【解決手段】透明基板12上にネガ型フォトレジスト10を塗布する工程と、前記透明基板12の前記ネガ型フォトレジスト10を塗布した面の裏面に移動可能にマスク16を配置する工程と、前記マスク16に対して前記透明基板12とは反対側から第1の波長の紫外線を照射しながら前記マスク16と前記透明基板12を相対的に移動させる工程と、前記マスク16に対して前記透明基板12とは反対側から第2の波長の紫外線を照射しながら前記第1の波長が照射された領域に少なくとも一部が重なるように前記マスク16と前記透明基板12を相対的に移動させる工程を有することを特徴とする樹脂製マイクロニードルの形成方法。
前記第1の波長の紫外線を照射しながら前記マスクと前記透明基板を相対的に移動させる工程は、直線移動を含むことを特徴とする請求項1に記載された樹脂製マイクロニードルの形成方法。
【背景技術】
【0002】
主として薬効を有する機能性物質を含む素材で、高さ100〜1000マイクロメートル、アスペクト比(高さ/底面の直径)が3〜9の円錐状の針で構成されるマイクロニードルが知られている(特許文献1)。なお、特許文献1では、「マイクロパイル」と呼んでいるが、本明細書では以下マイクロニードルと呼ぶ。通常マイクロニードルは、複数個を高密度に配置して用いられる。これは、マイクロニードルアレイと呼ばれている。
【0003】
特許文献1で開示されているのは、X線感光樹脂にシンクロトロン放射X線を照射してマイクロニードルパターンを形成し、そのマイクロニードルパターンの反転形状を電鋳加工して、鋳型を作成し、その鋳型に機能性物質素材を射出成形する製造方法である。このマイクロニードルパターンの製造方法は、たとえば、特許文献2や3によるものである。以後、電磁波を照射し、現像して直接得られるものをマイクロニードルパターンと呼ぶ。
【0004】
これを
図12を参照して、より具体的に説明する。
図12(a)を参照して、ステージ108上に載置された基板100上にX線感光樹脂102を形成したものの上方にマスク104とシンクロトロン放射X線装置106が配置される。なお、
図12(a)ではX線感光樹脂102が基板100より厚いが、単に説明のためである。X線感光樹脂102は、X線に感光すると除去可能(現像すると溶解する)になる材料である。マスク104はX線が通過できる部分の形状が円形であるとし、その直径をφとする。
【0005】
X線を照射しながら、マスク104を回転させる。
図12(b)はこれをシンクロトロン放射X線装置106側から見た平面図である。X線感光樹脂102(実際はマスク104で隠れて見えない)の上で、マスク104を回転中心Oを中心にして、半径φ/2よりわずかに小さい半径で回転させる。
図12(b)では、X線が照射される領域106aは直径φの円104aである。
【0006】
しかし、X線感光樹脂102の深さ方向では、X線から受けるエネルギーに傾斜ができ、円錐状の感光部分102aが形成される(
図12(a)参照)。この部分はX線感光樹脂102から除去可能になる。つまり、X線照射および現像して直接得られるマイクロニードルパターンとは、円錐状の凹みを持ったX線感光樹脂102である。
【0007】
このマイクロニードルパターンの反転形状を作製し、それを電鋳することで、マイクロニードル用鋳型を得ている。反転形状については、明示的な開示はされていないが、樹脂製(シリコーン製)であると考えられる。
【0008】
特許文献1で開示されている製造方法は、線源としてシンクロトロン放射X線を用いるので、装置が大規模になり、コストが高くなる。そこで、紫外線リソグラフィを用いた形成方法も考えられている(特許文献4)。
【0009】
ここでは、紫外線用レジストを塗布した基板の上方にマスクを移動可能に配置し、マスクの上方から複数波長の紫外線を同時に照射し、マスクを移動させながら紫外線用レジストを感光する製造方法が開示されている。ここで、複数の波長を持った紫外線を用いるのは、マスクの境界部分では、回折が生じるので、単一波長の紫外線では光強度分布にムラができるという課題を解決するためである。
【0010】
このような方法で作製されるマイクロニードルは、サブミリオーダーの形状でありながら、シャープな形状に成形することができる。しかし、用いられる機能性物質自体は、それほど機械的な強度を有しているわけではない。したがって、マイクロニードルを形成した後、壊れやすいといった課題があった。
【0011】
そこで、マイクロニードルが作製後に壊れないように、マイクロニードルアレイの周囲に補強材が配置された発明も開示されている(特許文献5)。また、特許文献1に開示されたマイクロニードルは、マイクロニードル自体に補強構造を持たせた形態が開示されている。例えば、特許文献1の
図3や
図8に示されたように、根元に段差部3が設けられた形状である。
図13にこれを示す。
【0012】
図13を参照して、特許文献1の方法を用いることで、マイクロニードル110は、母材112上にまず補強構造114が形成され、その上に本体116が形成された形状となっている。
【0013】
このような形状を製造するには、
図12で示した方法は好適に利用できる。照射する電磁波(X線)の樹脂への浸透深さはエネルギーで決まる。マイクロニードルパターンの形状を上方から形成しようとすると、照射源から離れるほど感光領域が広がるような照射パターンを形成しなければならない。したがって、照射エネルギーを細かく変化させる等の制御が必要となる。
【0014】
一方、マイクロニードルパターンが、凹み型であれば、深さ方向に徐々に感光領域が細くなるような照射パターンでよい。このような感光領域は、
図12のように、マスク104を移動させながら電磁波を照射することで形成することができる。また、照射する電磁波のエネルギーを変えることで根元が太いマイクロニードルパターンを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明に係る樹脂製マイクロニードルおよびその形成方法について図面を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。
【0025】
(実施の形態1)
図1に本発明に係る樹脂製マイクロニードル44(
図3(b)参照)を形成する形成装置1の構成を示す。樹脂製マイクロニードル44を形成するには、フォトレジスト10を塗布した透明基板12を保持する基板保持部14と、マスク16と、マスク保持部18と紫外線照射装置20と、少なくともマスク保持部18を制御する制御部22で構成される。
【0026】
透明基板12は、使用する紫外線が透過すれば、特に材質は限定されない。ガラスや硬質樹脂などはもちろん、可撓性を有する樹脂材などであってもよい。厚さは強度の制限が許す限り薄い方がよい。本発明の樹脂製マイクロニードル44の形成方法においては、紫外線は透明基板12を通過してからフォトレジスト10を感光させる。したがって、透明基板12が厚いと紫外線の浸透深さが浅くなるからである。つまり、透明基板12が厚くなると、高さの高い樹脂製マイクロニードルを形成しにくくなる。
【0027】
また、透明基板12が厚くなると、以下の弊害も生じる。まず、紫外線が基板による吸収の影響を受けレジストに到達する紫外線の光量が減衰し、露光時間を長くする必要が生じる。また、紫外線の波長が365nmより短い場合は吸収の影響が顕著で最悪の場合紫外線が全て基板で吸収され、レジストが露光されない。さらに、フォトマスクと基板の間の光路長が大きくなるので回折によりマスクパターンがぼけてしまい、想定通りの露光ができなくなる。したがって、透明基板12はできるだけ薄い方がよい。
【0028】
フォトレジスト10は、紫外線で感光することで、溶解度が低下するネガ型のフォトレジストが望ましい。本発明に係る樹脂製マイクロニードル44の形成方法では、感光した部分が残るタイプのものでなければならないからである。また、ポジ型の厚膜レジストを透明基板12の裏面から感光すると、感光部分がフォトレジスト10の表面まで到達しなくなり、樹脂製マイクロニードル44を形成できない。
【0029】
基板保持部14は、透明基板12の裏面側に紫外線照射装置20が配置された状態で、フォトレジスト10が塗布された透明基板12を固定できればよい。
【0030】
紫外線照射源は、少なくとも2波長以上の紫外線が選択的に照射できる紫外線照射装置20である。例えば波長が365nmと310nmの紫外線は好適に利用することができる。照射する紫外線はできるだけ平行光線になっているほうが望ましい。点光源からの照射光は、フォトレジスト10に斜めに入射する光も存在し、望んだ形状が作りにくくなるからである。したがって、紫外線照射装置20には、アフォーカルな光学系が用意されていてもよい。また、紫外線照射装置20にはシャッター(図示は省略)が設けられていてもよい。
【0031】
マスク16は、紫外線を通過できる透過部16aと、紫外線を遮断する遮光部16bで構成される。材質は特に限定されるものではない。一定の強度があり平面を維持できるものであればよい。透過性の基板の上にフォトリソグラフィなどで形成した薄膜であってもよい。
【0032】
マスク保持部18は、マスク16を移動可能に保持することができる。ここで移動可能とは、平面内をX方向とY方向に自由にマスク16を移動させることができることを意味する。例えば、本体18c中に、X軸方向のモータとY軸方向のモータが備えられ、これらのモータに接続されたアーム18bがマスク16の保持枠18aに取り付けられた構成が例示できる。なお、マスク16と透明基板12は、相対的に移動できればよく、どちらが実際に動いてもよい。
【0033】
この構成では、アーム18bは、透明基板12と平行な平面内で自由に移動可能である。つまり、基板保持部14に対して平行な面内で、マスク16を保持した保持枠18aが相対的に移動可能に構成されている構成を得ることができる。
【0034】
制御部22は、MPU(Micro Processor Unit)とメモリで構成されるコンピュータで構成することができる。制御部22は、紫外線照射装置20と、マスク保持部18に接続される。また、入力装置および表示装置(図示は省略)を有し、外部から制御部22へ指示を送ることができ、また制御部22の現在の状況を、表示装置を介して外部に伝えることができる。
【0035】
制御部22は、紫外線照射装置20に対して、シャッターの開閉および照射波長の切換を指示命令CLで指示する。また、制御部22は、マスク保持部18に対して、マスク16(保持枠18a)の移動パターンを指示命令CMによって指示する。
【0036】
以上の構成を有する樹脂製マイクロニードルの形成装置1において本発明に係る樹脂製マイクロニードルの形成方法を実施する工程を説明する。なお、本発明に係る樹脂製マイクロニードル44の補強構造とは、樹脂製マイクロニードル44の透明基板12の直上に形成された部分であって、樹脂製マイクロニードル44の円錐形状の側面よりも、円錐台形の外側に形成された部分をいう。より簡単に言うと、円錐形状をした樹脂製マイクロニードル44の根元に形成された円錐形状の底面の直径より太い部分である。
【0037】
まず、透明基板12上にフォトレジスト10を塗布する。フォトレジスト10の厚みが樹脂製マイクロニードル44の最大高さを決める。所望する樹脂製マイクロニードル44の高さより分厚い厚みでフォトレジスト10を塗布する。塗布の方法は特に限定されない。スピンコート法や、ディップ法が好適に利用できる。
【0038】
なお、塗布は透明基板12の一方の面だけでよい。1回の塗布で塗りきれない場合は、多層塗布を行う。塗布後は十分に乾燥させる。ベークが必要な場合はベークしてもよい。なお、通常は、図に示すように透明基板12よりフォトレジスト10の厚みは厚いが、フォトレジスト10は透明基板12より薄くてもよい。
【0039】
次にフォトレジスト10を塗布した透明基板12を基板保持部14に固定する。透明基板12は、フォトレジスト10を塗布した面を紫外線照射装置20と反対の方に向けて固定される。
【0040】
マスク16はマスク保持部18に固定される。マスク16は基板保持部14と紫外線照射装置20の間に配置されている。したがって、マスク16は、透明基板12のフォトレジスト10を塗布した面の裏面に移動可能に配置される。
【0041】
次に、制御部22からの指示命令CLで、第1の波長の紫外線がマスク16を介して透明基板12に照射される。それと同時に制御部22はマスク保持部18に指示命令CMを送信する。マスク保持部18は、決められた移動(運動)を開始する。
【0042】
ここで第1の波長は第2の波長より短い波長であるとする。つまり、第1の波長の紫外線のフォトレジスト10への浸透深さは、第2の波長の紫外線のフォトレジスト10への浸透深さより浅い。紫外線とネガ型フォトレジストの場合は、波長が短いほどフォトレジストへの浸透深さは浅くなる。
【0043】
第1の波長の紫外線が照射されている間、マスク16は
図2(a)のように移動する。
図2(a)は、紫外線照射装置20側から見た、平面図である。
図2(a)を参照して、マスク16の透過部16aは直径φの円形である。第1の波長の紫外線が照射されている間のマスク16の移動軌跡は、回転中心Oからマスク16の中心MOまでの距離Lが、例えば1.2φとなる円運動とする。なお、回転中心Oからマスク16の中心MOまでの距離Lは、φより小さくてもよい。
【0044】
マスク16の回転速度と照射時間はフォトレジスト10および紫外線照射装置20のパワーと透明基板12の材質および厚みで適宜変更する設計事項である。フォトレジスト10の感光した感光領域30を
図2(b)および
図2(c)に示す。
図2(b)は、
図2(a)と同様で紫外線照射装置20から見た平面図である。また
図2(c)は、透明基板12を側面方向から見た図である。透明基板12の表側表面12aから高さh1でドーナツ状の感光領域30が形成される。
【0045】
次に、
図3を参照する。制御部22は、紫外線照射装置20に対して、指示命令CLによって、波長を第2の波長に切り替えさせる。そして、第2の波長の紫外線を照射させながら、マスク保持部18に対して指示命令CMにより、回転中心Oからマスク中心MOまでの距離Lがφ/2−δだけ離れた円運動を行わせる(
図3(a))。ここでδはできるだけゼロに近い有限値である。このδの大きさによって、樹脂製マイクロニードル44の先端の先鋭度が決まる。ゼロに近いほど先鋭度は高くなる。δが大きくなると、樹脂製マイクロニードル44の先端はブロードになる。
【0046】
図3(b)、
図3(c)に第2の波長の紫外線によって形成される感光領域32を示す。
図3(b)は紫外線照射装置20側から見た平面図である。また、
図3(c)は、透明基板12の側面から見た図である。底面が直径φで高さh2の円錐形の感光領域32が形成される。感光領域30と感光領域32は、重複している部分を有する。
【0047】
なお、感光領域30と感光領域32が重複しているということは、第1の紫外線と第2の紫外線の照射領域が重複していると同じと解して良い。したがって、感光領域30と感光領域32に重複部分があれば、第1の紫外線と第2の紫外線の照射領域に重複した部分があったと解することができる。また、逆に第1の紫外線と第2の紫外線の照射領域に重複した部分があれば、感光領域32と感光領域34にも重複部分が形成される。
【0048】
結果、第1の波長の紫外線で形成した感光領域30とあわせて、根元に補強構造44aを有する樹脂製マイクロニードル44の形状をした感光領域34が得られる。感光領域34は感光領域30と感光領域32をあわせた感光領域である。制御部22は照射が終了したらシャッターを閉じ、マスク16の移動を停止する。
【0049】
最後に基板保持部14から透明基板12を取り出し、現像する。現像はフォトレジスト10毎に決められた現像液を用い、感光していない部分が溶解され除去される。このようにして、根元に補強構造44aが形成された樹脂製マイクロニードル44がマイクロニードルパターンとして直接得ることができる。つまり、従来例でいうところのマイクロニードルパターンの反転型を得る工程は不要である。
図3(d)は、感光していない部分が除去された樹脂製マイクロニードル44を示す。
【0050】
図4にこのようにして形成した樹脂製マイクロニードル44の写真を示す。根元が太くなる補強構造44aを有している。
【0051】
(実施例1)
具体的には以下のようにして
図4の樹脂製マイクロニードル44を形成した。ネガ型フォトレジスト10は、SU−8 3050(日本化薬社製)を用いた。基板として、厚さ170μmのガラス基板を用意し、アセトン、ガラス用洗浄剤、蒸留水、イソプロピルアルコールで洗浄した。
【0052】
次にガラス基板上にSU−8 3050をスピンコートで厚さ500μmの厚さになるまで複数回にわけて塗布した。次に95℃で1時間ベークし、その後室温まで除冷した。
【0053】
直径70μmの円形の透過部16aが400μmピッチで並んで形成されたマスク16を半径50μmの円周に沿って120回/分の回転速度で回転させながら、310nmの波長の紫外線で露光した。露光時間は30秒であった。
【0054】
次にマスク16を半径30μmの円周に沿って透過部16aが移動するように120回/分の回転速度で回転させながら、365nmの波長の紫外線で露光した。露光時間は30秒であった。
【0055】
次に95℃10分のポストベークを行った。その後専用のレシピに従って現像を行った。最後にイソプロピルアルコールで数回リンスを行い、ドライ窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。以上のようにして、
図4に示す樹脂製マイクロニードル44は形成された。
【0056】
なお、上記の説明では波長の短い第1の波長の紫外線を照射した後、波長の長い第2の紫外線を照射するように説明をしたが、波長の長短はどちらが第1の波長になってもよい。感光領域34に重複した部分があれば、どちらの波長から照射を始めても結果は同じだからである。
【0057】
また、本発明の樹脂製マイクロニードル44から公知の技術(電鋳)を用いて、マイクロニードル用鋳型を直ちに形成することができる。この鋳型に薬効を有する機能性材料を含む素材を射出することで、補強構造を有するマイクロニードルを得ることができる。つまり、
図4に示す形状で薬効成分を有する機能性物質で形成されたマイクロニードルを得ることができる。
【0058】
なお、マイクロニードル用鋳型は、シリコーン樹脂(PDMS)で構成される場合もある。鋳型に埋め込んだ機能性材料を含む素材を抜き出す際に鋳型に可撓性があれば、脱型し易いからである。このような場合は、樹脂製マイクロニードル44にシリコーン樹脂を塗布することで、直接マイクロニードル用鋳型を得ることができる。この場合マイクロニードル用鋳型は、樹脂製マイクロニードル44を雄型とすると、雌型といえる。
【0059】
従来技術のようにマイクロニードルパターンを雌型で形成すると、シリコーン樹脂等で一度雄型を取り、さらにシリコーン樹脂等で雌型(マイクロニードル用鋳型)を得る。したがって、このような方法でも、本発明に係る樹脂製マイクロニードルの形成方法を用いると、マイクロニードル用鋳型の製造工程の工程を省略することが出来る。
【0060】
(実施の形態2)
図5に本実施の形態に係る形成装置2の構成を示す。形成装置2は実施の形態1に示した形成装置1とほぼ同じ構成である。したがって、
図1と同じ構成の部分は同じ符号を用いる。
【0061】
形成装置1と形成装置2の主たる相違点は、形成装置1では、フォトレジスト10が塗布された透明基板12は固定され、マスク16が移動したが、形成装置2では、マスク16は固定され、フォトレジスト10が塗布された透明基板12が移動する。より具体的には、形成装置2では、マスク16を保持するマスク保持部19は、紫外線照射装置20に対しては、位置調整可能に固定される。
【0062】
一方、フォトレジスト10が塗布された透明基板12を保持する基板保持部15は、透明基板12を移動可能に保持することができる。ここで移動可能とは、平面内をX方向とY方向に自由に透明基板12を移動させることができることを意味する。例えば、本体15c中に、X軸方向のモータとY軸方向のモータが備えられ、これらのモータに接続されたアーム15bが透明基板12の保持枠15aに取り付けられた構成が例示できる。
【0063】
この構成では、アーム15bは、マスク16と平行な平面内で自由に移動可能である。つまり、マスク16に対して平行な平面内で、透明基板12を保持した保持枠15aが相対的に移動可能に構成されている構成を得ることができる。
【0064】
このように、透明基板12の方を移動可能にすると、透明基板12上のフォトレジスト10に、紫外線照射装置20の照射範囲外の領域があっても、その領域を照射範囲内に移動させることで、紫外線の照射が可能になる。
【0065】
その他の違いとして、制御部23は、紫外線照射装置20に対して、シャッターの開閉および照射波長の切換を指示命令CLで指示し、基板保持部15に対して、フォトレジスト10が塗布された透明基板12(保持枠15a)の移動パターンを指示命令CMsによって指示する。
【0066】
(実施例2)
本実施例では、3つの波長の紫外線を用いた場合の樹脂製マイクロニードル54を作製した。実施例1では、2つの波長の紫外線を用いた。実施例1の場合は、円錐部分(以後「ニードル部」と呼ぶ。)の側面の傾斜は2段階に変化させることができた(
図4の樹脂製マイクロニードル44の部分と補強構造44aの部分)。使用する波長を3種類にすることで、ニードル部の側面の傾斜を3段階に変化させることができる。すなわち、ニードル部の側面に太さの変化を与えることができる。
【0067】
図6には樹脂製マイクロニードル54の形状の典型的な例を示す。樹脂製マイクロニードル54は、根元に補強構造54aを有し、さらに、ニードル部の中ほど54bを、先端54cで形成される円錐形状(点線で示した。)より太く形成することができる。このような形状は、アスペクト比が大きな(底面積の直径に対して高さの高い)マイクロニードルを作製する場合に、ニードル部の強度を高められるという利点を有する。
【0068】
まず、特定波長の紫外線のフォトレジスト10への透過深さを確認した。紫外線照射装置20は、365nm、350nm、340nmの3つの波長の紫外線を照射できるようにした。
図7には、使用するフォトレジスト(SU−8 3050)に対して、照射強度(ドーズ量(mJ/cm
2))と透過深さ(μm)の関係を調べたグラフを示す。横軸はドーズ量(Dose(mJ/cm
2))であり、縦軸は透過深さ(Thickness(μm))である。グラフ中、黒丸印は波長365nmであり、黒ひし形印は波長350nmであり、黒三角印は波長340nmの結果である。
【0069】
各波長のドーズ量を調整することで十分に厚いフォトレジスト膜を透明基板12側から、膜厚50μmから500μmの範囲の任意の厚さまで露光させることがわかった。なお、SU−8 3050の臨界ドーズ量は、150mJ/cm
2とされており、理想的にはこれより大きなドーズ量を与えることが望ましい。
【0070】
したがって、フォトレジスト10の表層部(透明基板12から遠い部分)に近い200μmから500μmの深さ(透明基板12からの深さ)を露光するには、波長365nmの紫外線を用い、フォトレジスト10の中間層に当たる膜厚200μmから100μmの深さを露光するには波長350nmの紫外線を用い、フォトレジスト10の底部(透明基板12に最も近い部分)にあたる膜厚100μm以下の深さを露光するには、波長340nmの紫外線を用いるのが好適であることがわかった。
【0071】
まず、透明基板12上にネガ型フォトレジスト10(SU−8 3050)を厚さ500μmになるまで塗布し、95℃で1時間ベークし、室温まで徐冷するまでの手順は実施例1と同じであった。
【0072】
マスク16としては、開口径70μmの円形開口を用いた。樹脂製マイクロニードル54の先端部分(フォトレジスト10の表面に近い部分)は、すでに説明したように波長365nmの紫外線を用い、透明基板12の移動軌跡の直径は70μmであった。すなわち、実施の形態1における
図2で示した距離Lが35μmということである。もちろん、
図2ではマスク16が移動したが、本実施例では、透明基板12の方が移動している。
【0073】
また、樹脂製マイクロニードル54の中間部は波長350nmの紫外線を用い、透明基板12の移動軌跡の直径は100μmであった。また、樹脂製マイクロニードル54の基底部は波長340nmの紫外線を用い、透明基板12の移動軌跡の直径は150μmであった。
【0074】
作製手順は実施例1同様に、まず波長の短い340nmの紫外線から順に365nmの紫外線まで、120回転/分の回転速度で30秒間ずつ露光した。ポストベークおよび現像の手順も実施例1を同じであった。
【0075】
図8に作製した樹脂製マイクロニードル54の電子顕微鏡写真を示す。図中の白線は100μmを表す。樹脂製マイクロニードル54は基底部から中間部にかけて側面の曲率が変化していることが分かる(
図8中の白矢印部分)。すなわち、複数波長による露光によって、形状制御が可能であることが確認できた。
【0076】
(実施例3)
樹脂製マイクロニードルは、薬剤を充填したマイクロニードルの型の原型である。実施例1や実施例2で示したように、ニードル部の形状制御はできることがわかった。ところで、実際の薬剤入りのマイクロニードル自体は、製品に使われる基板上に形成される。この際基板は比較的固い材料で形成されている。マイクロニードルとの接触性を高めるためである。しかし、基板が固いと皮膚の曲面に追従できず、基板上に形成されたマイクロニードルの全てを同じ深さに穿刺することが難しくなる。
【0077】
本実施例で示すのはマイクロニードルアレイであり、複数のマイクロニードルが連結するように形成される。したがって、可撓性の高い基板上であっても、高い接着性を得ることができ、使用感が良好な製品を形成することができる。また、可撓性の高い基板は皮膚の曲面に追従するので、基板上の全てのマイクロニードルを同じ深さまで穿刺することができる。さらに、基板部分を平板ではなく連結索の構造とすることで型取りした後に使用する薬剤の量をおよそ85%削減することができる。
【0078】
図9に本実施例で作製される樹脂製マイクロニードルアレイ66の一例を示す。樹脂製マイクロニードル64は、連結索63でそれぞれが連結され、樹脂製マイクロニードルアレイ66を形成する。なお、マイクロニードル毎の連結は、
図9の形態だけに限定されるものではなく、他の連結形態であってもよい。
【0079】
本実施例で用いたマスクパターンは開口径80μmの円形開口である。また使用した波長は、365nmと340nmの2種類の紫外線を使用した。波長365nmの紫外線は、樹脂製マイクロニードル64を形成する際に用い、波長340mnの紫外線は、マイクロニードル同士を連結する連結索63の部分に用いた。
【0080】
波長365nmの紫外線を用いた際の透明基板12の移動軌跡の直径は70μmであり、波長340nmの紫外線を用いた際の透明基板12の移動は、X方向とY方向にそれぞれ800μmずつ直線で移動しながら露光した。
【0081】
透明基板12の上にフォトレジスト10を形成する手順は実施例2(実施例1)と同じであった。また、作製手順も実施例1同様に、まず波長の短い340nmで露光し、次に波長365nmの紫外線で露光した。露光の手順は、波長365nmの紫外線の場合は、120回転/分の回転速度で30秒間露光した。
【0082】
波長340nmの紫外線の場合は、透明基板12をX方向に800μm、Y方向に800μm移動させ、次に−Y方向に800μm、−X方向に800μm移動させた。これを1セットとし、60回セット/分の移動速度で移動させながら30秒間露光した。
【0083】
図10(a)は作製した樹脂製マイクロニードルアレイ66の上方からの電子顕微鏡写真である。
図10(b)は拡大写真である。樹脂製マイクロニードル64が形成され、連結索63が樹脂製マイクロニードル64同士を連結して、樹脂製マイクロニードルアレイ66が形成されているのが分かる。
【0084】
この樹脂製マイクロニードルアレイ66の連結索63の部分は、基板との接触面積を増大させることになる。したがって、基板が可撓性を有していても、十分に接着状態を維持することができる。また、樹脂製マイクロニードル64同士が連結しているので、基板の湾曲に対しても剥がれることなく、追従することができる。
【0085】
(実施の形態3)
本発明に係る形成方法は、樹脂製マイクロニードル44だけに限定して適用されるものではなく、透明基板12上に3次元パターンを直接形成する方法として利用が可能である。すなわち、直接は凹み型を形成するのではなく、直接凸形状を形成することができる。
【0086】
例えば、
図11(a)は、上記に示した樹脂製マイクロニードル44の形成方法において、第2の波長の紫外線の当て方を変えたものである。形状としては、透明基板12上に樹脂製マイクロニードル44の先頭部分を除去した円錐台形46の根元に補強構造46aが形成された形状である。この場合も円錐台形46の側面を延長した面より円錐台形46の外側に形成された部分が補強構造46aとなる。
【0087】
これは、細胞の培養に用いるマイクロウェルの型になるものである。マイクロウェル48自体は
図11(b)にワイヤーフレームで示すように凹み形をしたお皿である。
図11(c)はその断面図を示す。したがって、鋳型としては凸形状のものが必要になる。本発明に係る形成方法を用いれば、このような凸形状も反転型なしで得ることができる。