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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-204744(P2017-204744A)
(43)【公開日】2017年11月16日
(54)【発明の名称】フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/64 20060101AFI20171020BHJP
   H03H 9/72 20060101ALI20171020BHJP
   H03H 9/17 20060101ALI20171020BHJP
   H03H 9/54 20060101ALI20171020BHJP
   H03H 9/70 20060101ALI20171020BHJP
【FI】
   H03H9/64 Z
   H03H9/72
   H03H9/17 F
   H03H9/54 Z
   H03H9/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-95546(P2016-95546)
(22)【出願日】2016年5月11日
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 良夫
【テーマコード(参考)】
5J097
5J108
【Fターム(参考)】
5J097AA11
5J097AA26
5J097BB15
5J097CC02
5J097CC15
5J097FF01
5J097GG03
5J097GG04
5J097KK01
5J097KK04
5J097KK09
5J097LL01
5J108AA07
5J108JJ02
5J108JJ04
5J108KK02
(57)【要約】
【課題】耐電力性および/または線形性を向上させること。
【解決手段】入力端子Tinと、出力端子Toutと、前記入力端子と前記出力端子との間に直列に接続された1または複数の直列弾性波共振器S1−S4と、前記入力端子と前記出力端子との間に並列に接続された1または複数の並列弾性波共振器P1−P4と、を備え、通過帯域における前記入力端子と前記出力端子との間の経路の少なくとも一部の特性インピーダンスが前記通過帯域における前記入力端子の入力インピーダンスおよび前記出力端子の出力インピーダンスの少なくとも一方より高いラダー回路30と、を具備するフィルタ。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子と、
出力端子と、
前記入力端子と前記出力端子との間に直列に接続された1または複数の直列弾性波共振器と、前記入力端子と前記出力端子との間に並列に接続された1または複数の並列弾性波共振器と、を備え、通過帯域における前記入力端子と前記出力端子との間の経路の少なくとも一部の特性インピーダンスが前記通過帯域における前記入力端子の入力インピーダンスおよび前記出力端子の出力インピーダンスの少なくとも一方より高いラダー回路と、
を具備するフィルタ。
【請求項2】
前記少なくとも一部の特性インピーダンスは前記入力インピーダンスおよび前記出力インピーダンスの少なくとも一方の2倍以上である請求項1記載のフィルタ。
【請求項3】
前記入力インピーダンスおよび前記出力インピーダンスの少なくとも一方は実質的に50Ωであり、前記少なくとも一部の特性インピーダンスは100Ω以上である請求項1記載のフィルタ。
【請求項4】
前記ラダー回路内の前記経路のいずれの箇所においても前記通過帯域における特性インピーダンスは前記入力インピーダンスおよび前記出力インピーダンスの少なくとも一方より高い請求項1から3のいずれか一項記載のフィルタ。
【請求項5】
前記少なくとも一部の特性インピーダンスは、前記入力インピーダンスおよび前記出力インピーダンスより高い請求項1から4のいずれか一項記載のフィルタ。
【請求項6】
前記ラダー回路内の前記経路のいずれの箇所においても前記通過帯域における特性インピーダンスは前記入力インピーダンスおよび前記出力インピーダンスの2倍以上である請求項1から3のいずれか一項記載のフィルタ。
【請求項7】
前記入力インピーダンスを前記少なくとも一部の特性インピーダンスに変換する入力インピーダンス変換部と、
前記少なくとも一部の特性インピーダンスを前記出力インピーダンスに変換する出力インピーダンス変換部と、
を具備する請求項5または6記載のフィルタ。
【請求項8】
前記1または複数の直列弾性波共振器および前記1または複数の並列弾性波共振器が形成された基板を具備し、
前記出力インピーダンス変換部および前記入力インピーダンス変換部の少なくとも一方は、前記基板に形成された弾性波共振器であるキャパシタを備える請求項7記載のフィルタ。
【請求項9】
前記入力インピーダンスおよび前記出力インピーダンスは実質的に50Ωであり、
1つの直列腕に1つの直列腕共振器が接続されるように前記1または複数の直列弾性波共振器を合成し、1つの並列腕に1つの並列腕共振器が接続されるように前記1または複数の並列弾性波共振器を合成し、
全ての隣接する前記直列腕共振器と前記並列腕共振器との静電容量の積の平均を(Cos×Cop)ave[pF]、前記フィルタの通過帯域の中心周波数をfo[GHz]としたとき、(Cos×Cop)ave≦2.7863/foである請求項1から8のいずれか一項記載のフィルタ。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【請求項11】
共通端子と送信端子との間に接続された送信フィルタと、
前記共通端子と受信端子との間に接続された受信フィルタと、
を具備し、
前記フィルタは送信フィルタである請求項10記載のマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタおよびマルチプレクサに関し、例えばラダー回路を有するフィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やスマートフォン等の無線端末には無線周波数を分離する高周波フィルタおよびこれを用いたデュプレクサ等のマルチプレクサが使われている。これらのフィルタおよびマルチプレクサには、表面弾性波(SAW:Surface Acoustic Wave)フィルタやバルク弾性波(BAW:Bulk Acoustic Wave)フィルタが使用されている。これらのフィルタとして、1ポート共振器をラダー型に接続したラダー型フィルタが知られている。ラダー型フィルタにおいては、入力端子と出力端子との間に直列共振器が直列に接続され、並列共振器が並列に接続されている。
【0003】
ラダー型フィルタの阻止域における減衰特性を改善するため、入力端子、出力端子、直列共振器および並列共振器のインピーダンスの所定の関係とすることが知られている(例えば特許文献1)。特許文献1では、特性インピーダンスとの用語が用いられているが、本来の特性インピーダンスの意味で用いられていない。入出力インピーダンスを高くするため、直列共振器および並列共振器のインピーダンスを高くすることが知られている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−158970号公報
【特許文献2】特開2001−24471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ラダー型フィルタにおいては、挿入損失を劣化させることなく、耐電力性および/または線形性を向上することが求められている。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、耐電力性および/または線形性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、入力端子と、出力端子と、前記入力端子と前記出力端子との間に直列に接続された1または複数の直列弾性波共振器と、前記入力端子と前記出力端子との間に並列に接続された1または複数の並列弾性波共振器と、を備え、通過帯域における前記入力端子と前記出力端子との間の経路の少なくとも一部の特性インピーダンスが前記通過帯域における前記入力端子の入力インピーダンスおよび前記出力端子の出力インピーダンスの少なくとも一方より高いラダー回路と、を具備するフィルタである。
【0008】
上記構成において、前記少なくとも一部の特性インピーダンスは前記入力インピーダンスおよび前記出力インピーダンスの少なくとも一方の2倍以上である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記入力インピーダンスおよび前記出力インピーダンスの少なくとも一方は実質的に50Ωであり、前記少なくとも一部の特性インピーダンスは100Ω以上である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記ラダー回路内の前記経路のいずれの箇所においても前記通過帯域における特性インピーダンスは前記入力インピーダンスおよび前記出力インピーダンスの少なくとも一方より高い構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記少なくとも一部の特性インピーダンスは、前記入力インピーダンスおよび前記出力インピーダンスより高い構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記ラダー回路内の前記経路のいずれの箇所においても前記通過帯域における特性インピーダンスは前記入力インピーダンスおよび前記出力インピーダンスの2倍以上である構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記ラダー回路内の前記1または複数の直列弾性波共振器のいずれの箇所においても前記通過帯域における特性インピーダンスは前記入力インピーダンスおよび前記出力インピーダンスの2倍以上である構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記入力インピーダンスを前記少なくとも一部の特性インピーダンスに変換する入力インピーダンス変換部と、前記少なくとも一部の特性インピーダンスを前記出力インピーダンスに変換する出力インピーダンス変換部と、を具備する構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記1または複数の直列弾性波共振器および前記1または複数の並列弾性波共振器が形成された基板を具備し、前記出力インピーダンス変換部および前記入力インピーダンス変換部の少なくとも一方は、前記基板に形成された弾性波共振器であるキャパシタを備える構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記入力インピーダンスおよび前記出力インピーダンスは実質的に50Ωであり、1つの直列腕に1つの直列腕共振器が接続されるように前記1または複数の直列弾性波共振器を合成し、1つの並列腕に1つの並列腕共振器が接続されるように前記1または複数の並列弾性波共振器を合成し、全ての隣接する前記直列腕共振器と前記並列腕共振器の静電容量の積の平均を(Cos×Cop)ave[pF]、前記フィルタの通過帯域の中心周波数をfo[GHz]としたとき、(Cos×Cop)ave≦2.7863/foである構成とすることができる。
【0017】
本発明は、上記フィルタを含むマルチプレクサである。
【0018】
上記構成において、共通端子と送信端子との間に接続された送信フィルタと、前記共通端子と受信端子との間に接続された受信フィルタと、を具備し、前記フィルタは送信フィルタである構成とすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐電力性および/または線形性を向上させることを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1(a)は、弾性表面波共振器の平面図、図1(b)は、図1(a)のA−A断面図である。
図2図2(a)は、バルク波共振器の断面図、図2(b)は、図2(a)のA−A断面図である。
図3図3は、1ポート共振器の等価回路を示す図である。
図4図4(a)は、ラダー型フィルタの回路図、図4(b)は、ラダー型フィルタの通過特性を示す図である。
図5図5は、ラダー型フィルタ内の特性インピーダンスを説明する図である。
図6図6は、実施例1に係るフィルタを示す回路図である。
図7図7(a)および図7(b)は、比較例1に係るフィルタの通過特性およびVSWRを示す図である。
図8図8(a)および図8(b)は、比較例2に係るフィルタの通過特性およびVSWRを示す図である。
図9図9(a)および図9(b)は、実施例1に係るフィルタの通過特性およびVSWRを示す図である。
図10図10(a)および図10(b)は、それぞれ実施例1および比較例2における周波数に対する電流値Iを示す図である。
図11図11は、比較例2と実施例1のシミュレーション結果を示す図である。
図12図12は、実施例1における各共振器の静電容量を示す図である。
図13図13(a)および図13(b)は、それぞれ特性インピーダンスZoが50Ωおよび100Ωのときの各共振器の静電容量および静電容量積を示す図である。
図14図14(a)および図14(b)は、それぞれ特性インピーダンスZoが150Ωおよび200Ωのときの各共振器の静電容量および静電容量積を示す図である。
図15図15(a)、図15(b)および図15(c)は、それぞれ1つの腕共振器、1つの共振器が直列分割された回路図、および1つの共振器が並列分割された回路図である。
図16図16は、実施例2に係るフィルタの回路図である。
図17図17は、IPD技術を用いたインダクタの斜視図である。
図18図18(a)は、実施例3に係るデュプレクサのブロック図、図18(b)は、通過特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、実施例に用いられる1ポート共振器について説明する。図1(a)は、弾性表面波共振器の平面図、図1(b)は、図1(a)のA−A断面図である。図1(a)および図1(b)に示すように、圧電基板10上にIDT16および反射器15が形成されている。IDT16および反射器15は、圧電基板10上に形成された金属膜11により形成される。IDT16は、対向する一対の櫛型電極14を備える。櫛型電極14は、複数の電極指12と、複数の電極指12が接続されたバスバー13を備える。一対の櫛型電極14は、電極指12がほぼ互い違いとなるように、対向して設けられている。
【0022】
電極指12が励振する弾性波は、主に電極指12の配列方向に伝搬する。伝搬した弾性波は反射器15で反射される。電極指12の周期がほぼ弾性波の波長λとなる。IDT16下の弾性表面波の音速をVsとすると、共振周波数fr=Vs/λとなる。弾性波の伝搬方向をX方向、伝搬方向に直交する方向(すなわち電極指12の延伸方向)をY方向とする。X方向およびY方向は、圧電基板10の結晶方位のX軸方向およびY軸方向とは必ずしも対応しない。Y方向において、1対の櫛型電極14の電極指12が重なる長さが開口幅Wである。
【0023】
圧電基板10は、例えばタンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板である。圧電基板10として回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板を用いる場合、X方向は結晶方位のX軸方向となる。圧電基板10は、サファイア基板、スピネル基板、アルミナ基板等の絶縁基板またはシリコン基板等の半導体基板上に接合されていてもよい。金属膜11は、例えばアルミニウム膜または銅膜である。IDT16および反射器15を覆う保護膜または温度補償膜が設けられていてもよい。
【0024】
図2(a)は、バルク波共振器の断面図、図2(b)は、図2(a)のA−A断面図である。図2(a)および図2(b)に示すように、基板20上に、下部電極21が設けられている。基板20の平坦主面と下部電極21との間にドーム状の膨らみを有する空隙26が形成されている。下部電極21上に、圧電膜22が設けられている。圧電膜22を挟み下部電極21と対向する領域(共振領域28)を有するように圧電膜22上に上部電極23が設けられている。共振領域28内の積層膜24は、下部電極21、圧電膜22および上部電極23を含む。共振領域28は、楕円形状を有し、厚み縦振動モードの弾性波が共振する領域である。平面視において共振領域28は空隙26に含まれる。弾性波は空隙26と上部電極23上の空間で反射する。バルク波の音速をVb、積層膜24の総膜厚をhrとすると、反共振周波数fa=Vb/2hrとなる。
【0025】
基板20として、例えばシリコン基板を用いる。基板20は、例えばGaAs等の半導体基板、サファイア基板、スピネル基板、アルミナ基板、ガラス基板またはセラミック基板等の絶縁基板でもよい。下部電極21および上部電極23として、例えば圧電膜22側がRu(ルテニウム)膜および外側がCr(クロム)膜の複合膜を用いる。下部電極21および上部電極23として、Ru膜およびCr膜以外にもAl(アルミニウム)、Ti(チタン)、Cu(銅)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)またはIr(イリジウム)等の単層膜またはこれらの複合膜を用いることができる。
【0026】
圧電膜22として、例えば(002)方向を主軸とする窒化アルミニウム(AlN)膜を用いる。圧電膜22として、窒化アルミニウム以外にZnO(酸化亜鉛)、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、PbTiO3(チタン酸鉛)等を用いることができる。また、例えば、圧電膜22は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のため他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素として、Sc(スカンジウム)、2族元素と4族元素との2つの元素、または2族元素と5族元素との2つの元素を用いることにより、圧電膜36の圧電性が向上する。このため、圧電薄膜共振器の実効的電気機械結合係数を向上できる。2族元素は、例えばCa(カルシウム)、Mg(マグネシウム)、Sr(ストロンチウム)またはZn(亜鉛)である。4族元素は、例えばTi、Zr(ジルコニウム)またはHf(ハフニウム)である。5族元素は、例えばTa、Nb(ニオブ)またはV(バナジウム)である。さらに、圧電膜36は、窒化アルミニウムを主成分とし、B(ボロン)を含んでもよい。
【0027】
共振領域28内の積層膜24は、周波数を調整するための負荷膜、Q値を向上させるための挿入膜、および/または周波数の温度依存性を抑制するための温度補償膜を含んでもよい。
【0028】
バルク波共振器は、空隙26を用いるいわゆるFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよいし、空隙26の代わりに音響反射膜を用いるいわゆるSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。共振領域28の平面形状は多角形でもよい。
【0029】
弾性表面波またはバルク波を用いた1ポート共振器にはmBVD(modified Butterworth-Van-Dyke)モデルを用いた等価回路が用いられる。図3は、1ポート共振器の等価回路を示す図である。図3に示すように、端子T01とT02との間に、インダクタL1、キャパシタC1および抵抗R1が直列に接続されたパスと、キャパシタCoと抵抗Roが直列に接続されたパスとが並列に接続されている。2つのパスと直列に抵抗Rsが接続されている。キャパシタCoは、1ポート共振器の静電容量Coである。抵抗Roは漏洩抵抗である。インダクタL1およびキャパシタC1は機械共振を示す。抵抗R1は機械的な共振抵抗である。抵抗Rsは、電極の抵抗である。
【0030】
弾性表面波共振器の静電容量Coは、以下の式で算出できる。
Co=2×N×W×F(η)×C0 (式1)
ここで、NはIDT16の対数、Wは開口幅、F(η)は、メタライゼーションレシオηの関数、C0は1本の電極指12の単位長さあたりの静電容量である。ηは電極指12のX方向の幅をWeとすると、η=2×We/λである。
バルク波共振器の静電容量Coは、以下の式で算出できる。
Co=εS/d (式2)
εは圧電膜22の誘電率(比誘電率εr×真空の誘電率ε0)、Sは共振領域28の面積、dは圧電膜22の膜厚である。
【0031】
図4(a)は、ラダー型フィルタの回路図、図4(b)は、ラダー型フィルタの通過特性を示す図である。図4(a)に示すように、ラダー回路30は、直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP4を有している。直列共振器S1からS4は、端子T1とT2との間に直列に接続されている。並列共振器P1からP4は、端子T1とT2との間に並列に接続されている。ノードN1からN4は、端子T1からT2に至る経路に並列共振器P1からP4が接続するノードである。端子T1とノードN1との間、および隣接するノードN1からN4間が各々直列腕32である。ノードN1からグランド間、およびノードN4からグランド間が各々並列腕34である。図4の例では、直列腕32および並列腕34に各々1つの1ポート共振器が接続されている。隣接する直列腕32と並列腕34が基本区間31である。図4の例では、基本区間31が4段のラダー型フィルタである。直列共振器および並列共振器は、各々1または複数設けられていればよく、各々の個数は所望のフィルタ特性に応じ適宜設定できる。
【0032】
図4(b)に示すように、ラダー型フィルタは、例えば直列共振器S1からS4と並列共振器P1からP4との共振周波数をわずかに異ならせることで、バンドパスフィルタとして機能する(例えば特開平5−183380号公報)。通過帯域の中心周波数foであり、通過帯域の減衰量が挿入損失ILに対応し、阻止域の減衰量が帯域外抑圧ATTに対応する。デュプレクサに用いられるフィルタでは、阻止域が相手方フィルタの通過帯域に設定される。挿入損失ILは小さく(理想的には0)、帯域外抑圧ATTは大きい(理想的には無限大)ことが好ましい。
【0033】
図5は、ラダー型フィルタ内の特性インピーダンスを説明する図である。図5に示すように、並列共振器P1からP4とグランドとの間にインダクタL1からL4が接続されている。インダクタL1からL4は接続されていなくてもよい。インダクタL1からL4は、意図的に接続しなくとも寄生インダクタとして接続される場合もある。その他の接続関係は図4(a)と同じであり説明を省略する。
【0034】
ノードN2におけるグランドに対する電圧をV、ノードN2を端子T1からT2に流れる電流をIとすると、ノードN2における特性インピーダンスZoは、
Zo=V/I (式3)
となる。ノードN2を通過する電力Pは、
P=V×I=I×Zo (式4)
となる。
【0035】
特性インピーダンスは、端子T1とT2との間の直列経路において定義できる。例えばノードN1、N3およびN4についても同様に特性インピーダンスを定義できる。ノードN2における特性インピーダンスは、直列共振器S2および並列共振器P2の基本区間31の特性インピーダンスに相当する。端子T1とT2との間の経路のいずれの箇所(すなわち各ノードN1からN4)においても特性インピーダンスZoがほぼ同じであるとき、ラダー型フィルタの特性インピーダンスという。特性インピーダンスZoは周波数に依存するが、特に限定しない場合、通過帯域の中心周波数foにおける特性インピーダンスZoを意味するものとする。
【0036】
ラダー回路30に所定の電力P=VIを通過させる場合、特性インピーダンスZoが高いほど電流値Iが小さくなる。すなわち、電力Pは電流値Iより電圧Vで伝送される。例えば、特性インピーダンスZoが2倍になると、ラダー回路30を流れる電流値Iは、概算で1/√2となる。ラダー回路30の耐電力性能を決める要因の一つとして電極(例えばIDT16、下部電極21または上部電極23)を流れる電流により発生するジュール熱が挙げられる。ジュール熱で電極等の温度が上昇すると、電極等のマイグレーションまたは溶断が発生する。ジュール熱は電流値の2乗に比例する。したがって、電流値Iが1/√2になれば、耐電力性能はほぼ2倍となる。また、2次高調波は電流の2乗に比例し、3次高調波は電流の3乗に比例することが知られている(例えばIEEE Trans. On Ultrasonics, Ferroelectrics, and Frequency Control, Vol.55, pp849-856 2008)。よって、電流値Iが小さくなると、線形性が改善する。
【実施例1】
【0037】
上記考察に基づいた実施例について説明する。図6は、実施例1に係るフィルタを示す回路図である。フィルタ100において、入力インピーダンス変換部40、ラダー回路30および出力インピーダンス変換部42が直列に接続されている。入力端子Tinの入力インピーダンスはZinであり、出力端子Toutの出力インピーダンスはZoutである。入力インピーダンスZinおよび出力インピーダンスZoutは周波数に依存するが、特に限定しない場合、通過帯域の中心周波数foにおける入力インピーダンスZinおよび出力インピーダンスZoutを意味するものとする。ラダー回路30の特性インピーダンスはZoである。すなわち、ノードN1からN4における特性インピーダンスはZoである。
【0038】
入力インピーダンス変換部40は、入力インピーダンスZinを特性インピーダンスZoに変換する。入力インピーダンス変換部40は、入力端子Tinと端子T1との間に直列に接続されたインダクタLinと、端子T1とグランドとの間に接続されたキャパシタC1と、を備える。出力インピーダンス変換部42は特性インピーダンスZoを出力インピーダンスZoutに変換する。出力インピーダンス変換部42は、端子T2と出力端子Toutとの間に直列に接続されたインダクタLoutと、端子T2とグランドとの間に接続されたキャパシタC2と、を備える。
【0039】
キャパシタC1およびC2は、例えば弾性波共振器である。キャパシタC1およびC2に用いる弾性波共振器の共振周波数frはラダー回路30の通過帯域から異ならせる。これにより、弾性波共振器をキャパシタとして用いることができる。例えばラダー回路30の通過帯域の中心周波数foのとき、共振周波数frをfo/2以下または2×fo以上とする。
【0040】
キャパシタC1およびC2に用いる弾性波共振器は、直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP4が設けられた基板44と同じ基板上に設けられている。弾性表面波フィルタの場合、基板44は図1(a)および図1(b)の圧電基板10である。バルク波フィルタの場合、基板44は図2(a)および図2(b)の基板20である。キャパシタC1およびC2の静電容量は式1または式2を用い設定できる。
【0041】
目標のフィルタ特性を設定すると、mBVDモデルを用い自動的に各共振器の設計値(図3の等価回路の各値)を最適化する自動最適化ソフトを用い、フィルタの各共振器を最適設計した。ラダー回路30の通過帯域の中心周波数を2000MHz、通過帯域を1970MHzから2030MHzの60MHz、阻止域を2050MHzから2110MHzとした。最適化のための目標となる挿入損失ILを−1.0dB、阻止域の帯域外抑圧ATTを−58dBとした。比較例では、入力インピーダンス変換部40および出力インピーダンス変換部42を設けないラダー回路30について最適設計した。
【0042】
比較例1として、端子T1の入力インピーダンスZin、端子T2の出力インピーダンスZoutおよび特性インピーダンスZoを全て150Ωとし、最適設計した。また、比較例2として、Zin、ZoutおよびZoを全て50Ωとして最適設計した。比較例1および比較例2のフィルタの通過特性(S21)およびVSWR(Voltage Standing Wave Ratio)をシミュレーションした。
【0043】
図7(a)および図7(b)は、比較例1に係るフィルタの通過特性およびVSWRを示す図である。図7(a)に示すように、通過帯域の低周波数端、中心周波数および高周波数端における挿入損失はそれぞれ−1.573dB、−1.103dBおよび−1.66dBである。阻止域において最も悪い帯域外抑圧は2110MHzにおいて−51.64dBである。図7(b)に示すように、通過帯域内の入力側のVSWR(破線)の最悪値は1.7、通過帯域内の出力側のVSWR(実線)の最悪値は1.66である。
【0044】
図8(a)および図8(b)は、比較例2に係るフィルタの通過特性およびVSWRを示す図である。図8(a)に示すように、通過帯域の低周波数端、中心周波数および高周波数端における挿入損失はそれぞれ−2.017dB、−1.364dBおよび−2.211dBである。阻止域において最も悪い帯域外抑圧は2110MHzにおいて−53.26dBである。図8(b)に示すように、通過帯域内の入力側のVSWR(破線)の最悪値は1.78、通過帯域内の出力側のVSWR(実線)の最悪値は1.74である。
【0045】
比較例1では、特性インピーダンスZoを高くすることで、比較例2に比べ挿入損失が改善している。通過帯域の低周波数端と高周波数端との平均で比較すると、比較例1は比較例2に比べ0.5dB改善している。これは、比較例1では、特性インピーダンスZoを高くすることで、電流値Iが減少し、抵抗に起因した挿入損失が減少したためである。
【0046】
次に、実施例1として、入力インピーダンスZinおよび出力インピーダンスZoutを50Ω、ラダー回路30の特性インピーダンスZoを150Ωとし、最適設計した。入力インピーダンス変換部40のインダクタLinのインダクタンスを5nH、Q値を50とした。出力インピーダンス変換部42のインダクタLoutのインダクタンスを6nH、Q値を50とした。キャパシタC1およびC2のキャパシタンスを0.7pFとした。キャパシタC1およびC2は、ラダー回路30内の直列共振器および並列共振器と同様の弾性波共振器であり、Q値を直列共振器および並列共振器と同程度、共振周波数を通過帯域の1/2(1000MHz)とした。
【0047】
図9(a)および図9(b)は、実施例1に係るフィルタの通過特性およびVSWRを示す図である。図9(a)に示すように、通過帯域の低周波数端、中心周波数および高周波数端における挿入損失はそれぞれ−1.955dB、−1.493dBおよび−2.235dBである。阻止域において最も悪い帯域外抑圧は2110MHzにおいて−52.71dBである。図9(b)に示すように、通過帯域内の入力側のVSWR(破線)の最悪値は1.519、通過帯域内の出力側のVSWR(実線)の最悪値は1.592である。
【0048】
実施例1では、比較例2と比較し、通過帯域の低周波数端と高周波数端との挿入損失の平均は0.02dBしか改善していない。これは、比較例1に入力インピーダンス変換部40および出力インピーダンス変換部42の挿入損失が加わったためである。帯域外抑圧は比較例2とほとんど変わらず、VSWRは比較例2に比較し若干改善した。このように、挿入損失、帯域外抑圧およびVSWRの観点からは、実施例1のメリットはあまりない。
【0049】
実施例1と比較例2において、入力端子Tinに26dBmの信号を入力したときの直列共振器S3を流れる電流の最大振幅値(波高値)を電流値Iとしてシミュレーションした。
【0050】
図10(a)および図10(b)は、それぞれ実施例1および比較例2における周波数に対する電流値Iを示す図である。図10(a)に示すように、実施例1では、通過帯域の低周波数端および高周波数端における電流値Iはそれぞれ0.1054Aおよび0.04994Aである。図10(b)に示すように、比較例2では、通過帯域の低周波数端および高周波数端における電流値Iはそれぞれ0.14154Aおよび0.07892Aである。実施例1を比較例2と比較すると、低周波数端では、電流値Iが約74%となっている。電力に比例するIでは約55%となっている。高周波数端では、電流値Iが約63%、Iが約40%となっている。送信フィルタにおいて耐電力が最も弱いのは弾性表面波フィルタおよびバルク波フィルタとも高周波数端であることが知られている(例えば1998 IEEE Ultrasonics Symposium Proceedings, pp17-29, 1998)。実施例1を送信フィルタに適用すると、耐電力性能が比較例2に対し1/0.4=2.5倍改善する。
【0051】
同様にシミュレーションをラダー回路30の特性インピーダンスを変えて行なった。図11は、比較例2と実施例1のシミュレーション結果を示す図である。比較例2は入力インピーダンス変換部40および出力インピーダンス変換部42を備えていない。実施例1の入力インピーダンスZinおよび出力インピーダンスZoutは50Ωである。入力インピーダンス変換部40は、入力インピーダンスZinである50Ωを特性インピーダンスZoに変換し、出力インピーダンス変換部42は、特性インピーダンスZoを出力インピーダンスZoutである50Ωに変換する。目標Zo´は、通過帯域の中心周波数foにおける目標とする特性インピーダンスZoである。最適設計したフィルタについて通過特性等をシミュレーションした。
【0052】
実施例1の挿入損失ILはいずれの目標Zo´でも比較例2とあまり変わらない。これは、Q値が50のインダクタLinおよびLoutを用いるため、入力インピーダンス変換部40および出力インピーダンス変換部42により挿入損失が劣化したためである。実施例1の阻止域における帯域外抑圧ATTはいずれの目標Zo´においても比較例2と同程度である。実施例1の電流値Iは目標Zo´が大きくなると小さくなる。比較例2で規格化したIは目標Zo´が大きくなると小さくなる。目標Zo´を100Ω以上とすると、Iは比較例2の半分以下となる。これにより、耐電力性能は比較例2の2倍以上となる。最適化した特性インピーダンスZoは、通過帯域の低周波数端(1970MHz)、中心周波数(2000MHz)および高周波数端(2030MHz)において、目標Zo´にほぼ比例して大きくなっている。目標Zo´が200Ωにおける中心周波数の特性インピーダンスZoはこの関係から若干ずれているが、これは最適化の問題と考えられる。目標Zo´が200Ωの場合も最適化した特性インピーダンスZoの通過帯域全体の平均としてはほぼ目標Zo´に比例した関係となっているため、大きな問題ではないと考えられる。
【0053】
実施例1において、ラダー回路30の特性インピーダンスを設定する方法について説明する。直列共振器と並列共振器が1ずつの基本区間において、直列共振器の静電容量Cos、並列共振器の静電容量Copとする。このとき、特性インピーダンスZoと、通過帯域の中心周波数foとは以下の関係となることが知られている(例えば特開平6−69750号公報)。
Zo=1/((2πfo)(Cos×Cop)) (式5)
例えばZoを3倍にするためには、CosおよびCopを各々約1/3とする。
【0054】
基本区間31が複数の場合は複雑になる。そこで、各基本区間31のCopおよびCosを用い特性インピーダンスZoを簡単に表す方法を検討した。図12は、実施例1における各共振器の静電容量を示す図である。図12に示すように、1つの直列腕32には1つの直列腕共振器Rs1からRs4が接続され、1つの並列腕34には1つの並列腕共振器Rp1からRp4が接続されているとする。1つの直列腕32に複数の直列共振器が接続されている場合、1つの直列腕共振器が分割されていることに相当する。よって、1つの直列腕32内の複数の直列共振器を合成して1つの直列腕共振器Rs1からRs4とする。1つの並列腕34に複数の並列共振器が接続されている場合も同様に、合成して1つの並列腕共振器Rp1からRp4とする。
【0055】
直列腕共振器Rs1からRs4はそれぞれ静電容量Cos1からCos4を有している。並列腕共振器Rp1からRp4はそれぞれ静電容量Cop1からCop4を有している。隣接する直列腕共振器Rs1からRs4と並列腕共振器Rp1からRp4の静電容量の積を端子T1側から順にCos1×Cop1、Cop1×Cos2、Cos2×Cop2、Cop2×Cos3、Cos3×Cop3、Cop3×Cos4、およびCos4×Cop4とする。隣接する直列腕共振器Rs1からRs4と並列腕共振器Rp1からRp4との静電容量積の平均値(すなわち上記7つの静電容量積の総和/7)を(Cos×Cop)aveとする。
【0056】
直列腕共振器をN個、並列腕共振器をM個とする。ただしNとMとは、M=N−1、M=NまたはM+1の関係にある。ここで図12のM=Nの場合を例に説明すると、直列腕共振器Rs1、Rs2・・・Rsi・・・Rsnの静電容量Cos1、Cos2・・・Cosi・・・Cosnおよび並列腕共振器Rp1、Rp2・・・Rpi・・・Rpnの静電容量Cop1、Cop2・・・Copi・・・Copnとする。このとき、静電容量積は、(Cosi×Copi+Copi×Cos(i+1))をi=1からN−1まで合計し、さらにCosn×Copnを加えた値となる。静電容量積の平均(Cos×Cop)aveは静電容量積を2N−1で除した値となる。M=N−1またはM=N+1の場合も同様に計算する。
【0057】
ラダー回路30の特性インピーダンスZoが全てのノードN1からN4で目標の特性インピーダンスとなるように、最適設計した。図13(a)から図14(b)は、それぞれ特性インピーダンスZoが50Ω、100Ω、150Ωおよび200Ωのときの各共振器の静電容量および静電容量積を示す図である。図13(a)に示すように、特性インピーダンスZoが50Ωのとき、中心周波数を2000MHzとしたとき、式5から求められるCos×Copは2.533pFである。(Cos×Cop)aveは、2.3213pFである。(Cos×Cop)ave/(Cos×Cop)は0.91である。
【0058】
図13(b)に示すように、特性インピーダンスZoが100Ωのとき、Cos×Cop=0.6333pF、(Cos×Cop)ave=0.5975pFである。(Cos×Cop)ave/(Cos×Cop)は0.94である。図14(a)に示すように、特性インピーダンスZoが150Ωのとき、Cos×Cop=0.2814F、(Cos×Cop)ave=0.2975pFである。Cos×Cop)ave/(Cos×Cop)は1.06である。図14(b)に示すように、特性インピーダンスZoが200Ωのとき、Cos×Cop=0.1583F、(Cos×Cop)ave=0.1595pFである。(Cos×Cop)ave/(Cos×Cop)は1.01である。
【0059】
このように、(Cos×Cop)aveは式5で算出したCos×Copの±10%の範囲内である。したがって、特性インピーダンスZoとして100Ω以上を実現するための(Cos×Cop)aveは、式5のCos×Copを(Cos×Cop)aveに代え、以下となる。
Zo=1/((2πfo)(Cos×Cop)ave)≧100 (式6)
静電容量の単位をpF、中心周波数foの単位をGHzとし、(Cos×Cop)aveに1±0.1の誤差があるとすると、以下となる。
(Cos×Cop)ave)≦2.533(1±0.1)/fo (式7)
誤差として1+0.1とすると、以下となる。
(Cos×Cop)ave)≦2.7863/fo (式8)
以上のように、特性インピーダンスZoが100Ω以上となる直列腕共振器Rs1からRs4および並列腕共振器Rp1からRp4の静電容量の関係は式8となる。
【0060】
図12では、1つの直列腕32に1つの直列腕共振器Rs1からRs4が設けられ、1つの並列腕34に1つの並列腕共振器Rp1からRp4が設けられている場合を説明した。直列腕共振器Rs1からRs4および並列腕共振器Rp1からRp4の少なくとも1つが複数に分割されている場合がある。図15(a)は、分割前の直列腕共振器または並列腕共振器を示す回路図、図15(b)は、1つの直列腕共振器または並列腕共振器が直列分割された回路図、図15(c)は、1つの直列腕共振器または並列腕共振器が並列分割された回路図である。図15(a)に示すように、端子T03とT04との間が1つの直列腕32の場合、端子T03とT04との間に1つの直列腕共振器Rs0が接続されている。端子T03とT04との間が並列腕34の場合、端子T03とT04との間に1つの並列腕共振器Rp0が接続されている。
【0061】
図15(b)に示すように、端子T03と端子T04との間において、1つの直列腕共振器Rs0または並列腕共振器Rp0が共振器Ra、Rb,RcからRnに直列に分割されている。共振器Ra、Rb,RcからRnの静電容量をそれぞれCoa、Cob、CocからConとする。このとき、直列分割された共振器Ra、Rb,RcからRnを合成した直列腕共振器Rs0または並列腕共振器Rp0の静電容量Co=1/(1/Coa+1/Cob+1/Coc+・・・+1/Con)となる。
【0062】
図15(c)に示すように、端子T03とT04との間において、直列腕共振器Rs0または並列腕共振器Rp0が共振器Ra、Rb,RcからRnに並列に分割されている。このとき、並列分割された共振器Ra、Rb,RcからRnを合成した直列腕共振器Rs0または並列腕共振器Rp0の静電容量Co=Coa+Cob+Coc+・・・+Conとなる。直列腕共振器Rs0および並列腕共振器Rp0が分割されている場合、以上のようにして直列腕共振器Rs0および並列腕共振器Rp0の静電容量を算出することができる。
【0063】
実施例1によれば、図6のように、ラダー回路30は、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に直列に接続された1または複数の直列共振器S1からS4(直列弾性波共振器)と、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に並列に接続された1または複数の並列共振器P1からP4(並列弾性波共振器)と、を備えている。図11のように、ラダー回路30の通過帯域における特性インピーダンスZoは、入力端子Tinの通過帯域における入力インピーダンスZinおよび出力端子Toutの通過帯域における出力インピーダンスZoutより高い。これにより、電流値Iを抑制できる。よって、フィルタ100の耐電力性能および/または線形性を向上できる。
【0064】
耐電力性能および/または線形性を向上させるためには、特性インピーダンスZoは、入力インピーダンスZinおよび出力インピーダンスZoutの少なくとも一方より高ければよい。
【0065】
耐電力性能および/または線形性を向上させるためには、ラダー回路30の端子T1とT2との間の経路の少なくとも一部の特性インピーダンスZoが入力インピーダンスZinおよび出力インピーダンスZoutの少なくとも一方より高ければよい。耐電力性能および/または線形性をより向上させるためには、ラダー回路30内の経路のいずれの箇所においても特性インピーダンスZoは出力インピーダンスZoutおよび入力インピーダンスZinの少なくとも一方より高いことが好ましい。
【0066】
また、図11のように、電流値Iを比較例2に対し1/2以下とするため、少なくとも一部の特性インピーダンスZoが入力インピーダンスZinおよび出力インピーダンスZoutの少なくとも一方の2倍以上であることが好ましい。また、ラダー回路30内の経路のいずれの箇所においても特性インピーダンスZoが入力インピーダンスZinおよび出力インピーダンスZoutの少なくとも一方の2倍以上であることがより好ましい。ラダー回路30内の経路のいずれの箇所においても特性インピーダンスZoが入力インピーダンスZinおよび出力インピーダンスZoutの2倍以上であることがさらに好ましい。特性インピーダンスZoは入力インピーダンスZinおよび/または出力インピーダンスZoutの2.5倍以上がより好ましく、3倍以上がさらに好ましい。
【0067】
入力インピーダンスZinおよび出力インピーダンスZoutの少なくとも一方が実質的に50Ωのとき、少なくとも一部の特性インピーダンスZoが100Ω以上であることが好ましく、ラダー回路30内のいずれの箇所においても特性インピーダンスZoが100Ω以上であることがより好ましい。特性インピーダンスZoが125Ω以上であることがより好ましく、150Ω以上であることがさらに好ましい。
【0068】
図15(a)から図15(c)において説明したように、1つの直列腕32に1つの直列腕共振器Rs0が接続されるように1または複数の直列弾性波共振器を合成し、1つの並列腕34に1つの並列腕共振器Rp0が接続されるように1または複数の並列弾性波共振器を合成する。図12のように、全ての隣接する直列腕共振器Rs1からRs4と並列腕共振器Rp1からRp4の静電容量の積の平均を(Cos×Cop)ave[pF]、フィルタ100の通過帯域の中心周波数をfo[GHz]としたとき、(Cos×Cop)ave≦2.7863/foであることが好ましい。これにより、特性インピーダンスZoを100Ω以上とすることができる。特性インピーダンスZoを125Ω以上とするためには、(Cos×Cop)ave≦1.7832/foであり、特性インピーダンスZoを150Ω以上とするためには、(Cos×Cop)ave≦1.2384/foである。
【0069】
入力インピーダンス変換部40は入力インピーダンスZinをラダー回路30の特性インピーダンスZoに変換する。これにより、入力端子Tinとラダー回路30とのインピーダンスを整合することができる。出力インピーダンス変換部42はラダー回路30の特性インピーダンスZoを出力インピーダンスZoutに変換する。これにより、ラダー回路30と出力端子Toutとのインピーダンスを整合することができる。
【実施例2】
【0070】
図16は、実施例2に係るフィルタの回路図である。図16に示すように、入力インピーダンス変換部40は、入力端子Tinと端子T1との間に直列に接続されたキャパシタC1と、端子T1とグランドとの間に接続されたインダクタLinと、を備える。出力インピーダンス変換部42は、端子T2と出力端子Toutとの間に直列に接続されたキャパシタC2と、端子T2とグランドとの間に接続されたインダクタLoutと、を備える。キャパシタC1およびC2は弾性波共振器であり、直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP4が形成された基板44上に形成されている。
【0071】
入力インピーダンス変換部40および出力インピーダンス変換部42は、実施例1のようなローパスフィルタでもよく、実施例2のようにハイパスフィルタでもよい。キャパシタC1およびC2はインダクタLinおよびLoutに比べ耐電力性が低い場合がある。このような場合、入力端子Tinと出力端子Toutとの間の直列経路にキャパシタC1およびC2を接続すると、大電流によりキャパシタC1およびC2が破壊されることがある。よって、入力インピーダンス変換部40および出力インピーダンス変換部42を、実施例1のようなローパスフィルタとし、キャパシタC1およびC2を直列経路にシャントに接続することが好ましい。
【0072】
キャパシタC1およびC2として、弾性波共振器を用いる場合について説明したが、キャパシタC1およびC2は、例えばMIM(Metal Insulator Metal)型の薄膜キャパシタでもよい。インダクタLinおよびLoutは、例えばチップインダクタでもよく、ラダー回路30を実装する実装基板内の配線を用い形成してもよい。また、インダクタLinおよびLoutは例えばIPD(Integrated Passive Device)技術を用い、弾性波共振器を形成した基板44と同じ基板に形成してもよい。
【0073】
図17は、IPD技術を用いたインダクタの斜視図である。基板50上にインダクタ58が設けられている。インダクタ58は、スパイラル状のコイル51および52を備えている。基板50上にコイル51が設けられ、コイル51上に空隙を介しコイル52が設けられている。コイル51およびコイル52はほぼ重なるように設けられている。基板50上に配線53および54が設けられている。配線53はコイル51の最外周の終端においてコイル51と接続されている。配線54はコイル52の最外周の終端において接続配線56を介しコイル52と接続されている。コイル51と52とは最内周の終点において接続配線55を介し接続されている。
【0074】
インダクタ58の外周は例えば350μm、コイル51および52は膜厚が10μmの銅配線である。コイル51と52との間の空隙の高さは約15μmである。コイル51と52との間に空隙が設けられているため、Q値を例えば50と高くできる。外部衝撃によりコイル51および52が変形することを抑制するため、コイル51および52を支柱で支えてもよい。
【0075】
弾性表面波フィルタの場合、基板50は図1(a)および図1(b)の圧電基板10に対応する。バルク波フィルタの場合、基板50は図2(a)および図2(b)の基板20に対応する。基板50は、誘電率の小さい絶縁基板が好ましく、例えばサファイア基板、スピネル基板またはアルミナ基板等を用いることが好ましい。タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板は比誘電率が40程度と大きい。そこで、基板50としてタンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板を用いる場合、コイル51と基板50との間に低誘電率の絶縁膜または空隙を設けることが好ましい。インダクタを弾性波共振器と同じ基板上に設けることで、小型化が可能となる。
【実施例3】
【0076】
実施例3は、実施例1または2のフィルタを用いたデュプレクサの例である。図18(a)は、実施例3に係るデュプレクサのブロック図、図18(b)は、通過特性を示す図である。図18(a)に示すように、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ60が接続されている。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ62が接続されている。図18(b)において、実線は送信端子Txから共通端子Antの通過特性(すなわち送信フィルタ60の通過特性)を示し、破線は共通端子Antから受信端子Rxの通過特性(すなわち受信フィルタ62の通過特性)を示す。送信フィルタ60は送信端子Txに入力した高周波信号のうち送信帯域の信号を通過させ、送信帯域外の信号を抑圧する。受信フィルタ62は共通端子Antに入力した高周波信号のうち受信帯域の信号を通過させ、受信帯域外の信号を抑圧する。送信帯域と受信帯域とは近接しているが重なっていない。
【0077】
実施例1または2のフィルタを送信フィルタ60および受信フィルタ62の少なくとも一方とすることで、耐電力性能および/または線形性を改善できる。特に、送信フィルタ60には大電力の高周波信号が入力する。よって、送信フィルタ60に実施例1および2のフィルタを用いることが好ましい。これにより、デュプレクサの耐電力性能および/または線形性を向上できる。マルチプレクサの例としてデュプレクサを説明したが、マルチプレクサは、3つのフィルタを有するトライプレクサ、4つのフィルタを有するクワッドプレクサ、6つのフィルタを有するヘキサプレクサ、または8つのフィルタを有するオクトプレクサでもよい。
【0078】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0079】
10 圧電基板
20 基板
30 ラダー回路
32 直列腕
34 並列腕
40 入力インピーダンス変換部
42 出力インピーダンス変換部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18