【実施例】
【0019】
図1ないし
図5を参照して、本発明の実施例に係るしゅう動部品について説明する。
【0020】
図1(a)に示すように、しゅう動部品1は環状体を成しており、通常、しゅう動部品1のしゅう動面Sの内外周の一方側に高圧の被密封流体が存在し、また、他方側は大気である。
そして、この被密封流体をしゅう動部品1を用いて効果的にシールすることができる。例えば、このしゅう動部品1をメカニカルシール装置における一対の回転用密封環及び固定用密封環の少なくともいずれか一方に用いる。回転用密封環のしゅう動面と、これに対向する固定用密封環のしゅう動面とを密接させてしゅう動面の内外周のいずれか一方に存在する被密封流体をシールする。
また、円筒状しゅう動面の軸方向一方側に潤滑油を密封しながら回転軸としゅう動する軸受のしゅう動部品として利用することも可能である。
【0021】
本実施例においては、しゅう動部品の一例であるメカニカルシールを例にして説明する。また、メカニカルシールを構成するしゅう動部品の外周側を高圧流体側(被密封流体側)、内周側を低圧流体側(大気側)として説明するが、本発明はこれに限定されることなく、高圧流体側と低圧流体側とが逆の場合も適用可能である。
図1においては、説明の都合上、外周側に高圧の被密封流体が存在する場合について説明する。
【0022】
図示例では、しゅう動部品1の断面形状は、
図1(c)に示すように凸形状をしており、その頂面が平坦なしゅう動面Sを構成している。このしゅう動面Sには、
図1(b)に示すような多数のディンプル2が独立して設けられている。これらのディンプル2は、しゅう動面Sの径方向の幅全体ではなく、高圧流体側寄りのディンプル形成域3に設けられるもので、ディンプル形成域3は高圧流体側と連通し、低圧流体側とは平坦なシール面4により隔離されている。
本例では、ディンプル2は、周方向に独立して等配されたディンプル形成域3に設けられる場合を示しているが、これに限らず、周方向に連続して設けられてもよい。また、本例では、しゅう動部品1は炭化珪素(SiC)より形成した。
【0023】
本発明において、「ディンプル」とは、平坦なしゅう動面Sに形成されるくぼみのことであり、その形状は特に限定されるものではない。例えば、くぼみの平面形状は円形、楕円形、長円形、もしくは多角形など種々の形が包含され、くぼみの断面形状もお椀状、または、方形など種々の形が包含される。
そして、しゅう動面Sに形成された多数のディンプル2は、このしゅう動面Sと相対しゅう動する相手側しゅう動面との間に流体力学的な潤滑液膜として介入する液体の一部を保持して、潤滑液膜を安定化させる機能を有するものである。
【0024】
図2は、本発明の実施例に係るしゅう動部品のしゅう動面にランダムに配置されたディンプルを示すしゅう動面の平面図である。
図2において、
図1の符号と同じ符号は
図1と同じ部材を示しており、詳しい説明は省略する。
図2において、しゅう動面に形成された複数のディンプル2は、相互に他のディンプルと独立して設けられ、開口径の異なる複数のディンプルがランダムに分布するように配置されている。ディンプルの開口径のランダム分布の手法として、本例では、乱数を使用して決定し、しゅう動面に一様に分布、すなわち、開口径の異なるディンプルの分布がしゅう動面の全体にわたって一様になるように設定した。
【0025】
しゅう動面にディンプルを加工する方法の一例を説明すると、次のとおりである。
(1)乱数を用いて金属マスクにあける孔の径と位置とを決定する。
(2)決定された径と位置とで金属マスクにレーザ加工などで孔をあける。
(3)ランダムに孔のあけられた金属マスクを対象となるしゅう動部品のしゅう動面上に設置する。
(4)金属マスクの上からフェムト秒レーザを照射したり、イオンエッチングなどで金属マスクの孔を利用してしゅう動面にディンプルを形成する。しゅう動面には、開口径の異なるディンプルが所定の分布でもって一様に配置される。
【0026】
図3は、本発明の実施例に係るランダムに配置されたディンプル2の径寸法分布を示す図である。
本例では、複数のディンプル2の開口径は、30〜100μmの範囲に分布されている。また、開口径の小さいディンプル2の方が開口径の大きいディンプル2よりも相対的に多く分布している。
複数のディンプル2の開口径のランダムに分布は、しゅうどう面の軸受特性数G(流体の粘度×速度/荷重)などに応じて設定されるものであり、
図3は、開口径が30〜100μm混合ディンプルにおける好適な一例を示したものである。
【0027】
実施例及び比較例に用いたしゅう動部品の諸元を以下の表1に示す。
実施例においては、ディンプル2の開口径が30〜100μmの範囲にランダムに分布された混合ディンプルを用いた。
また、比較例として、ディンプル2の開口径がそれぞれ50μm、75μm及び100μmの3種類であって、しゅう動面に一様に分布された単一のディンプルを用いた。
さらに、複数のディンプル2の深さは、実施例及び比較例共に、極低速でのしゅう動特性が良好な100nmを採用した。
なお、複数のディンプル2の深さは、摩擦係数低減の面から50〜1000nmの範囲内に設定されることが好ましいが、極低速でのしゅう動特性を重視する場合には、100〜200nmの範囲内に設定されることが好ましい。
また、密封と潤滑の両立を図るため、複数のディンプルのしゅう動面に対する面積率は40%を採用したが、これに限らず30〜50%でもよい。
【表1】
【0028】
実施例及び比較例の試験条件を以下の表2に示す。
【表2】
【0029】
図4は、回転しゅう動試験によって得られた摩擦係数と軸受特性数Gとの関係を示す図である。
図4において、試験における回転数域において、ディンプルの開口径がφ50μm、φ75μm、φ100μmの比較例においては、軸受特性数Gの値が7.6×10−8を超える範囲で、ディンプルの開口径が大きいほど摩擦係数が下がることが分かる。また、各ディンプルの開口径において、流体潤滑遷移点(以下、「Gc点」という。)が存在し、φ50μm、φ75μm、φ100μmの比較例においては、ディンプルの開口径が小さくなるほどGc点が低G側にシフトし、さらにGc点における摩擦係数が低くなっていることが分かる。
また、ディンプルの開口径がφ30〜100μm混合の実施例においては、G値が約6.0×10−8を超える範囲では、径がφ100μmの時とほとんど同じ摩擦係数を示し、それ以下では、Gc点の低G側へのシフト化、さらにGc点における摩擦係数が低下しており、広い範囲の回転数域で摩擦係数低減に効果があることが分かる。
なお、本試験において試験中にしゅう動面からの漏れは生じていない。
【0030】
次に、
図5を参照しながら、本試験に用いたしゅう動トルク計測可能な試験機10を説明する。
試験機10の本体部分には、固定環11をバネ12を介して非回転状態に支持するケーシング13と、このケーシング13の内周に回転自在に挿通された回転軸14と、この回転軸14の外周に支持された、固定環11と軸方向に対向される回転環15とを備え、回転環15、ケーシング13、回転軸14で囲まれた密封空間には密封対象液Lが封入される。
【0031】
本試験機10の特徴として、両側の軸受部分16に静圧気体軸受を採用し、メカニカルシールのしゅう動トルクを精度良く計測できるようになっている。また、トルクは、トルクメータ17および、カンチレバー方式によるロードセル18の2種類の方法で計測し、ダブルチェックにより計測ミスをなくすようにしている。
【0032】
本発明の実施の形態に係るしゅう動部品の作用・効果は以下のとおりである。
(1)試験における回転数域において、ディンプルの開口径がφ50μm、φ75μm、φ100μmの比較例においては、軸受特性数Gの値が7.6×10−8を超える範囲で、ディンプルの開口径が大きいほど摩擦係数が下がり、また、ディンプルの開口径が小さくなるほど流体潤滑遷移点(以下、「Gc点」という。)が低G側にシフトし、さらにGc点における摩擦係数が低くなる傾向を持つのに対し、ディンプルの開口径がφ30〜100μm混合の実施例においては、G値が約6.0×10−8を超える範囲では、径がφ100μmの時とほとんど同じ摩擦係数を示し、それ以下では、Gc点の低G側へのシフト化、さらにGc点における摩擦係数が低下しており、広い範囲の回転数域で摩擦係数低減に効果がある。
(2)複数のディンプル2の深さは、摩擦係数低減の面から50〜1000nmの範囲内に設定されることが好ましいが、100〜200nmの範囲内に設定することにより、極低速でのしゅう動特性を良好にすることができる。
(3)複数のディンプルのしゅう動面に対する面積率を30〜50%の範囲内に設定することにより、密封と潤滑の両立を図ることができる。
【0033】
以上、本発明の実施の形態を実施例により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0034】
例えば、前記実施例では、しゅう動部品をメカニカルシール装置における一対の回転用密封環及び固定用密封環の少なくともいずれか一方に用いる例について説明したが、円筒状しゅう動面の軸方向一方側に潤滑油を密封しながら回転軸としゅう動する軸受のしゅう動部品として利用することも可能である。
【0035】
また、例えば、前記実施例では、外周側に高圧の被密封流体が存在する場合について説明したが、内周側が高圧流体の場合にも適用でき、その場合、ディンプルを内周側に連通させて配設すればよい。
【0036】
また、例えば、前記実施例では、複数のディンプルは、開口径が30〜100μmの範囲に設定され、その開口径の小さいディンプルの方が径の大きいディンプルよりも相対的に多く分布されている場合を説明したが、これらは好ましい1つの例を示したものであり、これらに限定されず、開口径の異なる複数のディンプルがランダムに分布されて混合されていることが重要であり、分布の割合は、しゅうどう面の軸受特性数G(流体の粘度×速度/荷重)に応じて最適な値に設定されればよい。
【0037】
また、例えば、前記実施例では、複数のディンプルの深さとして100nmを採用した場合について説明したが、これに限定されず、50〜1000nmの範囲から選定されてもよく、また、極低速でのしゅう動特性を良好にするには100〜200nmの範囲に設定されるのが望ましい。
【0038】
また、例えば、前記実施例では、密封と潤滑の両立を図る観点から、複数のディンプルのしゅう動面に対する面積率として40%を採用した場合について説明したが、これに限定されず、30〜50%の範囲でもよい。