【解決手段】コバルトを含有せず、(A)Ti、V、Mo、Wから選択される1種以上、(B)界面活性剤、複素環式化合物、脂肪族アミン、酸アミド、アミノカルボン酸、アンモニウム塩、脂肪族スルホン酸、芳香族アルデヒド、カルボン酸から選択される1種以上、(C)三価クロムイオン、(D)塩化物イオン、フッ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオンから選択される1種以上、(E)Si、その化合物から選択される1種以上からなる成分を含有する化成皮膜処理剤。その製造方法は、(1)成分(A)と(B)を含む混合物(F)と、成分(C)を含む組成物と、成分(D)を含む組成物との混合物(H)を生成する工程、又は、成分(A)と(B)を含む混合物(F)と、成分(C)と成分(D)を含む混合物(G)との混合物(H)を生成する工程と、(2)混合物(H)と成分(E)を含む組成物を混合する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記文献では、塩水噴霧などの試験方法により、防錆効果が得られていることが示されているものの、経時的な安定性についての検討はなされていない。例えば、一定時間放置して沈殿が生じると、使用の際に不便となる。そこで、本発明は、経時安定性に優れた化成皮膜処理剤及びその製造方法を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の成分を、特定の順序で調合することで、安定性が得られることを見出した。こうした知見に基づき本発明は一側面において以下のように特定される。
(発明1)
化成皮膜処理剤であって、
前記化成皮膜処理剤は、コバルトを含有せず、
前記化成皮膜処理剤は、以下の成分を含有し:
(A)Ti、V、Mo、Wからなる群から選択される1種以上、
(B)界面活性剤、複素環式化合物、脂肪族アミン、酸アミド、アミノカルボン酸、アンモニウム塩、脂肪族スルホン酸、芳香族アルデヒド、カルボン酸からなる群から選択される1種以上、
(C)三価クロムイオン、
(D)塩化物イオン、フッ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオンからなる群から選択される1種以上、
(E)Si、それらの化合物からなる群から選択される1種以上
前記化成皮膜処理剤は、
(1)前記成分(A)及び前記成分(B)を含む混合物(F)と、前記成分(C)を含む組成物と、前記成分(D)を含む組成物とを任意の順序で混合して混合物(H)を生成する工程、又は、
前記成分(A)及び前記成分(B)を含む混合物(F)と、前記成分(C)及び前記成分(D)を含む混合物(G)とを混合して混合物(H)を生成する工程と、
(2)前記混合物(H)と前記成分(E)を含む組成物とを混合する工程と
を含む方法によって製造される、該化成皮膜処理剤。
(発明2)
発明1に記載の化成皮膜処理剤であって、
前記成分(A)が0.001〜200g/Lであり、
前記成分(B)が0.1〜100g/Lであり、
前記成分(C)が0.01〜300g/Lであり、
前記成分(D)が0.05〜200g/Lであり、
前記成分(E)が0.1〜300g/Lである、
該化成皮膜処理剤。
(発明3)
金属の保護皮膜形成方法であって、
発明1又は2に記載の化成皮膜処理剤を用いて化成皮膜処理を行う工程と、
Si、樹脂、ワックス、三価クロムからなる群のうち少なくとも1種以上を含有する液体組成物にて処理する工程と
を含む、該方法。
(発明4)
発明3に記載の方法であって、
前記金属が亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、銅、ニッケル、クロム、鉄、錫及びこれらの合金から選択される1種以上の金属である、該方法。
(発明5)
化成皮膜処理剤の製造方法であって、
前記化成皮膜処理剤は、コバルトを含有せず、
前記化成皮膜処理剤は、以下の成分を含有し:
(A)Ti、V、Mo、Wからなる群から選択される1種以上、
(B)界面活性剤、複素環式化合物、脂肪族アミン、酸アミド、アミノカルボン酸、アンモニウム塩、脂肪族スルホン酸、芳香族アルデヒド、カルボン酸からなる群から選択される1種以上、
(C)三価クロムイオン、
(D)塩化物イオン、フッ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオンからなる群から選択される1種以上、
(E)Si、それらの化合物からなる群から選択される1種以上
前記化成皮膜処理剤は、
(1)前記成分(A)及び前記成分(B)を含む混合物(F)と、前記成分(C)を含む組成物と、前記成分(D)を含む組成物とを任意の順序で混合して混合物(H)を生成する工程、又は、
前記成分(A)及び前記成分(B)を含む混合物(F)と、前記成分(C)及び前記成分(D)を含む混合物(G)とを混合して混合物(H)を生成する工程と、
(2)前記混合物(H)と前記成分(E)を含む組成物とを混合する工程と
を含む方法によって製造される、該方法。
(発明6)
発明5に記載の方法であって、
前記各成分(A)の含有量の合計が0.001〜200g/Lであり、
前記各成分(B)の含有量の合計が0.1〜100g/Lであり、
前記各成分(C)の含有量の合計が0.01〜300g/Lであり、
前記各成分(D)の含有量の合計が0.05〜200g/Lであり、
前記各成分(E)の含有量の合計が0.1〜300g/Lである、
該方法。
(発明7)
化成皮膜形成用キットであって、
前記キットは、第一組成物と、第二組成物と、第三組成物とを含み、
前記第一組成物、前記第二組成物、及び前記第三組成物は、コバルトを含有せず、
前記第一組成物は、以下の成分(A)を含む組成物と、以下の成分(B)を含む組成物との組合せ、又は前記成分(A)と前記成分(B)を含む混合物であり、
(A)Ti、V、Mo、Wからなる群から選択される1種以上、
(B)界面活性剤、複素環式化合物、脂肪族アミン、酸アミド、アミノカルボン酸、アンモニウム塩、脂肪族スルホン酸、芳香族アルデヒド、カルボン酸からなる群から選択される1種以上、
前記第二組成物は、以下の成分(C)を含む組成物と、以下の成分(D)を含む組成物との組合せ、又は前記成分(C)と前記成分(D)を含む混合物であり、
(C)三価クロムイオン、
(D)塩化物イオン、フッ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオンからなる群から選択される1種以上、
前記第三組成物は、以下の成分(E)を含む組成物であり、
(E)Si、それらの化合物からなる群から選択される1種以上
前記キットは、前記第一組成物と前記第二組成物とを混合した後で更に前記第三組成物を混合して化成皮膜処理剤を調合するための、該キット。
【発明の効果】
【0007】
本発明においては、化成皮膜処理剤に含まれる各成分を特定の順序で混合することにより、経時安定性を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための具体的な実施形態について説明する。以下の説明は、本発明の理解を促進するためのものである。即ち、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0010】
1.化成皮膜処理剤の最終的な成分
本発明は、一実施形態において、以下の成分を含む化成皮膜処理剤を提供する。
(A)Ti、V、Mo、Wからなる群から選択される1種以上、
(B)界面活性剤、複素環式化合物、脂肪族アミン、酸アミド、アミノカルボン酸、アンモニウム塩、脂肪族スルホン酸、芳香族アルデヒド、カルボン酸からなる群から選択される1種以上、
(C)三価クロムイオン、
(D)塩化物イオン、フッ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオンからなる群から選択される1種以上、
(E)Si、それらの化合物からなる群から選択される1種以上
【0011】
また、本発明は、一実施形態において、コバルトを含有しない化成皮膜処理剤を提供することができる。一実施形態において、コバルトを含有しないとは、コバルトの含有量が0g/Lの場合も含む(元素としての含有量。コバルトについて以下同じ)。また、一実施形態において、化成皮膜処理剤において、コバルトの含有量が不可避的不純物量(例えば、0.001g/L以下、或いは、0.0001g/L以下)分含まれることを許容することができる。
【0012】
また、本発明は、一実施形態において、六価クロムを含有しない化成皮膜処理剤を提供することができる。一実施形態において、六価クロムを含有しないとは、六価クロムの含有量が0g/L(元素としての含有量。六価クロムについて以下同じ)の場合も含む。また、一実施形態において、化成皮膜処理剤において、六価クロムの含有量が不可避的不純物量(例えば、0.001g/L以下、或いは、0.0001g/L以下)分含まれることを許容することができる。
【0013】
2.第一成分
一実施形態において、本発明の化成皮膜処理剤は、上述した成分(A)、即ち、Ti、V、Mo、Wからなる群のうち1種以上を含むことができる。
【0014】
Tiの供給源は、特に限定されないが、酸化チタン(IV)、塩化チタン(III)、塩化チタン(IV)、フッ化チタン(III)、フッ化チタン(IV)、硫酸チタン(III)、硫酸チタン(IV)、チタンフッ化アンモニウム、フッ化チタンカリウム等が挙げられる。
【0015】
Vの供給源は、特に限定されないが、酸化バナジウム(II)、酸化バナジウム(V)、塩化バナジウム(III)、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモン、メタバナジン酸カリウム等が挙げられる。
【0016】
Moの供給源は、特に限定されないが、三酸化モリブデン(VI)、モリブデン酸ナトリウム(VI)、七モリブデン酸六アンモニウム(VI)、モリブデン酸二アンモニウム(VI)、モリブデン酸カルシウム(VI)、モリブデン酸(VI)、リンモリブデン酸(VI)等が挙げられる。
【0017】
Wの供給源は、特に限定されないが、三酸化タングステン、タングステン酸カルシウム、タングステン酸ナトリウム、フッ化タングステン(VI)、パラタングステン酸アンモニウムが挙げられる。
【0018】
分量は、特に限定されないが、これらの元素を合計した含有量は、0.001〜200g/L(元素としての含有量。成分(A)について以下同じ)であってもよく、より好ましくは0.01〜50g/Lであってもよい。0.001g/L未満では安定性や防錆性が低下する可能性があり、200g/L超ではコスト的デメリットが生じ、また処理液の安定性が低下する可能性がある。特に1g/L以上である場合には、耐傷性が向上するため好ましい。
【0019】
3.第二成分
一実施形態において、本発明の化成皮膜処理剤は、上述した成分(B)、即ち、界面活性剤、複素環式化合物、脂肪族アミン、酸アミド、アミノカルボン酸、カルボン酸(乳酸、シュウ酸など)、アンモニウム塩、脂肪族スルホン酸、芳香族アルデヒドからなる群から選択される1種以上を含むことができる。
【0020】
界面活性剤の具体例としては、POEアルキルエーテル、ソルビタン誘導体、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ポリアクリル酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0021】
また複素環式化合物の具体例としては、含窒素複素環化合物が挙げられる。また、更なる具体例としては、単環式の含窒素複素環化合物が挙げられる。より好ましくは、5員環や6員環が挙げられる。最も好ましくは、ピロリジン、ピロール、ピペリジン、ピリジン、イミダゾール、ピラゾール及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0022】
また脂肪族アミンの具体例としては、メチルアミン、トリメチルアミン、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
【0023】
また、酸アミドの具体例としては、ホルムアミド、アセトアミド、アセトアニリド、ベンズアミド、尿素及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0024】
アミノカルボン酸の具体例としては、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、システイン、セリン及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0025】
またアンモニウム塩の具体例としては、塩化アンモニウム、酢酸アンモニム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等が挙げられる。
【0026】
脂肪族スルホン酸の具体例としては、メタンスルホン酸、フェノールスルホン酸、ニトロベンゼンスルホン酸及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0027】
また芳香族アルデヒドの具体例としては、ベンズアルデヒド、バニリン、2−エトキシベンズアルデヒド、3,4−ジヒドロキシベンズアルデヒド及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0028】
また、カルボン酸の具体例としては、乳酸、シュウ酸、クエン酸、酪酸等が挙げられる。
【0029】
分量は、特に限定されないが、これら第二成分を合計した含有量は、0.1〜100g/Lの範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜50g/Lである。0.1g/L未満では防錆性及び処理液の安定性が低下し、100g/L超では安定性や防錆性が低下してしまい、コスト的デメリットが生じる。特に、10g/L以上の場合に耐傷性が向上するため、好ましい。
【0030】
4.第三成分
一実施形態において、本発明の化成皮膜処理剤は、上述した成分(C)、即ち三価クロムイオンを含有する。具体的な供給源としては、塩化クロム、硝酸クロム、硫酸クロム、リン酸クロム、酢酸クロムなどの三価クロム塩が挙げられる。
【0031】
三価クロムイオンの濃度としては、0.01〜300g/Lの範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜250g/Lである。0.01g/L未満では安定性や防錆性が低下し、300g/L超では安定性や防錆性が低下してしまい、コスト的デメリットが生じる。特に、20g/L以上の場合に耐傷性が向上するため、好ましい。
【0032】
5.第四成分
一実施形態において、本発明の化成皮膜処理剤は、上述した成分(D)、即ち、塩化物イオン、フッ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオンからなる群のうちの1種以上を含有する。塩化物イオンの具体例としては塩酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等が挙げられる。またフッ化物イオンの具体例としては、フッ酸、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウム、フッ化アンモニウム等が挙げられる。また硫酸イオンの具体例としては、硫酸、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム、硫酸アンモニウム等が挙げられる。また硝酸イオンの具体例としては、硝酸、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸カルシウム、硝酸アンモニウム等が挙げられる。
【0033】
塩化物イオン、フッ化物イオン、硫酸イオン、及び硝酸イオンの合計濃度としては、0.05〜200g/Lの範囲が好ましく、より好ましくは、0.1〜100g/Lである。0.05g/L未満では安定性や防錆性が低下し、200g/L超では安定性や防錆性が低下してしまい、コスト的デメリットが生じる。特に、5g/L以上の場合に耐傷性が向上するため、好ましい。
【0034】
6.第五成分
一実施形態において、本発明の化成皮膜処理剤は、上述した成分(E)、即ち、Si、それらの化合物からなる群から選択される1種以上を含む。具体例としては、無水珪酸、オルト珪酸、メタ珪酸、ヘキサフルオロ珪酸、コロイダルシリカ等(例:日産化学工業(株)のスノーテックス(登録商標)S、日揮触媒化成(株)のカタロイドSI−550)が挙げられる。
【0035】
ケイ素、ケイ素化合物の濃度としては、0.1〜300g/Lの範囲が好ましく、より好ましくは、0.5〜100g/Lである。0.1g/L未満では耐食性が低下し、300g/L超ではコスト的デメリットが生じ、また処理液の安定性が低下する。特に、28g/L以上の場合に耐傷性が向上するため、好ましい。
【0036】
また、成分(C)と成分(A)の重量比は1:500〜1:0.0002であってもよく、好ましくは1:30〜1:0.002である。また、成分(C)と成分(E)の比は1:1000〜1:0.01であってもよく、好ましくは1:10〜1:0.02である。これにより優れた耐食性の皮膜を安定して得ることが出来る。
【0037】
7.各成分の混合順序
一実施形態において、本発明の化成皮膜処理剤は、上述した成分(A)〜(E)を特定の順序で混合することができる。化成皮膜処理剤の好ましい製造法を
図1に示す。この実施形態において、成分(A)と成分(B)を混合して、混合物(F)を生成する第一工程と、成分(C)と成分(D)とを混合して混合物(G)を生成する第二工程とを先に実施することが好ましい。ここで、第一工程と第二工程は同時並行で実施してもよく、第二工程を行った後で第一工程を実施してもよい。また、上記第一工程では、成分(A)を他の成分と混合した後で、成分(B)と混合してもよい。同様に、成分(B)を他の成分と混合した後で、成分(A)と混合してもよい。第二工程についても同様である。また、成分(C)三価クロムイオンの供給源における対イオンが、成分(D)に該当する場合(即ち、塩化物イオン、フッ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオンから選択される一種以上である場合)には、前記第二工程は省略することができる。
【0038】
この後で、二つの得られた混合物(混合物(F)及び混合物(G))を、更に混合して混合物(H)を得る第三工程を実施することができる。無論、第一工程及び第二工程と、第三工程の間で別の工程を実施してもよい。例えば、第一工程及び第二工程の後で、混合物(F)及び/又は混合物(G)に別の成分を添加してもよい。
【0039】
そして、混合物(H)と、上記成分(E)を混合する第四工程を実施して、化成皮膜処理剤を形成することができる。ここで、第四工程の後で、更に添加成分を添加してもよい。
【0040】
図2は、化成皮膜処理剤の好ましい別の製造法を示す。
図1に示した製造順序との違いとしては、成分(C)と成分(D)とを混合する工程を実施しない点が挙げられる。その代り、成分(C)は混合物(F)と混合され、その後、成分(D)が、更に混合される。
【0041】
一実施形態において、本発明の化成皮膜処理剤は、成分(A)及び成分(B)を含む混合物(F)と、成分(C)を含む組成物と、成分(D)を含む組成物とを任意の順序で混合することができる。ここで任意の順序とは、
図1や
図2に示した順序のみならず、これらを同時に混合する場合も含む。その後、成分(E)を含む組成物を混合することができる。
【0042】
別の一実施形態において、本発明の化成皮膜処理剤は、成分(A)及び成分(B)を含む混合物(F)と、成分(C)及び成分(D)を含む混合物(G)を混合することができる。その後、成分(E)を含む組成物を混合することができる。
【0043】
なお、上述した各種混合物は、混合前の成分として規定した成分のみからなることを意味するわけではない。即ち、混合前の複数の成分に加えて更なる成分を混合してもよい。
【0044】
以上のように、本発明の化成皮膜処理剤は、特定の成分を特定の順序で混合することで、耐食性及び耐傷性に優れた化成皮膜処理剤となる。また、化成皮膜処理剤の安定性も向上する。より具体的には、成分(A)〜(D)を混合した後、成分(E)を混合することで、耐食性、耐傷性、及び安定性を向上させることができる。
【0045】
以下の説明は、本発明の範囲を限定することを意図しないが、混合した成分同士で何かしらの反応が起こり、特定の成分を形成し、耐食性、耐傷性、及び安定性が向上するものと考えられる。従って、不適切な順序で混合すると、こうした所望の耐食性、耐傷性、及び安定性等が得られない。
【0046】
また、上記の混合手段は、特別な手法を用いる必要は無く、撹拌棒等を用いて室温で撹拌することができる。
【0047】
8.皮膜形成処理方法
8−1.対象金属及び対象めっき
一実施形態において、本発明の化成皮膜処理剤は、特定の金属でメッキを行った材料に対して、皮膜形成処理を行うために使用することができる。
【0048】
メッキに使用する金属として、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、銅、ニッケル、クロム、鉄、錫及びこれらの合金が挙げられる。これらを用いためっき方法は、公知技術であり、当業者が適宜選択することができる。
【0049】
また、メッキを施す対象となる金属については、鉄、アルミニウム、アルミニウム合金、亜鉛、亜鉛合金、マグネシウム、マグネシウム合金が挙げられる。
【0050】
8−2.皮膜形成処理条件
金属メッキを施した後、本発明の化成皮膜処理剤を用いて、皮膜形成処理を行うことができる。好ましい処理時間としては、処理時間5〜90秒、より好ましくは処理時間15〜60秒である。好ましい処理温度としては、処理温度10〜80℃、より好ましくは処理温度25〜40℃である。好ましいpHとしては、pH1〜4、より好ましくはpH1.5〜3である。
【0051】
処理時間が上記より短いと十分な防錆皮膜が形成されず耐食性が得られないので好ましくなく、上記より長いと生産性が低下するので好ましくない。処理温度は上記より低いと十分な防錆皮膜が形成されず耐食性が得られないので好ましくなく、上記より高いと過剰な防錆皮膜が形成されてしまい耐食性、意匠性が得られず、処理液の安定性も低下するので好ましくない。また、処理pHが上記より低いと、反応過剰となり十分な防錆皮膜が形成されず耐食性が得られないので好ましくなく、上記より高いと反応不足となり、十分な防錆皮膜が形成されず耐食性が得られないので好ましくない。
【0052】
この方法は、40〜80℃の高温や45〜90秒の比較的長時間処理を行うことも出来るが、用途によっては従来の反応型六価クロメートの処理設備をそのまま使用できる経済的メリットもこの方法の特徴でもある。皮膜生成する処理条件は従来のクロメート処理を行う条件(液温20〜35℃、処理時間10〜40秒、かく拌有り)で処理可能であり、上記の処理は非常に容易である。
【0053】
8−3.皮膜形成後の追加処理
一実施形態において、本発明の方法は、皮膜を形成後、更なる処理を施す工程を含むことができる。例えば、更に化成皮膜処理液による防錆皮膜を形成後にケイ素、その酸化物、樹脂、ワックス、三価クロムの一種以上を含有する液体組成物により追加の保護皮膜を形成するができる。これにより従来の有色クロメートと同等あるいはそれ以上の耐食性を得られることができ、また意匠性にも優れた外観も得られる。
【0054】
保護皮膜形成用のケイ素及びその化合物の含有量としては0.001〜500g/L好ましくは1〜300g/Lが適当であり、不足の場合は耐食性及び耐傷性が得られなくなり、過剰の場合は白色の外観不良を生ずることがある。防錆皮膜、保護皮膜のいずれにおいてもケイ素化合物としては珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム、あるいは粒径100nm以下、より好ましくは50nm以下のコロイダルシリカが好ましい。
【0055】
保護皮膜形成用の樹脂としては特に規定はないが、中でもテフロン(登録商標)樹脂やエポキシ樹脂皮膜、アクリル樹脂皮膜、メラミン樹脂、アクリルシリカ樹脂、アクリルテフロン樹脂が好ましい。耐食性や外観(艶、液たまり、ムラ)などにより適当な濃度を選択する必要があり、1〜800g/L好ましくは10〜500g/Lが高い耐食性を得やすい。
【0056】
保護皮膜形成用のワックスとしては種々のワックスが有るが、石油系ワックス、ポリウレタン系ワックス、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、ポリアクリル酸エステルが好ましい。求められる特性(摩擦係数など)により一概には特定できないが、一般的に0.01〜200g/Lの範囲で有れば、耐食性及び耐傷性にほとんど影響せずに使用できる。
【0057】
ケイ素及びその酸化物、樹脂、ワックスなどを含む保護皮膜の好ましい処理条件としては、処理時間5〜60秒、処理温度5〜80℃、pH7.5〜14、より好ましくは処理時間10〜40秒、処理温度15〜60℃、pH8〜13であり、特に樹脂によっては処理温度10〜30℃である。処理時間が上記より短いと十分な防錆皮膜が形成されず耐食性が得られないので好ましくなく、上記より長いと生産性が低下するので好ましくない。処理温度は上記より低いと十分な保護皮膜が形成されず耐食性が得られないので好ましくなく、上記より高いと過剰な保護皮膜が形成されてしまい耐食性、意匠性が得られず、処理液の安定性も低下するので好ましくない。また、処理pHが上記より低いと、十分な保護皮膜が形成されず耐食性が得られず、処理液の安定性も低下するので好ましくなく、上記より高いと正常な保護皮膜が形成されず耐食性が得られないので好ましくない。
【0058】
保護皮膜形成用の三価クロムとしては塩化クロム、硫酸クロム、硝酸クロム、リン酸クロムなどが考えられる。含有量としては0.1〜500g/L好ましくは1〜200g/Lが適当である。不足の場合は効果が得られなくなり、過剰の場合は効果が頭打ちになり経済的損失が増加すると共に外観不良を生ずることがある。
【0059】
三価クロムによる保護皮膜の好ましい処理条件としては、処理時間5〜60秒、処理温度20〜50℃、pH2〜7、より好ましくは処理時間10〜40秒、処理温度25〜45℃、pH3〜6であり、処理時間及び処理温度は上記より低いと十分な保護皮膜が形成されず耐食性が得られないので好ましくなく、上記より高いと過剰な保護皮膜が形成されてしまい耐食性、意匠性が得られず、処理液の安定性も低下するので好ましくない。また、処理pHが上記より低いと、反応過剰となり十分な保護皮膜が形成されず耐食性が得られないので好ましくなく、上記より高いと反応不足となり、十分な保護皮膜が形成されず耐食性が得られないので好ましくない。
【0060】
9.化成皮膜処理剤用キット
一実施形態において、本発明は、上述した成分(A)〜(E)が既に混合済みの化成皮膜処理剤を供給することができる。また、別の一実施形態において、本発明は、化成皮膜処理剤用キットを提供する。例えば、上述した成分(A)〜(E)が、別々の組成物として含まれるキットとして提供することができる。この場合、化成皮膜処理剤を使用する直前で、上述した成分(A)〜(E)をそれぞれ含む各種組成物を、上述した順序で混合することができる。そして、化成皮膜処理剤を調合することができる。
【0061】
より具体的な例として、化成皮膜処理剤用キットは、少なくとも3種類の組成物群を含むことができる。第一の組成物群は、2つの容器(成分(A)を含む組成物を収容する容器と、成分(B)を含む組成物を収容する容器)の形で提供することができる。あるいは、第一の組成物群は、成分(A)と成分(B)の両方を含む組成物を収容する1つの容器の形で提供することができる。
【0062】
同様に、第二の組成物群は、2つの容器(成分(C)を含む組成物を収容する容器と、成分(D)を含む組成物を収容する容器)の形で提供することができる。あるいは、第二の組成物群は、成分(C)と成分(D)の両方を含む組成物を収容する1つの容器の形で提供することができる。
【0063】
第三の組成物群は、成分(E)を含む組成物を収容する1つの容器の形で提供することができる。
【0064】
これら3つの組成物群は、上述した順序に従って混合し、化成皮膜処理剤を調製することができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明を説明する。
【0066】
試験は1dm
2SPCC板試験片を脱脂などの適当な前処理を行った後、亜鉛めっき(Zn)、亜鉛−鉄合金めっき(Fe共析:約0.35w%)、亜鉛−ニッケル合金めっき(Ni共析:約16w%)のいずれかを施した後使用した。めっきの膜厚は、いずれのめっきも8〜10μmとした。めっき後、水洗、硝酸活性、水洗を行いその後に以下組成の薬剤で処理、水洗、更に保護皮膜形成処理を行う場合は処理し水洗せず、乾燥の順で処理を行った。
【0067】
評価は、JIS Z 2371に従う塩水噴霧試験を行い白錆が5%発生した時間を示す。また、耐傷性評価は処理後の試験片に対しカッターナイフでX字に傷をつけたものをJIS Z 2371に従う塩水噴霧試験で行い、白錆が5%発生した時間を示す。
【0068】
また、経時安定性については、室温で1週間放置した後、外観を観察することによって検証した。具体的には、沈殿が発生した場合を×とし、性状変化が見られなかった場合を〇とした。
【0069】
以下、実施例における成分A〜Eの濃度の記載は、具体的には以下の濃度を意味する。
成分A:Ti、V、Mo、及び/又はWの元素の濃度
成分B:化合物全体の濃度
成分C:三価クロムイオンの濃度
成分D:塩化物イオン、フッ化物イオン、硫酸イオン、及び/又は硝酸イオンの濃度
成分E:Si単体又はそれらの化合物全体の濃度
【0070】
実験例1
表1に示す条件で、化成皮膜形成処理を行った。混合手順については、例えば、「(((A+B)+C)+D)+E」と記載されている場合には、まず、AとB、を混合し、その後Cを混合し、更にDを混合した後、最後に、その混合物をEと混合することを意味する。
【表1】
【0071】
上記表に示すように、混合手順が不適切だと、処理剤の安定性が確保できないことが示された。また、耐傷性についても、著しく起こることが示された。
【0072】
実験例2(成分Aの改変)
成分B、C、D、及びEを以下のように調整した。
B:シュウ酸 10g/L
C:塩化クロム・6水和物 20g/L
D:67.5%硝酸 5g/L
E:スノーテックスS 28g/L
また、混合手順については、(((A+B)+C)+D)+Eの順序で行った。
そして、成分A及び濃度、pH、温度、並びに処理時間について以下のように変化させた。Ti、V、Mo、W、いずれの化合物についても、所定の経時安定性を確保できることが示された。また、所定の耐傷性を確保できることが示された。
【0073】
【表2】
【0074】
実験例3(成分Bの改変)
成分A、C、D、及びEを以下のように調整した。
A:硫酸V 1g/L
C:塩化クロム・6水和物 20g/L
D:67.5%硝酸 5g/L
E:スノーテックスS 28g/L
また、混合手順については、(((A+B)+C)+D)+Eの順序で行った。
そして、成分B及び濃度、pH、温度、並びに処理時間について以下のように変化させた。成分Bに関するいずれの化合物についても、所定の経時安定性を確保できることが示された。また、所定の耐傷性を確保できることが示された。
【0075】
【表3】
【0076】
実験例4(成分Cの改変)
成分A、B、D、及びEを以下のように調整した。
A:硫酸V 1g/L
B:シュウ酸 10g/L
D:67.5%硝酸 5g/L
E:スノーテックスS 28g/L
また、混合手順については、(((A+B)+C)+D)+Eの順序で行った。
そして、成分C及び濃度、pH、温度、並びに処理時間について以下のように変化させた。成分Cに関するいずれの化合物についても、所定の経時安定性を確保できることが示された。また、所定の耐傷性を確保できることが示された。
【0077】
【表4】
【0078】
実験例5(成分Dの改変)
成分A、B、C、及びEを以下のように調整した。
A 硫酸V 1g/L
B シュウ酸 10g/L
C 塩化クロム・6水和物 20g/L
E スノーテックスS 28g/L
また、混合手順については、(((A+B)+C)+D)+Eの順序で行った。
そして、成分D及び濃度、pH、温度、並びに処理時間について以下のように変化させた。成分Dに関するいずれの化合物についても、所定の経時安定性を確保できることが示された。また、所定の耐傷性を確保できることが示された。
【0079】
【表5】
【0080】
実験例6(成分Eの改変)
成分A、B、C、及びDを以下のように調整した。
A:硫酸V 1 g/L
B:シュウ酸 10 g/L
C:塩化クロム・6水和物 20 g/L
D:67.5%硝酸 5g/L
また、混合手順については、(((A+B)+C)+D)+Eの順序で行った。
そして、成分E及び濃度、pH、温度、並びに処理時間について以下のように変化させた。成分Eに関するいずれの化合物についても、所定の経時安定性を確保できることが示された。また、所定の耐傷性を確保できることが示された。
【0081】
【表6】
【0082】
実験例7(めっきの改変)
メッキの条件を、Znめっきのかわりに、亜鉛−鉄合金めっき(Fe共析:約0.35w%)、亜鉛−ニッケル合金めっき(Ni共析:約16w%)のいずれかを施した。また、混合手順については、(((A+B)+C)+D)+Eの順序で行った。結果を表7に示す。
【0083】
【表7】
【0084】
上記のように、Zn以外のめっきに対して、化成皮膜形成処理を行っても同様の効果が得られることが示された。
【0085】
本明細書において、「又は」や「若しくは」という記載は、選択肢のいずれか1つのみを満たす場合や、全ての選択肢を満たす場合を含む。例えば、「A又はB」「A若しくはB」という記載の場合、Aを満たしBを満たさない場合と、Bを満たしAを満たさない場合と、Aを満たし且つBを満たす場合のいずれも包含することを意図する。
【0086】
以上、本発明の具体的な実施形態について説明してきた。上記実施形態は、本発明の具体例に過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上述の実施形態の1つに開示された技術的特徴は、他の実施形態に提供することができる。また、特定の方法については、一部の工程を他の工程の順序と入れ替えることも可能であり、特定の2つの工程の間に更なる工程を追加してもよい。あるいは、上述した第三工程では、成分(A)と成分(B)を混合した物と、成分(C)と成分(D)を混合した物とを直接混合するのみならず、例えば、成分(A)と成分(B)を混合した物に更に別の物を混合したうえで、成分(C)と成分(D)を混合した物と混合してもよい。