特開2017-209622(P2017-209622A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2017209622-水処理システム 図000003
  • 特開2017209622-水処理システム 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-209622(P2017-209622A)
(43)【公開日】2017年11月30日
(54)【発明の名称】水処理システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20060101AFI20171102BHJP
   B01D 61/12 20060101ALI20171102BHJP
【FI】
   C02F1/44 A
   B01D61/12
   C02F1/44 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-104372(P2016-104372)
(22)【出願日】2016年5月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】二宮 隆
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 敦行
(72)【発明者】
【氏名】光本 洋幸
(72)【発明者】
【氏名】菊池 陽介
(72)【発明者】
【氏名】小田 英貴
(72)【発明者】
【氏名】横山 大輔
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006JA57Z
4D006JA64Z
4D006KE03P
4D006KE04Q
4D006KE13P
4D006KE14P
4D006KE16P
4D006KE22Q
4D006KE30P
4D006KE30Q
4D006PA01
4D006PB02
4D006PC02
(57)【要約】
【課題】連続的に供給水の水質を検出し、スケール析出を抑制することができる水処理システムを提供すること。
【解決手段】水処理システム1は、逆浸透膜モジュール10と、供給水W12を逆浸透膜モジュール10に供給する供給水ラインL1と、逆浸透膜モジュール10に接続され、濃縮水W30が流通する濃縮水ラインL3と、濃縮水(濃縮排水W50)を濃縮水ラインL3から系外に排出する濃縮排水ラインL5と、供給水(循環水W40)を濃縮水ラインL3から供給水ラインL1に返送する循環水ラインL4と、逆浸透膜モジュール10へ供給される供給水W12の回収率を調整可能な回収率調整手段15と、腐食速度検出手段16が検出する腐食速度に基づいて、回収率調整手段15を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給水を透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜モジュールと、
供給水を前記逆浸透膜モジュールに向けて供給する供給水ラインと、
前記逆浸透膜モジュールで分離された濃縮水が流通する濃縮水ラインと、
前記濃縮水ラインに接続され、濃縮排水としての濃縮水を系外へ排出する濃縮排水ラインと、
前記濃縮水ラインに接続され、供給水としての濃縮水を前記供給水ラインに返送する循環水ラインと、
前記逆浸透膜モジュールへ供給される供給水の流量に対する透過水の流量の比率である回収率を調整可能な回収率調整手段と、
前記供給水ライン、前記濃縮水ライン、前記濃縮排水ライン及び前記循環水ラインのうちの一つ以上のラインの腐食速度を分極抵抗法で検出する腐食速度検出手段と、
前記腐食速度検出手段で検出される腐食速度に基づいて回収率を調整するように、前記回収率調整手段を制御する回収率制御部と、を備える、水処理システム。
【請求項2】
前記回収率制御部は、前記腐食速度検出手段で検出される腐食速度に基づいて回収率を調整するために、濃縮水の流量を調整するように前記回収率調整手段を制御する、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項3】
前記腐食速度検出手段は、前記濃縮水ライン、前記濃縮排水ライン又は前記循環水ラインの腐食速度を検出する、請求項1又は2に記載の水処理システム。
【請求項4】
前記回収率制御部は、前記腐食速度検出手段で検出される腐食速度と、シリカ濃度とに基づいて回収率を調整するように、前記回収率調整手段を制御する請求項1〜3のいずれかに記載の水処理システム。
【請求項5】
供給水又は濃縮排水のシリカ濃度を定期的に自動検出するシリカ濃度検出手段を更に備え、
前記回収率制御部は、前記腐食速度検出手段で検出される腐食速度と、前記シリカ濃度検出手段で検出されるシリカ濃度とに基づいて回収率を調整するように、前記回収率調整手段を制御する請求項4に記載の水処理システム。
【請求項6】
供給水又は濃縮排水の水温を検出する水温検出手段を更に備え、
前記回収率制御部は、前記腐食速度検出手段で検出される腐食速度と、前記水温検出手段で検出される水温とに基づいて回収率を調整するように、前記回収率調整手段を制御する請求項1〜3のいずれかに記載の水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回収率を調整可能な回収率調整手段を備える水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造工程、電子部品や医療器具の洗浄等においては、不純物を含まない高純度の純水が使用される。この種の純水は、一般に、地下水や水道水等の原水を、逆浸透膜モジュール(以下、「RO膜モジュール」ともいう)で純水と濃縮水に逆浸透膜分離処理することにより製造される。
【0003】
RO膜モジュールにより純水(透過水)を製造する際、原水(供給水)に含まれるシリカ・硬度成分がRO膜の表面にスケールとして析出する現象が発生する。また、原水(供給水)に含まれる懸濁物質(例えば、不溶状態のコロイド状鉄)がRO膜の表面や細孔内に沈着する、いわゆるファウリングと呼ばれる現象も発生する。RO膜にスケールの析出やファウリングが発生すると、RO膜の透水能力(水透過係数)が低下する。その結果、純水(透過水)の流量が減少する。
【0004】
そこで、供給水のシリカ濃度等に基づいて、シリカ系スケールの析出やファウリングを抑制しつつ、劣悪な水質の供給水を用いても、炭酸カルシウム系スケールの析出を安定して抑制できる水処理システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
一方で、炭酸カルシウム系スケールの析出傾向は、供給水のpH、カルシウム硬度、Mアルカリ度及び電気伝導率などの測定値並びに分散剤の添加量などの設定値によって決まる。また、これらの項目を監視、管理しつつ、最適な分散剤の添加量などを設定することで、シリカ成分を多く含む供給水に対しても高い回収率で安定的に透過水を得ることができる水処理システムが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−98029号公報
【特許文献2】特開2012−183472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の技術を用いた場合、前述の項目をすべて測定したり管理したりするには、多くのセンサ(検出手段)が必要となるため、簡便に供給水のスケール析出を抑制することは困難である。
【0008】
従って、簡便に供給水の水質を検出し、スケール析出を抑制することができる水処理システムが望まれている。
【0009】
本発明は、簡便に供給水の水質を検出し、スケール析出を抑制することができる水処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、供給水を透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜モジュールと、供給水を前記逆浸透膜モジュールに向けて供給する供給水ラインと、前記逆浸透膜モジュールで分離された濃縮水が流通する濃縮水ラインと、前記濃縮水ラインに接続され、濃縮排水としての濃縮水を系外へ排出する濃縮排水ラインと、前記濃縮水ラインに接続され、供給水としての濃縮水を前記供給水ラインに返送する循環水ラインと、前記逆浸透膜モジュールへ供給される供給水の流量に対する透過水の流量の比率である回収率を調整可能な回収率調整手段と、前記供給水ライン、前記濃縮水ライン、前記濃縮排水ライン及び前記循環水ラインのうちの一つ以上のラインの腐食速度を分極抵抗法で検出する腐食速度検出手段と、前記腐食速度検出手段で検出される腐食速度に基づいて回収率を調整するように、前記回収率調整手段を制御する回収率制御部と、を備える水処理システムに関する。
【0011】
また、前記回収率制御部は、前記腐食速度検出手段で検出される腐食速度に基づいて回収率を調整するために、濃縮水の流量を調整するように前記回収率調整手段を制御することが好ましい。
【0012】
また、前記腐食速度検出手段は、前記濃縮水ライン、前記濃縮排水ライン又は前記循環水ラインの腐食速度を検出することが好ましい。
【0013】
また、前記回収率制御部は、前記腐食速度検出手段で検出される腐食速度と、シリカ濃度とに基づいて回収率を調整するように、前記回収率調整手段を制御することが好ましい。
【0014】
また、供給水又は濃縮排水のシリカ濃度を定期的に自動検出するシリカ濃度検出手段を更に備え、前記回収率制御部は、前記腐食速度検出手段で検出される腐食速度と、前記シリカ濃度検出手段で検出されるシリカ濃度とに基づいて回収率を調整するように、前記回収率調整手段を制御することが好ましい。
【0015】
また、供給水又は濃縮排水の水温を検出する水温検出手段を更に備え、
前記回収率制御部は、前記腐食速度検出手段で検出される腐食速度と、前記水温検出手段で検出される水温とに基づいて回収率を調整するように、前記回収率調整手段を制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡便に供給水の水質を検出し、スケール析出を抑制することができる水処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る水処理システムの全体構成図である。
図2】本実施形態の制御部が回収率制御を実行する場合の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の水処理システム1の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の水処理システム1の全体構成図である。
【0019】
図1に示すように、水処理システム1は、水源2と、加圧ポンプ8と、インバータ9と、逆浸透膜モジュールとしてのRO膜モジュール10と、定流量弁14と、回収率制御手段としての比例制御排水弁15と、腐食速度検出手段としての腐食速度センサ16と、シリカ濃度検出手段としてのシリカ濃度センサ17と、水温検出手段としての水温計18と、流量センサFMと、制御部30と、を備える。なお、制御部30と被制御対象機器との電気的接続線の図示については、省略している。
【0020】
水処理システム1は、供給水ラインL1と、透過水ラインL2と、濃縮水ラインL3と、循環水ラインL4と、濃縮排水ラインL5と、を備える。「ライン」とは、流路、経路、管路等の流体の流通が可能なラインの総称である。また、その由来(出所)やその水質によらず、供給水ラインL1、濃縮水ラインL3又は循環水ラインL4を流通する水を、「供給水」ともいい、濃縮水ラインL3、循環水ラインL4又は濃縮排水ラインL5を流通する水を、「濃縮水」ともいう。
【0021】
供給水ラインL1は、供給水W12をRO膜モジュール10に向けて供給するラインである。供給水ラインL1は、上流側から下流側に向けて、第1供給水ラインL11と、第2供給水ラインL12とを有する。
【0022】
第1供給水ラインL11の上流側の端部は、原水W11の水源2に接続されている。第1供給水ラインL11の下流側の端部は、接続部J2において、第2供給水ラインL12及び循環水ラインL4に接続されている。
【0023】
第2供給水ラインL12の上流側の端部は、接続部J2に接続されている。第2供給水ラインL12の下流側の端部は、RO膜モジュール10の一次側入口ポートに接続されている。第2供給水ラインL12には、加圧ポンプ8が設けられる。
【0024】
加圧ポンプ8は、供給水W12を吸入し、RO膜モジュール10に向けて圧送(吐出)する装置である。加圧ポンプ8には、インバータ9から周波数が変換された駆動電力が供給される。加圧ポンプ8は、供給(入力)された駆動電力の周波数(以下、「駆動周波数」ともいう)に応じた回転速度で駆動される。
【0025】
供給水W12は、加圧ポンプ8を介してRO膜モジュール10に供給される。また、供給水W12は、原水W11及び循環水W40(後述)からなる。なお、第2供給水ラインL12を流通してRO膜モジュール10に供給される水を「供給水W12」ともいう。
【0026】
インバータ9は、加圧ポンプ8に、周波数が変換された駆動電力を供給する電気回路(又はその回路を持つ装置)である。インバータ9は、制御部30と電気的に接続されている。インバータ9には、制御部30から指令信号が入力される。インバータ9は、制御部30により入力された指令信号(電流値信号又は電圧値信号)に対応する駆動周波数の駆動電力を加圧ポンプ8に出力する。
【0027】
逆浸透膜モジュールとしてのRO膜モジュール10は、供給水W12を透過水W20と濃縮水W30とに分離する設備である。詳細には、RO膜モジュール10は、加圧ポンプ8から吐出された供給水W12を、溶存塩類が除去された透過水W20と、溶存塩類が濃縮された濃縮水W30とに膜分離処理する設備である。RO膜モジュール10は、単一又は複数のRO膜エレメント(図示せず)を備える。RO膜モジュール10は、これらRO膜エレメントにより供給水W12を膜分離処理し、透過水W20と濃縮水W30とを製造する。
【0028】
透過水ラインL2は、RO膜モジュール10で分離された透過水W20を送出するラインである。透過水ラインL2の上流側の端部は、RO膜モジュール10の二次側ポートに接続されている。透過水ラインL2の下流側の端部は、貯留タンク(図示せず)に接続されている。透過水ラインL2には、流量センサFMが設けられる。
【0029】
流量センサFMは、透過水ラインL2を流通する透過水W20の流量を検出する機器である。流量センサFMは、制御部30と電気的に接続されている。流量センサFMで検出された透過水W20の流量(以下、「検出流量値」ともいう)は、制御部30にパルス信号として送信される。
【0030】
濃縮水ラインL3は、RO膜モジュール10で分離された濃縮水W30が流通するラインである。濃縮水ラインL3の上流側の端部は、RO膜モジュール10の一次側出口ポートに接続されている。また、濃縮水ラインL3の下流側は、接続部J3において、循環水ラインL4及び濃縮排水ラインL5に分岐している。
【0031】
循環水ラインL4は、濃縮水ラインL3に接続され、供給水としての濃縮水(循環水W40)を供給水ラインL1に返送するラインである。本実施形態においては、循環水ラインL4は、濃縮水ラインL3を流通する濃縮水W30を循環水W40として、供給水ラインL1における加圧ポンプ8よりも上流側に返送(循環)させるラインである。循環水ラインL4の上流側の端部は、接続部J3において濃縮水ラインL3に接続されている。また、循環水ラインL4の下流側の端部は、接続部J2において、供給水ラインL1に接続されている。接続部J2は、供給水ラインL1における加圧ポンプ8よりも上流側に配置されている。循環水ラインL4には、上流側から下流側に向けて、定流量弁14と、腐食速度センサ16と、シリカ濃度センサ17と、水温計18と、が設けられる。
【0032】
定流量弁14は、循環水ラインL4を流通する循環水W40の流量を所定の一定流量値に保持するように調節する機器である。定流量弁14において保持される「一定流量値」とは、一定流量値に幅がある概念であり、定流量弁における目標流量値のみに限られない。例えば、定流量機構の特性(例えば、材質や構造に起因する温度特性等)を考慮して、定流量弁における目標流量値に対して、±10%程度の調節誤差を有するものを含む。定流量弁14は、補助動力や外部操作を必要とせずに一定流量値を保持するものであり、例えば、水ガバナの名称で呼ばれるものが挙げられる。なお、定流量弁14は、補助動力や外部操作により動作して、一定流量値を保持するものでもよい。
【0033】
腐食速度検出手段としての腐食速度センサ16は、供給水ラインL1、濃縮水ラインL3、循環水ラインL4及び濃縮排水ラインL5のうちの一つ以上のラインの腐食速度を分極抵抗法で検出する機器である。本実施形態においては、腐食速度センサ16は、循環水ラインL4の腐食速度を検出する。腐食速度センサ16が循環水ラインL4の腐食速度を分極抵抗法で検出することにより、ラインの腐食速度は連続的に検出される。腐食速度センサ16は、制御部30と電気的に接続されている。後述するように、制御部30は、腐食速度センサ16で連続的に検出される腐食速度に基づいて、回収率制御を実行する。
【0034】
腐食速度センサ16は、所定の間隔を空けて設置されている一対の電極(図示せず)を備えている。本実施形態においては、一対の電極は、鉄(Fe)製の電極である。腐食速度センサ16は、ラインを流通する水(本実施形態においては、循環水ラインL4を流通する循環水W40)に一対の電極を浸し、電極間に電圧を印加することで、分極抵抗(腐食反応抵抗、電荷移動抵抗)を測定し、ライン(配管)の腐食速度を算出する。
【0035】
腐食速度センサ16が検出するライン(配管)の腐食速度と供給水に含まれるスケール成分との関係について説明する。一般に、スケールの要因となる硬度やシリカ等のスケール成分が多くなり、金属表面のスケール化が進行すると、腐食は抑制されていく傾向がある。このことから、腐食速度が低下した場合には、水質がスケール傾向のある水質へと変化したことを意味することが多い。反対に、腐食速度が増加した場合には、水質がスケール傾向の低い水質に変化したことを意味することが多い。そのため、腐食速度センサ16の検出する腐食速度は、供給水のスケール傾向を推定する指標となる。
【0036】
シリカ濃度センサ17は、供給水又は濃縮排水のシリカ濃度を検出する機器である。本実施形態においては、シリカ濃度センサ17は、供給水としての循環水W40のシリカ濃度を定期的に自動検出する。シリカ濃度の測定においては、定期的に供給水を採取して水分析を行ってもよいが、省力化及び迅速な水質管理のため、例えば公開特許公報2015−83945記載のシリカ濃度測定装置にて、定期的に自動測定することがより望ましい。
【0037】
水温計18は、供給水又は濃縮排水の水温を検出する機器である。本実施形態においては、水温計18は、供給水としての循環水W40の水温を定期的に自動検出する。
【0038】
濃縮排水ラインL5は、濃縮水ラインL3に接続され、濃縮排水W50としての濃縮水を系外へ排出するラインである。本実施形態においては、濃縮排水ラインL5は、接続部J3において濃縮水ラインL3に接続され、RO膜モジュール10で分離された濃縮水W30を、濃縮排水W50として装置外(系外)に排出するラインである。濃縮排水ラインL5には、比例制御排水弁15が設けられる。
【0039】
本実施形態においては、比例制御排水弁15は、回収率(RO膜モジュール10へ供給される供給水W12の流量に対する透過水W20の流量の比率)を調整可能な回収率制御手段として機能する。比例制御排水弁15は、制御部30と電気的に接続されている。比例制御排水弁15の弁開度は、制御部30から送信される駆動信号により制御される。制御部30から電流値信号(例えば、4〜20mA)を比例制御排水弁15に送信して、弁開度を制御することにより、濃縮排水W50の排水流量を調節することができる。本実施形態においては、濃縮水(濃縮排水W50)の排出流量が調整(増加又は減少)されることにより、供給水W12の流量に対する透過水W20の流量が調整(減少又は増加)される。つまり、濃縮水(濃縮排水W50)の排出流量が調整(増加又は減少)されることにより、回収率が調整(減少又は増加)される。
【0040】
制御部30は、CPU及びメモリを含むマイクロプロセッサ(図示せず)により構成される。制御部30において、マイクロプロセッサのCPUは、メモリから読み出した所定のプログラムに従って、水処理システム1に係る各種の制御を実行する。以下、制御部30の機能の一部について説明する。
【0041】
制御部30は、透過水W20の流量が予め設定された目標流量値となるように、透過水W20の検出流量値(系内の物理量)をフィードバック値として、加圧ポンプ8を駆動するための駆動周波数を演算し、駆動周波数の演算値に対応する指令信号(電流値信号又は電圧値信号)をインバータ9に出力する(以下、「流量フィードバック水量制御」ともいう)流量制御部として機能する。なお、流量フィードバック水量制御における駆動周波数の演算には、例えば、速度形デジタルPIDアルゴリズムを用いることができる。
【0042】
また、制御部30は、腐食速度センサ16で検出される腐食速度等に基づいて回収率を調整するように、回収率調整手段としての比例制御排水弁15を制御する回収率制御部として機能する(以下、制御部30が、腐食速度センサ16で検出される腐食速度等に基づいて、回収率を調整するように比例制御排水弁15を制御することを「回収率制御」ともいう)。
【0043】
例えば、回収率制御部としての制御部30は、下記の(1)〜(3)のいずれかに基づいて回収率を調整するように、回収率調整手段としての比例制御排水弁15を制御する。
(1)腐食速度センサ16で検出される腐食速度
(2)腐食速度センサ16で検出される腐食速度と、シリカ濃度
(3)腐食速度センサ16で検出される腐食速度と、水温計18で検出される水温
【0044】
回収率制御部としての制御部30が腐食速度センサ16で検出される腐食速度等に基づいて回収率を調整するように比例制御排水弁15を制御する一例について説明する。図2は、制御部30が回収率制御を実行する場合の処理手順を示すフローチャートである。図2に示すフローチャートによる制御においては、RO膜モジュール10は、供給水W12を透過水W20及び濃縮水W30に分離する動作を実行している。
【0045】
図2に示すステップST101において、制御部30は、腐食速度検出手段としての腐食速度センサ16で検出された循環水ラインL4の腐食速度(以下「腐食速度値CR」ともいう)を取得する。本実施形態においては、制御部30は、連続的に検出された腐食速度値CRのうち最新の腐食速度値CRを取得する。
【0046】
ステップST102において、制御部30は、腐食速度値CRから、スケール生成傾向範囲内か否かを判定する。具体的には、制御部30は、腐食速度値CRが下限値T1を下回る(腐食速度値CR≦下限値T1)か否かを判定する。
【0047】
下限値T1は、スケール生成傾向範囲内か否かを判定するための閾値として、制御部30のメモリに記録されている。下限値T1は、腐食速度センサ16が設置されるラインを流通する液体の水質等によって適宜に設定されてもよい。下限値T1は、0〜22mddの範囲で設定されることが好ましい。更に、下限値T1は、0〜10mddの範囲で設定されることがより好ましい。本実施形態においては、ノイズが0.0〜0.8mddの範囲で発生するため、下限値T1は1.0mddに設定されている。
【0048】
ステップST102において、腐食速度値CR≦下限値T1である(YES)場合には、処理はステップST103に移行する。腐食速度値CR>下限値T1である(NO)場合には、処理はステップST104に移行する。
【0049】
ステップST103において、回収率制御部としての制御部30は、腐食速度値CRに基づいて回収率を調整するように、回収率調整手段としての比例制御排水弁15を制御する。本実施形態においては、制御部30は、回収率が減少するように、比例制御排水弁15の弁開度が大きくなるように、比例制御排水弁15を制御する。回収率が調整されることにより、本フローチャートの処理は、終了する。
【0050】
ステップST104において、制御部30は、腐食速度値CRから回収率が過剰に低く設定されているか否かを判定する。具体的には、制御部30は、腐食速度値CRが上限値T2を上回る(腐食速度値CR≧上限値T2)か否かを判定する。
【0051】
上限値T2は、回収率が過剰に低く設定されているか否かを判定するための閾値として、制御部30のメモリに記録されている。上限値T2は、少なくとも下限値T1を上回る値に設定される。上限値T2は、腐食速度センサ16が設置されているラインを流通する液体の水質等によって適宜に設定されてもよい。上限値T2は、0〜100mdd以下の範囲で設定されることが好ましい。更に、上限値T2は、0〜50mddの範囲で設定されることがより好ましい。本実施形態においては、上限値T2は10mddに設定されている。
【0052】
ステップST104において、腐食速度値CR≧上限値T2である(YES)場合には、処理はステップST105に移行する。腐食速度値CR<上限値T2である(NO)場合には、処理はステップST101に戻る。
【0053】
ステップST105において、回収率制御部としての制御部30は、腐食速度値CRに基づいて回収率を調整するように、回収率調整手段としての比例制御排水弁15を制御する。本実施形態においては、制御部30は、回収率が増加するように、比例制御排水弁15の弁開度が小さくなるように、比例制御排水弁15を制御する。回収率が調整されることにより、本フローチャートの処理は、終了する。
【0054】
本実施形態の水処理システム1によれば、例えば、以下に示す効果が奏される。
水処理システム1は、供給水W12を透過水W20と濃縮水W30とに分離する逆浸透膜モジュールとしてのRO膜モジュール10と、供給水W12をRO膜モジュール10に向けて供給する供給水ラインL1と、RO膜モジュール10で分離された濃縮水W30が流通する濃縮水ラインL3と、濃縮水ラインL3に接続され、濃縮排水W50としての濃縮水を系外へ排出する濃縮排水ラインL5と、濃縮水ラインL3に接続され、供給水としての濃縮水(循環水W40)を供給水ラインL1に返送する循環水ラインL4と、RO膜モジュール10へ供給される供給水W12の流量に対する透過水W20の流量の比率である回収率を調整可能な回収率調整手段としての比例制御排水弁15と、供給水ラインL1、濃縮水ラインL3、循環水ラインL4及び濃縮排水ラインL5のうちの一つ以上のラインの腐食速度を分極抵抗法で検出する腐食速度検出手段としての腐食速度センサ16と、腐食速度センサ16で検出される腐食速度に基づいて回収率を調整するように、回収率調整手段としての比例制御排水弁15を制御する回収率制御部としての制御部30と、を備える。
【0055】
そのため、回収率制御部としての制御部30は、分極抵抗法によって連続的に検出される腐食速度値CRに基づいて回収率を調整するように、回収率調整手段としての比例制御排水弁15を制御できる。従って、本実施形態によれば、簡便に供給水の水質を検出し、スケール析出を抑制することができる。
【0056】
また、回収率制御部としての制御部30は、腐食速度センサ16で検出される腐食速度に基づいて回収率を調整するために、濃縮水(濃縮排水W50)の流量を調整するように、回収率調整手段としての比例制御排水弁15を制御する。濃縮水(濃縮排水W50)の流量調整により、常に一定の処理水量(透過水W20の流量)を得ることができる。
【0057】
また、腐食速度検出手段としての腐食速度センサ16は、濃縮水ラインL3、循環水ラインL4又は濃縮排水ラインL5の腐食速度を検出する。濃縮水ラインL3、循環水ラインL4又は濃縮排水ラインL5には、RO膜モジュール10によって分離された濃縮水(濃縮水W30、循環水W40、濃縮排水W50)が流通するため、供給水ラインL1と比較して、濃縮水ラインL3、循環水ラインL4又は濃縮排水ラインL5のスケールリスクは、高くなる。腐食速度センサ16は、スケールリスクが高いラインについて腐食速度を検出するため、水処理システム1全体としてのスケールリスクをより正確に検出できる。
【0058】
また、回収率制御部としての制御部30は、腐食速度センサ16で検出される腐食速度と、シリカ濃度とに基づいて回収率を調整するように、回収率調整手段としての比例制御排水弁15を制御する。腐食速度センサ16により、硬度やシリカ濃度といった全てのスケールの析出傾向の合算値として腐食速度が検出される。また、腐食速度及びシリカ濃度が検出されることで、シリカ系のスケールの析出傾向と、それ以外(主に炭酸カルシウム系のスケール)の析出傾向とを区別できる。シリカ系のスケールの析出傾向と、それ以外(主に炭酸カルシウム系のスケール)の析出傾向とを別々に管理することにより、精度良くスケール析出を抑制できる。
【0059】
また、水処理システム1は、供給水又は濃縮排水W50のシリカ濃度を定期的に自動検出するシリカ濃度センサ17を更に備え、回収率制御部としての制御部30は、腐食速度センサ16で検出される腐食速度と、シリカ濃度センサ17で検出されるシリカ濃度とに基づいて回収率を調整するように、回収率調整手段としての比例制御排水弁15を制御する。そのため、省力化及び迅速な水質管理により、精度よくスケール析出を抑制することができる。
【0060】
また、水処理システム1は、供給水又は濃縮排水W50の水温を検出する水温計18を更に備え、回収率制御部としての制御部30は、腐食速度センサ16で検出される腐食速度と、水温計18で検出される水温とに基づいて回収率を調整するように、回収率調整手段としての比例制御排水弁15を制御する。硬度やシリカといった多くのスケール成分において、スケール成分の水溶解度は水温によって大きく影響を受ける。そのため、腐食速度センサ16で検出される腐食速度と、水温とに基づいて、精度よくスケール析出を抑制することができる。
【0061】
また、制御部30は、腐食速度値CRから、回収率が過剰に低く設定されているか否かを判定する(図2、ステップST104を参照)。回収率が過剰に低く設定されている(腐食速度値CR≧上限値T2)と判定される場合には、制御部30は、回収率が増加するように、比例制御排水弁15を制御する(図2、ステップST105を参照)。そのため、排水(例えば、濃縮排水W50)の流量の抑制の観点から、最適な回収率へと調整できる。
【0062】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、前述した実施形態に限定されることなく、種々の形態で実施することができる。
【0063】
例えば、回収率制御部としての制御部30は、濃縮排水ラインL5に設けられる比例制御排水弁15を制御することで回収率を調整する例について説明したが、これに限定されない。例えば、制御部30は、比例制御排水弁15を制御せずに、その代わりに、濃縮排水W40の流量を濃縮排水ラインL5に設けた定流量弁で一定にしておき、制御部30が、インバータ9にて加圧ポンプ8を制御し、透過水W20の流量を調整することで、回収率を調整してもよい。
【0064】
また、腐食速度センサ16が、循環水ラインL4の腐食速度を分極抵抗法で検出する例について説明したが、これに限定されない。例えば、腐食速度センサ16が腐食速度を検出するラインは、供給水ラインL1、濃縮水ラインL3又は濃縮排水ラインL5であってもよい。更に、腐食速度センサ16が腐食速度を検出するラインは、供給水ラインL1、濃縮水ラインL3、循環水ラインL4及び濃縮排水ラインL5のうちの二つ以上のラインであってもよい。
【0065】
また、回収率制御部としての制御部30は、腐食速度値CRが、下限値T1から上限値T2の間にない(腐食速度CR≦下限値T1または腐食速度CR≧上限値T2)場合に、回収率を調整するように、比例制御排水弁15を制御する例について説明した。しかし、制御部30が、回収率を調整するのは、腐食速度値CRが、下限値T1から上限値T2の間にない(腐食速度CR≦下限値T1または腐食速度CR≧上限値T2)場合に限定されない。腐食速度値Cが下限値T1から上限値T2の間の値であっても、制御部30は、回収率を調整してもよい。例えば、さまざまな水質値(例えば、水温、シリカ濃度等)に基づいて決定される下限値T1および上限値T2と、対応する回収率のテーブルを用意し、このテーブルに従って下限値T1および上限値T2や目標とする回収率を適宜選択しながら制御を行ってもよい。
【0066】
また、比例制御排水弁15の弁開度を制御することにより、濃縮排水W50の排水流量を調節する例について説明した。これに限らず、複数の排水バルブを並列に設けた構成とし、排水バルブの開弁数を増減することにより、濃縮排水W50の排水流量を段階的に調節するように制御してもよい。これによれば、濃縮排水W50の排水流量を調節することができる。
【0067】
また、腐食速度センサ16に備えられる一対の電極は、鉄(Fe)製の電極である例について説明したが、これに限定されない。例えば、腐食速度センサ16に備えられる一対の電極は、銅(Cu)製の電極であってもよい。鉄(Fe)製の一対の電極又は銅(Cu)製の一対の電極が、適宜に選択されて用いられることが望ましく、より詳細には、供給水の水質に合わせて適宜に選択されて用いられることが望ましい。
【0068】
また、銅(Cu)製の一対の電極を備えた腐食速度センサと、鉄(Fe)製の一対の電極を備えた腐食速度センサとが併用して用いられてもよい。この場合、制御部30は、銅(Cu)製の腐食速度センサによって検出される銅センサ腐食速度と、鉄(Fe)製の腐食速度センサによって検出される鉄センサ腐食速度のうち、低い値を示した腐食速度に基づいて、回収率制御を実行してもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 水処理システム
10 RO膜モジュール(逆浸透膜モジュール)
15 比例制御排水弁(回収率調整手段)
16 腐食速度センサ(腐食速度検出手段)
17 シリカ濃度センサ(シリカ濃度検出手段)
18 水温計(水温検出手段)
30 制御部(回収率制御部)
L1 供給水ライン(供給水が流通するライン)
L2 透過水ライン
L3 濃縮水ライン(供給水が流通するライン)
L4 循環水ライン(供給水が流通するライン)
L5 濃縮排水ライン
W11 原水
W12 供給水
W20 透過水
W30 濃縮水
W40 循環水(濃縮水、供給水)
W50 濃縮排水(濃縮水)
図1
図2