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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-209708(P2017-209708A)
(43)【公開日】2017年11月30日
(54)【発明の名称】ナットの溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/14 20060101AFI20171102BHJP
【FI】
   B23K11/14 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-104548(P2016-104548)
(22)【出願日】2016年5月25日
(71)【出願人】
【識別番号】500213915
【氏名又は名称】株式会社ワイテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 哲磨
(57)【要約】
【課題】ナットのネジ孔にスパッタが付着するのを抑制できるようにするとともに、ナットが溶接される金属製部材にスパッタやススが付着するのを抑制できるようにして溶接品質を向上させる。
【解決手段】溶接装置1は、鋼板102当接する下部電極10と、ナット100に当接する上部電極20とを備えている。上部電極20には、圧縮エアが供給されるエア供給管26が設けられている。エア供給管26の下流側は、ナット100のネジ孔100cにおける鋼板102とは反対側に連通している。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心線方向両端が開口したネジ孔を有するナットを金属製部材にプロジェクション溶接するナットの溶接装置において、
上記溶接装置は、上記金属製部材に対して上記ナットが溶接される側とは反対側から当接する第1電極と、上記ナットに対して上記金属製部材とは反対側から当接する第2電極とを備え、
上記第2電極には、圧縮エアが供給されるエア供給管が設けられており、
上記エア供給管の下流側は、上記ナットのネジ孔における上記金属製部材とは反対側に連通していることを特徴とするナットの溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載のナットの溶接装置において、
上記第2電極は、上記ナットを上記金属製部材とは反対側から覆う筒状部を有し、
上記エア供給管の下流側は、上記筒状部に接続されていることを特徴とするナットの溶接装置。
【請求項3】
請求項2に記載のナットの溶接装置において、
上記筒状部は、上記ナットにおける上記金属製部材とは反対側を覆うように配置される端壁部を有し、
上記端壁部と上記ナットとの間には、エア流入空間が設けられ、
上記エア供給管の下流側は、上記エア流入空間に接続されていることを特徴とするナットの溶接装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載のナットの溶接装置において、
上記筒状部の端部が上記ナットに形成されたフランジに全周に亘って当接することを特徴とするナットの溶接装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載のナットの溶接装置において、
上記第1電極には、上記金属製部材を貫通して上記ナットに挿入される位置決めピンが設けられ、
上記位置決めピンの外周面と上記ナットのネジ孔の内面との間に圧縮エアの流通する隙間が形成されることを特徴とするナットの溶接装置。
【請求項6】
請求項5に記載のナットの溶接装置において、
上記位置決めピンの基端側は、上記第1電極に形成されたガイド孔に挿入されるとともに、該ガイド孔の内周面によって該位置決めピンの中心線方向に進退可能に支持され、
上記第1電極の上記ガイド孔の内部には、上記位置決めピンを進出方向に付勢するための圧縮エアが供給されることを特徴とするナットの溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被溶接材の形状を利用して溶接電流を集中させるプロジェクション溶接によってナットを金属製部材に溶接するナットの溶接装置に関し、特に溶接時に発生するスパッタやススがナットの内面や金属製部材に付着するのを抑制する構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
例えばウエルドナットを鋼板に溶接する際には、ウエルドナットに形成された凸部を鋼板に接触させて固定電極と可動電極とでウエルドナット及び鋼板を挟み、これら電極間に通電することによって凸部に電流を集中させて該凸部を溶融させるプロジェクション溶接法が用いられている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1の固定電極には、ナットのネジ孔に挿通するパイロットピンが上方へ突出するように設けられている。このパイロットピンの上側を鋼板及びネジ孔に挿通させた状態で、鋼板の上面に対してナットをプロジェクション溶接することができるようになっている。パイロットピンの外周面には上下方向に延びる縦溝が形成されている。縦溝の下側は基台筒部に固定されている。この基台筒部には、エアが供給されるようになっている。そして、基台筒部に供給されたエアは、パイロットピンの縦溝の下側に流入した後、縦溝を上側へ向けて流れてネジ孔内に流入する。
【0004】
特許文献2の上部電極の電極チップホルダには、電極チップが挿入されて取り付けられる電極チップ取付孔が形成されており、この電極チップ取付孔の内周面と電極チップの外周面との間には、隙間が形成されている。そして、電極チップホルダの電極チップ取付孔の内部には、エアが供給されるようになっており、このエアは、電極チップ取付孔の内周面と電極チップの外周面との隙間からナットの周りに向かって下向きに噴出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−320288号公報
【特許文献2】特開2013−111583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、プロジェクション溶接時には主に凸部からスパッタやススが発生する。スパッタやススは広範囲に飛散することからナットの内面や鋼板の表面等に付着する恐れがある。ナットの内面にスパッタが付着すると、ネジの螺合不良が起こってしまうので、溶接工程の後、ネジ孔の内面に付着したスパッタを除去するためにネジさらいを行う必要がある。また、スパッタやススが鋼板の表面に付着すると、外観不良の原因となったり、塗装不良による錆の発生原因となる恐れがある。
【0007】
ナットのネジ孔にスパッタが付着するのを抑制する方法として、特許文献1のようにエアをナットの下側から上側へ向けて流す方法が考えられる。しかしながら、スパッタはナットの下面に設けられている凸部で発生しているので、特許文献1のように下側から上側へエアを流すと、ナットの下面近傍で発生したスパッタがエアの流れに乗ってネジ孔に流入してしまい、そのままネジ孔の内面に付着してしまう恐れがある。特に、特許文献1ではパイロットピンがナットのネジ孔に挿入されているので、エアの流れはネジ孔の内面に向かう流れとなりやすく、スパッタがネジ孔の内面に付着し易くなることも考えられる。
【0008】
また、スパッタやススが鋼板の表面に付着するのを抑制する方法として、特許文献2のように上部電極の電極チップ取付孔の内周面と電極チップの外周面との隙間からナットの周りに向かってエアを噴出させる方法が考えられる。この方法によって鋼板の表面にスパッタやススが付着するのは抑制できるかも知れないが、スパッタがナットのネジ孔の内面に付着するのは抑制できないと考えられる。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ナットのネジ孔にスパッタが付着するのを抑制できるようにするとともに、ナットが溶接される金属製部材にスパッタやススが付着するのを抑制できるようにして溶接品質を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明では、ナットにおける金属製部材への溶接側とは反対側からエアを供給してスパッタやススをネジ孔の外方へ吹き飛ばすとともに、スパッタやススが金属製部材に付着し難くした。
【0011】
第1の発明は、
中心線方向両端が開口したネジ孔を有するナットを金属製部材にプロジェクション溶接するナットの溶接装置において、
上記溶接装置は、上記金属製部材に対して上記ナットが溶接される側とは反対側から当接する第1電極と、上記ナットに対して上記金属製部材とは反対側から当接する第2電極とを備え、
上記第2電極には、圧縮エアが供給されるエア供給管が設けられており、
上記エア供給管の下流側は、上記ナットのネジ孔における上記金属製部材とは反対側に連通していることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、第1電極を金属製部材に当接させ、第2電極をナットに当接させた状態でプロジェクション溶接する時に、第2電極のエア供給管に供給された圧縮エアは、ナットのネジ孔における金属製部材とは反対側からネジ孔に流入することになる。ネジ孔内部における圧縮エアの流れが金属製部材とは反対側から金属製部材側へ向かうことになるので、ナットと金属製部材との間で発生したスパッタがネジ孔に流入することは殆ど無い。これにより、ナットのネジ孔の内面にスパッタが付着し難くなる。また、溶接が終了するまでの間は、ナットのネジ孔に流入した圧縮エアが、ナットと金属製部材との間にできている隙間から抜けるので、スパッタやススがその圧縮エアの流れに乗って金属製部材の表面から逃げていき、金属製部材に付着し難くなる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、
上記第2電極は、上記ナットを上記金属製部材とは反対側から覆う筒状部を有し、
上記エア供給管の下流側は、上記筒状部に接続されていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、第2電極の筒状部がナットを覆うように配置され、エア供給管に供給された圧縮エアが筒状部に流入してナットのネジ孔に供給される。
【0015】
第3の発明は、第2の発明において、
上記筒状部は、上記ナットにおける上記金属製部材とは反対側を覆うように配置される端壁部を有し、
上記端壁部と上記ナットとの間には、エア流入空間が設けられ、
上記エア供給管の下流側は、上記エア流入空間に接続されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、筒状部の端壁部とナットとの間にエア流入空間が設けられていることで、エア流入空間に流入した圧縮エアがナットにおける金属製部材とは反対側からネジ孔にスムーズに流入する。
【0017】
第4の発明は、第2または3の発明において、
上記筒状部の端部が上記ナットに形成されたフランジに全周に亘って当接することを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、筒状部の端部がナットに形成されたフランジに全周に亘って当接するので、筒状部とフランジとの隙間が極小化される。そして、エア供給管に供給された圧縮エアは筒状部に流入し、このとき筒状部とフランジとの隙間が極小化されているので、圧縮エアが効率よくナットのネジ孔に流入する。
【0019】
第5の発明は、第1から4のいずれか1つの発明において、
上記第1電極には、上記金属製部材を貫通して上記ナットに挿入される位置決めピンが設けられ、
上記位置決めピンの外周面と上記ナットのネジ孔の内面との間に圧縮エアの流通する隙間が形成されることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、第1電極の位置決めピンによってナットが所定位置に位置決めされる。そして、ナットのネジ孔に流入した圧縮エアは、位置決めピンの外周面とナットのネジ孔の内面との隙間を流れるので、スパッタが位置決めピンの外周面に付着するのも抑制される。
【0021】
第6の発明は、第5の発明において、
上記位置決めピンの基端側は、上記第1電極に形成されたガイド孔に挿入されるとともに、該ガイド孔の内周面によって該位置決めピンの中心線方向に進退可能に支持され、
上記第1電極の上記ガイド孔の内部には、上記位置決めピンを進出方向に付勢するための圧縮エアが供給されることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、第1電極のガイド孔に供給された圧縮エアによって位置決めピンが進出状態になるので、位置決めピンがナットのネジ孔に確実に挿入されてナットの位置決めが行われる。このとき、ガイド孔の圧縮エアが位置決めピンの進出方向、即ちナットのネジ孔に向けて漏れることが考えられる。こうなるとスパッタがガイド孔から漏れる圧縮エアの流れに乗ってナットのネジ孔に流入してしまう恐れがあるが、この発明では、第2電極のエア供給管に供給された圧縮エアがナットのネジ孔における金属製部材とは反対側からネジ孔に流入しているので、第1電極のガイド孔から圧縮エアが漏れたとしても、スパッタがナットのネジ孔に流入することはない。
【発明の効果】
【0023】
第1の発明によれば、溶接装置が、金属製部材に当接する第1電極とナットに当接する第2電極とを備え、第2電極に形成されたエア供給管の下流側がナットのネジ孔における金属製部材とは反対側に連通しているので、ネジ孔内部における圧縮エアの流れが金属製部材とは反対側から金属製部材側へ流れることになる。これにより、スパッタがネジ孔に流入することは殆ど無くなるので、ナットのネジ孔の内面にスパッタが付着するのを抑制できる。また、溶接が終了するまでの間は、スパッタやススがナットと金属製部材との隙間から抜ける圧縮エアの流れに乗って金属製部材の表面から逃げていくので、金属製部材に付着するのを抑制できる。
【0024】
第2の発明によれば、第2電極の筒状部によってナットを覆い、この筒状部にエア供給管の下流側を接続したので、エア供給管に供給された圧縮エアをナットのネジ孔に確実に流入させることができる。
【0025】
第3の発明によれば、筒状部の端壁部とナットとの間にエア流入空間を設けたので、エア流入空間に流入した圧縮エアをナットにおける金属製部材とは反対側からネジ孔にスムーズに流入させることができる。
【0026】
第4の発明によれば、第2電極の筒状部の端部をナットのフランジに全周に亘って当接させたので、エア供給管に供給された圧縮エアを効率よくナットのネジ孔に流入させることができ、スパッタやススの付着抑制効果をより一層高めることができる。
【0027】
第5の発明によれば、第1電極に設けた位置決めピンによってナットを所定位置に位置決めすることができる。そして、位置決めピンの外周面とナットのネジ孔の内面との隙間を圧縮エアが流通するので、スパッタが位置決めピンの外周面に付着するのも抑制できる。
【0028】
第6の発明によれば、第1電極のガイド孔に供給した圧縮エアによって位置決めピンを進出方向に付勢することができるので、ナットの位置決めを確実に行うことができる。このとき、ガイド孔に供給した圧縮エアがナットのネジ孔に向けて漏れることが考えられるが、第2電極のエア供給管に供給された圧縮エアがナットのネジ孔における金属製部材とは反対側からネジ孔に流入しているので、ガイド孔から圧縮エアが漏れたとしても、スパッタがナットのネジ孔に流入することはなく、ナットのネジ孔の内面にスパッタが付着するのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施形態に係るナットの溶接装置の縦断面図である。
図2】上部電極を上方へ移動させてナット及び鋼板をセットする前の状態を示す図1相当図である。
図3】ナット及び鋼板をセットした状態を示す図1相当図である。
図4】上部電極を下方へ移動させた状態を示す図1相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0031】
図1は、本発明の実施形態に係るナットの溶接装置1を示すものである。この溶接装置1は、各種ナット100を鋼板102にプロジェクション溶接する際に使用される装置である。ナット100としては、その中心線方向両端が開口したネジ孔100cを有するナットであればよく、その種類は特に限定されない。図3等に示すように、ナット100が袋ナットであってもよく、このナット100は、図3等において下端部に位置する面にボルト等(図示せず)が挿入される開口部100aが形成され、上端部に位置する面には開口部100aよりも小さな開口部100bが形成されている。ナット100における鋼板102とは反対側は、図1図4における上側であり、また、ナット100における鋼板102側とは、同図における下側になるが、上側及び下側は、本実施形態で説明の便宜を図るために上述のように定義しているだけであり、ナット100及び鋼板102の向きはどのような向きで使用されるものであってもよい。
【0032】
ナット100の下側には、フランジ100dが形成されている。フランジ100dの下面には、下方へ突出する複数の凸部100eが周方向に互いに間隔をあけて形成されている。凸部100eは溶接時に供給される電流を集中させる部分であり、図示しないが、溶接時に溶融して溶接後は殆ど消失している。
【0033】
また、ナット100は鋼板102以外の金属製部材に溶接することもでき、金属製部材は板状でなくてもよい。鋼板102には、ナット100の開口部100aと連通する貫通孔102aが形成されている。
【0034】
図1に示すように、溶接装置1は、下部電極(第1電極)10と、上部電極(第2電極)20と、上部電極20を上下方向に移動させる駆動装置30と、下部電極10が固定される基台40と、溶接電流供給部50(図1にのみ示す)とを備えている。駆動装置30は、上下方向に伸縮する流体圧シリンダ等で構成することができる。
【0035】
(下部電極の構成)
下部電極10は、導電性を有する金属材料からなり、鋼板102に対してナット100が溶接される側とは反対側から当接して、鋼板102をその下方から支持する。下部電極10の上端面が鋼板102の下面に当接するようになっている。下部電極10には、上下方向に延びるガイド孔11が形成されている。ガイド孔11は、下部電極10を上下方向に貫通するように形成されている。ガイド孔11の下端部は、基台40により閉塞されている。ガイド孔11の内部の下側には、上下方向に伸縮するコイルバネ12が配設されている。
【0036】
下部電極10にはナット100及び鋼板102を所定位置に位置決めするための位置決めピン13が設けられている。位置決めピン13は、上下方向に延びる金属製部材からなる。この位置決めピン13は、該位置決めピン13の下側(基端側)が下部電極10のガイド孔11に挿入されている。位置決めピン13の下側は、ガイド孔11の内周面に摺接するように形成されており、該位置決めピン13はガイド孔11の内周面によって中心線方向(上下方向)に進退可能に支持されている。位置決めピン13の下端面は、コイルバネ12の上端部に接触するようになっている。
【0037】
位置決めピン13の上側には、上端に近づくほど水平方向の断面積が小さくなるように形成された先細部13aが設けられている。位置決めピン13の先細部13aよりも基端側の部分が鋼板102の貫通孔102aに挿通されるとともに、ナット100のネジ孔100cに挿入され、これにより、ナット100及び鋼板102の相対的な位置決めが行われるとともに、下部電極10に対するナット100及び鋼板102の位置決めも行われる。
【0038】
下部電極10のガイド孔11の内部には、位置決めピン13を進出方向に付勢するための圧縮エアが供給されるようになっている。すなわち、ガイド孔11における位置決めピン13の下端面よりも下側には、エア供給室11aが設けられており、このエア供給室11aはガイド孔11の内周面、基台40の上面及び位置決めピン13の下端面によって区画形成されている。下部電極10の側壁部には、エア供給室11aに接続される下部接続管16が設けられている。この下部接続管16の上流側には、工場エア等の圧縮エアの供給装置17が接続されている。下部接続管16の中途部には、下部制御弁18が設けられている。この下部制御弁18は、従来から周知の弁装置で構成することができるものであり、エア供給室11aに供給される圧縮エアの圧力を予め設定された所定圧力に調整し、さらに、圧縮エアをエア供給室11aに供給する状態と供給しない状態とに切り替えることができるように構成されている。下部制御弁18は、例えば電磁弁等で構成することができ、図示しない制御装置によって制御することにより、例えば、非溶接時には圧縮エアの供給を停止し、溶接時には圧縮エアを供給することができる。
【0039】
エア供給室11aに供給される圧縮エアの圧力は、例えば0.15MPa程度に設定することができるが、これに限られるものではなく、エア供給室11aに供給される圧縮エアの圧力によって位置決めピン13を進出方向に付勢して位置決めピン13の上側(先端側)をガイド孔11の上端開口から突出させることができる程度の圧力であればよい。エア供給室11aに供給された圧縮エアは、位置決めピン13の外周面とガイド孔11の内周面との間から多少漏れることがあるが、その漏れ量は少なくなるようにしている。
【0040】
尚、図示しないが、位置決めピン13にはガイド孔11からの進出量を規定するためのストッパが設けられており、位置決めピン13がガイド孔11から離脱することがないようにしている。また、位置決めピン13は、コイルバネ12によっても上方へ付勢される。
【0041】
位置決めピン13の外周面におけるナット100のネジ孔100cに挿入される部分と、ナット100のネジ孔100cの内面との間には、圧縮エアの流通可能な隙間が形成されるようになっている。つまり、ネジ孔100cの内面にはネジ溝が形成されているので、ネジ孔100cに位置決めピン13が挿入されていても、圧縮エアはネジ溝の内部を流通することによってネジ孔100cの上下方向に通過することが可能になる。
【0042】
(上部電極の構成)
上部電極20は、導電性を有する金属材料からなり、駆動装置30に取り付けられ、ナット100に対して鋼板102とは反対側から当接する。上部電極20は、ナット100を鋼板102とは反対側(上側)から覆う略円筒形状の筒状部21を有している。この筒状部21は、該筒状部21の上端部を閉塞する端壁部22を有している。端壁部22は、ナット100における鋼板102とは反対側を覆うように配置されている。
【0043】
筒状部21の内面21bはナット100の外面に接触するように形成されていてもよいが、両者の間に隙間ができるように形成されていてもよい。筒状部21の内径は、ナット100のフランジ100dよりも上側部分のみを収容することができるように、該上側部分よりも若干大きく、かつ、フランジ100dの外径よりも小さく設定されている。また、筒状部21の上下方向の寸法は、ナット100のフランジ100dよりも上側部分の上下方向の寸法よりも長く設定されており、該上側部分が筒状部21に収容された状態で、端壁部22と、ナット100の上側との間には、後述する圧縮エアが流入するエア流入空間20aが設けられている。筒状部21にナット100が収容された状態では、エア流入空間20aがナット100の上側の開口部100bを介してネジ孔100cにおける鋼板102とは反対側に連通する。また、筒状部21の下端部21aは、ナット100に形成されたフランジ100dの上面に沿って延びており、該フランジ100dの上面に対して全周に亘って当接するようになっている。これにより、筒状部21とフランジ100dとの隙間が極小化される。
【0044】
上部電極20には、圧縮エアが供給されるエア供給管26が設けられている。エア供給管26の下流側は、筒状部21に接続されている。これにより、エア供給管26の下流側がエア流入空間20aに接続される。
【0045】
エア供給管26の上流側には、工場エア等の圧縮エアの供給装置27が接続されている。この供給装置27は、上記下部電極10側の供給装置17と共通化してもよい。エア供給管26の中途部には、上部制御弁28が設けられている。この上部制御弁28は、従来から周知の弁装置で構成することができるものであり、エア流入空間20aに供給される圧縮エアの圧力を予め設定された所定圧力に調整し、さらに、圧縮エアをエア流入空間20aに供給する状態と供給しない状態とに切り替えることができるように構成されている。上部制御弁28は、例えば電磁弁等で構成することができ、図示しない制御装置によって制御することにより、非溶接時には圧縮エアの供給を停止し、溶接時には圧縮エアを供給することができる。
【0046】
エア流入空間20aに供給される圧縮エアの圧力は、上記下部電極10のエア供給室11aに供給される圧縮エアの圧力よりも高く設定するのが好ましく、例えば0.18MPa程度に設定することができるが、これに限られるものではない。
【0047】
(溶接電流供給部の構成)
図1に示す溶接電流供給部50は、従来からプロジェクション溶接を行う際に用いられているものである。すなわち、溶接電流供給部50と下部電極10とが電線51によって接続され、また、溶接電流供給部50と上部電極20とが電線52によって接続されている。そして、溶接電流供給部50は、所定のタイミングで所定時間だけ下部電極10及び上部電極20に通電するように構成されている。溶接電流や通電時間等は、ナット100の形状や大きさ等によって任意に調整することができる。
【0048】
(プロジェクション溶接要領)
次に、上記のように構成された溶接装置1を使用してナット100を鋼板102にプロジェクション溶接する要領について説明する。まず、図3に示すように、上部電極20を駆動装置30によって上方へ移動させた後、ナット100及び鋼板102を下部電極10に置いてセットする。このとき、下部電極10のエア供給室11aには圧縮エアを供給しているので、位置決めピン13の先端側がガイド孔11の上端部から上方へ突出している。従って、位置決めピン13の先端側が鋼板102の貫通孔102aに挿通されるとともに、ナット100のネジ孔100cに挿入され、ナット100及び鋼板102が位置決めされる。位置決めピン13の先端側を鋼板102の貫通孔102aに挿通する際、位置決めピン13に先細部13aが形成されているので、鋼板102が水平方向に多少位置ずれしていても位置決めピン13を貫通孔102aに挿通させることができる。
【0049】
その後、図4に示すように、上部電極20を駆動装置30によって下方へ移動させて上部電極20の筒状部21にナット100を挿入し、筒状部21の下端部21aをナット100のフランジ100dの上面に当接させる。このとき、上部電極20を駆動装置30によって下方へ押圧しているので、ナット100が位置決めピン13の付勢力に抗して下方へ移動してナット100の凸部100eが鋼板102の上面に圧接する。凸部100eは周方向に間隔をあけて設けられているので、ナット100のフランジ100dの下面と鋼板102の上面との間には隙間ができることになる。上部電極20を下降させることにより、ナット100及び鋼板102が上部電極20と下部電極10とによって上下方向に挟持される。
【0050】
上部電極20のエア流入空間20aにはエア供給管26から圧縮エアが供給されている。この圧縮エアの供給開始タイミングは、遅くとも溶接電流を流す前であればよく、例えばナット100及び鋼板102をセットした後や、上部電極20を駆動装置30によって下方へ移動させ始めた時、上部電極20を駆動装置30によって下方へ移動させる途中等であってもよい。圧縮エアは溶接が終了するまで継続して供給している。
【0051】
エア流入空間20aに圧縮エアが供給されると、上部電極20とナット100のフランジ100dとの間からのエア漏れは殆ど無いので、圧縮エアは、ナット100の上側の開口部100bからネジ孔100cに流入する。ネジ孔100cに流入した圧縮エアは、ナット100のフランジ100dの下面と鋼板102の上面との間に隙間ができているので、ネジ孔100cを下方へ流れてフランジ100dの下面と鋼板102の上面との間を通って外部へ流れる。
【0052】
エア流入空間20aに圧縮エアが供給されている状態で溶接電流供給部50によって溶接電流を流すと、ナット100のフランジ100dの凸部100eに電流が集中して流れて凸部100eが溶融する。このとき、ナット100と鋼板102との間ではスパッタやススが発生するが、ネジ孔100cの内部における圧縮エアの流れは、上方から下方へ向かう流れとなっていることから、スパッタやススがネジ孔100cに流入することは殆ど無い。これにより、ナット100のネジ孔100cの内面にスパッタやススが付着し難くなるので、ネジさらいが不要になる。
【0053】
また、溶接が終了するまでの間は、ナット100のネジ孔100cに流入した圧縮エアが、ナット100と鋼板102との間にできている隙間から抜けるので、スパッタやススがその圧縮エアの流れに乗って鋼板102の表面から逃げていき、鋼板10に付着し難くなる。これにより、溶接品質を向上させることができる。
【0054】
また、ナット100のネジ孔100cに流入した圧縮エアは、位置決めピン13の外周面とナット100のネジ孔100cの内面との隙間を流れるので、スパッタが位置決めピン13の外周面に付着するのも抑制される。
【0055】
また、下部電極10のガイド孔11の圧縮エアが位置決めピン13の進出方向、即ちナット100のネジ孔100cに向けて漏れることが考えられる。こうなるとスパッタがガイド孔11から漏れる圧縮エアの流れに乗ってナット100のネジ孔100cに流入してしまう恐れがあるが、この実施形態では、上部電極20のエア供給管26に供給された圧縮エアがナット100のネジ孔100cにおける上側からネジ孔100cに流入しているので、ガイド孔11から圧縮エアが漏れたとしても、スパッタがナット100のネジ孔100cに流入することはない。
【0056】
尚、上記実施形態では、下部電極10のガイド孔11に圧縮エアを供給するようにしているが、これに限らず、ガイド孔11には圧縮エアを供給しないようにしてもよい。
【0057】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上説明したように、本発明に係るナットの溶接装置は、例えば、ナットを鋼板に溶接する場合に使用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 ナットの溶接装置
10 下部電極(第1電極)
11 ガイド孔
13 位置決めピン
20 上部電極(第2電極)
20a エア流入空間
21 筒状部
22 端壁部
26 エア供給管
100 ナット
100c ネジ孔
100d フランジ
100e 凸部
102 鋼板(金属製部材)
図1
図2
図3
図4