【解決手段】ブレーキダイナモメータ100は、キャリパ油圧制御ユニット100を備えている。キャリパ油圧制御ユニット100は、キャリパ92に対して油圧を増減させるマスタリンダ111を備えている。マスタシリンダ111は、リリースシリンダ114および受け体120を介して押圧体123によって押圧される。押圧体123は、送りネジ機構140を介してキャリパ駆動モータ150によって進退駆動される。キャリパ駆動モータ150は、制御装置110によって作動が制御される。制御装置110は、キャリパ駆動モータ150の作動を制御して押圧体123を油圧ピストン113のストローク外の領域で押圧体123を往復動させることにより送りネジ機構140の潤滑処理を実行する。
ディスクブレーキの性能試験を行うブレーキダイナモメータに保持された被験ディスクブレーキの油圧式のキャリパに油圧を作用させるためのキャリパ油圧制御ユニットであって、
電動モータからなるキャリパ駆動モータと、
油が封入された油圧シリンダ内を油圧ピストンが摺動変位することによって前記キャリパ内の油圧を増加または減少させるマスタシリンダと、
前記油圧ピストンを前記油圧シリンダ内に押圧するための押圧体と、
前記キャリパ駆動モータおよび前記押圧体にそれぞれ連結されて前記キャリパ駆動モータの回転駆動によって前記押圧体を前記マスタシリンダに対して進退させる送りネジ機構と、
前記キャリパ駆動モータの作動を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記キャリパ駆動モータの作動を制御して前記油圧ピストンのストローク外の領域で前記押圧体を進退させることにより前記送りネジ機構の潤滑処理を実行することを特徴とするキャリパ油圧制御ユニット。
【発明の概要】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に係る本発明の特徴は、ディスクブレーキの性能試験を行うブレーキダイナモメータに保持された被験ディスクブレーキの油圧式のキャリパに油圧を作用させるためのキャリパ油圧制御ユニットであって、電動モータからなるキャリパ駆動モータと、油が封入された油圧シリンダ内を油圧ピストンが摺動変位することによってキャリパ内の油圧を増加または減少させるマスタシリンダと、油圧ピストンを油圧シリンダ内に押圧するための押圧体と、キャリパ駆動モータおよび押圧体にそれぞれ連結されてキャリパ駆動モータの回転駆動によって押圧体をマスタシリンダに対して進退させる送りネジ機構と、キャリパ駆動モータの作動を制御する制御装置とを備え、制御装置は、キャリパ駆動モータの作動を制御して油圧ピストンのストローク外の領域で押圧体を進退させることにより送りネジ機構の潤滑処理を実行することにある。この場合、送りネジ機構とは、軸状体の外周面に雄ネジが形成されたネジ軸と筒状体の内周面にこのネジ軸上に形成された雄ネジに嵌合する雌ネジが形成されてネジ軸を相対変位する変位体で構成されており、回転運動を直線運動に変換する機構である。
【0007】
このように構成した本発明の特徴によれば、キャリパ油圧制御ユニットは、マスタシリンダにおける油圧ピストンを送りネジ機構を介したキャリパ駆動モータの駆動力によって作動させているため、装置構成を単純化および小型化することができるとともにメンテナンス負担を軽減することができる。また、本発明に係るキャリパ油圧制御ユニットにおいては、制御装置がキャリパ駆動モータの作動を制御して油圧ピストンのストローク外の領域で押圧体を進退させることにより送りネジ機構の潤滑処理を実行するため、送りネジ機構の摩耗による損傷や劣化を抑制して位置決め精度を長期間維持できるととともにメンテナンス負担を軽減することができる。
【0008】
また、本発明の他の特徴は、キャリパ油圧制御ユニットにおいて、さらに、押圧体と油圧ピストンとを直接的または間接的に着脱自在に連結する着脱連結具を備えることにある。
【0009】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、キャリパ油圧制御ユニットは、さらに、
押圧体と油圧ピストンとを直接的または間接的に着脱自在に連結する着脱連結具を備えているため、押圧体と油圧ピストンとを連結することによりキャリパへの油圧の増減をキャリパ駆動モータの正転および逆転によって精度および応答性(特に立ち上り特性))良く行うことができブレーキダイナモメータによるブレーキの性能試験の精度および試験時間を短縮することができるとともに、送りネジ機構の潤滑処理の際には押圧体を油圧ピストンから分離して潤滑処理を行うことができる。
【0010】
また、本発明の他の特徴は、キャリパ油圧制御ユニットにおいて、着脱連結具は、押圧体と油圧ピストンとを磁力によって着脱自在に連結することにある。
【0011】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、キャリパ油圧制御ユニットは、着脱連結具が磁力によって押圧体とピストンとを着脱自在に連結するため、着脱連結具を簡易に構成してメンテナンス負担を軽減することができる。この場合、押圧体着脱手段は、制御装置によって作動が制御される電磁石で構成するとよい。
【0012】
また、本発明の他の特徴は、キャリパ油圧制御ユニットにおいて、さらに、空気が封入されたエアシリンダ内を摺動変位するエアピストンの一方の端部が油圧ピストンに連結されるとともに他方の端部が押圧体によって押圧されるリリースシリンダと、エアシリンダ内に空気を供給するエア供給装置とを備え、制御装置は、キャリパ内の油圧を減少させるとき、エア供給装置の作動を制御してエアピストンを押圧体側に変位させることにある。
【0013】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、キャリパ油圧制御ユニットは、さらに、油圧ピストンを押圧体側に変位させるリリースシリンダを備えているため、油圧ピストンを押圧する際には押圧体の変位に対する抵抗力を抑えることができるとともに、キャリパ内を減圧する際には油圧シリンダを迅速かつ確実に押圧体側に変位させることができ、ブレーキダイナモメータによるブレーキの性能試験の精度および試験時間を短縮することができる。
【0014】
また、本発明の他の特徴は、キャリパ油圧制御ユニットにおいて、制御装置は、潤滑処理を実行する間、エア供給装置の作動を制御してエアピストンをストロークにおける一方の端部に固定することにある。
【0015】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、キャリパ油圧制御ユニットは、制御装置が潤滑処理を実行する間、エア供給装置の作動を制御してエアピストンをストロークにおける一方の端部に位置が固定されているため、潤滑処理時にキャリパの油圧が変化してキャリパが回転ディスクを不意に接触したり制動したりすることが防止される。
【0016】
また、本発明は、キャリパ油圧制御ユニットの発明として実施できるばかりでなく、このキャリパ油圧制御ユニットを備えたブレーキダイナモメータの発明としても実施できるものである。
【0017】
具体的には、ディスクブレーキの性能試験を行うブレーキダイナモメータにおいて、被験ディスクブレーキの回転ディスクを回転駆動させるディスク駆動モータと、被験ディスクブレーキのキャリパを保持しつつ同キャリパの制動トルクを計測するトルク計測ユニットと、前記キャリパ油圧制御ユニットとを備えるとよい。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るキャリパ油圧制御ユニットおよびこのキャリパ油圧制御ユニットおよびこのキャリパ油圧制御ユニットを備えたブレーキダイナモメータの一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係るキャリパ油圧制御ユニット110を備えたブレーキダイナモメータ100の全体のシステム構成を概略的に示すブロック図である。また、
図2は、本発明に係るキャリパ油圧制御ユニット110の全体構成を概略的に示す側面断面図である。なお、本明細書において参照する各図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。また、各図においては、本発明に直接関わらない部分は適宜省略して表わしている。
【0020】
このキャリパ油圧制御ユニット100は、ブレーキダイナモメータ100に保持されたディスクブレーキ90のキャリパ92に油圧を供給する機械装置であり、ブレーキダイナモメータ100の一部を構成する。ディスクブレーキ90は、自動四輪車や自動二輪車に用いられる制動装置であり、主として、円板状に形成されて車輪とともに回転する回転体としての回転ディスク91と、油圧によって回転ディスク91を両側から挟んで押圧することにより回転ディスク91の回転を止めるキャリパ92とで構成されている。
【0021】
ここで、ブレーキダイナモメータ100について簡単に説明しておく。ブレーキダイナモメータ100は、ディスクブレーキ90の性能を試験する試験装置であり、主として、ディスク駆動モータ101、駆動軸102、フライホイール103、トルク計測ユニット104、キャリパ油圧制御ユニット110および制御装置170をそれぞれ備えている。
【0022】
ディスク駆動モータ101は、駆動軸102を回転駆動させることによりフライホイール103および回転ディスク91をそれぞれ回転駆動させるための電動機であり、制御装置170によって作動が制御される。駆動軸102は、フライホイール103を支持した状態で回転ディスク91を着脱自在に保持する軸体であり、ディスク駆動モータ101に連結されている。フライホイール103は、ディスクブレーキ90が装着される車両の運動エネルギ(換言すれば、慣性)を再現するために回転ディスク91とともに回転駆動する円板状の質量体である。
【0023】
トルク計測ユニット104は、ディスクブレーキ90におけるキャリパ92に生じる制動トルクおよび引き摺りトルクを計測する計測装置であり、制御装置170によって作動が制御される。この場合、制動トルクとは、キャリパ92が回転ディスク91を挟んで回転ディスクの回転を止める際にキャリパ92に生じる回転ディスク91の周方向に沿った回転モーメントである。また、引き摺りトルクとは、キャリパ92が回転ディスク91を挟まない非制動状態において回転ディスク91と接触することによりキャリパ92に生じる回転ディスク91の周方向に沿った回転モーメントである。
【0024】
(キャリパ油圧制御ユニット110)
キャリパ油圧制御ユニット110は、マスタシリンダ111を備えている。マスタシリンダ111は、キャリパ92に油圧を供給するための機器であり、主として、油圧シリンダ112および油圧ピストン113によって構成されている。油圧シリンダ112は、キャリパ92に圧力を伝達する油製のブレーキフルードが封入された金属製の筒体であり、油圧ピストン113が図示左右方向に摺動可能な状態で設けられている。この油圧シリンダ112は、一方(図示左側)の端部が図示しない配管を介してキャリパ92に繋がっており、他方(図示右側)の端部がリリースシリンダ114のエアシリンダ115に連結されて支持されている。
【0025】
また、この油圧シリンダ112には、油圧ピストン113の変位量を一定に保つために油圧シリンダ112内のブレーキフルード量を調節する図示しないリザーバタンクが接続される油量調整孔112aおよび油圧シリンダ112内の空気を外部に抜くための図示しないエア抜き孔がそれぞれ形成されている。
【0026】
油圧ピストン113は、油圧シリンダ112内のブレーキフルードを圧縮するための部品であり、油圧シリンダ112内を摺動する棒状に形成されている。この油圧ピストン113は、一方(図示左側)の端部がブレーキフルードに面しているとともに他方(図示右側)の端部がリリースシリンダ114のエアピストン118に連結されている。
【0027】
リリースシリンダ114は、後述する押圧体123からの押圧力を油圧ピストン113に伝達しつつ油圧ピストン113の原点復帰時に押圧体側に後退させるための機器であり、主として、エアシリンダ115およびエアピストン118によって構成されている。エアシリンダ115は、空気が封入された金属製の筒体であり、エアピストン118が図示左右方向に摺動可能な状態で設けられている。このエアシリンダ115は、一方(図示左側)の端部がマスタシリンダ111によって塞がれており油圧ピストン113に面しているとともに、他方(図示右側)の端部にピストンストッパ116が設けられている。
【0028】
ピストンストッパ116は、エアピストン118の押圧体123側への変位限界を規定するためのリング状の部品である。また、このエアシリンダ114の外周部は、一方(図示左側)の端部側にエア流通孔115aが形成されているとともに、他方(図示右側)の端部側が後述する外筒160に支持されている。エア流通孔115aは、エアシリンダ115内に対して空気を流入または排出するための貫通孔であり、エア供給装置117が接続されている。エア供給装置117は、エアシリンダ115内に空気を供給する図示しないコンプレッサおよびエアシリンダ115内の空気を外部に抜く図示しない電磁弁をそれぞれ備えて構成されており、制御装置170によって作動が制御される。
【0029】
エアピストン118は、油圧ピストン113に対して押圧体123からの押圧力を伝達するとともに油圧ピストン113を原点復帰させる際に油圧ピストン113を押圧体123側に引っ張るための部品であり、エアシリンダ115内を摺動する棒状に形成されている。このエアピストン118は、一方(図示左側)の端部が油圧ピストン113に連結されているとともに、他方(図示右側)の端部がフランジ状に張り出して形成されて受け体120が設けられている。
【0030】
受け体120は、エアピストン118を押圧または引っ張るための部品であり、磁性体製(例えば、鋼材製)の棒体の両端部がフランジ状に張り出した形状に形成されている。この場合、受け体120における一方(図示左側)の端部は、エアシリンダ115内においてエアピストン118の端部に連結されている。また、受け体120における他方(図示右側)の端部は、押圧体123が押し付けられる受け部120aが平板状に形成されるとともに、この受け部120aの外縁部の一部から検出板121が図示上方に張り出して設けられている。
【0031】
検出板121は、受け体120が原点位置に位置していることを検出する原点センサ122に接触して作動させるため部品であり、外筒160を貫通する長さの板状体で構成されている。原点センサ122は、検出板121が接触したことを表す検出信号を制御装置180に出力する検出器であり、外筒160上に設けられている。本実施形態においては、原点センサ122は、リミットスイッチで構成されている。
【0032】
押圧体123は、受け体120およびリリースシリンダ114を介してマスタシリンダ111の油圧ピストン113を押すまたは引っ張るための部品であり、図示左右方向に沿って延びる中空体で構成されている。より具体的には、押圧体123は、主として、押圧体本体124および押圧先端部125によって構成されている。押圧体本体124は、後述する送りネジ機構140におけるネジ軸141が貫通するとともに変位体142が固定的に取り付けられる大小2つの内径を有した貫通孔124aが形成された筒体で構成されている。この押圧体本体124は、ガイドレール127上に摺動自在な状態で支持されるとともに、押圧体本体124における受け体120側の先端部に押圧先端部125が固定的に取り付けられている。
【0033】
押圧先端部125は、押圧体123が受け体120を押圧する部分であり、押圧体本体124の先端部から延びる有底筒状に形成されるとともにこの有底筒部分の内側部分に着脱連結具126を備えて構成されている。着脱連結具126は、押圧体123と受け体120とを着脱自在に連結する機器であり、前記有底筒部分の端面と面一に形成されている。本実施形態においては、着脱連結具126は、制御装置170の作動制御によって磁力が発生または消滅する電磁石を備えた磁気ホルダによって構成されている。
【0034】
ガイドレール127は、押圧体123をマスタシリンダ111に接近する方向または離隔する方向に案内するための部品であり、押圧体123を摺動自在に支持する2つの棒体が支持台130上で互いに平行に延びて構成されている。支持台130は、押圧体123および外筒を床面上で安定的に支持する鋼材製の台である。
【0035】
送りネジ機構140は、押圧体123をマスタシリンダ111に接近する方向または離隔する方向に変位させるための機械要素部品であり、軸状体の外周面に雄ネジが形成されたネジ軸141と筒状体の内周面にこのネジ軸141上に形成された雄ネジに嵌合する雌ネジが形成されてネジ軸141上を相対変位する変位体142とで構成されている。この場合、ネジ軸141は、一方(図示右側)の端部が軸支台143を貫通してカップリング144を介してキャリパ駆動モータ150に連結されている。また、ネジ軸141の長さは、後述する送りネジ機構140の潤滑処理において押圧体123を他の部品と接触させることなく往復動させることができる長さに形成されている。
【0036】
変位体142は、ネジ軸141に対して多数の小球(図示せず)を介して噛み合ってネジ軸141上を変位する部品であり、押圧体123の押圧体本体124の内部に固定的に取り付けられている。この場合、ネジ軸141と変位体142との間に設けられる小球群は、変位体142の変位に応じて変位体142内を転動しながら循環する。すなわち、本実施形態における送りネジ機構140は、ボールネジで構成されている。
【0037】
軸支台143は、ネジ軸141を回転自在に支持するための部品であり、外筒に固定的に取り付けられている。また、カップリング144は、ネジ軸141をキャリパ駆動モータ150の駆動軸と一体的に回転駆動するように互いに連結する部品である。
【0038】
キャリパ駆動モータ150は、押圧体123をマスタシリンダ111に接近する方向または離隔する方向に進退させて最終的にキャリパ92内の油圧を増圧または減圧するためのアクチュエータであり、制御装置170によって作動制御されるACサーボモータによって構成されている。このキャリパ駆動モータ150は、送りネジ機構140と同軸上の位置で外筒に固定的に取り付けられている。なお、キャリパ駆動モータ150は、押圧体123を進退させることができる電動モータであればよくACサーボモータ以外の電動モータ、例えば、DCサーボモータやステッピングモータで構成することもできる。
【0039】
外筒160は、マスタシリンダ111、リリースシリンダ114、受け体120、押圧体123、送りネジ機構140、軸支台143およびキャリパ駆動モータ150を支持台130上でそれぞれ支持するための構造体であり、鋼板材を筒状に形成して構成されている。この場合、外筒160は、リリースシリンダ114の後部部分、受け体120、押圧体123および送りネジ機構140をそれぞれ覆う断面形状が方形状の筒状に形成されており、支持台130上に固定的に取り付けられている。
【0040】
制御装置170は、CPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータによって構成されており、作業者からの指示に従って、図示しない制御プログラムを実行することによりキャリパ油圧制御ユニット110を含むブレーキダイナモメータ100全体の作動を制御する。この場合、制御装置170は、ディスクブレーキ90の性能試験に際して、エア供給装置117、原点センサ122、着脱連結具126およびキャリパ駆動モータ150の各作動を制御してキャリパ92内の油圧を増減させる。
【0041】
この制御装置170には、作業者からの支持を入力するための図示しない入力装置およびキャリパ油圧制御ユニット110を含むブレーキダイナモメータ100の作動状態および制動トルクや引き摺りトルクの計測結果をそれぞれ表示するための図示しない表示装置を備えている。
【0042】
(キャリパ油圧制御ユニット110の作動)
次に、このように構成したキャリパ油圧制御ユニット110の作動について説明する。まず、このキャリパ油圧制御ユニット110を用いてディスクブレーキ90の性能試験を行う作業者は、性能試験の対象となる被験ディスクであるディスクブレーキ90を用意するとともに、制御装置170を操作してキャリパ油圧制御ユニット110を含むブレーキダイナモメータ100全体の電源をONにする。これにより、ブレーキダイナモメータ100は、ディスク駆動モータ101、トルク計測ユニット104、エア供給装置117、原点センサ122、着脱連結具126およびキャリパ駆動モータ150を起動させた後、作業者からの試験開始の指示を待つ待機状態となる。
【0043】
この場合、キャリパ油圧制御ユニット110は、制御装置170がエア供給装置117、原点センサ122、着脱連結具126およびキャリパ駆動モータ150の各作動を制御することによりマスタシリンダ111を原点位置に位置決めする(
図2参照)。具体的には、制御装置170は、エア供給装置117の作動を制御してリリースシリンダ114内に空気を供給してエアピストン118を押圧体123側に変位させるとともに、キャリパ駆動モータ150の作動を制御して押圧体123を前進させる。この場合、制御装置170は、押圧体123が受け体120に接触したことによる受け体120の変位を原点センサ123によって検出することにより押圧体123の受け体120への接触を検出することができる。
【0044】
次いで、制御装置170は、押圧体123の押圧先端部125が受け体120を押し付けた後に、着脱連結具126を作動させて磁力を発生させることにより押圧体123と受け体120とを磁気的に連結する。これにより、押圧体123と油圧ピストン113とが受け体120およびリリースシリンダ114を介して間接的に連結される。次いで、制御装置170は、キャリパ駆動モータ150の作動を制御することにより受け体120の受け部120aが原点センサ122に位置するまで押圧体123を後退させる。これにより、マスタシリンダ111の油圧ピストン113が後端位置まで後退して検出板121が原点センサ122に接触する原点位置に位置決めされる。
【0045】
次に、作業者は、ディスクブレーキ90をトルク計測ユニット104にセットした後、制御装置170を操作してディスクブレーキ90の性能試験の開始を指示する。この指示に応答して制御装置170は、ディスクブレーキ90の制動トルクの計測処理の実行を開始する。具体的には、制御装置170は、ディスク駆動モータ101を回転駆動させて回転ディスク90を回転させた状態で、キャリパ油圧制御ユニット110の作動制御をかいしてキャリパ92によって回転ディスク91を制動した際の制動トルクをトルク計測ユニット104によって計測する。
【0046】
この制動トルクの計測試験過程においては、制御装置170は短い時間間隔で断続的にキャリパ92を制動状態と非制動状態とを繰り返し実行させることがある(例えば、数秒間に数回の制動動作)。具体的には、制御装置170は、
図3に示すように、キャリパ駆動モータ150の作動を制御して押圧体123を前進させることにより油圧ピストン113を前進させてキャリパ92内の油圧の増圧(破線矢印参照)と、押圧体123を後退させることにより油圧ピストン113を後退させてキャリパ92内の油圧の減圧とを繰り返す動作を実行する。
【0047】
この場合、制御装置170は、エア供給装置117の作動を制御してエアシリンダ115内を大気開放状態とする。これにより、キャリパ油圧制御ユニット110は、キャリパ92内の油圧の増圧と減圧との繰り返し動作における個々の増圧および減圧を応答性(特に立ち上り特性)良く実行させることができる。また、この場合、キャリパ油圧制御ユニット110は、マスタシリンダ111の油圧シリンダ112内に従来一般的に採用されている油圧ピストン113の後退用のリターンスプリングを有していないとともに、油圧ピストン113が受け体120に磁気的に連結した押圧体123と連動して往復運動するため前記応答性を更に向上させることに加えてキャリパ92内の油圧の増圧と減圧との繰り返し動作の速度を向上させることができる。
【0048】
また、油圧ピストン113を原点位置に復帰させる場合には、制御装置170は、エア供給装置117の作動を制御してエアシリンダ115内に空気を供給しながらキャリパ駆動モータ150の作動を制御して受け体120の受け部120aが原点センサ122に位置するまで押圧体123を後退させる。これにより、キャリパ油圧制御ユニット110は、油圧ピストン113がキャリパ駆動モータ150に加えてリリースシリンダ114によって後退するため確実に油圧ピストン113を原点位置に復帰させることができる。
【0049】
次に、制御装置170は、送りネジ機構140の潤滑処理を実行することができる。この送りネジ機構140の潤滑処理は、ネジ軸141と変位体142との間に設けられている小球群に付着しているオイルやグリスの偏在を解消して均等化させるとともに各小球の位置や向きを変化させることによって偏摩耗を抑制するものである。この送りネジ機構140の潤滑処理は、キャリパ油圧制御ユニット110の起動直後、キャリパ油圧制御ユニット110の起動終了直前、ディスクブレーキ90の性能試験の直前または直後、およびディスクブレーキ90の性能試験中に性能試験を中断してまたは性能試験の待ち時間などの空き時間にそれぞれ実行することができる。
【0050】
具体的には、送りネジ機構140の潤滑処理は、次のステップ1〜3の各処理によって構成されている。
【0051】
ステップ1:まず、制御装置170は、
図4に示すように、押圧体123を後退させる。具体的には、制御装置170は、着脱連結具126の作動を制御して磁力の発生状態を中断して押圧体123と受け体120との連結状態を解消させた後、キャリパ駆動モータ150の作動を制御して押圧体123をキャリパ駆動モータ150側に後退させる。これにより、押圧体123は、受け体120を伴わずに単独でキャリパ駆動モータ150側に後退する。この場合、制御装置170は、押圧体123が軸支台143に接触しない範囲で押圧体123を後退させる。
【0052】
ステップ2:次に、制御装置170は、
図5に示すように、押圧体123を前進させる。具体的には、制御装置170は、キャリパ駆動モータ150の作動を制御して、すなわち、キャリパ駆動モータ150の回転方向を逆転させて押圧体123を受け体120側に前進させる。これにより、押圧体123は、単独で受け体120側に前進する。この場合、制御装置170は、押圧体123が受け体120に接触しない範囲で押圧体123を前進させる。
【0053】
すなわち、制御装置170は、油圧ピストン113のストローク外の領域で押圧体123を往復動させる。したがって、受け体120と軸支台143との間の距離(換言すれば、往路または復路)は、送りネジ機構140内の各小球が少なくとも1回転以上転動する距離、好ましくは小球群がネジ軸141および変位体142内の循環経路の1/3〜半分以上の経路を移動する距離、より好ましくは小球群がネジ軸141および変位体142内の循環経路を一巡することができる距離に設定するとよい。これにより、送りネジ機構140は、変位体143内の各小球間のオイルやグリスの均等化および各小球の位置や向きを変更させることができる。なお、押圧体123を往復動させる領域や往復動の量は、制御装置170に予め設定されている。
【0054】
また、この場合、制御装置170は、エア供給装置117の作動を制御することによりリリースシリンダ114内に空気を供給してエアピストン115をストローク範囲における原点側の端部に位置決めすることにより受け体120の位置を原点位置に固定することができる。これによれば、キャリパ油圧制御ユニット110は、送りネジ機構140の潤滑処理中においてマスタシリンダ111の油圧が変化すること、すなわち、キャリパ92の油圧が変化することを防止することができる。
【0055】
そして、制御装置170は、前記ステップ1およびステップ2による押圧体123の往復移動を少なくとも1回、好ましくは複数回実行することができる。これにより、送りネジ機構140は、前記潤滑効果を一層向上させることができる。
【0056】
ステップ3:次に、制御装置170は、
図2に示すように、押圧体123を原点復帰させる。具体的には、制御装置170は、キャリパ駆動モータ150の作動を制御することにより受け体120の受け部120aに押圧体123の押圧先端部125が接触する位置まで押圧体123を前進させる。この場合、制御装置170は、押圧体123が受け体120に接触したことによる受け体120の変位を原点センサ123によって検出することにより押圧体123の受け体120への接触を検出することができる。
【0057】
次いで、制御装置170は、着脱連結具126の作動を制御して磁力を発生させて押圧体123と受け体120とを連結するとともに、エア供給装置117の作動を制御してリリースシリンダ114内の圧力を大気開放する。これにより、制御装置170は、再び、ディスクブレーキ90の性能試験を実行可能な状態となる。
【0058】
そして、ディスクブレーキ90の性能試験を終える作業者は、回転ディスク91およびキャリパ92をブレーキダイナモメータ100からそれぞれ取り外した後、制御装置170に対して計測処理の終了を指示する。この指示に応答して制御装置170は、ディスク駆動モータ101、トルク計測ユニット104、エア供給装置117、原点センサ122、着脱連結具126およびキャリパ駆動モータ150の各起動状態を終了させた後、電源をOFFする。これにより、ディスクブレーキ90に対する性能試験作業が終了する。
【0059】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、キャリパ油圧制御ユニット110は、マスタシリンダ111における油圧ピストン113を送りネジ機構140を介したキャリパ駆動モータ150の駆動力によって作動させているため、装置構成を単純化および小型化することができるとともにメンテナンス負担を軽減することができる。また、本発明に係るキャリパ油圧制御ユニット110においては、制御装置170がキャリパ駆動モータ150の作動を制御して油圧ピストン113のストローク外の領域で押圧体123を進退させることにより送りネジ機構140の潤滑処理を実行するため、送りネジ機構140の摩耗による損傷や劣化を抑制して位置決め精度を長期間維持できるととともにメンテナンス負担を軽減することができる。
【0060】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0061】
例えば、上記実施形態においては、キャリパ油圧制御ユニット110は、リリースシリンダ114を備えて構成した。これにより、キャリパ油圧制御ユニット110は、油圧ピストン113の原点復帰を確実に行うことができるとともに、着脱連結具126に故障などのトラブルが生じて押圧体123と受け体120とが非連結状態となった場合であっても油圧ピストン113を原点復帰させてキャリパ92内の油圧を減圧することができる。
【0062】
しかし、キャリパ油圧制御ユニット110は、着脱連結具126によって押圧体123と受け体120とが連結されるため、必ずしもリリースシリンダ114を設ける必要はなく、リリースシリンダ114を省略して構成することもできる。この場合、キャリパ油圧制御ユニット110は、押圧体123を受け体120を介して油圧ピストン113に間接的に連結されるように構成してもよいし、押圧体123を受け体120を介することなく直接油圧ピストン113に連結されるように構成してもよい。
【0063】
また、上記実施形態においては、着脱連結具126は、制御装置10によって作動が制御される電磁石によって構成した。しかし、着脱連結具126は、押圧体123と受け体120とを着脱自在に連結することができれば、必ずしも上記実施形態に限定されるものではない。したがって、着脱連結具126は、手動操作によって磁力を発生または消滅させる磁気ホルダで構成してもよいし、空気圧や磁力によって押圧体123と受け体120とを機械的に着脱自在に連結するクランプ機構で構成してもよい。
【0064】
なお、キャリパ油圧制御ユニット110は、押圧体123と受け体120とを磁力以外の手段、例えば、クランプ機構で連結するように構成した場合には、受け体120は必ずしも鉄材などの磁性体で構成する必要はなく、非磁性体(繊維強化樹脂やステンレス鋼など)で構成することができる。
【0065】
また、上記実施形態においては、マスタシリンダ111は、油圧シリンダ112内に油圧ピストン113をリリースシリンダ114側に後退させるリターンスプリングを含まず構成した。このため、キャリパ油圧制御ユニット110は、押圧体123と受け体120とを着脱連結具126によって連結することにより油圧ピストン113を後退させるように構成した。これにより、キャリパ油圧制御ユニット110は、キャリパ92内の増圧に対する応答性(特に立ち上り特性)を向上させることができるとともに、増圧と減圧との繰り返し周波数を増加させて性能試験の時間を短縮することができる。
【0066】
しかしながら、キャリパ油圧制御ユニット110は、前記リターンスプリングを有したマスタシリンダ111を備えて構成することを排除するものではない。すなわち、キャリパ油圧制御ユニット110は、前記リターンスプリングを有したマスタシリンダ111を備えて構成することができる。この場合、キャリパ油圧制御ユニット110は、必ずしも着脱連結具126を用いて押圧体123と受け体120とを連結可能に構成する必要はなく、押圧体123は単に受け体120を押すだけで受け体120と連結不能に構成することもできる。これによれば、キャリパ油圧制御ユニット110は、装置構成を簡略化することができる。なお、キャリパ油圧制御ユニット110は、リリースシリンダ114を採用した場合には、着脱連結具126を省略して構成することもできる。
【0067】
また、上記実施形態においては、制御装置170は、送りネジ機構140の潤滑処理時において、エア供給装置117の作動を制御することによりリリースシリンダ114内に空気を供給してエアピストン115をストローク範囲における押圧体123側の端部に位置決めすることにより受け体120の位置を原点位置に固定した。しかし、制御装置170は、送りネジ機構140の潤滑処理時において、エア供給装置117の作動を制御することによりリリースシリンダ114内に空気を吸引してエアピストン115をストローク範囲における他方の端部、すなわち、マスタシリンダ111側の端部に位置決めすることにより受け体120の位置をマスタシリンダ側に固定して送りネジ機構140の潤滑処理を行うこともできる。これにより、制御装置170は、キャリパ92によって回転ディスクを挟んで固定した状態で送りネジ機構140の潤滑処理を行うことができる。なお、この場合、エア供給装置117は、リリースシンダ114に対して空気を供給するとともにエアシリンダ115内の空気を吸引する吸引ポンプ機能を備えるとよい。
【0068】
また、上記実施形態においては、エア供給装置117は、リリースシリンダ114におけるエアシリンダ115内に空気を供給することによりエアピストン118を押圧体123側に後退するように構成した。しかし、エア供給装置117は、エアピストン118を往復動させることができればよいため、エアシリンダ115内に空気を吸引するエア吸引装置で構成してエアピストン118を押圧体123側に後退させることもできる。
【0069】
また、上記実施形態においては、送りネジ機構140は、ボールネジで構成した。しかし、送りネジ機構140は、軸状体の外周面に雄ネジが形成されたネジ軸と筒状体の内周面にこのネジ軸上に形成された雄ネジに嵌合する雌ネジが形成されてネジ軸を相対変位する変位体で構成されており、回転運動を直線運動に変換する機構であればよく、必ずしもボールネジに限定されるものではない。したがって、送りネジ機構140は、ネジ軸141に形成された雄ネジと変位体142に形成された雌ネジが直接嵌合して摺動する構成であってもよい。