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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-20633(P2017-20633A)
(43)【公開日】2017年1月26日
(54)【発明の名称】噛合クラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 11/10 20060101AFI20170105BHJP
【FI】
   F16D11/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-141109(P2015-141109)
(22)【出願日】2015年7月15日
(71)【出願人】
【識別番号】391037755
【氏名又は名称】バンノー精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077780
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 泰甫
(74)【代理人】
【識別番号】100106024
【弁理士】
【氏名又は名称】稗苗 秀三
(74)【代理人】
【識別番号】100167841
【弁理士】
【氏名又は名称】小羽根 孝康
(74)【代理人】
【識別番号】100168376
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 清隆
(72)【発明者】
【氏名】平尾 督之
【テーマコード(参考)】
3J056
【Fターム(参考)】
3J056AA02
3J056AA62
3J056BA04
3J056BB21
3J056BC10
3J056CC02
3J056CC37
3J056CC39
3J056CC42
3J056GA26
(57)【要約】
【課題】移動体、アウタースリーブ及び押込み体の全てについて、その損傷を抑えることのできる噛合クラッチの提供。
【解決手段】中心軸方向に移動可能な移動体7と空転可能な空転体8とを設ける。移動体7及び空転体8に三角歯9、10を形成する。移動体7とこれに隣接するインナースリーブ11との間に底狭の押込み空間12を構成する。押込み空間12に押し込む押込み体13を設ける。押込み空間12の外周側に移動して押込み体13を押し込むアウタースリーブ14を設ける。押込み体13に移動体接触部39及びアウタースリーブ接触部40を別々に設ける。アウタースリーブ14が押込み空間12を外周側から覆って押込み体13の押込み状態を維持する。押込み体13が底狭の押込み空間12を押し広げて移動体7を空転体8に向けて移動させ、三角歯9、10を噛み合わせる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチ中心軸方向に移動可能な移動体と、該移動体に対して相対的に空転可能な空転体と、前記移動体及び空転体の互いに対向する部位に夫々形成された噛合歯とを備え、前記移動体の移動による噛合歯の噛合せ及びその解除によって移動体及び空転体の回転に対する接続状態と切離状態とを切り換える噛合クラッチであって、
前記空転体とは反対側で前記移動体に隣接するインナースリーブと、該インナースリーブと前記移動体との間に形成される押込み空間と、該押込み空間に押し込まれて前記移動体を空転体に向けて移動させる押込み体と、前記押込み空間を外周側から覆う位置に移動して押込み体の押込み状態を維持するアウタースリーブと、が設けられ、
前記押込み空間は、クラッチ中心軸を通る平面による切断面を底狭形状に設定され、
前記押込み体は、前記移動体の端面と接触する移動体接触部と、前記アウタースリーブの内面と接触するアウタースリーブ接触部と、を別々に有する円柱状とされ、アウタースリーブの移動によって押込み空間に押し込まれることを特徴とする噛合クラッチ。
【請求項2】
前記アウタースリーブの内面が円筒面状とされ、押込み体中心軸を通る断面において、前記アウタースリーブ接触部の外縁がR状に設定されたことを特徴とする請求項1に記載の噛合クラッチ。
【請求項3】
前記押込み空間の一方の内壁面を構成する移動体の端面がクラッチ中心軸方向と直交する平面状とされると共に、前記アウタースリーブの内面が円筒面状とされ、
前記押込み体は、押込み体中心軸を通る断面において、前記移動体接触部の外縁が直線状に設定され、前記アウタースリーブ接触部の外縁がアウタースリーブの内面と等しい曲率に設定されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の噛合クラッチ。
【請求項4】
前記押込み体は、押込み体中心軸方向における両端部が中央部よりも小径に設定され、その両端部が移動体接触部とされると共に、中央部がアウタースリーブ接触部とされ、
前記押込み空間の一方の内壁面を構成する移動体の端面に、前記押込み体のアウタースリーブ接触部のうちの移動体接触部よりも突出する外周部を侵入させる侵入溝が形成されたことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の噛合クラッチ。
【請求項5】
前記インナースリーブの位置を調整して押込み空間のクラッチ中心軸方向における長さを調整する調整部が設けられたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の噛合クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噛合歯の噛合せ及びその解除によって回転に対する接続状態と切離状態とを切り換える噛合クラッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、一般産業機械においては、駆動力伝達のオンオフを行うための手段として、回転中にスリップさせることなく確実に作動させることができ、かつ、摩耗や損傷を生じにくく保守の負担を低減することができる噛合クラッチを採用することが多い。
【0003】
図15に特許文献1が開示する噛合クラッチを示す。この噛合クラッチは、中心軸方向に移動可能な移動体101を空転体102に噛み合わせることによってトルク伝達を行うものであり、移動体101及び空転体102の端面に噛合歯103が形成されている。さらに、アウタースリーブ104を中心軸方向に移動させて、移動体101に隣接する押込み空間105に円柱状の押込み体106を押し込むことにより、移動体101が移動して、空転体102との接続状態と切離状態とを切り換えるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−26461号公報(段落番号0027、0036、図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1の噛合クラッチは、アウタースリーブを中心軸方向に移動させて押込み体を径方向内向きに押し込みつつ、この押込み体で移動体を移動させるものであり、円柱状の押込み体がアウタースリーブの内面及び移動体の端面の両方に擦れながら接触する。
【0006】
しかも、アウタースリーブの内面が曲面で、移動体の端面が平面であるため、押込み体の母線を直線状に設定した場合、移動体の端面には、押込み体が全長に渡って線接触するものの、アウタースリーブの内面には、押込み体の端部のみが点接触し、押込み体及びアウタースリーブに磨耗などの損傷を生じやすい。
【0007】
一方、押込み体の母線を曲線状に設定することにより、押込み体とアウタースリーブの内面とを線接触させることができるものの、押込み体の中央部が移動体の端面と点接触することになり、押込み体及び移動体に磨耗などの損傷を生じやすい。
【0008】
本発明は、移動体、アウタースリーブ及び押込み体の全てについて、その損傷を抑えることのできる噛合クラッチの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る噛合クラッチは、クラッチ中心軸方向に移動可能な移動体と、この移動体に対して相対的に空転可能な空転体と、移動体及び空転体の互いに対向する部位に夫々形成された噛合歯とを備えたものであり、移動体の移動による噛合歯の噛合せ及びその解除によって移動体及び空転体の回転に対する接続状態と切離状態とを切り換えるものである。
【0010】
さらに、この噛合クラッチは、空転体とは反対側で移動体に隣接するインナースリーブと、インナースリーブと移動体との間に形成される押込み空間と、押込み空間に押し込まれて移動体を空転体に向けて移動させる押込み体と、押込み空間を外周側から覆う位置に移動して押込み体の押込み状態を維持するアウタースリーブと、を設け、その押込み空間を、クラッチ中心軸を通る平面による切断面を底狭形状に設定したものであり、押込み体を、移動体の端面と接触する移動体接触部と、アウタースリーブの内面と接触するアウタースリーブ接触部と、を別々に有する円柱状とし、アウタースリーブの移動によって押込み空間に押し込むようにしたものである。
【0011】
上記構成によれば、インナースリーブと移動体との間の底狭形状の押込み空間に押込み体を押し込んで移動体を移動させるので、移動体を直接操作することなく移動させて、噛合クラッチの接続状態と切離状態とを切り換えることができる。
【0012】
しかも、押込み体に、移動体接触部及びアウタースリーブ接触部を別々に形成するので、アウタースリーブを移動させて、円柱状の押込み体を移動体及びアウタースリーブにヘルツ接触させながら押込み空間に押し込む際、押込み体と移動体の端面との接触面積を大きく設定しつつ、押込み体とアウタースリーブの内面との接触面積を大きく設定することができる。これにより、移動体及びアウタースリーブの両者について、押込み体とのヘルツ接触によるヘルツ応力を抑えることができ、移動体、アウタースリーブ及び押込み体の全てについて、磨耗などの損傷を抑えることができる。
【0013】
さらに、噛合クラッチの接続状態では、押込み空間をアウタースリーブで覆って押込み体の押込み状態を維持するので、トルクに起因して移動体に作用する軸方向力を押込み体を介してインナースリーブで受けることができる。その際、押込み体が軸方向力を受けてインナースリーブに当接することにより、その軸方向力が径方向外向きの力に変換されてアウタースリーブに作用するが、直接操作されるアウタースリーブには、この径方向外向きの力が作用するのみであり、軸方向力がそのままアウタースリーブに作用することはない。
【0014】
これにより、移動体を直接外部から押えることなく、噛合歯の噛合せが外れるのを阻止することができるので、例えば、噛合クラッチの接続状態と切離状態とを切り換えるための操作用部材などで、トルクに起因する軸方向力を受ける必要がなく、噛合クラッチとその操作用部材とのスライド部分の摩耗を防止して十分な耐久性を得ることができる。しかも、押込み体を介して移動体を押えているので、トルクに起因する軸方向力を作用させたまま噛合クラッチの接続を解除したとしても、その際の反動を軽減することができる。
【0015】
さらに、押込み体をアウタースリーブの移動によって押込み空間に押し込むので、押込み体を押し込むための操作と押込み空間を覆うための操作とを兼用することができ、アウタースリーブを移動させるだけの簡単な操作によって、噛合クラッチの接続状態と切離状態とを切り換えることができる。
【0016】
ここで、噛合歯には、三角歯、矩形歯、梯形歯(台形歯)、リード歯、セミリード歯、ノコ歯等が採用される。特に、三角歯は、噛み合う際に周方向に多少のずれを生じたとしても、互いの歯面に沿って滑りながら確実に噛み合うことができ、しかも、トルクの作用した状態のまま切り離すことができると共に、一般に小形で歯数が多い分、噛み合うチャンスが多いという点で優れている。さらに、噛合歯として三角歯を採用した噛合クラッチは、トルクに起因する軸方向力が作用しやすいという点で、本発明の構成を採用するのが特に好適である。
【0017】
また、三角歯とは、完全な三角形状をなす噛合歯だけでなく、丸みを帯びた略三角形状の噛合歯をも含む概念である。また、リード歯とは、回転を伝える歯面が回転方向と直角をなし、背面が周方向のずれに対して互いに滑らせて噛み合うよう導く斜面(リード面)とされた噛合歯をいう。また、セミリード歯とは、リード歯のリード面の一部に矩形部を形成した噛合歯をいう。以下、これらの用語は、本明細書及び特許請求の範囲において同じ意味で用いる。
【0018】
本発明の具体的な構成として、アウタースリーブの内面を円筒面状とし、押込み体中心軸を通る断面において、アウタースリーブ接触部の外縁をR状に設定するようにしてもよい。
【0019】
この構成によれば、アウタースリーブの円筒面状の内面に、外縁がR状のアウタースリーブ接触部を接触させるので、外縁が直線状のアウタースリーブ接触部をその端部で接触させる場合と比較して、アウタースリーブにアウタースリーブ接触部がヘルツ接触することによるヘルツ応力を抑えることができる。
【0020】
また、押込み空間の一方の内壁面を構成する移動体の端面をクラッチ中心軸方向と直交する平面状とすると共に、アウタースリーブの内面を円筒面状とし、押込み体については、押込み体中心軸を通る断面において、移動体接触部の外縁を直線状に設定し、アウタースリーブ接触部の外縁をアウタースリーブの内面と等しい曲率に設定するようにしてもよい。
【0021】
この構成によれば、移動体の端面を平面状として、押込み体の移動体接触部の外縁を直線状に設定するので、押込み体を移動体に線接触させることができる。しかも、アウタースリーブの内面を円筒面状として、押込み体のアウタースリーブ接触部の外縁をアウタースリーブの内面と等しい曲率に設定するので、押込み体とアウタースリーブ接触部とを線接触させることができる。これにより、移動体及びアウタースリーブの両者について、押込み体との接触によるヘルツ応力を十分に小さくして、磨耗などの損傷を抑えることができる。
【0022】
また、押込み体の押込み体中心軸方向における両端部を中央部よりも小径に設定し、その両端部を移動体接触部とすると共に、中央部をアウタースリーブ接触部とし、押込み空間の一方の内壁面を構成する移動体の端面に、押込み体のアウタースリーブ接触部のうちの移動体接触部よりも突出する外周部を侵入させる侵入溝を形成するようにしてもよい。
【0023】
この構成によれば、押込み体の小径の両端部を移動体接触部とし、中央部をアウタースリーブ接触部とするので、例えばR状のアウタースリーブ接触部を両側に分けることなく中央部のみに形成して、押込み体の精度を高めることができる。しかも、移動体の端面の侵入溝にアウタースリーブ接触部の外周部を侵入させるので、その侵入溝を、押込み体をクラッチ径方向に案内するガイド溝として利用することができる。
【0024】
なお、押込み体の両端部を移動体接触部として、中央部をアウタースリーブ接触部とする代わりに、例えば、押込み体の中央部を直線状の移動体接触部とし、この移動体接触部の直線に連続するR状のアウタースリーブ接触部を押込み体の両端部に設定するようにしてもよい。
【0025】
また、インナースリーブの位置を調整して押込み空間のクラッチ中心軸方向における長さを調整する調整部を設けるようにしてもよい。
【0026】
この構成によれば、押込み体を押し込まれる押込み空間のクラッチ中心軸方向の長さを調整部によって調整することができるので、噛合歯の噛み合わせの強弱を調整することができると共に、移動体、アウタースリーブ又は押込み体が磨耗した場合であっても、噛合歯の噛み合わせを所望の状態に設定することができる。
【発明の効果】
【0027】
以上の説明から明らかな通り、本発明によると、アウタースリーブを移動させて、移動体に隣接する底狭形状の押込み空間に押込み体を押し込むこと、又はその解除により、移動体を移動させて噛合クラッチの接続状態と切離状態とを切り換えることができる。しかも、押込み体に移動体接触部及びアウタースリーブ接触部を別々に形成するので、移動体及びアウタースリーブの両者について、押込み体との接触面積を大きく設定し、移動体、アウタースリーブ及び押込み体の全てについて、磨耗などの損傷を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係る噛合クラッチを備えた動力伝達機構の模式図
図2】噛合クラッチの切離状態を示す図で、上半分は断面図、下半分は側面図
図3】噛合クラッチの接続状態を示す図で、上半分は断面図、下半分は側面図
図4】噛合クラッチの正面図
図5】噛合クラッチの背面図
図6図2のA−A断面図
図7図2のB−B断面図
図8図2のC−C断面図
図9図3のD−D断面図
図10図3のE−E断面図
図11図3のF−F断面図
図12】切離状態の噛合クラッチが接続される様子を示す図
図13】接続状態の噛合クラッチが切り離される様子を示す図
図14】噛合クラッチの別の形態を示す図で、図10に相当する断面図
図15】従来の噛合クラッチの断面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る噛合クラッチを実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【0030】
噛合クラッチ1は、コンベア、ウィンチ、昇降機、特殊車両、船舶の補機、小形船の主機、圧延機、伸線機、プレス機、ロール成型機、木材加工機、繊維機械、食品加工機、食品包装機、混合機、撹拌機、送風機、水門、各種自動機、試験器、安全装置などの一般産業機械において、駆動力伝達のオンオフを行うためのものであり、例えば、図1に示すように、原動機2から減速機3を介して入力される駆動力を被動機4に伝達するための動力伝達機構5に装備される。
【0031】
図2図11に示すように、噛合クラッチ1は、クラッチハブ6と、クラッチハブ6に対して回転不能かつクラッチ中心軸方向に移動可能に設けられた移動体7と、クラッチハブ6に対してクラッチ中心軸方向に移動不能かつクラッチハブ6及び移動体7に対して空転可能に設けられた空転体8と、移動体7及び空転体8を噛み合わせるための三角歯9、10と、空転体8とは反対側で移動体7に隣接するインナースリーブ11と、インナースリーブ11と移動体7との間に形成される押込み空間12と、押込み空間12に押し込まれて移動体7を空転体8に向けて移動させる押込み体13と、押込み空間12を外周側から覆う位置に移動して押込み体13を押込み空間12に押し込むと共に押込み体13の押込み状態を維持するアウタースリーブ14と、移動体7を空転体8から離間させる向きに付勢する切離用ばね15と、を備え、移動体7の移動による三角歯9、10の噛合せ及びその解除によって移動体7及び空転体8の回転に対する接続状態と切離状態とを切り換えるようになっている。
【0032】
図1に示すように、動力伝達機構5は、噛合クラッチ1をいわゆる通し軸方式で装備したものであり、噛合クラッチ1と、被動機4に接続された回転軸16と、チェーン17及びスプロケット18、19とからなり、噛合クラッチ1のクラッチハブ6が回転軸16に装着され、噛合クラッチ1の空転体8がチェーン17、スプロケット18、19及び減速機3を介して原動機2に接続されている。なお、チェーン17及びスプロケット18、19に代えて、プーリ、ベルト、ギヤなども採用可能である。
【0033】
この動力伝達機構5は、移動体7と空転体8とを噛み合わせて噛合クラッチ1を接続することにより、原動機2から空転体8に伝えられた駆動力を移動体7及びクラッチハブ6と一体に回転する回転軸16に伝えて、原動機2の駆動力を被動機4に伝達する。一方、噛合クラッチ1を切り離すことにより、原動機2の駆動力は、被動機4に伝達されることなく切断される。
【0034】
図1において、20は回転軸16を支持するための軸受け、21はクラッチハブ6を回転軸16と一体に回転させるためのキー、22は噛合クラッチ1をオンオフ操作するためのハンドル、23は空転体8にスプロケット18を取り付けるための取付リング、24は取付リング23を回転軸16で空転自在に支持するためのボールベアリング、25、26は噛合クラッチ1の中心軸方向の移動を規制して回転軸16に固定するための固定リングである。
【0035】
図2図11に示すように、クラッチハブ6は、回転軸16に外嵌可能な大きさの内径に設定された例えば鋼製の筒状とされ、その外周側に、空転体8、移動体7及びインナースリーブ11が中心軸方向に沿ってこの順に配置される。
【0036】
クラッチハブ6の中央付近には、その全周に渡って、移動体7を回転不能かつ中心軸方向に移動可能に案内するためのスプライン歯27が形成されている。また、クラッチハブ6の内周面には、キー21を係合させてクラッチハブ6を回転軸16と一体に回転させるためのキー溝28が形成されている。
【0037】
移動体7は、例えば鋼製で筒部とフランジ部とからなる断面略L字形のリング状とされ、その筒部の内周側にクラッチハブ6のスプライン歯27に係合するスプライン歯29が形成されている。
【0038】
移動体7の筒部には、空転体8と対向する側の端面で開口する複数のばね収容部30が形成され、この複数のばね収容部30の夫々に切離用ばね15を収容するようになっている。また、移動体7の筒部のうちの空転体8と反対側の端面は、クラッチ中心軸方向と直交する平面状とされている。
【0039】
移動体7のフランジ部は、筒部のうちの空転体8と対向する側の端部から径方向で外向きに突出して形成され、このフランジ部のうちの空転体8と対向する面に、噛合歯としての例えば小形の三角歯9が形成されている。
【0040】
空転体8は、例えば鋼製のリング状とされ、ボールベアリング31を介してクラッチハブ6に支持されて、クラッチハブ6に対して空転(回転)可能とされると共に、止め輪32、33によってクラッチハブ6からの抜け出しが阻止される。空転体8のうち、移動体7と対向する面に三角歯10が形成され、移動体7及び空転体8の互いに対向する部位に夫々形成された三角歯9、10が噛み合うようになっている。
【0041】
インナースリーブ11は、例えば鋼製の筒状とされ、その中心軸方向端部と移動体7との間に構成される押込み空間12に押込み体13が配置される。このインナースリーブ11は、クラッチハブ6と一体に回転するよう、固定用キー34を介してクラッチハブ6の外周側に係合すると共に、カラー35、座金36及び調整ねじ37によってクラッチハブ6からの抜け出しが阻止される。
【0042】
カラー35、座金36及び調整ねじ37は、クラッチハブ6の端部外周側に装着されて、押込み空間12のクラッチ中心軸方向における長さを調整する調整部38を構成し、カラー35及び座金36を介して、調整ねじ37でインナースリーブ11の位置を調整するようになっている。
【0043】
インナースリーブ11の端面には、テーパー11aが形成され、クラッチ中心軸を通る平面による押込み空間12の切断面を底狭形状に構成する。テーパー11aの中心軸に対する傾斜角度は、例えば20°〜70°の範囲に設定される。
【0044】
テーパー11aの傾斜角度を20°未満に設定すると、押込み空間12に押し込まれる押込み体13がテーパー11aに沿って噛合クラッチ1の中心軸方向に大きく移動するので、その分、噛合クラッチ1の全長が長くなる。一方、傾斜角度が70°を超過すると、押込み空間12から押込み体13を押し出しにくくなり、噛合クラッチ1を切り離しにくくなる。
【0045】
押込み体13は、押込み体中心軸方向における両端部を中央部よりも小径に設定した構造の円柱状とされ、アウタースリーブ14の移動によって押込み空間12に押し込まれて、その押込み状態で、ほぼ全体がインナースリーブ11の外周面よりも内側に収まるようになっている。
【0046】
押込み体13の小径の両端部は、押込み体中心軸を通る断面における外縁を直線状に設定され、押込み空間12の一方の内壁面を構成する移動体7の平面状の端面と線接触する移動体接触部39とされる。
【0047】
押込み体13の中央部は、インナースリーブ11の肉厚と同程度の直径に設定され、アウタースリーブ14の円筒面状の内面と接触するアウタースリーブ接触部40とされる。アウタースリーブ接触部40は、押込み体中心軸を通る断面における外縁がアウタースリーブ14の内面と等しい曲率のR状に設定され、アウタースリーブ14の円筒面状の内面と線接触する。さらに、アウタースリーブ接触部40の外周部は、移動体接触部39よりも突出して、移動体7の端面に形成された侵入溝41に侵入し、この侵入溝41に沿って押込み体13をクラッチ径方向に案内する。
【0048】
アウタースリーブ14は、例えば鋼製の筒状とされ、押込み空間12に押込み体13を押し込むと共にその押込み状態を維持するためのスリーブ本体42と、押込み空間12から押し出された押込み体13を覆うためのカバー部43とからなる。
【0049】
スリーブ本体42は、インナースリーブ11の外径と同程度の内径に設定され、アウタースリーブ14がインナースリーブ11と一体に回転すると共に空転体8に向かって移動可能なよう、滑動形キー44を介してインナースリーブ11と係合される。
【0050】
カバー部43は、例えばスリーブ本体42よりも薄肉で、スリーブ本体42よりも内径を大きく設定され、スリーブ本体42から空転体8に向かって突出して、押込み体13を押込み空間12に押し込むことなく覆うようになっている。
【0051】
スリーブ本体42とカバー部43との境界部分には、テーパー45が形成され、アウタースリーブ14が空転体8に向かって移動してスリーブ本体42が押込み空間12を覆う際に、テーパー45が押込み体13を押圧して、押込み空間12に押込み体13を徐々に押し込むようになっている。なお、テーパー45に代えて段差を設け、この段差の突出する角部分を押込み体13に当接させて押込み空間12に押し込むこともできる。
【0052】
アウタースリーブ14の外周側には、ハンドル22に設けられた滑り子(図示せず)を挿入するための周溝46が形成されている。周溝46に挿入された滑り子は、アウタースリーブ14に対して周方向にスライド自在かつ中心軸方向に係止され、噛合クラッチ1の回転を阻害することなく、ハンドル22によってアウタースリーブ14を中心軸方向に移動操作して噛合クラッチ1の接続状態と切離し状態とを切り換えることができるようになっている。
【0053】
切離用ばね15は、移動体7のばね収容部30に収容されると共に、ばね収容部30の開口から突出する長さに設定された例えばコイルばねとされ、その先端が、三角歯9、10よりも径方向内側で移動体7と空転体8との間に介装されたリング状のばね受け47に当接される。この切離用ばね15は、アウタースリーブ14を空転体8から遠ざける方向に移動させてスリーブ本体42による押込み体13の押込み状態を解除した際、押込み空間12から押込み体13を押し出しながら移動体7を押し返して、三角歯9、10の噛み合いを解除する。
【0054】
次に、図12を用いて、切離状態の噛合クラッチ1を接続状態に切り換える様子を説明する。
【0055】
まず、噛合クラッチ1が切離状態にあるとき、切離用ばね15の付勢力によって移動体7が空転体8から離間し、移動体7とインナースリーブ11との間の押込み空間12が狭められて、底狭の押込み空間12から押込み体13の一部が押し出されている。また、アウタースリーブ14は、空転体8から離れた側に位置し、スリーブ本体42よりも内径の大きいカバー部43が、押込み空間12から押し出された押込み体13を覆っている。さらに、押込み体13は、その両側の移動体接触部39が移動体7の端面に線接触し、中央のアウタースリーブ接触部40がインナースリーブ11のテーパー11aに接触すると共に、外周部を移動体7の端面の侵入溝41に侵入させている(図12(a)参照)。
【0056】
ハンドル22を操作して、アウタースリーブ14を空転体8に近づく方向に移動させると、アウタースリーブ14のテーパー45が押込み体13のアウタースリーブ接触部40に略線接触する(図12(b)参照)。
【0057】
アウタースリーブ14をさらに移動させることにより、テーパー45に略線接触した押込み体13が底狭の押込み空間12を押し広げながら、移動体7の端面及びその侵入溝41とインナースリーブ11のテーパー11aとに沿って押込み空間12に徐々に押し込まれる。このとき、アウタースリーブ接触部40の外縁がアウタースリーブの内面と等しい曲率のR状に設定されていることにより、テーパー45の角部に対して、アウタースリーブ接触部40が、強く点接触することなく、緩く線接触する。これにより、押込み空間12の一面を構成する移動体7が切離用ばね15の付勢力に抗して空転体8に向かって移動し、移動体7の三角歯9と空転体8の三角歯10とが噛み合う(図12(c)、(d)参照)。
【0058】
アウタースリーブ14を所定位置まで移動させることにより、押込み空間12を外周側から覆うスリーブ本体42が押込み体13のアウタースリーブ接触部40を押えて押込み状態を維持し、噛合クラッチ1を接続状態とする。したがって、ハンドル22を操作して強制的にアウタースリーブ14を移動させない限り、移動体7の三角歯9と空転体8の三角歯10とを噛み合わせは保持される(図12(e)参照)。
【0059】
次に、図13を用いて、接続状態の噛合クラッチ1を切離状態に切り換える様子を説明する。
【0060】
まず、噛合クラッチ1が接続状態にあるとき、アウタースリーブ14が空転体8に近づいた側に位置し、そのスリーブ本体42が押込み空間12に押し込まれた押込み体13を外周側から覆って押え、押込み体13の押込み状態を維持している。このとき、押込み空間12に押し込まれた押込み体13は、移動体7とインナースリーブ11との間の底狭の押込み空間12を押し広げ、切離用ばね15の付勢力に抗して移動体7を空転体8に近接させて、移動体7の三角歯9と空転体8の三角歯10とを噛み合わせている(図13(a)参照)。
【0061】
ハンドル22を操作して、アウタースリーブ14を空転体8から離れる方向に移動させると、スリーブ本体42による押込み体13の押えが解除されていく。そうすると、底狭の押込み空間12を狭めて押込み体13を押し出しながら、切離用ばね15の付勢力によって移動体7が空転体8から離間する方向に移動し、移動体7の三角歯9と空転体8の三角歯10との噛合せを解除して、噛合クラッチ1を切離状態とする(図13(b)〜(e)参照)。
【0062】
上記構成によれば、押込み体13の両側の移動体接触部39の外縁を直線状に設定しているので、移動体7の平面状の端面に線接触させることができる。しかも、アウタースリーブ接触部40の外縁をアウタースリーブ14の内面と等しい曲率のR状に設定しているので、アウタースリーブ14の内面側に設定したR状のテーパー45に略線接触させることができ、特に、テーパー45の角部に対して、アウタースリーブ接触部40を強く点接触させることなく、線接触させることができる。これにより、押込み空間12の壁面及び押込み体13に磨耗などの損傷を生じにくくすることができる。
【0063】
また、移動体7の端面に侵入溝41を形成して、アウタースリーブ接触部40の外周部を侵入させるので、アウタースリーブ接触部40によって邪魔されることなく、移動体7の端面に移動体接触部39を接触させることができ、しかも、侵入溝41によって、押込み体13をクラッチ径方向に案内することができる。
【0064】
また、クラッチハブ6からのインナースリーブ11の抜け出しを阻止するカラー35、座金36及び調整ねじ37が調整部38を構成して、押込み空間12のクラッチ中心軸方向における長さを調整可能にするので、移動体7の端面や、インナースリーブ11のテーパー11a、押込み体13が磨耗した場合であっても、噛合クラッチ1を所望の強さで噛み合わせることができる。
【0065】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、適宜変更を加えることができる。例えば、図14に示すように、押込み体13のアウタースリーブ接触部40は、その外縁の曲率をアウタースリーブ14の内面と等くするだけでなく、アウタースリーブ14の内面とは異なる曲率のR状に設定することもできる。この場合、アウタースリーブ接触部40は、アウタースリーブ14の内面に対して線接触することなく、点接触することになるが、アウタースリーブ接触部40をR状に設定することにより、アウタースリーブ14とのヘルツ接触によるヘルツ応力を小さくすることができる。
【0066】
また、押込み体については、両端部に移動体接触部39を設定して、中央部にアウタースリーブ接触部40を設定する代わりに、両端部の外縁をR状に形成してアウタースリーブ接触部とし、中央部の外縁を直線状に形成して移動体接触部とすることもできる。
【0067】
さらに、押込み体13は、移動体接触部39とアウタースリーブ接触部40とを別々に形成したものであればよく、例えば、両側の移動体接触部39と中央のアウタースリーブ接触部40とを共に直線状に形成することもできる。この場合、中央のアウタースリーブ接触部40の両端部がアウタースリーブ14の内面に点接触することになるが、アウタースリーブ接触部40の幅が狭い分、押込み体13の全体を直線状に設定したものよりも、緩やかな角度で接触させることができ、ヘルツ応力を小さくすることができる。
【0068】
また、噛合歯としては、三角歯9、10だけでなく、矩形歯、梯形歯(台形歯)、リード歯、セミリード歯、ノコ歯など他の歯形を採用することもできる。また、空転体8から移動体7に駆動力を伝達する代わりに、移動体7から空転体8に駆動力を伝達することもできる。
【0069】
また、上記の実施形態では、噛合クラッチ1を動力伝達機構5に通し軸方式で装備した例を示したが、通し軸方式に代えて、突き合わせ軸方式で噛合クラッチ1を装備することもできる。この突き合わせ軸方式は、空転体8にボス付きのフランジを取り付けて、これを原動機2の軸に取り付けると共に、被動機4の軸にクラッチハブ6を取り付けることにより、原動機2と被動機4の両軸を突き合わせて噛合クラッチ1を装備する方式である。この場合、噛合クラッチ1の接続により、原動機2から空転体8に伝えられた駆動力が、移動体7及びクラッチハブ6と一体に回転する被動機4の軸に伝達される。
【符号の説明】
【0070】
1 噛合クラッチ
6 クラッチハブ
7 移動体
8 空転体
9、10 三角歯
11 インナースリーブ
12 押込み空間
13 押込み体
14 アウタースリーブ
15 切離用ばね
38 調整部
39 移動体接触部
40 アウタースリーブ接触部
41 侵入溝
45 テーパー
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