特開2017-202180(P2017-202180A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新幹工業株式会社の特許一覧 ▶ 独立行政法人国立循環器病研究センターの特許一覧

<>
  • 特開2017202180-組織体形成装置 図000003
  • 特開2017202180-組織体形成装置 図000004
  • 特開2017202180-組織体形成装置 図000005
  • 特開2017202180-組織体形成装置 図000006
  • 特開2017202180-組織体形成装置 図000007
  • 特開2017202180-組織体形成装置 図000008
  • 特開2017202180-組織体形成装置 図000009
  • 特開2017202180-組織体形成装置 図000010
  • 特開2017202180-組織体形成装置 図000011
  • 特開2017202180-組織体形成装置 図000012
  • 特開2017202180-組織体形成装置 図000013
  • 特開2017202180-組織体形成装置 図000014
  • 特開2017202180-組織体形成装置 図000015
  • 特開2017202180-組織体形成装置 図000016
  • 特開2017202180-組織体形成装置 図000017
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-202180(P2017-202180A)
(43)【公開日】2017年11月16日
(54)【発明の名称】組織体形成装置
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/02 20060101AFI20171020BHJP
   A61F 2/04 20130101ALI20171020BHJP
【FI】
   A61F2/02
   A61F2/04
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-96469(P2016-96469)
(22)【出願日】2016年5月12日
(11)【特許番号】特許第6033979号(P6033979)
(45)【特許公報発行日】2016年11月30日
(71)【出願人】
【識別番号】390010744
【氏名又は名称】新幹工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】中山 泰秀
(72)【発明者】
【氏名】森脇 健司
(72)【発明者】
【氏名】大家 智憲
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA14
4C097AA27
4C097AA30
4C097BB01
4C097CC02
4C097CC03
4C097DD15
4C097EE03
4C097EE13
4C097MM06
(57)【要約】
【課題】生体組織材料が存在する環境に装置が埋設される期間の長期化を抑えつつ結合組織体における構造上の精度を高めることを可能とした組織体形成装置を提供する。
【解決手段】生体組織材料が存在する環境のなかで結合組織体を形成する組織体形成装置10であって、結合組織体を形成するための面である組織体形成面を有した内側部材20と、前記組織体形成装置の外表面を構成する面である被覆面を備え、前記被覆面が前記組織体形成面の一部を覆う被覆部材とを備える。そして、前記被覆部材は、前記組織体形成装置10の外側と前記組織体形成面とを連通する複数の連通部を有し、前記各連通部が前記被覆面に開口を有し、前記被覆面に沿う方向での前記各開口における最小寸法が0.5mm以上であり、前記被覆面の単位面積あたりにおける前記開口の占有率が20%以上40%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織材料が存在する環境のなかで結合組織体を形成する組織体形成装置であって、
前記組織体形成装置の外表面を構成する面である被覆面を含み、前記結合組織体を形成するための面である組織体形成面の一部を前記被覆面が覆う被覆部材を備え、
前記被覆部材が、前記被覆部材の外側と前記組織体形成面とを連通する複数の連通部を備え、前記各連通部が前記被覆面に開口を有し、
前記被覆面に沿う方向での前記各開口の有する最小寸法が0.5mm以上であり、
前記被覆面の単位面積あたりにおける前記開口の占有率が20%以上40%以下である
ことを特徴とする組織体形成装置。
【請求項2】
前記組織体形成面と前記被覆部材との間の距離が0.5mm以上である
請求項1に記載の組織体形成装置。
【請求項3】
前記組織体形成面と前記被覆部材との間の距離が5.0mm以下である
請求項2に記載の組織体形成装置。
【請求項4】
前記連通部の有する深さが2.0mm以下である
請求項1から3のいずれか一項に記載の組織体形成装置。
【請求項5】
各々が互いに隣り合う前記開口での間の距離が2.0mm以上5.0mm以下である
請求項1から4のいずれか一項に記載の組織体形成装置。
【請求項6】
前記被覆部材が、曲線状を有した筒状部を含み、
前記被覆面が、前記筒状部の外表面を含む
請求項1から5のいずれか一項に記載の組織体形成装置。
【請求項7】
前記被覆部材が、多重の環状を有した筒状部を含み、
前記被覆面が、前記筒状部の外表面を含む
請求項1から5のいずれか一項に記載の組織体形成装置。
【請求項8】
前記組織体形成面が、前記筒状部の形状に追従する多重の環状を有した環状部であって、前記筒状部の筒内に位置する前記環状部の表面を含む
請求項7に記載の組織体形成装置。
【請求項9】
前記筒状部が、前記筒状部の延在方向における端部に、前記延在方向から見た前記環状部の中心と、前記延在方向から見た前記筒状部の中心とを一致させるように、前記組織体形成面を支持する支持部を備える
請求項8に記載の組織体形成装置。
【請求項10】
前記被覆部材は、大径の環状要素と小径の環状要素とが径方向に隙間を空けて位置する多重の環状を有し、前記大径の環状要素と前記小径の環状要素との間での距離が0.5mm以上である
請求項6から9のいずれか一項に記載の組織体形成装置。
【請求項11】
前記連通部が、第1連通部であり、
前記被覆部材が、1つの方向に延在する筒状を有し、前記被覆部材の延在方向における端面に、前記被覆部材の外側と前記被覆部材の内側とを連通する第2連通部を備える
請求項1から10のいずれか一項に記載の組織体形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結合組織体を形成するための組織体形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
身体が備える自己防衛機能は、主に繊維芽細胞とコラーゲンとから構成されるカプセルで異物を覆う性質を備える。失われた組織や器官を人工物によって蘇らせる医療である再生医療の1つは、組織体形成装置を異物として生体内に埋め、その後、上述した自己防衛機能を利用して、生体由来の結合組織体を生細胞から形成する(例えば、特許文献1〜3を参照)。この際、異物として用いられる組織体形成装置は、互いに対向する2つの組織体形成面を備え、これら2つの組織体形成面の間に侵入する生体組織材料によって結合組織体を形成する(例えば、特許文献4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−312821号公報
【特許文献2】特開2008−237896号公報
【特許文献3】特開2010−094476号公報
【特許文献4】特開2014−030598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、組織体形成装置を用いる再生医療の実用化に際しては、生体に加わる負荷を軽くすること、すなわち、生体組織材料の存在する環境に組織体形成装置を埋設する期間を短くすることが強く求められる。他方、組織体形成装置が形成した結合組織体を用いる医療では、結合組織体が有する構造上の精度を高めることへの要請が強まる一方でもある。しかしながら、生体組織材料のなかに組織体形成装置を埋設する期間の短縮は、結合組織体の大きさを局所的に小さくしたり、結合組織体の厚さを局所的に薄くしたりする。そのため、組織体形成装置を埋設する期間の短縮と、結合組織体が有する構造上の精度の向上とは、結局のところ、一方が満たされると他方が満たされないという、いわゆるトレードオフの関係を有する。
【0005】
本発明は、生体組織材料が存在する環境に装置が埋設される期間の長期化を抑えつつ結合組織体における構造上の精度を高めることを可能とした組織体形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための組織体形成装置は、生体組織材料が存在する環境のなかで結合組織体を形成する組織体形成装置であって、前記組織体形成装置の外表面を構成する面である被覆面を含み、前記結合組織体を形成するための面である組織体形成面の一部を前記被覆面が覆う被覆部材を備える。そして、前記被覆部材が、前記被覆部材の外側と前記組織体形成面とを連通する複数の連通部を有し、前記各連通部が前記被覆面に開口を有し、前記被覆面に沿う方向での前記各開口の有する最小寸法が0.5mm以上であって、前記被覆面の単位面積あたりにおける前記開口の占有率が20%以上40%以下である。
【0007】
上記組織体形成装置によれば、被覆面に沿う方向での開口の有する最小寸法が0.5mm以上であるため、開口に侵入した生体組織材料が組織体形成面に行きわたる前にその開口を塞ぐことが抑えられる。そして、被覆面の単位面積あたりにおける開口の占有率が40%以下であるため、組織体形成面に形成された結合組織体のなかで開口と対向する部位に窪みが形成されることが抑えられる。また、被覆面の単位面積あたりにおける開口の占有率が20%以上であるため、組織体形成面に到達する生体組織材料の量を、開口を通じた生体組織材料の流動によって確保することが可能ともなる。結果として、組織体形成面に到達する生体組織材料の量の確保によって、生体組織材料が存在する環境に装置が埋設される期間の長期化を抑えつつ、その開口と対向する部位が窪むことを抑えることによって、結合組織体における構造上の精度を高めることが可能となる。
【0008】
なお、結合組織は、通常、コラーゲンを主成分とした組織であって、生体内に形成させる組織である。この点、本開示の技術においては、生体内に形成される結合組織に相当する組織が生体外の環境で形成される場合のその組織も含む。また、生体組織材料は、生体に由来する組織を形成するうえで必要な物質のことであり、例えば、線維芽細胞、平滑筋細胞、ES細胞、iPS細胞などの動物細胞、コラーゲンやエラスチンなどの各種のタンパク質類、ヒアルロン酸などの糖類、細胞の成長や分化を促進する細胞成長因子、サイトカインなどの生体内に存在する各種の生理活性物質を含む。また、生体組織材料は、ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジなどの哺乳類、鳥類、魚類、その他の動物に由来する材料、および、これと同等の人工材料を含む。そして、生体組織材料の存在する環境は、例えば、ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジなどの哺乳類、鳥類、魚類、その他の動物における生体内であり、四肢部、肩部、背部、腹部などの皮下、および、腹腔である。また、生体組織材料の存在する環境は、例えば、生体組織材料を含有する人工環境である。
【0009】
上記組織体形成装置において、前記組織体形成面と前記被覆部材との間の距離が0.5mm以上であってもよい。この組織体形成装置によれば、組織体形成面と被覆部材との間の距離が0.5mm以上であるため、組織体形成面と被覆部材との間に侵入した生体組織材料が組織体形成面に行きわたる前にその間隙を塞ぐことが抑えられる。それゆえに、結合組織体における構造上の精度をさらに高めることが可能ともなる。
【0010】
上記組織体形成装置において、前記組織体形成面と前記被覆部材との間の距離が5.0mm以下であってもよい。この組織体形成装置によれば、組織体形成面と被覆部材との間の距離が5.0mm以下であるため、組織体形成面と被覆部材との間隙のなかに結合組織体で埋められない部位が形成されることが抑えられる。それゆえに、結合組織体における構造上の精度をさらに高めることが可能ともなる。
【0011】
上記組織体形成装置において、前記連通部の有する深さが2.0mm以下であってもよい。この組織体形成装置によれば、連通部の有する深さが2.0mm以下であるため、連通部内に侵入した生体組織材料が組織体形成面に行きわたる前にその連通部を塞ぐことが抑えられる。それゆえに、結合組織体における構造上の精度をさらに高めることが可能ともなる。
【0012】
上記組織体形成装置において、各々が互いに隣り合う前記開口での間の距離が2.0mm以上5.0mm以下であってもよい。この組織体形成装置によれば、開口間の距離が2.0mm以上であるため、生体組織材料から見て、各開口が別々の開口として機能する。また、開口間の距離が5.0mm以下であるため、各開口から侵入する生体組織材料の量にばらつきが生じることが抑えられる。結果として、結合組織体における構造上の精度をさらに高めることが可能ともなる。
【0013】
上記組織体形成装置において、前記被覆部材が、曲線状を有した筒状部を含み、前記被覆面が、前記筒状部の外表面を含んでもよい。また、前記被覆部材が、多重の環状を有した筒状部を含み、前記被覆面が、前記筒状部の外表面を含んでもよい。これらの組織体形成装置によれば、組織体形成装置が埋設される限られた体積内において、被覆部材の延在方向における寸法を効果的に長くすることが可能ともなる。
【0014】
上記組織体形成装置において、前記組織体形成面が、前記筒状部の形状に追従する多重の環状を有した環状部であって、前記筒状部の筒内に位置する前記環状部の表面を含んでもよい。この組織体形成装置によれば、被覆部材の延在方向に延びる筒状を有した結合組織体を形成すること、および、その結合組織体における延在方向の寸法を、組織体形成装置が埋設される限られた体積内において効果的に長くすることが可能ともなる。
【0015】
上記組織体形成装置において、前記筒状部が、前記筒状部の延在方向における端部に、前記延在方向から見た前記環状部の中心と、前記延在方向から見た前記筒状部の中心とを一致させるように、前記組織体形成面を支持する支持部を備えてもよい。この組織体形成装置によれば、延在方向から見た環状部の中心と、延在方向から見た筒状部の中心とが一致するように、筒状部の内側で組織体形成面が支持されるため、上記筒状を有した結合組織体において厚みのばらつきが生じることを抑えることが可能ともなる。
【0016】
上記組織体形成装置において、前記被覆部材は、大径の環状要素と小径の環状要素とが径方向に隙間を空けて位置する前記多重の環状を有し、前記大径の環状要素と前記小径の環状要素との間での距離が0.5mm以上であってもよい。この組織体形成装置によれば、互いに隣り合う環状要素間の距離が0.5mm以上であるため、各々が互いに隣り合う環状要素の間隙のなかに生体組織材料が侵入しないことが抑えられる。それゆえに、結合組織体の延在方向において結合組織体における構造上の精度を高めることが可能ともなる。
【0017】
上記組織体形成装置において、前記連通部が、第1連通部であり、前記被覆部材が、1つの方向に延在する筒状を有し、前記被覆部材の延在方向における端面に、前記被覆部材の外側と前記被覆部材の内側とを連通する第2連通部を備えてもよい。この組織体形成装置によれば、被覆部材の延在方向における端面においても、被覆部材の外側から被覆部材の内側へ第2連通部を通じて生体組織材料が侵入するため、結合組織体の端部を含めて、結合組織体における構造上の精度を高めることが可能ともなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明における組織体形成装置によれば、生体組織材料が存在する環境に装置が埋設される期間の長期化を抑えつつ結合組織体における構造上の精度を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態における組織体形成装置の斜視構造を示す斜視図。
図2】第1実施形態における外側部材の外表面を切り開いて示す展開図であって、最表面が備える表面積と開口が備える面積との関係を示す図。
図3】第1実施形態における組織体形成装置を用いた結合組織体の形成方法における各工程を示す斜視図であって、組織体形成装置を生体内に埋める手順を(a)から(f)の順に示す図。
図4】第1実施形態における組織体形成装置が形成する結合組織体の一例を示す図。
図5】(a)は第1実施形態における組織体形成装置の正断面構造の一部を示す部分断面図であり、(b)は第1実施形態における組織体形成装置の側断面構造の一部を示す部分断面図である。
図6】(a)は比較例における組織体形成装置の正断面構造の一部を示す部分断面図であり、(b)は比較例における組織体形成装置の側断面構造の一部を示す部分断面図である。
図7】(a)は比較例における組織体形成装置の正断面構造の一部を示す部分断面図であり、(b)は比較例における組織体形成装置の側断面構造の一部を示す部分断面図である。
図8】第1実施形態における組織体形成装置の各試験例に対する試験結果を示す図。
図9】第1実施形態における組織体形成装置の各試験例に対する試験結果を示す図。
図10】第2実施形態における組織体形成装置の斜視構造を示す斜視図。
図11】第2実施形態における上側外部材の斜視構造を示す斜視図。
図12】第2実施形態における下側外部材の斜視構造を示す斜視図。
図13】第2実施形態における内側環状部材の斜視構造を示す斜視図。
図14】変形例における組織体形成装置の斜視構造を示す斜視図。
図15】他の変形例における組織体形成装置の斜視構造を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
図1から図7を参照して組織体形成装置の第1実施形態を説明する。
図1が示すように、組織体形成装置10は、生体組織材料の存在する環境に埋設されて結合組織体を形成するための装置である。組織体形成装置10は、内側部材20と、被覆部材の一例である外側部材30と、蓋部40とを備える。
【0021】
内側部材20は、一つの方向に延在する棒状を有する。内側部材20は、例えば、内側部材20の延在方向に延びるアクリル樹脂から構成された軸部材21と、シリコーン樹脂から構成される内側筒部材22とから構成される。軸部材21の延在方向において、軸部材21の有する長さは、内側筒部材22の有する長さよりも大きい。軸部材21における延在方向の一端部が内側筒部材22の一端部から突き出るように、軸部材21の周囲には内側筒部材22が被せられている。
【0022】
軸部材21における延在方向の他端部は、生体組織材料の存在する環境から組織体形成装置10を取り出す際に用いられる被着部23であって、外側部材30の他端部から突出している。内側筒部材22の外表面である内側表面20Sは、結合組織体を形成するための面である組織体形成面の一例である。内側部材20が有する外径、すなわち、内側筒部材22が有する外径は、間隙内径R2である。
【0023】
外側部材30は、内側部材20の延在方向に延び、かつ、内側部材20を内挿可能な大きさを有した筒状を有する。外側部材30は、例えば、内側部材20の延在方向に延びるアクリル樹脂から構成される。外側部材30の外表面である最表面30Sは、組織体形成装置10の外表面を構成する面である被覆面の一例であり、結合組織体を形成するための面である内側表面20Sの一部を覆う。外側部材30は、外側部材30の外側と内側表面20Sとを連通する複数の第1連通部31を備え、各第1連通部31が最表面30Sに第1開口31Hを有する。外側部材30の延在方向における端部30Eは、外側部材30の端面から延在方向に延びる被嵌合部32を、外側部材30の周方向に沿って等間隔に備える。外側部材30の延在方向における端部30Eは、蓋部40によって塞がれる。
【0024】
外側部材30が有する外径は、最外径R31であり、外側部材30が有する内径は、間隙外径R32である。間隙外径R32は、間隙内径R2よりも大きい。間隙外径R32と間隙内径R2との差分の半分(=(間隙外径R32−間隙内径R2)/2)は、結合組織体が形成されるための間隙の厚みであって、この間隙に満たされる結合組織体の厚みでもある。この間隙が径方向に有する幅(=(間隙外径R32−間隙内径R2)/2)は、0.5mm以上5.0mm以下であることが好ましい。間隙の有する幅が0.5mm以上であれば、この間隙に侵入した生体組織材料が間隙内を広がる途中で留まること、ひいては、生体組織材料が広がるための通路を生体組織材料が塞いでしまうことが抑えられる。また、間隙の有する幅が5.0mm以上であれば、この間隙のなかに結合組織体で埋められない部位が形成されることが抑えられる。最外径R31と間隙外径R32との差分の半分(=(最外径R31−間隙外径R32)/2)は、外側部材30が径方向に有する厚みであって、第1連通部31の深さでもある。第1連通部31の深さは、2.0mm以下であることが好ましく、薄い方が好ましい。第1連通部31の深さが2.0mm以下であれば、第1開口31Hから侵入した生体組織材料が第1連通部31の内部で留まることを抑えることが容易でもある。
【0025】
蓋部40は、外側部材30と同径の円盤状を有する。蓋部40が有する周面40Sは、蓋部40における径方向の外側に突出し、かつ、被嵌合部32と嵌合可能な形状を有した嵌合爪41を、蓋部40の周方向に沿って等間隔に備える。各嵌合爪41が別々の被嵌合部32と嵌合することによって、外側部材30の延在方向における端部30Eに蓋部40が取り付けられる。
【0026】
蓋部40の中心は、外側部材30の延在方向に沿って蓋部40を貫通する支持孔42を有する。蓋部40が外側部材30に取り付けられた状態において、内側部材20の軸部材21は、支持孔42に嵌め込まれる。また、蓋部40における支持孔42の周囲は、外側部材30の延在方向に沿って蓋部40を貫通する複数の第2連通部43を備える。各第2連通部43は、蓋部40の端面に、弧状を有した第2開口43Hを備える。各第2開口43Hの開口幅は、0.5mm以上であることが好ましい。第2開口43Hの開口幅が0.5mm以上であれば、蓋部40の近傍に形成される結合組織体の厚さを確保することが容易であって、第2開口43Hから侵入する生体組織材料が、内側部材20と外側部材30との間隙に到達する前に第2連通部43の内部で留まること、ひいては、第2連通部43を塞いでしまうことが抑えられる。蓋部40の有する厚みは、第2連通部43の深さであり、2.0mm以下であることが好ましく、薄い方が好ましい。第2連通部43の深さが2.0mm以下であれば、第2開口43Hから侵入した生体組織材料が第2連通部43の内部で留まることを抑えることが容易でもある。
【0027】
次に、最表面30Sの単位面積あたりにおける第1開口31Hの占有率について説明する。なお、図2は、外側部材30の最表面30Sを延在方向に沿って切り開いて示す展開図であり、5行×3列の第1開口31Hが最表面30Sに位置する例を示す。
【0028】
図2が示すように、外側部材30の最表面30Sは、外側部材30の延在方向において長さL30を有し、外側部材30の周方向において幅W30を有する。外側部材30の最表面30Sが有する面積は、長さL30×幅W30である。一方、第1開口31Hは、外側部材30の延在方向において開口長さL31を有し、外側部材30の周方向において開口幅W31を有する。開口幅W31は、最表面30Sに沿う方向での第1開口31Hの有する最小寸法である。各第1開口31Hの有する面積は、開口長さL31×開口幅W31である。5行×3列の第1開口31Hは、外側部材30の最表面30Sにおいて、延在方向、および、周方向に、所定の距離を空けて並ぶ。外側部材30の最表面30Sにおける単位領域SUは、最表面30Sにおける構造上での最小の繰り返し単位であり、各々が延在方向に隣り合う2つの第1開口31Hの一部、および、各々が周方向に隣り合う2つの第1開口31Hの一部を含む。
【0029】
外側部材30の最表面30Sにおいて単位領域SUの有する面積が単位面積であり、単位面積において第1開口31Hの占有する割合は20%以上40%以下である。言い換えれば、全ての第1開口31Hの有する面積の合計(開口長さL31×開口幅W31×第1開口31Hの数量)は、外側部材30の最表面30S(長さL30×幅W30)の有する面積の20%以上40%以下である。外側部材30の最表面30Sにおける単位領域SUは、最表面30Sにおける最小の繰り返し単位であればよく、例えば、4つの第1開口31Hに跨る面積に限らず、例えば、1つの第1開口31Hとその周囲とを含む領域であってもよい。最表面30Sの単位面積あたりにおける第1開口31Hの占有率が40%以下であるため、内側部材20の内側表面20Sに形成された結合組織体のなかで第1開口31Hと対向する部位に窪みが形成されることが抑えられる。また、最表面30Sの単位面積あたりにおける第1開口31Hの占有率が20%以上であるため、内側部材20の内側表面20Sに到達する生体組織材料の量を、第1開口31Hを通じた生体組織材料の流動によって確保することが可能ともなる。
【0030】
外側部材30の延在方向や周方向において、各々が互いに隣り合う第1開口31Hの間の距離は、2.0mm以上5.0mm以下であることが好ましい。第1開口31H間の距離が2.0mm以上であれば、生体組織材料から見て、各第1開口31Hが別々の開口として機能し、生体組織材料が別々の第1開口31Hから均一に侵入しやすくなる。また、第1開口31H間の距離が5.0mm以下であれば、各第1開口31Hから侵入する生体組織材料の量にばらつきが生じることが抑えられる。
【0031】
次に、上述した組織体形成装置10を用いる結合組織体の形成方法を説明する。
生体組織材料の存在する環境は、例えば、ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジなどの哺乳類、鳥類、魚類、その他の動物における生体内であり、四肢部、肩部、背部、腹部などの皮下、および、腹腔である。また、生体組織材料の存在する環境は、例えば、生体組織材料を含む人工環境である。組織体形成装置10を生体内に埋設する場合、まず、十分な麻酔下において最小限の切開術が生体に施される。そして、組織体形成装置10が埋設された後に傷口の縫合が施される。
【0032】
例えば、図3(a)が示すように、組織体形成装置10が生体内に埋設される場合、まず、生体の表面に切開による挿入口51が形成される。次いで、先端が突曲面状を有するガイド棒52が、挿入口51から生体内へ挿入される。次に、図3(b)、および、図3(c)が示すように、円管状を有した挿入管53がガイド棒52の延在方向に沿ってガイド棒52の周囲をスライドするように、挿入口51から生体内へ挿入管53が挿入される。次に、図3(d)、および、図3(e)が示すように、挿入管53の内部に組織体形成装置10が挿入されると共に、生体外から生体内に向けて、押し込み棒54によって組織体形成装置10が押し込まれる。そして、図3(f)が示すように、生体内から生体外に向けて押し込み棒54の周囲をスライドするように、挿入管53が引き抜かれ、その後、挿入口51から押し込み棒54が引き抜かれることによって、組織体形成装置10が生体内に埋設される。
【0033】
生体内に埋設された組織体形成装置10において、外側部材30の最表面30Sに結合組織が形成され、また、各第1連通部31、および、各第2連通部43を通じて、内側部材20と外側部材30との間隙に生体組織材料が侵入する。そして、内側部材20と外側部材30との間隙に侵入した生体組織材料が、その間隙を満たすような結合組織体を形成する。この際、組織体形成装置10の外側と、内側部材20と外側部材30との間隙とを連通する通路が、複数の第1連通部31、および、複数の第2連通部43によって構成されるため、内側部材20と外側部材30との間隙において結合組織体を形成するための期間を短くすることが可能となる。
【0034】
生体組織材料の存在する環境に埋設された組織体形成装置10は、結合組織体が形成される期間である所定の埋設期間が経過した後にその環境から取り出される。組織体形成装置10を生体内から取り出す場合、まず、十分な麻酔下において最小限の切開術が生体に施される。そして、組織体形成装置10が取り出された後に傷口の縫合が施される。
【0035】
例えば、組織体形成装置10の取り出しは、上述した生体内への埋設とは反対の手順に従って処理が行われる。すなわち、被着部23に固定されるための取り出し棒が挿入口51から挿入され、取り出し棒と被着部23とが固定される。次いで、生体外から生体内に向けて取り出し棒の周囲をスライドするように、組織体形成装置10の内部に形成された結合組織体と、組織体形成装置10の外部に形成された結合組織体とを切断する筒状刃が挿入される。そして、取り出し棒の延在方向に沿って筒状刃の内側を取り出し棒がスライドするように、挿入口51から生体外へ組織体形成装置10と共に取り出し棒が引き抜かれ、その後、挿入口51から筒状刃が引き抜かれることによって、組織体形成装置10が生体外に取り出される。生体組織材料の存在する環境から取り出された組織体形成装置10では、内側部材20、外側部材30、および、蓋部40が機械的に分離され、組織体形成面である内側部材20の内側表面20Sから、結合組織体が剥離される。
【0036】
図4が示すように、組織体形成装置10を用いて形成された結合組織体Mは、組織体形成装置10の形状に追従する筒状を有する。結合組織体Mが有する内周面MS1は、内側部材20の内側表面20Sに追従する形状を有し、結合組織体Mが有する内径は、間隙内径R2に相当する。結合組織体Mが有する外表面MS2は、外側部材30の内表面に追従する形状を有し、結合組織体Mが有する外径は、間隙外径R32に相当する。そして、結合組織体Mの外表面MS2は、第1連通部31に追従した突状組織体MT1を備え、また、結合組織体Mの端面は、第2連通部43に追従した突状組織体MT2を備える。
【0037】
なお、組織体形成装置10を用いて形成された結合組織体Mは、それが異種移植として用いられる場合、移植後の拒絶反応を抑えるために、脱細胞処理、脱水処理、固定処理などの免疫源除去処理を施されることが好ましい。脱細胞処理は、例えば、超音波処理、界面活性剤処理、コラゲナーゼなどの酵素処理によって細胞外マトリックスを溶出させて洗浄する処理などである。脱水処理は、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの水溶性有機溶媒によって結合組織体Mを洗浄する処理である。固定処理は、グルタアルデヒドやホルムアルデヒドなどのアルデヒド化合物に結合組織体Mを浸積する処理である。
【0038】
次に、上述した組織体形成装置10が有する寸法について説明する。
図5(a)が示すように、生体組織材料の存在する環境に埋設された組織体形成装置10においては、第1連通部31を通じて内側部材20と外側部材30との間隙に生体組織材料が行き渡り、それによって、内側部材20と外側部材30との間隙を埋めるように、結合組織体Mが形成される。この際、図5(b)が示すように、結合組織体Mのなかで第1連通部31と対向する部位には、第1連通部31における第1開口31Hを埋めるように、突状組織体MT1が形成される。
【0039】
一方、最表面30Sの単位面積あたりにおける第1開口31Hの占有率が20%未満である場合、特に、第1開口31Hにおける開口幅W31が0.5mmよりも小さい場合、図6(a)が示すように、結合組織体Mのなかで第1連通部31と対向する部位には、結合組織体Mで埋められない部分である窪みが形成されやすい。図6(b)が示すように、結合組織体Mにおけるこの窪みは、第1開口31Hに侵入した生体組織材料が内側部材20の内側表面20Sに行きわたる前にその第1開口31Hの一部を塞ぐことに起因したものであり、第1開口31Hの延在方向における一部と対向するように形成される。そして、結合組織体Mにおけるこうした窪みは、結合組織体Mが有する厚みに大きなばらつきを生じさせて、結合組織体Mにおける構造上の精度を低下させてしまう。
【0040】
なお、第1連通部31の有する深さが2.0mmを超える場合においても、第1開口31Hに侵入した生体組織材料が第1連通部31の内部に留まる可能性が高まる。また、(間隙外径R32−間隙内径R2)/2が0.5mm未満である場合においても、内側部材20と外側部材30との間隙に侵入した生体組織材料が、内側部材20の内側表面20Sに行き渡る前にその間隙を塞ぐ可能性が高まる。そして、結合組織体Mが有する厚みにおいて同様なばらつきを生じる可能性が高まる。
【0041】
他方、最表面30Sの単位面積あたりにおける第1開口31Hの占有率が40%以上である場合、特に、(間隙外径R32−間隙内径R2)/2が5.0mmを越える場合、図7(a)が示すように、結合組織体Mのなかで第1連通部31と対向する部位には、結合組織体Mで埋められない部分である大きな窪みが形成される。図7(b)が示すように、結合組織体Mにおけるこの窪みは、第1開口31Hへの生体組織材料の侵入が不足することに起因したものであり、第1開口31Hの延在方向、および、幅方向の全体にわたり形成される。そして、結合組織体Mにおけるこうした窪みもまた、結合組織体Mが有する厚みに大きなばらつきを生じさせて、結合組織体Mにおける構造上の精度を低下させてしまう。
【0042】
この点、上述した組織体形成装置10によれば、最表面30Sの単位面積あたりにおける第1開口31Hの占有率が20%以上40%以下であるため、内側部材20の内側表面20Sに形成された結合組織体のなかで第1開口31Hと対向する部位に窪みが形成されることが抑えられる。
【0043】
[試験例]
次に、組織体形成装置10が有する各寸法の試験例について説明する。
組織体形成装置10における下記(a)〜(e)の各寸法を下記基準寸法から個別に変更し、結合組織体Mにおける構造上の精度を確認した。結合組織体Mにおける構造上の精度に対する評価の結果を図8、および、図9に示す。
[基準寸法]
・(最外径R31−間隙外径R32)/2 :2.0mm
・(間隙外径R32−間隙内径R2)/2 :2.0mm
・周方向における第1開口31H間距離 :2.0mm
・開口幅W31 :0.5mm
・第1開口31Hの占有率 :20%
・組織体形成装置10の埋設期間 :1ヶ月
(a)(最外径R31−間隙外径R32)/2 :0.1mm以上4.5mm以下
(b)(間隙外径R32−間隙内径R2)/2 :0.1mm以上9.0mm以下
(c)周方向における第1開口31H間距離 :1.0mm以上15.0mm以下
(d)開口幅W31 :0.5mm以上5.0mm以下
(e)第1開口31Hの占有率 :10%以上90%以下
【0044】
図8が示すように、(最外径R31−間隙外径R32)/2が0.1mm以上2.0mm以下となる水準においては、結合組織体Mの有する厚みとして、(間隙外径R32−間隙内径R2)/2に相当する大きさが認められ、また、結合組織体Mの延在方向、および、周方向において、十分な均一性が認められた。特に、(最外径R31−間隙外径R32)/2が0.5mm以下である水準において、より良好な均一性が認められた。これに対して、(最外径R31−間隙外径R32)/2が2.0mmを越える水準では、(最外径R31−間隙外径R32)/2が3.0mmになるまで、結合組織体Mの有する厚みの均一性が、この差分の増大と共に低下する傾向へ遷移してしまうことが認められた。そして、(最外径R31−間隙外径R32)/2が3.0mmを越える水準では、外側部材30の厚さが過大、すなわち、第1連通部31の深さが過大である結果、内側部材20と外側部材30との間隙のなかで結合組織体Mの形成されない部位が認められた。
【0045】
一方、(間隙外径R32−間隙内径R2)/2が0.5mm以上5.0mm以下となる水準においても、結合組織体Mが有する厚みとして、(間隙外径R32−間隙内径R2)/2に相当する大きさが認められ、また、結合組織体Mの延在方向、および、周方向において、十分な均一性が認められた。これに対して、(間隙外径R32−間隙内径R2)/2が0.5mm未満となる水準では、内側部材20と外側部材30との間隙のなかで結合組織体Mの形成されない部位が存在するなど、結合組織体Mの有する厚みの均一性に著しい低下が認められた。また、(間隙外径R32−間隙内径R2)/2が5.0mmを越える水準では、第1連通部31の周囲に結合組織体Mで埋められていない部位が認められ、また、(間隙外径R32−間隙内径R2)/2が大きいほど、第1開口31Hと対向する部位での窪みが顕著に認められた。
【0046】
また、周方向において各々が互いに隣り合う第1開口31Hの間での距離が2.0mm以上5.0mm以下の水準においては、結合組織体Mが有する厚みに、(間隙外径R32−間隙内径R2)/2に相当する大きさが認められ、また、結合組織体Mが有する厚みに十分な均一性が認められた。これに対して、周方向における第1開口31H間距離が2.0mm未満、あるいは、5.0mmを超える水準では、結合組織体Mの有する厚みが薄く、結合組織体Mに十分な厚みを得るためには、1ヶ月を越える埋設期間を要した。
【0047】
図9が示すように、開口幅W31が0.5mm以上2.0mm以下となる水準においても、結合組織体Mの有する厚みとして、(間隙外径R32−間隙内径R2)/2に相当する大きさが認められ、また、結合組織体Mの延在方向、および、周方向において、十分な均一性が認められた。これに対して、開口幅W31が0.5mm未満となる水準では、第1開口31Hと対向する部位において、結合組織体Mの形成されないことが認められた。また、開口幅W31が2.0mmを越える水準では、第1開口31Hと対向する部位に窪みが認められ、また、開口幅W31が大きいほど、第1開口31Hと対向する部位での窪みが顕著に認められた。
【0048】
一方、第1開口31Hの占有率が20%以上40%以下となる水準においても、結合組織体Mが有する厚みとして、(間隙外径R32−間隙内径R2)/2に相当する大きさが認められ、また、結合組織体Mの延在方向、および、周方向において、十分な均一性が認められた。特に、第1開口31Hの占有率が30%以上40%以下となる水準において、より良好な均一性が認められた。これに対して、第1開口31Hの占有率が20%未満となる水準では、外側部材30に覆われた部位において局所的に薄い部分が多く認められ、また、第1開口31Hの占有率が40%を越える水準では、第1開口31Hと対向する部位に窪みが認められた。
【0049】
以上、上記第1実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)開口幅W31が0.5mm以上であるため、第1開口31Hに侵入した生体組織材料がその第1開口31Hを塞いでしまうこと、ひいては、結合組織体Mが形成されている途中で第1開口31Hが塞がれ、それによって、結合組織体Mにおける構造上の精度が低下してしまうことが抑えられる。
(2)最表面30Sの単位面積あたりにおける第1開口31Hの占有率が20%以上であるため、内側表面20Sに到達する生体組織材料の量を生体組織材料の流動によって確保することが可能ともなる。
【0050】
(3)最表面30Sの単位面積あたりにおける第1開口31Hの占有率が40%以下であるため、第1開口31Hと対向する部位に窪みが形成されることが抑えられる。
【0051】
(4)内側部材20と外側部材30との間の距離が0.5mm以上であるため、結合組織体Mが内側表面20Sの全体に行き渡る前に内側部材20と外側部材30との間隙が結合組織体Mによって塞がれてしまうことが抑えられる。
【0052】
(5)内側部材20と外側部材30との間の距離が5.0mm以下であるため、内側部材20と外側部材30との間隙のなかに結合組織体Mで埋められない部位が形成されること、また、第1開口31Hと対向する部位に窪みが形成されることが抑えられる。
【0053】
(6)第1連通部31の有する深さが2.0mm以下であるため、第1連通部31の内部に侵入した生体組織材料が内側表面20Sに行きわたる前にその第1連通部31を塞ぐことが抑えられる。
【0054】
(7)周方向における第1開口31H間の距離が2.0mm以上であるため、生体組織材料から見て、各第1開口31Hが別々の開口として機能し、各第1開口31Hから侵入する生体組織材料の量にばらつきが生じることが抑えられる。
【0055】
(8)周方向における第1開口31H間の距離が5.0mm以下であるため、内側部材20の内側表面20Sにおいて、外側部材30によって覆われる部分が不要に偏ることが抑えられる。そして、内側部材20と外側部材30との間隙のなかに結合組織体Mで埋められない部位が形成されることが抑えられる。
【0056】
(第2実施形態)
図10から図13を参照して組織体形成装置の第2実施形態を説明する。なお、第2実施形態における組織体形成装置は、第1実施形態における組織体形成装置と比べて、その外形が異なる。以下では、こうした差異に関して主に説明し、第1実施形態と重複する点に関してはその説明を割愛する。
【0057】
図10が示すように、組織体形成装置70は、生体組織材料の存在する環境に埋設されて結合組織体を形成するための装置である。組織体形成装置70は、被覆部材を構成する上側外部材80と、被覆部材を構成する下側外部材90とを備える。上側外部材80と下側外部材90とは、被覆部材の一例として、二重以上の環状を有した1つの筒状部を構成する。上側外部材80と下側外部材90とが構成する1つの筒状部の内部には、管状部の一例として、筒状部の形状に追従する二重以上の環状を有した内側環状部材100(図13を参照)が位置する。
【0058】
上側外部材80は、例えば、二重以上の環状を有した半円筒状のアクリル樹脂から構成される。上側外部材80の外表面である上側最表面80Sは、組織体形成装置70の外表面の一部であって、被覆面を構成する面である。上側外部材80の上側最表面80Sは、半円筒面状を有し、結合組織体を形成するための面である内側環状部材100の表面、すなわち、組織形成面の一例である環状内表面100Sを覆う。上側外部材80は、上側外部材80の延在方向に間隔を空けて位置する複数の上側連結部84を備える。各上側連結部84は、上側最表面80Sにおいて、組織体形成装置70における径方向の内側、および、径方向の外側に突出する突部である。
【0059】
下側外部材90もまた、例えば、二重以上の環状を有した半円筒状のアクリル樹脂から構成される。下側外部材90の外表面である下側最表面90Sもまた、組織体形成装置70の外表面の一部であって、被覆面を構成する面である。そして、下側外部材90の下側最表面90Sもまた、半円筒面状を有し、内側環状部材100の環状内表面100Sを覆う。下側外部材90は、下側外部材90の延在方向に間隔を空けて位置する複数の下側連結部94を備える。各下側連結部94は、下側最表面90Sにおいて、組織体形成装置70における径方向の内側、および、径方向の外側に突出する突部である。これら各下側連結部94と上側連結部84とが連結することによって、上側外部材80と下側外部材90とが互いに固定される。
【0060】
図11が示すように、上側外部材80の内面は、上側外部材80の延在方向に延びる半円筒面である。上側外部材80は、上側外部材80の外側と、内側環状部材100の環状内表面100Sとを連通する複数の上側連通部81を備え、各上側連通部81が上側最表面80Sに上側開口81Hを有する。各上側開口81Hは、上側外部材80の延在方向に延びる矩形状を有する。また、上側外部材80は、上側外部材80の延在方向における両端部80Eに、支持部の一例として、内側環状部材100を支持するための半球面状を有した凹部である上側支持嵌合部83を備える。
【0061】
上側開口81Hの有する寸法は、第1実施形態における第1開口31Hと同様の条件を満たす。すなわち、上側外部材80の周方向における上側開口81Hの幅である開口幅、言い換えれば、上側最表面80Sに沿う方向で上側開口81Hが有する最小寸法は0.5mm以上である。上側最表面80Sの単位面積あたりにおける上側開口81Hの占有率は、20%以上40%以下である。なお、結合組織体における構造上の精度を高める上で、上側開口81Hの有する開口幅は2.0mm以下であることが好ましく、また、上側連通部81の有する深さは2.0mm以下であることが好ましい。
【0062】
二重以上の環状を有した上側外部材80は、複数の環状要素82が径方向に隙間を空けて連なる構造体である。最外周に位置する大径の環状要素82と、それの内側に位置する小径の環状要素82とは、環状要素82の径方向において0.5mm以上離れている。そして、互いに隣り合う環状要素82が0.5mm以上の間隔を空けることによって、各環状要素82の最表面82Sにおける上側開口81Hに生体組織材料が侵入しやすく、また、その間隙に侵入した生体組織材料によって間隙が不要に塞がれることが抑えられる。
【0063】
図12が示すように、下側外部材90は、下側外部材90の外側と、内側環状部材100の環状内表面100Sとを連通する複数の下側連通部91を備え、各下側連通部91が下側最表面90Sに下側開口91Hを有する。下側外部材90は、下側外部材90の延在方向における両端部90Eに、支持部の一例として、内側環状部材100を支持するための下側支持嵌合部93を備える。
【0064】
下側開口91Hの有する寸法は、第1実施形態における第1開口31Hと同様の条件を満たす。すなわち、下側外部材90の周方向における下側開口91Hの幅である開口幅、言い換えれば、下側最表面90Sに沿う方向で下側開口91Hが有する最小寸法は0.5mm以上である。下側最表面90Sの単位面積あたりにおける下側開口91Hの占有率は、20%以上40%以下である。なお、結合組織体における構造上の精度を高める上で、下側開口91Hの有する開口幅は2.0mm以下であることが好ましく、また、下側連通部91の有する深さは2.0mm以下であることが好ましい。
【0065】
二重以上の環状を有した下側外部材90は、複数の環状要素92が径方向に隙間を空けて連なる構造体である。最外周に位置する大径の環状要素92と、それの内側に位置する小径の環状要素92とは、環状要素92の径方向において0.5mm以上離れている。そして、互いに隣り合う環状要素92が0.5mm以上の間隔を空けることによって、各環状要素92の最表面92Sにおける下側開口91Hに生体組織材料が侵入しやすく、また、その間隙に侵入した生体組織材料によって間隙が不要に塞がれることが抑えられる。
【0066】
図13が示すように、内側環状部材100は、二重以上の環状を有した円柱体であり、内側環状部材100の延在方向における両端部には、球状を有した被支持部100Eを備える。内側環状部材100の有する環状内表面100Sと、上側外部材80の内面との距離は、被支持部100Eが上側支持嵌合部83に嵌め込まれることによって定められる。また、内側環状部材100の有する環状内表面100Sと、下側外部材90の内面との距離もまた、被支持部100Eが下側支持嵌合部93に嵌め込まれることによって定められる。これら環状内表面100Sと上側外部材80との距離、および、環状内表面100Sと下側外部材90との距離は、互いにほぼ等しく、第1実施形態における組織体形成面と外側部材30との距離に相当し、0.5mm以上5.0mm以下であることが好ましい。
【0067】
以上、上記第2実施形態によれば、上記(1)から(8)に準じた効果に加えて、以下に列挙する効果を得ることができる。
(9)例えば、二次元方向に等方的となる限られた環境において管状を有した結合組織体を形成することに際して、結合組織体の延在方向におけるそれの長さを大きくすることが可能となる。
【0068】
(10)また、所望の長さを有した管状を有する結合組織体を形成することに際して、組織体形成装置70の埋設に要する環境の大きさを、二次元方向において等方的とすることが可能となる。例えば、生体に挿入口51を形成する際に、挿入口51の有する長さを短くすることが可能であって、その生体に与える負担を軽減することが可能となる。
【0069】
(11)各々が互いに隣り合う環状要素間が0.5mm以上の距離を空けて位置するため、各上側開口81Hに侵入する生体組織材料の量や各下側開口91Hに侵入する生体組織材料の量について、環状要素間でのばらつきを抑えることが可能ともなる。
【0070】
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
[被覆部材]
・組織体形成装置10が有する構造は、内側部材20と外側部材30とから構成される二重の管構造に限らず、例えば、被覆面を備えて板状を有した被覆部材と、被覆面に被覆される組織体形成面を有した板状部材とを備える二層の層構造であってもよい。この際、被覆部材と板状部材が備える組織体形成面との間隙に、シート状を有した結合組織体が形成される。こうした構成であれば、組織体形成装置は、人工弁として機能する結合組織体Mを形成することが可能ともなる。
【0071】
・各組織体形成装置10,70において、被覆部材と組織体形成面との間の距離は、組織体形成面の全体にわたり一定であることに限らず、組織体形成面の一部と対向する部位において、組織体形成面と被覆部材との間の距離が他の部位よりも大きくてもよいし、組織体形成面と被覆部材との間の距離が他の部位よりも小さくてもよい。また、組織体形成面と被覆部材との間の距離は、所定の方向に沿って徐々に増加してもよいし、所定の方向に沿って徐々に減少してもよい。
【0072】
・被覆部材は、外側部材30のような一重の管構造に限らず、例えば二重以上の管構造を有してもよい。また、被覆部材は、上記変形例に記載のような単層の板状部材に限らず、例えば二層以上の板状部材であってもよい。要は、被覆部材は、組織体形成面の一部を覆う被覆面、および、被覆部材の外側と組織体形成面とを連通する複数の連通部を備える構成であればよい。
【0073】
・組織体形成装置70において、上側外部材80の有する形状、および、下側外部材90の有する形状は、多重の環状に限らず、曲線状を含む形状であればよく、例えば、曲線と直線との組み合わせとなる形状であってもよいし、波線状、九十九折り状、螺旋状のいずれかであってもよい。こうした形状を有する組織体形成装置においても、上記(9)から(11)に準じた効果を得ることは可能である。
【0074】
[開口]
・第1開口31H、上側開口81H、下側開口91Hの有する形状は、被覆面の延在方向に延びる矩形に限らず、例えば、被覆面の周方向に延びる矩形、これら延在方向、および、周方向と交差する方向に延びる矩形であってもよい。また、図14が示すように、上側開口81Hや下側開口91Hの有する形状は、正方形状であってもよいし、図15が示すように、角に丸みを有する四角形状であってもよいし、円形状や楕円形状であってもよいし、これらとは異なる多角形状であってもよい。さらに、上記矩形を含めた各形状からなる群から選択される2つ以上の組み合わせであってもよい。
【0075】
・第1開口31Hの位置は、外側部材30の延在方向、および、外側部材30の周方向に所定の間隔を空けた位置に限らず、外側部材30の延在方向に延びる螺旋上に周期的に定められる位置であってもよい。また、第1開口31Hの位置は、1つずつの第1開口31Hが所定の方向に繰り返される構成に限らず、例えば、複数の第1開口31Hが1つの開口群を構成し、複数の開口群が所定の方向に繰り返される構成であってもよい。
【0076】
要は、被覆面内の任意の方向において各第1開口31Hの有する長さが0.5mm以上であり、かつ、被覆面の単位面積あたりにおける第1開口31Hの占有率が20%以上40%以下であればよい。なお、上述した各第1開口31Hにおいても、第1開口31Hが有する最小寸法は、2.0mm以下であることが好ましく、また、結合組織体Mにおける構造上の精度が高められる観点において、各々が互いに隣り合う第1開口31H間の距離は、2.0mm以上5.0mm以下であることが好ましい。
【0077】
・第2実施形態において被覆面の単位面積あたりにおける開口の占有率は、20%未満であってもよいし、40%を越える大きさであってもよい。また、被覆面に沿う方向での各開口の有する最小寸法が0.5mm未満であってもよい。こうした構成であっても、上記(9)から(11)に準じた効果は得られる。この変形例から導かれる技術的思想を以下に付記する。
【0078】
[付記1]
生体組織材料が存在する環境のなかで結合組織体を形成する組織体形成装置であって、
前記組織体形成装置の外表面を構成する面である被覆面を含み、前記結合組織体を形成するための面である組織体形成面の一部を前記被覆面が覆う被覆部材を備え、
前記被覆部材が、曲線状を有した筒状部であり、前記組織体形成装置の外側と前記組織体形成面とを連通する複数の連通部を有し、前記筒状部の外表面である前記被覆面に前記各連通部が開口を有することを特徴とする組織体形成装置。
【0079】
[付記2]
前記被覆部材が、多重の環状を有した筒状部を含むことを特徴とする組織体形成装置。
【0080】
[付記3]
前記組織体形成面が、前記筒状部の形状に追従した多重の環状を有して前記筒状部の筒内に位置する環状部の表面である、付記2に記載の組織体形成装置。
【0081】
[付記4]
前記筒状部が、前記筒状部の延在方向における端部に、前記延在方向から見た前記環状部の中心と、前記延在方向から見た前記筒状部の中心とを一致させるように、前記組織体形成面を支持する支持部を備える、付記3に記載の組織体形成装置。
【0082】
[付記5]
前記被覆部材は、複数の環状要素が径方向に隙間を空けて並ぶ前記多重の環状を有し、各々が隣り合う前記環状部間の距離が0.5mm以上である、付記1から付記4のいずれか一つに記載の組織体形成装置。
【0083】
・第2実施形態における端部80E,90Eが、第1実施形態における第2連通部43のような連通部を備えてもよい。また、この変形例や第1実施形態においては、被覆面の単位面積あたりにおける開口の占有率が、20%未満であってもよいし、40%を越える大きさであってもよい。また、被覆面に沿う方向での各開口の有する最小寸法が0.5mm未満であってもよい。こうした構成であっても、結合組織体Mのなかで端部30E,80E,90Eと対向する部位では、それの厚みを確保すること、また、その厚みの均一性を確保することが容易ともなる。この変形例から導かれる技術的思想を以下に付記する。
[付記6]
生体組織材料が存在する環境のなかで結合組織体を形成する組織体形成装置であって、
前記組織体形成装置の外表面を構成する面である被覆面を含み、前記結合組織体を形成するための面である組織体形成面の一部を前記被覆面が覆う被覆部材を備え、
前記被覆部材が、1つの方向に延在する筒状を有し、前記被覆部材の延在方向における端面に、前記被覆部材の外側と前記被覆部材の内側とを連通する連通部を備えることを特徴とする組織体形成装置。
【符号の説明】
【0084】
M…結合組織体、R2…間隙内径、SU…単位領域、L30…長さ、L31…開口長さ、MS1…内周面、MS2…外表面、MT1…突状組織体、MT2…突状組織体、R31…最外径、R32…間隙外径,W30…幅、W31…開口幅,10,70…組織体形成装置、20…内側部材、20S…内側表面、21…軸部材、22…内側筒部材、23…被着部、30…外側部材、30E,80E,90E…端部、30S…最表面、31…第1連通部、31H…第1開口、32…被嵌合部、40…蓋部、40S…周面、41…嵌合爪、42…支持孔、43…第2連通部、43H…第2開口、51…挿入口、52…ガイド棒、53…挿入管、54…押し込み棒、80…上側外部材、80S…上側最表面、81…上側連通部、81H…上側開口、83…上側支持嵌合部、90…下側外部材、90S…下側最表面、91…下側連通部、91H…下側開口、93…下側支持嵌合部、100…内側環状部材、100E…被支持部、100S…環状内表面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【手続補正書】
【提出日】2016年8月22日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
生体組織材料が存在する環境のなかで結合組織体を形成する組織体形成装置であって、
前記組織体形成装置の外表面を構成する面である被覆面を含み、前記結合組織体を形成するための面である組織体形成面を有した内側部材における前記組織体形成面の一部を前記被覆面が覆い、前記組織体形成面と前記被覆面との間隙を中空とし、前記内側部材から分離可能に構成された被覆部材であって、前記間隙を満たす前記結合組織体を、前記被覆面上に形成された他の結合組織体の前記被覆面からの切断と、前記内側部材と前記被覆部材との分離とによって、前記組織体形成面から剥離可能とするための前記被覆部材を備え、
前記被覆部材が、前記被覆部材の外側と前記組織体形成面とを連通する複数の連通部を備え、前記各連通部が前記被覆面に開口を有し、
前記被覆面に沿う方向において前記各開口の有する最小寸法が0.5mm以上であり、
前記被覆面における構造上での最小の繰り返し単位の面積である単位面積あたりにおける前記開口の占有率が20%以上40%以下である
ことを特徴とする組織体形成装置。