【課題を解決するための手段】三次元測量装置から施工対象物の三次元情報を取得するスキャンデータ取得部105と、前記施工対象物の設計データに基づく第1の三次元モデルと前記三次元情報に基づく第2の三次元モデルとの対応関係を特定する対応関係特定部と、前記対応関係に基づき、前記施工対象物に対する前記三次元測量装置の位置を後方公会法により算出する算出部とを備える。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(ハードウェアの構成)
図1には、設計データ管理装置100が示されている。設計データ管理装置100は、設計データと施工管理データの管理を行う。設計データは、施工対象物(この場合は、建築物)の設計図のデータである。設計データでは、構造に関するデータ、使用する部材の材質、部材の固定の方法、工法等が関連付けされている。施工管理データは、施工の手順を記述したデータである。この例では、施工作業の進捗状況に合わせて設計データと施工管理データが更新される。この更新が行われることで、作業の進捗状況、設計変更、施工現場での作業内容の変更といった情報が最新のものに変更(修正)される。更新の頻度としては、日に一回(その日の作業終了後)、日に2回(例えば、午前の作業終了後と午後の作業終了後)、特定の期間毎、予め定めた工程の終了を区切りとしたタイミング等が挙げられる。
【0011】
設計データ管理装置100は、記憶部101、通信部102、設計データと施工管理データの取得部103、スキャン処理設定部104、スキャンデータ取得部105、スキャンデータ処理部106、施工内容特定部107、設計変更判定部108および設計データと施工管理データの更新部109を有している。
【0012】
上述した各機能部は、ソフトウェア的に構成されていてもよいし、専用の演算回路によって構成されていてもよい。また、ソフトウェア的に構成された機能部と、専用の演算回路によって構成された機能部が混在していてもよい。例えば、図示する各機能部は、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのPLD(Programmable Logic Device)などの電子回路により構成される。
【0013】
各機能部を専用のハードウェアで構成するのか、CPUにおけるプログラムの実行によりソフトウェア的に構成するのかは、要求される演算速度、コスト、消費電力等を勘案して決定される。例えば、特定の機能部をFPGAで構成すれば、処理速度の上では優位であるが高コストとなる。他方で、CPUでプログラムを実行することで特定の機能部を実現する構成は、ハードウェア資源を節約できるので、コスト的に優位となる。しかしながら、CPUで機能部を実現する場合、処理速度は、専用のハードウェアに比較して見劣りする。また、CPUで機能部を実現する場合、複雑な演算に対応できない場合もあり得る。なお、機能部を専用のハードウェアで構成することとソフトウェア的に構成することは、上述した違いはあるが、特定の機能を実現するという観点からは、等価である。
【0014】
この例において、設計データ管理装置100は、ワークステーション等の大容量のデータを高速で処理できるコンピュータにより構成されている。勿論、処理能力に問題がなければ、市販のパーソナルコンピュータを用いて設計データ管理装置100を構成することもできる。また、設計データ管理装置100の機能を複数のコンピュータで分散して処理するシステムとする構成も可能である。
【0015】
記憶部101は、設計データ管理装置100で扱うデータおよび設計データ管理装置100を動作させるためのプログラムを記憶する。記憶部101は、半導体メモリ、ハードディスク装置、その他公知のデータ記憶装置の一または複数で構成されている。データの記憶に外部の記憶容量を用いることもできる。
【0016】
通信部102は、他の機器との通信を行う。通信を行う他の機器としては、レーザスキャナやTS(トータルステーション)等の測量機器、タブレットやPC等の他のコンピュータ、スマートフォン等が挙げられる。本実施形態では、タブレットやスマートフォンを用いて設計データ管理装置100にアクセスし、設計データ管理装置100で管理される各種のデータの閲覧が可能である。また、作業者が携帯するタブレットやスマートフォンに設計データ管理装置100から各種の指示(例えば、特定の作業の指示)を行うことが可能である。通信部102は、インターネット回線、無線LAN、有線LAN、ブルートゥース(登録商標)等の公知の通信手段を用いて他の機器との間で通信を行う。
【0017】
設計データと施工管理データの取得部103は、記憶部101に記憶されている更新の対象となる設計データと施工管理データを取得する。設計データと施工管理データを外部の記憶装置に記憶させ、そこから取得する形態も可能である。
【0018】
スキャン処理設定部104は、レーザスキャナが行うレーザスキャンに必要な各種の設定を行う。
図2にスキャン処理設定部104の詳細を示す。スキャン処理設定部104は、既知のデータに基づくスキャナ位置算出部141、スキャン範囲設定部142、スキャン光の条件設定部143を有している。
【0019】
既知のデータに基づくスキャナ位置算出部141は、設計データおよび施工管理データに基づいて、施工現場におけるレーザスキャナの設置位置を算出する。レーザスキャナの設置位置を決めることで、レーザスキャナによるスキャンの原点(視点)が決まる。レーザスキャナの設置位置(スキャンの視点)は、機械点とも呼ばれる。
【0020】
既知のデータに基づくスキャナ位置算出部141は、以下の処理を行う。ここでは、1日の作業の終了時にレーザスキャンを行い、その日に作業が行われた箇所の三次元データを取得する場合の処理について説明する。まず、その時点で最新の設計データと施工管理データを用意する。施工管理データからその日に作業が予定されていた部分(例えば、特定の壁面等)が判明する。次に、その日に作業が予定されていた部分をその時点で最新の設計図面上で特定する。この特定された部分がスキャン対象となる。次に、特定されたスキャン対象を最大限スキャンできる(最もオクル―ジョンが発生しない)視点を求める。
【0021】
この視点を求める処理では、(1)視点の仮設定→(2)スキャン対象におけるオクル―ジョンの面積の算出の処理を繰り返し、スキャン対象におけるオクル―ジョンの面積が最小となる視点の位置を求める。また、オクル―ジョンの発生が防止できない場合は、2つ目の視点を導入し、上記(1)→(2)の処理を繰り返し行って第2の視点を算出する。第2の視点を導入してもオクル―ジョンが解消できない場合、更に第3の視点の導入を行い、上記(1)→(2)の処理を繰り返し行って第3の視点を算出する。勿論、第4以上の視点を導入することも可能である。ただし、後の演算の負担を低減する観点から視点の数が少ない方が好ましい。視点を確定したら、その点を機械点(レーザスキャナの設置位置)とする。この処理が既知のデータに基づくスキャナ位置算出部141において行われる。
【0022】
例えば、一日の作業の終了後に上記の処理を行うことで、日々作業の進捗状況に応じた機械点の更新が行われる。また、作業が進むにつれて最適な機械点の位置が変化する場合がある。例えば、床の施工の前後でレーザスキャナの設置可能な位置が変わる。この場合、上記の処理により、機械点の算出をやり直すことで、機械点の更新が行われる。機械点の情報は、通信部102からレーザスキャナやレーザスキャナを操作する作業者の端末(例えば、当該作業者が携帯するタブレット)に送信される。これは、後述するスキャン範囲の設定に係る情報やスキャン条件の設定に係る情報も同じである。
【0023】
スキャン範囲設定部142は、設計データおよび施工管理データに基づき、レーザスキャンを行う範囲を設定する。レーザスキャンは、施工作業の進捗に従って所定のタイミングで行われる(例えば、毎日の作業の終了時)。この際、レーザスキャンが必要なのは、その日の作業が行われた部分である。なぜなら、既に施工され、その日に作業が行われなかった部分は、前日までのレーザスキャンによって点群データが取得されているからである。そして、その日に作業が行われた部分は、施工管理データに記述されており、設計データと施工管理データとを突き合わせることで特定できる。
【0024】
この特定された部分がその日にレーザスキャンが必要な部分である。この特定された部分と、前述した「既知のデータに基づくスキャナ位置算出部141」が算出した機械点とに基づきスキャン範囲の設定が行われる。具体的には、機械点(スキャンを行う視点)から見たその日に施工された部分(作業が行われた部分)の範囲がスキャン範囲として設定される。勿論、スキャン範囲は余裕をもって設定される。スキャン範囲を設定することで、無駄なスキャンが行われることが防止され、レーザスキャンに伴う作業時間の短縮および無駄な点群データを扱うことによる演算時間の増大や誤差の増大が抑えられる。
【0025】
スキャン光の条件設定部143は、設計データおよび施工管理データに基づき、レーザスキャンを行う条件を設定する。レーザスキャンを行う条件というのは、スキャン光の強度、波長、スキャン密度の一または複数の設定値である。設計データおよび施工管理データには、スキャン対象(レーザ光が照射される対象)の材質や色に関する情報が記述されている。光の反射特性は、反射材の材出、色、表面の状態に影響を受ける。反射光の強度が弱いと点群データに欠落が生じるので、確実に反射光が得られるようにする必要がある。スキャン光設定部143は、スキャン対象の材質、色、表面の状態(例えば、エンボス面等)に応じて、閾値以上の反射光が得られるようにスキャン光の強度、波長、スキャン密度の一または複数の値を調整する。
【0026】
また、測定光の波長を可変できる形態のレーザスキャナを用いる場合に、スキャン光の反射光の強度を検出し、検出強度が閾値以上(あるいは最大)となる波長を選択する形態も可能である。例えば、スキャン光の波長を可変できるレーザスキャナを用い、第1の波長での1回目のスキャン、第2の波長での2回目のスキャン(勿論、3回目以降も可能)を行い、反射強度の高い方のデータを採用する方法、あるいは複数のスキャンデータを合成する方法が挙げられる。また、波長を変えて一点に複数回の測定光の照射を行い、反射強度の高いデータを採用する方法、あるいは複数の反射光のデータを合成したものを採用する方法が挙げられる。また、予め複数の波長に設定してのプリスキャンを行って予備データを取得し、この予備データに基づいて本スキャンにおける波長を選択する形態も可能である。また、使用するスキャン光の反射特性が良くない材質の場合に、スキャン光の照射強度を高くする設定が挙げられる。また、スキャン対象が面である場合にスキャン密度を相対的に小さくし、スキャン対象が梁や柱といったエッジ部分を含む場合にスキャン密度を相対的に大きくする設定が挙げられる。
【0027】
図1に戻り、スキャンデータ取得部105は、レーザスキャナが計測したスキャンデータ(点群データ)を取得する。レーザスキャナとしては、3次元レーザスキャンを行い三次元の点群データを得ることができる機種が利用される。レーザスキャナとしては、特開2010−151682号公報、特開2008―268004号公報、米国特許8767190号公報等に記載されている技術を利用できる。点群データは、三次元座標を取得した点の集まりとしてスキャン対象を捉えたデータである。
【0028】
図3にスキャンデータ処理部106のブロック図を示す。スキャンデータ処理部106は、スキャンデータに基づくスキャナ位置算出部151、三次元モデル作成部152、対応関係特定部153を有している。
【0029】
スキャンデータに基づくスキャナ位置算出部151は以下の処理を行う。この処理では、スキャンデータ(またはスキャンデータから得られた三次元モデル)と設計データとの対応関係が求め、当該スキャンデータを得たレーザスキャナの位置を計算する。
【0030】
まず、設計データでは、各部の座標の値は既知である。ここで、スキャンデータ(またはスキャンデータから得られた三次元モデル)と設計データとの対応関係が判ると、スキャンデータ(またはスキャンデータから得られた三次元モデル)の各点の座標値が設計データを介して判る。他方で、スキャンデータ(点群データ)とレーザスキャナの相対位置関係は既知である(そもそも、レーザスキャンで得られる一次データは、機械点からの方向と距離である)。よって、設計データとの比較により点群データの座標値が求まれば、レーザスキャナの位置(機械点)を求めることができる。
【0031】
以下、スキャンデータに基づいてスキャナの位置を算出する処理の具体的な一例を説明する。まず、設計データのCADデータから、その時点における建築物の三次元モデルを得る。次にレーザスキャンデータ(点群データ)から、三次元モデルを作成する。この処理は、三次元モデル作成部152で行われる。三次元モデル作成部152は、点群データに基づき対象物を輪郭線のデータとして捉えた三次元モデルを作成する。三次元モデルのデータは、3次元CADデータと親和性が高い。点群データに基づき三次元モデルを作成する技術については、国際公開番号WO2011/070927号公報、特開2012−230594号公報、特開2014−35702号公報等に記載された技術を利用できる。
【0032】
スキャンデータ基づく三次元モデルの作成において、設計データを利用してもよい。スキャンデータには、設計データに記述されている構造物に係るデータが含まれている。よって、スキャンデータ(またはスキャンデータから得られる三次元モデル)と設計データから得られる三次元モデルの少なくとも一部とを対比し、特定することで、スキャンデータに基づく三次元モデルの作成が効率化される。
【0033】
また、スキャンデータ基づく三次元モデルの作成において、既に前に得ているスキャンデータを利用してもよい。すなわち、この例では、1日の作業の終了時にレーザスキャンを行う。ここで、前日以前のスキャンデータは、既に設計データとの対応関係が求められている。よって、スキャン範囲が前日と同じあるいは重複する場合、新たに得たスキャンデータに基づく三次元モデルの作成における初期値あるいは参照値として、以前に取得したスキャンデータを用いることで、三次元モデルの作成に係る処理を効率化できる。
【0034】
2つの三次元モデル(設計データから得た三次元モデルとスキャンデータから得た三次元モデル)を得たら、その対応関係を特定する。この処理は、対応関係特定部153において行われる。2つの三次元モデルの対応関係を特定する技術としては、例えば、WO2012/141235号公報、特開2014−35702号公報、特開2015−46128号公報、特願2015−133736号等に記載されたものが利用できる。また、設計データから得た三次元モデルとスキャンデータの対応関係を直接求める処理も可能である。
【0035】
設計データから得た三次元モデル(第1の三次元モデル)とスキャンデータから得た三次元モデル(第2の三次元モデル)の対応関係が特定されることで、第2の三次元モデル各部の座標の値が第1の三次元モデルを記述する座標系における値として求まる。すなわち、第1の三次元モデルは、設計データから得た各部の座標値が既知である三次元モデルであるので、第1の三次元モデルと第2の三次元モデルの対応関係が求まることで、第2の三次元モデル各部の設計データ上における座標が判る。
【0036】
図4には、後方公会法の原理が示されている。後方交会法とは、未知点から3つ以上の既知点へ向かう方向を観測して、それらの方向線の交点として未知点の位置を定める方法である。後方交会法としては、単写真標定、DLT法(Direct Liner Transformation Method)が挙げられる。交会法については、基礎測量学(電気書院:2010/4発行)182p,p184に記載されている。また、特開2013―186816号公報には交会法に関する具体的な計算方法の例が示されている。
【0037】
図4において、P
1,P
2,P
2が上記の第2の三次元モデルを構成する点であるとする。ここで、第1の三次元モデルと第2の三次元モデルの対応関係が特定されると、点P
1,P
2,P
2の座標値は設計データ上で扱う値として特定される。他方で、スキャンデータからスキャナ(機械点)から見たP
1,P
2,P
2への方向線(測定光の光軸)の方向が判る。したがって、機械点(スキャンの視点)となる
図4の点O(X
0,Y
0,Z
0)の位置を幾何学的に求めることができる。具体的には、P
1,P
2,P
2の座標、P
1とOを結ぶ方向線の方程式、P
2とOを結ぶ方向線の方程式、P
3とOを結ぶ方向線の方程式から3つの方向線の交点を求めることで、点O(X
0,Y
0,Z
0)の座標値(設計データ上で扱う座標系での座標値)が得られる。
【0038】
以上の原理により、設計データから得た第1の三次元モデルとレーザスキャナデータから得た第2の三次元モデルに基づいて、設計データを記述する座標系上におけるレーザスキャナの位置O(X
0,Y
0,Z
0)を求めることができる。
図4の原理を用いて上記の点O(X
0,Y
0,Z
0)を求める処理に係る演算がスキャンデータに基づくスキャナ位置算出部151において行われる。
【0039】
スキャンデータに基づくスキャナ位置算出部151によるレーザスキャナの位置の特定には、以下の意味がある。レーザスキャナの位置(機械点)は、
図2の既知のデータに基づくスキャナ位置算出部141における処理で求められており、指定された位置に正確にレーザスキャナが設置されていれば、スキャンデータから得られるスキャナの位置は、最初に指定された位置と一致する。しかしながら、レーザスキャナを指定された位置に正確に設置するのは煩雑な作業が必要であり、また専門知識を必要とする。よって、施工現場でのレーザスキャナの設置に誤差が生じる場合がある。
【0040】
このような場合に、スキャンデータから機械点の算出を行うことで、機械点の誤差を修正することができる。そして、機械点の誤差を修正することで、スキャンデータから得られる三次元モデルの精度を高めることができる。また、スキャナの最初の設置が任意に行われた場合、すなわち特に位置の特定やその精度を意識せずにレーザスキャナを設置した場合に、上記の処理を行うことでレーザスキャナの設置位置(機械点)の特定がレーザスキャンを行った後で行える。
【0041】
また、床が施工された等の理由により、レーザスキャナの設置位置を以前の設置位置から変更しなければならない場合がある。この場合、新たなスキャナの設置位置が予め正確に判っていれば、スキャンデータを得た後でスキャナの位置を算出する必要はない。しかしながら、スキャナの設置位置が不明であったり不明確であったりする場合、レーザスキャンを行い、得られたスキャンデータに基づくスキャナ位置の算出を行うことで、新たなスキャナ位置の座標を求めることができる。この場合、スキャナ位置の正確な測量等の作業の負担を抑えることができる。
【0042】
図1に戻り、施工内容特定部107は、設計データから得た三次元モデルとスキャンデータから得た三次元モデルとを比較し、最後に更新された設計データにおいて、更に加えて行われた作業の内容を特定する。以下この処理の詳細を説明する。一日の作業が終了した時点で施工対象部分のレーザスキャンを行う場合、その時点で更新されている最新の設計データは、前日の作業終了の段階のものである。この場合、その内容(最新の設計データ)を基礎として、その日の作業が行われる。よって、レーザスキャンが行われた時点における施工現場の三次元モデルと前日に更新された設計データに基づく三次元モデルとの差分は、その日に施工が行われた結果、前日の終わりの段階と異なった部分に対応する。このことを利用し、施工内容特定部107では、その日に行われた施工部分を特定する。
【0043】
以下、施工内容特定部107で行われる処理の一例を説明する。まず、その時点で最新の設計データ(前日の作業終了後に更新された設計データ)に基づく三次元モデルを取得する。この三次元モデルを第1の三次元モデルとする。この第1の三次元モデルは、前日までの施工の内容を反映した三次元モデルである。
【0044】
次に、その日の作業終了後に行われたレーザスキャンによって得たスキャンデータに基づく三次元モデルを取得する。この三次元モデルを第2の三次元モデルとする。ここで、第2の三次元モデルの作成において、機械点の位置精度を極力確保し、第2の三次元モデル各部の座標精度を確保する。例えば、下記の(1)→(2)→(3)の処理を複数回繰り返し、機械点の位置精度を高める処理を行う。機械点の位置精度を高めることで、第2の三次元モデルの位置精度を高めることができる。
(1)第1の三次元モデルと第2の三次元モデルの対応関係の特定
(2)
図4の後方公会法を用いた機械点の算出
(3)第2の三次元モデルの再作成
【0045】
第1の三次元モデルと第2の三次元モデルを得たら、2つの三次元モデルを比較し、一致しない部分を抽出する。そして、この抽出した部分をその日に施工が行われた部分として特定する。この処理が施工内容特定部107で行われる。施工内容を特定する処理には、以下の態様がある。
【0046】
第1の態様は、第1の三次元モデルと第2の三次元モデルの一致しない部分の三次元データを設計データで置き換える態様である。この場合、レーザスキャンデータは、新たに施工された部分の特定に利用されるだけであり、当該部分(上記一致しない部分)の三次元モデルは、設計データに基づくものに置き換えられる。第1の態様は、施工特定部分を正確な図面データとしてデータ化できる。ただし、施工現場での設計変更や現物合わせによる部材の寸法の変更といった情報は反映されない。
【0047】
第2の態様は、以下の手順を踏む。まず、第1の三次元モデルと第2の三次元モデルの一致しない部分を得たら、その部分が設計データ通りであるか否か判定する。ここで、その部分が設計データ通りである場合、その部分を施工された部分として特定する。この場合、施工された部分の三次元データは、設計データに基づく三次元データであってもよいし、スキャンデータに基づく三次元データであってもよい。
【0048】
他方で、その部分が設計データ通りでない場合、その部分の変更が報告されているか否かを検索する。作業者や現場責任者は、作業日報や作業記録を作成しており、その内容は、データベース化されている。上記の検索は、このデータベースを検索することで行われる。変更が報告されている場合、上記の設計データと異なる部分の三次元データを第2の三次元モデルから取得し、それを設計データに反映させる。また、変更が報告されていない場合、上記の設計データと異なる部分の三次元データを保留扱いとする。第2の態様を用いた場合、施工現場での変更や現物合わせによる部材の寸法の変更といった情報が更新データに反映される。
【0049】
第1の態様と第2の態様を併用する第3の態様も可能である。この場合、まず、第1の三次下モデルと第2の三次元モデルの一致しない部分(差分部分)を取得する。次に、差分部分と対応する大元の設計データとを比較し、更に両者の差分を算出する。この差分が予め定めた閾値以下であれば、当該差分部分を施工予定の設計データで置き換えた形で設計データを更新する。具体的には、当該差分部分が施工完了部分として設計データ上で扱われる状態とされる。
【0050】
他方で、差分部分と対応する大元の設計データとを比較し、この差分が予め定めた閾値を超える場合、設計とは異なる施工が行なわれたと判定し、当該差分部分をレーザスキャンデータから得た三次元モデルで置き換えた形で設計データを更新する。具体的には、当該差分部分を第2の三次元モデルから取得し、それを第1の三次下モデルと合成し、設計データにスキャンデータが捉えた施工部分のデータを反映させる。第3の態様の場合、閾値で規定される誤差の範囲であれば、予め用意されているデータを用いた設計データの更新が行われ、誤差を超えたスキャンデータが得られた場合、スキャンデータ(つまり実測データ)を用いた設計データの更新が行われる。以上の第1〜第3の態様に係る処理が施工内容特定部107で行われる。
【0051】
設計変更判定部108は、設計データから得た第1の三次元モデルとスキャンデータから得た第2の三次元モデルの差分部分が、当初の設計通りでない場合に、当該差分部分を設計変更が行われた部分と判定する。設計変更と特定された部分は、後で識別できるようにデータ化される。
【0052】
設計データと施工管理データの更新部109は、設計データ上において、施工内容特定部107で特定されたその日に施工された部分のデータの更新を行なう。この更新が行われることで、設計データに施工内容が反映され、設計データ上での施工の有無を判別できる情報が最新のものになる。例えば、設計データ上でどの部分が施工され、どの部分が未施工であるかに係る情報が最新のものにアップデートされる。また、この設計データの更新に対応させて、施工管理データの更新も行われる。
【0053】
ここでの説明では、設計データの更新の頻度が1日に一回であるが、1日に2回や2日に1回であってもよい。また、特定の工程が完了する毎に設計データの更新を行う形態も可能である。
【0054】
(処理の一例)
以下、
図1の設計データ管理装置100を用いた処理の一例を示す。
図5には、基本処理の一例が示されている。
図6と
図7は、
図1の処理の一部を更に説明するサブチャートである。
図5〜
図7の処理を実行するプログラムは、記憶部101または適当な記憶媒体に記憶され、適当なメモリ領域上に読み出されて実行される。
【0055】
処理が開始されると、まず設計データと施工管理データが取得される(ステップS101)。この処理は、設計データと施工管理データ取得部103において行われる。次に、レーザスキャナが計測したレーザスキャンデータが取得される(ステップS102)。
図6にステップS102で行われる処理の詳細が示されている。
【0056】
図6の処理では、まず最新の設計データ(最後に更新された設計データ)と最新の施工管理データ(最後に更新された施工管理データ)に基づくスキャナ位置(機械点)の算出が行われる(ステップS111)。この処理は、既知のデータに基づくスキャナ位置算出部141において行われる。ステップS111の後、最新の施工管理データに基づいてスキャン範囲の設定が行われる(ステップS112)。この処理は、スキャン範囲設定部142において行われる。
【0057】
次に、スキャン対象の色や材質に基づくスキャン光の波長と出力の設定、更にスキャン対象の形状に基づくスキャン密度の設定を行う(ステップS113)。この処理は、スキャン光の条件設定部143によって行われる。そして、レーザスキャナの設置を行った作業員から設置完了の連絡を受けた段階で、レーザスキャンの開始が指示され(ステップS114)、レーザスキャニングが行われる。レーザスキャンの終了後、スキャンデータがレーザスキャナから設計データ管理装置100に出力され、設計データ管理装置100は、スキャンデータを取得する(ステップS115)。スキャンデータの取得は、スキャンデータ取得部105によって行われる。
【0058】
図5のフローに戻り、スキャンデータの取得(ステップS102)を行ったら、ステップS103に進む。ステップS103では、ステップS102で取得したスキャンデータに基づく三次元モデルの作成が行われる。
図7にステップS103の詳細が示されている。
図7の処理では、まずスキャンデータに基づくスキャナ位置(機械点)の特定が行われる(ステップS121)。初期設定において機械点に誤差がある場合、この処理により機械点の座標値が修正される。この処理は、TS(トータルステーション)の機能を用いて行うこともできる。この場合、TSの機能を備えたレーザスキャナを用いる。
【0059】
ステップS121の後、修正された機械点とステップS115で得たスキャンデータに基づく三次元設計データの作成を行う。この処理は、三次元モデル作成部152で行われる。ステップ121→ステップS122の処理を繰り返し、求める三次元モデルの精度を高めることは有効である。
【0060】
スキャンデータに基づく三次元モデルを作成したら、
図5のステップS104に進む。ステップS104では、最後の更新以後に行われた施工部分が特定される。この処理は、施工内容判定部107で行われる。施工した部分を特定したら、その部分を設計データ上に反映させ、設計データの更新(修正)を行う。また、同様に施工管理データも更新する。この処理は、設計データと施工管理データの更新部109で行われる。
【0061】
以上の処理によれば、日々施工が進んでゆく状態がレーザスキャンによって電子データとして把握され、設計データおよび施工管理データの更新が行われる。レーザスキャンデータを用いることで、設計データの更新作業を省力化し、また迅速化できる。
【0062】
施工管理データが更新されることで、例えば、設計図面上で作業終了、作業中、作業未着手の部分が視覚的に判別できる画面表示が可能となる。また、施工スケジュールの画面表示において、作業終了、作業中、作業未着手の部分が視覚的に判別することが可能となる。
【0063】
スキャンの頻度は、一日の作業が終了した段階で行われる例が挙げられるが、1日に2回の更新や2日に1回の更新といった頻度で施工管理データの更新を行うことも可能である。また、時間で更新のタイミングを決めるのではなく、施工内容に応じてデータ更新(つまりレーザスキャン)のタイミングを決めることもできる。
【0064】
設計データ管理装置100は、スキャンデータに基づくスキャナ位置算出部151の機能を利用したレーザスキャナの位置特定装置として用いることもできる。
【0065】
(その他)
三次元情報を取得する装置として、レーザスキャナに加えて、またはそれに代えて立体写真計測を行なうステレオカメラを用いることもできる。この場合、ステレオペア画像を用いて三次元モデルの作成が行われる。
【0066】
(具体例)
図8(A)には、建物の躯体301,302と柱303が示されている。
図8(B)には、
図8(A)の状態において、支え部材304を躯体301,302に固定した状態が示されている。
図8(C)には、
図8(B)の状態において、支え部材304と柱303に壁305を取り付けた状態が示されている。
図8(A)〜(C)に示す施工の各段階は、レーザスキャンによって三次元情報として把握され、それに基づき設計図面および施工管理データが更新される。すなわち、レーザスキャンを行うことで、
図8(A)の状態に対応した設計データの更新、
図8(B)の状態に対応した設計データの更新、
図8(C)の状態に対応した設計データの更新が設計データ管理装置100によって行なわれる。
【0067】
(応用例)
完成後の建物の中にレーザスキャナを残置し、あるいは完成後の建物の中にレーザスキャナの設置位置を指定するマーキングや台座を配置し、完成後の建物のメンテナンスにレーザスキャンデータを活用する技術に本発明は利用できる。考え方は、前述の施工管理の場合と同じである。例えば、完成後の建物のリフォームが行われる場合、上述した施工途中でのレーザスキャニング、この際のレーザスキャンデータの基づく設計データの更新(修正)を行うことで、リフォーム作業時における設計データの更新作業(修正作業)を効率化できる。
【0068】
また、建物の経時変化や災害時の被害状況の確認に、設計データ管理装置100を用いることもできる。この場合、工事ではない要因で構造に変化が生じたか否かが、レーザスキャンデータと設計データの比較で検出される。本明細書における設計データには、建物の建築に用いられるものに加えて、建物の管理に利用される当該建物の構造のデータも含まれる。また、施工対象物としては、オフィスビル、商業ビル、商業施設、各種の複合施設、住居用の建物、学校、体育館、競技場、駅、工場、倉庫、高架橋、港湾施設、空港、発電所、環境プラント施設(例えば、浄水プラント等)、化学プラント、トンネル等が挙げられる。