【解決手段】溶接ワイヤを送給しながら溶接を行うアーク溶接制御方法において、アーク発生状態で溶融池を形成する第1期間T1と、アークを消弧して溶接ワイヤと溶融池とを短絡状態にして溶接ワイヤが溶融池からの熱によって溶融する第2期間T2と、アークを再発生させる第3期間T3とを備え、一定の溶接速度Wsで第1期間T1〜第3期間T3を繰り返す。第2期間T2中はアークが消弧しているので、母材への入熱を小さくすることができ、薄板における溶け落ちを抑制することができる。第2期間T2中も溶接ワイヤを送給Fwしているので、大きなギャップを埋めることができる。このため、ギャップ長の大きな薄板を高品質に溶接することができる。
前記第2期間中は溶接装置からの出力を停止して前記アークを消弧し、前記第3期間中は前記溶接装置からの出力を再開して前記アークを再発生させる、ことを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載のアーク溶接制御方法。
前記第1期間中は、ピーク電流及びベース電流の通電を複数回繰り返すパルスアーク溶接によって前記溶融池を形成する、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のアーク溶接制御方法。
【背景技術】
【0002】
一般的な消耗電極式アーク溶接では、消耗電極である溶接ワイヤを一定速度で送給し、溶接ワイヤと母材との間にアークを発生させて溶接が行なわれる。
【0003】
消耗電極式アーク溶接によってギャップ長の大きな薄板を溶接する場合、溶接電流値を大きくし溶接ワイヤの溶着量を大きくしてギャップを埋めるようにする。その際、溶接電圧値を小さくし母材への入熱を小さくして、溶け落ちを防止する。しかし、この方法ではアーク長が極めて短くなり、短絡が多数回発生して、スパッタ発生量が多くなりビード外観が悪くなるという問題がある。
【0004】
特許文献1の発明は、いわゆるステッチパルス溶接法に関するものである。ステッチパルス溶接法では、溶接トーチを停止させてアーク発生状態にして溶融池を形成する第1工程と、溶接ワイヤの送給を停止又は非常に低速にし、かつ、アークを消弧又は低入熱のアーク発生状態にして溶接トーチを所定ピッチだけ移動させる第2工程とを繰り返す。ステッチパルス溶接法では、溶接時の入熱(第1工程)と冷却(第2工程)とをコントロールすることができるので、薄板の溶接が可能となる。しかし、この溶接法では、第2工程中は、溶接ワイヤは溶融しないので溶着量には寄与しないために、ギャップ長が大きい場合には適用することが困難となる。さらに、この溶接法では、溶接トーチの移動と停止を繰り返すために、平均溶接速度が遅くなり、溶接作業の効率が低下するという問題がある。
【0005】
特許文献2の発明では、パルスアーク溶接を行う第1工程と、ショートアーク溶接を行う第2工程とを繰り返すものである。このように溶接法の種類を所定比率で切り換えることによって母材への入熱量をコントロールすることができる。しかし、この溶接法では、一般的な消耗電極式アーク溶接法を切り換えて使用するために母材への入熱が大きくなり、ギャップ長の大きな薄板を高品質に溶接することができないという問題がある。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0017】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。以下、同図を参照して、各ブロックについて説明する。
【0018】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述するインバータ駆動信号Dvに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を上記のインバータ駆動信号Dvに従って高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器、整流された直流を平滑するリアクトルと、を備えている。
【0019】
減流抵抗器Rは、上記の電源主回路PMと溶接トーチ4との間に挿入される。この減流抵抗器Rの値は、短絡負荷(0.01〜0.03Ω程度)の10倍以上大きな値(0.5〜3Ω程度)に設定される。この減流抵抗器Rが通電路に挿入されると、溶接電源内の直流リアクトル及び外部ケーブルのリアクトルに蓄積されたエネルギーが急放電される。トランジスタTRは、減流抵抗器Rと並列に接続されて、後述する駆動信号Drに従ってオン又はオフ制御される。
【0020】
送給モータWMは、後述する送給制御信号Fcを入力として、正送と逆送とを繰り返して溶接ワイヤ1を送給速度Fwで送給する。この送給モータWMには、過渡応答性の速いモータが使用される。溶接ワイヤ1の送給速度Fwの変化率及び送給方向の反転を速くするために、送給モータWMは溶接トーチ4の先端の近くに設置される場合がある。また、送給モータWMを2個使用して、プッシュプル方式の送給系とする場合もある。
【0021】
溶接ワイヤ1は、上記の送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。本発明において、母材2の材質は鋼材であり、薄板とは2mm以下の板厚であり、大きなギャップ長とは2mm以上のギャップ長である。
【0022】
溶接ロボットRMは、上記の溶接トーチ4を把持し、教示プログラムに従って溶接トーチ4を溶接開始位置から溶接終了位置まで所定の溶接速度Wsで移動させる。
【0023】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。
【0024】
短絡判別回路SDは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡/アーク判別値(10V程度に設定)未満であるときは短絡期間にあると判別してHighレベルとなり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
【0025】
第1期間設定回路T1Rは、予め定めた第1期間設定信号T1rを出力する。第2期間設定回路T2Rは、予め定めた第2期間設定信号T2rを出力する。
【0026】
期間判別回路KHは、上記の第1期間設定信号T1r、上記の第2期間設定信号T2r及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、以下の処理を行い、期間判別信号Khを出力する。
1)第1期間設定信号T1rによって定まる第1期間T1中は期間判別信号Kh=1を出力する。
2)続けて、第2期間設定信号T2rによって定まる第2期間T2中は期間判別信号Kh=2を出力する。
3)続けて、第3期間T3中は期間判別信号Kh=3を出力する。
4)その後に、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク)に変化すると上記1)に戻る。
【0027】
送給速度設定回路FRは、上記の期間判別信号Khを入力として、Kh=1又は2のときは予め定めた正の値の正送送給速度設定値となる送給速度設定信号Frを出力し、Kh=3のときは予め定めた負の値の逆送送給速度設定値となる送給速度設定信号Frを出力する。これにより、溶接ワイヤ1は、第1期間T1及び第2期間T2中は正送され、第3期間T3中は逆送される。
【0028】
送給制御回路FCは、上記の送給速度設定信号Frを入力として、この設定値に相当する送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0029】
くびれ検出回路NDは、上記の短絡判別信号Sd、上記の電圧検出信号Vd及び上記の電流検出信号Idを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときの電圧検出信号Vdの電圧上昇値が基準値に達した時点でくびれの形成状態が基準状態になったと判別してHighレベルとなり、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点でLowレベルになるくびれ検出信号Ndを出力する。また、短絡期間中の電圧検出信号Vdの微分値がそれに対応した基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。さらに、電圧検出信号Vdの値を電流検出信号Idの値で除算して溶滴の抵抗値を算出し、この抵抗値の微分値がそれに対応する基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。
【0030】
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。電流比較回路CMは、この低レベル電流設定信号Ilr及び上記の電流検出信号Idを入力として、Id<IlrのときはHighレベルになり、Id≧IlrのときはLowレベルになる電流比較信号Cmを出力する。
【0031】
駆動回路DRは、上記の電流比較信号Cm及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化するとLowレベルに変化し、その後に電流比較信号CmがHighレベルに変化するとHighレベルに変化する駆動信号Drを上記のトランジスタTRのベース端子に出力する。したがって、この駆動信号Drはくびれが検出されるとLowレベルになり、トランジスタTRがオフ状態になり通電路に減流抵抗器Rが挿入されるので、短絡負荷を通電する溶接電流Iwは急減する。そして、急減した溶接電流Iwの値が低レベル電流設定信号Ilrの値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルになり、トランジスタTRがオン状態になるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の状態に戻る。
【0032】
電流制御設定回路ICRは、上記の期間判別信号Kh、上記の低レベル電流設定信号Ilr及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icrを出力する。
1)期間判別信号Kh=1又は2のときは、低レベル電流設定信号Ilrの値を電流制御設定信号Icrとして出力する。
2)期間判別信号Kh=3に変化すると、電流制御設定信号Icrの値を、予め定めた短絡時傾斜で予め定めた短絡時ピーク設定値まで上昇させ、その値を維持する。
3)その後に、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化すると、電流制御設定信号Icrの値を低レベル電流設定信号Ilrの値に切り換えて維持する。
【0033】
電圧平均化回路VAVは、上記の電圧検出信号Vdを平均化して、電圧平均信号Vavを出力する。電圧設定回路VRは、所望値の電圧設定信号Vrを出力する。
【0034】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の電圧設定信号Vrと上記の電圧平均信号Vavとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。V/FコンバータVFは、上記の電圧誤差増幅信号Evに応じた周波数を有するパルス周波数信号Tfを出力する。このパルス周波数信号Tfは、ピーク期間とベース期間とを1周期とする周波数を決定する信号である
【0035】
ピーク期間タイマ回路TTPは、上記のパルス周波数信号Tfの周波数ごとに予め定めたピーク期間TpだけHighレベルとなるピーク期間信号Ttpを出力する。したがって、このピーク期間信号Ttpは、ピーク期間Tp中はHighレベルとなり、ベース期間中はLowレベルとなる信号である。
【0036】
ベース電流設定回路IBRは、予め定めたベース電流設定信号Ibrを出力する。ベース電流設定信号Ibrの設定範囲は、20〜50A程度である。
【0037】
ピーク電流設定回路IPRは、予め定めたピーク電流設定信号Iprを出力する。ピーク電流設定信号Iprは、溶接ワイヤの直径、材質、送給速度等に応じて、400〜600A程度に設定される。
【0038】
パルス電流設定回路IPBRは、上記のベース電流設定信号Ibr、上記のピーク電流設定信号Ipr及び上記のピーク期間信号Ttpを入力として、ピーク期間信号TtpがHighレベルに変化すると予め定めた傾斜で上昇してピーク電流設定信号Iprの値を維持するパルス電流設定信号Ipbrを出力し、ピーク期間信号TtpがLowレベルに変化すると予め定めた傾斜で下降してベース電流設定信号Ibrの値を維持するパルス電流設定信号Ipbrを出力する。
【0039】
電流設定回路IRは、上記の電流制御設定信号Icr、上記のパルス電流設定信号Ipbr及び上記の期間判別信号Khを入力として、Kh=1のときはパルス電流設定信号Ipbrを電流設定信号Irとして出力し、Kh=2又は3のときは電流制御設定信号Icrを電流設定信号Irとして出力する。したがって、期間判別信号Kh=1となる第1期間T1中は、通常のパルスアーク溶接となる。
【0040】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流設定信号Irと上記の電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0041】
インバータ駆動回路DVは、上記の電流誤差増幅信号Ei及び上記の期間判別信号Khを入力として、Kh=1又は3のときは電流誤差増幅信号Eiに従ってPWM変調制御を行い上記の電源主回路PMのインバータ回路を駆動するためのHighレベルとなるインバータ駆動信号Dvを出力し、Kh=2のときはインバータ回路の出力を停止させるためのLowレベルとなるインバータ駆動信号Dvを出力する。したがって、溶接装置は、第1期間T1及び第3期間T3中は電力を出力し、第2期間T2中は出力を停止する。
【0042】
図2は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を説明するための、
図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は期間判別信号Khの時間変化を示し、同図(B)はインバータ駆動信号Dvの時間変化を示し、同図(C)は溶接ワイヤ1の送給速度Fwの時間変化を示し、同図(D)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(E)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(F)はくびれ検出信号Ndの時間変化を示し、同図(G)は駆動信号Drの時間変化を示し、同図(H)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(I)は溶接速度Wsの時間変化を示す。以下、同図を参照して説明する。
【0043】
同図(A)に示すように、期間判別信号Kh=1である時刻t1〜t2の期間が第1期間T1となる。期間判別信号Kh=2である時刻t2〜t3の期間が第2期間T2となる。期間判別信号Kh=3である時刻t3〜t4の期間が第3期間T3となる。期間判別信号Khは、階段状の波形として表示しており、一番低いときがKh=1のときであり、中間のときがKh=2のときであり、一番高いときがKh=3のときである。第1期間T1及び第2期間T2は各々所定値に設定されている。第3期間T3は、第2期間T2の終了時点で開始し、同図(Hに示す短絡判別信号SdがLowレベル(アーク再発生)に変化した時点で終了する。同図(I)に示すように、溶接速度Wsは全期間中所定値に設定されており、一定の速度である。第1期間T1は、例えば100msであり、第2期間T2は、例えば20msである。
【0044】
(1)時刻t1〜t2の第1期間T1中の動作
第1期間T1中は、同図(B)に示すように、インバータ駆動信号DvはHighレベルであるので溶接装置は電力を出力する。同図(C)に示すように、送給速度Fwは、負の値の逆送送給速度値から傾斜を有して変化して正の値の正送送給速度値に達するとその値を維持する。同図(D)に示すように、溶接電流Iwは、台形波のピーク電流Ip及びベース電流Ibの通電を1周期として複数回繰り返す波形となる。同図(E)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwと相似形の波形となる。同図(H)に示すように、短絡判別信号Sdは、アークが発生した状態であるのでLowレベルとなる。同図(F)に示すように、くびれ検出信号NdはLowレベルのままであるので、同図(G)に示すように、駆動信号DrはHighレベルとなり、
図1のトランジスタTRはオン状態となる。このために、通電路の減流抵抗器Rはバイパスされる(挿入されない状態)。第1期間T1中は、通常のパルスアーク溶接が行われ、母材2に溶融池が形成される。
【0045】
(2)時刻t2〜t3の第2期間T2中の動作
時刻t2において、第1期間T1が所定値に達すると、同図(A)に示すように、期間判別信号Kh=2に変化する。これに応動して、同図(B)に示すように、インバータ駆動信号DvはLowレベルに変化するので、溶接装置からの出力は停止する。但し、同図(C)に示すように、送給速度Fwは正送送給速度値を維持する。同図(E)に示すように、溶接電圧Vwは0Vとなる。同図(D)に示すように、溶接電流Iwも0Aとなる。同図(H)に示すように、短絡判別信号Sdは、溶接電圧Vw=0Vとなるので、時刻t2にHighレベル(短絡状態)に変化する。しかし、溶接ワイヤ1と溶融池とが実際に短絡状態となるのは、溶接ワイヤ1が送給されて溶融池に到達するまでの数ms程度遅延した時点となる。溶接ワイヤ1と溶融池との短絡状態は、第2期間T2が終了するまで維持される。短絡状態において、溶接ワイヤ1は溶融池からの熱によって溶融する。換言すれば、第2期間T2の長さは、溶接ワイヤ1が溶融池からの熱によって溶融することができる時間長さの範囲内で設定される。
【0046】
(3)時刻t3〜t4の第3期間T3中の動作
時刻t3において、第2期間T2が所定値に達すると、同図(A)に示すように、期間判別信号Kh=3に変化する。これに応動して、同図(B)に示すように、インバータ駆動信号DvはHighレベルに変化するので、溶接装置からの出力が再開する。同時に、同図(C)に示すように、送給速度Fwは、正送送給速度値から傾斜を有して変化し、逆送送給速度値に達するとその値を維持する。すなわち、時刻t3から溶接ワイヤ1は溶融池から離反する方向に送給される。時刻t3において、同図(D)に示すように、溶接電流Iwは、0Aから短絡時傾斜で上昇し、短絡時ピーク値に達するとその値を維持する。同図(E)に示すように、溶接電圧Vwは、短絡状態であるので、0Vから数Vの短絡電圧値に変化する。
【0047】
同図(E)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが短絡時ピーク値となる時刻t31あたりから上昇する。これは、溶接ワイヤ1の逆送及び溶接電流Iwによるピンチ力の作用により、溶接ワイヤ1の先端の溶滴にくびれが次第に形成されるためである。
【0048】
時刻t32において、短絡期間中の溶接電圧Vwの電圧上昇値が基準値に達すると、くびれの形成状態が基準状態になったと判別して、同図(F)に示すように、くびれ検出信号NdはHighレベルに変化する。くびれ検出信号Ndは、時刻t32のくびれの検出時点でHighレベルとなり、時刻t4のアーク再発生時点でLowレベルとなる。
【0049】
時刻t32において、くびれ検出信号NdがHighレベルになったことに応動して、同図(G)に示すように、駆動信号DrはLowレベルになるので、
図1のトランジスタTRはオフ状態となり減流抵抗器Rが通電路に挿入される。同時に、
図1の電流設定信号Irが低レベル電流設定信号Ilrの値に小さくなる。このために、同図(D)に示すように、溶接電流Iwは短絡時ピーク値から低レベル電流値へと急減する。そして、時刻t33において溶接電流Iwが低レベル電流値まで減少すると、同図(G)に示すように、駆動信号DrはHighレベルに戻るので、
図1のトランジスタTRはオン状態となり減流抵抗器Rは短絡される。同図(D)に示すように、溶接電流Iwは、電流設定信号Irが低レベル電流設定信号Ilrのままであるので、時刻t4のアーク再発生までは低レベル電流値を維持する。したがって、トランジスタTRは、時刻t32にくびれ検出信号NdがHighレベルに変化した時点から時刻t33に溶接電流Iwが低レベル電流値に減少するまでの期間のみオフ状態となる。同図(E)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが小さくなるので時刻t32から一旦減少した後に急上昇する。低レベル電流値は、例えば50Aに設定される。
【0050】
時刻t4において、溶接ワイヤの逆送及び溶接電流Iwの通電によるピンチ力によってくびれが進行してアークが再発生すると、同図(E)に示すように、溶接電圧Vwの値は短絡/アーク判別値以上となる。この結果、同図(H)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベル(アーク発生状態)に変化する。これに応動して、同図(A)に示すように、期間判別信号Kh=1に戻る。これ以降は、上述した第1期間T1の動作に戻る。このようにして、第1期間T1〜第3期間T3の動作を繰り返すことになる。
【0051】
上述した実施の形態1においては、第1期間T1中の溶接法をパルスアーク溶接法としたが、消耗電極式アーク溶接法であれば良い。上述した実施の形態1においては、第1期間T1を所定値としたが、以下のようにしても良い。溶接法がパルスアーク溶接法である場合には、ピーク電流Ip及びベース電流Ibの通電を1周期として、周期が所定回数繰り返す期間としても良い。また、第1期間T1中の溶接電流Iwの積分地が所定値に達する期間としても良い。上述した実施の形態1においては、第2期間T2を所定値としたが、溶接ワイヤが溶融されているかを判別して、溶融している期間としても良い。溶接ワイヤが溶融しているかは、送給モータWMのトルクから判別する。
【0052】
上述した実施の形態1においては、第2期間T2中の送給速度Fwの値を第1期間T1中と同一としたが、ギャップを埋めることができれば異なる値に設定しても良い。上述した実施の形態1においては、第3期間T3中にアークを再発生させるときに溶接ワイヤを逆送しているが、スパッタ発生量の増加が許容できれば正送のままとしても良い。上述した実施の形態1においては、第3期間T3中にくびれ検出制御を行っているが、スパッタ発生量の増加が許容できるのであればくびれ検出制御を行わないようにしても良い。
【0053】
上述した実施の形態1においては、第3期間T3中にアークが再発生した時点で第1期間T1に移行する場合であるが、0.1〜3ms程度遅延させて移行させるようにしても良い。
【0054】
以下、上述した本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法の作用効果について説明する。本実施の形態では、アーク発生状態で溶融池を形成する第1期間と、アークを消弧して溶接ワイヤと溶融池とを短絡状態にして溶接ワイヤが溶融池からの熱によって溶融する第2期間と、アークを再発生させる第3期間と、を備え、一定の溶接速度で第1期間〜第3期間を繰り返して溶接を行う。第2期間中は、アークが消弧しているのでアークから母材への入熱がなくなるので、母材への入熱の平均値を小さくすることができる。このために、薄板溶接において溶け落ちを抑制することができる。また、第2期間中は、溶接ワイヤの送給を継続して、溶融池からの熱によって溶接ワイヤを溶融するので、ギャップ長が大きい場合でも、ギャップを埋めることができる。この結果、ギャップ長の大きな薄板に対して、高品質な溶接を行うことができる。さらに、本実施の形態では、第1期間〜第3期間中は、一定の溶接速度であるので、従来技術のように溶接の生産効率を低下させることもない。したがって、本実施の形態によれば、ギャップ長の大きな薄板を高効率に、かつ、高品質に溶接することができる。
【0055】
さらに、本実施の形態において、第1期間及び/又は第2期間を所定値に設定しても良い。このようにすると、第1期間及び/又は第2期間の設定のための複雑な回路を必要としない。
【0056】
さらに、本実施の形態において、第2期間中は溶接装置からの出力を停止してアークを消弧し、第3期間中は溶接装置からの出力を再開してアークを再発生させても良い。このようにすると、アークの消弧及びアークの再発生を簡便に行うことができる。
【0057】
さらに、本実施の形態において、第3期間中は、溶接ワイヤを逆送してアークを再発生させても良い。このようにすると、アークの再発生を円滑に行うことができる。
【0058】
さらに、本実施の形態において、第3期間中は、アークを再発生させるときにくびれ検出制御を行うようにしても良い。このようにすると、アーク再発生時のスパッタ発生量を減少させることができる。
【0059】
さらに、本実施の形態において、第1期間中は、ピーク電流及びベース電流の通電を複数回繰り返すパルスアーク溶接によって溶融池を形成するようにしても良い。このようにすると、パルスアーク溶接に適用することができる。