【解決手段】本発明の有機溶媒処理用微生物製剤は、有機溶媒によりミセル封入化された有機溶媒分解菌を含有することを特徴とする。本発明の有機溶媒処理用微生物製剤の製造方法は、有機溶媒分解菌と、有機溶媒と、培地とを混合し、前記有機溶媒分解菌が成育可能な条件で超音波処理を行い、前記有機溶媒によりミセル封入化された前記有機溶媒分解菌を得るミセル封入化工程を備えることを特徴とする。
有機溶媒分解菌と、有機溶媒と、培地とを混合し、前記有機溶媒分解菌が成育可能な条件で超音波処理を行い、前記有機溶媒によりミセル封入化された前記有機溶媒分解菌を得るミセル封入化工程を備えることを特徴とする有機溶媒処理用微生物製剤の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<<有機溶媒処理用微生物製剤>>
一実施形態において、本発明は、有機溶媒によりミセル封入化された有機溶媒分解菌を含有する有機溶媒処理用微生物製剤を提供する。
【0018】
本実施形態の有機溶媒処理用微生物製剤は、常温で保存可能であり、環境負荷が少ないものである。さらに、本実施形態の有機溶媒処理用微生物製剤は、高い有機溶媒分解能を有し、環境浄化又は物質生産へ利用することができる。
【0019】
<有機溶媒>
本実施形態において、ミセル封入化に用いられる有機溶媒は、特別な限定はなく、例えば、常温及び常圧下で固体であるものであってもよく、常温及び常圧下で液体であるものであってもよい。常温及び常圧下で固体であるものを用いる場合、常温及び常圧下で液体である有機溶媒の存在により、前記常温及び常圧下で固体である有機溶媒を溶解し、液体とすることができればよい。中でも、ミセルの保存安定性の観点から、本実施形態においてミセル封入化に用いられる有機溶媒は、常温及び常圧下で液体であるものが好ましい。
【0020】
本明細書において、「常温」とは、特に冷やしたり、熱したりしない温度、すなわち平常の温度を意味し、例えば、15〜25℃の温度等が挙げられる。
また、本明細書において、「常圧」とは、特別に減圧も加圧もしないときの圧力、すなわち大気圧に等しい圧力を意味し、例えば、1気圧(1atm、101,325Pa)程度等が挙げられる。
【0021】
また、本実施形態において、ミセル封入化に用いられる有機溶媒は、炭素数13以上のアルカンを含むことが好ましい。炭素数12以下のアルカンでは、通常有機溶媒分解菌を有機溶媒中へ転移させることが難しい。よって、前記ミセル封入化に用いられる有機溶媒としては、炭素数13以上のアルカン以外に炭素数12以下の炭化水素又はその他の疎水性物質が含まれていてもよく、炭素数13以上のアルカンで100%占められていてもよい。炭素数12以下のアルカンを含む場合は、有機溶媒の全量を基準として、炭素数13以上のアルカンが20%(v/v)以上含まれることが好ましく、40%(v/v)以上含まれることがより好ましく、60%(v/v)以上含まれることがさらに好ましい。
中でも、ミセル封入化に用いられる有機溶媒としては、炭素数13以上のアルカンで100%占められていることが好ましい。
【0022】
よって、常温及び常圧下で液体であり、有機溶媒分解菌が有機溶媒中に転移可能である有機溶媒としては、例えば、炭素数13以上16以下の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルカン等が挙げられる。
【0023】
前記炭素数13以上16以下の直鎖状のアルカンとしては、例えば、n−トリデカン(C13)、n−テトラデカン(C14)、n−ペンタデカン(C15)、n−ヘキサデカン(C16)等が挙げられる。
【0024】
前記炭素数13以上16以下の分岐鎖状のアルカンとしては、例えば、2,2,7−トリメチルデカン(C13)、2,6,8−トリメチルデカン(C13)、2,4,6−トリメチルデカン(C13)、3,5−ジメチルウンデカン(C13)、4,7−ジメチルウンデカン(C13)、2,5,5−トリメチルデカン(C13)、5,7−ジメチルウンデカン(C13)、2,8−ジメチルウンデカン(C13)、4,8−ジメチルウンデカン(C13)、2,3−ジメチルウンデカン(C13)、2,2,9−トリメチルデカン(C13)、5−メチル−5−プロピルノナン(C13)、2,5,6−トリメチルデカン(C13)、[R,(−)] −3−メチルドデカン(C13)、3,3,5−トリメチルデカン(C13)、3,3−ジエチル−4,5,5−トリメチルオクタン(C13)、4,4−ジプロピルヘプタン(C13)、2,2,3,3−テトラメチルノナン(C13)、2,4−ジメチル−3,3−ジイソプロピルペンタン(C13)、2−メチルトリデカン(C14)、7−メチルトリデカン(C14)、3,8−ジエチルデカン(C14)、(6R,7S)−6,7−ジメチルドデカン(C14)、3,3,4,4−テトラエチルヘキサン(C14)、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタメチルヘキサン(C14)、5−ブチルデカン(C14)、2,5−ジメチル−3,4−ジイソプロピルヘキサン(C14)、2,2,3,3,5,6,6−ヘプタメチルヘプタン(C14)、3−tert−ブチル−2,2,5,5−テトラメチルヘキサン(C14)、4−メチルテトラデカン(C15)、2,7,10−トリメチルドデカン(C15)、7−メチルテトラデカン(C15)、6−プロピルドデカン(C15)、ファルネサン(C15)、[R,(−)]−3−メチルテトラデカン(C15)、2,6−ジメチル−3,5−ジイソプロピルヘプタン(C15)、5−ブチルウンデカン(C15)、5−ペンチルデカン(C15)、(R)−5−エチル−5−プロピルウンデカン(C16)、2,2,4,4,5,5,7,7−オクタメチルオクタン(C16)、3,5,9−トリメチルトリデカン(C16)、7−プロピルトリデカン(C16)、5,8−ジエチルドデカン(C16)、4−メチルペンタデカン(C16)、3,3,6,6−テトラエチルオクタン(C16)、2,4,6−トリメチルトリデカン(C16)、3−メチルペンタデカン(C16)、6−ペンチルウンデカン(C16)、4,6−ジエチルドデカン(C16)、2,2,4,4,6,6,7−ヘプタメチルノナン(C16)、2,2,4,4,6,8,8−ヘプタメチルノナン(C16)等が挙げられ、これらに限定されない。
【0025】
前記炭素数13以上16以下の環状のアルカンとしては、例えば、シクロトリデカン(C13)、シクロテトラデカン(C14)、1,1,3,5−テトラメチルシクロヘキサン(C14)、3−シクロヘキシル−4−メチルヘプタン(C14)、シクロペンタデカン(C15)、シクロヘキサデカン(C16)等が挙げられ、これらに限定されない。
【0026】
これらの前記直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルカンは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。さらに、これら直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルカンの1個以上の水素原子が、ハロゲン原子又は水酸基で置換されていてもよい。ここで、水素原子を置換するハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
ミセル封入化に用いられる有機溶媒が炭素数13以上16以下の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルカンであることにより、有機溶媒分解菌は、前記有機溶媒中に転移することができる。さらに、有機溶媒分解菌は、ミセル封入化に用いられた有機溶媒自体についても分解及び代謝することができるため、ミセル封入化に用いられた有機溶媒が残らず、環境負荷を低減することができる。
【0027】
<有機溶媒分解菌>
本明細書において、「有機溶媒分解菌」とは、有機溶媒を分解することができ、有機溶媒中で成育可能であって、有機溶媒の表面に吸着するのではなく、転移した状態、すなわち有機溶媒中に潜り込んだ状態で存在する菌を意味する。有機溶媒分解菌としては、特別な限定はなく、例えば、ロドコッカス属に属する細菌等が挙げられる。
ロドコッカス属に属する細菌として、より具体的には、例えば、ロドコッカス・アウストラリス(Rhodococcus australis)ATCC35215株、ロドコッカス・コプロフィラス(Rhodococcus coprophilus)ATCC29080株、ロドコッカス・コプロフィラスJCM3200株、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)ATCC27854株、ロドコッカス・エリスロポリスATCC47072株、ロドコッカス・エリスロポリスDSM1069株、ロドコッカス・エリスロポリスJCM3201株、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株(以下、「PR4株」と称することがある。)、ロドコッカス・グロベルラス(Rhodococcus globerulus)ATCC14346株、ロドコッカス・グロベルラスATCC15076株、ロドコッカス・グロベルラスATCC21292株、ロドコッカス・グロベルラスATCC25669株、ロドコッカス・グロベルラスATCC25688株、ロドコッカス・グロベルラスATCC3110株、ロドコッカス・グロベルラスATCC14898株、ロドコッカス・ジョスティ(Rhodococcus jostii)RHA1株、ロドコッカス・オパカス(Rhodococcus opacus)ATCC170391株、ロドコッカス・オパカスATCC51881株、ロドコッカス・オパカスATCC51882株、ロドコッカス・オパカスJCM9703株、ロドコッカス・ペルコラタス(Rhodococcus percolatus)JCM10087株、ロドコッカス・ロドニ(Rhodococcus rhodnii)ATCC35071株、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC271株、ロドコッカス・ロドクラウスATCC999株、ロドコッカス・ロドクラウスATCC4001株、ロドコッカス・ロドクラウスATCC13808株、ロドコッカス・ロドクラウスATCC14348株、ロドコッカス・ロドクラウスATCC14349株、ロドコッカス・ロドクラウスATCC15905株、ロドコッカス・ロドクラウスATCC15906株、ロドコッカス・ロドクラウスATCC184株、ロドコッカス・ロドクラウスATCC17041株、ロドコッカス・ロドクラウスATCC19150株、ロドコッカス・ロドクラウスATCC12674株、ロドコッカス・ロドクラウスJCM2156株、ロドコッカス・ロドクラウスJCM2157株、ロドコッカス・ロドクラウスR−1株、ロドコッカス・ロドクラウスR−2株、ロドコッカス・ロドクラウスS−1株、ロドコッカス・ロドクラウスS−2株、ロドコッカス・ルーバー(Rhodococcus ruber)IFO15591株、ロドコッカス スピーシーズPG7−2株、ロドコッカス スピーシーズJCM3376株、ロドコッカス スピーシーズJCM3391株、ロドコッカス・ゾフィ(Rhodococcus zopfii)ATCC51349株、ロドコッカス・ゾフィJCM9919株等が挙げられ、これらに限定されない。
中でも、本実施形態において用いられる有機溶媒分解菌としては、ロドコッカス・エリスロポリス属に属する細菌であることが好ましく、PR4株であることがより好ましい。
本実施形態における有機溶媒分解菌は、天然に由来する菌株であってもよく、有機溶媒を分解及び代謝する性質を維持又は向上させた形質転換体であってもよい。
【0028】
<ミセル>
本実施形態の有機溶媒処理用微生物製剤において、有機溶媒がミセルとして分散しており、前記ミセル内に有機溶媒分解菌が封入されている。
前記ミセルの平均粒径としては、1μm以上100μm以下であることが好ましく、1μm以上50μm以下であることがより好ましく、5μm以上30μm以下であることがさらに好ましい。ミセルの平均粒径は上記範囲であることにより、少なくとも1つの有機溶媒分解菌を内包することができ、ミセルとして安定して分散させることができる。
【0029】
また、ミセル内に封入される有機溶媒分解菌の菌体数としては、少なくとも1以上であることが好ましく、1以上10以下であることがより好ましく、2以上8以下であることがさらに好ましく、3以上6以下であることが特に好ましく、4以上5以下であることが最も好ましい。ミセル内に封入される有機溶媒分解菌の菌体数が上記範囲であることのより、有機溶媒分解菌を封入した状態でミセルを安定して分散させることができ、さらに効率的に有機溶媒を分解することができる。
【0030】
<水性溶媒>
本実施形態の有機溶媒処理用微生物製剤に用いられる水性溶媒としては、特別な限定なく、有機溶媒分解菌を培養することができる培地であればよい。前記培地としては、一般的に細菌を培養するために用いられる培地であればよく、例えば、IB2液体培地、YG液体培地、LB培地、マリンブロス、ニュートリエントブロス、トリプトソイブロス、MM培地、NP培地等が挙げられる。中でも、培地としては、IB2液体培地、MM培地又はNP培地を用いることが好ましい。
【0031】
培地としてIB2液体培地を用いる場合、有機溶媒分解菌が水性溶媒、又はミセル封入化に用いられた有機溶媒から、処理対象である有機溶媒に移行するために、IB2液体培地中に酵母エキスを含むことが好ましい。IB2液体培地中に酵母エキスを含むことで、有機溶媒分解菌が水性溶媒、又はミセル封入化に用いられた有機溶媒から、処理対象である有機溶媒へスムーズに移行することができる。
前記水性溶媒中の前記酵母エキスの添加量は、水性溶媒の全量を基準(100%)としたときに、0.05%(w/w)以上であることが好ましく、0.5%(w/w)以上5%(w/w)以下であることがより好ましく、1%(w/w)程度であることがさらに好ましい。
【0032】
本明細書において、「有機溶媒中へ移行する」とは、水性溶媒中に存在していた有機溶媒分解菌が、水性溶媒、又はミセル封入化に用いられた有機溶媒から、処理対象である有機溶媒に吸着又は転移することを意味する。
【0033】
本実施形態の有機溶媒処理用微生物製剤において、通常有機溶媒分解菌は炭素数12以下のアルカンに転移することが難しいが、水性溶媒に添加される無機塩の濃度を制限することにより、有機溶媒分解菌を炭素数12以下のアルカンに転移させることができる。
前記無機塩の水性溶媒中の濃度は88.5nM以下であることが好ましく、8.9nM以下であることがより好ましく、0.9nM以下であることがさらに好ましい。前記無機塩としては、例えば、マグネシウム塩が挙げられ、より具体的には、例えば、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウムが挙げられる。
【0034】
本実施形態の有機溶媒処理用微生物製剤の製造方法については、後述の<<有機溶媒処理用微生物製剤の製造方法>>において、示す。
【0035】
本実施形態の有機溶媒処理用微生物製剤の保存条件については、有機溶媒分解菌が死滅しない温度であって、ミセル封入化に使用する有機溶媒又は水性溶媒が固化する温度よりも高い温度で保存すればよく、例えば、常温で保存してもよく、例えば、常温より高い温度又は常温未満の温度で保存してもよく、例えば、冷蔵(4℃以下)又は冷凍(−20℃以下)等で保存してもよい。中でも、ミセルの安定性の観点から、常温で保存することが好ましい。
【0036】
<<有機溶媒の処理方法>>
一実施形態において、本発明は、上述の有機溶媒処理用微生物製剤を用いた有機溶媒の処理方法を提供する。
【0037】
本実施形態の処理方法によれば、簡便且つ効率的に有機溶媒を処理することができる。
【0038】
本明細書において、「有機溶媒の処理」とは、有機溶媒分解菌が分解及び代謝可能な有機溶媒を、上述の有機溶媒処理用微生物製剤中に添加することを意味する。
【0039】
<処理対象となる有機溶媒>
本実施形態において、上述の有機溶媒処理用微生物製剤を用いて処理対象となる有機溶媒としては、特別な限定はなく、有機溶媒分解菌が分解及び代謝可能なものであればよい。前記処理対象となる有機溶媒としては、例えば、炭素数6以上の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルカン等が挙げられる。有機溶媒分解菌が形質転換されたものである場合、炭素数6以上12以下の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルカンでも成育可能であり、且つ、これら低炭素数のアルカンに少なくとも吸着することができるため、前記低炭素数のアルカンを代謝及び分解することができる。
さらに、アルカンの炭素数の上限は制限されない、例えば、常温及び常圧下で固体であるものであっても、常温及び常圧下で液体であるアルカンの存在により、前記常温及び常圧下で固体であるアルカンを溶解し、液体とすることができればよい。
また、前記炭素数6以上の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルカンを1種又は2種以上含んでいてもよい。
【0040】
前記炭素数6以上の直鎖状のアルカンとしては、例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカン、n−トリデカン、n−テトラデカン(C14)、n−ペンタデカン(C15)、n−ヘキサデカン(C16)、n−ヘプタデカン(C17)、n−オクタデカン(C18)、n−ノナデカン(C19)、n−イコサン(C20)、n−ペンタコサン(C25)、n−トリアコンタン(C30)等が挙げられ、これらに限定されない。
【0041】
前記炭素数6以上の分岐鎖状のアルカンとしては、例えば、以下のようなもの等が挙げられ、これらに限定されない。
炭素数6:2−メチルペンタン、2,3−ジメチルブタン、3−メチルペンタン、3−メチルペンタン、ジメチルブタン、2,2‐ジメチルブタン
炭素数7:3−メチルヘキサン、3,3−ジメチルペンタン、2,2,3−トリメチルブタン、2,3−ジメチルペンタン、3−エチルペンタン、2−メチルヘキサン、2,2−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン
炭素数8:(3R,4S)−3,4−ジメチルヘキサン、2,2,3,3−テトラメチルブタン、(S)−3−メチルヘプタン、3,4−ジメチルヘキサン、3−メチルヘプタン、3−エチルヘキサン、3−メチル−3−エチルペンタン、2−メチル−3−エチルペンタン、2,3,3−トリメチルペンタン、イソオクタン、2−メチルヘプタン、4−メチルヘプタン、2,3,4−トリメチルペンタン、2,2,3−トリメチルペンタン、2,4−ジメチルヘキサン、2,3−ジメチルヘキサン
炭素数9:2,2,4,4−テトラメチルペンタン、3−エチルヘプタン、3,3,4−トリメチルヘキサン、2,2−ジメチルヘプタン、2,4−ジメチルヘプタン、3−エチル−2,3−ジメチルペンタン、2,3,4−トリメチルヘキサン、2,2,3,4−テトラメチルペンタン、4−エチルヘプタン、3,5−ジメチルヘプタン
炭素数10:2,4−ジメチル−3−イソプロピルペンタン、2,3,5−トリメチルヘプタン、2,2−ジメチルオクタン、2,2,4,5−テトラメチルヘキサン、5−エチル−2−メチルヘプタン、2−メチル−3,3−ジエチルペンタン、2,3,3,5−テトラメチルヘキサン、2,2,5−トリメチルヘプタン、4−メチルノナン、2,4,5−トリメチルヘプタン、2,4,6−トリメチルヘプタン、3,4−ジエチルヘキサン
炭素数11:4−イソプロピルオクタン、3,6−ジメチルノナン、2,2,6,6−テトラメチルヘプタン、3,4−ジエチルヘプタン、2,6−ジメチルノナン、2,3,7−トリメチルオクタン、2,4,6−トリメチルオクタン、3,3,5,5−テトラメチルヘプタン、4−エチル−4−メチルオクタン、3,5−ジエチルヘプタン、2,3,6−トリメチルオクタン、2,2,6−トリメチルオクタン、2−メチルデカン、2,2,3,3,4,4−ヘキサメチルペンタン、3,3−ジエチルヘプタン、2,5,6−トリメチルオクタン
炭素数12:3,7−ジメチルデカン、5,6−ジメチルデカン、5−メチルウンデカン、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン、4−エチルデカン、2,3,5−トリメチルノナン、2,9−ジメチルデカン、5−プロピルノナン、2−メチルウンデカン、3,4−ジメチルデカン、2,2,7,7−テトラメチルオクタン、2,4,5,7−テトラメチルオクタン、2,2−ジメチルデカン、2,2,4,4,6−ペンタメチルヘプタン、2,2−ジブチルブタン
炭素数13:2,2,7−トリメチルデカン、2,6,8−トリメチルデカン、2,4,6−トリメチルデカン、3,5−ジメチルウンデカン、4,7−ジメチルウンデカン、2,5,5−トリメチルデカン、5,7−ジメチルウンデカン、2,8−ジメチルウンデカン、4,8−ジメチルウンデカン、2,3−ジメチルウンデカン、2,2,9−トリメチルデカン、5−メチル−5−プロピルノナン、2,5,6−トリメチルデカン、[R,(−)] −3−メチルドデカン、3,3,5−トリメチルデカン、3,3−ジエチル−4,5,5−トリメチルオクタン、4,4−ジプロピルヘプタン、2,2,3,3−テトラメチルノナン、2,4−ジメチル−3,3−ジイソプロピルペンタン
炭素数14:2−メチルトリデカン、7−メチルトリデカン、3,8−ジエチルデカン、(6R,7S)−6,7−ジメチルドデカン、3,3,4,4−テトラエチルヘキサン、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタメチルヘキサン、5−ブチルデカン、2,5−ジメチル−3,4−ジイソプロピルヘキサン、2,2,3,3,5,6,6−ヘプタメチルヘプタン、3−tert−ブチル−2,2,5,5−テトラメチルヘキサン
炭素数15:4−メチルテトラデカン、2,7,10−トリメチルドデカン、7−メチルテトラデカン、6−プロピルドデカン、ファルネサン、[R,(−)]−3−メチルテトラデカン、2,6−ジメチル−3,5−ジイソプロピルヘプタン、5−ブチルウンデカン、5−ペンチルデカン
炭素数16:(R)−5−エチル−5−プロピルウンデカン、2,2,4,4,5,5,7,7−オクタメチルオクタン、3,5,9−トリメチルトリデカン、7−プロピルトリデカン、5,8−ジエチルドデカン、4−メチルペンタデカン、3,3,6,6−テトラエチルオクタン、2,4,6−トリメチルトリデカン、3−メチルペンタデカン、6−ペンチルウンデカン、4,6−ジエチルドデカン、2,2,4,4,6,6,7−ヘプタメチルノナン、2,2,4,4,6,8,8−ヘプタメチルノナン
炭素数17:4,6,8,10−テトラメチルトリデカン、5,9−ジメチルペンタデカン、2,5−ジメチルペンタデカン、(S)−3−メチルヘキサデカン、5,5−ジブチルノナン、4,4−ジプロピルウンデカン、6−ペンチルドデカン、2,6,10−トリメチルテトラデカン、2,2,4,4−テトラメチル−3,3−ジ−tert−ブチルペンタン、2−メチルヘキサデカン
炭素数18:2−メチルヘプタデカン、3−メチルヘプタデカン、2,3,4,5,6,7,8,9−オクタメチルデカン、7,9−ジメチルヘキサデカン、4,9−ジプロピルドデカン、2,2,5,5−テトラメチル−3,4−ジ−tert−ブチルヘキサン、4−メチルヘプタデカン、8−メチルヘプタデカン、2,2,4,9,11,11−ヘキサメチルドデカン、7−メチルヘプタデカン、4,5,6,7−テトラエチルデカン、7−ブチルテトラデカン
炭素数19:プリスタン、2,6−ジメチルヘプタデカン、3−メチルオクタデカン、3,3−ジメチルヘプタデカン、(7R,11S)−7,11−ジメチルヘプタデカン、5,9−ジメチルヘプタデカン、5−メチルオクタデカン、2,6,10,13−テトラメチルペンタデカン、7−ヘキシルトリデカン、5,5,7,7−テトラエチルウンデカン、2−メチルオクタデカン
炭素数20:フィタン、2−メチルノナデカン、3−メチルノナデカン、8−tert−ブチルヘキサデカン、4−メチルノナデカン、7,11−ジメチルオクタデカン、2,6−ジメチルオクタデカン、9−メチルノナデカン、4−プロピルヘプタデカン、3−メチル−3−エチルヘプタデカン、2,6,11,15−テトラメチルヘキサデカン、5−ブチルヘキサデカン
炭素数25:9−オクチルヘプタデカン、10−ヘキシルノナデカン、2,6,10,15,19−ペンタメチルイコサン、2,6,10,14,19−ペンタメチルイコサン、7,7−ジヘキシルトリデカン、9−(2−エチルヘキシル)ヘプタデカン、ハシアン、2−メチルテトラコサン、2,2,8,8−テトラメチル−5,5―ビス(3,3−ジメチルブチル)ノナン、2,6,10,14,18−ペンタメチルイコサン
炭素数30:スクワラン、2,10−ジメチルオクタコサン、7−メチルノナコサン、11−ノニルヘニコサン、(R)−3−メチルノナコサン、8,12−ジメチルオクタコサン、3−メチルノナコサン、9−オクチルドコサン、7,12−ジヘキシルオクタデカン、リザン、2,6−ジメチルオクタコサン
【0042】
前記炭素数6以上の環状のアルカンとしては、例えば、シクロヘキサン(C6)、シクロヘプタン(C7)、シクロオクタン(C8)、シクロノナン(C9)、シクロデカン(C10)、1,1,3,3−テトラメチルシクロヘキサン(C10)、1−メチル−2,4−ジエチルシクロペンタン(C10)、1,5−ジメチルシクロオクタン(C10)、シクロウンデガン(C11)、シクロドデカン(C12)、1−エチル−2−ペンチルシクロペンタン(C12)、1−メチルシクロウンデカン(C12)、ブチルシクロオクタン(C12)、シクロトリデカン(C13)、シクロテトラデカン(C14)、1,1,3,5−テトラメチルシクロヘキサン(C14)、1,2,4,5−テトラエチルシクロヘキサン(C14)、3−シクロヘキシル−4−メチルヘプタン(C14)、1,1,2−トリメチルシクロウンデカン(C14)、イソプロピルシクロウンデカン(C14)、シクロペンタデカン(C15)、シクロヘキサデカン(C16)、(1−プロピルヘプチル)シクロヘキサン(C16)、1−ブチルシクロドデカン(C16)、メチルシクロペンタデカン(C16)、シクロヘプタデカン(C17)、シクロオクタデカン(C18)、(1−ペンチルヘプチル)シクロヘキサン(C18)、ドデカメチルシクロヘキサン(C18)、シクロノナデカン(C19)、セムブラン(C20)、シクロイコサン(C20)、テトラデシルシクロヘキサン(C20)、シクロペンタコサン(C25)、(1−ノニルデシル)シクロヘキサン(C25)、9−(3−シクロペンチルプロピル)ヘプタデカン(C25)、シクロトリアコンタン(C30)、イコサメチルシクロデカン(C30)、ペンタコシルシクロペンタン(C30)等が挙げられ、これらに限定されない。
【0043】
<使用用途>
本実施形態の処理方法は、有機溶媒を含む汚染環境処理のために使用することができる。汚染環境処理としては、例えば、生活排水の処理、又は工業用水の処理等が挙げられる。
また、本実施形態の処理方法は、物質の生産のために使用することができる。物質の生産としては、例えば、分子量の大きい直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルカンを基質として、分子量の小さい直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルカンを生産すること等が挙げられる。
【0044】
本実施形態の処理方法において、使用される上述の有機溶媒処理用微生物製剤は、界面活性剤等の乳化剤を含まず、有機溶媒処理用微生物製剤自体に含まれる有機溶媒も有機溶媒分解菌によって分解及び代謝可能なものであるため、環境負荷を低減することができる。
【0045】
本実施形態の処理方法において、使用される上述の有機溶媒処理用微生物製剤は、有機溶媒の分解速度の傾きが大きく、初速が急激に上昇するものである。すなわち、使用される上述の有機溶媒処理用微生物製剤は、有機溶媒の分解能が高く、分解速度が速い。よって、例えば、汚水の浄化に適用する場合、通常、浄化槽等に含まれる汚水は2〜3日程度で入れ替わるが、本実施形態の処理方法によれば、浄化開始時から、上述の有機溶媒処理用微生物製剤は有機溶媒に対して高い親和性を有し、分解速度が速いため、限られた期間の中で、効率よく対象となる有機溶媒を分解及び代謝し、汚水を浄化することができる。
【0046】
<<有機溶媒処理用微生物製剤の製造方法>>
一実施形態において、本発明は、有機溶媒分解菌と、有機溶媒と、培地とを混合し、前記有機溶媒分解菌が成育可能な条件で超音波処理を行い、前記有機溶媒によりミセル封入化された前記有機溶媒分解菌を得るミセル封入化工程を備える有機溶媒処理用微生物製剤の製造方法を提供する。
【0047】
本実施形態の製造方法によれば、常温で保存可能であり、環境負荷が少なく、高い有機溶媒分解能を有する有機溶媒処理用微生物製剤を簡便に得ることができる。
【0048】
<ミセル封入化工程>
まず、有機溶媒分解菌と、有機溶媒と、培地とを混合し、前記有機溶媒分解菌が成育可能な条件で超音波処理を行う。
【0049】
本実施形態において使用する有機溶媒分解菌としては、上述の<<有機溶媒処理用微生物製剤>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、本実施形態において使用する有機溶媒分解菌としては、ロドコッカス・エリスロポリス属に属する細菌であることが好ましく、PR4株であることがより好ましい。
本実施形態における有機溶媒分解菌は、天然に由来する菌株であってもよく、有機溶媒を分解及び代謝する性質を維持又は向上させた形質転換体であってもよい。
【0050】
本実施形態において有機溶媒としては、常温及び常圧下で液体であり、有機溶媒分解菌が有機溶媒中に転移可能である有機溶媒であることが好ましく、例えば、炭素数13以上16以下の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルカン等が挙げられる。炭素数13以上16以下の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルカンとしては、上述の<<有機溶媒処理用微生物製剤>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0051】
本実施形態において使用する培地としては、上述の<<有機溶媒処理用微生物製剤>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、本実施形態において使用する培地としては、IB2液体培地、MM培地又はNP培地であることが好ましい。
【0052】
本実施形態において有機溶媒と培地との混合割合としては、例えば1:1〜1:20程度であればよい。有機溶媒が培地よりも少ない量混合することにより、容易に有機溶媒分解菌をミセル封入化することができる。
また、有機溶媒分解菌の混合溶液中の濃度は、有機溶媒分解菌の種類、作製するミセル1個当たりに封入させたい菌体数、超音波処理の条件等に応じて、適宜調整することができる。例えば、有機溶媒1mL及び培地10mLに対し、有機溶媒分解菌が1.0×10
7cells/mLとなるように混合すればよい。
【0053】
本明細書において、「成育可能な条件」とは、超音波処理によって、前記有機溶媒分解菌が死滅しない、又は菌体が損傷せず、成育が妨げられない条件であることを意味する。「成育可能な条件」での超音波処理としては、例えば、4Lの水を含む超音波洗浄機(アズワンUSD−4R)を用いて、有機溶媒分解菌1.0×10
7cells/mLと、有機溶媒1mLと、培地10mLとの混合溶液11mLを含む試験管等の容器に対し、常温及び常圧下において、40kHzで15分間処理する条件等が挙げられる。このとき、容器中の混合溶液の液面が、超音波洗浄機の水面よりも1.5cm〜2.0cm程度下であることが好ましい。
超音波処理は、有機溶媒分解菌と、有機溶媒と、培地との混合溶液に直接的に行ってもよく、有機溶媒分解菌と、有機溶媒と、培地との混合溶液を含む容器を介して間接的に行ってもよい。中でも、有機溶媒分解菌が死滅しない、又は菌体が損傷せず、成育が妨げられない条件であることから、有機溶媒分解菌と、有機溶媒と、培地との混合溶液を含む容器を介して間接的に行うことが好ましい。
使用する超音波発生装置としては、特別な限定なく、例えば、振動子が平板(振動板)に装着されている定在波型(洗浄器型)超音波発生装置、振動子の先端に円筒状のホーンが装着されているホーン型(ホモジナイザー型)超音波発生装置等が挙げられる。中でも、有機溶媒分解菌が死滅しない、又は菌体が損傷せず、成育が妨げられない条件であることから、定在波型(洗浄器型)超音波発生装置を用いることが好ましい。
【0054】
作製された有機溶媒処理用微生物製剤について、ミセル内に封入された有機溶媒分解菌の菌体数は、例えば、位相差顕微鏡等を用いる方法により確認することができる。また、ミセルの平均粒径は、例えば、位相差顕微鏡等を用いて目視で計測する方法、又はレーザー回折式粒度分布測定装置等を用いて計測する方法等で確認することができる。
【0055】
作製された有機溶媒処理用微生物製剤の保存条件については、有機溶媒分解菌が死滅しない温度であって、ミセル封入化に使用する有機溶媒又は水性溶媒が固化する温度よりも高い温度で保存すればよく、例えば、常温で保存してもよく、例えば、常温より高い温度又は常温未満の温度で保存してもよく、例えば、冷蔵(4℃以下)又は冷凍(−20℃以下)等で保存してもよい。また、冷蔵(4℃以下)又は冷凍(−20℃以下)等で保存した場合に、有機溶媒が固化することによりミセルが壊れて、有機溶媒相及び培地相に分離しても、再度上述の<ミセル封入化工程>を行うことにより、有機溶媒分解菌をミセル封入化することができる。
中でも、再度の超音波処理を必要とせず、ミセルを安定して保存できることから、常温で保存することが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
[材料]
1.使用菌株
以下の実施例において、Rhodococcus erythropolis PR4株(以下、「PR4株」と称することがある。)を用いた。
【0058】
2.使用培地
以下の実施例において、使用した培地の作製方法は以下のとおりである。
2−1.IB2寒天培地
ミリQ水800mLに8gのグルコース(和光純薬工業社製)、8gのyeast extract(Becton, Dickinson and company社製)、0.16gのMgCl
2・6H
2O(和光純薬工業社製)、0.08gのCaCl
2・2H
2O(和光純薬工業社製)、0.08gのNaCl(和光純薬工業社製)、0.016gのFeCl
2・6H
2O(和光純薬工業社製)、0.4gの(NH
4)
2SO
4(和光純薬工業社製)を加えた。続いて、pH7.2に調整後、さらに12gのアガー(和光純薬工業社製)を加えた。続いて、121℃で15分間オートクレーブし、冷却した。
【0059】
2−2.IB2液体培地
ミリQ水500mLに5gのグルコース(和光純薬工業社製)、5gのyeast extract(Becton, Dickinson and company社製)、0.09gのMgCl
2・6H
2O(和光純薬工業社製)、0.05gのCaCl
2・2H
2O(和光純薬工業社製)、0.05gのNaCl(和光純薬工業社製)、0.01gのFeCl
2・6H
2O(和光純薬工業社製)、0.25gの(NH
4)
2SO
4(和光純薬工業社製)を加えた。続いて、pH7.2に調整後、121℃で15分間オートクレーブし、冷却した。
【0060】
2−3.MM培地
ミリQ水500mLに0.09gのMgCl
2・6H
2O(和光純薬工業社製)、0.05gのCaCl
2・2H
2O(和光純薬工業社製)、0.05gのNaCl(和光純薬工業社製)、0.01gのFeCl
2・4H
2O(和光純薬工業社製)、0.25gの(NH
4)
2SO
4(和光純薬工業社製)、0.25gのK
2HPO
4(和光純薬工業社製)を加えた。続いて、121℃で15分間オートクレーブし、冷却した。
【0061】
2−4.NP培地
ミリQ水500mLに0.25gの(NH
4)
2SO
4(和光純薬工業社製)、0.25gのK
2HPO
4(和光純薬工業社製)を加えた。続いて、121℃で15分間オートクレーブし、冷却した。
【0062】
3.使用試薬
PR4株の生死を確認するために、DAPI(4’,6−Diamidino−2−phenylinodole,dihydrochloride)試薬(和光純薬工業社製)及びCTC(5−Cyano−2,3−ditolyl−2H−tetrazolium chloride)試薬(同仁堂社製)を用いた。
【0063】
また、以下の実施例において使用した有機溶媒は、下記の通りである。
n−ドデカン(以下、「C12」と称することがある。)(和光純薬工業社製)
n−テトラデカン(以下、「C14」と称することがある。)(和光純薬工業社製)
n−ペンタデカン(以下、「C15」と称することがある。)(和光純薬工業社製)
n−ヘキサデカン(以下、「C16」と称することがある。)(和光純薬工業社製)
プリスタン(以下、「C19」と称することがある。)(ACROSS社製)
【0064】
また、培地に添加した各種無機塩類は、以下のように調製した。
3−1.MgCl
2溶液
ミリQ水に18.4gのMgCl
2・6H
2O(和光純薬工業社製)を加え、100mLまでメスアップした。続いて、121℃で15分間オートクレーブし、冷却した。
【0065】
3−2.CaCl
2溶液
ミリQ水に10gのCaCl
2・2H
2O(和光純薬工業社製)を加え、100mLまでメスアップした。続いて、121℃で15分間オートクレーブし、冷却した。
【0066】
3−3.NaCl溶液
ミリQ水に10gのNaCl(和光純薬工業社製)を加え、100mLまでメスアップした。続いて、121℃で15分間オートクレーブし、冷却した。
【0067】
3−4.FeCl
2溶液
ミリQ水に1.7gのFeCl
2・4H
2O(和光純薬工業社製)を加え、100mLまでメスアップした。続いて、121℃で15分間オートクレーブし、冷却した。
【0068】
3−5.(NH4)
2SO
4溶液
ミリQ水に50gの(NH
4)
2SO
4(和光純薬工業社製)を加え、100mLまでメスアップした。続いて、121℃で15分間オートクレーブし、冷却した。
【0069】
[実施例1]各種有機溶媒(C12、C15、C16、C19)を用いた有機溶媒処理微生物用製剤の製造
(1)PR4株の前培養液の作製
予め乾熱滅菌を180℃、30分間行った試験管を用意し、これにオートピペッター及び10mLメスピペットを用いて、5mLのIB2液体培地を加えた。続いて、PR4株をディスポスティックでIB2寒天培地から適当量掻き取り、植菌した。続いて、これらのPR4株が植菌された試験管を28℃、110rpmで2〜3日間振盪培養したものを前培養液として用いた。
【0070】
(2)PR4株のミセル封入化
続いて、予め乾熱滅菌を180℃、30分間行った試験管を用意し、これにオートピペッター及び10mLメスピペットを用いて、IB2液体培地を10mL加えた。続いて、ピペットマンP−1000を用いて、C12、C15、C16、C19をそれぞれ1mLずつ加えた。続いて、ピペットマンP−200を用いて、(1)で作製したPR4株の前培養液を100μL加え、これを28℃、110rpmで1日振盪培養した。培養後の菌体濃度は、1.0×10
7cells/mLであった。続いて、4Lの水量を含む超音波洗浄機(USD−4R、アズワン社製)を用いて、常温及び常圧下において、40kHzで15分間超音波処理した。超音波処理において、試験管中の溶液の液面が、超音波洗浄機の水面よりも1.5cm〜2.0cm程度下になるようにして行った。続いて、超音波処理後の溶液を100μLサンプリングした。サンプリングした溶液は、位相差顕微鏡を用いて観察を行った。観察は、溶液を、ピペットマンP−20を用いて、各8μLずつプレパラートに滴下し、カバーガラスをのせ、イマ―ジョンオイルを1滴垂らしたものを、位相差顕微鏡(オリンパス社製)のステージ上に乗せ、対物レンズの倍率を100倍にして行った。結果を
図1に示す。
【0071】
図1から、有機溶媒としてC12を、水性溶媒としてIB2液体培地を用いた場合では、局在性が吸着型となり、PR4株が有機溶媒の表面に吸着しており、PR4株をミセル封入化することができなかった。
一方、有機溶媒としてC15、C16又はC19を、水性溶媒としてIB2液体培地を用いた場合では、局在性が転移型となり、PR4株をミセル封入化することができた。また、各ミセル内には、PR4株が1〜5細胞程度転移している状態が確認された。
【0072】
(3)超音波処理によるPR4株への影響の確認
また、有機溶媒としてC16又はC19を用いて製造した有機溶媒処理微生物用製剤について、DAPI、CTCによる二重染色を行った。
二重染色は次のように行った。有機溶媒としてC16又はC19を用いて製造した有機溶媒処理微生物用製剤各100μLに、ピペットマンP−2を用いて、Enhancing reagent B液(同仁堂社製)を0.5μLずつ、CTC試薬を1.5μLずつ加え、ボルテックスで十分に撹拌した。続いて、37℃に設定したTHERMO MINDER 50 mini(TAITEC社製)で15分間培養した。続いて、ピペットマンP−2を用いてDAPI試薬を1μLずつ加え、ボルテックスで十分に撹拌した後、室温で15分間放置した。続いて、位相差顕微鏡を用いてサンプルを観察した。DAPI試薬は対比染色として用いた核染色試薬であり、CTC試薬は生菌選択的蛍光染色試薬である。結果を
図2に示す。
【0073】
図2から、有機溶媒としてC16又はC19を用いて製造した有機溶媒処理微生物用製剤について、CTC染色による赤い蛍光が検出された。また、詳細なデータは示さないが、超音波処理の有無でのPR4株のコロニー数を比較したところ、超音波処理(上述の条件)を行ったPR4株は、超音波処理を行っていないPR4株と同程度のコロニーを形成していることが確かめられた。このことから、コロニー形成能に対する超音波処理の影響はないことが確かめられた。
以上のことから、超音波処理を行っても、PR4株は呼吸活性を有することが確認できた。すなわち、上述の条件の超音波処理では、PR4株は死滅しないことが確かめられた。
【0074】
(4)ミセルの平均粒径及びPR4株の平均転移数の測定
また、有機溶媒としてC16又はC19を用いて製造した有機溶媒処理微生物用製剤(各4サンプルずつ)について、位相差顕微鏡を用いて目視にて、独立して3回ずつ測定を行い、ミセルの平均粒径および平均転移数を算出した。結果を
図3に示す。
【0075】
図3から、有機溶媒としてC16を用いて製造した有機溶媒処理微生物用製剤について、4つのサンプル間で平均粒径及び平均転移数に大きな差は見られなかった。また、4つのサンプルを用いて平均粒径及び平均転移数の平均値を求めたところ、平均粒径12.27μm、平均転移数3.27であった。
また、有機溶媒としてC19を用いて製造した有機溶媒処理微生物用製剤について、C16のときと同様に、4つのサンプル間で平均粒径及び平均転移数に大きな差は見られなかった。また、4つのサンプルを用いて平均粒径及び平均転移数の平均値を求めたところ、平均粒径13.26μm、平均転移数4.23であった。
以上のことから、局在性が転移型である有機溶媒分解菌を用いることで、有機溶媒の種類を選ばず、1〜5細胞程度の菌体をミセル封入化できることが確かめられた。
【0076】
(5)ミセルの安定性の検討
さらに、(4)で用いた有機溶媒としてC16又はC19を用いて製造した有機溶媒処理微生物用製剤について、ミセルの安定性を検討した。方法としては、28℃で振盪培養又は常温で静置培養した有機溶媒としてC16又はC19を用いて製造した有機溶媒処理微生物用製剤を用いて、超音波処理後1日目、3日目、5日目、7日目にサンプリングを行い、位相差顕微鏡を用いて目視にて、平均粒径及び平均転移数を経時的に測定することによって、安定性があるか否か検討した。結果を
図4に示す。
【0077】
図4から、有機溶媒としてC16を用いて製造した有機溶媒処理微生物用製剤について、平均粒径及び平均転移数は、培養日数が経過しても大きく変化しなかった。振盪培養と静置培養の2つの培養法を用いて安定性の比較を行ったところ、静置培養の方が平均粒径、平均転移数ともに安定していた。このことから、振盪することによって近くにあるミセル同士が結合する等の影響があったと推察された。
また、有機溶媒としてC19を用いて製造した有機溶媒処理微生物用製剤について、C16のときと同様に、平均粒径及び平均転移数は、培養日数が経過しても大きく変化しなかった。C19においても、C16のときと同様に、振盪培養と静置培養の2つの培養法を用いて安定性の比較を行ったところ、静置培養の方が平均粒径、平均転移数ともに安定していた。このことから、振盪することによって近くにあるミセル同士が結合する等の影響があったと推察された。
以上のことから、有機溶媒としてC16又はC19を用いて製造した有機溶媒処理微生物用製剤について、1週間程度は常温で保存可能であることが確かめられた。
【0078】
[実施例2]水性溶媒としてMM培地を用いた有機溶媒処理用微生物製剤の製造
(1)菌体洗浄
実施例1の(1)で調製した前培養液を、2.0mLエッペンチューブにピペットマンP−1000を用いて、500μL加えた。続いて、10000g、4℃で10分間遠心分離を行い、上清を除去した。続いて、500μLの滅菌ミリQ水を加え、十分に撹拌し、再び10000g、4℃で10分間遠心分離を行った。この作業を計4回繰り返し、500μLの滅菌ミリQ水に懸濁後、続く(2)で用いた。
【0079】
(2)PR4株のミセル封入化
有機溶媒としてC19を、IB2液体培地の代わりにMM培地を用いた以外は、実施例1の(2)と同様の方法を用いて、超音波処理した。続いて、超音波処理後の溶液を100μLサンプリングした。サンプリングした溶液は、位相差顕微鏡を用いて観察を行った。結果を
図5に示す。
【0080】
図5から、PR4株がミセル内に封入化されていることが確かめられた。このことから、局在性が転移型である有機溶媒分解菌を用いることで、培地の種類を選ばず、1〜5細胞程度の菌体をミセル封入化できることが確かめられた。
【0081】
[実施例3]水性溶媒としてNP培地を用いた有機溶媒処理用微生物製剤の製造
(1)菌体洗浄
実施例2の(1)と同様の方法を用いて、前培養液中の菌体を洗浄し、500μLの滅菌ミリQ水に懸濁後、続く(2)で用いた。
【0082】
(2)PR4株のミセル封入化
有機溶媒としてC19を、IB2液体培地の代わりにMM培地を用いた以外は、実施例1の(2)と同様の方法を用いて、超音波処理した。続いて、超音波処理後の溶液を100μLサンプリングした。サンプリングした溶液は、位相差顕微鏡を用いて観察を行った。結果を
図6に示す。
【0083】
図6から、PR4株がミセル内に封入化されていることが確かめられた。このことから、局在性が転移型である有機溶媒分解菌を用いることで、培地の種類を選ばず、1〜5細胞程度の菌体をミセル封入化できることが確かめられた。
【0084】
[実施例4]レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた有機溶媒処理用微生物製剤の粒径の解析
(1)菌体洗浄
実施例2の(1)と同様の方法を用いて、前培養液中の菌体を洗浄し、500μLの滅菌ミリQ水に懸濁後、続く(2)で用いた。
【0085】
(2)PR4株のミセル封入化
有機溶媒としてC16を、IB2液体培地の代わりにMM培地を用いた以外は、実施例1の(2)と同様の方法を用いて、超音波処理した。また、PR4株を含有せずに超音波処理を行い、コントロールミセルを作製した。続いて、超音波処理後の溶液を100μLサンプリングした。サンプリングした溶液は、位相差顕微鏡を用いて観察を行った。結果を
図7(A)に示す。
【0086】
図7(A)から、有機溶媒処理用微生物製剤では、PR4株がミセル封入化されていることが確かめられた。
【0087】
(3)粒径の解析
さらに、(2)で作製した有機溶媒処理用微生物製剤及びコントロールミセルについて、島津レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2300、島津製作所製)を用いて、粒径を測定した。結果を
図7(B)に示す。
【0088】
図7(B)から、コントロールミセルでは、粒径が0.7〜3μmに分布しており、平均粒径は1.58±0.07μmであった。一方、有機溶媒処理用微生物製剤では、粒径が0.9〜400μmに分布しており、平均粒径は23.40±3.76μmであった。
【0089】
[試験例1]有機溶媒処理用微生物製剤を用いたweathered−crude oil(w−oil)の分解試験
(1)分解条件
有機溶媒として、C16を、水性溶媒として、MM培地を用いた。また、分解対象として、1mg/mLのweathered−crude oil(w−oil)を用いた。w−oilとは、アラビアンライト原油の加熱処理産物であって、汚染環境下において残存する不揮発油と想定して使用した。初期菌体量は、1.0×10
6cells/mLであった。また、以下の4つの分解条件のサンプルを準備し、28℃で48時間振盪培養した。
パターン1:MM培地にPR4株とC16とを別々に投入し、超音波処理していないもの
パターン2:予め超音波処理したPR4株及びMM培地と、予め超音波処理したC16及びMM培地とを混合したもの(超音波の条件は、実施例1の(2)と同様である)
パターン3:有機溶媒としてC16を、IB2液体培地の代わりにMM培地を用いた以外は、実施例1の(2)と同様の方法を用いて、超音波処理したもの
パターン4:有機溶媒としてC16を、IB2液体培地の代わりにMM培地を用い、PR4株を含有せずに、実施例1の(2)と同様の方法を用いて、超音波処理したもの
【0090】
(2)GC−MSを用いた残存成分の解析
(1)での分解処理後の各サンプルの培養液から、クロロホルムを用いて残存成分を抽出し、GC−MS(島津製作所製)を用いて解析を行った。なお、各サンプルについて、C16がw−oil中の他のアルカンと比較して非常に多く含有しているため、同じ強度では示せないため、C16以外の成分と、C16とを分けて測定し、SIM解析した。いずれにおいても、パターン4をコントロールとして(各種残存成分の残存量を100%として)、相対残存率として表した。結果を
図8及び
図9に示す。
【0091】
図8から、w−oil中のC16以外の各種成分について、パターン1及びパターン2の分解条件と比較して、パターン3の分解条件では、いずれのアルカンも分解が進み相対残存率が低下したことが確かめられた。また、パターン2では、C16を含まず超音波処理を行ったため、PR4株がダメージを受けてしまい、分解速度が低下したと推察された。
【0092】
また、
図9から、有機溶媒及びw−oil由来のC16について、パターン1及びパターン2の分解条件と比較して、パターン3の分解条件では、分解が進み相対残存率が低下したことが確かめられた。よって、本発明の有機溶媒処理用微生物製剤は、製剤中に含まれる有機溶媒も分解することができ、残存しないため、環境負荷が少ないと推察された。
【0093】
以上のことから、本発明の有機溶媒処理用微生物製剤は、常温で保存可能であり、環境負荷が少なく、高い有機溶媒分解能を有することが明らかとなった。