【実施例1】
【0021】
図1は本発明による電力変換装置の実施例を示すブロック図である。
電力変換装置1は
図1に示すように、単相の交流電源13が接続される入力端4aと入力端4bと、整流回路2と、昇圧チョッパ3と、交流電源13の電圧の位相を検出してゼロクロス点信号を出力するゼロクロス点検出部(ゼロクロス点検出手段)30と、昇圧チョッパ3の入力電流を検出するための電流センサ6と、電力変換装置1の入力電流を電流センサ6からの検出信号により検出する入力電流検出部8を備えている。
【0022】
また、電力変換装置1は、昇圧チョッパ3の入力電圧を検出するための入力電圧検出部9と、昇圧チョッパ3の出力電圧(母線電圧)を検出するための出力電圧検出部10と、昇圧チョッパ3の出力の正極である出力端4cと負極である出力端4dと、入力電流検出部8による入力電流およびゼロクロス点検出部30から出力されるゼロクロス点信号に基づいて、昇圧チョッパ3を駆動するスイッチングパルス信号を駆動部7に出力するマイクロコンピュータなどからなる制御部11と、制御部11からの駆動信号により昇圧チョッパ3を駆動する駆動部7とを備えている。
【0023】
ゼロクロス点検出部30は、交流電源13の電圧の位相を検出し、ハイレベルの期間とローレベルの期間の合計が交流電源13の電圧の1周期と同じ期間になる位相検出信号として出力する電源位相検出回路5と、入力された位相検出信号を補正してゼロクロス点信号を出力する位相補正部(位相補正手段)20で構成されている。なお、電源位相検出回路5は、背景技術で説明した回路と同じであるため詳細な説明を省略する。
【0024】
昇圧チョッパ3は、一端が整流回路2の正端子側に接続されたリアクタ(昇圧チョークコイル)3aと、リアクタ3aの他端にアノード端子が接続されたダイオード3bと、このリアクタ3aの他端と整流回路2の負端子側の間に接続されたスイッチング素子(例えばIGBT;絶縁ゲート形トランジスタ)3cと、ダイオード3bのカソード端子と整流回路2の負端子側の間に接続され、昇圧された出力電圧を平滑化する平滑コンデンサ(電解コンデンサ)12を備えている。
この昇圧チョッパ3は、スイッチング素子3cによってリアクタ3aを介して短絡電流を流すことにより昇圧と力率の改善を行なう。なお、上記したリアクタ(昇圧チョークコイル)3aの位置は、
図1の位置に限るものではなく、交流電源13と整流回路2が接続される配線に直列に接続しても良い。
【0025】
なお、制御部11は交流電圧における連続する2つのゼロクロス点で示される交流電源13の半周期毎に、同半周期の前半で複数回のスイッチング動作を行うアクティブ動作期間と、半周期の後半にスイッチング動作を行わないパッシブ動作期間を設ける部分スイッチング方式で動作する。このため、制御部11はゼロクロス点でハイレベルとローレベルが変化するゼロクロス点信号を用いて交流電源13の電圧のゼロクロス点のタイミングを判断している。そして制御部11はゼロクロス点から所定時間後にスイッチング素子3cのスイッチングを開始する。
【0026】
次に
図4を用いて電源位相検出回路5について動作説明を行なう。
なお、以降、位相検出信号の1周期において、ハイレベルの期間よりもローレベルの期間が長い場合をハイレベル短状態、ハイレベルの期間よりもローレベルの期間が短い場合をローレベル短状態とそれぞれ呼称する。
【0027】
図4は電源位相検出回路5と位相補正部20の動作を説明する説明図である。
図4の横軸は時間を示している。そして、縦軸において
図4(1)は、単相の交流電源13から出力される交流電圧を示している。
図4(2)はコンパレータ59の入力信号であり、実線はコンパレータ59の非反転入力端子(+)に入力されるAライン信号を、破線はコンパレータ59の反転入力端子(−)に入力されるBライン信号をそれぞれ示している。また、
図4(3)はコンパレータ59から出力される位相検出信号を示している。なお、t21〜t30は時間を示している。また、
図4(4)〜
図4(6)は位相補正部20に関わる信号であるため後で説明する。
【0028】
図4(2)に示すようにコンパレータ59の非反転入力端子(+)にはダイオード57で整流された脈流信号であるAライン信号(実線)が、コンパレータ59の反転入力端子(−)にはダイオード58で整流された脈流信号であるBライン信号(破線)が入力されており、コンパレータ59はBライン信号電圧よりAライン信号の電圧が大きくなった時、コンパレータ59の出力、つまり、
図4(3)に示す位相検出信号がハイレベルになり、その逆の時に位相検出信号がローレベルとなる。
【0029】
背景技術で説明したように、コンパレータ59の各入力端子に印加されるオフセット電圧がほぼ同じ場合は位相検出信号のレベル変化点がゼロクロス点を示しているが、オフセット電圧が異なってその電圧の差、つまり、オフセット電圧の誤差が大きくなると、位相検出信号のレベル変化点が交流電圧のゼロクロス点とずれてしまい、この結果、そのデューティー比も1:1から大きく外れることになり、正しいゼロクロス点を検出できなくなる。このため、本発明では位相補正部20が、この不正確な位相検出信号を補正して正確なゼロクロス点を求める構成を発明の特徴にしている。
【0030】
次に
図3のブロック図を用いて位相補正部20の構成を説明する。
位相補正部20は、位相検出信号のハイレベル期間を測定するハイレベル期間測定部21と、位相検出信号のローレベル期間を測定するローレベル期間測定部22と、ハイレベル期間とローレベル期間の時間が入力され、位相検出信号のレベル変化点と交流電圧のゼロクロス点における時間的なずれである位相誤差を算出する位相誤差算出部23と、位相検出信号を位相誤差に基づいて補正し、正確なゼロクロス点信号を出力する位相検出信号補正部24を備えている。
【0031】
ハイレベル期間測定部21とローレベル期間測定部22がそれぞれ測定した位相検出信号のハイレベル時間とローレベル時間は位相誤差算出部23へ出力される。位相誤差算出部23は、交流電圧の正方向の期間、つまり、位相検出信号がハイレベルの場合、ハイレベル時間とローレベル時間を比較し、ハイレベル時間<ローレベル時間ならばハイレベル短状態、ハイレベル時間>ローレベル時間ならローレベル短状態、ハイレベル時間とローレベル時間がほぼ同じ、例えば5マイクロセカンド以内の違いであれば電力変換装置としての機能に影響がないため、位相誤差がない状態と判断する。なお、これらの3つの状態を位相検出状態と呼称する。また、ハイレベル時間とローレベル時間は位相検出信号のレベルが反転する都度、それぞれの時間が算出され、常に最新の値が位相誤差算出部23へ出力される。
【0032】
次に位相誤差算出部23は、ハイレベル時間とローレベル時間の差の絶対値を算出し、その結果を半分にすることで位相検出誤差(時間)を算出する。そして、位相誤差算出部23は、位相検出誤差と位相検出状態のデータを位相検出信号補正部24へ出力する。
【0033】
位相検出信号補正部24は、入力された位相検出信号が示す誤ったゼロクロス点のタイミング、つまり、位相検出信号のレベル変化点と実際のゼロクロス点の位相検出誤差(時間)、及び実際のゼロクロス点に対する位相検出信号の進み/遅れである位相検出状態が入力されている。従って、位相検出信号補正部24は、位相検出誤差と位相検出状態を用いて位相検出信号から正しいゼロクロス点でレベルが変化するゼロクロス点信号を生成する。
【0034】
具体的に位相検出信号補正部24は、入力された位相検出信号の立ち下がり時点で、もし、位相検出状態のデータが位相誤差がない状態であれば、位相検出信号をそのままゼロクロス点信号として出力する。もし、位相検出状態のデータがハイレベル短状態であれば、位相検出信号補正部24は位相検出信号の立ち下がりから位相検出誤差(時間)経過後にゼロクロス点信号をローレベルにし、その時点から1/2T(交流電圧周期の半分)の時間経過後にゼロクロス点信号をローレベルからハイレベルに変化させる。
【0035】
また、位相検出信号補正部24は、もし、位相検出状態のデータがローレベル短状態であれば位相検出信号の立ち上がりから位相検出誤差(時間)経過後にゼロクロス点信号をハイレベルにし、その時点から1/2T(交流電圧周期の半分)の時間経過後にゼロクロス点信号をハイレベルからローレベルに変化させる。
【0036】
次に
図4の説明図を用いて位相検出信号がハイレベル短状態の場合における位相補正部20の補正動作を説明する。
【0037】
図4の横軸は時間を示している。
図4の縦軸において、
図4(1)は交流電圧を、
図4(2)はコンパレータ59の入力信号を、
図4(3)は位相検出信号を、
図4(4)は算出したハイレベル時間の出力タイミングを、
図4(5)は算出したローレベル時間の出力タイミングを、
図4(6)はゼロクロス点信号を、それぞれ示している。なお、t21〜t30は時刻を示している。
【0038】
図4(2)に示すようにオフセット電圧の誤差により、Aライン信号よりもBライン信号の電圧が高くなっている。このため、コンパレータ59は
図4(3)に示すように位相検出信号のハイレベル時間がローレベル時間よりも短い位相検出信号を出力する。
【0039】
一方、ハイレベル期間測定部21は、位相検出信号のハイレベルの期間の時間を測定し、位相検出信号がハイレベルからローレベルに変化した時、例えばt27でこのレベルの変化直前に測定したt26〜t27のハイレベル時間を位相誤差算出部23へ出力する。一方、ローレベル期間測定部22は、位相検出信号のローレベルの期間の時間を測定し、位相検出信号がローレベルからハイレベルに変化した時、例えばt26でこのレベルの変化直前に測定したt23〜t26のローレベル時間を位相誤差算出部23へ出力する。
【0040】
位相誤差算出部23は、ハイレベル時間<ローレベル時間であるためハイレベル短状態と判断し、『ハイレベル短状態』の位相検出状態を示すデータと、(ローレベル時間−ハイレベル時間)/2で算出した『位相検出誤差の時間』を位相検出信号補正部24へ出力する。
【0041】
位相検出信号補正部24は、『ハイレベル短状態』が入力されたため、
図4(3)で示すように位相検出信号がt27で立ち下がった時から、入力された『位相検出誤差の時間』が経過したt28でゼロクロス点信号をハイレベルからローレベルに変化させ、t28から1/2×T( 電源電圧の周期) が経過した時、ゼロクロス点信号をローレベルからハイレベルに変化させる。位相検出信号補正部24は、この処理を位相検出信号の1周期毎に繰り返して実行する。
【0042】
この結果、不正確なゼロクロス点を示していた位相検出信号が、位相補正部20によって補正され、そのレベルが反転するタイミングで正確なゼロクロス点を示すゼロクロス点信号を生成することができる。このため、制御部11はこのゼロクロス点信号を用いて、ゼロクロス点から所定の時間だけ経過した昇圧チョッパ3のスイッチング開始タイミングを正確に求めることができ、意図した力率改善動作を実行することができる。
【0043】
次に
図5の説明図を用いて位相検出信号がローレベル短状態の場合における位相補正部20の補正動作を説明する。
【0044】
図5の横軸は時間を示している。
図5の縦軸において、
図5(1)は交流電圧を、
図5(2)はコンパレータ59の入力信号を、
図5(3)は位相検出信号を、
図5(4)算出したハイレベル時間の出力タイミングを、
図5(5)は算出したローレベル時間の出力タイミングを、
図5(5)はローレベル時間の算出結果の出力タイミングを、
図5(6)はゼロクロス点信号を、それぞれ示している。なお、t41〜t50は時刻を示している。
【0045】
図5(2)に示すようにオフセット電圧の誤差により、Aライン信号よりもBライン信号の電圧が低くなっている。このため、コンパレータ59は
図5(3)に示すように位相検出信号のハイレベル時間がローレベル時間よりも長い位相検出信号を出力する。
【0046】
一方、ハイレベル期間測定部21は、位相検出信号のハイレベルの期間の時間を測定し、位相検出信号がハイレベルからローレベルに変化した時、例えばt44でこのレベル変化直前に測定したt41〜t44のハイレベル時間を位相誤差算出部23へ出力する。一方、ローレベル期間測定部22は、位相検出信号のローレベルの期間の時間を測定し、位相検出信号がローレベルからハイレベルに変化した直後、例えばt45で直前に測定したt44〜t45のローレベル時間を位相誤差算出部23へ出力する。
【0047】
位相誤差算出部23は、ハイレベル時間>ローレベル時間であるためローレベル短状態と判断し、『ローレベル短状態』の位相検出状態を示すデータと(ハイレベル時間−ローレベル時間)/2で算出した『位相検出誤差の時間』を位相検出信号補正部24へ出力する。
【0048】
位相検出信号補正部24は、『ローレベル短状態』のデータが入力されたため、
図5(3)で示すように位相検出信号がt45で立ち上がった時から、入力された『位相検出誤差の時間』が経過したt46でゼロクロス点信号をローレベルからハイレベルに変化させ、t46から1/2×T( 電源電圧の周期) が経過した時、ゼロクロス点信号をハイレベルからローレベルに変化させる。位相検出信号補正部24は、この処理を位相検出信号の1周期毎に繰り返して実行する。
【0049】
この結果、不正確なゼロクロス点を示していた位相検出信号が、位相補正部20によって補正され、そのレベルが反転するタイミングで正確なゼロクロス点を示すゼロクロス点信号を生成することができる。このため、制御部11はこのゼロクロス点信号を用いて、ゼロクロス点から所定の時間だけ経過した昇圧チョッパ3のスイッチング開始タイミングを正確に求めることができ、意図した力率改善動作を実行することができる。
【0050】
以上説明したように、位相補正部20が電源位相検出回路5から出力される位相検出信号を補正してゼロクロス点信号を出力するため、位相検出信号にオフセット電圧の誤差による位相検出誤差が含まれていても、制御部11は正確なゼロクロス点を求めることができる。また、位相補正部20はソフトウェアで実現できるため、ゼロクロス点検出部30を安価に構成することができる。さらに、オフセット電圧による誤差が発生する単電源のコンパレータ59を使用できるため、両電源型コンパレータを使用する場合よりも安価にゼロクロス点検出部30を構成できる。
【0051】
本発明において位相補正部20を、例えば特許文献1の方式、つまり、位相検出信号の半周期時間の半分のタイミングを交流電圧のピーク点とする考え方も適用可能である。しかしながら、この方式の場合、位相検出信号のローレベル時間がハイレベル時間よりも短い場合、交流電圧のピーク点を特定できたタイミングはゼロクロス点が過ぎた直後であり、その次のゼロクロス点以降でしか補正でいない。本発明ではゼロクロス点の直前で補正処理が開始されるため、交流電圧が大きく変化したり、オフセット電圧が変動したとしても素早く対応可能であり、この結果、電力変換装置1の反応速度を向上させることができる。