【実施例】
【0033】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
実施例1:AGEs形成誘導による角質細胞形態の変化
ヒト皮膚再構築モデル(東洋紡,TESTSKIN TMLSE−30)を用いて、製造元のプロトコールに従いヒト3次元皮膚モデルを構築した。グリオキサール(濃度200 μM)用いてAGEs形成誘導を行い、構築されたヒト3次元皮膚モデルの角層を電子顕微鏡で観察した。また、AGEs形成阻害剤であるアミノグアニジン(濃度 2 mM)を添加し、AGEsの形成阻害を確認した。結果の写真を
図1に示す。AGEs形成誘導が行われた皮膚では、角質細胞の一つ一つが肥厚するなどの形成異常が見られた。また、健全な角層の構築に必要なケラチン線維の凝集が、AGEs形成誘導によって阻害される様子が観察され、これはアミノグアニジン添加により回復した。
次いで、ヒト皮膚の角層(SC)におけるAGEs量と角層厚、角層水分量を求めた。AGEs量は、Western blotのシグナル強度から求めた。角層厚は、共焦点ラマン分光装置を用いて求めた。角層水分量は、共焦点ラマン分光装置を用いて求めた。それらの関係を
図2に示す。
これらの結果より、角層でのAGEsの形成より角層厚の上昇と水分量の低下が起こっていることが確認できた。つまり、角層でのAGEsの増加は、老化皮膚の特徴である皮膚表面のゴワつきや硬化に関与していることが考えられる。
【0035】
実施例2:ヒト背中角層中のCML化タンパク質の特定
ヒト角層抽出タンパク質を2次元電気泳動しWestern blot法によりCMLスポットを検出後、同一条件の電気泳動を別途実施しCMLスポットに対応する位置のゲルを切り出しLC−MS/MSを用いてCML化されるタンパク質の特定およびCML化部位の特定を行った。方法の詳細を以下に示す。
【0036】
2−1.CML化タンパク質試料の調製
(1)試料(ヒト背中角層)
ヒトの背中にメンディングテープ(2.4 cm X 10 cm、10枚)を塗布し、押し付けて接着後、これをはがすことで角層を採取した。採取したテープはOHPシートに貼り付けて−80℃で保存した。対象者は19歳から60歳までの健常な男性(喫煙習慣のない方)を対象とした。
(2)角層タンパク質の抽出
テープ3枚を50 mlの遠心チューブに入れ、抽出溶剤(8 M urea,50 mM DTT,50 mM CHES,pH 9.3)15 mlを加えて30℃で16hr振盪した。
Cellulose Acetate膜(φ=0.80 μm,Dismic−25CS,Toyo Roshi)で濾過した後、濾液を限外濾過膜(Amicon Ultra 15、ultracel 10K:排除限界10kDa,Millipore)を用いて遠心濃縮、さらに0.5 mlスケールの限外膜(Ultrafree 0.5,Biomax 5K,Millipore)を用いて約100 μlに濃縮後、−25℃で保存した。
【0037】
(3)電気泳動とPVDF膜への転写
抽出した角層タンパク質を、ヨードアセトアミドを用いてSH基封鎖し、2次元電気泳動を行って分離した。
電気泳動は30 μgのタンパク質をアプライしてZoom Gel System(Invitrogen)を用いて等電点電気泳動し、NuPagepreCastgel System(Invitrogen)でBis−Tris gel、MOPS bufferを用いたSDS−PAGEを実施した。PVDF膜(pore size 0.2 μm:Invitrogen LC2002)への転写はXcell IIを用いた標準プロトコール(Invitrogen)にて実施した。
(4)ウェスタンブロット(CML)
以下の条件にて行った。
・blocking:2% skim milk/0.2% PBSTに浸漬し、室温で1 hr 振盪した。
・1次/2次抗体:抗CML::HRP conjugate(KH001−02,Transgenic,6D12クローン)を用い、希釈率1:5,000となるよう2% skim milk/0.2% PBST 10mlで希釈後加え、室温で1.5 hr振盪した。
・検出:Chemiluminescence:Super Signal Westdura(Thermo Scientific)を用いた。
(5)タンパク質染色
ゲルはRapidStain(Calbiochem #553215)、PVDF膜はCoomassie Blue Rを用いて染色した。
【0038】
(6)ゲルからのCML spotの切り出し
ウェスタンブロットと同じ条件でタンパク質を電気泳動し、ゲルをRapidStain(Calbiochem,#553215)を用いて染色した。この染色像からCML spotに相当する部分を、カミソリを用いて切り出した。切り出したゲルは−80℃で保存後、プロテオーム解析を実施した。
【0039】
(7)プロテオーム解析
ゲル中のタンパク質をin gel消化し、マス分析を実施した。LC−MS/MSを用いたマス分析にはQ−Star Elite(ABSciex)を使用した。次いで、検出したシグナルのMascot解析は以下の条件で実施した。
【0040】
【表1】
上記表中のそれぞれのサンプルの処理条件は以下の表2の通りである。
【0041】
【表2】
【0042】
2−2:電気泳動およびCML部位の検出
試料(Sample I:57才男性の背中より採取、Sample S:48歳男性の背中より採取)を、ヨードアセトアミドを用いてSH基封鎖を行った後、2次元電気泳動を行い分離し、抗CML抗体でウェスタンブロットした。それぞれの試料につき、切り出しを行う部分を以下のように決定した。抗CML抗体が反応しなかったコントロール(Blank)をA0およびB0とし、抗CML抗体が反応したスポットをそれぞれA1・A2、およびB1・B2とした。2次元電気泳動の結果を
図3に示す。
次いで、切り出したゲルからペプチドを抽出し、マス分析を行った。その結果、ケラチン10の全アミノ酸配列のうちの約70%を解析断片の配列でカバーした。そして多くのCML化配列を検出することができた。B1の結果を
図4に示す。
しかしながら、マス分析においてはCML化すると58 Daltonの分子量の増加が見られるはずであるが、多くの場合57 Daltonの分子量が増加した形でCML化配列が検出された。そこで、CML化配列で予想される分子量より1 Daltonの分子量が異なる原因を調べる目的で、グリオキサールを用いてCML化したBSAを試料としたマス分析を以下のようにして実施した。
【0043】
実施例3:グリオキサールを用いてCML化したBSAのマス分析
3−1:試料(CML化BSA)と方法
1% BSA(和光純薬011−17844)4 mlを15 ml tubeに分取し、1 M グリオキサール 1 mlを加え50℃で10日間保温した。2 M塩酸アミノグアニジン 5 mlを加えて反応停止した後、精製水を用いて透析(4℃、1晩)した。
得られたCML化BSAを用いて、
図5のプロトコールに従い、LC−MS/MS測定およびプロテオーム解析を行った。LC−MS/MSを用いたマス分析にはQ−Star Elite(ABSciex)を使用し、検出したシグナルのMascot解析は上記の表に示した条件で実施した。
【0044】
3−2:CML化したBSAを試料としたマス分析
上記に従い50℃でのグリオキサール処理によりBSAのCML化を実施した試料を用いてマス分析の条件検討を行った。電気泳動から切り出したゲルをヨードアセトアミドもしくはモノヨード酢酸を用いてSH基封鎖(還元アルキル化)を実施し、それぞれの試料をマス分析した。
マス分析した試料を表1に示す条件のMascot解析で得られたペプチドはカルボキシメチル化によるリジンの修飾とカルバミドメチル化によるリジンの修飾を区別することができた。すなわち、BSAでCML化した配列を検出できた。ヨードアセトアミドで還元アルキル化した試料では、グリオキサール処理すると多くのリジン残基がCML化したが、モノヨード酢酸で処理した試料ではグリオキサール未処理の試料でも多くのリジン残基がCML化されていた。結果を以下の表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
この結果とヨードアセトアミドで還元アルキル化した試料でカルバミドメチルリジンが検出されたことと併せて考えると、SH基封鎖処理でシステイン残基だけでなく、リジン残基も修飾されたと考えられる。すなわちヨードアセトアミド処理ではカルバミドメチルシステインとカルバミドメチルリジンが、モノヨード酢酸処理ではカルボキシメチルリジン(CML)とカルボキシメチルシステインが生成したことを示している。
以前の分析結果ではケラチン10においてCML化した部位が多く検出され、しかも分子量が1 Dalton小さかったが、これらのペプチドは、ヨードアセトアミド処理によるSH基封鎖で生成したカルバミドメチルリジン(+57 Dalton)であり、ケラチン上のCML(+58 Dalton)ではないと判断された。つまり、SH基封鎖で用いたヨードアセトアミドによりカルバミドメチルシステインが生じるが、副産物としてカルバミドメチルリジンが生じることが明らかとなった。カルバミドメチルリジンがリジン残基に対して57 Dalton 分子量が増加した形で検出されていた。よって、カルバミドメチルリジンによるノイズを除去することで、CMLを検出できる実験系が確立できた。この新しい系を用いることにより、CML化配列の候補を正確にピックアップすることができることが判った。
【0047】
実施例4:アミノ酸修飾部位の特定
実施例2−1に従い4名(サンプル:#1,#8,#11,#22)から試料を調製し、実施例3で確立したヨードアセトアミドによるアルキル化を用いた実験系で、マス分析を行いプロテオーム解析を実施した。その結果、ケラチン10において、カルボキシルメチルリジンに加えて、カルボキシエチルリジンが存在することが判った。また、プロテオーム解析は、以下のMascot解析条件にて行った。
【0048】
【表4】
【0049】
Mascotスコアの結果を
図6に示す。
図6より、207番アミノ酸(207CML)、285番アミノ酸(285CML)、および345番アミノ酸(345CML)の顕著な存在が確認された。また、全ての試料において、285CMLは、284CELと共に存在した(284CEL+285CML)。なお、207、285および345番目のアミノ酸位置は、川端ら(非特許文献6)によってCMLの存在が示唆されたケラチン10のアミノ酸断片には含まれていない。
図6より、179番アミノ酸(179CEL)、207番アミノ酸(207CEL)、284番アミノ酸(284CEL)、285番アミノ酸(285CEL)、および334番アミノ酸(334CEL)の存在が優位に確認できた。また、284CELが存在している試料は全て285CMLが共に存在していた(284CEL+285CML)。
【0050】
実施例5:アミノ酸修飾部位の身体部位差の確認
実施例2−1と同様にして59歳男性から、上腕、背中および額の角層を採取し、実施例3で確立したヨードアセトアミドによるアルキル化を用いた実験系にてマス分析を行いプロテオーム解析を実施した。実施例4で確認された、207CML、284CEL+285CML、および345CMLについてのMascotスコアの結果を
図8に示す。尚、本実験では同一のタンパク質試料を独立した3回のプロテオーム解析を実施して、プロテオーム解析実験の再現性も併せて確認したものである。
【0051】
上記の結果より、角層厚の上昇と水分量の低下などの皮膚性状のマーカーとして、CML化したリジンの近傍にあるリジンがカルボキシエチル化した配列(284CEL+285CML)が最も有力な候補としてピックアップされた。また、207CMLおよび345CMLも有力な候補として確認できた。CML化が単独で生じた他の配列位置もピックアップされたが、その出現頻度は低かった。
【0052】
上記の記載は、本発明の目的および対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更および置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。