【解決手段】制御装置30は、液化ガスが収容されるタンク本体の隔壁温度T1を検出する第一温度検出部31と、タンク本体を支持するスカートの温度T2を検出する第二温度検出部32と、第一温度検出部31が検出する隔壁温度T1と第二温度検出部32が検出するスカートの温度T2との温度差ΔTを取得する温度差取得部33と、隔壁温度T1と温度差ΔTとに基づいて、液化ガスによるタンク本体とスカートとの接合部の急冷可否判定を行う判定部34と、を備える。
前記第一温度検出部は、前記タンクの前記隔壁の一部を形成するとともに、前記支持部材が接合される接合部材の温度を検出する請求項1に記載の液化ガスによる急冷可否判定装置。
前記判定部は、前記隔壁又は前記支持部材の温度と前記温度差とが、前記タンクが前記液化ガスによって冷却されたときに前記隔壁と前記支持部材との接合部分に生じる応力が予め定めた基準値以下となるように設定された範囲内に有るか否かの判定に基づいて、前記液化ガスによる前記タンクと前記支持部材との接合部の急冷可否判定を行う請求項1から4の何れか一項に記載の液化ガスによる急冷可否判定装置。
前記判定部は、前記隔壁の温度が、予め定めた基準値以下であるときに、前記タンク内への前記液化ガスによるタンクの急冷が可能であると判定する、請求項5に記載の液化ガスによる急冷可否判定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば、タンク内にある程度の液化ガスが残存している状態で、タンクに液化ガスを追加して積み込む場合等、積み込み前の段階で、タンクや支持部材が、ある程度低い温度となっていることがある。このような場合、タンクと支持部材との温度差が小さいので、タンクの温度が−100℃程度まで下がっていない状態でタンクに液化ガスを追加して積み込んでも、タンクと支持部材との接合部分に過大な熱応力が作用しない場合もある。このような場合に、例えば−100℃までタンクを予冷していたのでは、タンクの積み込み開始が遅くなり、作業に時間がかかることとなる。そこで、液化ガスによるタンクと支持部材との接合部の急冷可否判定を適切に行うことが望まれる。
この発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、液化ガスによるタンクと支持部材との接合部の急冷可否判定を適切に行うことができる液化ガスによる急冷可否判定装置、液化ガス貯留タンク、液化ガス運搬船及び液化ガスによる急冷可否判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
この発明の第一態様によれば、液化ガスによる急冷可否判定装置は、液化ガスが収容されるタンクの隔壁の温度を検出する第一温度検出部と、前記タンクを支持する支持部材の温度を検出する第二温度検出部と、前記第一温度検出部が検出する前記隔壁の温度と前記第二温度検出部が検出する前記支持部材の温度との温度差を取得する温度差取得部と、前記隔壁の温度、前記支持部材の温度、及び前記温度差のうちの少なくとも二つに基づいて、前記液化ガスによる前記タンクと前記支持部材との接合部の急冷可否判定を行う判定部と、を備える。
【0008】
タンクの隔壁の温度と支持部材の温度との温度差が小さければ、隔壁と支持部材との間で発生する応力は小さくなる。そのため、判定部において、隔壁の温度が下がっていない状態であっても、隔壁の温度と支持部材の温度との温度差が小さければ、液化ガスによるタンクの急冷が可能であると判定することができる。
さらに、液化ガスによる急冷が可能と判定できる隔壁と支持部材との温度差は、隔壁の温度に応じて異なる。そのため、判定部では、隔壁の温度、支持部材の温度、及び隔壁と支持部材との温度差のうちの少なくとも二つに基づいて、液化ガスによるタンクの急冷可否判定を行っている。これにより、例えば、液化ガスの積み込みに際して行う予冷に要する時間を短縮することが可能となり、早期に液化ガスの積み込みを開始することができる。
【0009】
この発明の第二態様によれば、第一態様に係る第一温度検出部が、前記タンクの前記隔壁の一部を形成するとともに、前記支持部材が接合される接合部材の温度を検出するようにしてもよい。
このように第一温度検出部でタンクの隔壁の一部を形成し、支持部材が接合される接合部材の温度を検出することで、支持部材との接合部に近い位置で隔壁の温度を検出することができる。これにより、タンクの予冷を行ったときのタンクの温度変化を高い感度で検出することができる。したがって、液化ガスの積み込みに際して行う予冷に要する時間を短縮することが可能となり、早期に液化ガスの積み込みを開始することができる。
【0010】
この発明の第三態様によれば、第一又は第二態様に係る第二温度検出部が、前記支持部材において、前記支持部材の上部の温度を検出するようにしてもよい。
このように第二温度検出部で支持部材の上部の温度を検出することで、予冷時にタンクの隔壁と支持部材との間で熱伝播したときの温度変化を、隔壁との接合部に近い位置で高い感度で検出することができる。したがって、液化ガスによるタンクの急冷可否判定を適切に行い、例えば、液化ガスの積み込みに際して行う予冷に要する時間を短縮することが可能となり、早期に液化ガスの積み込みを開始することができる。
【0011】
この発明の第四態様によれば、第三態様に係る支持部材は、前記隔壁に接合される側の端部が、前記隔壁から離間した側の部分よりも、熱伝導率が高いようにしてもよい。
このように支持部材において隔壁に接合される側の端部を熱伝導率が高い材料で形成し、この端部の温度を第二温度検出部で検出することで、予冷時にタンクの隔壁と支持部材との間で熱伝播したときの温度変化を、より高い感度で検出することができる。したがって、液化ガスによるタンクの急冷可否判定を適切に行い、例えば、液化ガスの積み込みに際して行う予冷に要する時間を短縮することが可能となり、早期に液化ガスの積み込みを開始することができる。
【0012】
この発明の第五態様によれば、第一から第四態様の何れか一つの態様に係る判定部は、前記隔壁又は前記支持部材の温度と前記温度差とが、前記タンクが前記液化ガスによって冷却されたときに前記隔壁と前記支持部材との接合部分に生じる応力が予め定めた基準値以下となるように設定された範囲内に有るか否かの判定に基づいて、前記液化ガスによる前記タンクと前記支持部材との接合部の急冷可否判定を行うようにしてもよい。
このような構成によれば、隔壁又は支持部材の温度と、温度差とが、隔壁と前記支持部材との接合部分に生じる応力が予め定めた基準値以下となるように設定された範囲内にあれば、接合部が極低温の液化ガスにより急冷されても、接合部分に生じる応力を抑えることができる。したがって、液化ガスによるタンクの急冷可否判定を適切に行い、例えば、液化ガスの積み込みに際して行う予冷に要する時間を短縮することが可能となり、早期に液化ガスの積み込みを開始することができる。
【0013】
この発明の第六態様によれば、第五態様に係る判定部は、前記隔壁の温度が、予め定めた基準値以下であるときに、前記タンク内への前記液化ガスによるタンクの急冷が可能であると判定するようにしてもよい。
このように構成することで、タンクの隔壁の温度と支持部材の温度との温度差が大きい状態であっても、例えば、隔壁の温度が予め定めた基準値以下であれば、タンク内への液化ガスの積み込みを開始しても、接合部分に生じる応力を抑えることができる。
【0014】
この発明の第七態様によれば、液化ガス貯留タンクは、液化ガスを貯留するタンク本体と、前記タンク本体を支持する支持部材と、前記タンク本体を予冷する予冷部と、前記タンク本体に前記液化ガスを送り込むガス送給部と、第一から第六様の何れか一つの態様の液化ガスによる急冷可否判定装置と、を備える。
このように構成することで、タンク本体の隔壁の温度と支持部材の温度との温度差が小さければ、隔壁と支持部材との間で発生する応力を小さく抑えることができる。そのため、判定部において、隔壁の温度が下がっていない状態であっても、隔壁の温度と支持部材の温度との温度差が小さければ、液化ガスによる急冷が可能であると判定することができる。このようにして、液化ガスによるタンクの急冷可否判定を適切に行い、液化ガスの積み込みに際して行う予冷に要する時間を短縮することが可能となり、早期に液化ガスの積み込みを開始することができる。
【0015】
この発明の第八態様によれば、液化ガス運搬船は、第七態様の液化ガス貯留タンクと、前記液化ガス貯留タンクが搭載された船体と、を備える。
このように構成することで、液化ガスによるタンクの急冷可否判定を適切に行い、液化ガスの積み込みに際して行う予冷に要する時間を短縮することが可能となり、早期に液化ガスの積み込みを開始することができる。
【0016】
この発明の第九態様によれば、液化ガスによる急冷可否判定方法は、液化ガスが収容されるタンクの隔壁の温度を検出する工程と、前記タンクを支持する支持部材の温度を検出する工程と、前記隔壁の温度と前記支持部材の温度との温度差を取得する工程と、前記隔壁の温度、前記支持部材の温度、及び前記温度差のうちの少なくとも二つに基づいて、前記液化ガスによる前記タンクと前記支持部材との接合部の急冷可否判定を行う工程と、を含む。
このように構成することで、液化ガスによるタンクの急冷可否判定を適切に行い、例えば、液化ガスの積み込みに際して行う予冷に要する時間を短縮することが可能となり、早期に液化ガスの積み込みを開始することができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明に係る液化ガスによる急冷可否判定装置、液化ガス貯留タンク、液化ガス運搬船及び液化ガスによる急冷可否判定方法によれば、液化ガスによるタンクと支持部材との接合部の急冷可否判定を適切に行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第一実施形態)
次に、この発明の第一実施形態に係る運搬船を図面に基づき説明する。
図1は、この発明の第一実施形態における運搬船に設けられたタンクの断面図である。
この実施形態の運搬船(液化ガス運搬船)10は、液化天然ガス(LNG)等の液化ガスを運搬する。
図1に示すように、この運搬船10は、船体11と、タンク(液化ガス貯留タンク)12と、を少なくとも備えている。
【0020】
船体11は、鋼材から形成され、タンク12を収容する、いわゆるホールド空間を形成するタンク収容部14を備えている。タンク収容部14は、収容凹部15と、タンクカバー13とを備えている。
収容凹部15は、上甲板11aに対して下方の船底部11bに向けて凹み、上方に向かって開口している。収容凹部15内には、複数のタンク12が、船体11の船首側から船尾側に向けて並べて配置されている。
【0021】
タンクカバー13は、主にタンク12の上部を覆っている。このタンクカバー13は、船体11の上甲板11a上に設けられている。また、タンクカバー13は、上方に向かって凸状に形成されている。
【0022】
各タンク12は、タンク本体20と、タンク本体20を支持するスカート(支持部材)22と、を備えている。
【0023】
タンク本体20は、その内部に、運搬対象である液化ガスを収容する。タンク本体20は、その内外を区切る隔壁によって形成されている。
タンク本体20は、例えばアルミニウム合金製で、球形をなしている。タンク本体20は、球形に限らない。タンク本体20は、例えば、上下方向の中間部を、一定の径を有した筒状又は円錐筒状とし、その上下をそれぞれ半球状とし、鉛直断面形状が上下方向に長い形状としてもよい。
【0024】
タンク本体20内には、タンク本体20の底部20bから頂部20tに向かって延びる中空筒状のパイプタワー(ガス送給部)21が設けられている。パイプタワー21の上部には、タンク本体20を予冷するため、冷却材として、運搬対象と同種の液化ガスをタンク本体20内に噴霧するスプレーノズル(予冷部)21nが設けられている。
また、タンク本体20内には、運搬対象の液化ガスが、ガス送給管(図示無し)を通してタンク本体20の底部20bから送り込まれることで貯留される。
このようなタンク本体20の外表面は、断熱材(図示無し)によって被覆されている。
【0025】
スカート22は、円筒状で、収容凹部15に設けられたファウンデーションデッキ部16上に設けられている。スカート22は、タンク本体20を、その上部20aが、船体11の上甲板11aよりも上方に突出するように支持している。
【0026】
図2は、この発明の第一実施形態におけるタンク本体と、タンク本体を支持するスカートとの接合部分の構成を示す拡大断面図である。
図2に示すように、スカート22は、タンク本体20に設けられた接合部材23に接合されている。接合部材23は、タンク本体20において、スカート22が接合される部分、例えば
図2の例では球状のタンク本体20の上下方向において最大径部分(いわゆる赤道部分)に設けられている。接合部材23は、タンク本体20の隔壁の一部を形成する本体部23aと、本体部23aから分岐して下方に向かって延び、スカート22が接合されるスカート接合部23bと、を一体に備えている。この接合部材23は、タンク本体20と同材料により形成されている。
【0027】
スカート22は、接合部材23のスカート接合部23bに接合される上部22aが、アルミニウム合金によって形成されている。ファウンデーションデッキ部16に接合されるスカート22の下部22cは、ファウンデーションデッキ部16や船体11と同材料からなる鋼材によって形成されている。スカート22において、上部22aと下部22cとの中間部22bは、上部22aよりも熱伝導率が低い材料、例えばステンレス合金によって形成されている。
【0028】
図3は、この発明の第一実施形態における制御装置の機能的な構成を示す図である。
各タンク12は、タンク本体20内への運搬対象の液化ガスの積み込みを制御する制御装置(液化ガスによる急冷可否判定装置)30(
図3参照)を備えている。
図3に示すように、制御装置30は、第一温度検出部31と、第二温度検出部32と、温度差取得部33と、判定部34と、ノズルコントローラ35と、ポンプコントローラ36と、を備える。
【0029】
第一温度検出部31は、タンク本体20の隔壁の温度を検出する。この実施形態では、
図2に示すように、第一温度検出部31は、例えば、接合部材23の本体部23aの温度を、隔壁温度(隔壁の温度)T1として検出するよう設けられている。
【0030】
第二温度検出部32は、スカート22の温度を検出する。この実施形態では、第二温度検出部32は、スカート22において、熱伝導率の高い材料で形成され、スカート接合部23bに近い上部22aの温度を、スカート温度T2として検出するよう設けられている。
【0031】
図3に示すように、温度差取得部33は、第一温度検出部31で検出されたタンク本体20の隔壁温度T1と、第二温度検出部32で検出されたスカート22のスカート温度T2との温度差ΔT(=T1−T2)を算出する。
【0032】
判定部34は、運搬対象となる液化ガスのタンク本体20内への送給の可否を判定する。
【0033】
ノズルコントローラ35は、スプレーノズル21n(
図1参照)による予冷用の液化ガス(冷却材)の噴霧動作をON/OFFする。
【0034】
ポンプコントローラ36は、ガス送給管(図示無し)によるタンク本体20内への液化ガスの送給動作をON/OFFする。
【0035】
図4は、この発明の第一実施形態における制御装置におけるタンク本体の予冷を行う際の制御のフローチャートである。
図4に示すように、タンク本体20に液化ガスを積み込むに際しては、まず、タンク12の予冷を開始する(ステップS101)。これには、制御装置30で、ノズルコントローラ35により、タンク本体20内のスプレーノズル21nから冷却材として運搬対象の液化ガスと同種の液化ガスを噴霧する。これにより、タンク本体20が冷却され、さらに、タンク本体20から接合部材23を介してスカート22が冷却されていく。
【0036】
制御装置30は、予め定めた一定時間ごとに、第一温度検出部31、第二温度検出部32で、タンク本体20の隔壁温度T1と、スカート22のスカート温度T2とをそれぞれ検出する(ステップS102)。
【0037】
次に、制御装置30は、温度差取得部33において、第一温度検出部31で検出されたタンク本体20の隔壁温度T1と、第二温度検出部32で検出されたスカート22のスカート温度T2との温度差ΔT(=T1−T2)を算出(取得)する(ステップS103)。
【0038】
続いて、判定部34は、ステップS102で検出したタンク本体20の隔壁温度T1と、ステップS103で取得した、タンク本体20の隔壁温度T1とスカート22のスカート温度T2との温度差ΔTとに基づいて、タンク本体20内への運搬対象の液化ガスによる急冷の可否を判定する(ステップS104)。
ここで、判定部34は、隔壁温度T1と温度差ΔTとの相関マップに基づき、所定の予冷完了条件を満足しているか否かを判定する。
【0039】
図5は、タンク本体内に液化ガスを積み込んだときに隔壁と支持部材との接合部分に生じる応力が予め定めた基準値以下となる範囲を示す、隔壁温度と温度差との相関マップの一例を示す図である。
図5において、閾値ラインL1は、例えば、下式(1)で表される。
Y=a×X+b ・・・(1)
ここで、a、bは、予め設定される係数である。
【0040】
この閾値ラインL1は、タンク本体20内に液化ガスを積み込んだときに接合部材23の本体部23aとスカート22との接合部分に生じる応力が予め定めた基準値以下となる、隔壁温度T1と温度差ΔTの範囲A1とそれ以外の範囲との境界を設定している。
【0041】
図5に示す相関マップにおいて、ステップS102、S103で検出、取得された隔壁温度T1、温度差ΔTにより決まる点が、閾値ラインL1を越えて、予冷完了条件を満足する範囲A1内に入っていれば、判定部34は、タンク本体20内への液化ガスの積み込み条件を満足し、積み込みが可能であるとの判定を行う。
【0042】
この場合、ノズルコントローラ35は、判定部34からの出力信号を受けると、ポンプコントローラ36は、ガス送給管(図示無し)によるタンク本体20内に液化ガスを送給するポンプ(図示無し)をONに切り換える。これにより、タンク本体20内への液化ガスの積み込みが開始される(ステップS105)。
このとき、スプレーノズル21nによる予冷用の冷却材の噴霧動作を停止し、タンク本体20の予冷処理を停止するようにしてもよい。
【0043】
このとき、液化ガスの積み込みを開始する時点において、タンク本体20とスカート22との温度差ΔTが抑えられているので、液化ガスの積み込みによってタンク本体20が収縮変形しても、スカート22との変形量の差が小さい。したがって、タンク本体20とスカート22との接合部分に作用する応力を抑えることができる。
【0044】
図5において、変化曲線P1は、タンク本体20の予冷処理を行ったときの、隔壁温度T1と温度差ΔTの変化の一例を示している。この変化曲線P1によれば、タンク本体20の予冷を開始すると、タンク本体20がスカート22に先行して温度低下するため、温度差ΔTは大きくなる。その後、タンク本体20の温度低下がスカート22に伝播し、スカート22の温度低下が始まると、温度差ΔTは小さくなる。変化曲線P1の例では、温度差ΔTが小さくなったとき(
図5中、点S1)に、閾値ラインL1を越える。
【0045】
これに対し、隔壁温度T1のみで液化ガスによる急冷の可否を判定する比較例の場合、変化曲線P1において、例えば、隔壁温度T1が閾値温度X以下となったとき、(
図5中、点S2)、液化ガスの積み込みが許可される。
このように、隔壁温度T1と温度差ΔTとに基づいた判定処理を行うことで、より早期に液化ガスの積み込みを開始することが可能となる。
【0046】
したがって、上述した第一実施形態によれば、タンク本体20の隔壁温度T1と、隔壁温度T1とスカート22のスカート温度T2との温度差ΔTとに基づいて、液化ガスによるタンク本体20とスカート22との接合部の急冷可否判定を行うことができる。そのため、判定部34において、隔壁温度T1が、例えば従来の予冷完了条件として用いていた閾値温度X(例えば−100℃)まで下がっていない状態であっても、隔壁温度T1とスカート22のスカート温度T2との温度差ΔTが小さければ、液化ガスによるタンク本体20の急冷が可能であり、液化ガスの積み込みが可能であると判定することができる。このようにして、液化ガスの積み込みに際して行う予冷に要する時間を短縮することが可能となり、早期に液化ガスの積み込みを開始することができる。その結果、適切なタイミングでタンク本体20への積み込みを開始することが可能となる。
【0047】
また、第一温度検出部31によって、タンク本体20の接合部材23の本体部23aの一部を形成し、スカート22が接合される接合部材23の温度を検出することができる。そのため、スカート22との接合部に近い位置で隔壁温度T1を検出することができる。その結果、タンク本体20の予冷を行ったときのタンク本体20の温度変化を高い感度で検出することができる。
【0048】
さらに、第二温度検出部32によって、スカート22が接合部材23の本体部23aに接合される側の上部22aの温度を検出することができる。そのため、予冷時にタンク本体20の接合部材23の本体部23aとスカート22との間の熱伝播による温度変化を、接合部材23の本体部23aとの接合部に近い位置で高い感度で検出することができる。
【0049】
さらに、スカート22は、接合部材23の本体部23aに接合される側の上部22aが熱伝導率の高い材料で形成されている。そのため、このスカート22の上部22aの温度を第二温度検出部32で検出することで、予冷時にタンク本体20の接合部材23の本体部23aとスカート22との間の熱伝播による温度変化を、より高い感度で検出することができる。
【0050】
さらに、判定部34は、隔壁温度T1と温度差ΔTとが、タンク本体20内に液化ガスを積み込んだときに接合部材23の本体部23aとスカート22との接合部分に生じる応力が予め定めた基準値以下となるように設定された範囲内に有るか否かに基づいて、液化ガスによるタンク本体20とスカート22との接合部の急冷可否判定を行うことができる。そのため、液化ガスの積み込みに際して行う予冷に要する時間を短縮することが可能となり、早期に液化ガスの積み込みを開始することができる。
【0051】
(第二実施形態)
次に、この発明にかかる液化ガスによる急冷可否判定装置、液化ガス貯留タンク、液化ガス運搬船及び液化ガスによる急冷可否判定方法の第二実施形態について説明する。以下に説明する第二実施形態においては、第一実施形態と、積み込み開始の可否判断の基準となるマップの構成のみが異なるので、第一実施形態と同一部分に同一符号を付して説明するとともに、重複説明を省略する。
【0052】
図6は、この発明の第二実施形態におけるタンク本体の予冷を行う際の制御のフローチャートである。
この
図6に示すように、タンク本体20に液化ガスを積み込むに際して、まず初めに、タンク12の予冷を開始する(ステップS201)。この際、制御装置30は、ノズルコントローラ35により、タンク本体20内のスプレーノズル21nから、冷却材として、運搬対象の液化ガスと同種の液化ガスを噴霧させる。これにより、タンク本体20が冷却され、さらに、接合部材23を介してスカート22が冷却されていく。
【0053】
制御装置30は、予め定めた一定時間ごとに、第一温度検出部31、第二温度検出部32で、タンク本体20の隔壁温度T1と、スカート22のスカート温度T2とをそれぞれ検出する(ステップS202)。
【0054】
次に、制御装置30は、温度差取得部33において、第一温度検出部31で検出されたタンク本体20の隔壁温度T1と、第二温度検出部32で検出されたスカート22のスカート温度T2との温度差ΔT(=T1−T2)を算出(取得)する(ステップS203)。
【0055】
続いて、判定部34は、ステップS202で検出したタンク本体20の隔壁温度T1と、ステップS203で取得した、タンク本体20の隔壁温度T1とスカート22のスカート温度T2との温度差ΔTとに基づいて、液化ガスによるタンク本体20の急冷の可否を判定し、タンク本体20内への液化ガスの積み込みが可能であるか否かを判定する。
【0056】
これにはまず、ステップS202で検出したタンク本体20の隔壁温度T1が、予め定めた閾値Z、例えば−100℃以下であるか否かを判定する(ステップS204)。
この判定の結果、隔壁温度T1が閾値Z以下(T1≧Z)であれば、判定部34は、液化ガスによるタンク本体20の急冷が可能であり、タンク本体20内への液化ガスの積み込みが可能であるとの判定を行う。
【0057】
一方で、隔壁温度T1が閾値以下でない場合、続いて、例えば
図7に示すような隔壁温度T1と温度差ΔTとの相関マップに基づき、所定の予冷完了条件を満足しているか否かを判定する(ステップS205)。
図7において、閾値ラインL2は、例えば、下式(2)で表される。
Y=a×X+b 、ただしX<Z・・・(2)
ここで、a、bは、予め設定される係数である。
【0058】
図7に示す相関マップにおいて、ステップS202,S203で検出、取得された隔壁温度T1、温度差ΔTによって決まる点が、閾値ラインL2を越えて、予冷完了条件を満足する領域A2に入っていれば、判定部34は、液化ガスによるタンク本体20の急冷が可能であり、タンク本体20内への液化ガスの積み込みが可能であるとの判定を行う。
【0059】
ステップS204またはS205で、判定部34で液化ガスによるタンク本体20の急冷が可能であり、液化ガスの積み込みが可能であるとの判定がなされた場合、ポンプコントローラ36は、ガス送給管(図示無し)によるタンク本体20内に液化ガスを送給するポンプ(図示無し)をONに切り換える。これにより、タンク本体20内への液化ガスの積み込みが開始される(ステップS206)。
ここで、ノズルコントローラ35は、スプレーノズル21nによる予冷用の冷却材の噴霧動作を停止してタンク本体20の予冷処理を停止するようにしてもよい。
【0060】
したがって、上述した第二実施形態によれば、第一実施形態と同様に、タンク本体20の隔壁温度T1と、隔壁温度T1とスカート22のスカート温度T2との温度差ΔTとに基づいて、液化ガスによるタンク本体20とスカート22との接合部の急冷可否判定を行うことができる。これにより、液化ガスの積み込みに際して行う予冷に要する時間を短縮することが可能となり、早期に液化ガスの積み込みを開始することができる。したがって、適切なタイミングでタンク本体20への積み込みを開始することが可能となる。
【0061】
また、判定部34は、隔壁温度T1が、予め定めた基準値以下であるときに、タンク本体20内への液化ガスの積み込みが可能であると判定する。そのため、タンク本体20の隔壁温度T1とスカート22のスカート温度T2との温度差ΔTが大きい状態であっても、隔壁温度T1が予め定めた基準値以下であれば、タンク本体20内への液化ガスの積み込みを早期に開始することができる。
【0062】
次に、上述した第一、第二実施形態で例示した閾値ラインL1,L2を設定する式(1),(2)の求め方について説明する。
図8は、タンクへの液化ガスの積み込み可否判定を行うための閾値ラインの設定方法のフローチャートである。
図8に示すように、まず、タンク12について、予冷を行っている状態や、運搬船10が航行を行っている状態における、タンク本体20、接合部材23、スカート22の温度分布を、例えばFEM(Finite Element Method)解析(有限要素法)によりシミュレートする(ステップS301)。
【0063】
次いで、ステップS301で求めた温度分布を初期条件として、タンク本体20に液化ガスを積み込むとき、または航行中にタンク本体20内で液化ガスが動揺したときに、接合部材23が液化ガスによって急冷された場合の温度分布を、FEM解析によりシミュレートする(ステップS302)。
【0064】
次に、接合部材23に、ステップS302で求めた急冷時の温度分布を熱荷重として与えたときの、接合部材23の本体部23aとスカート接合部23bとの境界部分に発生する応力を求める(ステップS303)。
【0065】
続いて、ステップS303で求めた応力が、予め定められた基準値以内に収まっていることを確認する(ステップS304)。
【0066】
上記ステップS301〜S304の一連の工程により、接合部材23において、急冷が許容される温度分布を特定し、閾値ラインL1,L2を設定する式(1)、(2)を求める(ステップS305)。
【0067】
(その他の変形例)
この発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な形状や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
例えば、
図5や
図7において、閾値ラインL1,L2を例示したが、隔壁温度T1と、温度差ΔTに基づいて液化ガスの積み込み可否判定を行うのであれば、例示した以外の閾値ラインを用いてもよい。
【0068】
さらに、隔壁温度T1として、接合部材23の温度を検出するようにしたが、タンク本体20の隔壁の温度を検出できるのであれば、他の部位の温度を検出するようにしてもよい。
さらに、スカート温度T2についても、スカート22の上部22a以外の部位で検出するようにしてもよい。
【0069】
また、上記各実施形態では、隔壁温度T1と、隔壁温度T1とスカート温度T2との温度差ΔTとに基づいて、液化ガスによるタンク本体20とスカート22との接合部の急冷可否判定を行うようにしたが、これに限らない。隔壁温度T1、スカート温度T2、及び温度差ΔTのうちの少なくとも二つに基づいて液化ガスによるタンク本体20とスカート22との接合部の急冷可否判定を行うのであればよい。例えば、スカート温度T2と、温度差ΔTとに基づいて、液化ガスによるタンク本体20とスカート22との接合部の急冷可否判定を行ってもよいし、隔壁温度T1とスカート22のスカート温度T2とに基づいて液化ガスによるタンク本体20とスカート22との接合部の急冷可否判定を行ってもよい。
【0070】
また、上記各実施形態では、液化ガスによるタンクの急冷可否判定を行うことによって、液化ガスの積み込み可否を判定しているが、急冷可否判定結果の用途は、これに限らない。