℃で12時間熱処理したほかは、実施例1(1)と同様にして生成物を得た。これをX線回折分析した結果、マグネタイトであることが確認された。また、その粒径を透過型電子顕微鏡で測定したところ、一次粒子の平均粒径は10nmであり、二次粒子の平均粒径は231nmであることが確認された。
【0047】
(2)イプシロン型結晶構造を有するFの調製
前記のマグネタイト粒子を実施例1(2)と同様にして分散液を調製し、その分散液から固形分を得た。マグネタイト凝集体表面における非晶質シリカ皮膜の厚みは約24nmであった。
この固形分を昇温速度20℃/分で加熱し、大気中1000℃で24時間焼成した後、炉冷した。このようにして得られた粉末をX線回折分析により解析した結果、イプシロン型結晶構造を有するFe粒子を含むことが確認された。また、得られた粉末のイプシロン型結晶構造を有するFeの含有率は87.0重量%であった。イプシロン型結晶構造を有するFeの結晶子径は132.9nmであった。酸化物皮膜の厚みは約23nmであった。磁気特性の測定結果、単位重量当たりの飽和磁化11.7emu/g及び保磁力14537Oeであった。
【0048】
実施例3
(1)マグネタイト粒子の調製
容量300mLのビーカーを使用したほかは、実施例1(1)と同様にして生成物を得た。これをX線回折分析した結果、マグネタイトであることが確認された。また、その粒径を透過型電子顕微鏡で測定したところ、一次粒子の平均粒径は15nmであり、二次粒子の平均粒径は209nmであることが確認された。
【0049】
(2)イプシロン型結晶構造を有するFの調製
前記のマグネタイト粒子を実施例1(2)と同様にして分散液を調製し、その分散液から固形分を得た。マグネタイト凝集体表面における非晶質シリカ皮膜の厚みは約24nmであった。
この固形分を昇温速度20℃/分で加熱し、大気中1000℃で24時間焼成した後、炉冷した。このようにして得られた粉末をX線回折分析により解析した結果、イプシロン型結晶構造を有するFe粒子を含むことが確認された。また、得られた粉末のイプシロン型結晶構造を有するFeの含有率は90.4重量%であった。イプシロン型結晶構造を有するFeの結晶子径は95.2nmであった。酸化物皮膜の厚みは約22nmであった。磁気特性の測定結果、単位重量当たりの飽和磁化13.3emu/g及び保磁力3856Oeであった。
【0050】
実施例4
(1)マグネタイト粒子の調製
200mLビーカー中において、塩化鉄6水和物(FeCl・6HO)3.89gを[エチレングリコール36mL+ジエチレングリコール108mL]からなる混合溶媒に溶解させることにより混合溶液を調製した。次に、混合溶液にポリビニルピロリドン14.40gを添加し、ビーカーごと120℃のオイルバスに浸漬し、スターラーで1時間撹拌した。次いで、ビーカーをオイルバスから取り出した後、酢酸ナトリウム10.80gを添加し、スターラーで30分間強力に撹拌した。その後、混合溶液を耐熱容器に移し、オートクレーブ中190℃で12時間熱処理した。このようにして得られた生成物をX線回折分析した結果、マグネタイトであることが確認された。また、その粒径を透過型電子顕微鏡で測定したところ、一次粒子の平均粒径は18nmであり、二次粒子の平均粒径は117nmであることが確認された。
【0051】
(2)イプシロン型結晶構造を有するFの調製
前記のマグネタイト粒子を洗浄した後、[86%エタノール+14%メタノール]からなる混合溶媒900mLに加え、超音波撹拌下にて十分に邂逅して分散液とした。その後、さらに[28%アンモニア水60mL+水40mL]からなる混合液を分散液に加え、1時間機械・超音波撹拌を行った。そのまま機械・超音波撹拌下において、テトラエトキシシラン(TEOS):99%エタノール=1:15からなる溶液を2mL/hrの速度で合計60mLを分散液に滴下した。その後、分散液を洗浄しながら比較的緩い遠心力(3500G)で遠心分離することにより、γ−Fの元となり得る小さな凝集体を除去した。このようにして、目的とする固形分を分散液から回収した。マグネタイト凝集体表面の非晶質シリカ皮膜の厚みは約20nmであった。
この固形分を昇温速度20℃/分で加熱し、大気中1000℃で18時間焼成した後、炉冷した。このようにして得られた粉末をX線回折分析により解析した結果、イプシロン型結晶構造を有するFe粒子を含むことが確認された。また、得られた粉末のイプシロン型結晶構造を有するFeの含有率は83.3重量%であった。イプシロン型結晶構造を有するFeの結晶子径は99.0nmであった。酸化物皮膜の厚みは約19nmであった。磁気特性の測定結果、単位重量当たりの飽和磁化12.5emu/g及び保磁力1301Oeであった。
【0052】
実施例5
(1)マグネタイト粒子の調製
200mLビーカー中において、塩化鉄6水和物(FeCl・6HO)3.89gを[エチレングリコール72mL+ジエチレングリコール72mL]からなる混合溶媒に溶解させることにより混合溶液を調製した。次に、混合溶液にポリビニルピロリドン14.40gを添加し、ビーカーごと120℃のオイルバスに浸漬し、スターラーで1時間撹拌した。次いで、ビーカーをオイルバスから取り出した後、酢酸ナトリウム10.80gを添加し、スターラーで30分間強力に撹拌した。その後、混合溶液を耐熱容器に移し、オートクレーブ中200℃で12時間熱処理した。このようにして得られた生成物をX線回折分析した結果、マグネタイトであることが確認された。また、その粒径を透過型電子顕微鏡で測定したところ、一次粒子の平均粒径は15nmであり、二次粒子の平均粒径は232nmであった。
【0053】
(2)イプシロン型結晶構造を有するFの調製
前記のマグネタイト粒子を洗浄した後、[86%エタノール+14%メタノール]からなる混合溶媒900mLに加え、超音波撹拌下にて十分に邂逅して分散液とした。その後、さらに[28%アンモニア水60mL+水40mL]からなる混合液を分散液に加え、1時間機械・超音波撹拌を行った。そのまま機械・超音波撹拌下において、テトラエトキシシラン(TEOS):99%エタノール=1:15からなる溶液を2mL/hrの速度で合計60mLを分散液に滴下した。その後、分散液を洗浄しながら比較的緩い遠心力(3500G)で遠心分離することにより、γ−Fの元となり得る小さな凝集体を除去した。このようにして、目的とする固形分を分散液から回収した。マグネタイト凝集体表面の非晶質シリカ皮膜厚みは約37nmであった。
この処理物を昇温速度20℃/分で加熱し、大気中1000℃で24時間焼成した後、炉冷した。このようにして得られた粉末をX線回折分析により解析した結果、イプシロン型結晶構造を有するFe粒子を含むことが確認された。また、得られた粉末のイプシロン型結晶構造を有するFeの含有率は93.5重量%であった。イプシロン型結晶構造を有するFeの結晶子径は80.2nmであった。酸化物皮膜の厚みは約35nmであった。磁気特性の測定結果、単位重量当たりの飽和磁化10.4emu/g及び保磁力5436Oeであった。
得られたイプシロン型結晶構造を有するFeを主相とした試料粉末10gを4mol/Lの苛性ソーダ溶液1Lに浸し、機械撹拌しながら35℃で15時間にて酸化物皮膜の完全除去処理を行った。遠心分離機で洗浄し、70℃の恒温槽で乾燥させて粉末を得た。得られた粉末を透過型電子顕微鏡及びこの装置に実装されているエネルギー分散型X線分析装置で確認したところ、非晶質シリカ皮膜は確認されず、すべて除去されていることが確認された。この試料粉末のイプシロン型結晶構造を有するFeの含有率は93.5重量%、結晶子径は80.2nm、単位重量当たりの飽和磁化10.4emu/g及び保磁力5436Oeであり、酸化物皮膜除去処理前と比較して変化はなかった。
【0054】
実施例6
(1)マグネタイト粒子の調製
200mLビーカー中において、塩化鉄6水和物(FeCl・6HO)3.89gを[エチレングリコール72mL+ジエチレングリコール72mL]からなる混合溶媒に溶解させることにより混合溶液を調製した。次に、混合溶液にポリビニルピロリドン14.40gを添加し、ビーカーごと110℃のオイルバスに浸漬し、スターラーで1時間撹拌した。次いで、そのままオイルバス中にて、酢酸ナトリウム10.80gを添加し、スターラーで30分間強力に撹拌した。その後、混合溶液を耐熱容器に移し、オートクレーブ中190℃で12時間熱処理した。このようにして得られた生成物をX線回折分析した結果、マグネタイトであることが確認された。また、その粒径を透過型電子顕微鏡で測定したところ、一次粒子の平均粒径は14nmであり、二次粒子の平均粒径は273nmであることが確認された。
【0055】
(2)イプシロン型結晶構造を有するFの調製
前記のマグネタイト粒子を実施例1(2)と同様にして固形分を得た。マグネタイト凝集体表面の非晶質シリカ皮膜の厚みは約35nmであった。
この処理物を昇温速度20℃/分で加熱し、大気中1000℃で1時間焼成した後、炉冷した。このようにして得られた粉末をX線回折分析により解析した結果、イプシロン型結晶構造を有するFe粒子を含むことが確認された。また、得られた粉末のイプシロン型結晶構造を有するFeの含有率は89.5重量%であった。イプシロン型結晶構造を有するFeの結晶子径は84.8nmであった。酸化物皮膜の厚みは約35nmであった。磁気特性の測定結果、単位重量当たりの飽和磁化19.2emu/g及び保磁力22056Oeであった。
【0056】
実施例7
(1)マグネタイト粒子の調製
オートクレーブ中200℃で12時間熱処理したほかは、実施例1(1)と同様にして粉末状の生成物を得た。これをX線回折分析した結果、マグネタイトであることが確認された。また、その粒径を透過型電子顕微鏡で測定したところ、一次粒子の平均粒径は17nmであり、二次粒子の平均粒径は223nmであることが確認された。
【0057】
(2)イプシロン型結晶構造を有するFの調製
前記マグネタイト粒子を実施例1(2)と同様にして、目的とする固形分を分散液から回収した。マグネタイト凝集体表面の非晶質シリカ皮膜の厚みは約24nmであった。
この処理物を昇温速度20℃/分で加熱し、大気中1000℃で1時間焼成した後、炉冷した。このようにして得られた粉末をX線回折分析により解析した結果、イプシロン型結晶構造を有するFe粒子を含むことが確認された。また、得られた粉末のイプシロン型結晶構造を有するFeの含有率は92.8重量%であった。イプシロン型結晶構造を有するFeの結晶子径は128.9nmであった。酸化物皮膜の厚みは約22nmであった。磁気特性の測定結果、単位重量当たりの飽和磁化12.1emu/g及び保磁力10762Oeであった。
【0058】
実施例8
(1)マグネタイト粒子の調製
200mLビーカー中において、塩化鉄6水和物(FeCl・6HO)3.89gを[エチレングリコール36mL+ジエチレングリコール108mL]からなる混合溶媒に溶解させることにより混合溶液を調製した。次に、混合溶液にポリビニルピロリドン14.40gを添加し、ビーカーごと120℃のオイルバスに浸漬し、スターラーで1時間撹拌した。次いで、そのままオイルバス中にて、酢酸ナトリウム10.80gを添加し、スターラーで30分間強力に撹拌した。その後、混合溶液を耐熱容器に移し、オートクレーブ中200℃で12時間熱処理した。このようにして得られた生成物をX線回折分析した結果、マグネタイトであることが確認された。また、その粒径を透過型電子顕微鏡で測定したところ、一次粒子の平均粒径は20nmであり、二次粒子の平均粒径は138nmであることが確認された。
【0059】
(2)イプシロン型結晶構造を有するFの調製
前記のマグネタイト粒子を実施例1(2)と同様にして、目的とする固形分を分散液から回収した。マグネタイト凝集体表面の非晶質シリカ皮膜の厚みは約13nmであった。
この固形分を昇温速度20℃/分で加熱し、大気中1000℃で1時間焼成した後、炉冷した。このようにして得られた粉末をX線回折分析により解析した結果、イプシロン型結晶構造を有するFe粒子を含むことが確認された。また、得られた粉末のイプシロン型結晶構造を有するFeの含有率は94.7重量%であった。イプシロン型結晶構造を有するFeの結晶子径は88.7nmであった。酸化物皮膜の厚みは約13nmであった。磁気特性の測定結果、単位重量当たりの飽和磁化11.8emu/g及び保磁力7896Oeであった。
【0060】
実施例9
(1)マグネタイト粒子の調製
実施例1(1)と同様にして得られた生成物をX線回折分析により調べた結果、マグネタイトであることが確認された。また、その粒径を透過型電子顕微鏡で測定したところ、一次粒子の平均粒径は12nmであり、二次粒子の平均粒径は268nmであることが確認された。
【0061】
(2)イプシロン型結晶構造を有するFの調製
前記のマグネタイト粒子を洗浄した後、[86%エタノール+14%メタノール]からなる混合溶媒900mLに加え、超音波撹拌下にて十分に邂逅して分散液とした。その後、さらに[28%アンモニア水60mL+水40mL]からなる混合液を分散液に加え、1時間機械・超音波撹拌を行った。そのまま機械・超音波撹拌下において、テトラエトキシシラン(TEOS):99%エタノール=1:15からなる溶液を2mL/hrの速度で合計40mLを分散液に滴下した。その後、分散液を洗浄しながら比較的緩い遠心力(3500G)で遠心分離することにより、γ−Fの元となり得る小さな凝集体を除去した。このようにして、目的とする固形分を分散液から回収した。マグネタイト凝集体表面の非晶質シリカ皮膜の厚みは約22nmであった。
この固形分を昇温速度20℃/分で加熱し、大気中1000℃で1時間焼成した後、炉冷した。このようにして得られた粉末をX線回折分析により解析した結果、イプシロン型結晶構造を有するFe粒子を含むことが確認された。また、得られた粉末のイプシロン型結晶構造を有するFeの含有率は90.0重量%であった。イプシロン型結晶構造を有するFeの結晶子径は79.8nmであった。酸化物皮膜の厚みは約21nmであった。磁気特性の測定結果、単位重量当たりの飽和磁化11.2emu/g及び保磁力21170Oeであった。
図1
図2
図3
図4
図5