【解決手段】鋼線強化樹脂板13の第1の表面13aから第2の表面13bに向かって、鋼線強化樹脂板13の厚さ方向にピン15を挿入し、ピン15が挿入された鋼線強化樹脂板13と鋼板14とを、表面13bと鋼板14の第3の表面14aとが向かい合うように重ね合わせ、第1の電極17a及び第2の電極17bを、電極17aが表面13a側でピン15の一端と接触し、電極17bが鋼板14の第4の表面14bと接触するように配置し、電極17aと電極17bとの間に圧縮応力を印加し、電極17aと電極17bとの間を通電し、ピン15の一部、鋼線11の一部及び鋼板14の一部を溶融させ、溶融したピン15の一部、鋼線11の一部及び鋼板14の一部を凝固させてナゲット16を形成する。
前記ピンの直径が、前記鋼線の間隔の1.0倍〜10倍であり、前記ピンの長さが、前記鋼線強化樹脂板の厚さの0.60倍〜1.2倍であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の接合体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高い強度を得ることができる接合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の概要は以下の通りである。
【0008】
(1) 複数の鋼線からなる鋼線群が樹脂に覆われた鋼線強化樹脂板の第1の表面から第2の表面に向かって、前記鋼線強化樹脂板の厚さ方向にピンを挿入する工程と、
前記ピンが挿入された前記鋼線強化樹脂板と鋼板とを、前記第2の表面と前記鋼板の第3の表面とが向かい合うように重ね合わせる工程と、
第1の電極及び第2の電極を、前記第1の電極が前記第1の表面側で前記ピンの一端と接触し、前記第2の電極が前記鋼板の第4の表面と接触するように配置する工程と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に圧縮応力を印加する工程と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間を通電し、前記ピンの一部、前記鋼線の一部及び前記鋼板の一部を溶融させる工程と、
溶融した前記ピンの一部、前記鋼線の一部及び前記鋼板の一部を凝固させてナゲットを形成する工程と、
を含むことを特徴とする鋼線強化樹脂板と鋼板の接合体の製造方法。
【0009】
(2) 前記ピンを挿入する工程は、前記ピン若しくは前記樹脂又はこれらの両方を加熱する工程を有することを特徴とする(1)に記載の鋼線強化樹脂板と鋼板の接合体の製造方法。
【0010】
(3) 前記樹脂は、不燃性無機物粒子を含むことを特徴とする(1)又は(2)に記載の鋼線強化樹脂板と鋼板の接合体の製造方法。
【0011】
(4) 前記鋼線の形態が、単線又は撚り線であり、前記鋼線が、網目状又は略平行に配置されることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の鋼線強化樹脂板と鋼板の接合体の製造方法。
【0012】
(5) 前記ピンが、鋼製の釘又はドリルねじであることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれか1つに記載の鋼線強化樹脂板と鋼板の接合体の製造方法。
【0013】
(6) 前記ピンの直径が、前記鋼線の間隔の1.0倍〜10倍であり、前記ピンの長さが、前記鋼線強化樹脂板の厚さの0.60倍〜1.2倍であることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれか1つに記載の鋼線強化樹脂板と鋼板の接合体の製造方法。
【0014】
(7) 前記第1の電極又は第2の電極が前記鋼線と電気的に接続されていることを特徴とする(1)乃至(6)のいずれか1つに記載の鋼線強化樹脂板と鋼板の接合体の製造方法。
【0015】
(8) 複数の鋼線からなる鋼線群が樹脂に覆われた鋼線強化樹脂板と、
前記鋼線強化樹脂板に挿入されたピンと、
前記鋼線強化樹脂板と重ね合わされた鋼板と、
前記鋼線の一部、前記ピンの一部及び前記鋼板の一部の溶融凝固物を含むナゲットと
を備える接合体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れたナゲットが得られるため、高い強度を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態に係る接合体について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る接合体を示す断面図である。第1の実施形態に係る接合体10は、複数の鋼線11からなる鋼線群が樹脂12に覆われた鋼線強化樹脂板13と、鋼線強化樹脂板13に挿入されたピン15と、鋼線強化樹脂板13と重ね合わされた鋼板14と、鋼線11の一部、ピン15の一部及び鋼板14の一部の溶融凝固物を含むナゲット16とを備える。
【0020】
図2は、第1の実施形態における鋼線群の構成を示す模式図である。第1の実施形態では、鋼線強化樹脂板13中の鋼線群11cには、
図2に示すように、第1の方向に略平行に延伸する複数の鋼線11からなる鋼線群11aと、第1の方向に直交する第2の方向に延伸する複数の鋼線11からなる鋼線群11bとが含まれる。つまり、鋼線群11cは網状の形態を有する。例えば、鋼線11の形態が単線であり、鋼線11は、全長にわたって一定の円形の断面をもち、断面寸法が長さに比べて非常に小さい。
【0021】
(鋼線11)
<鋼線11の成分組成>
C: Cは鋼線11の引張り強度を高めるために有効な成分である。しかし、その含有量が0.3%未満の場合には、引張り強さで3000MPaといった高い強度を安定して鋼線11に付与させることが困難である。さらに、高強度の最終製品を安定して得るためには、C含有量を高めることが有効であり、3500MPa以上の引張り強さを得るためには、例えば、C含有量を0.6%以上にすることが望ましい。一方、C含有量が多すぎれば、鋼材が硬質化して伸線時の断線あるいは延性の低下を招く。特に、C含有量が1.2%を超えれば、その影響が顕著になり、安定した量産が工業的に困難になる。そこで、C含有量は0.3質量%〜1.2質量%であることが好ましく、0.6質量%〜1.2質量%であることがより好ましい。
【0022】
鋼線11の残部は、例えばFe及び不純物である。不純物としては、N、P、S及びOが挙げられる。鋼線11がC以外に合金元素を含んでもよい。合金元素としては、Si、Mn及びCrが挙げられる。
【0023】
<鋼線11の引張り強さ>
鋼材のみで製造される板状部品で最も高強度なものの引張り強さは、約1500MPaである。したがって、その部品に対して高強度化と軽量化で大きなメリットを得るためには、鋼線11の引張り強さが3000MPa以上であることが好ましい。一方、引張り強さが5000MPaを超える鋼線11を得るためには、伸線加工量が大きくなって、伸線中の断線頻度が大きくなる。そこで、鋼線11の引張り強さは3000MPa〜5000MPaであることが好ましく、3500MPa〜5000MPaであることがより好ましい。
【0024】
<鋼線11の直径>
鋼線11の引張り強さを3000MPa以上としつつ、伸線中の断線を抑制して、安定的に製造するためには、鋼線11の直径は1.0mm以下であることが好ましい。一方、鋼線11の直径を0.20mm未満にすると、鋼線11の生産性の低下、あるいは、伸線中の断線頻度の増加が顕著になる。また、鋼線11の直径が0.20mm未満になると、鋼線11を直線状に平行に並べる際の鋼線強化樹脂の生産性の低下も顕著になる。そのため、鋼線11の直径は0.20mm〜1.0mmであることが好ましく、0.30mm〜0.60mmであることがより好ましい。
【0025】
<鋼線11の表面へのめっき>
鋼線11の表面にめっきを施さなくてもよいが、伸線時の摩擦抵抗の低減あるいは部品の使用環境によって、めっきを施してもよい。めっきの例としては、ブラス(Cu−Zn)、Zn、Cu、Niのそれぞれを主体としたものが挙げられる。
【0026】
(鋼線強化樹脂板13)
次に、鋼線強化樹脂板13について説明する。鋼線強化樹脂板13は、複数の鋼線11からなる鋼線群11cが樹脂12に埋め込まれたものである。なお、樹脂12については後述する。
【0027】
鋼線強化樹脂板13は、上述のように、鋼線群11a及び鋼線群11bを含む鋼線群11cが樹脂12に覆われて構成されている。鋼線群11cに、鋼線群11a及び鋼線群11bとは異なる方向に延伸する鋼線が含まれていてもよい。
【0028】
<鋼線11の平均間隔と鋼線強化樹脂板13の厚さとの関係>
鋼線11と樹脂12との接着力を高めるためには、鋼線11同士が密着しない部分を大きくすることが好ましく、さらに鋼線11の直径に対して、樹脂12が所定以上の厚さを有することが好ましい。
【0029】
鋼線11の平均間隔が鋼線11の直径の0.30倍以上で、且つ鋼線強化樹脂板13の厚さが、網状の鋼線群11cの最大厚さの1.10倍以上のときに、鋼線11と樹脂12の接着力が顕著に増加する。
【0030】
なお、鋼線11の平均間隔は、
図2に示すように、第1の方向に略平行な第1の鋼線群11aにおいて、隣接する2本の鋼線間の距離(a、b)と、第2の方向に略平行な第2の鋼線群11bにおいて、隣接する2本の鋼線間の距離(c、d)と、から、平均値として求めた値である。隣接する2本の鋼線は、鋼線群において任意に選択すればよい。
【0031】
さらに、鋼線群11cの最大厚さは、
図3に示すように、2本の鋼線が交差している鋼線の上限と下限の距離(
図3では、鋼線の直径の2倍超である)である。
図3は、網状の鋼線群の詳細を示す模式図である。
【0032】
また、樹脂12の強度は、鋼線11に比べて相対的に低いため、鋼線強化樹脂板13の中で鋼線11の割合が高いことが好ましい。そのため、鋼線11の平均間隔を鋼線11の直径の2.00倍以下、且つ鋼線強化樹脂板13の厚さを鋼線群11cの最大厚さの2.00倍以下にすることが好ましい。
【0033】
以上より、鋼線11の平均間隔は、鋼線11の直径の0.30倍〜2.00倍であることが好ましく、鋼線強化樹脂板13の厚さは、鋼線群11cの最大厚さの1.10倍〜2.00倍であることが好ましい。鋼線11の平均間隔は、鋼線11の直径の0.30倍〜1.50倍であることがより好ましく、鋼線強化樹脂板13の厚さは、鋼線11の直径の1.10倍〜1.50倍であることがより好ましい。鋼線11の平均間隔および鋼線強化樹脂板13の厚さを上記の範囲内とすることにより、特に鋼線強化樹脂板の引張り強さを向上させ、かつ鋼線と樹脂との密着性を良好にして鋼線と樹脂との剥離を抑制することができる。
【0034】
なお、鋼線11を網状にするときの編み方については、特に規定しないが、平織りと呼ばれる、縦糸と横糸を交互に浮き沈みさせて織る方法が好ましい。
【0035】
<樹脂12の種類>
樹脂12の種類は、鋼線強化樹脂板13の使用環境に応じて選択すればよいが、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ、ウレタン、不飽和ポリエステルを使用することができ、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロンを使用することができる。このような樹脂12から選ばれる1種または2種以上を主成分として使用することが好ましい。本明細書において、「主成分」とは、樹脂全体を100質量%とした場合に、50質量%以上を占める成分をいう。
【0036】
熱可塑性樹脂を使用する場合は、樹脂の軟化温度よりも低温で加熱しても、樹脂の損傷を防止することができる。また、後述するピン15を挿入しやすい。熱硬化性樹脂を使用する場合は、耐熱温度以上に熱をかけることにより、樹脂が軟らかくなるため、後述するピン15が挿入されやすくなる。
【0037】
(鋼板14)
鋼板14の種類は特に限定されない。例えば、鋼板14は熱延鋼板であってもよく、冷延鋼板であってもよい。また、溶融めっき処理や電気めっき処理等が施されためっき鋼板であってもよい。自動車用途で使用される場合は、溶融亜鉛めっき処理が施された溶融亜鉛めっき鋼板であってもよい。特に、合金化処理が施された合金化溶融亜鉛めっき鋼板が好ましい。
【0038】
(ピン15)
ピン15は、スポット溶接を行う際、鋼線強化樹脂板13の表面に挿入される。ピン15は、後述するナゲット16を形成する観点から、好ましくは鋼製である。ピン15の形態は、スポット溶接の観点からピン15の頭が大きいことが望ましく、好ましくは釘又はドリルねじである。
【0039】
(ナゲット16)
ナゲット16は、鋼線11の一部、ピン15の一部及び鋼板14の一部の溶融凝固物を含む。このようなナゲット16により鋼線11及び鋼板14が一体化されているため、優れた強度を得ることができる。
【0040】
第1の実施形態に係る接合体10によれば、高い強度を得ることができる。
【0041】
次に、第1の実施形態に係る接合体の製造方法について説明する。
図4は、第1の実施形態に係る接合体の製造方法を工程順に示す断面図である。
【0042】
まず、
図4(a)に示すように、複数の鋼線11からなる鋼線群11cが樹脂12に覆われた鋼線強化樹脂板13の第1の表面13aから第2の表面13bに向かって、鋼線強化樹脂板13の厚さ方向にピン15を挿入する。ピン15を挿入する際には、ピン15若しくは樹脂12又はこれらの両方を加熱することが好ましい。加熱により樹脂12が軟化し、亀裂及び割れの発生を抑制することができるからである。ピン15及び樹脂12を加熱せずに、予め樹脂12に穴を開けてピン15を挿入してもよく、そのまま挿入してもよい。
【0043】
例えば、予めピン15を200〜300℃に加熱しておき、ピン15を樹脂12に押し付け、挿入する。樹脂12の軟化温度を超える温度までピン15を加熱することにより、樹脂12が軟化するため、樹脂12に亀裂が生じたり、樹脂12が割れたりすることを防止することができる。樹脂12が熱可塑性樹脂である場合は、樹脂の軟化温度よりも低温でピン15を挿入しても、樹脂の損傷を防止することができる。
【0044】
ピン15の表面には、防錆性を有するめっきや表面処理等を施してもよい。露出しているピン15の表面(上部)の腐食等を防ぐことができるためである。
【0045】
ピン15の直径は、好ましくは鋼線11の間隔の1.0倍〜10倍である。ピン15の直径が鋼線11の間隔の1.0倍よりも小さい場合は、ピン15が鋼線11に接触せずに貫通してしまうおそれがあり、ナゲット16の形成に鋼線11が関与できない場合がある。ピン15の直径が鋼線11の間隔の10倍よりも大きい場合は、樹脂12にピン15が刺さり難くなり、樹脂12の割れ等の原因となり得る。
【0046】
ピン15の長さは、好ましくは鋼線強化樹脂板13の厚さの0.60倍〜1.2倍である。ピン15の長さが鋼線強化樹脂板13の厚さの0.60倍よりも短い場合は、鋼線強化樹脂板13の途中までしかピン15が刺さらず、圧縮応力を印加してもピン15が鋼板14まで到達しないため、スポット溶接を行うことが難しくなる。ピン15の長さが鋼線強化樹脂板13の厚さに対して1.2倍よりも長い場合は、ピン15が樹脂12から過剰に突き出てしまい、鋼線強化樹脂板13と鋼板14との間で位置ずれが生じやすくなる。
【0047】
ピン15の直径及び長さを上記の範囲内とすることにより、鋼線強化樹脂板13のスポット溶接を可能とし、溶接部の強度を向上させることができる。
【0048】
樹脂12は、不燃性無機物粒子を含んでもよい。不燃性無機物粒子は、例えば、酸化物、水酸化物、ケイ酸塩、炭酸塩若しくは硫酸塩又はこれらの任意の組み合わせを含む。不燃性無機物粒子は、好ましくは、マグネシウム、カルシウム、バリウム又はアルミニウムの酸化物、水酸化物、ケイ酸塩、炭酸塩又は硫酸塩の1種又は2種以上を含み、特に好ましくは、水酸化マグネシウム若しくは水酸化アルミニウム又はこれらの両方を含む。
【0049】
不燃性無機物粒子の含有量は、好ましくは20体積%〜40体積%である。このような含有量であれば、スポット溶接時に樹脂が焼けてしまうことをより抑制することができる。不燃性無機物粒子の含有量が20体積%よりも少ない場合は、不燃性無機物粒子を配合したことによる十分な難燃性を得難い。不燃性無機物粒子の含有量が40体積%よりも多い場合は、不燃性無機物粒子と樹脂との結着性が劣るため、樹脂が脆くなりやすい。
【0050】
上述したように、樹脂12が不燃性無機物粒子を含むことにより、難燃効果が得られる。特に、水酸化マグネシウム又は水酸化アルミニウムは、鋼材との界面に緻密な腐食生成物を形成するため、鋼線強化樹脂板に耐食性を付与することができる。したがって、不燃性無機物粒子の含有により、樹脂に難燃性を付与するのみならず、不燃性無機物粒子が溶出する際に、鋼線強化樹脂板に耐食性を付与することができる。特に、Zn系めっきで被覆されている鋼線を用いる場合に有効である。
【0051】
ピン15の挿入後には、
図4(b)に示すように、ピン15が挿入された鋼線強化樹脂板13と鋼板14とを、第2の表面13bと鋼板14の第3の表面14aとが向かい合うように重ね合わせる。その後、第1の電極17a及び第2の電極17bを、第1の電極17aが第1の表面13a側でピン15の一端と接触し、第2の電極17bが鋼板14の第4の表面14bと接触するように配置し、第1の電極17aと第2の電極17bとの間に圧縮応力を印加する。この結果、鋼線強化樹脂板13、鋼板14及びピン15の位置を固定することができる。
【0052】
スポット溶接を行うための電極17をピン15に押し当てると、ピン15が樹脂12に押し付けられ、挿入される。このとき、上述したように、予めピン15を加熱しておくと、樹脂12が軟化するため、樹脂12に亀裂が生じたり、樹脂12が割れたりすることを防止することができる。
【0053】
次に、
図4(c)に示すように、第1の電極17aと第2の電極17bとの間を通電し、ピン15の一部、鋼線11の一部及び鋼板14の一部を溶融させ、溶融物18を生成させる。スポット溶接を行う際の条件は、使用される樹脂12や鋼板14等に応じて、適宜選択されてよい。スポット溶接を行う際、ピン15が鋼線11と接触しながら鋼板14に接近するため、通電加熱によってピン15の一部、鋼線11の一部、及び鋼板14の一部が溶解した溶融物18を得ることができる。
【0054】
電極17間を通電する際、一対の電極17のうち、いずれか一方の電極17a、17bが鋼線11と電気的に接続されてもよい。一方の電極17a、17bを鋼線11と電気的に接続することにより、より確実に後述する強固なナゲット16を形成させることができる。
【0055】
スポット溶接を行う際、鋼線強化樹脂板13と鋼板14は、電極17で押さえているので、板同士がずれる可能性は少ない。より確実に板同士がずれないようにするために、鋼線強化樹脂板13と鋼板14を拘束冶具等で押さえてもよい。
【0056】
ピン15の一部、鋼線11の一部、及び鋼板14の一部を溶融させた後、
図4(d)に示すように、電極17間の通電を停止し、溶融したピン15の一部、鋼線11の一部及び鋼板14の一部を凝固させてナゲット16を形成する。その後、電極17を移動させて電極17間の圧縮応力を解除すると共に、電極17を取り外す。これにより、鋼線強化樹脂板13と鋼板14の接合体10が得られる。
【0057】
溶融したピン15の一部、鋼線11の一部及び鋼板14の一部が凝固したため、一体化した強固なナゲット16を形成させることができる。このような強固なナゲット16が形成されるため、溶接部の強度が高く、接合体10が優れた強度を有することとなる。
【0058】
以上のように、第1の実施形態に係る鋼線強化樹脂板と鋼板の接合体を製造することができる。
【0059】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る接合体について説明する。
図5は、第2の実施形態における鋼線群の構成を示す模式図である。
【0060】
第1の本実施形態においては、鋼線11の形態が単線であり、鋼線群11cが網状であるが、第2の実施形態に係る接合体に含まれる鋼線強化樹脂板の鋼線群は、単線で略平行に配置された複数の鋼線から構成されている。なお、鋼線強化樹脂板以外については、第1の実施形態に係る鋼線強化樹脂板と鋼板の接合体と同様の構成であるため、説明は省略する。
【0061】
<鋼線の平均間隔と鋼線強化樹脂板の厚さとの関係>
鋼線と樹脂との接着力を高めるためには、鋼線同士が密着させないようにすることが好ましく、さらに鋼線の直径に対して、樹脂が所定以上の厚さを有することが好ましい。
【0062】
鋼線の平均間隔が鋼線の直径の0.30倍以上で、且つ鋼線強化樹脂板の厚さが鋼線の直径の1.20倍以上のときに、鋼線と樹脂の接着力が顕著に増加する。なお、鋼線の平均間隔は、
図5に示すように、複数の鋼線21が略平行に配置され鋼線群を形成している場合に、隣接する2本の鋼線間の距離(a、b)の平均値として求めた値である。隣接する2本の鋼線は、鋼線群において任意に選択すればよい。
【0063】
一方、樹脂の強度は、鋼線21に比べて相対的に低いため、鋼線強化樹脂板の中で鋼線21の割合を高めることが好ましい。そのため、鋼線21の平均間隔を鋼線21の直径の2.00倍以下、且つ鋼線強化樹脂板の厚さを鋼線21の直径の3.00倍以下にすることが好ましい。
【0064】
以上より、鋼線21の平均間隔は、鋼線21の直径の0.30倍〜2.00倍であることが好ましく、鋼線強化樹脂板の厚さは、鋼線21の直径の1.20倍〜3.00倍であることが好ましい。鋼線21の平均間隔は、鋼線21の直径の0.30倍〜1.20倍であることがより好ましく、鋼線強化樹脂板の厚さは、鋼線21の直径の1.20倍〜2.00倍であることがより好ましい。鋼線21の平均間隔および鋼線強化樹脂板の厚さを上記の範囲内とすることにより、特に鋼線強化樹脂板の引張り強さを向上させ、かつ鋼線と樹脂との密着性を良好にして鋼線と樹脂との剥離を抑制することができる。
【0065】
<埋め込み前の鋼線同士の結合>
樹脂に鋼線を埋め込む前に、鋼線同士を結合させていなくてもよいが、埋め込む前に結合させることで、鋼線の間隔のばらつきが低減し、また樹脂に埋め込むときの生産性が向上する。鋼線同士の接着には熱硬化樹脂、有機繊維を用いるとよい。
【0066】
第2の実施形態に係る接合体によっても、高い強度を得ることができる。
【0067】
また、第2の実施形態に係る鋼線強化樹脂板と鋼板の接合体の製造方法についても、第1の実施形態に係る鋼線強化樹脂板と鋼板の接合体の製造方法と同様に実施することができる。
【0068】
なお、鋼線強化樹脂板の鋼線群が、撚り線で略平行に配置された複数の鋼線から構成されていてもよい。この場合も、高い強度を得ることができる。鋼線の形態が撚り線である場合は、剛性が低くなるため、圧縮応力が負荷された際に変形しやすい。したがって、圧縮応力を加える際は、この点に注意することが好ましい。
【0069】
なお、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【実施例】
【0070】
次に、本発明の実施例について説明する。実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0071】
<実施例1>
本実施例1では、線径が0.2mm、長さが平面視で100mmである単線の鋼線を用いた。この鋼線同士の平均間隔が0.5mmになるように平織りにした、網状の鋼線群を作製した。樹脂にはエポキシ樹脂を用いた。作製した鋼線群をエポキシ樹脂に埋め込み、寸法が100mm×100mm×1.0mmである鋼線強化樹脂板を得た。鋼板には、寸法が100mm×100mm×1.0mmである普通炭素鋼を用いた。ピンとして、円盤型で頭付きの鋼製のピンを用いた。ピンの足部分の直径は2.0mm、長さは1.0mmであり、ピンの頭部分の直径は5mmであった。そして、これら鋼線強化樹脂板、ピン及び鋼板を用いてスポット溶接により接合体を製造した。
【0072】
スポット溶接は、電極としてドームラジアス型Cr−Cu、φ6mm−R40を用い、加圧力を70N/mm
2、スクイズ時間を40サイクル、通電時間を10サイクル、ホールド時間を10サイクル、アップスロープをなしという条件下で行った。
【0073】
そして、得られた接合体中のナゲットの生成状態を確認した。また、接合部の接合強度を測定した。接合強度の測定では、鋼線強化樹脂板と鋼板に引張力を付与し、その際の接合部における引張せん断強度を測定し、それを接合強度とした。
【0074】
この結果、ナゲットは、ピンの一部、鋼線の一部、及び鋼板の一部の溶融凝固物を含んでいた。また、引張せん断強度は1.5kN/spotであり、良好な接合強度を示した。
【0075】
<実施例2>
本実施例2では、鋼線同士の平均間隔が0.5mmになるように略平行に配置した鋼線群を用いたこと以外、上記実施例1と同様の鋼線強化樹脂板及び鋼板を用いた。また、ピンとして、円盤型で頭付きの鋼製のピンを用いた。ピンの足部分の直径は2.0mm、長さは1.0mmであり、ピンの頭部分の直径は5mmであった。
【0076】
鋼線強化樹脂板と鋼板との接合は、スポット溶接を用いて上記実施例1と同様に行った。そして、得られた接合体中のナゲットの生成状態を確認し、接合部の引張せん断強度を測定した。
【0077】
この結果、ナゲットは、ピンの一部、鋼線の一部、及び鋼板の一部の溶融凝固物を含んでいた。また、引張せん断強度は1.2kN/spotであり、良好な接合強度を示した。
【0078】
<比較例1>
比較例1では、鋼線同士の平均間隔を2.0mmとしたこと以外は、上記実施例1と同様の鋼線強化樹脂板及び鋼板を用いた。また、ピンとして、円盤型で頭付きの鋼製のピンを用いた。ピンの足部分の直径は1.0mm、長さは1.0mmであり、ピンの頭部分の直径は5mmであった。
【0079】
鋼線強化樹脂板と鋼板との接合は、スポット溶接を用いて上記実施例1と同様に行った。そして、得られた接合体中のナゲットの生成状態を確認し、接合部の引張せん断強度を測定した。
【0080】
この結果、ナゲットは、ピンの一部及び鋼板の一部の溶融凝固物を含んでいたものの、ナゲット中に鋼線は含まれていなかった。また、引張せん断強度は0.3kN/spotであり、十分な接合強度は得られなかった。
【0081】
<比較例2>
比較例2では、寸法が100mm×100mm×1.0mmで、多数の炭素繊維が樹脂中に分散した炭素繊維強化樹脂(CFRP)板を用いた。鋼板には、寸法が100mm×100mm×1.0mmである普通炭素鋼を用いた。ピンとして、円盤型で頭付きの鋼製のピンを用いた。ピンの足部分の直径は1.0mm、長さは1.0mmであり、ピンの頭部分の直径は5mmであった。
【0082】
炭素繊維強化樹脂板と鋼板との接合は、スポット溶接を用いて上記実施例1と同様に行った。そして、得られた接合体中のナゲットの生成状態を確認し、接合部の引張せん断強度を測定した。
【0083】
この結果、ナゲットは、ピンの一部及び鋼板の一部の溶融凝固物並びに炭素繊維のごく一部を含んでいた。ただし、ナゲットの外側部分に接している炭素繊維とナゲットとの間に密着性は確認されなかった。また、引張せん断強度は0.2kN/spotであり、十分な接合強度は得られなかった。
【0084】
この結果から、本発明によれば、高い強度を有する鋼線強化樹脂板と鋼板の接合体を得られることが確認された。一方、本発明の範囲外の接合体では、十分な接合強度が得られなかった。