【解決手段】ハブユニット(10)は、外輪(1)と、内軸(2)と、内輪(3)と、複数の転動体(42)と、密封装置(6)とを備える。密封装置(6)は、外輪(1)と内輪(3)との間に配置されて軸受空間を封鎖する。密封装置(6)は、スリンガ(61,62)と、芯金(63)と、シールリップ(64,65)とを有する。スリンガ(61,62)は別体に形成される。スリンガ(61,62)及び芯金(63)は、それぞれ筒部(611,621,631)及び環状板部(612,622,632)を含む。外輪(1)の内周面及び内輪(2)の外周面のうち、一方に筒部(611,621)がそれぞれ接触して装着され、他方に筒部(631)が装着される。シールリップ(64,65)は、それぞれ環状板部(632)から環状板部(612,622)に向かって延びる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態に係るハブユニットは、車両に取り付けられる。ハブユニットは、外輪と、内軸と、内輪と、複数の転動体と、密封装置とを備える。内軸は、外輪に挿入される。内輪は、内軸の車両側の端部の外周面に固定される。複数の転動体は、軸受空間に配置される。軸受空間は、内輪が固定された内軸と外輪との間に形成される。密封装置は、外輪と内輪との間に配置されて軸受空間を封鎖する。密封装置は、第1スリンガと、第2スリンガと、芯金と、第1シールリップと、第2シールリップとを有する。第1スリンガは、第1筒部と、第1環状板部とを含む。第1筒部は、外輪の内周面及び内輪の外周面のうち一方の周面に接触して装着される。第1環状板部は、第1筒部に接続される。第2スリンガは、第2筒部と、第2環状板部とを含む。第2筒部は、第1筒部よりも車両側に配置される。第2筒部は、上記一方の周面に接触して装着される。第2環状板部は、第2筒部に接続される。第2スリンガは、第1スリンガと別体に形成されている。芯金は、第3筒部と、第3環状板部とを含む。第3筒部は、外輪の内周面及び内輪の外周面のうち他方の周面に装着される。第3環状板部は、第3筒部に接続される。第3環状板部は、第1環状板部と第2環状板部との間に配置される。第1シールリップは、第3環状板部から第1環状板部に向かって延びる。第2シールリップは、第3環状板部から第2環状板部に向かって延びる(第1の構成)。
【0014】
上記ハブユニットの密封装置は、第1シールリップを接触又は近接させるための第1スリンガと、第2シールリップを接触又は近接させるための第2スリンガとを有する。すなわち、2つのスリンガが設けられているため、密封装置全体として、シールリップを接触又は近接させることができる面が大きくなる。よって、シールリップの数を増加させることができ、高い密封性能を得ることができる。
【0015】
上記密封装置において、第1及び第2スリンガは、別体に形成されており、それぞれ、外輪又は内輪に接触する第1及び第2筒部を有する。すなわち、第1及び第2スリンガは、互いに重なり合わない別個の部材である。よって、外輪と内輪との間に密封装置を取り付ける工程において、外輪の内輪との間に第1スリンガを圧入した後で、第1スリンガとは別に、第2スリンガを圧入することができる。この場合、第1及び第2スリンガが互いに影響を与えにくく、第1及び第2スリンガと芯金との間の各距離の変動が防止される。その結果、第1及び第2シールリップの変形が抑制され、第1及び第2シールリップを所定の位置に維持することができる。したがって、圧入に起因する密封性能の低下を抑制することができ、高い密封性能を安定して確保することができる。
【0016】
上記密封装置において、第1及び第2筒部が外輪の内周面に装着され、第3筒部が内輪の外周面に装着されていてもよい。この場合、密封装置は、さらに、弾性封止部を有することができる。弾性封止部は、第3筒部と第3環状板部との接続部に設けられる。弾性封止部は、芯金と内輪との間で圧縮される(第2の構成)。
【0017】
第2の構成によれば、芯金を内輪に装着し、第3筒部と第3環状板部との接続部に弾性封止部を設けている。弾性封止部は、芯金と内輪との間で圧縮されることにより、芯金及び内輪に密着して両者の間を封止する。このため、内輪側から軸受空間内に泥水等が侵入するのを確実に防止することができる。
【0018】
上記密封装置において、第1及び第2筒部が内輪の外周面に装着され、第3筒部が外輪の内周面に装着されていてもよい。この場合、ハブユニットは、さらに、パルサリングを備えることができる。パルサリングは、第2環状板部の車両側の表面に取り付けられる(第3の構成)。
【0019】
ハブユニットの回転速度検出機構としては、例えば、内輪とともに回転するスリンガの外側にパルサリングを取り付け、このパルサリングと対向するようにセンサを配置するものや、軸受空間内にパルサリングを配置するとともに、ハブユニットの外側から軸受空間内にセンサを挿入するもの等がある。ハブユニットの外側からセンサを挿入する場合、そのための機械加工が必要になる。
【0020】
第3の構成では、第1及び第2スリンガを内輪に装着し、第2スリンガにパルサリングを取り付ける方式を採用している。このため、回転速度を検出するための機械加工が不要となり、ハブユニットの製造コスト及び工数を低減することができる。また、第1及び第2スリンガの各筒部を内輪の外周面に接触させているため、密封装置が内輪に接触する面を軸方向に長くすることができる。よって、内輪側からの泥水等の侵入の防止効果を向上させることができる。
【0021】
実施形態に係るハブユニットの製造方法は、工程a)と、工程b)とを備える。工程a)は、ハブユニット中間体を準備する。ハブユニット中間体は、外輪と、内軸と、内輪と、複数の転動体とを含む。内軸は、外輪に挿入されている。内輪は、内軸の軸方向の一方端部の外周面に固定されている。複数の転動体は、軸受空間に配置されている。軸受空間は、内輪が固定された内軸と外輪との間に形成されている。工程b)は、外輪と内輪との間に密封装置を取り付ける。工程b)は、工程b−1)と、工程b−2)とを含む。工程b−1)は、外輪の内周面と内輪の外周面との間に第1スリンガを圧入する。工程b−2)は、工程b−1)の後、外輪の内周面と内輪の外周面との間に第2スリンガを圧入する。第2スリンガは、芯金とともに、又は芯金が外輪の内周面と内輪の外周面との間に圧入された状態で、圧入される。芯金は、第1シールリップ及び第2シールリップが形成されている。第1シールリップは、第1スリンガ側に延びる。第2シールリップは、第2スリンガ側に延びる(第4の構成)。
【0022】
上記製造方法では、外輪と内輪との間に対し、第1スリンガが圧入された後で、第2スリンガが圧入される。すなわち、第1及び第2スリンガは、一体化することなく、別個に圧入される。この場合、第1及び第2スリンガが互いの圧入の影響を受けにくいため、第1及び第2スリンガと芯金との間の各距離の変動が防止される。その結果、第1及び第2シールリップの変形が抑制され、第1及び第2シールリップを所定の位置に維持することができる。したがって、圧入に起因する密封性能の低下を抑制することができ、高い密封性能を安定して確保することができる。
【0023】
上記工程b)は、さらに、工程b−3)を含んでいてもよい。工程b−3)は、圧入器具を準備する。圧入器具は、環状の芯金押圧部と、環状のスリンガ押圧部とを有する。スリンガ押圧部は、芯金押圧部の径方向外側又は内側に配置される。工程b)が工程b−3)を含む場合、工程b−1)は、スリンガ押圧部によって第1スリンガを押圧して圧入する。工程b−2)は、スリンガ押圧部によって第2スリンガを押圧し、且つ芯金押圧部によって芯金を圧入して、第2スリンガを芯金とともに圧入する(第5の構成)。
【0024】
第5の構成では、共通の圧入器具を用いて、第1スリンガの圧入と、芯金と組み合わせた状態の第2スリンガの圧入とを実施する。圧入器具は、第2スリンガの圧入時において、芯金押圧部によって芯金を押圧し、これと同時にスリンガ押圧部によって第2スリンガを押圧する。このため、第2スリンガと芯金との距離及び第2シールリップの位置を維持しながら、芯金及び第2スリンガの圧入を一度に行うことができる。よって、圧入に起因する密封性能の低下を抑制しつつ、密封装置の取付作業を効率化することができる。
【0025】
以下、実施形態について図面を参照しつつ説明する。図中同一及び相当する構成については同一の符号を付し、同じ説明を繰り返さない。説明の便宜上、各図において、構成を簡略化又は模式化して示したり、一部の構成を省略して示したりする場合がある。
【0026】
<第1実施形態>
[ハブユニットの構成]
図1は、第1実施形態に係る製造方法によって製造されるハブユニット10の縦断面図である。縦断面とは、直線Xを通る平面で切断したときの面をいう。横断面は、直線Xに直交する平面で切断したときの面である。直線Xが延びる方向は、ハブユニット10の軸方向である。以下、ハブユニット10の軸方向において、車両に取り付けたときに車体に近い方をインナ側、車体から遠い方をアウタ側と称する。
【0027】
ハブユニット10は、外輪1と、内軸2と、内輪3と、複数の転動体41,42と、密封装置5,6とを備える。
【0028】
外輪1は、本体部11と、フランジ部12とを備えている。本体部11は、直線Xを軸心とする概略円筒状をなす。本体部11の内周面には、軌道面13a,13bが設けられている。軌道面13a,13bは、直線Xを軸心とする環状面である。軌道面13aは、軌道面13bよりもアウタ側に配置されている。
【0029】
フランジ部12は、本体部11の外周面から径方向外側に突出する。フランジ部12は、直線Xを軸心とする概略環状をなす。フランジ部12には、図示しない車両の懸架装置が取り付けられる。
【0030】
内軸2は、外輪1に挿入される。内軸2は、本体部21と、フランジ部22とを備えている。
【0031】
本体部21は、直線Xを軸心とする概略円筒状をなす。本体部21は、外輪1の本体部11の径方向の内側において、本体部11と同軸に配置される。本体部21には、中心孔23が形成されている。中心孔23は、本体部21を軸方向に貫通する。中心孔23には、図示しない等速ジョイントの軸部が挿入される。
【0032】
本体部21の外周面には、軌道面24aが設けられている。軌道面24aは、直線Xを軸心とする環状面である。軌道面24aは、外輪1の軌道面13aと対向する。
【0033】
フランジ部22は、本体部21の外周面から径方向外側に突出する。フランジ部22は、直線Xを軸心とする概略環状をなす。フランジ部22には、図示しないディスクホイールやブレーキディスク等が取り付けられる。
【0034】
内輪3は、直線Xを軸心とする筒状をなす。内輪3は、内軸2に固定されている。内輪3は、内軸2のインナ側の端部において、本体部21の外周面に装着されている。本体部21のインナ側の端部は、径方向外側にかしめられ、内輪3のインナ側の端面に接触している。すなわち、内輪3は、内軸2にかしめ固定されている。ただし、内輪3に対して内軸2を圧入することにより、内輪3が内軸2に固定されていてもよい。
【0035】
内輪3の外周面には、軌道面31bが設けられている。軌道面31bは、直線Xを軸心とする環状面である。軌道面31bは、外輪1の軌道面13bと対向する。
【0036】
複数の転動体41,42は、外輪1と内軸2及び内輪3との間に配置される。外輪1と、内輪3が固定された状態の内軸2との間には、軸受空間Sが形成される。転動体41,42は、軸受空間Sに配置されている。転動体41は、外輪1の軌道面13a及び内軸2の軌道面24aに接触して配置される。転動体42は、外輪1の軌道面13b及び内輪3の軌道面31bに接触して配置される。
【0037】
密封装置5,6は、軸受空間Sを密封する。密封装置5,6は、直線Xを軸心とする概略環状をなす。密封装置5は、軸受空間Sのアウタ側の端部を封鎖する。密封装置6は、軸受空間Sのインナ側の端部を封鎖する。
【0038】
図2は、
図1に示すハブユニット10のインナ側の端部の拡大図である。
【0039】
図2に示すように、密封装置6は、外輪1と内輪3との間に圧入される。密封装置6は、スリンガ61,62と、芯金63と、複数のシールリップ64,65と、弾性封止部66とを備えている。
【0040】
スリンガ61は、外輪1の内周面に装着される。スリンガ61は、筒部611と、環状板部612とを有する。
【0041】
筒部611は、円筒状に形成され、外輪1と同軸に配置される。筒部611は、外輪1の内周面に接触して装着される。筒部611は、外輪1に対して圧入されている。筒部611は、軸受空間側の縁部611aと、車両側の縁部611bとを含む。
【0042】
環状板部612は、円環板状に形成され、外輪1と同軸に配置される。環状板部612は、筒部611に接続されている。環状板部612は、筒部611の縁部611aに接続されている。環状板部612は、筒部611の径方向内側に延びている。環状板部612は、筒部611と一体的に形成される。
【0043】
スリンガ62は、外輪1の内周面に装着される。スリンガ62は、スリンガ61と別体に形成されている。スリンガ62は、スリンガ61よりも車両側に配置されている。スリンガ62は、筒部621と、環状板部622とを有する。
【0044】
筒部621は、円筒状に形成され、外輪1と同軸に配置される。筒部621は、外輪1の内周面に接触して装着される。筒部621は、外輪1に対して圧入されている。筒部621は、軸受空間側の縁部621aと、車両側の縁部621bとを含む。
【0045】
筒部621は、スリンガ61の筒部611よりも車両側に配置される。筒部611,621の外径は、実質的に等しい。筒部621の縁部621aは、スリンガ61の筒部611の縁部611bと対向する。縁部611b,621aは、互いに接触している。
【0046】
環状板部622は、円環板状に形成され、外輪1と同軸に配置される。環状板部622は、筒部621に接続されている。環状板部622は、筒部621の車両側の縁部621bに接続されている。環状板部622は、筒部621の径方向内側に延びている。環状板部622は、筒部621と一体的に形成される。
【0047】
芯金63は、内輪3の外周面に装着される。芯金63は、筒部631と、環状板部632とを有する。
【0048】
筒部631は、円筒状に形成され、内輪3と同軸に配置される。筒部631は、内輪3の外周面に接触して装着される。筒部631は、内輪3に対して圧入される。筒部631は、軸受空間側の縁部631aと、車両側の縁部631bとを含む。
【0049】
環状板部632は、円環板状に形成され、内輪3と同軸に配置される。環状板部632は、筒部631に接続されている。環状板部632は、筒部631の縁部631bに接続されている。環状板部632は、筒部631の径方向外側に延びている。環状板部632は、筒部631と一体的に形成される。
【0050】
環状板部632は、スリンガ61の環状板部612と、スリンガ62の環状板部622との間に配置される。環状板部632の軸受空間側の表面は、スリンガ61の環状板部612に対向する。環状板部632の車両側の表面は、スリンガ62の環状板部622に対向する。
【0051】
スリンガ61,62及び芯金63は、例えば、ステンレス鋼等の金属で構成される。
【0052】
シールリップ64,65は、芯金63に形成される。シールリップ64,65は、概略円環状に形成され、内輪3と同軸に配置される。シールリップ64,65は、芯金63上に設けられた基部67から突出する。基部67は、芯金63の環状板部632の表面を覆う。
【0053】
シールリップ64,65及び基部67を構成する材料の弾性は、スリンガ61,62及び芯金63を構成する材料の弾性よりも大きい。シールリップ64,65及び基部67は、ハブユニットの密封装置において一般に使用されるゴム系材料で構成することができる。
【0054】
シールリップ64の各々は、芯金63の環状板部632からスリンガ61の環状板部612に向かって延びている。シールリップ64の先端部は、環状板部612に接触する。
【0055】
シールリップ65の各々は、芯金63の環状板部632からスリンガ62の環状板部622に向かって延びている。シールリップ65の先端部は、環状板部622に接触する。
【0056】
シールリップ64,65は、概ね軸方向に延びるアキシャルリップである。シールリップ64は、芯金63の環状板部632からスリンガ61の環状板部612に向かうにつれて径方向外側に傾斜している。シールリップ65は、芯金63の環状板部632からスリンガ62の環状板部622に向かうにつれて径方向内側に傾斜している。すなわち、シールリップ64,65は、軸受空間S(
図1)への泥水等の侵入方向に対して逆らうように延びている。
【0057】
基部67には、さらに、シールリップ68が形成されている。シールリップ68は、概略円環状に形成され、内輪3と同軸に配置される。シールリップ68は、芯金63の筒部631に向かって延びている。シールリップ68は、概ね径方向に延びるラジアルリップである。シールリップ68の先端部は、筒部631に接触する。
【0058】
弾性封止部66は、芯金63の筒部631と環状板部632との接続部に設けられる。弾性封止部66は、筒部631の内周面から径方向内側に突出している。このため、弾性封止部66は、芯金63と内輪3の外周面との間で圧縮される。
【0059】
弾性封止部66は、基部67のうち環状板部632の車両側の表面を覆う部分と連続して設けられる。弾性封止部66は、基部67及びシールリップ64,65,68と同じゴム系材料で構成されることが好ましい。
【0060】
[ハブユニットの製造方法] 上述のように構成されたハブユニット10の製造方法について、
図3〜
図6を参照しつつ説明する。ハブユニット10の製造方法は、ハブユニット中間体10aの準備工程と、密封装置6の取付工程とを備える。
【0061】
(準備工程)
図3は、ハブユニット中間体10aを準備する工程を例示する図である。
【0062】
図3に示すように、ハブユニット中間体10aは、外輪1、内軸2、内輪3、転動体41,42、及び密封装置5を組み立てることによって作製される。すなわち、ハブユニット中間体10aは、インナ側の密封装置6が取り付けられる前のハブユニット10である。内軸2、内輪3、外輪1、転動体41,42、及び密封装置5は、一般に行われている方法で組み立てることができる。
【0063】
組立工程では、内軸2を内輪3に挿入し、内軸2のインナ側の端部を径方向外側にかしめることで、内輪3を内軸2に固定する。あるいは、内軸2を内輪3に圧入する場合、内軸2に対するかしめ加工を行わなくてもよい。内輪3が固定された内軸2は、外輪1に挿入される。軸受空間Sは、転動体41,42を収容し、アウタ側の端部が密封装置5によって密封される。
【0064】
(取付工程)
次に、ハブユニット中間体10aのインナ側の端部において、外輪1と内輪3との間に密封装置6(
図2)を取り付ける。このとき、
図4に示す圧入器具9を準備する。ここで、圧入器具9の構成について説明する。
【0065】
図4は、圧入器具9の縦断面図である。
図4に示すように、圧入器具9は、スリンガ押圧部91と、芯金押圧部92とを有する。スリンガ押圧部91及び芯金押圧部92は、別体に形成され、互いに取り外し可能である。
【0066】
スリンガ押圧部91は、上述したスリンガ61,62をそれぞれ軸受空間S側に押圧するための部材である。スリンガ押圧部91は、直線Y1を軸心とする概略円環状をなす。スリンガ押圧部91は、外輪1のインナ側の端部に挿入可能な大きさの外径を有する。スリンガ押圧部91の内径は、芯金押圧部92との関係で、スリンガ62の環状板部622の内径以上であることが好ましい。
【0067】
スリンガ押圧部91は、直線Y1を軸心とする環状の押圧面91aを有する。押圧面91aは、スリンガ61の筒部611を押圧するための面である。押圧面91aは、筒部611の縁部611bを押圧する。このため、押圧面91aの外径は、筒部611の内径よりも大きい。押圧面91aは、スリンガ62の環状板部622も押圧する。
【0068】
芯金押圧部92は、上述した芯金63を軸受空間S側に押圧するための部材である。芯金押圧部92は、環状部921と、突出部922とを有する。
【0069】
環状部921は、直線Y1を軸心とする概略円環状をなす。環状部921の外径は、スリンガ押圧部91の内径よりも小さい。このため、スリンガ押圧部91の径方向内側に環状部921を配置することができる。
【0070】
突出部922は、直線Y1を軸心とする概略円筒状をなす。突出部922は、環状部921の内周側に接続され、環状部921から突出する。詳しくは後述するが、密封装置6の取付工程において、突出部922は、スリンガ62の環状板部622と内輪3との間に挿入される。このため、突出部922の最大外径は、環状板部622の内径よりも小さい。環状部921及び突出部922は、内輪3のインナ側の端部を挿入可能な大きさの内径を有する。
【0071】
突出部922の先端には、直線Y1を軸心とする環状の押圧面922aが設けられる。押圧面922aは、芯金63の環状板部632を押圧するための面である。
【0072】
このように構成された圧入器具9を使用して、密封装置6を外輪1と内輪3との間に取り付ける。密封装置6の取付工程では、スリンガ61とスリンガ62とを組み合わせず、別々に圧入する。
図5は、スリンガ61を圧入する工程を示す。
図6は、スリンガ62を圧入する工程を示す。
【0073】
図5に示すように、まず、外輪1と内輪3との間にスリンガ61を圧入する。スリンガ61は、圧入器具9のスリンガ押圧部91を使用して、外輪1の内周面と内輪3の外周面との間に圧入される。
【0074】
具体的には、スリンガ61の筒部611の縁部611bにスリンガ押圧部91の押圧面91aを接触させ、スリンガ押圧部91によってスリンガ61を軸受空間S側に押圧する。スリンガ61は、外輪1と内輪3との間において、所定の位置まで押し込まれる。スリンガ61の位置は、例えば、外輪1又は内輪3のインナ側の端面からの距離に基づいて予め定められている。
【0075】
続いて、
図6に示すように、外輪1と内輪3との間にスリンガ62を圧入する。スリンガ62は、圧入前に、芯金63と組み合わされている。スリンガ62と芯金63との組み合わせは、スリンガ61の圧入後、スリンガ62の圧入の直前に行ってもよいし、スリンガ61の圧入よりも前に行ってもよい。
【0076】
スリンガ62及び芯金63は、スリンガ62の環状板部622と芯金63の環状板部632とが対向し、この間にシールリップ65が配置されるように組み合わされる。環状板部622,632間の軸方向の距離は、シールリップ65の先端部が予め定められた適切な位置に配置されるように設定される。
【0077】
組み合わされたスリンガ62及び芯金63の圧入にも、圧入器具9を使用する。スリンガ62及び芯金63の圧入には、スリンガ押圧部91及び芯金押圧部92の双方を使用する。
【0078】
具体的には、スリンガ62の環状板部622にスリンガ押圧部91の押圧面91aを接触させ、スリンガ押圧部91によってスリンガ62を軸受空間S側に押圧する。また、芯金63の環状板部632を、芯金押圧部92の押圧面922aによって押圧する。芯金押圧部92の押圧面922aは、環状板部632上に形成された基部67に接触する。
【0079】
スリンガ62及び芯金63の押圧時において、芯金押圧部92は、スリンガ押圧部91の径方向内側に配置される。芯金押圧部92の環状部921は、スリンガ押圧部91とともに、スリンガ62の環状板部622よりもインナ側に配置される。芯金押圧部92の突出部922は、環状板部622の径方向内側を通って芯金63側に延びる。突出部922の軸方向の長さは、芯金63の環状板部632を確実に押圧できるよう、上述した環状板部622,632間の軸方向の距離との関係で設定すればよい。
【0080】
組み合わされたスリンガ62及び芯金63は、外輪1と内輪3との間において、所定の位置まで押し込まれる。スリンガ62及び芯金63は、例えば、スリンガ62の筒部621がスリンガ61の筒部611と突き当たる位置まで押し込まれてもよいし、外輪1又は内輪3のインナ側の端面からの距離に基づいて予め定められた位置まで押し込まれてもよい。
【0081】
スリンガ62及び芯金63の圧入が終了すると、ハブユニット中間体10aに対する密封装置6の取り付けが完了する。これにより、
図1に示すハブユニット10が完成する。
【0082】
[効果]
本実施形態に係るハブユニット10において、密封装置6は、2つのスリンガ61,62を有している。このため、密封装置6全体として、シールリップ64,65を接触又は近接させることができる面が大きくなる。よって、シールリップ64,65の数を増加させることができ、高い密封性能を得ることができる。
【0083】
本実施形態に係るハブユニット10において、軸受空間S側のスリンガ61及び車両側のスリンガ62は、別体に形成されている。スリンガ61の筒部611及びスリンガ62の筒部621は、いずれも外輪1の内周面に接触する。すなわち、スリンガ61,62は、互いに重なり合わない別個の部材である。このため、密封装置6の取付工程では、スリンガ61を外輪1と内輪3との間に圧入した後、スリンガ61とは別に、スリンガ62を外輪1と内輪3との間に圧入する。これにより、スリンガ61,62が圧入によって互いに与える影響を防止することができ、スリンガ61,62と芯金63との間の各距離の変動を抑制することができる。よって、シールリップ64,65の変形が抑制され、シールリップ64,65を適切な位置に維持することができる。その結果、高い密封性能を安定して確保することができる。
【0084】
一般に、被圧入部材に対して複数の圧入部材を重ねて圧入する場合、被圧入部材と圧入部材との間だけではなく、圧入部材間にも嵌め合い面が存在する。圧入部材間の嵌め合い面の拡径又は縮径は、各圧入部材の締め代を変動させる。一方、本実施形態では、スリンガ61,62の筒部611,621を重ね合わせずに外輪1の内周面に圧入している。このため、筒部611,621の各々について、安定した締め代を確保することができ、スリンガ61,62を確実に外輪1に接触させて密封性能を確保することができる。
【0085】
本実施形態に係るハブユニット10において、密封装置6は、弾性封止部66を備えている。弾性封止部66は、芯金63において、筒部631と環状板部632との接続部に配置される。弾性封止部66は、芯金63と内輪3との間で圧縮されることにより、芯金63及び内輪3に密着して、芯金63と内輪3との間を封止する。このため、内輪3側から軸受空間S内に泥水等が侵入するのを確実に防止することができる。
【0086】
ハブユニットの密封装置において、スリンガのインナ側の端面にパルサリングを取り付け、パルサリングと対向するセンサで回転速度を検出する技術が知られている。パルサリングの被検出部は、通常、環状の着磁ゴムで構成される。この着磁ゴムのうち内輪側を厚肉化し、密封装置と内輪との間の密封を図ることがある。しかしながら、着磁ゴムは、その機能上金属を多く含むため、弾性に乏しく、塑性変形しやすい。このため、着磁ゴムの厚肉部では、内輪と密封装置との間の密封性能を十分に確保できない可能性がある。
【0087】
一方、本実施形態では、弾性封止部66を芯金63に設けたため、同じく芯金63に設けられたシールリップ64,65と同じ材料で弾性封止部66を形成することができる。すなわち、弾性封止部66は、着磁ゴムと比較して弾性が大きい材料で形成することができる。このような弾性封止部66は、芯金63と内輪3との間でこれらの形状に沿って確実に弾性変形し、密封装置6と内輪3との間の密封性能を向上させることができる。
【0088】
本実施形態では、共通の圧入器具9を使用して、スリンガ61の圧入と、組み合わされたスリンガ62及び芯金63の圧入とを行うことができる。圧入器具9は、特に、スリンガ62及び芯金63の圧入において、以下の効果を奏する。
【0089】
圧入器具9は、スリンガ押圧部91及び芯金押圧部92を有する。スリンガ62及び芯金63は、それぞれスリンガ押圧部91及び芯金押圧部92によって、同時に押圧される。このため、スリンガ62と芯金63との間の距離及びシールリップ65の位置を維持しながら、スリンガ62及び芯金63を一度に圧入することができる。よって、圧入に起因する密封性能の低下を抑制しつつ、密封装置6を効率的に取り付けることができる。
【0090】
<第2実施形態>
[ハブユニットの構成]
図7は、第2実施形態に係る製造方法によって製造されるハブユニット10Aの縦断面図である。
図7において、直線Xが延びる方向は、ハブユニット10Aの軸方向である。以下、ハブユニット10Aの軸方向において、車両に取り付けたときに車体に近い方をインナ側、車体から遠い方をアウタ側と称する。
【0091】
ハブユニット10Aは、第1実施形態に係るハブユニット10(
図1)と概ね同様の構成を有する。ただし、ハブユニット10Aは、インナ側の密封装置7の構成において、ハブユニット10と異なる。また、ハブユニット10Aは、パルサリング8を備える。
【0092】
図8は、
図7に示すハブユニット10Aのインナ側の端部の拡大図である。
【0093】
図8に示すように、密封装置7は、外輪1と内輪3との間に圧入される。密封装置7は、スリンガ71,72と、芯金73と、複数のシールリップ74,75とを備えている。
【0094】
第1実施形態では、スリンガ61,62が外輪1の内周面に装着され、芯金63が内輪3の外周面に装着されている(
図2)。一方、第2実施形態では、スリンガ71,72が内輪3の外周面に装着され、芯金73が外輪1の内周面に装着される。スリンガ71,72、芯金73、及びシールリップ74,75は、第1実施形態におけるスリンガ61,62、芯金63、及びシールリップ64,65と同様の材料で構成される。
【0095】
スリンガ71は、筒部711と、環状板部712とを有する。
【0096】
筒部711は、円筒状に形成され、内輪3と同軸に配置される。筒部711は、内輪3の外周面に接触して装着される。筒部711は、内輪3に対して圧入されている。筒部711は、軸受空間側の縁部711aと、車両側の縁部711bとを含む。
【0097】
環状板部712は、円環板状に形成され、内輪3と同軸に配置される。環状板部712は、筒部711に接続されている。環状板部712は、筒部711の縁部711aに接続されている。環状板部712は、筒部711の径方向外側に延びている。環状板部712は、筒部711と一体的に形成される。
【0098】
スリンガ72は、スリンガ71と別体に形成されている。スリンガ72は、スリンガ71よりも車両側に配置されている。スリンガ72は、筒部721と、環状板部722とを有する。
【0099】
筒部721は、円筒状に形成され、内輪3と同軸に配置される。筒部721は、内輪3の外周面に接触して装着される。筒部721は、内輪3に対して圧入されている。筒部721は、軸受空間側の縁部721aと、車両側の縁部721bとを含む。
【0100】
筒部721は、スリンガ71の筒部711よりも車両側に配置される。筒部711,721の外径は、実質的に等しい。筒部721の縁部721aは、スリンガ71の筒部711の縁部711bと対向する。縁部711b,721aは、互いに接触している。
【0101】
環状板部722は、円環板状に形成され、内輪3と同軸に配置される。環状板部722は、筒部721に接続されている。環状板部722は、筒部721の車両側の縁部721bに接続されている。環状板部722は、筒部721の径方向外側に延びている。環状板部722は、筒部721と一体的に形成される。
【0102】
環状板部722の車両側の表面には、パルサリング8が取付けられている。パルサリング8は、環状をなし、環状板部722と同軸に配置される。パルサリング8は、例えば、フェライト等の磁性粉末を混入したゴム系材料で構成される。パルサリング8は、その周方向において、S極とN極とが交互に着磁された構成を有する。パルサリング8は、いわゆる着磁ゴムリングである。
【0103】
車両には、図示しないセンサがパルサリング8と対向するように設けられる。当該センサにより、パルサリング8の磁束の変化が検出され、ハブユニット10Aに取り付けられる車輪の回転速度が検出される。
【0104】
芯金73は、筒部731と、環状板部732とを有する。
【0105】
筒部731は、円筒状に形成され、外輪1と同軸に配置される。筒部731は、外輪1の内周面に接触して装着される。筒部731は、外輪1に対して圧入される。筒部731は、軸受空間側の縁部731aと、車両側の縁部731bとを含む。
【0106】
環状板部732は、円環板状に形成され、外輪1と同軸に配置される。環状板部732は、筒部731に接続されている。環状板部732は、筒部731の縁部731bに接続されている。環状板部732は、筒部731の径方向内側に延びている。環状板部732は、筒部731と一体的に形成される。
【0107】
環状板部732は、スリンガ71の環状板部712と、スリンガ72の環状板部722との間に配置される。環状板部732の軸受空間側の表面は、スリンガ71の環状板部712に対向する。環状板部732の車両側の表面は、スリンガ72の環状板部722に対向する。
【0108】
シールリップ74,75は、芯金73に形成される。シールリップ74,75は、概略円環状に形成され、外輪1と同軸に配置される。シールリップ74,75は、芯金73上に設けられた基部77から突出する。基部77は、シールリップ74,75と同様の材料で形成され、環状板部732の表面を覆う。
【0109】
シールリップ74の各々は、芯金73の環状板部732からスリンガ71の環状板部712に向かって延びている。シールリップ74の先端部は、環状板部712に接触する。
【0110】
シールリップ75の各々は、芯金73の環状板部732からスリンガ72の環状板部722に向かって延びている。シールリップ75の先端部は、環状板部722に接触する。
【0111】
シールリップ74,75は、概ね軸方向に延びるアキシャルリップである。シールリップ74は、芯金73の環状板部732からスリンガ71の環状板部712に向かうにつれて径方向内側に傾斜している。シールリップ75は、芯金73の環状板部732からスリンガ72の環状板部722に向かうにつれて径方向外側に傾斜している。すなわち、シールリップ74,75は、軸受空間S(
図7)への泥水等の侵入方向に対して逆らうように延びている。
【0112】
基部77には、さらに、シールリップ78が形成されている。シールリップ78は、概略円環状に形成され、外輪1と同軸に配置される。シールリップ78は、芯金73の筒部731に向かって延びている。シールリップ78は、概ね径方向に延びるラジアルリップである。シールリップ78の先端部は、筒部731に接触する。
【0113】
基部77には、第1実施形態と同様、弾性封止部76を形成してもよい。弾性封止部76は、芯金73の筒部731と環状板部732との接続部において、筒部731の外周面から径方向外側に突出する。弾性封止部76は、芯金73と外輪1との間で圧縮される。弾性封止部76は、基部77と連続して設けられ、基部77及びシールリップ74,75,78と同じゴム系材料で構成されることが好ましい。
【0114】
[ハブユニットの製造方法] 上述のように構成されたハブユニット10Aの製造方法について、
図9〜
図11を参照しつつ説明する。ハブユニット10Aの製造方法は、ハブユニット中間体の準備工程と、密封装置7の取付工程とを備える。ハブユニット中間体の準備工程については、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0115】
第2実施形態では、密封装置7の取付工程において、
図9に示す圧入器具9Aを使用する。
図9は、圧入器具9Aの縦断面図である。
【0116】
図9に示すように、圧入器具9Aは、スリンガ押圧部93と、芯金押圧部94とを有する。スリンガ押圧部93及び芯金押圧部94は、別体に形成され、互いに取り外し可能である。
【0117】
スリンガ押圧部93は、上述したスリンガ71,72をそれぞれ軸受空間S側に押圧するための部材である。スリンガ押圧部93は、直線Y2を軸心とする概略円環状をなす。スリンガ押圧部93は、内輪3のインナ側の端部を挿入可能な大きさの内径を有する。スリンガ押圧部93の外径は、芯金押圧部94との関係で、スリンガ72の環状板部722の外径以下であることが好ましい。
【0118】
スリンガ押圧部93は、直線Y2を軸心とする環状の押圧面93aを有する。押圧面93aは、スリンガ71の筒部711を押圧するための面である。押圧面93aは、筒部711の縁部711bを押圧する。このため、押圧面93aの内径は、筒部711の外径よりも小さい。押圧面93aは、スリンガ72の環状板部722も押圧する。
【0119】
芯金押圧部94は、上述した芯金73を軸受空間S側に押圧するための部材である。芯金押圧部94は、環状部941と、突出部942とを有する。
【0120】
環状部941は、直線Y2を軸心とする概略円環状をなす。環状部941の内径は、スリンガ押圧部93の外径よりも大きい。このため、スリンガ押圧部93の径方向外側に環状部941を配置することができる。
【0121】
突出部942は、直線Y2を軸心とする概略円筒状をなす。突出部942は、環状部941の外周側に接続され、環状部941から突出する。密封装置7の取付工程において、突出部942は、スリンガ72の環状板部722と外輪1との間に挿入される。このため、突出部942の最小内径は、環状板部722の外径よりも大きい。環状部941及び突出部942は、外輪1のインナ側の端部に挿入可能な大きさの外径を有する。
【0122】
突出部942の先端には、直線Y2を軸心とする環状の押圧面942aが設けられる。押圧面942aは、芯金73の環状板部732を押圧するための面である。
【0123】
このように構成された圧入器具9Aを使用して、密封装置7を外輪1と内輪3との間に取り付ける。第1実施形態と同様に、スリンガ71,72の圧入は別々に行われる。
図10は、スリンガ71を圧入する工程を示す。
図11は、スリンガ72を圧入する工程を示す。
【0124】
図10に示すように、まず、外輪1と内輪3との間にスリンガ71を圧入する。スリンガ71は、圧入器具9Aのスリンガ押圧部93を使用して、外輪1の内周面と内輪3の外周面との間に圧入される。
【0125】
具体的には、スリンガ71の筒部711の縁部711bにスリンガ押圧部93の押圧面93aを接触させ、スリンガ押圧部93によってスリンガ71を軸受空間S側に押圧する。スリンガ71は、外輪1と内輪3との間において、所定の位置まで押し込まれる。スリンガ71の位置は、第1実施形態と同様に定めることができる。
【0126】
続いて、
図11に示すように、外輪1と内輪3との間にスリンガ72を圧入する。スリンガ72は、圧入前に、芯金73と組み合わされている。スリンガ72と芯金73との組み合わせは、スリンガ71の圧入後、スリンガ72の圧入の直前に行ってもよいし、スリンガ71の圧入よりも前に行ってもよい。スリンガ72と芯金73とを組み合わせる方法は、径方向における位置が逆であるが、第1実施形態と同様である。
【0127】
組み合わされたスリンガ72及び芯金73の圧入にも、圧入器具9Aを使用する。スリンガ72及び芯金73の圧入には、スリンガ押圧部93及び芯金押圧部94の双方を使用する。
【0128】
具体的には、スリンガ72の環状板部722にスリンガ押圧部93の押圧面93aを接触させ、スリンガ押圧部93によってスリンガ72を軸受空間S側に押圧する。また、芯金押圧部94の押圧面942aを芯金73の環状板部732上の基部77に接触させ、芯金押圧部94によって芯金73を軸受空間S側に押圧する。
【0129】
第1実施形態と同様に、圧入器具9Aは、スリンガ72及び芯金73を同時に押圧する。よって、芯金押圧部94の環状部941は、スリンガ押圧部93の径方向外側に配置される。芯金押圧部94の突出部942は、スリンガ72の環状板部722の径方向外側を通って芯金73の環状板部732側に延び、環状板部732を押圧する。
【0130】
スリンガ72及び芯金73を第1実施形態と同様の所定の位置まで押し込むと、スリンガ72及び芯金73の圧入が終了する。これにより、ハブユニット中間体10aに密封装置7が取り付けられ、
図7に示すハブユニット10Aが完成する。
【0131】
[効果]
本実施形態に係るハブユニット10Aにおいても、密封装置7のスリンガ71,72が、互いに重なり合わない別個の部材として構成され、外輪1と内輪3との間に別々に圧入される。よって、第1実施形態と同様に、シールリップ74,75を適切な位置に維持することができ、高い密封性能を安定して確保することができる。
【0132】
本実施形態において、圧入器具9Aは、スリンガ71の圧入と、スリンガ72及び芯金73の圧入とに使用される。圧入器具9Aは、スリンガ72及び芯金73の圧入に際し、スリンガ押圧部91及び芯金押圧部92によって、スリンガ72及び芯金73を同時に押圧する。よって、第1実施形態と同様に、スリンガ72と芯金73との間のシールリップ75の位置を維持して密封性能を安定させつつ、密封装置7の取付作業の効率化を図ることができる。
【0133】
本実施形態に係るハブユニット10Aでは、外輪1に対して回転する内輪3にスリンガ72を装着している。よって、スリンガ72の環状板部722の表面、すなわち密封装置7のインナ側の端面に、回転速度検出用のパルサリング8を取り付ける。このため、軸受空間内にパルサリングを配置し、ハブユニットの外側から軸受空間にセンサを挿入する場合と異なり、回転速度検出機構のための機械加工が不要である。よって、ハブユニット10Aによれば、製造コスト及び工数を低減することができる。
【0134】
軌道面13a,13bを有する外輪1の内周面や、軌道面24a,31bを有する内軸2及び内輪3の外周面は、通常、焼き入れが施される。焼き入れにより硬化した外輪1の内周面、内軸2の外周面、及び内輪3の外周面は、機械加工による損傷を比較的受けやすい。本実施形態によれば、回転速度検出機構のための機械加工が不要であるので、上記各周面が損傷を受けるのを防止することができる。
【0135】
<変形例>
以上、実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0136】
上記各実施形態では、第1及び第2スリンガの筒部同士が互いに接触している。ただし、軸方向において、第1スリンガの筒部と第2スリンガの筒部との間には隙間が生じていてもよい。
【0137】
上記各実施形態において、第1及び第2スリンガは、芯金の第3環状板部に対してほとんど対称に形成されている。しかしながら、第1及び第2スリンガは、第3環状板部に対して非対称であってもよい。例えば、第1及び第2筒部の軸方向の長さが互いに異なっていてもよい。
【0138】
上記各実施形態では、シールリップの各々が対応するスリンガ又は芯金に接触する。しかしながら、シールリップは、スリンガ又は芯金に接触していなくてもよい。シールリップの先端部とスリンガ又は芯金との間に隙間がある場合であっても、シールリップがラビリンスシールを形成するため、密封装置の密封性能が確保される。
【0139】
各スリンガ又は芯金に接触するシールリップの数が多くなると、密封性能が向上するが、回転トルクは大きくなる。一方、シールリップの数自体を少なくし、あるいはシールリップをスリンガ又は芯金に接触させないようにすると、密封性能が若干低下するものの、回転トルクは小さくなる。シールリップの数、及びシールリップの接触/非接触については、必要な密封性能及び回転トルクのバランスに応じて適宜決定すればよい。
【0140】
上記各実施形態では、外輪と内輪との間に対し、第1スリンガを単独で圧入した後、芯金と組み合わせた状態の第2スリンガを圧入する。しかしながら、芯金と組み合わせた状態の第1スリンガを圧入した後、第2スリンガを単独で圧入してもよい。また、第1スリンガ、芯金、及び第2スリンガをこの順で個別に圧入してもよい。ただし、作業性の観点等からは、芯金は、第1及び第2スリンガのいずれか一方と組み合わせた状態で圧入されることが好ましい。
【0141】
上記各実施形態において、圧入器具のスリンガ押圧部及び芯金押圧部は、別体に形成されている。しかしながら、スリンガ押圧部及び芯金押圧部は、一体的に形成されていてもよい。