【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を鑑み、鋭意検討を重ねた結果、3−アミノ−3−アルコキシ−2−プロペン酸エステルおよび3−アミノ−3−アルコキシ−2−プロペンイミド酸エステルを、鉄化合物、過酸化水素水およびスルホキシドの存在下、ヨウ化トリフルオロメチルを用いて2位をトリフルオロメチル化し、次いで酸で加水分解することにより、(トリフルオロメチル)マロン酸エステルが得られることを見出した。すなわち本発明は、
(i)鉄化合物、過酸化水素水および一般式(1)R
1−S(=O)−R
1(1)(式中、R
1は炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基を示す。)で表されるスルホキシドの存在下、ヨウ化トリフルオロメチルで一般式(2)
【0010】
【化1】
【0011】
(式中、R
2およびR
3は、各々独立に炭素数1〜4のアルキル基を示す。Xは、酸素原子またはイミノ基を示す。)で表されるエナミンをトリフルオロメチル化して一般式(3)
【0012】
【化2】
【0013】
(式中、R
2、R
3およびXは、前記と同じ内容を示す。)で表される(トリフルオロメチル)エナミンを得、次いで加水分解することを特徴とする一般式(4)
【0014】
【化3】
【0015】
(式中、R
2およびR
3は、前記と同じ内容を示す。)で表される(トリフルオロメチル)マロン酸エステルの製造方法;
(ii)加水分解を、酸の存在下で行う(ii)に記載の製造方法;
(iii)酸が、プロトン酸である(ii)に記載の製造方法;
(iv)鉄化合物が、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(II)アンモニウム、テトラフルオロホウ酸鉄(II)、塩化鉄(II)、臭化鉄(II)、ヨウ化鉄(II)、酢酸鉄(II)、シュウ酸鉄(II)、ビスアセチルアセトナト鉄(II)、フェロセン、ビス(η
5−ペンタメチルシクロペンタジエニル)鉄または鉄粉である(i)から(iii)のいずれかに記載の製造方法;
(v)鉄化合物が、硫酸鉄(II)である(i)から(iii)のいずれかに記載の製造方法;
(vi)R
1が、メチル基である(i)から(v)のいずれかに記載の製造方法;
に関するものである。
【0016】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0017】
スルホキシド(1)のR
1で表される炭素数1〜4のアルキル基としては具体的には、メチル基、エチル基、ブチル基等が例示できる。R
1は、これらのアルキル基またはフェニル基のいずれでもよいが、入手容易であり、かつ収率が良い点でメチル基が好ましい。
エナミン(2)のR
2およびR
3で表される炭素数1〜4のアルキル基は、直鎖、分岐のいずれでもよく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基等が例示できる。入手容易な点で、メチル基またはエチル基が好ましい。
【0018】
次に、本発明の製造方法について、詳細に述べる。
【0019】
原料のエナミン(2)は、Helvetica Chimica Acta,74巻,1ページ,1991年またはTetrahedron Letters,48巻,3273ページ,2007年に記載の、シアノ酢酸エステルやマロニトリルとアルコールの反応で得ることができる。また、R
2およびR
3がいずれもエチル基のエナミン(2)は、市販品である塩酸塩を、中和して得ることもできる。
【0020】
本発明の製造方法は、2つの工程から成る。はじめに工程1ついて、説明する。
[工程1]
【0021】
【化4】
【0022】
(式中、R
2、R
3およびXは、前記と同じ内容を示す。)
工程1は、鉄化合物、過酸化水素水および一般式(1)R
1−S(=O)−R
1(1)(式中、R
1は、前記と同じ内容を示す。)で表されるスルホキシドの存在下、ヨウ化トリフルオロメチルで一般式(2)のエナミンをトリフルオロメチル化して一般式(3)の(トリフルオロメチル)エナミンを得る工程である。
【0023】
工程1の反応では、反応に害を及ぼさない溶媒を用いることができる。具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル、アセトン、メチル(イソブチル)ケトン等のケトン、水等を挙げることができ、適宜これらを組み合わせて用いても良い。また、ジメチルスルホキシドのように、常温で液体のスルホキシド(1)を、そのまま溶媒として用いても良い。収率および利便性が良い点で、水、ジメチルスルホキシド、または水とジメチルスルホキシドの混合溶媒を用いることが好ましい。
【0024】
本発明で用いることのできる鉄化合物は、収率が良い点で鉄(II)塩が好ましい。例えば、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(II)アンモニウム、テトラフルオロホウ酸鉄(II)、塩化鉄(II)、臭化鉄(II)またはヨウ化鉄(II)等の無機酸塩や、酢酸鉄(II)、シュウ酸鉄(II)、ビスアセチルアセトナト鉄(II)、フェロセンまたはビス(η
5−ペンタメチルシクロペンタジエニル)鉄等の有機金属化合物を例示することができ、これらを適宜組み合わせて用いても良い。また、鉄粉、鉄(0)塩または鉄(I)塩と過酸化物のような酸化試薬を組み合わせて、系内で鉄(II)塩を発生させて用いることもできる。その際、反応に用いる過酸化水素をそのまま酸化試薬として用いることもできる。収率が良い点で硫酸鉄(II)またはフェロセンを用いることが好ましい。
【0025】
これらの鉄化合物は、固体のまま用いても良いが、溶液として用いることもできる。溶液として用いる場合、溶媒としては上記の溶媒のいずれでも良いが、中でも水、ジメチルスルホキシドまたは水とジメチルスルホキシドの混合溶媒が好ましい。その際の鉄化合物溶液の濃度は、収率が良い点で、0.1から10mol/Lが望ましく、0.5から5mol/Lがさらに好ましい。
【0026】
エナミン(2)と鉄化合物のモル比は、1:0.01から1:10が望ましく、収率が良い点で1:0.1から1:1がさらに好ましい。
【0027】
過酸化水素は、水で希釈して用いることが安全な点で好ましい。その際の濃度は、3から70重量%であれば良いが、市販の35重量%をそのまま用いても良い。収率が良く、かつ取扱いが安全な点で、市販の35重量%をそのまま用いるか、水で下限10重量%まで希釈して用いることが好ましい。
【0028】
エナミン(2)と過酸化水素のモル比は、1:0.1から1:10が好ましく、収率が良い点で1:1.5から1:3がさらに好ましい。
【0029】
エナミン(2)とスルホキシド(1)とのモル比は、1:1から1:200が好ましく、収率が良い点で1:10から1:100がさらに好ましい。
【0030】
エナミン(2)とヨウ化トリフルオロメチルとのモル比は、1:1から1:100が好ましく、収率が良い点で1:1.5から1:10がさらに好ましい。
【0031】
反応温度は0℃から100℃の範囲から適宜選ばれた温度で行うことができる。収率が良い点で20℃から70℃が好ましい。
【0032】
反応を密閉系で行う場合、大気圧(0.1MPa)から1.0MPaの範囲から適宜選ばれた圧力で行うことができるが、大気圧でも反応は充分に進行する。また、反応の際の雰囲気は、アルゴン、窒素等の不活性ガスでも良いが、空気中でも充分に進行する。
【0033】
ヨウ化トリフルオロメチルは、気体のまま用いてもよく、その際、アルゴン、窒素、空気、ヘリウム、酸素等の気体で希釈して、ヨウ化トリフルオロメチルのモル分率が1%以上の混合気体として用いることができる。密閉系で反応を実施する場合、ヨウ化トリフルオロメチルまたは混合気体を反応雰囲気として用いることができる。その際の圧力は、大気圧(0.1MPa)から1.0MPaの範囲から適宜選ばれた圧力で行うことができるが、大気圧でも反応は充分に進行する。また、開放系でヨウ化トリフルオロメチルまたは混合気体をバブリングして反応溶液中に導入しても良い。その際のヨウ化トリフルオロメチルまたは混合気体の導入速度は、反応のスケール、触媒量、反応温度、混合気体のヨウ化トリフルオロメチルのモル分率にもよるが、毎分1mLから200mLの範囲から選ばれた速度で良い。
【0034】
また、ヨウ化トリフルオロメチルを上記の反応溶媒に溶解させて溶液として用いても良い。ヨウ化トリフルオロメチルの溶解度が高い点、および利便性の点で、ジメチルスルホキシドが好ましい。その際の濃度は、0.05〜5mol/Lが好ましく、0.1〜2mol/Lがさらに好ましい。
【0035】
反応時間に特に制限はないが、0.5時間以上行うことで、目的物を収率良く得ることができる。
【0036】
反応後の溶液から目的物を単離する方法に特に限定はないが、溶媒抽出、カラムクロマトグラフィー、分取薄層クロマトグラフィー、分取液体クロマトグラフィー、再結晶または昇華等の汎用的な方法で目的物を得ることができる。
【0037】
工程1で得た(トリフルオロメチル)エナミン(3)は、単離しても良いが、単離することなく次の工程2に供することもできる。
【0038】
次に工程2ついて、説明する。
[工程2]
【0039】
【化5】
【0040】
(式中、R
2、R
3およびXは、前記と同じ内容を示す。)
工程2は、一般式(3)の(トリフルオロメチル)エナミンを加水分解し、(トリフルオロメチル)マロン酸エステルを得る工程である。
【0041】
水と(トリフルオロメチル)エナミン(3)のモル比は、1:1から1000:1が好ましく、5:1から100:1がさらに好ましい。また、(トリフルオロメチル)エナミン(3)を単離せずに工程2を行う場合、水とエナミン(2)のモル比は、1:1から1000:1が好ましく、5:1から100:1がさらに好ましい。
【0042】
工程2の反応では、反応に害を及ぼさない溶媒を用いることができる。具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル、アセトン、メチル(イソブチル)ケトン等のケトン、水を挙げることができ、適宜これらを組み合わせて用いても良い。また、ジメチルスルホキシドのように、常温で液体のスルホキシド(1)を、そのまま溶媒として用いても良い。収率および利便性が良い点で、水が好ましい。
【0043】
工程2は、収率が良い点でプロトン酸の存在下に実施することが好ましい。用いることのできるプロトン酸としては、硫酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、リン酸、ヘキサフルオロリン酸またはテトラフルオロホウ酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸またはトリフルオロ酢酸等の有機酸を例示することができる。収率が良く、かつ入手容易な点で無機酸が好ましく、塩酸がさらに好ましい。
【0044】
プロトン酸と(トリフルオロメチル)エナミン(3)のモル比は、1:1から1000:1が好ましく、5:1から100:1がさらに好ましい。また、(トリフルオロメチル)エナミン(3)を単離せずに工程2を行う場合、プロトン酸とエナミン(2)のモル比は、1:1から1000:1が好ましく、5:1から100:1がさらに好ましい。
【0045】
反応温度は0℃から80℃の範囲から適宜選ばれた温度で行うことができるが、室温でも十分良好な収率を得ることができる。
【0046】
反応時間に特に制限はないが、10分以上行うことで、目的物を収率良く得ることができる。