特開2017-205793(P2017-205793A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2017-205793連続鋳造用モールドフラックス及びこれを用いた鋼の連続鋳造方法
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  • 特開2017205793-連続鋳造用モールドフラックス及びこれを用いた鋼の連続鋳造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-205793(P2017-205793A)
(43)【公開日】2017年11月24日
(54)【発明の名称】連続鋳造用モールドフラックス及びこれを用いた鋼の連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/108 20060101AFI20171027BHJP
   C21C 7/076 20060101ALI20171027BHJP
【FI】
   B22D11/108 F
   C21C7/076 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-100309(P2016-100309)
(22)【出願日】2016年5月19日
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】特許業務法人なじま特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花尾 方史
(72)【発明者】
【氏名】内藤 大幹
(72)【発明者】
【氏名】木村 仁巳
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼平 信幸
【テーマコード(参考)】
4E004
4K013
【Fターム(参考)】
4E004MC11
4E004NC01
4K013EA03
4K013EA04
4K013EA05
4K013EA08
(57)【要約】
【課題】熱延コイルに発生する筋状模様をなくすことができるモールドフラックスを提供する。
【解決手段】本発明は、従来意識されていなかった連続鋳造用モールドフラックスのフラックス成分中のPの含有率を、質量%で0.50%以下に制御したものである。好ましいフラックス成分は、質量%で、SiO:20〜45%、CaO:30〜50%、F:2〜15%、LiO、NaO、KO、MgO、SrO、BaO、B、Al、TiO、ZrO、FeO、MnOのうち1種以上の成分を合計で3〜25%、C:1〜10%、残部がP及び不可避的不純物である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラックス成分中のPの含有率を、質量%で0.50%以下に制御したことを特徴とする連続鋳造用モールドフラックス。
【請求項2】
フラックス成分が質量%で、SiO:20〜45%、CaO:30〜50%、F:2〜15%、LiO、NaO、KO、MgO、SrO、BaO、B、Al、TiO、ZrO、FeO、MnOのうち1種以上の成分を合計で3〜25%、C:1〜10%、残部がP及び不可避的不純物であることを特徴とする請求項1記載の連続鋳造用モールドフラックス。
【請求項3】
請求項1または2に記載の連続鋳造用モールドフラックスを用いることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造用モールドフラックス及びこれを用いた鋼の連続鋳造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造においては、連続鋳造用モールドフラックスをモールド表面に供給し、モールド内の潤滑や保温を行なっている。この連続鋳造用モールドフラックスの成分は、鋳造される鋼種に応じて様々に設定されている。
【0003】
例えば低炭素鋼の連続鋳造においては、他の鋼種と比べて鋳造速度が高いため、モールド内の潤滑を第1として、モールドフラックスの塩基度(CaO/SiO)を1.0付近に設定し、Al、MgO、NaO、F等を添加し、粘度及び凝固点を適正に調整している。また、低炭素鋼に含まれるブリキ用の鋼のためのモールドフラックスの場合には、モールド内で溶鋼に巻き込まれて介在物になることを防ぐために、塩基度を1.0よりも低く設定し、粘性を高めている。
【0004】
一方、中炭素鋼の連続鋳造用モールドフラックスは、モールド内の潤滑に加えて不均一凝固の防止が重要であり、塩基度及びF濃度を高めて結晶化を促進し、不均一凝固を防止している。これらのフラックス成分中には、原料中の不純物に由来するPが微量含有されている。しかしその含有率は意識的に制御されたものではない。
【0005】
これに対し、特許文献1には1.0〜8.0%という多量のPを意識的に添加し、スケールの剥離性を高めた高Al鋼用のモールドフラックスが開示されている。このモールドフラックスは塩基度が1.0〜2.0であり、多量のPを添加することにより鋳片とスケールとの間に形成されるファイアライト層の融点を低下させ、スケールの剥離性を高めたものである。しかしこの特許文献1の外には、モールドフラックス中のPの添加量を意識した特許文献はほとんど見当たらない。
【0006】
このように特許文献1を除く従来の連続鋳造用モールドフラックス中には、0.5〜1.0%程度のPが含まれているのが一般的である。このような従来の連続鋳造用モールドフラックスのうち低炭素鋼用のものは、低炭素鋼〜極低炭素鋼の連続鋳造にも使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5083143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、C含有量が0.005%以下の極低炭素鋼を連続鋳造し、得られたスラブを熱間圧延してコイルとすると、圧延方向に筋状模様が発生することがあった。この筋状模様は冷延後に施される溶融亜鉛めっきに斑を生じさせる原因となり、コイルの品質低下や歩留り低下の原因となるので好ましくない。従って本発明の目的は、熱延コイルに発生する筋状模様をなくすことができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明者は極低炭素鋼の熱延コイルに発生した筋状模様について様々な角度から検討を加えた。そしてEPMA結果により分析した結果、筋状模様の部分では他の部分よりもPの濃度が高いことが確認された。また本発明者は、このPはモールドフラックスに由来するものと推定した。すなわち、鋳片表面に付着したモールドフラックス中のPが鋳片表面に生成されたスケール層中を移動し、鋳片中のAlと接触すると還元され、鋳片表面においてPとして濃化するものと推定した。
【0010】
本発明は上記した知見に基づいて完成されたものであり、本発明では、従来意識されていなかった連続鋳造用モールドフラックスのフラックス成分中のPの含有率を、質量%で0.50%以下に制御する。
【0011】
なお、この連続鋳造用モールドフラックスのフラックス成分は、質量%で、SiO:20〜45%、CaO:30〜50%、F:2〜15%、LiO、NaO、KO、MgO、SrO、BaO、B、Al、TiO、ZrO、FeO、MnOのうち1種以上の成分を合計で3〜25%、C:1〜10%、残部がP及び不可避的不純物とすることが好ましい。
【0012】
また本発明の鋼の連続鋳造方法は、請求項1または2に記載の連続鋳造用モールドフラックスを用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、連続鋳造用モールドフラックスのフラックス成分中のPの含有率を、質量%で0.50%以下に制御したので、鋳片表面にモールドフラックスが付着してもPの濃化を抑制することができる。この結果、従来のような筋状模様の発生を効果的に抑制することができる。従って熱延コイル表面や溶融亜鉛めっきコイル表面の品質向上と、生産効率の向上が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】モールドフラックス中のP濃度と筋状模様の個数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施形態を示す。
連続鋳造用モールドフラックスは、SiO、CaOを主要成分とし、その他にF、NaO、Al等を含有し、さらにP及び不可避的不純物を含有するものである。本発明ではPの少ない原料を選定することにより、あるいは原料を精製することにより、フラックス成分中のPの含有率を、質量%で0.50%以下に制御した。後記する実施例に示すように、Pの含有率が0.50%以下であれば、筋状模様の発生率をほぼゼロとすることができる。Pの含有率は低いほど好ましいが、完全にゼロとするには精製コストがかかるので、0.01〜0.5%とすればよい。以下にモールドフラックスのその他の成分について説明する。
【0016】
SiOとCaOはモールドフラックスの基本成分であり、好ましい実施形態では質量%で、SiO:20〜45%、CaO:30〜50%である。塩基度は1.0〜1.6の範囲とすることが好ましい。塩基度がこの範囲を超えると凝固点が高くなるので好ましくない。
【0017】
また、2〜15%のFを含有させることが好ましい。Fはモールドフラックスの凝固温度や粘性を低下させるために添加される成分であり、2%未満ではその効果がなく、15%を越えると浸漬ノズル耐火物の溶損が大きくなるため、2〜15%の範囲が好適である。
【0018】
さらに、LiO、NaO、KO、MgO、SrO、BaO、B、Al、TiO、ZrO、FeO、MnOのうち1種以上の成分を合計で3〜25%含有させる。これらの成分もモールドフラックスの凝固温度や粘性を調整するための成分であり、上記した各成分を調整することによって、溶融時の粘度が0.3〜6.0poise(1300℃)、凝固点が1050〜1250℃の範囲とすることが好ましい。尚、粘度は、0.3poiseより低い場合には、鋳型内で溶鋼に巻き込まれやすくなり、6poiseよりも高くなると、例えば2.0m/min以上の鋳造速度で用いた場合の潤滑性が安定しなくなる。凝固点は、1050℃より低い場合には、溶融速度の調整がし難くなり、1250℃よりも高い場合には、鋳型内の潤滑性が安定しなくなる。
【0019】
Cは骨材であり、1〜10%を含有させる。その他はP及び不可避的不純物であるが、前記したようにPの含有率は0.50%以下とする。
【0020】
上記のモールドフラックスはC含有量が0.005%以下の極低炭素鋼の連続鋳造に適したものであり、従来と同様にモールド内に投入して使用される。本発明のモールドフラックスを用いることにより、次の実施例に示す通り、筋状模様をなくすことができる。
【実施例】
【0021】
表1に示す組成の極低炭素鋼を、垂直曲げ型連続鋳造機(以下、連鋳機)により鋳造して、熱間圧延用素材のスラブを製造した。連鋳機は2つのストランドから構成され、各ストランドの鋳型を厚み250mm、幅1600mmとし、鋳造速度は1.5m/minとした。
【0022】
1回の鋳造あたりに取鍋1杯250tonの溶鋼を供して、長さ7000mmのスラブを各ストランドから5本、合計10本鋳造した。鋳造の際、2種類の異なるモールドフラックスを2つのストランドで使い分け、スラブの品質を比較した。合計4回の鋳造を実施し、合わせて8種類のモールドフラックスを比較した。
【0023】
モールドフラックスの仕様を表2に示す。SiOおよびCaOを合わせて71〜75質量%の範囲内とし、それらの濃度比である塩基度を1.1に一定させた。その他に、Al、MgO、NaO、B、ZrOおよびFを添加して、溶融時の粘度が2.1〜2.3poise(1300℃)、凝固点が1080〜1110℃の範囲になる様、調整した。それ以外の不純物成分として、P及びFeO、Sを微量含んだが、8種類のモールドフラックスの間で、Pの濃度が0.1〜3.0%の範囲で変化した。FeOまたはSの濃度は0.1%で一定した。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
鋳造したスラブには、溶削などの手入れを施さず、そのまま加熱炉内へ搬入し、1200℃で2時間加熱した。加熱後のスラブを、粗圧延、続いて仕上げ圧延により、板厚3mmまで圧延して、コイル状に巻き取った。そのコイルを酸洗した後、検査ラインに通して、目視により筋状模様の個数を数えた。その後、冷延および亜鉛めっきの各工程を通じて、亜鉛めっき鋼板のコイルに仕上げた。亜鉛めっき鋼板のコイルにおいて、出荷の可否について評価した。
【0027】
コイル1巻あたりの筋状模様の個数を表3に示す。本発明例ではいずれも、目視検査にて筋状模様の発生が無く、良好な品質の鋼板として出荷することが可能という評価であった。一方、比較例では、モールドフラックス中P濃度の上昇とともに筋状模様の発生個数が増大し、模様部を切り取る手入れを施したり、品質低下のために格下げして出荷したりする必要が生じた。更に、比較例5については、筋状模様が余りに多いため、一時保留の扱いとなり、出荷困難という評価であった。
【0028】
【表3】
【0029】
これらの結果を図1に示す。図示のように、モールドフラックス中のPの濃度を5%以下に制御することにより、筋状模様の発生を防止できることが確認された。
図1