【解決手段】本発明に係る減速装置200のハウジング100の内部空間は、一端側に位置し一対の傘歯車132,140の噛み合い部を収容する一端側収容室4と、他端側に位置し回転体110を収容する他端側収容室2と、一端側収容室4と他端側収容室2との間に位置し、一端側収容室4と他端側収容室2との下部側を連通する連通室5と、連通室5の上方に位置し、外部連通路93が形成されたブリーザ室9と、他端側収容室2の上側に位置し、回転体110が掻き上げる潤滑油を捕集する他端側捕集部8と、他端側捕集部8の潤滑油を連通室5に戻すドレン孔83,91とを備え、ドレン孔83,91は、ブリーザ室9を経由して潤滑油を連通室5に戻すことを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を自動四輪車の終減速装置に適用した実施形態について説明する。
【0023】
(終減速装置)
終減速装置200は、特に図示しないが、後輪の略中央に取り付けられ、プロペラシャフトから伝達される動力を減速して自動四輪車の後輪に伝達するためのものである。
図1に示すように、終減速装置200は、筐体であるハウジング100と、ハウジング100内の前寄りに配置される油圧式クラッチ110と、ハウジング100内の前後方向中央部に配置されるドライブピニオンギヤ130と、ハウジング100内の後寄りに配置されるリングギヤ140及び差動装置150と、を備える。
【0024】
(ハウジング)
ハウジング100は、前から順に配置された第1ハウジング10、第2ハウジング20及び第3ハウジング30を備える。
図2に示すように、第1ハウジング10、第2ハウジング20及び第3ハウジング30は、締結ボルトT1で締結されて一体になっている。
なお、第2ハウジング20は、第1ハウジング10、第3ハウジング30よりも左側に突出する突出部21が形成されている。
そして、突出部21の前端面21aには、後述する油圧装置120の油圧ポンプ122が取り付けられている。
【0025】
ハウジング100の内部空間は、各部品を収容する収容空間1(前収容室2,中間収容室3,後収容室4)と、潤滑油等を貯留する貯留槽(潤滑油用貯留槽,作動油用貯留槽6)と、飛沫する潤滑油を捕集する捕集部(後捕集室7、前捕集溝8)、ブリーザ室9と、を備える。
以下、収容空間1と貯留槽について説明し、捕集部とブリーザ室9については後述する。
【0026】
(収容空間)
図1に示すように、収容空間1は、前から順に位置する前収容室2、中間収容室3及び後収容室4を備える。
【0027】
(前収容室)
前収容室2は、油圧式クラッチ110を収容するための空間である。
前収容室2は、第1ハウジング10の後部開口11と第2ハウジング20の前部開口22aとにより構成される。
図3に示すように、前収容室2は、油圧式クラッチ110の後述するクラッチドラム111の形状に対応し、前後方向から視て円形状を呈している。
また、前収容室2の左下側には、前後方向から視て略台形状の台形孔部2bが形成されている。このため、前収容室2の空間は、左下側に拡張している。
【0028】
(中間収容室)
図1に示すように、中間収容室3は、ドライブピニオンギヤ130の軸部131を収容するための空間である。
中間収容室3は、第2ハウジング20を前後方向に貫通してなる。
図4に示すように、中間収容室3は、前後方向から視て円形状を呈している。
中間収容室3は、第2ハウジング20の右部であって高さ方向中間部に位置している。
【0029】
(後収容室)
図1に示すように、後収容室4は、ドライブピニオンギヤ130のピニオンギヤ132と、リングギヤ140と、差動装置150と、を収容するための空間である。
後収容室4は、第2ハウジング20の後部開口22bと第3ハウジング30の前部開口31とにより構成される。
【0030】
(貯留槽)
つぎに、貯留槽(潤滑油用貯留槽,作動油用貯留槽6)について説明する。
最初に、潤滑油用貯留槽を構成する連通室5について説明する。
【0031】
(連通室)
図4に示すように、連通室5は、第2ハウジング20の下部に形成された空間である。
連通室5は、中間収容室3の下側に位置する右側連通室5aと、右側連通室5aの左側に位置する左側連通室5bと、により構成される。
また、左側連通室5bは、右側連通室5aよりも上方に拡張している。
【0032】
図1に示すように、右側連通室5aの後部は、後収容室4の下部4aと連続している。
一方で、右側連通室5aの前部には、第2ハウジング20の隔壁23が設けられており、右側連通室5aと前収容室2とは連続していない。
【0033】
図5に示すように、左側連通室5bの後部は、後収容室4の下部4aと連続している。
左側連通室5bの前部は、前収容室2の台形孔部2bに連続している。
【0034】
以上から、左側連通室5b(連通室5)により、前収容室2と後収容室4は連通している。よって、収容空間1内に充填された潤滑油は、前収容室2の下部2a側、後収容室4の下部4a側、及び連通室5のそれぞれに流れ込む。
つまり、本実施形態では、前収容室2の下部2a側、後収容室4の下部4a側、及び連通室5が一体となって、潤滑油を貯留する潤滑油用貯留槽を構成している。
【0035】
なお、上記潤滑油用貯留槽によれば、前収容室2と後収容室4とに貯留する潤滑油を共通化できる。したがって、前収容室2と後収容室4とのそれぞれに潤滑油を充填する作業を回避でき、充填作業の負担軽減を図れる。
また、前収容室2から後収容室4に、又は後収容室4から前収容室2に潤滑油が漏出することを防止するためのオイルシール等を設ける必要なく、部品点数の削減を図れる。
【0036】
(作動油用貯留槽)
図6に示すように、作動油用貯留槽6は、油圧ポンプ122が作動するための作動用油を貯留するための空間である。
作動油用貯留槽6は、第2ハウジング20の突出部21に形成された筒部24と、筒部24内に挿入され筒部24の開口を封止する油圧ポンプ122とに囲まれて構成される。
【0037】
また、第2ハウジング20には、油圧ポンプ122から吐出される作動油を作動室28に供給するための供給路として、第1供給路25と、第2供給路26と、第3供給路27とが形成されている。
【0038】
第1供給路25は、筒部24の後面を後方に向って穿設してなる穴であり(
図4参照)、油圧ポンプ122の吐出口124が挿入されている。
第2供給路26は、突出部21の左面から右方に向って穿設してなる穴であり、第1供給路25と第3供給路27とを連通している。なお、第2供給路26の左開口は、封止部材26aにより封止されている。
第3供給路27は、第2ハウジング20の前部開口22aの底面(後面)を後方に穿設してなる穴である。
【0039】
なお、
図3に示すように、第3供給路27の流出口には、環状溝である作動室28が形成されている。この作動室28は、油圧ポンプ122から吐出された作動油の圧力を、後述するピストン121に対し、周方向に均一に作用させるためのものである。
【0040】
つぎに、油圧式クラッチ110、ドライブピニオンギヤ130、リングギヤ140、差動装置150について説明する
【0041】
(油圧式クラッチ)
油圧式クラッチ110は、図示しないプロペラシャフトとドライブピニオンギヤ130との間において、動力を断接する断接装置である。
図6に示すように、油圧式クラッチ110は、前収容室2内に配置されたクラッチドラム111と、クラッチドラム111内に位置するインナーハブ112と、複数の外クラッチ板113と、複数の内クラッチ板114と、外クラッチ板113と内クラッチ板114との摩擦力を可変する油圧装置120と、を備える。
【0042】
クラッチドラム111は、前収容室2内に位置し前側が閉じた有底円筒状のクラッチドラム本体111aと、クラッチドラム本体111aの底部から前方に延びる軸部111bと、を備える。
【0043】
軸部111bは、第1ハウジング10を前後方向に貫通し、軸部111bの前部が第1ハウジング10よりも前方に突出している。その軸部111bの前部には、コンパニオンフランジ111cがスプライン結合している。
また、コンパニオンフランジ111cには、締結ボルトによりプロペラシャフト(不図示)が連結している。
以上から、プロペラシャフトが回転すると、クラッチドラム111が中心軸O1を中心に回転する。
【0044】
インナーハブ112は、ドライブピニオンギヤ130の前部にスプライン結合する略円筒状の部品であり、クラッチドラム111と同軸上に位置している。
外クラッチ板113及び内クラッチ板114は、軸方向(前後方向)に交互に配置されたリング板状の部材である。
外クラッチ板113の外周縁部は、クラッチドラム111の内周面とスプライン結合している。
内クラッチ板114の内周縁部は、インナーハブ112の外周面とスプライン結合している。
そのほか、外クラッチ板113と内クラッチ板114とを交互に積層した積層体の後方には、軸方向に移動自在であるリング状の押圧板115が配置されている。
【0045】
(油圧装置)
油圧装置120は、前収容室2内に前後に摺動自在に設けられたリング状のピストン121と、そのピストン121を作動させるための油圧ポンプ122と、を備える。
ピストン121は、前収容室2の後壁側に当接するように配置されており、作動室28の前方に位置している。
また、ピストン121は、スラスト軸受を介して押圧板115に当接している。
【0046】
油圧ポンプ122は、吸い込み口123から作動油用貯留槽6内の作動油を吸い込み、吐出口124から高圧の作動油を吐出する装置である。
そして、油圧ポンプ122の吐出口124から高圧の作動油が吐出されると、作動室28が高圧となり、ピストン121が前方に移動する(
図6の矢印参照)。
これにより、ピストン121が、押圧板115を介して外クラッチ板113と内クラッチ板114を前方に押圧するため、外クラッチ板113と内クラッチ板114との摩擦力が高まり、プロペラシャフトの動力がドライブピニオンギヤ130に伝達する。
【0047】
そのほか、第2供給路26には、調圧弁29が設けられている。
このため、ピストン121に作用する油圧が所定値以上になった場合、第2供給路26内の作動用油が作動油用貯留槽6に戻る。この結果、ピストン121を押圧する圧力は、所定値以下に抑制(調圧)されるようになる。
【0048】
(ドライブピニオンギヤ)
図1に示すように、ドライブピニオンギヤ130は、中間収容室3内で前後方向に延在する円柱状の軸部131と、軸部131の後端に設けられた円錐台状のピニオンギヤ132と、が一体に形成された部品である。
軸部131は、中間収容室3内に設けられた前軸受133及び後軸受134に内嵌され、中心軸O1を中心に回転自在に支持されている。
なお、前軸受133及び後軸受134は、テーパーローラーベアリングである
【0049】
(ピニオンギヤ及びリングギヤ)
ピニオンギヤ132及びリングギヤ140は、ピニオンギヤ132が小歯車を構成し、リングギヤ140が大歯車を構成し、ピニオンシャフトから伝達された動力を減速する一対の傘歯車である。
ピニオンギヤ132及びリングギヤ140は、後収容室4に位置している。よって、ピニオンギヤ132とリングギヤ140とが噛み合う噛み合い部も後収容室4に位置している。
【0050】
(差動装置)
差動装置150は、左右方向に沿う軸心O2回りに回転する組立体であり、デフケース153と、いずれも図示しない一対のピニオンギヤリングギヤ、一対のサイドギヤ、ピニオンシャフト等をデフケース153内部に収納して構成され、左右の車輪の回転速度差を吸収しながら動力を伝達する。
デフケース153は、略円筒状の胴体部と、胴体部に隣接するフランジ152と、両端の円筒状ボスからなり、フランジ152にて締結ボルトT2によりリングギヤ140に締結されている。
また、両端ボスには軸受151(
図5)が外嵌され、ハウジング100内に支持されている。
【0051】
(潤滑油)
図1に示すように、ハウジング100内には、収容空間1内に収容される部品の動きを潤滑し、かつ、冷却するための潤滑油が貯留されている。
この潤滑油は、前収容室2の下部2aと、後収容室4の下部4aに溜まる程度に充填されている(各図において、油面の位置を示すL1を参照)。
【0052】
ここで、左側連通室5bの上面5cは、油面L1よりも上方に位置しており、後収容室4の空気が左側連通室5b内に移動可能になっている。
一方で、台形孔部2bの上面2cは、油面L1よりも下方に位置している。このため、後述する後収容室4に発生している泡状又は霧状の潤滑油は、前収容室2に移動しないようになっている。
【0053】
(動作例)
つぎに、自動四輪車が動力伝達(前進)する場合について説明する。
自動四輪車が駆動する場合、プロペラシャフトは、前方から視て中心軸O1を中心に右回りに回転する(
図3の矢印A1参照)。よって、クラッチドラム(
図3で不図示)111も中心軸O1を中心として右回りに回転する。
また、クラッチドラム111の下部は、前収容室2に貯留される潤滑油に浸されている。このため、クラッチドラム111が回転すると、クラッチドラム111に付着する潤滑油は、遠心力により、前収容室2の上壁に対し、左上方向に飛沫する(
図3の矢印B4参照)。
【0054】
クラッチドラム111の回転運動が、ドライブピニオンギヤ130を介してリングギヤ140に伝達すると、リングギヤ140は、右方から視て中心軸O2を中心に右回りに回転する(
図1の矢印A2参照)。
また、リングギヤ140の下部が後収容室4に貯留される潤滑油が浸されていることから、リングギヤ140が回転すると、リングギヤ140の歯が潤滑油を撹拌したり、掻き上げたりする。
よって、リングギヤ140の前側上方に潤滑油が飛沫する(
図1の矢印B1参照)。さらに、後収容室4の油面L1上に泡状の潤滑油が生じたり、後収容室4の上部に霧状の潤滑油が生じたりする。
なお、リングギヤ140とピニオンギヤ132との噛み合いによっても、潤滑油は飛沫する。
【0055】
つぎに、ハウジング100の捕集室(後捕集室7、前捕集溝8)、ブリーザ室9について説明する。
なお、
図2に示すように、後捕集室7とブリーザ室9は、第2ハウジング20の上部に形成され隣接している。よって、説明の都合上、最初に、後捕集室7とブリーザ室9の構成を簡単に説明する。
【0056】
図2示すように、第2ハウジング20の上部には、上方に向って開口する有底矩形筒状の有底筒部40が形成されている。
有底筒部40内には、前後方向に延びる隔壁41が形成されている。これにより、有底筒部40内の空間は、左側に位置するブリーザ室9と、右側に位置する後捕集室7とに区分けされている。
【0057】
また、
図4に示すように、有底筒部40の上方には、板状の蓋部材42が設けられている。このため、後捕集室7とブリーザ室9は、上開口が閉塞され、閉じた空間になっている。
なお、蓋部材42は、締結ボルトT3により有底筒部40(第2ハウジング20)に固定されている。
以上から、簡易な構成により後捕集室7とブリーザ室9とを形成することができる。
【0058】
(後捕集室)
図4に示すように、後捕集室7は、中間収容室3の上方に位置している。言い換えると、
図1に示すように、ドライブピニオンギヤ130の中心軸O1に対し上方に位置し、リングギヤ140の前方かつ上方に位置している。また、後捕集室7の後壁には、後開口71が形成されている。
このため、リングギヤ140の回転により飛沫する潤滑油は、後開口71を通過して後捕集室7内に入り込み(矢印B1参照)、後捕集室7に捕集される。
なお、後捕集室7とブリーザ室9との間には、隔壁41が介在するため、後捕集室7に捕集された潤滑油がブリーザ室9に流入しない。
【0059】
後捕集室7の下壁72には、下方に向かって貫通する滴下孔73が形成されている。
また、後捕集室7の下壁72は、滴下孔73に向って次第に下方に位置するように傾斜している。
これにより、後捕集室7内の潤滑油は、下壁72、滴下孔73に沿って流れ、ドライブピニオンギヤ130に供給される(矢印B2参照)。
【0060】
また、滴下孔73は、前軸受133と後軸受134との間に位置している。
このため、ドライブピニオンギヤ130の回転により前軸受133が作動すると、ポンプ作用により、潤滑油が前軸受133に一旦吸い込まれ、その後、前収容室2に向かって吐き出される(矢印B3参照)。
同様に、後軸受134が作動すると、潤滑油が後軸受134に一旦吸い込まれ、その後、後収容室4に向かって吐き出される(矢印B3参照)。
【0061】
ここで、後捕集室7は、後収容室4と連通していることから、後収容室4内にある泡状又は霧状の潤滑油が入り込むおそれがある
しかしながら、泡状の潤滑油は、下壁72に沿って移動する過程、又は、滴下孔73を通過する過程、前軸受133を通過する過程において、気泡が潰れて液状になる。
一方で、霧状の潤滑油は、後捕集室7から前収容室2までが流路が下方に向かう流路であるため、移動し難く、後捕集室7内に漂う。そして、自重により下壁72に落ちてから(液状になってから)前収容室2に移動する。
以上から、泡状又は霧状の潤滑油は、後捕集室7から前収容室2に移動する過程で、液状になり易くなっている。
【0062】
そのほか、中間収容室3の下壁には、前軸受133と後軸受134との間に滞留した潤滑油を連通室5に戻すための戻し流路3aが形成されている。
【0063】
(前捕集溝)
図3に示すように、前捕集溝8は、前収容室2の上壁部の一部を切り欠いて成る円弧状の溝である。
詳細には、前捕集溝8は、前収容室2の上壁部において、中心軸O1に対し上方に対応する部位(以下、開口部81という)を切り欠き、そこから左回り方向にさらに切り欠いてなる。
よって、クラッチドラム111の回転により飛沫する潤滑油は(矢印B4照)、開口部81を通過して前捕集溝8内に入り込み、前捕集溝8に捕集される。
そして、前捕集溝8内の潤滑油は、自重により、前捕集溝8の下端82に向って移動する(矢印B5参照)。
【0064】
また、前捕集溝8の下端82には、第1ドレン孔83が形成されている。この第1ドレン孔83は、後述する第2ドレン孔91(
図5参照)と協働して、前捕集溝8内の潤滑油を連通室5に戻すためのドレン孔(油抜き孔)の役割を果たしている。
【0065】
図5に示すように、第1ドレン孔83の流出口83aは、ブリーザ室9に連続している。第1ドレン孔83は、後方に向って下方に傾斜しており、前捕集溝8により捕集された潤滑油が自重によりブリーザ室9内に流れる(矢印B6参照)。
また、第1ドレン孔83の傾斜は、比較的緩やかに形成されている。よって、潤滑油が第1ドレン孔83を緩やか流れ、泡状に成り難くなっている。
【0066】
ここで、前収容室2には、後捕集室7を経由して、後収容室4の泡状又は霧状の潤滑油が移動している可能性がある。このため、前収容室2からブリーザ室9に移動する潤滑油に、泡状又は霧状の潤滑油が含まれている可能性がある。
しかしながら、泡状の潤滑油は、前捕集溝8の壁面に接触して気泡が潰れ易い。また、第1ドレン孔83を緩やかに流れる過程で気泡が潰れ易い。
霧状の潤滑油は、前収容室2からブリーザ室9までの流路が下方に向かう流路であり、移動し難い。よって、時間の経過により下方に落ちてから(液状になってから)ブリーザ室9に流れる。
以上から、泡状又は霧状の潤滑油は、前捕集溝8からブリーザ室9に移動する過程で液状になり易くなっている。
【0067】
(ブリーザ室)
図7に示すように、ブリーザ室9には、下壁を貫通する第2ドレン孔91が形成されている。
図5に示すように、第2ドレン孔91は、ブリーザ室9と左側連通室5bとを連通している。つまり、ドレン孔(第1ドレン孔83,第2ドレン孔91)は、ブリーザ室9を経由して潤滑油を連通室5に戻している。
【0068】
また、第2ドレン孔91は、ブリーザ室9の下面から上方に突出する突起部92の上端面に形成されている。
このため、ブリーザ室9には、突起部92の高さ分だけの潤滑油が貯留し(補助線L2参照)、この貯留量を超えた場合に、第2ドレン孔91から連通室5に戻るようになっている(
図5及び
図7の矢印B7参照)。
【0069】
図8に示すように、ブリーザ室9は、上壁(蓋部材42)を上下方向に貫通してブリーザ室9内と外部空間とを連通する外部連通路93と、外部連通路93に差し込まれた筒状部品であるブリーザパイプ94と、を備える。このため、ブリーザ室9は、ブリーザパイプ94を介して、外部空間と連通している。
【0070】
ここで、ブリーザ室9は、第1ドレン孔83を介して、前収容室2内の上部と連通している。
また、ブリーザ室9は、第2ドレン孔91と左側連通室5bとを介して、後収容室4と連通している。
さらに、中間収容室3は、前収容室2と後収容室4とに連続している。
以上から、収容空間1(前収容室2、中間収容室3、後収容室4)で圧力が高まった場合、ブリーザ室9のブリーザパイプ94を介して外部に圧力が開放される。
【0071】
図7に示すように、ブリーザ室9には、前壁から後方に延びる第1延出壁95と、右壁から左方に延びる第2延出壁96と、左壁の流入口64から左方に延びる横穴61と、が形成されている。
【0072】
第1延出壁95と第2延出壁96とは、底部から上壁まで延在している(
図8参照)。
第1延出壁95は、前後方向から視て、第1ドレン孔83の流出口83aと、ブリーザパイプ94の吸込口94aとの間に位置している。
このため、第1ドレン孔83の流出口83aからブリーザパイプ94の吸込口94aまでの流路(距離)は、平面視で略U字状を呈し、比較的長くなっている。
また、第2延出壁96は、平面視でブリーザパイプ94の後方に位置しており、泡状又は霧状の潤滑油がブリーザパイプ94側にさらに到達し難くなっている。
以上から、仮に第1ドレン孔83を介して泡状又は霧状の潤滑油がブリーザ室9内に流入しても、ブリーザパイプ94まで到達し難い。
【0073】
図8に示すように、横穴61は、突出部21の左面を右方に向って穿設してなる穴である。横穴61の左開口には、シール部材66と封止部材62とが設けられており、横穴61の左開口から潤滑油が漏出しないようになっている。
【0074】
図4に示すように、横穴61の左右方向中間の下部側に、作動油用貯留槽6に連通する連通開口部63が形成されている。このため、ブリーザ室9に貯留する潤滑油は、横穴61を介して、作動油用貯留槽6に供給される。
つまり、上記横穴61によれば、各部品を潤滑・冷却するための潤滑油と、油圧ポンプ122の作動油とを共通化できるため、作動油の充填作業が不要となる。さらに、オイルシール等の部品点数の削減も図れる。
【0075】
また、横穴61の流入口64は、突起部92よりも下方に位置している。言い換えると、横穴61の流入口64の上端(補助線L3参照)は、ブリーザ室9に貯留される潤滑油の油面L2よりも下方に位置している。このため、横穴61内(作動油用貯留槽6)には、ブリーザ室9の空気が流入し難い。
【0076】
さらに、横穴61内には、摩耗粉等の異物を除去するための金属網であるストレーナ65が設けられている。このため、作動油用貯留槽6に異物が侵入し難く、油圧ポンプ122の故障を抑制できる。
【0077】
以上、実施形態によれば、ブリーザ室9が後収容室4と連続していないため、リングギヤ140の回転により発生する飛沫油がブリーザ室9に直接入り込むことがない。よって、飛沫油が外部連通路93から漏出するおそれがない。
【0078】
また、後収容室4内の泡状又は霧状の潤滑油がブリーザ室9に万一移動したとしても、移動する可能性があるものの、後収容室4とブリーザ室9との流路上には、後捕集室7、中間収容室3、前収容室2、前捕集溝8、及び第1ドレン孔83が介在する。このため、流路が比較的に長く、泡状又は霧状の潤滑油がブリーザ室9に移動し難い。
【0079】
また、泡状又は霧状の潤滑油がブリーザ室9に向かって移動しても、上記したように移動する際に液状に成り易いため、ブリーザパイプ94から、泡状の潤滑油を噴き出したり、霧状の潤滑油を吐き出したり可能性が極めて低い。
【0080】
仮にブリーザ室9に泡状又は霧状の潤滑油が移動しても、第1延出壁95と第2延出壁96が設けられていることから、泡状又は霧状の潤滑油がブリーザパイプ94側に到達し難くなっている。よって、ブリーザパイプ94が泡状又は霧状の潤滑油を吸い込んで外部に吐き出す可能性が極めて低い。
【0081】
以上、実施形態について説明したが、本発明は実施形態で説明した例に限定されない。
例えば、
図9に示すように、ブリーザ室9に底壁突出部98を形成してもよい。
この底壁突出部98は、第1延出壁95よりも右側に位置する底壁、言い換えると、外部連通路93(ブリーザパイプ94)の下方に位置する底壁を上方に突出させることで形成されている。また、底壁突出部98は、突起部92(第2ドレン孔91)よりも上方に突出している。
そして、この底壁突出部98によれば、ブリーザパイプ94(外部連通路93)の下方に潤滑油自体が流入しないため、ブリーザパイプ94から潤滑油が漏出するおそれをさらに低減できる。
【0082】
また、実施形態では、後捕集室7の滴下孔73により、前軸受133と後軸受134との間に潤滑油を滴下し、前軸受133の作動により前収容室2に潤滑油を供給するようになっているが、本発明はこれに限定されない。
例えば、
図10に示すように、後捕集室7の前面から、前軸受(テーパーローラーベアリング)133よりも前方に貫通し、後捕集室7と前収容室2とを直接連通する連通孔75を形成してもよい。これによれば、後捕集室7から前収容室2に流入する潤滑油が増加する。
【0083】
また、上記する連通孔75は、後捕集室7の前面から前下方向に向って穿設してなる加工孔76と、中間収容室3の内周面に形成された鋳抜き溝77と、から構成されてもよい。なお、鋳抜き溝77は、第2ハウジング20を鋳造時に形成された溝であり、加工の手間を省くことができる。
【0084】
また、
図11に示すように、ブリーザ室9から作動油用貯留槽6に潤滑油を供給する流路に関し、横穴61の他に、縦穴67をさらに加えてもよい。
この縦穴67によれば、ブリーザ室9の空気が横穴61に、より流入し難くなるため、好ましい。
【0085】
また、第2ハウジング20に横穴61と縦穴67とが形成されている場合、横穴61ではなく、ストレーナ65を縦穴67の上方に配置してもよい。このような構成であっても、作動油用貯留槽6に異物が侵入し難くなり、油圧ポンプ122の故障を抑制できる。
【0086】
また、実施形態では、ブリーザパイプを使用した例を挙げたが、常閉型のブリーザプラグを使用してもよい。