【解決手段】溶接装置1は、ワイヤ支持部32,34,36,38と台車3とを備える。第1ワイヤ支持部32は、溶接対象物100に対して第1アークを発生させる第1溶接ワイヤ42を支持する。第2ワイヤ支持部34は、溶接対象物100に対して第2アークを発生させる第2溶接ワイヤ44を支持する。第3ワイヤ支持部36は、溶加材である第3溶接ワイヤ46を第1アークおよび第2アークによる入熱部に供給する。第4ワイヤ支持部38は、溶加材である第4溶接ワイヤ48を入熱部に供給する。台車3は、ワイヤ支持部32,34,36,38が所定の位置関係になるように固定可能に構成され、溶接対象物100の上を移動可能に構成される。
前記第1溶接ワイヤの電流が前記第2溶接ワイヤの電流より大きく、かつ前記第1溶接ワイヤの電圧が前記第2溶接ワイヤの電圧より低くなるように、前記第1溶接ワイヤおよび前記第2溶接ワイヤに電力を供給する電源装置をさらに備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶接装置。
前記第3溶接ワイヤを供給する工程において、前記溶接進行方向に向かって右側の後方から前記第3溶接ワイヤが前記入熱部に供給されるように前記第3溶接ワイヤを支持し、
前記第4溶接ワイヤを供給する工程において、前記溶接進行方向に向かって左側の後方から前記第4溶接ワイヤが前記入熱部に供給されるように前記第4溶接ワイヤを支持する、請求項7に記載の溶接構造体の製造方法。
前記第1溶接ワイヤの電流が前記第2溶接ワイヤの電流より大きく、かつ前記第1溶接ワイヤの電圧が前記第2溶接ワイヤの電圧より低くなるように、前記第1溶接ワイヤおよび前記第2溶接ワイヤに電力を供給する、請求項6〜8のいずれか1項に記載の溶接構造体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特開2014−213331号公報には、2ワイヤ溶接の一例としてサブマージアーク溶接法(SAW:Submerged Arc Welding)が記載されている。サブマージアーク溶接法は、溶接部に散布した粒状のフラックスの中に溶接ワイヤを送り込んで、フラックス中の溶接ワイヤと母材との間でアークを生じさせて溶接を行なう方法である。
【0006】
サブマージアーク溶接は入熱が大きく高能率である事から道路橋の鋼床板などでI桁首溶接に広く適用されている。そして、特開2014−213331号公報に開示されているように近年鉱床板の疲労対策から鋼板の厚板化が進み、1パスで溶接を完了させることが難しくなってきた。
【0007】
上記特開2014−213331号公報のように、電極ワイヤとフィラーワイヤとを1本ずつ使用することも考えられるが、さらに溶接速度を向上させることが望まれる。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、溶接速度が向上した溶接装置および溶接構造体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、要約すると、溶接装置であって、第1〜第4ワイヤ支持部と台車とを備える。第1ワイヤ支持部は、溶接対象物に対して第1アークを発生させる第1溶接ワイヤを支持する。第2ワイヤ支持部は、溶接対象物に対して第2アークを発生させる第2溶接ワイヤを支持する。第3ワイヤ支持部は、溶加材である第3溶接ワイヤを第1アークおよび第2アークによる入熱部に供給する。第4ワイヤ支持部は、溶加材である第4溶接ワイヤを入熱部に供給する。台車は、第1〜第4ワイヤ支持部が所定の位置関係になるように固定可能に構成され、溶接対象物の上を移動可能に構成される。
【0010】
好ましくは、第1ワイヤ支持部は、第1溶接ワイヤを溶接対象物における溶接ラインの溶接進行方向の前方から1番目に配置されるように支持する。第2ワイヤ支持部は、第2溶接ワイヤを溶接ラインの溶接進行方向の前方から2番目に配置されるように支持する。第3ワイヤ支持部および第4ワイヤ支持部は、第3溶接ワイヤおよび第4溶接ワイヤが溶接進行方向の第2溶接ワイヤの後方から溶接ラインに供給されるように第3溶接ワイヤおよび第4溶接ワイヤを支持する。
【0011】
好ましくは、第3ワイヤ支持部は、溶接進行方向に向かって右側の後方から第3溶接ワイヤが第2アークの入熱部に供給されるように第3溶接ワイヤを支持する。第4ワイヤ支持部は、溶接進行方向に向かって左側の後方から第4溶接ワイヤが第2アークの入熱部に供給されるように第4溶接ワイヤを支持する。
【0012】
好ましくは、溶接装置は、第1溶接ワイヤの電流が第2溶接ワイヤの電流より大きく、かつ第1溶接ワイヤの電圧が第2溶接ワイヤの電圧より低くなるように、第1溶接ワイヤおよび第2溶接ワイヤに電力を供給する電源装置をさらに備える。
【0013】
好ましくは、第1溶接ワイヤより溶接進行方向の前方に供給するフラックスを貯留するホッパをさらに備える。
【0014】
この発明は、他の局面では、溶接構造体の製造方法であって、第1溶接ワイヤと溶接対象物との間に第1アークを発生させる工程と、第2溶接ワイヤと溶接対象物との間に第2アークを発生させる工程と、第1アークおよび第2アークによる入熱部に溶加材である第3溶接ワイヤを供給する工程と、入熱部に溶加材である第4溶接ワイヤを供給する工程とを備える。
【0015】
好ましくは、第1アークを発生させる工程において、第1溶接ワイヤを溶接ラインの溶接進行方向の1番目に配置し、第2アークを発生させる工程において、第2溶接ワイヤを溶接ラインの溶接進行方向の2番目に配置し、第3溶接ワイヤを供給する工程および第4溶接ワイヤを供給する工程において、第3溶接ワイヤおよび第4溶接ワイヤを第2溶接ワイヤの溶接進行方向の後方に配置する。溶接構造体の製造方法は、第1〜第4溶接ワイヤを溶接進行方向に移動させる工程をさらに備える。
【0016】
好ましくは、第3溶接ワイヤを供給する工程において、溶接進行方向に向かって右側の後方から第3溶接ワイヤが第2アークの入熱部に供給されるように第3溶接ワイヤを支持し、第4溶接ワイヤを供給する工程において、溶接進行方向に向かって左側の後方から第4溶接ワイヤが第2アークの入熱部に供給されるように第4溶接ワイヤを支持する。
【0017】
好ましくは、第1溶接ワイヤの電流が第2溶接ワイヤの電流より大きく、かつ第1溶接ワイヤの電圧が第2溶接ワイヤの電圧より低くなるように、第1溶接ワイヤおよび第2溶接ワイヤに電力を供給する。
【0018】
好ましくは、溶接構造体の製造方法は、第1溶接ワイヤより溶接進行方向の前方にフラックスを供給する工程をさらに備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、溶接速度が一層向上し、特に橋梁の床板などの大型構造物の溶接において効率を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0022】
図1は、この発明の実施の形態に係る溶接装置の概略図である。
図1を参照して、本実施の形態に係る溶接装置1は、母材である溶接対象物100の溶接部に粒状のフラックス106を散布し、フラックス106中の溶接ワイヤ42,44と溶接対象物100との間で第1および第2アークを生じさせて溶接を行なうための装置である。このときに入熱制限を超えないように2本のフィラー用の溶接ワイヤ46,48をアーク入熱部(溶融池)に供給する。
【0023】
2電極のサブマージアーク溶接は、溶接入熱量が大きくなるので入熱量の管理が重要である。入熱量が過大となると、溶接部の強度および靱性が低下する。本実施の形態では、2電極のサブマージアーク溶接に対してフィラー用溶接ワイヤを2本供給することによって、入熱量を適切に管理しつつ溶接速度を向上させることができている。
【0024】
溶接装置1は、主溶接部2と、フィラー供給部5と、フラックス回収装置52とを含む。
図2は主溶接部2の形状を具体的に示した図である。
図1、
図2を参照して、主溶接部2は、ワイヤ支持部32,34,36,38が所定の位置関係に固定された基部18と、電源装置12と、粒状フラックスを貯留するホッパ14と、電極用の溶接ワイヤ42,44をそれぞれ送給する送給装置20,24と、電極用の溶接ワイヤ42,44が巻かれたリールを保持するリール保持部(スポーク型ワイヤリール)22,26と、これらを搭載する台車3とを含む。
【0025】
ワイヤ支持部32,34,36,38は、溶接ワイヤを所定位置に供給するものであり溶接トーチの先端部に該当する。ワイヤ支持部32,34,36,38の位置は、水平方向調整装置のハンドル23Xと垂直調整装置のハンドル21Y、23Yとによって調整することができる。また、ハンドル21P,23Pを操作することによって送給装置におけるワイヤの加圧力を調整することができる。
【0026】
第1ワイヤ支持部32は、溶接対象物100に対して第1アークを発生させる第1溶接ワイヤ42を支持する。第2ワイヤ支持部34は、溶接対象物100に対して第2アークを発生させる第2溶接ワイヤ44を支持する。第3ワイヤ支持部36は、溶加材である第3溶接ワイヤ46を第1アークおよび第2アークによる入熱部に供給する。第4ワイヤ支持部38は、溶加材である第4溶接ワイヤ48を入熱部に供給する。台車3は、ワイヤ支持部32,34,36,38が所定の位置関係になるように固定可能に構成され、溶接対象物100の上を移動可能に構成される。この所定の位置関係については、後に説明する
図4〜
図8のいずれかとされる。
【0027】
主溶接部2は、粒状のフラックス106を貯留するホッパ14をさらに備える。粒状のフラックス106は、ホース16から溶接部の第1溶接ワイヤ42より溶接進行方向の前方に供給される。
【0028】
図1のフラックス回収装置52およびフィラー供給部5が主溶接部2に牽引されている。フラックス回収装置52は、台車4と、台車4に搭載された吸引部とタンク53と回収ホース54とを含む。フラックス回収装置52は、ホッパ14から散布された粒状フラックスを回収ホース54で吸引してタンク53に回収する。
【0029】
フィラー供給部5は、フィラー用の溶接ワイヤ46を送給する送給装置60と、フィラー用の溶接ワイヤ46が巻かれたリールを保持するリール保持部62と、フィラー用の溶接ワイヤ48を送給する送給装置64と、フィラー用の溶接ワイヤ48が巻かれたリールを保持するリール保持部66と、送給装置60,64を制御するフィラー制御装置68とを含む。
【0030】
図3は、4本のワイヤを支持する支持部の形状の一例を示す図である。
図4は、4本のワイヤの位置関係の例を示す模式図である。4本のワイヤは溶接対象物100(母材)の上に形成される溶融池104に先端が向けられている。溶融池104が固化すると溶接金属102のビードが形成される。ビードは、粒状スラグ106に覆われて酸化が抑制される。位置の目安を示す便宜上、電極用の溶接ワイヤ42,44の先端も示しているが、溶接中は、溶接ワイヤの先端はアークによって直接加熱されて溶けるので、溶融池104に挿入されてはいない。
【0031】
図1、
図3、
図4を参照して、第1ワイヤ支持部32は、第1溶接ワイヤ42を溶接対象物100における溶接ラインの溶接進行方向の前方から1番目に配置されるように支持する。第2ワイヤ支持部34は、第2溶接ワイヤ44を溶接ラインの溶接進行方向の前方から2番目に配置されるように支持する。第2ワイヤ支持部36および第4ワイヤ支持部38は、第3溶接ワイヤ46および第4溶接ワイヤ48が溶接進行方向の第2溶接ワイヤ44の後方から溶接ラインに供給されるように第3溶接ワイヤ46および第4溶接ワイヤ48を支持する。
【0032】
第1溶接ワイヤ42および第2溶接ワイヤ44は、電極用の溶接ワイヤであって、たとえば4.8mmφのものを使用することができる。第3溶接ワイヤ46および第4溶接ワイヤ48は、フィラー用溶接ワイヤであって、1.2〜2.0mmφ好ましくは1.6mmφのものを使用することができる。
【0033】
好ましくは、第2ワイヤ支持部36は、溶接進行方向に向かって右側の後方から第3溶接ワイヤ46が入熱部に供給されるように第3溶接ワイヤ46を支持する。第4ワイヤ支持部38は、溶接進行方向に向かって左側の後方から第4溶接ワイヤ48が入熱部に供給されるように第4溶接ワイヤ48を支持する。上方から見ると、溶接ラインに対してワイヤ支持部36,38はV字型に広がっている。このV字の角度は、例えば25°(片側12.5°)とすることができる。また、上下方向のワイヤ支持部36,38の入射角はたとえば27°とすることができる。また、ワイヤ支持部から下方に40mm突き出した時の電極用溶接ワイヤの先端の間隔は20mmとすることができる。以下において、
図4に示した配置をEタイプと呼ぶこととする。
【0034】
なお、
図1、
図2にはリール保持部22,26,62,66はリールを保持するものである例を示したが、ワイヤを保持しておくものであれば他の形状であっても良い。
【0035】
図5は、4本のワイヤの位置関係の第1の変形例を示す模式図である。
図5の変形例では、電極用の溶接ワイヤ42と電極用の溶接ワイヤ44との間にフィラー用の溶接ワイヤ46が配置され、電極用の溶接ワイヤ44の溶接進行方向後方にフィラー用の溶接ワイヤ48が配置されている。ワイヤ支持部から下方に40mmの深さまで突き出した時の先端部におけるワイヤ間隔は、たとえば、ワイヤ42,46間が10mm、ワイヤ46,44間が10mm、ワイヤ44,48間が5mmとすることができる。以下において、
図5に示した配置をAタイプと呼ぶこととする。
【0036】
図6は、4本のワイヤの位置関係の第2の変形例を示す模式図である。
図6の変形例では、電極用の溶接ワイヤ42と電極用の溶接ワイヤ44をワイヤ支持部から深さ40mmに突き出したときの間隔は、30mmであり、フィラー用の溶接ワイヤ46,48は、溶接進行方向の前方左右から電極用の溶接ワイヤ44の先端に向けて挿入されている。上方から見ると、溶接ラインに対してフィラー用の溶接ワイヤ46,48はV字型に広がっている。このV字の角度は、例えば25°(片側12.5°)とすることができる。また、上下方向のワイヤ支持部36,38の入射角はたとえば30〜32°とすることができる。以下において、
図6に示した配置をBタイプと呼ぶこととする。
【0037】
図7は、4本のワイヤの位置関係の第3の変形例を示す模式図である。
図7の変形例では、電極用の溶接ワイヤ42と電極用の溶接ワイヤ44をワイヤ支持部から深さ40mmに突き出したときの間隔は、30mm間隔であり、フィラー用の溶接ワイヤ46は、溶接進行方向の後方右から入射各31°で電極用の溶接ワイヤ42の先端に向けて挿入されている。また、フィラー用の溶接ワイヤ48は、溶接進行方向の後方左から電極用の溶接ワイヤ44の先端に向けて挿入されている。上方から見ると、溶接ラインに対してフィラー用の溶接ワイヤ46,48はV字型に広がっている。このV字の角度は、例えば25°(片側12.5°)とすることができる。以下において、
図7に示した配置をCタイプと呼ぶこととする。
【0038】
図8は、4本のワイヤの位置関係の第4の変形例を示す模式図である。
図8の変形例では、電極用の溶接ワイヤ42と電極用の溶接ワイヤ44をワイヤ支持部から深さ40mmに突き出したときの間隔は、30mm間隔であり、フィラー用の溶接ワイヤ46は、溶接進行方向の前方右から入射角32°で電極用の溶接ワイヤ42の先端に向けて挿入されている。また、フィラー用の溶接ワイヤ48は、溶接進行方向の後方左から電極用の溶接ワイヤ44の先端に向けて挿入されている。以下において、
図8に示した配置をDタイプと呼ぶこととする。
【0039】
[実施例]
融合不良が懸念されるので溶接後に溶接部のX線検査を行うため試験体は突合せ溶接とした。下向き隅肉脚長10mmを想定し、突合せ溶接はy開先90°で開先深さ7mmとした。また溶接ワイヤの配置については、
図9で最も良好であったEタイプ(
図4)を使用した。
【0040】
図9は、溶接速度と脚長を各タイプでプロットしたものである。フィラー用溶接ワイヤの送給速度を5m/minとした場合、通常のサブマージアーク溶接(通常SAW)の場合は、脚長11mmを確保して溶接を行なうと、溶接速度は約64cm/minであり、溶接速度を83cm/minまで増加させると、脚長は9.5mmまで減少した。
【0041】
溶接速度を83cm/minとして、タイプA〜Eのワイヤ配置で溶接を行なったところ、いずれも、脚長は通常SAWの場合よりも上回った。中でも一番良好な数値を示したのはタイプEであり、2点を結ぶ線の延長から、脚長11mmでは100cm/minを超える溶接速度が期待でき、速度は通常SAWと比べて56%程度アップすることが期待できる。
【0042】
なお、フィラー用溶接ワイヤを1本として送給速度を10m/minとしてみたが、溶接不可能であった。したがって、フィラー用溶接ワイヤを2本使用して2本の各々の送給速度を半分の5m/minとすることによって良好な溶接が実現できる。
【0043】
図10は、先行電極、後行電極において電流と電圧を変えた時の溶接外観の評価結果を示した図である。後行電極の電圧を48V固定とし、後行電極の電流を700A、800Aの2点、先行電極の電流を750A,800A,850Aの3点で溶接を実行した。○、△、×は各々1つの試験サンプルを示す。
【0044】
先行電極の電流が800A、後行電極の電流が750Aの組み合わせでは、溶接外観は良好(○)であった。しかし、先行電極の電流が800A、後行電極の電流が700Aの組み合わせでは、先行電極の電圧が34Vで送給不良(×)となり、36Vでも良い結果は得られなかった(△)。
【0045】
先行電極の電流が850A、後行電極の電流が750Aの組み合わせでは、溶接外観は良好であった。しかし、先行電極の電流が850A、後行電極の電流が700Aの組み合わせでは、先行電極の電圧が35Vでは良い結果は得られなかったが、37Vでは良い結果が得られた。
【0046】
先行電極の電流が750Aの場合、後行電極の電流が700A、750Aの両方とも、溶接外観は良好であった。
【0047】
次に、後行電極の電流を750Aに絞ってX線検査によって欠陥の評価を行なった。
図11は、X線検査によるきず点数を示した図である。
図11に示すように、先行電極の電流850A,先行電極の電圧37Vの場合にきず点数が零となり良好な結果が得られた。
【0048】
以上の予備試験によって見直した溶接条件による施工試験を行なった。
図12は、第1試験体(隅肉)の形状を示す図である。第1試験体(隅肉)は、板厚16mm、脚長10mmである。
図13は、第2試験体(開先)の形状を示す図である。第2試験体(開先)は、板厚28mm、脚長9mm、開先の角度60°である。これら2種類の試験体でフィラー用溶接ワイヤを使用した場合と使用しない場合とで溶接速度を比較した。
【0049】
図14は、試験条件と溶接速度を示す図である。
図14の試験条件aは、
図12に示した隅肉溶接の試験体で2本の電極用溶接ワイヤのみを使用し、フィラー用溶接ワイヤを使用しない場合を示す。試験条件aは、先行電極の電流750A,電圧34V、後行電極の電流700A,電圧34VでフラックスはMF53を使用した試験を示し、この試験では溶接速度は76cm/minであった。
【0050】
図14の試験条件eは、
図12に示した隅肉溶接の試験体でフィラー2本を5m/minの送給速度で使用した場合を示す。試験条件eは、先行電極の電流850A,電圧37V、後行電極の電流750A,電圧48VでフラックスはMF53を使用した試験を示し、この試験では溶接速度は108cm/minであった。
【0051】
図14の試験条件gは、
図13に示した開先あり溶接の試験体で2本の電極用溶接ワイヤのみを使用し、フィラー用溶接ワイヤを使用しない場合を示す。試験条件gは、先行電極の電流750A,電圧34V、後行電極の電流700A,電圧34VでフラックスはMF38Aを使用した試験を示し、この試験では溶接速度は33cm/minであった。
【0052】
図14の試験条件fは、
図13に示した開先あり溶接の試験体でフィラー2本を5m/minの送給速度で使用した場合を示す。試験条件fは、先行電極の電流850A,電圧37V、後行電極の電流750A,電圧48VでフラックスはMF38Aを使用した試験を示し、この試験では溶接速度は60cm/minであった。
【0053】
図15は、
図14に示した溶接速度と溶接断面との間の関係を示した図である。同じ隅肉溶接の試験体を使用する
図14の試験条件aと試験条件eとを比べると、溶接速度が76cm/minから108cm/minに増加した。同じ開先あり溶接の試験体を使用する
図14の試験条件gと試験条件fとを比べると、溶接速度が33cm/minから60cm/minに増加した。
【0054】
図16に示すように直線の仮想線を引き、溶接断面80mm
2付近でSAWとFC−SAW(フィラーありサブマージアーク溶接)とを比較すると、溶接速度はFC−SAWがSAWに対して2倍以上に向上している。
【0055】
図16は、
図14の実験条件において溶接入熱量と溶接断面との間の関係を示した図である。入熱量は(Σ(電流×電圧))×60/溶接速度で計算される。
【0056】
同じ隅肉溶接の試験体を使用する試験条件aと試験条件eとを比べると、入熱量は、38KJ/cm付近で同じであったが、溶接断面積は58mm
2から76mm
2に増加した。同じ開先あり溶接の試験体を使用する試験条件gと試験条件fとを比べると入熱量は85KJ/cmから68KJ/cmに減少する一方で、溶接断面積は80mm
2から84mm
2に増加した。
【0057】
図16に示すように直線の仮想線を引き、溶接断面80mm
2付近でSAWとFC−SAWとを比較すると、入熱量は85KJ/cmから50KJ/cmに減少しており、FC−SAWがSAWに対して約35%低下している。
【0058】
以上より、2本のフィラー用溶接ワイヤを使用する方が、入熱量を低下させるのに有利であることが分かる。
【0059】
図17は、
図14の実験条件において角変形と溶接断面との間の関係を示した図である。同じ隅肉溶接の試験体を使用する試験条件aと試験条件eとを比べると、溶接断面積は58mm
2から76mm
2に増加する一方で、角変形は、13.5mmから9.5mmに減少した。同じ開先あり溶接の試験体を使用する試験条件gと試験条件fとを比べると溶接断面積は80mm
2から84mm
2に増加する一方で、角変形は、5.5mmから4.5mmに減少した。
【0060】
以上より、いずれの試験体でも溶接断面積が増加し、角変形は減少する傾向となり、角変形においても2本のフィラー用溶接ワイヤを使用する方が有利であることが分かる。
【0061】
図18は、SAWとFC−SAWの溶け込み部を比較して示した顕微鏡写真である。サンプル試験条件e,fともに良好な溶け込みが得られている。
【0062】
図19は、溶接部の引張試験による強度の評価結果を示した図である。
図14の試験条件a,e,g,fについて各々2本ずつの丸棒試験片を溶接金属中央部から採取し引張試験を行なった。
図19に示すように、いずれも引っ張り強さ580N/mm
2以上となっており、FC−SAWはSAWと比べて引っ張り強さは遜色ない。
【0063】
図20は、溶接部の衝撃試験による強度の評価結果を示した図である。
図14の試験条件a,e,g,fについて各々2本ずつの角棒試験片を溶接金属中央部から採取しシャルピー衝撃試験を行なった。
図20に示すように、いずれも吸収エネルギ45J以上となっており、FC−SAWはSAWと比べて靱性は遜色ない。
【0064】
本実施例では、溶接条件見直しにより溶接電流を高めに設定した。具体的には、
図14の試験条件e,試験条件fに示すように、溶接装置1の電源装置12は、第1溶接ワイヤ42(先行)の電流が第2溶接ワイヤ44(後行)の電流より大きく、かつ第1溶接ワイヤ42(先行)の電圧が第2溶接ワイヤ44(後行)の電圧より低くなるように、第1溶接ワイヤ42および第2溶接ワイヤ44に電力を供給する。
【0065】
このように溶接条件を設定したことにより、溶接速度が向上しかつ溶接入熱が低減した2本の電極用溶接ワイヤと2本のフィラー用溶接ワイヤを同時に使用する溶接構造体の製造方法を実現できた。この溶接構造体の製造方法は、橋梁の床板などの隅肉溶接に好適に用いることができる。
【0066】
最後に図面を再び参照して、本実施の形態において説明した溶接構造体の製造方法を総括して説明する。
図1、
図4〜
図8に示すように、本実施の形態に係る溶接構造体の製造方法は、第1溶接ワイヤ42と溶接対象物100との間に第1アークを発生させる工程と、第2溶接ワイヤ44と溶接対象物100との間に第2アークを発生させる工程と、第1アークおよび第2アークによる入熱部に溶加材である第3溶接ワイヤ46を供給する工程と、入熱部に溶加材である第4溶接ワイヤ48を供給する工程とを備える。
【0067】
このように、2本の電極用溶接ワイヤによってアークを発生させ、2本のフィラー用溶接ワイヤによって溶加材を添加することにより、入熱量を抑制しつつ、溶接スピードを増加させることができる。
【0068】
好ましくは、
図4、
図8に示すように、本実施の形態に係る溶接構造体の製造方法は、第1アークを発生させる工程において、第1溶接ワイヤ42を溶接ラインの溶接進行方向の1番目に配置し、第2アークを発生させる工程において、第2溶接ワイヤ44を溶接ラインの溶接進行方向の2番目に配置し、第3溶接ワイヤ46を供給する工程および第4溶接ワイヤ48を供給する工程において、第3溶接ワイヤ46および第4溶接ワイヤ48を第2溶接ワイヤ44の溶接進行方向の後方に配置する。溶接構造体の製造方法は、第1〜第4溶接ワイヤを溶接進行方向に移動させる工程をさらに備える。
【0069】
好ましくは、
図3、
図4に示すように、本実施の形態に係る溶接構造体の製造方法は、第3溶接ワイヤ46を供給する工程において、溶接進行方向に向かって右側の後方から第3溶接ワイヤ46が入熱部に供給されるように第3溶接ワイヤ46を支持し、第4溶接ワイヤ48を供給する工程において、溶接進行方向に向かって左側の後方から第4溶接ワイヤ48が入熱部に供給されるように第4溶接ワイヤ48を支持する。
【0070】
好ましくは、
図14の試験条件e,試験条件fに示すように、本実施の形態に係る溶接構造体の製造方法は、第1溶接ワイヤ42(先行ワイヤ)の電流が第2溶接ワイヤ44(後行ワイヤ)の電流より大きく、かつ第1溶接ワイヤ42(先行ワイヤ)の電圧が第2溶接ワイヤ44(後行ワイヤ)の電圧より低くなるように、第1溶接ワイヤ42および第2溶接ワイヤ44に電力を供給する。
【0071】
このように電圧、電流を設定することによって、溶接強度や靱性などの溶接品質を維持しつつ、溶接速度を向上させることができる。
【0072】
好ましくは、本実施の形態に係る溶接構造体の製造方法は、第1溶接ワイヤ42より溶接進行方向の前方にフラックス106を供給する工程をさらに備える。これにより、サブマージアーク溶接において溶接速度を増加させることができる。
【0073】
なお、この製造方法によって製造可能な溶接構造体は、特に限定するものではないが、たとえば、橋梁の構造部材(床板など)、建築物の鉄骨構造部材等を挙げることができる。
【0074】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。