(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-204493(P2017-204493A)
(43)【公開日】2017年11月16日
(54)【発明の名称】シンセティックジェットアクチュエータおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 41/09 20060101AFI20171020BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20171020BHJP
H01L 41/193 20060101ALI20171020BHJP
H01L 41/29 20130101ALI20171020BHJP
B08B 5/04 20060101ALI20171020BHJP
B08B 5/02 20060101ALI20171020BHJP
【FI】
H01L41/09
H05K7/20 H
H01L41/193
H01L41/29
B08B5/04 A
B08B5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-93695(P2016-93695)
(22)【出願日】2016年5月9日
(71)【出願人】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【テーマコード(参考)】
3B116
5E322
【Fターム(参考)】
3B116BB32
3B116BB62
3B116BB72
3B116CD22
5E322BB01
5E322BB02
(57)【要約】
【課題】振動板が駆動されても振動の少ないシンセティックジェットアクチュエータおよびその製造方法を得る。
【解決手段】主要な部品として圧電横効果振動する素材からなるフィルム2を有し、フィルム2は両面にそれぞれ電極層3,4を有し、フィルム2は円筒形状に丸まって電極層3,4が円筒の外周面と内周面にあり、外周面と内周面の電極層3,4間には交番電源を印加することができる。交番電源の印加によって円筒形のフィルム2が半径方向に拡縮振動し、円筒形のフィルム2の開放端に気流を生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電横効果振動する素材からなるフィルムで構成され、
前記フィルムは両面にそれぞれ電極層を有し、
前記フィルムは円筒形状に丸まって前記電極層が円筒の外周面と内周面にあり、
前記外周面と内周面の電極層間には交番電源を印加することができ、前記交番電源の印加によって前記円筒形のフィルムが半径方向に拡縮振動し、前記円筒形のフィルムの開放端に気流を生成するシンセティックジェットアクチュエータ。
【請求項2】
前記円筒形のフィルムの一端を閉止し、他方の開放端に気流を生成する請求項1記載のシンセティックジェットアクチュエータ。
【請求項3】
前記円筒形のフィルムの両端を開放端とし、前記円筒形のフィルムの両端に気流を生成する請求項1記載のシンセティックジェットアクチュエータ。
【請求項4】
前記円筒形のフィルムの開放端にパイプが連結され、前記円筒形のフィルムと前記パイプとの連結部に前記パイプの内径よりも小さいオリフィスがある請求項2または3記載のシンセティックジェットアクチュエータ。
【請求項5】
前記パイプは、前記パイプの内周側空間と外周側空間を連通する孔を有する請求項4記載のシンセティックジェットアクチュエータ。
【請求項6】
前記円筒形のフィルムには前記電極層の非形成部分があり、前記電極層の非形成部分が保持部材によって保持されている請求項1乃至5のいずれかに記載のシンセティックジェットアクチュエータ。
【請求項7】
圧電横効果振動する素材からなるフィルムの両面に電極層を形成する工程と、
前記両面の電極間に成極電圧を印加しながら加熱しかつ冷却して圧電性を付与する工程と、
圧電性が与えられた前記フィルムを円筒形状に丸め、そのとき相対向する両側面同士を接合する工程と、を有するシンセティックジェットアクチュエータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンセティックジェットアクチュエータおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シンセティックジェットアクチュエータは、キャビティと、キャビティの容積を変動させることができる振動板と、キャビティに設けられたオリフィスを有することを基本構成とする。振動板を振動させると、オリフィスから空気の吹き出しと吸い込みを繰り返し、交番的に正と負の圧力を発生する。オリフィスから流出する正味の流量の時間平均はゼロであるが、オリフィスから空気が流出するとき空気の実質的な流量を生成することができる。シンセティックジェットアクチュエータは、回転部がなく、機構的な駆動部分もないため、小型で軽量なアクチュエータを得ることができる。
【0003】
シンセティックジェットアクチュエータの例が特許文献1に記載されている。特許文献1記載のシンセティックジェットアクチュエータは、四角形の箱でチャンバを形成し、上記箱の一部を可撓壁とし、可撓壁を振動させて、上記箱に設けたオリフィスから空気の吹き出しと吸い込みを行わせる。特許文献1記載のシンセティックジェットアクチュエータは、生成する空気の噴流を、熱発生源の冷却に利用するもので、上記箱に複数のオリフィスが設けられている。
【0004】
シンセティックジェットアクチュエータにおいて振動板の振動による交番圧力を得るための駆動方式には、プラズマ方式、ピエゾ型、そしてスピーカ型などがある。シンセティックジェットアクチュエータが空気の流れを発生するために振動板を駆動するとき、振動板の反作用によってシンセティックジェットアクチュエータが振動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−245539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、振動板が駆動されても振動の少ないシンセティックジェットアクチュエータおよびその製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るシンセティックジェットアクチュエータは、
主要な部品として圧電横効果振動する素材からなるフィルムを有し、
前記フィルムは両面にそれぞれ電極層を有し、
前記フィルムは円筒形状に丸まって前記電極層が円筒の外周面と内周面にあり、
前記外周面と内周面の電極層間には交番電源を印加することができ、前記交番電源の印加によって前記円筒形のフィルムが半径方向に拡縮振動し、前記円筒形のフィルムの開放端に気流を生成することを最も主要な特徴とする。
【0008】
本発明に係るシンセティックジェットアクチュエータの製造方法は、
圧電横効果振動する素材からなるフィルムの両面に電極層を形成する工程と、
前記両面の電極間に成極電圧を印加しながら加熱しかつ冷却して圧電性を付与する工程と、
圧電性が与えられた前記フィルムを円筒形状に丸め、そのとき相対向する両側面同士を接合する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
円筒形のフィルムが半径方向に同時に拡径し、同時に縮径することにより、円筒の径方向の振動が相殺され、振動の少ないシンセティックジェットアクチュエータを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係るシンセティックジェットアクチュエータの実施例を示す斜視図である。
【
図3】前記実施例の動作を説明するための縦断面図である。
【
図4】本発明に係るシンセティックジェットアクチュエータの製造方法の一工程を示す側面図である。
【
図5】前記製造方法の別の工程を示す斜視図である。
【
図6】本発明に係るシンセティックジェットアクチュエータの保持構造の例を示す縦断面図である。
【
図7】本発明に係るシンセティックジェットアクチュエータの保持構造の別の例を示す縦断面図である。
【
図8】本発明に係るシンセティックジェットアクチュエータの別の実施例を示す縦断面図であって、(a)は一つの実施例、(b)変形実施例を示す。
【
図9】本発明に係るシンセティックジェットアクチュエータのさらに別の実施例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るシンセティックジェットアクチュエータおよびその製造方法の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0012】
図1、
図2において、シンセティックジェットアクチュエータ1は、主要な部品として圧電横効果振動する素材からなるフィルム2を有している。圧電横効果振動する素材として、ポリフッ化ビニリデン(以下「PVDF」という)や圧電素子があるが、本実施例では、PVDFのような可撓性のある素材を用いている。
【0013】
フィルム2はもともと四角形のフィルムで、両面にそれぞれ電極層3,4を有している。四角形のフィルム2は円筒形状に丸まっていて、円筒の外周面と内周面に電極層3,4を有している。図示の例では円筒の外周面に電極層3が、内周面に電極層4がある。円筒形状に丸まることによって相対向するフィルム2の両側面は接着等によって接合されている。電極層3の相対向する両側面同士および電極層4の相対向する両側面同士は、電気的に結合してもよいし、結合しなくてもよい。円筒形状のフィルム2の中心軸線方向両端は開放している。
【0014】
以上のように構成されたシンセティックジェットアクチュエータ1は、
図3に示すように、外周側と内周側の電極層3,4間に交番電源5を印加することができる。電極層3,4間に交番電源5を印加すると、シンセティックジェットアクチュエータ1は、フィルム2の圧電横効果により、フィルム2の厚さ方向に振動する。
【0015】
フィルム2は円筒形に丸められているため、
図1〜
図3に矢印で示すように、円筒の半径方向に拡縮振動する。フィルム2が拡径方向に振動するときは、円筒形のフィルム2の内部空間21の容積が大きくなり、円筒の両端から空気が円筒内に吸い込まれる。フィルム2が縮径方向に振動するときは、内部空間21の容積が小さくなり、上記円筒の両端から空気が吹き出される。
【0016】
このようにして、円筒形のフィルム2の開放端に排出方向の気流と吸入方向の気流が交番的に生成される。シンセティックジェットアクチュエータ1は、円筒形のフィルム2が半径方向に同時に拡径し、同時に縮径するため、円筒の径方向の振動が相殺され、振動が少なくなる。シンセティックジェットアクチュエータ1は、フィルム2を円筒状に丸めた構成のため、構成が単純で、小型にすることができる。
【0017】
フィルム2の素材をPVDFにすると、振動の状態を表すQの値が低く、振動が減少しやすい性質がある。
シンセティックジェットアクチュエータ1の大きさによって共振周波数が異なるので、それに応じて交番電源5の周波数も調整するとよい。
【0018】
次に、本発明に係るシンセティックジェットアクチュエータの製造方法の実施例について、
図4、
図5を参照しながら説明する。
【0019】
図4に示すように、まず、圧電横効果振動する素材からなる四角形のフィルム2の両面に電極層3,4を形成する。電極層3,4の材料の例として銀ペーストがある。銀ペーストをペイントのようにしてフィルム2の両面に塗り、溶剤を蒸発させることによって硬化させ、電極層3,4を形成する。
【0020】
次に、電極層3,4間に直流の成極電圧源6を接続して高電圧かけ、直流電界を生成する。直流電界を生成したままフィルム2を加熱し、その後冷却する。こうすることにより、フィルム2に圧電性が与えられ、フィルム2は圧電横効果振動が可能になる。
【0021】
次に、圧電性が与えられた四角形のフィルム2を、
図5に示すように、円筒形状に丸め、そのとき相対向する両側面同士を接合する。接合は接着剤によって行ってもよいし、両面テープによって行ってもよい。
【0022】
図6、
図7は、上記実施例に係るシンセティックジェットアクチュエータ1の保持構造の例を示す。
図6はシンセティックジェットアクチュエータ1を構成する円筒形のフィルム2の両端部外周を、RTVゴム8を介して保持部材7によって保持したものである。円筒形のフィルム2の両端部には電極層3の非形成部分があり、この電極層の非形成部分がRTVゴム8を介して保持部材7により保持されている。フィルム2の両端に位置する保持部材7はそれぞれ上記円筒の外形に対応した大きさの円形の孔を有している。これらの孔に円筒形のフィルム2の両端部が挿入され、RTVゴム8を介して円筒形のフィルム2が保持されている。
【0023】
前述のように、円筒形のフィルム2は半径方向に拡縮振動する。RTVゴム8は弾力性を有しているため、上記拡縮振動をRTVゴム8が許容する。また、
図6の例では、電極層3の非形成部分を保持部材7が保持しているため、保持部材7による保持部はフィルム2の拡縮振動源にはならない。よって、保持部材7によるフィルム2の拡縮振動が制限されることはなく、制限されるとしても僅かに制限されるだけである。
【0024】
図7に示す例は、シンセティックジェットアクチュエータ1を構成する円筒形のフィルム2の中心軸線方向中央部の外周を、RTVゴム8を介して保持部材7によって保持した例である。円筒形のフィルム2の半径方向の拡縮振動をRTVゴム8が許容する。
【0025】
ここまで説明してきたシンセティックジェットアクチュエータ1にさらに構成を付加することによって、より効果的なシンセティックジェットアクチュエータを得ることができる。
図8、
図9はこのようなシンセティックジェットアクチュエータの第2の実施例および第3の実施例を示す。
【実施例2】
【0026】
図8に示すシンセティックジェットアクチュエータの例は、前記シンセティックジェットアクチュエータ1を構成する円筒形のフィルム2の一端を閉止し、他方の開放端15にパイプ10が連結されたものである。
図8(a)(b)は、一つの実施例とその変形例をそれぞれ示している。
【0027】
まず、
図8(a)に示す実施例について説明する。
図8(a)は、円筒形のフィルム2の中心軸線を上下方向に向けた状態を示している。フィルム2の下端が蓋14で閉止され、フィルム2の上端の開放端15に円筒形のパイプ10が挿入されて連結されている。
【0028】
円筒形のフィルム2とパイプ10との連結部であるパイプ10の下端には底板があり、この底板の中央部にはオリフィス11が設けられている。したがって、オリフィス11はパイプ10の内径よりも小さい。パイプ10は、円筒形のフィルム2との連結部の近くに、パイプ10の内周側空間と外周側空間を連通する孔12を有している。
【0029】
円筒形のフィルム2の外周面と内周面にはそれぞれ前述の電極層が形成されていて、これらの電極層間に交番電源が印加され、円筒形のフィルム2が半径方向に拡縮振動する。円筒形のフィルム2が縮径するとき、フィルム2で形成されている円筒形の内部空間21の空気が圧縮され、オリフィス11からパイプ10内に空気が流れ、パイプ10の開放端15から空気が噴出する。
【0030】
パイプ10の開放端15から空気が噴出するときの空気の流れによってパイプ10の孔12付近の気圧が負圧になり、パイプ10の外側の空気が孔12からパイプ10内に流入する。こうして、パイプ10の開放端15からの空気の噴出と、孔12からパイプ10内への空気の流入によって空気の循環経路ができる。
【0031】
円筒形のフィルム2が拡径するとき、パイプ10とオリフィス11を通じて円筒形の内部空間21内に空気が吸引される。前述のパイプ10の開放端15から空気が噴出するときは、オリフィス11から直線的に空気が流れる。これに対し、内部空間21内に空気が吸引されるときは、空気がパイプ10の内部空間全体に広がってパイプ10の内壁面に沿って流れる空気もあり、パイプ10の空気の流れは緩やかである。
【0032】
この空気の噴出時と空気の吸入時の空気の流れの非対称性によって、強い平均噴流が発生し、パイプ10の開放端15から強い気流が噴出する。
【0033】
図8(a)に示すようなシンセティックジェットアクチュエータは、これを例えば除塵装置として利用することができる。除塵装置として利用する場合、パイプ10の孔12を、塵埃を捕捉するフィルタで覆っておく。シンセティックジェットアクチュエータを稼働させ、パイプ10の開放端15から強い気流を噴出させる。この噴出気流を塵埃除去対象に当て、気流の力で塵埃を吹き飛ばす。噴出気流は、前述の空気の循環経路を通って孔12からパイプ10内に向かって流れる。気流に交じっている塵埃は前記フィルタに捕捉され、前記噴出気流は常に清澄に保たれる。
【0034】
次に、
図8(b)に示す変形実施例について説明する。
図8(b)に示す実施例が
図8(a)に示す実施例と異なるのは、円筒形のフィルム2の一端の閉止構造である。
図8(a)に示す実施例では、円筒形のフィルム2の一端を蓋14で直接閉止していた。
図8(b)に示す変形実施例は、
図8(a)に示す実施例の蓋14に代えて、保持筒13を用いている。円筒形のフィルム2の上端の開口にパイプ10の下端部が嵌められて固着されている構成およびパイプ10がオリフィス11を有している構成は、
図8(a)に示す実施例と同じである。
【0035】
保持筒13は、円筒形のフィルム2の外形よりもやや大きい内径を有する底付きの円筒形状をしており、円筒形のフィルム2のほぼ全体を覆うことができる長さがある。保持筒13の上端には内向きの鍔17が形成されている。保持筒13の上端の開口から円筒形のフィルム2が保持筒13内に挿入され、円筒形のフィルム2の上端部外周が、RTVゴム8を介して、保持筒13の鍔17に固着されている。円筒形のフィルム2とこれに連結されているパイプ10は、保持筒13で保持された構造になっている。
【0036】
円筒形のフィルム2の下端は、実質的に保持筒13で閉止された構造になっている。したがって、
図8(b)に示す変形実施例は、
図8(a)に示す実施例と同様に動作し、
図8(a)に示す実施例と同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0037】
図9に示す実施例は、前述の通りに構成されているシンセティックジェットアクチュエータ1の両端が解放され、両方の開口端にそれぞれ前述のパイプ10が連結された構成になっている。シンセティックジェットアクチュエータ1の主体をなす円筒形のフィルム2には、外周面と内周面に前述の電極層が形成されている。これらの電極層間に交番電源を印加すると、円筒形のフィルム2が半径方向に拡縮振動し、両方のパイプ10の先端の開放端に気流が生成される。
【0038】
両方のパイプ10には、円筒形のフィルム2との連結部付近にオリフィスを設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係るシンセティックジェットアクチュエータは、前述のように塵埃除去装置として利用することができるほか、気流の噴出を利用する各種機器に利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 シンセティックジェットアクチュエータ
2 フィルム
3 電極層
4 電極層
5 交番電源
6 成極電圧源
7 保持部材
8 RTVゴム
9 保持部材
10 パイプ
11 オリフィス
12 孔
13 保持筒
14 蓋
15 開放端
21 内部空間