【実施例】
【0040】
以下に実施例をあげて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に例示する実施例に限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
[
CNVK含有ODNの合成]
光応答性人工核酸3−cyanovinylcarbazole nucleotide(
CNVK)のアミダイト体、5−cyano−2’−deoxyuridine(
CNU)のアミダイト体を、特許文献4(特許第4940311号)に開示された手順で合成した。合成したこれらのアミダイト体を、アセトニトリルで100mMの濃度へ調製し、核酸合成装置(製品名ABI3400、アプライドバイオシス社製)を使用して、ODN(オリゴデオキシリボヌクレオチド)を合成した。合成したODNはその後、28%アンモニア水を用いて55℃で8時間脱保護を行った。さらにその後、HPLCにて精製を行い、質量分析により目的配列であることを確認した。合成したODN(Probe1(T)、Probe1(
CNU)、Probe2(T)、Probe2(
CNU))の塩基配列を、表1に示す。Temp−1、Temp−2も同様の手法によって合成して、目的配列を得た。これらをあわせて、実験に使用した配列を、以下の表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表中、光応答性人工核酸(Probe1(T)、Probe1(
CNU)、Probe2(T)、Probe2(
CNU))は、配列中に、次の式で表される
cnvK(3−シアノビニルカルバゾール−1’−β−デオキシリボシド)を、式(I)の光応答性人工塩基を有するヌクレオシドとして、リン酸ジエステル結合して有している。
【化7】
【0044】
表中、光応答性人工核酸(Probe1(
CNU)、Probe2(
CNU))は、上記配列中に、
cnvK(3−シアノビニルカルバゾール−1’−β−デオキシリボシド)に加えて、次の式で表される5−cyano−2’−deoxyuridine(
CNU)を、式(II)の人工塩基を有するヌクレオシドとして、リン酸ジエステル結合して有している。
【化8】
【0045】
表中、アンチジーン法の人工核酸プローブとして本実験で使用したProbe1(T)、Probe1(
CNU)、Probe2(T)、Probe2(
CNU)は、アンチジーン法で使用できるように、Temp−1、Temp−2の中の配列の一部と、表の通りにそれぞれ相補的な配列を有している。Probe1(T)とProbe1(
CNU)は、Probe1(T)の特定のTがProbe1(
CNU)では
CNUに置換されていることを除いて、同じ配列である。Probe2(T)とProbe2(
CNU)は、Probe2(T)の特定のTがProbe2(
CNU)では
CNUに置換されていることを除いて、同じ配列である。Probe1((T)及び(
CNU))とProbe2((T)及び(
CNU))とは、相補的な配列を有しており、人工核酸の配列中に含まれている人工塩基は相補的な位置にある塩基がいずれの塩基であっても相補鎖の形成を妨げない。
【0046】
表中、ゲノム遺伝子のDNAの代替として本実験で使用したTemp−1、Temp−2は、相補的な配列を有していて、二重鎖DNAを形成可能であり、末端に標識部位として、蛍光色素(Cy3)を有している。Temp−1はTemp−2よりも配列長が長いために、Temp−1の鎖とTemp−2の鎖とによって形成される二重鎖は、末端に一重鎖部分を有する。
【0047】
[
CNU置換
CNVKプローブによるプローブ同士の光架橋反応の抑制]
10nM Temp−1、Temp−2と10μMのprobe1とprobe2をbuffer(100mM NaCl、50mM Na−cacodylate)に溶解させ、37℃で静置した。その後、UV−LED照射機を用い、385nmのUV光の照射を37℃で行った。光照射時間は0秒、1秒、5秒、10秒、30秒行った。それぞれのサンプルを変性PAGEによる解析を行い、
CNU置換
CNVKプローブの架橋抑制効果の検証を行った。変性PAGEによる解析結果を
図1に示す。また、
図1の変性PAGEを定量化したグラフを、
図2として示す。
図2は、
CNU置換
CNVKプローブによるプローブ間光架橋の抑制の結果を示すグラフである。
【0048】
これらの結果から示されるように、Probe1とProbe2が共にチミンの場合(
図1のA)(
図2のProbe(T/T))、もしくはどちらか一方だけ
CNUに置換されている場合(
図1のB)(
図2のProbe(T/
CNU))及び(
図1のC)(
図2のProbe(
CNU/T))の場合には、1秒の光照射で80%近い光架橋反応が進行している。このことは、アンチジーン法でこれらをプローブとして用いた場合に、プローブ同士の架橋によって、有効なプローブが秒単位の時間で失われてしまうことを意味する。一方、Probe1とProbe2が共に
CNUに置換されている場合(
図1のD)(
図2のProbe(
CNU/
CNU))では、光照射を30秒行っても95%以上のプローブが未架橋の状態で残っており、
CNU置換
CNVKプローブの組み合わせを用いることによってプローブ同士の架橋が抑制できていることが確認された。
【0049】
上記の実験による架橋反応と抑制のスキームを、
図3及び
図4として示す。
【0050】
[
CNU置換
CNVKプローブを用いた二本鎖への光架橋]
このように、
CNVKプローブのアンチジーン法への適応の際に問題となっていたプローブ同士の光架橋が
CNUに置換することによって抑制できることが確認できた。そこで、次に、長い二本鎖DNAへの
CNU置換
CNVKプローブの光架橋反応の確認を行った。10nMのTemp−1、Temp−2と、10μMのProbe1((T)及び(
cnU))とProbe2((T)及び(
cnU))をbuffer(100mM NaCl、50mM Na−cacodylate)に溶解させ、37℃で静置した。その後、UV−LED照射機を用い、385nmの光照射を37℃で30秒間行った。それぞれのサンプルを変性PAGEによる解析を行い、それぞれのプローブを使用した際の二本鎖DNAに対する光架橋率を算出した。長い二本鎖に対する光架橋反応の変性PAGEによる解析結果を
図5に示す。また、
図5の変性PAGEを定量化したグラフを、
図6として示す。
図6は、
CNU置換
CNVKプローブの二本鎖DNAに対する光架橋率を示すグラフである。
図6の棒グラフのそれぞれのバーの上部にある数値は、それぞれの架橋率(%)である。
【0051】
図5の変性PAGEにおいて、Temp1及びTemp2の矢印の位置は、それぞれのDNA鎖が単独で泳動された場合のバンドの位置を示す。
図5の変性PAGEにおいて、Temp1_架橋体及びTemp2_架橋体の矢印の位置は、それぞれのDNA鎖がプローブによって架橋された場合のバンドの位置を示す。
図5及び
図6において、光照射のマル(○)は光照射有りを示し、バツ(×)は光照射無しを示す。
図6の棒グラフのそれぞれのバーの上部にある数値は、それぞれの架橋率(%)の値である。
【0052】
これらの結果から示されるように、各プローブを用いた際の光架橋を変性PAGEにより解析したところ、Probe1とProbe2の両側、もしくは片側がチミンの場合には長い二本鎖DNAにはほとんど光架橋していなかった。一方、両側のプローブを
CNUに置換した場合では二本鎖DNAに対してそれぞれプローブが光架橋したバンドが確認できた。この結果から、
CNUに置換した
CNVKプローブを用いることによって長い二本鎖DNAに対して等温条件下で光架橋可能であることが明らかとなった。すなわち、PCRサイクルのような昇温降温のサイクルを行う必要がなく、作業温度を維持しただけであって特段の温度操作を要しない条件下で(等温条件下で)、
CNUに置換した
CNVKプローブは長い二本鎖DNAに光架橋した。
【0053】
[結果のまとめ]
図7に、
CNU置換
CNVKプローブによる二本鎖DNAへの光架橋反応のスキームを示す説明図を示す。なお、
図7ではさらにPCRにおける鎖の伸長のブロックの様子をあわせて示す。このように、
CNVKプローブの光架橋位置に存在するTを
CNUに置換することによってプローブ同士の架橋を抑制でき、37℃の条件下で二本鎖に対して光架橋していると本発明者は考えている。
【0054】
[実施例2]
[アンチジーン法]
実際にアンチジーン法として、光架橋により遺伝子の増幅が抑制できるかどうかの検証を以下の通りに行った。
【0055】
[
CNVK含有ODNの合成]
研究室で合成した光応答性人工核酸3−cyanovinylcarbazole nucleotide(
CNVK)のアミダイト体、5−cyano−2’−deoxyuridine(
CNU)のアミダイト体をアセトニトリルで100mMに調製し、ABI3400にてODNを合成した。合成したODN配列は下記表2に示す。これらが実験に使用したプローブ配列である。合成後、28%アンモニア水を用いて55℃で8時間脱保護を行った。その後、HPLCにて精製を行い、質量分析により目的配列であることを確認した。
【0056】
【表2】
【0057】
[光架橋のスキームとアンチジーン法]
以下の実験においてターゲットとなる二本鎖DNAとして、ヒトのゲノムDNA(30億塩基対)を使用した。その中でProbeが結合するのは染色体17(8800万塩基対)のBRCA1遺伝子である。BRCA1はガン関連遺伝子の一つである。Genomic DNAに対して
図8に示してあるように光架橋する配列になっている。
図8は、Genomic DNAに対するProbeの光架橋の説明図である。
【0058】
プローブ同士では
図9に示す二本鎖のような二本鎖は形成できるものの、架橋部位に
CNUが来るように設計してあり、プローブ同士で光架橋することはできない。
図9はプローブ同士の二本鎖構造を示す説明図である。
【0059】
そして、今回は光架橋されたGenomic DNAが増幅されないことを確認する為に、リアルタイムPCRにより増幅抑制率を算出した。PCRに使用するプライマー配列は表3に示す通りである。
【表3】
【0060】
上記のプライマーを用いてPCRによって増幅されるBRCA1の配列を
図10に示す。実際には二本鎖のDNAであるが、ここではターゲットとなるBRCA1側の配列を記載している。
【0061】
図10の配列において、プローブは配列の3行目のAGCCからCCATまでの部分に結合する。
図10の配列の1行目のAATGからAGTAまでと、5行目のGTAAから6行目のACATまでは、PCRの際のプライマー配列である。
反応スキームとしては長いGenomic DNAに対してプローブ投入後光照射を行うことによって光架橋反応が進行する。そこにプライマーを投入し、PCR反応を行う。通常はPCRによって、目的とするDNA断片(320bp)が増幅されるのだが、光架橋されたGenomic DNAは光架橋反応によってPCRが阻害されるため、増幅が起こらない。このスキームを
図11として示す。
【0062】
[Human Genomic DNAとprobeとの光架橋反応]
Human Genomic DNA 100ng/ulに対してprobe−3とprobe−4をそれぞれ200pMの濃度になるように調製した。サンプル調製後、37度で15分間インキュベートした後、37℃の温度プレート上で385nmの光照射を1時間行った。その後、光照射後のサンプル23μLに対してPCR primerを1μl(終濃度500nM)になるように加え、SYBR premix Ex Taq II(Takara)を25μL加え、リアルタイムPCRにより解析した。
図12にリアルタイムPCR解析結果を示す。
【0063】
図12のグラフのカーブは、それぞれ、サイクル数25において縦軸の値が大きいカーブから順に、プローブなしのカーブ、probe3とprobe4を使用したカーブ、probe−3(
CNU)とprobe−4(
CNU)を使用したカーブを意味する。
通常のPCR(プローブなし)の場合にはPCRの増幅反応が進むにつれて蛍光の値が増加して行く様子が確認できる。一方、probe−3とprobe−4を投入した場合にも蛍光が増加してゆく。一方、probe−3(
CNU)とprobe−4(
CNU)を入れたものでは、蛍光の値が増加してゆくサイクル数が遅くなっている。これは増幅に使用できるGenomic DNAが少ないことを示しており、probe−3(
CNU)とprobe−4(
CNU)がGenomic DNAに光架橋し、増幅を阻害していることが確認できた。
【0064】
次に50%増幅された際のサイクル数を基に、増幅抑制率を算出した。
図13に算出した増幅抑制率のグラフを示す。
図13において(1)〜(3)はそれぞれ以下である: (1):プローブなし、(2):probe3とprobe4を使用、(3):probe−3(
CNU)とprobe−4(
CNU)を使用。その結果、probe−3(
CNU)とprobe−4(
CNU)を使用した際にprobeなしの場合と比較して約96%の増幅抑制効果があることが分かった。
【0065】
[結果のまとめ]
これらの結果から、
CNU、
CNVKを用いた長い二本鎖に対する光架橋反応はHuman Genomic DNAの様な非常に長いDNAに対しても高効率に光架橋していることが確認できた。また、光架橋された二本鎖DNAはPCRのような遺伝子増幅を阻害していることから、高いアンチジーン効果を有していることが明らかとなった。
【0066】
[実施例3]
[シアノシチジン置換]
[ODNの合成]
研究室で合成した光応答性人工核酸3−cyanovinylcarbazole nucleotide(
CNVK)のアミダイト体、及びTriazole−5’−trifluoromethyl−2’−deoxythymidine(
CNC)のアミダイト体をアセトニトリルで100mMに調整し、ABI3400にてODNを合成した。合成したODN配列は次の表4に示す。合成後、28%アンモニア水を用いて55℃で12時間脱保護を行った。その後、HPLCにて精製を行い、質量分析により目的配列であることを確認した。シアノシチジン(
CNC)の化学構造式を以下に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
【化9】
【0069】
[
CNVKと
CNCの光反応性の解析]
10μM ODN(K)と10μM ODN(
CNC)をbuffer(100mM NaCl,50mMカコジル酸ナトリウム)中で90℃で5分間加熱した後、ゆっくり4℃までアニーリングを行った。その後、UV−LED照射機を用い、366nmのUV照射を4℃で行い、UPLC解析を行った。UPLC解析結果を
図14に示す。
【0070】
UPLC解析の結果、
CNCは
CNVKとの光架橋反応が著しく低いことが明らかとなった。すなわち、
図15で示すような光架橋反応はほぼ進行しないことがわかった。