【実施例1】
【0022】
図3(a)は、実施例1に係る電子デバイスの断面図、
図3(b)は、
図3(a)のA−A断面図である。
図3(a)に示すように、実施例1の電子デバイス100は、基板10の上面に、デバイスチップ12が実装されている。基板10は、絶縁基板であり、例えばHTCC(High Temperature Co-fired Ceramic)またはLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramic)等のセラミックス基板または樹脂基板である。基板10の上面は例えば平坦であり、上面には端子24および環状電極28が設けられている。端子24は例えばバンプ14が接合するパッドである。環状電極28は、基板10の上面の外縁に、端子24を囲むように設けられている。基板10の下面に端子26が設けられている。端子26は外部と電気的に接続するための外部端子であり、例えばフットパッドである。基板10内には端子24と26とを電気的に接続する配線22が設けられている。端子24、26および配線22は、銅層、金層またはアルミニウム層等の金属層である。環状電極28は、ニッケル層または銅層等の金属層である。
【0023】
デバイスチップ12は基板16および機能部18を有する。基板10の下面にパッド15および機能部18が設けられている。機能部18は例えば弾性波を励振する電極である。機能部18は、電極を保護する保護膜を含んでもよい。保護膜は、例えば弾性波の振動を抑制しない程度に薄い。バンプ14はパッド15に接合する。
【0024】
デバイスチップ12が弾性表面波チップの場合、機能部18はIDT(Interdigital Transducer)の電極指である。電極指は例えば銅層またはアルミニウム層である。基板16は例えばタンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板等の圧電基板である。圧電基板はサファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板またはシリコン基板等の支持基板上に接合されていてもよい。デバイスチップが圧電薄膜共振器チップの場合、機能部18は圧電膜を挟み上部電極および下部電極が対向する共振部である。基板16は、例えばシリコン基板もしくは砒化ガリウム等の半導体基板、またはサファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板またはガラス基板等の絶縁基板である。デバイスチップ12の厚さは例えば50μmから200μmであり、例えば150μmである。パッド15は例えば銅層、アルミニウム層または金層等の金属層である。
【0025】
デバイスチップ12はバンプ14を介し基板10上に実装されている。機能部18は、空隙20を介し基板10に対向している。空隙20の高さは例えば数μmから20μmであり、例えば10μmである。機能部18が空隙20に露出されているため、機能部18の振動等が抑制されない。バンプ14は、例えば銅バンプ、金バンプまたは半田バンプである。
【0026】
基板10の上面にデバイスチップ12を囲むように封止部材30が設けられている。封止部材30は、環状電極28に接合されている。封止部材30は、例えばSnAg半田またはAuSn半田等の金属部材または樹脂等の絶縁部材である。リッド32は、圧延された後熱処理されていないコバール板、Ni−Fe合金板または42合金等の金属リッドであり、例えば平板状である。リッド32の厚さは、例えば5μmから20μmであり、例えば10μmである。リッド32の上面および封止部材30の側面に保護膜36が設けられている。保護膜36は、例えばニッケル膜等の金属膜、または絶縁膜である。
【0027】
図3(b)に示すように、封止部材30は、平面視において基板10を完全に囲っている。保護膜36は封止部材30を完全に囲っている。デバイスチップ12の側面の一部は封止部材30に囲まれていなくてもよい。
【0028】
図4(a)から
図5(c)は、実施例1に係る電子デバイスの製造方法を示す断面図である。
図4(a)に示すように、基板10上にバンプ14を用い複数のデバイスチップ12をフリップチップ実装する。デバイスチップ12の機能部18と基板10の間には空隙20が広がっている。デバイスチップ12は基板10上にマトリックス状に配置されている。
図4(b)に示すように、デバイスチップ12の上面に、板状部材31と金属リッド32が積層された積層体58を配置する。板状部材31は例えばSnAg半田である。
【0029】
図4(c)に示すように、封止部材30が融点以上の温度において、板状部材31が溶融した状態で金属リッド32を基板10に押圧する。例えばSnAg半田の融点は約220℃であり、AuSn半田の融点は280℃である。溶融した半田はデバイスチップ12間に充填される。充填された半田が環状電極28の上面に達する。環状電極28は半田の濡れ性がよいため、環状電極28上面に溶融した半田が濡れ広がる。この状態で基板10の温度を封止部材30の融点以下とする。これにより、板状部材31が溶融した半田から封止部材30が形成される。封止部材30は環状電極28と接合する。金属リッド32は封止部材30の上面およびデバイスチップ12の上面上に設けられる。金属リッド32はデバイスチップ12の上面に接しているが、金属リッド32とデバイスチップ12との間に封止部材30が残存していてもよい。機能部18は、封止部材30および金属リッド32により空隙20に封止される。その後、金属リッド32の上面に、デバイスチップ12を識別するための番号および/または記号を捺印してもよい。
【0030】
図4(d)に示すように、金属リッド32上に犠牲層60を形成する。犠牲層60は例えばニッケル層等の金属層であり、電解または無電解めっき法を用い形成する。犠牲層60は、絶縁層でもよい。犠牲層60の膜厚は例えば5μmから50μmであり、例えば10μmから20μmである。
【0031】
図5(a)に示すように、基板10の下面に端子26を覆うように保護材64を形成する。保護材64は例えばレジスト膜である。基板10の下面を保護材64を介しダイシングテープ66に貼り付ける。
図5(b)に示すように、ダイシングブレード68を用い、犠牲層60、金属リッド32、封止部材30および基板10を切断する。これにより、電子デバイス70が個片化される。犠牲層60から基板10を確実に切断するため、ダイシングブレード68がダイシングテープ66の一部まで切断することが好ましい。
【0032】
図5(c)に示すように、犠牲層60およびダイシングテープ66を除去する。これにより、複数の電子デバイス70は分離される。複数の電子デバイス70をバレル(不図示)に入れバレルをめっき槽74に投入する。めっき法を用い、保護膜36としてめっき層を形成する。例えば犠牲槽60がニッケル層であり、保護膜36としてニッケル層を用いる場合、アンモニア系のめっき液を用い犠牲層60を除去してもよい。例えば15μmの犠牲層60を除去する場合、犠牲層60をめっき液に約20分浸漬させる。犠牲層60を除去後、エッチング停止のため水洗を行なってもよい。犠牲層60をエッチングで除去する場合、封止部材30の側面が粗面化されることもある。その後、保護材64を除去する。保護材64は、端子26に保護膜36が成膜されることを抑制する。
【0033】
実施例1の作用効果について説明する。
図6(a)は、実施例1に係る電子デバイスの平面図、
図6(b)および
図6(c)は、
図6(a)のA−A断面図である。
図6(a)において、金属リッド32を透過してデバイスチップ12を図示している。
図6(a)に示すように、
図4(a)において単一の基板10上に複数のデバイスチップ12がマトリックス状に実装されている。単一の金属リッド32が複数のデバイスチップ12を覆っている。
【0034】
金属リッド32は、絶縁体である基板10に比べ線熱膨張係数が大きい。このため、
図4(c)の後に基板10を室温に冷却すると、
図6(b)に示すように基板10が下に湾曲するように反ってしまう。金属リッド32が圧延後に熱処理されていれば、金属リッド32が柔らかいため基板10の反りは小さい。ところが、圧延後に熱処理されていない金属リッド32は硬いため反りが大きくなる。例えば、金属リッド32が圧延後に熱処理されていない膜厚が10μmのコバール板とする。封止部材30がSnAg半田であり、
図4(c)において260℃に加熱する。基板10を厚さが0.1mmから0.2mm、大きさが50mm×50mmのHTCC基板とする。この場合、基板10の中心は両端から0.1mmから0.2mm程度反ってしまう。この状態の基板10は、ダイシング装置のステージに吸着できない。また、ステージに吸着できたとしても、切断精度が悪くなってしまう。その他、製造工程において支障が生じる。
【0035】
実施例1では、
図4(d)に示すように金属リッド32上に犠牲層60を形成する。
図6(c)に示すように、犠牲層60が矢印61のような圧縮応力を有すれば、
図6(b)の基板10の反りを犠牲層60が補償する。犠牲層60は、基板10の反りを抑制するような内部応力を有する層であればよく、例えばめっき法により形成された銅層または金層でもよい。基板10の反りが抑制されるため、ダイシング工程等の製造工程における支障が抑制される。よって、圧延後に熱処理していない硬い金属リッド32を用いることができる。
【0036】
図7(a)および
図7(b)は、比較例1に係る電子デバイスの製造方法を示す断面図である。
図7(a)に示すように、金属リッド32上に犠牲層60が形成されていない。
図7(b)に示すように、ダイシングブレード68を用い金属リッド32を切断するときに、金属リッド32にバリ72が形成される。バリ72は、例えば金属リッド32が封止部材30から剥がれて浮いたもの、または金属リッド32が封止部材30とともに浮いたものである。バリ72の高さは例えば20μmである。バリ72は金属リッド32が柔らかい場合および/または薄い場合に形成されやすい。金属リッド32が圧延後に熱処理されていない場合、金属リッド32は硬いためバリ72は形成されにくい。しかし、低背化のため、金属リッド32の膜厚を10μm以下または5μm以下とすると、バリ72が形成されてしまう。
【0037】
図7(c)および
図7(d)は、実施例1に係る電子デバイスの製造方法を示す断面図である。
図7(c)に示すように、金属リッド32上に犠牲層60が形成されている。
図7(d)に示すように、ダイシングブレード68を用い金属リッド32を切断するときに、犠牲層60が金属リッド32を覆うため、金属リッド32のバリが形成されにくい。また、バリが形成されたとしてもバリの成分はほとんど犠牲層60のため、犠牲層60を除去するときにバリも除去される。このように、犠牲層60を設けることで、バリ72の形成を抑制できる。なお、基板10の下面側から金属リッド32を切断するようにダイシングブレード68を挿入してもよい。この場合においても実施例1ではバリ72の発生を抑制できる。
【0038】
犠牲層60の膜厚は、基板10の反りの抑制および/またはバリ72の抑制ができる範囲で任意に設定できる。例えば基板10がHTCCセラミック基板、金属リッド32が厚さが約10μmのコバール板、犠牲層60がニッケル層のとき、犠牲層60の膜厚を15μmとする。犠牲層60が銅層のように柔らかい材料の場合、犠牲層60の膜厚を15μmより厚くすることができる。
【0039】
バリ72は、封止部材30の平面方向の幅が小さいと形成されやすい。犠牲層60によりバリ72が形成されにくくなるため、封止部材30の平面方向の幅を小さくし、電子デバイスの小型化を図ることもできる。金属リッド32が膜厚が20μmの圧延後熱処理したコバール板であり、かつ犠牲層を用いない場合、例えば電子デバイスのサイズが14mm×10mmである。このとき、
図6(a)の基板10の大きさが50mm×50mmのとき、1枚の基板10から792個の電子デバイスを取得できる。金属リッド32が膜厚が10μmの圧延後熱処理していないコバール板であり、かつ犠牲層を用いる場合、例えば電子デバイスのサイズが3mm×9mmである。このとき、同じ1枚の基板10から936個の電子デバイスを取得できる。このように、実施例1により電子デバイスの取得数を増加できる。
【0040】
実施例1によれば、
図4(a)のように、下面に機能部18が設けられたデバイスチップ12を、基板10の上面上に機能部18が空隙20を介して対向するように、基板10の上面上に実装する。
図4(b)および
図4(c)のように、デバイスチップ12を囲み空隙20を封止するように、基板10の上面上に封止部材30を形成し、デバイスチップ12の上面および封止部材30の上面上にリッド32を配置する。
図4(d)のように、リッド32上に犠牲層60を形成する。
図5(b)のように、ダイシング法を用い犠牲層60およびリッド32を切断する。
図5(c)のように、その後、犠牲層60を除去する。
【0041】
これにより、硬い金属リッド32を用いても
図6(c)のように、基板10の反りを抑制できる。よって、圧延後に熱処理していない金属リッド32を用いることができる。熱処理が不要なため、コストを削減することができる。また、硬いリッド32を用いるため、リッド32を薄くしても強度が確保される。よって、電子デバイスの小型化が可能となる。
【0042】
圧延後に熱処理していない金属リッド32の断面は
図2(a)のように、結晶粒82が潰れている。結晶粒82の潰れは、光学顕微鏡または電子顕微鏡で観察することができる。潰れた結晶粒82は平面方向または斜め方向に長い構造として観察できる。潰れた結晶粒82では、複数の構造体(例えば結晶粒82)のうち半数以上の構造体で構造体の形状が一方向(例えば平面方向)に伸びた構造となっている。8割以上の構造体で形状が一方向に伸びた構造となっている。一方向に伸びた構造では、構造体の一方向の幅が一方向に直交する方向の幅より大きい。例えば、構造体の一方向の幅は一方向に直交する方向の幅の2倍以上であり、または5倍以上である。一方向に伸びた構造は、一方向の幅が1μm以上であり、一方向に直交する方向の幅が1μm未満、好ましくは500nm以下である。
【0043】
また、リッド32として、圧延後熱処理した金属リッド、圧延していない金属リッド、または絶縁リッドを用いてもよい。このような場合においても、
図7(d)のように、バリ72の発生を抑制できる。リッド32のとしては、例えばNi−Fe合金でもよい。また、リッド32は特許文献1のようにめっきされた金属層でもよい。リッド32がこれらの場合もバリ72の発生を抑制できる。
【0044】
さらに、
図5(b)のように、金属リッド32と封止部材30を同時にダイシング法を用い切断すると、金属リッド32の側面と封止部材30の側面とは連続した面となる。例えば、金属リッド32の側面と封止部材30の側面とは共通の平面となる。金属リッド32と封止部材30と基板10とを同時にダイシング法を用い切断すると、封止部材30の側面と基板10の側面とは連続した面となる。例えば、封止部材30の側面と基板10の側面とは共通の平面となる。なお、金属リッド32と封止部材30の一部とを同時に切断し、封止部材30の残部と基板10とはその後に切断してもよい。
【0045】
さらに、
図4(b)のように、デバイスチップ12上に板状部材31およびリッド32を配置する。
図4(c)のように、板状部材31を加熱しかつリッド32を基板10に押圧することで、封止部材30を形成する。このような工程で封止部材30を形成すると、基板10とリッド32との線熱膨張係数の差により、
図6(b)のように基板10が反る。よって、犠牲層60を形成することで、反りを抑制できる。このように電子デバイスを製造すると、金属リッド32は平板状となる。
【0046】
犠牲層60は、基板10の反りを抑制するような応力を有することが好ましい。例えば金属はセラミックスより線熱膨張係数が大きい。これにより、基板10は下に湾曲するように反る。よって、犠牲層は圧縮応力を有することが好ましい。
【0047】
図1(a)から
図1(c)において説明した圧延とその後の熱処理による金属材の性質および結晶粒の振る舞いは、金属材料全般に共通である。コバール材は安価でありリッド等によく使用される材料であるが、再結晶のための熱処理温度が800℃から900℃と高い。例えば、温度サイクル試験の温度である40℃から125℃、または半田リフローの温度である280℃より十分に高い。このため、金属リッド32としてコバール板を用いた場合、圧延後熱処理しないことで薄膜化した金属リッド32のコストを削減することが可能となる。なお、圧延後再結晶のための熱処理を行なっているコバール板のピッカース硬度はHV160から220である、一方、圧延後熱処理していないコバール板では硬度はHV230から350である。
【0048】
デバイスチップ12は弾性波デバイスチップ以外の電子デバイスチップでもよい。デバイスチップ12が弾性波デバイスチップのとき、機能部18は弾性波を励振する。よって、機能部18が空隙20に露出していることが好ましく、実施例1のような構造を採用することが好ましい。
【0049】
図8は、実施例1の変形例1に係る電子デバイスの断面図である。
図8に示すように、基板10上に複数のデバイスチップ12が実装されている。封止部材30は複数のデバイスチップ12を囲むように封止部材30が設けられている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例1のように、デバイスチップ12は複数設けられていてもよい。
【0050】
図9は、実施例1の変形例2に係る電子デバイスの断面図である。
図9に示すように、基板10は、支持基板10aと圧電基板10bとを有する。圧電基板10bは支持基板10aの上面に接合されている。圧電基板10bの上面には、機能部13としてIDTが設けられている。配線22は、基板10を貫通するビア配線である。支持基板10aは例えばサファイア基板、スピネル基板、アルミナ基板またはシリコン基板である。圧電基板10bは例えばタンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板である。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0051】
実施例1の変形例2のように、基板10の上面に機能部13が設けられ、機能部13と18とが空隙20を介し対向していてもよい。機能部13としては、機能部18と同様に弾性波を励振する電極とすることができる。基板10は支持基板10aを含まなくてもよい。機能部13は圧電薄膜共振器もよく、その他の電子素子でもよい。
【0052】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。