はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜22のアルキル基を示す)で示される1価の基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を含む繊維に、アクリル系撥水剤、シリコーン系撥水剤及びデンドリマー系撥水剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の非フッ素系撥水剤を接触させる工程を備える。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施形態の撥水性繊維製品の製造方法は、−SO
3M
1(式中、M
1は一価のカチオンを示す)で示される1価の基、−COOM
2(式中、M
2は一価のカチオンを示す)で示される1価の基、及び−O−P(O)(OX
1)(OX
2)(式中、X
1及びX
2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜22のアルキル基を示す)で示される1価の基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基(以下、「特定官能基」という場合もある)を含む繊維に、アクリル系撥水剤、シリコーン系撥水剤及びデンドリマー系撥水剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の非フッ素系撥水剤を付与する工程を備える。
【0021】
M
1としては、H、K、Na又は置換基を有していてもよいアンモニウムイオンが挙げられる。M
2としては、H、K、Na又は置換基を有していてもよいアンモニウムイオンが挙げられる。X
1又はX
2がアルキル基である場合、炭素数1〜22のアルキル基であることが好ましく、炭素数4〜12のアルキル基であることがより好ましい。
【0022】
上記特定官能基を含む繊維(以下、「官能基含有繊維」という場合もある)は、例えば、以下の方法により用意することができる。
(i)繊維材料に、上記特定官能基を有する化合物を付着させる。なお、化合物の付着は、上記特定官能基が十分な量で残される範囲で化合物の一部と繊維の一部とが化学的に結合している状態であってもよい。
(ii)繊維を構成する材料に上記特定官能基が直接導入されている繊維を用意する。
【0023】
(i)の場合、例えば、繊維材料を、上記特定官能基を有する化合物の一種以上が含まれる前処理液で処理する官能基導入工程により、官能基含有繊維を得ることができる。
【0024】
繊維材料の素材としては、特に制限はなく、綿、麻、絹、羊毛などの天然繊維、レーヨン、アセテートなどの半合成繊維、ポリアミド(ナイロン等)、ポリエステル、ポリウレタン、ポリプロピレンなどの合成繊維及びこれらの複合繊維、混紡繊維などが挙げられる。繊維材料の形態は繊維(トウ、スライバー等)、糸、編物(交編を含む)、織物(交織を含む)、不織布、紙などのいずれの形態であってもよい。
【0025】
本実施形態においては、得られる繊維製品の撥水性が良好になる観点から、ポリアミド及びポリエステルを素材として含む繊維材料を用いることが好ましく、特に、ナイロン6、ナイロン6,6等のナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチルテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル、及びこれらが含まれる混合繊維を用いることが好ましい。
【0026】
上記−SO
3M
1を有する化合物としては、フェノール系高分子を用いることができる。このようなフェノール系高分子としては、例えば、下記一般式(2)で表される化合物を少なくとも一種含むものが挙げられる。
【0027】
【化2】
[式(2)中、X
2は−SO
3M
3(式中、M
3は1価のカチオンを示す)又は下記一般式(3)で表される基を表し、nは20〜3000の整数である。]
【0028】
【化3】
[式(3)中、M
4は1価のカチオンを表す。]
【0029】
上記M
3としては、H、K、Na又は置換基を有していてもよいアンモニウムイオンが挙げられる。
【0030】
上記M
4としては、H、K、Na又は置換基を有していてもよいアンモニウムイオンが挙げられる。
【0031】
上記一般式(2)で表される化合物は、例えば、フェノールスルホン酸のホルマリン縮合物、スルホン化ビスフェノールSのホルマリン縮合物であってもよく、後述する実施例に記載の方法により合成したものを用いることができる。
【0032】
上記−COOM
2を有する化合物としては、ポリカルボン酸系ポリマーが挙げられる。
【0033】
ポリカルボン酸系ポリマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸などをモノマーとして用いて従来公知のラジカル重合法で合成したポリマー、又は、市販されているものを使用することができる。
【0034】
ポリカルボン酸系ポリマーの製造方法としては、例えば、上記モノマー及び/又はその塩の水溶液にラジカル重合開始剤を添加して、30〜150℃で2〜5時間加熱反応させる方法が挙げられる。このとき、上記モノマー及び/又はその塩の水溶液に、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類やアセトンなどの水性溶剤を添加してもよい。ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、過硫酸塩と重亜硫酸ナトリウムなどの組み合わせによるレドックス系重合開始剤、過酸化水素、水溶性アゾ系重合開始剤などが挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は1種を単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよい。さらに、ラジカル重合の際には、重合度を調整する目的で連鎖移動剤(例えば、チオグリコール酸オクチル)を添加してもよい。
【0035】
ラジカル重合には、上記モノマーのほかに共重合可能なモノマーを使用することができる。共重合可能なモノマーとしては、エチレン、塩化ビニル、酢酸ビニルなどのビニル系モノマー、アクリルアミド、アクリレート類、メタクリレート類などが挙げられる。アクリレート類及びメタクリレート類は、ヒドロキシル基などの置換基を有していてもよい炭素数1〜3の炭化水素基を有するものが好ましい。このようなアクリレート類またはメタクリレート類としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレートなどが挙げられる。これらの共重合可能なモノマーは、1種を単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0036】
ポリカルボン酸系ポリマー中のカルボキシル基はフリーであっても、アルカリ金属やアミン系化合物などによって中和されていてもよい。アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどが挙げられ、アミン系化合物としてはアンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどが挙げられる。
【0037】
ポリカルボン酸系ポリマーの重量平均分子量は、得られる繊維製品の撥水性が良好となる観点から、1,000〜20,000が好ましく、3,000〜15,000がより好ましい。
【0038】
ポリカルボン酸系ポリマーは、「ネオクリスタル770」(日華化学株式会社製、商品名)、「セロポールPC−300」(三洋化成工業株式会社製、商品名)などの市販品を用いることができる。
【0039】
上記−O−P(O)(OX
1)(OX
2)を有する化合物としては、例えば、下記一般式(4)で表されるリン酸エステル化合物が挙げられる。
【化4】
[式(4)中、X
1又はX
2は上記と同義であり、X
3は炭素数1〜22のアルキル基を示す。]
【0040】
上記リン酸エステル化合物としては、アルキルエステル部分が、炭素数1〜22のアルキル基であるリン酸モノエステル、ジエステル及びトリエステル、並びにこれらの混合物を用いることができる。
【0041】
本実施形態においては、得られる繊維製品の撥水性が良好となる観点から、ラウリルリン酸エステル、デシルリン酸エステルを用いることが好ましい。
【0042】
リン酸エステル化合物は、例えば、「フォスファノールML−200」(東邦化学工業株式会社製、商品名)などの市販品を用いることができる。
【0043】
上記特定官能基を有する化合物の一種以上が含まれる前処理液は、例えば、上述した化合物の水溶液とすることができる。また、前処理液には、酸、アルカリ、界面活性剤、キレート剤等を含有させてもよい。
【0044】
繊維材料を上記前処理液で処理する方法としては、例えば、パディング処理、浸漬処理、スプレー処理、コーティング処理が挙げられる。パディング処理としては、例えば、繊維染色加工辞典(昭和38年、日刊工業新聞社発行)の396〜397頁や色染化学III(1975年、実教出版株式会社発行)の256〜260頁に記載のパディング装置を用いた方法が挙げられる。コーティング処理としては、例えば、染色仕上機器総覧(昭和56年、繊維社発行)の473〜477頁に記載のコーティング機を用いる方法が挙げられる。浸漬処理としては、例えば、染色仕上機器総覧(昭和56年、繊維社発行)の196〜247頁に記載のバッチ式染色機を用いる方法が挙げられ、液流染色機、気流染色機、ドラム染色機、ウインス染色機、ワッシャー染色機、チーズ染色機等を用いることができる。スプレー処理としては、例えば、圧搾空気で処理液を霧状にして吹き付けるエアースプレーや、液圧霧化方式のエアースプレーを用いた方法が挙げられる。このときの処理液の濃度や付与後の熱処理等の処理条件は、その目的や性能等の諸条件を考慮して、適宜調整することができる。また、前処理液が水を含有する場合は、繊維材料に付着させた後に水を除去するために乾燥させることが好ましい。乾燥方法としては、特に制限はなく、乾熱法、湿熱法のいずれであってもよい。乾燥温度も特に制限されないが、例えば、室温〜200℃で10秒〜数日間乾燥させればよい。必要に応じて、乾燥後に100〜180℃の温度で10秒〜5分間程度加熱処理してもよい。
【0045】
なお、繊維材料が染色されるものである場合、前処理液による処理は、染色前でも、染色と同浴で行ってもよいが、還元ソーピングを行う場合は、その過程で吸着した上記特定官能基を有する化合物(例えば、フェノール系高分子化合物など)が、脱落してしまうおそれがあるので、染色後の還元ソーピング後に行うことが好ましい。
【0046】
浸漬処理における処理温度は、60〜130℃とすることができる。処理時間は、5〜60分とすることができる。
【0047】
前処理液による官能基導入工程は、上記特定官能基を有する化合物の付着量が、繊維材料100質量部に対し、1.0〜7.0質量部になる量で処理することが好ましい。この範囲内であると、耐久撥水性及び風合いを高水準で両立させることができる。
【0048】
前処理液は、pHを3〜5に調整することが好ましい。pH調整は、酢酸、リンゴ酸等のpH調整剤を用いることができる。
【0049】
前処理液には、上記特定官能基を有する化合物を塩析効果により有効に繊維材料に吸着させるために塩を併用することもできる。使用できる塩としては、例えば、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0050】
前処理液による官能基導入工程では、過剰に処理された上記特定官能基を有する化合物を除去することが好ましい。除去方法としては、水洗による方法が挙げられる。十分な除去を行うことにより、後段の撥水加工において撥水性の発現が阻害されることを抑制することができ、加えて、得られる繊維製品の風合が良好となる。また、得られる官能基含有繊維は、非フッ素系撥水剤に接触させる前に、十分乾燥させておくことが好ましい。
【0051】
(ii)繊維を構成する材料に上記特定官能基が直接導入されている繊維としては、例えば、カチオン可染ポリエステル(CD−PET)が挙げられる。
【0052】
本実施形態に係る官能基含有繊維は、得られる繊維製品の撥水性が良好となる観点から、表面のゼータ電位が−100〜−0.1mVであることが好ましく、−50〜−1mVであることがより好ましい。繊維の表面のゼータ電位は、例えば、ゼータ電位・粒径測定システムELSZ−1000ZS(大塚電子株式会社製)にて測定することができる。
【0053】
次に、本実施形態に係る官能基含有繊維に付与される非フッ素系撥水剤について説明する。非フッ素系撥水剤は、アクリル系撥水剤、シリコーン系撥水剤及びデンドリマー系撥水剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことができる。
【0054】
アクリル系撥水剤としては、下記一般式(A−1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)(以下、「(A)成分」ともいう。)に由来する構成単位を含有するポリマー(以下、「非フッ素系アクリル系ポリマー」という場合もある)を含むものが挙げられる。
【0055】
【化5】
[式(A−1)中、R
1は水素又はメチル基を表し、R
2は置換基を有していてもよい炭素数12以上の1価の炭化水素基を表す。]
【0056】
ここで、「(メタ)アクリル酸エステル」とは「アクリル酸エステル」又はそれに対応する「メタクリル酸エステル」を意味し、「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリルアミド」等においても同義である。
【0057】
本実施形態にて使用される上記一般式(A−1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)は、置換基を有していてもよい炭素数が12以上の1価の炭化水素基を有する。この炭化水素基は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、飽和炭化水素基であっても不飽和炭化水素基であってもよく、更には脂環式又は芳香族の環状を有していてもよい。これらの中でも、直鎖状であるものが好ましく、直鎖状のアルキル基であるものがより好ましい。この場合、撥水性がより優れるものとなる。炭素数12以上の1価の炭化水素基が置換基を有する場合、その置換基としては、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基、ブロックドイソシアネート基及び(メタ)アクリロイルオキシ基等のうちの1種以上が挙げられる。本実施形態では、上記一般式(A−1)において、R
2は無置換の炭化水素基であることが好ましい。
【0058】
上記炭化水素基の炭素数は、12〜24であることが好ましい。炭素数が12未満であると、非フッ素系アクリル系ポリマーを繊維製品等に付着させた場合、優れた撥水性が得られにくくなる。一方、炭素数が24を超えると、炭素数が上記範囲にある場合と比較して、非フッ素系アクリル系ポリマーを繊維製品等に付着させた場合、繊維製品の風合が粗硬になる傾向にある。
【0059】
上記炭化水素基の炭素数は、12〜21であることがより好ましい。炭素数がこの範囲である場合は、撥水性と風合が特に優れるようになる。炭化水素基として特に好ましいのは、炭素数が12〜18の直鎖状のアルキル基である。
【0060】
上記(A)成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸エイコシル、(メタ)アクリル酸ヘンエイコシル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、(メタ)アクリル酸セリル、(メタ)アクリル酸メリシルが挙げられる。
【0061】
上記(A)成分は、架橋剤と反応可能なヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基及びイソシアネート基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有することができる。この場合、得られる繊維製品の耐久撥水性を更に向上させることができる。イソシアネート基は、ブロック化剤で保護されたブロックドイソシアネート基を形成していてもよい。また、上記(A)成分がアミノ基を有する場合、得られる繊維製品の風合を更に向上させることができる。
【0062】
上記(A)成分は、1分子内に重合性不飽和基を1つ有する単官能の(メタ)アクリル酸エステル単量体であることが好ましい。
【0063】
上記(A)成分は、1種を単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
上記(A)成分は、得られる繊維製品の耐久撥水性の点で、アクリル酸エステル単量体(a1)とメタアクリル酸エステル単量体(a2)とを併用することが好ましい。配合する(a1)成分の質量と(a2)成分の質量との比(a1)/(a2)は、30/70〜90/10であることが好ましく、40/60〜85/15であることがより好ましく、50/50〜80/20であることがさらに好ましい。(a1)/(a2)が上記範囲内である場合は、得られる繊維製品の耐久撥水性がより良好となる。(a1)/(a2)が90/10を超える場合、もしくは30/70未満となる場合は、得られる繊維製品の耐久撥水性が低下する傾向にある。
【0065】
本実施形態に係る非フッ素系アクリル系ポリマーは、上記(A)成分に由来する構成単位と、塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(E)(以下、「(E)成分」ともいう)に由来する構成単位とを含有することが好ましい。
【0066】
本実施形態にて使用される塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(E)は、本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーの共重合成分として含まれ、得られる繊維製品の撥水性とコーティングに対する剥離強度の点で、塩化ビニルが好ましい。
【0067】
本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーにおける(A)成分に由来する構成単位と(E)成分に由来する構成単位との含有割合は、本実施形態の非フッ素系ポリマーの乳化安定性及び得られる繊維製品のコーティングに対する剥離強度の点で、配合する(A)成分の質量と(E)成分の質量との比(A)/(E)が、40/60〜90/10であることが好ましく、50/50〜85/15であることがより好ましく、60/40〜80/20であることがさらに好ましい。(A)/(E)が90/10を超える場合は、得られる繊維製品のコーティングに対する剥離強度が低下する傾向にある。(A)/(E)が40/60未満である場合は、本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーの乳化安定性が低下する傾向にある。
【0068】
また、配合する(A)成分の質量と(E)成分の質量との合計質量は、非フッ素系アクリル系ポリマーを構成する単量体成分の全量に対して、80〜100質量%が好ましく、85〜99質量%がより好ましく、90〜98質量%がさらに好ましい。
【0069】
本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーの重量平均分子量は10万以上であることが好ましい。重量平均分子量が10万未満であると、得られる繊維製品の撥水性が不十分となる傾向がある。さらに、非フッ素系アクリル系ポリマーの重量平均分子量は、50万以上であることがより好ましい。この場合、得られる繊維製品は、より十分に撥水性を発揮させることができる。非フッ素系アクリル系ポリマーの重量平均分子量の上限は500万程度が好ましい。
【0070】
本実施形態において、非フッ素系アクリル系ポリマーの105℃における溶融粘度は1000Pa・s以下であることが好ましい。105℃における溶融粘度が1000Pa・sを超えると、得られる繊維製品の風合が粗硬になる傾向にある。また、非フッ素系アクリル系ポリマーの溶融粘度が高すぎると、非フッ素系アクリル系ポリマーを乳化又は分散して撥水剤組成物とした場合、非フッ素系アクリル系ポリマーが析出したり沈降したりすることがあり、撥水剤組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。なお、105℃における溶融粘度は、500Pa・s以下であることがより好ましい。この場合、得られる繊維製品等は、十分に撥水性を発揮しつつ、風合もより優れたものとなる。
【0071】
「105℃における溶融粘度」とは、高架式フローテスター(例えば、島津製作所製CFT−500)を用い、ダイ(長さ10mm、直径1mm)を取り付けたシリンダー内に非フッ素系ポリマーを1g入れ、105℃で6分間保持し、プランジャーにより100kg・f/cm
2の荷重を加えて測定したときの粘度をいう。
【0072】
本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーの重量平均分子量が等しい場合、非フッ素系(メタ)アクリル酸エステル単量体の配合割合が高い程、付着させた繊維製品の撥水性がより高くなる傾向にある。また、共重合可能な非フッ素系単量体を共重合させることにより、付着させた繊維製品の耐久撥水性や風合等の性能を向上させることができる。
【0073】
本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーは、得られる繊維製品の撥水性、及び本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーの乳化重合又は分散重合時及び重合後の組成物中での乳化安定性を向上できる点で、(A)成分、又は、(A)成分と(E)成分に加えて、(B1)HLBが7〜18である下記一般式(I−1)で表される化合物、(B2)HLBが7〜18である下記一般式(II−1)で表される化合物、及び(B3)HLBが7〜18である、ヒドロキシル基及び重合性不飽和基を有する油脂に炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを付加した化合物のうちから選ばれる少なくとも1種の反応性乳化剤(B)(以下、「(B)成分」ともいう)を単量体成分として含有していることが好ましい。
【0074】
【化6】
[式(I−1)中、R
3は水素又はメチル基を表し、Xは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表し、Y
1は炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。]
【0075】
【化7】
[式(II−1)中、R
4は重合性不飽和基を有する炭素数13〜17の1価の不飽和炭化水素基を表し、Y
2は炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。]
【0076】
「反応性乳化剤」とは、ラジカル反応性を有する乳化分散剤、すなわち、分子内に1つ以上の重合性不飽和基を有する界面活性剤のことであり、(メタ)アクリル酸エステルのような単量体と共重合させることができるものである。
【0077】
また、「HLB」とは、エチレンオキシ基を親水基、それ以外を全て親油基と見なし、グリフィン法により算出したHLB値のことである。
【0078】
本実施形態にて使用される上記(B1)〜(B3)の化合物のHLBは、7〜18であり、本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーの乳化重合又は分散重合時及び重合後の組成物中での乳化安定性(以降、単に乳化安定性という)の点で、9〜15が好ましい。さらには、撥水剤組成物の貯蔵安定性の点で上記範囲内の異なるHLBを有する2種以上の反応性乳化剤(B)を併用することがより好ましい。
【0079】
本実施形態にて使用される上記一般式(I−1)で表される反応性乳化剤(B1)において、R
3は水素又はメチル基であり、(A)成分との共重合性の点でメチル基であることがより好ましい。Xは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキレン基であり、本実施形態の非フッ素系ポリマーの乳化安定性の点で、炭素数2〜3の直鎖アルキレン基がより好ましい。Y
1は炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を含む2価の基である。Y
1におけるアルキレンオキシ基の種類、組み合わせ及び付加数については、上記HLBの範囲内になるように適宜選択することができる。また、アルキレンオキシ基が2種以上の場合、それらはブロック付加構造又はランダム付加構造を有することができる。
【0080】
上記一般式(I−1)で表される化合物としては、下記一般式(I−2)で表される化合物が好ましい。
【0081】
【化8】
[式(I−2)中、R
3は水素又はメチル基を表し、Xは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表し、A
1Oは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を表し、mは上記HLBの範囲内になるように適宜選択することができ、具体的には、1〜80の整数が好ましく、mが2以上のときm個のA
1Oは同一であっても異なっていてもよい。]
【0082】
上記一般式(I−2)で表される化合物において、R
3は水素又はメチル基であり、(A)成分との共重合性の点でメチル基であることがより好ましい。Xは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキレン基であり、本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーの乳化安定性の点で、炭素数2〜3の直鎖アルキレン基がより好ましい。A
1Oは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基である。A
1Oの種類及び組み合わせ、並びにmの数については、上記HLBの範囲内になるように適宜選択することができる。本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーの乳化安定性の点で、mは1〜80の整数が好ましく、1〜60の整数であることがより好ましい。mが2以上のときm個のA
1Oは同一であっても異なっていてもよい。また、A
1Oが2種以上の場合、それらはブロック付加構造又はランダム付加構造を有することができる。
【0083】
上記一般式(I−2)で表される反応性乳化剤(B1)は、従来公知の方法で得ることができ、特に限定されるものではない。また、市販品より容易に入手することができ、例えば、花王株式会社製の「ラテムルPD−420」、「ラテムルPD−430」、「ラテムルPD−450」等を挙げることができる。
【0084】
本実施形態にて使用される上記一般式(II−1)で表される反応性乳化剤(B2)において、R
4は重合性不飽和基を有する炭素数13〜17の1価の不飽和炭化水素基であり、トリデセニル基、トリデカジエニル基、テトラデセニル基、テトラジエニル基、ペンタデセニル基、ペンタデカジエニル基、ペンタデカトリエニル基、ヘプタデセニル基、ヘプタデカジエニル基、ヘプタデカトリエニル基等が挙げられる。本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーの乳化安定性の点で、R
4は炭素数14〜16の1価の不飽和炭化水素基がより好ましい。
【0085】
Y
2は炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を含む2価の基である。Y
2におけるアルキレンオキシ基の種類、組み合わせ及び付加数については、上記HLBの範囲内になるように適宜選択することができる。また、アルキレンオキシ基が2種以上の場合、それらはブロック付加構造又はランダム付加構造を有することができる。本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーの乳化安定性の点で、アルキレンオキシ基はエチレンオキシ基がより好ましい。
【0086】
上記一般式(II−1)で表される化合物としては、下記一般式(II−2)で表される化合物が好ましい。
【0087】
【化9】
[式(II−2)中、R
4は重合性不飽和基を有する炭素数13〜17の1価の不飽和炭化水素基を表し、A
2Oは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を表し、nは上記HLBの範囲内になるように適宜選択することができ、具体的には、1〜50の整数が好ましく、nが2以上のときn個のA
2Oは同一であっても異なっていてもよい。]
【0088】
上記一般式(II−2)で表される化合物におけるR
4は、上述した一般式(II−1)におけるR
4と同様のものが挙げられる。
【0089】
A
2Oは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基である。本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーの乳化安定性の点で、A
2Oの種類及び組み合わせ、並びにnの数については、上記HLBの範囲内になるように適宜選択することができる。本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーの乳化安定性の点で、A
2Oはエチレンオキシ基がより好ましく、nは1〜50の整数が好ましく、5〜20の整数がより好ましく、8〜14の整数がさらに好ましい。nが2以上のときn個のA
2Oは同一であっても異なっていてもよい。また、A
2Oが2種以上の場合、それらはブロック付加構造又はランダム付加構造を有することができる。
【0090】
本実施形態にて使用される上記一般式(II−2)で表される反応性乳化剤(B2)は、従来公知の方法で対応する不飽和炭化水素基を有するフェノールにアルキレンオキサイドを付加することにより合成することができ、特に限定されるものではない。例えば、苛性ソーダ、苛性カリウム等のアルカリ触媒を用い、加圧下、120〜170℃にて、所定量のアルキレンオキサイドを付加することにより合成することができる。
【0091】
上記対応する不飽和炭化水素基を有するフェノールには、工業的に製造された純品または混合物のほか、植物等から抽出・精製された純品又は混合物として存在するものも含まれる。例えば、カシューナッツの殻等から抽出され、カルダノールと総称される、3−[8(Z),11(Z),14−ペンタデカトリエニル]フェノール、3−[8(Z),11(Z)−ペンタデカジエニル]フェノール、3−[8(Z)−ペンタデセニル]フェノール、3−[11(Z)−ペンタデセニル]フェノール等が挙げられる。
【0092】
本実施形態にて使用される反応性乳化剤(B3)は、HLBが7〜18である、ヒドロキシル基及び重合性不飽和基を有する油脂に炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを付加した化合物である。ヒドロキシル基及び重合性不飽和基を有する油脂としては、ヒドロキシ不飽和脂肪酸(パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸等)を含んでいてもよい脂肪酸のモノ又はジグリセライド、少なくとも1種のヒドロキシ不飽和脂肪酸(リシノール酸、リシノエライジン酸、2−ヒドロキシテトラコセン酸等)を含む脂肪酸のトリグリセライドを挙げることができる。本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーの乳化安定性の点で、少なくとも1種のヒドロキシ不飽和脂肪酸を含む脂肪酸のトリグリセライドのアルキレンオキサイド付加物が好ましく、ヒマシ油(リシノール酸を含む脂肪酸のトリグリセライド)の炭素数2〜4のアルキレンオキサイド付加物がより好ましく、ヒマシ油のエチレンオキサイド付加物がさらに好ましい。さらに、アルキレンオキサイドの付加モル数は、上記HLBの範囲内になるように適宜選択することができ、本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーの乳化安定性の点で、20〜50モルがより好ましく、25〜45モルがさらに好ましい。また、アルキレンオキサイドが2種以上の場合、それらはブロック付加構造又はランダム付加構造を有することができる。
【0093】
本実施形態にて使用される反応性乳化剤(B3)は、従来公知の方法でヒドロキシル基及び重合性不飽和基を有する油脂にアルキレンオキサイドを付加することにより合成することができ、特に限定されるものではない。例えば、リシノール酸を含む脂肪酸のトリグリセライド、すなわちヒマシ油に苛性ソーダ、苛性カリウム等のアルカリ触媒を用い、加圧下、120〜170℃にて、所定量のアルキレンオキサイドを付加することにより合成することができる。
【0094】
本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーにおける上記(B)成分の単量体の構成割合は、得られる繊維製品の撥水性、及び本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーの乳化重合又は分散重合時及び重合後の組成物中での乳化安定性を向上できる観点で、非フッ素系アクリル系ポリマーを構成する単量体成分の全量に対して、0.5〜20質量%であることが好ましく、1〜15質量%であることがより好ましく、3〜10質量%であることがさらに好ましい。
【0095】
本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーは、得られる繊維製品の耐久撥水性を向上できる点で、(A)成分及び(E)成分に加えて、下記(C1)、(C2)、(C3)及び(C4)からなる群より選ばれる少なくとも1種の第2の(メタ)アクリル酸エステル単量体(C)(以下、「C成分」ともいう)を単量体成分として含有していることが好ましい。
【0096】
(C1)下記一般式(C−1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体
【化10】
[式(C−1)中、R
5は水素又はメチル基を表し、R
6はヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基及び(メタ)アクリロイルオキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する炭素数1〜11の1価の鎖状炭化水素基を表す。ただし、分子内における(メタ)アクリロイルオキシ基の数は2以下である。]
【0097】
(C2)下記一般式(C−2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体
【化11】
[式(C−2)中、R
7は水素又はメチル基を表し、R
8は置換基を有していてもよい炭素数1〜11の1価の環状炭化水素基を表す。]
【0098】
(C3)下記一般式(C−3)で表されるメタクリル酸エステル単量体
【化12】
[式(C−3)中、R
9は無置換の炭素数1〜4の1価の鎖状炭化水素基を表す。]
【0099】
(C4)下記一般式(C−4)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体
【化13】
[式(C−4)中、R
10は水素又はメチル基を表し、pは2以上の整数を表し、Sは(p+1)価の有機基を表し、Tは重合性不飽和基を有する1価の有機基を表す。]
【0100】
上記(C1)の単量体は、エステル部分にヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基及び(メタ)アクリロイルオキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する炭素数1〜11の1価の鎖状炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体である。架橋剤と反応可能な点から、上記炭素数1〜11の1価の鎖状炭化水素基は、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基及びイソシアネート基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有することが好ましい。これらの架橋剤と反応可能な基を有する(C1)の単量体を含有する非フッ素系アクリル系ポリマーを、架橋剤とともに繊維製品に処理した場合に、得られる繊維製品の風合を維持したまま、耐久撥水性を向上することができる。イソシアネート基は、ブロック化剤で保護されたブロックドイソシアネート基であってもよい。
【0101】
上記鎖状炭化水素基は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、飽和炭化水素基であっても不飽和炭化水素基であってもよい。また、鎖状炭化水素基は、上記官能基の他に置換基を更に有していてもよい。中でも得られる繊維製品の耐久撥水性を向上できる点で、直鎖状であること、及び/又は、飽和炭化水素基であることが好ましい。
【0102】
具体的な(C1)の単量体としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、1,1−ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等が挙げられる。これら単量体は、1種を単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも得られる繊維製品の耐久撥水性を向上できる点で、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、1,1−ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネートが好ましい。さらに得られる繊維製品の風合を向上させる点で、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルが好ましい。
【0103】
本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーにおける上記(C1)の単量体の構成割合は、得られる繊維製品の撥水性及び風合の観点で、非フッ素系アクリル系ポリマーを構成する単量体成分の全量に対して、1〜30質量%であることが好ましく、3〜25質量%であることがより好ましく、5〜20質量%であることがさらに好ましい。
【0104】
上記(C2)の単量体は、エステル部分に炭素数1〜11の1価の環状炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体であり、環状炭化水素基としては、イソボルニル基、シクロヘキシル基、ジシクロペンタニル基等が挙げられる。これら環状炭化水素基はアルキル基等の置換基を有していてもよい。ただし、置換基が炭化水素基の場合、置換基及び環状炭化水素基の炭素数の合計が11以下となる炭化水素基が選ばれる。また、これら環状炭化水素基は、エステル結合に直接結合していることが、耐久撥水性向上の観点から好ましい。環状炭化水素基は、脂環式であっても芳香族であってもよく、脂環式の場合、飽和炭化水素基であっても不飽和炭化水素基であってもよい。具体的な単量体としては、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル等が挙げられる。これら単量体は、1種を単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも得られる繊維製品の耐久撥水性を向上できる点で、(メタ)アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸シクロヘキシルが好ましく、メタクリル酸イソボルニルがより好ましい。
【0105】
本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーにおける上記(C2)の単量体の構成割合は、得られる繊維製品の撥水性及び風合の観点で、非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量に対して、1〜30質量%であることが好ましく、3〜25質量%であることがより好ましく、5〜20質量%であることがさらに好ましい。
【0106】
上記(C3)の単量体は、エステル部分のエステル結合に、無置換の炭素数1〜4の1価の鎖状炭化水素基が直接結合したメタクリル酸エステル単量体である。炭素数1〜4の鎖状炭化水素基としては、炭素数1〜2の直鎖炭化水素基、及び、炭素数3〜4の分岐炭化水素基が好ましい。炭素数1〜4の鎖状炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。具体的な化合物としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチルが挙げられる。これら単量体は、1種を単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも得られる繊維製品の耐久撥水性を向上できる点で、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸t−ブチルが好ましく、メタクリル酸メチルがより好ましい。
【0107】
本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーにおける上記(C3)の単量体の構成割合は、得られる繊維製品の撥水性及び風合の観点で非フッ素系アクリル系ポリマーを構成する単量体成分の全量に対して、1〜30質量%であることが好ましく、3〜25質量%であることがより好ましく、5〜20質量%であることがさらに好ましい。
【0108】
上記(C4)の単量体は、1分子内に3以上の重合性不飽和基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体である。本実施形態では、上記一般式(C−4)におけるTが(メタ)アクリロイルオキシ基である、1分子内に3以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する多官能の(メタ)アクリル酸エステル単量体が好ましい。式(C−4)において、p個のTは同一であっても異なっていてもよい。具体的な化合物としては、例えば、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート等が挙げられる。これら単量体は、1種を単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも得られる繊維製品の耐久撥水性を向上できる点で、テトラメチロールメタンテトラアクリレート及びエトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレートがより好ましい。
【0109】
本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーにおける上記(C4)の単量体の構成割合は、得られる繊維製品の撥水性及び風合の観点で、非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量に対して、1〜30質量%であることが好ましく、3〜25質量%であることがより好ましく、5〜20質量%であることがさらに好ましい。
【0110】
本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーにおける上記の(C)成分の単量体の合計構成割合は、得られる繊維製品の撥水性及び風合の観点で、非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量に対して、1〜30質量%であることが好ましく、3〜25質量%であることがより好ましく、5〜20質量%であることがさらに好ましい。
【0111】
本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーは、(A)成分、(E)成分、(B)成分及び(C)成分の他に、これらと共重合可能な単官能の単量体(D)を、本発明の効果を損なわない範囲において含有することができる。
【0112】
上記(D)の単量体としては、例えば、(メタ)アクリロイルモルホリン、(A)成分及び(C)成分以外の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、フマル酸エステル、マレイン酸エステル、フマル酸、マレイン酸、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、エチレン、スチレン等のフッ素を含まない(E)成分以外のビニル系単量体等が挙げられる。なお、(A)成分及び(C)成分以外の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルは、炭化水素基に、ビニル基、ヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基及びイソシアネート基、ブロックドイソシアネート基等の置換基を有していてもよく、第4級アンモニウム基等の架橋剤と反応可能な基以外の置換基を有していてもよく、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、又はウレタン結合等を有していてもよい。(A)成分及び(C)成分以外の(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でも得られる繊維製品のコーティングに対する剥離強度を向上できる点で、(メタ)アクリロイルモルホリンがより好ましい。
【0113】
本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーにおける上記(D)の単量体の構成割合は、得られる繊維製品の撥水性及び風合の観点で非フッ素系アクリル系ポリマーを構成する単量体成分の全量に対して、10質量%以下であることが好ましい。
【0114】
本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーは、架橋剤と反応可能なヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基及びイソシアネート基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有することが、得られる繊維製品の耐久撥水性を向上させることから好ましい。イソシアネート基は、ブロック化剤で保護されたブロックドイソシアネート基を形成していてもよい。また、非フッ素系ポリマーは、アミノ基を有することが、得られる繊維製品の風合も向上させることから好ましい。
【0115】
本実施形態の非フッ素系アクリル系ポリマーは、ラジカル重合法により製造することができる。また、このラジカル重合法の中でも、得られる撥水剤の性能及び環境の面から乳化重合法又は分散重合法で重合することが好ましい。
【0116】
例えば、媒体中で、上記(E)成分の存在下、上記一般式(A−1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)を乳化重合又は分散重合させることにより非フッ素系アクリル系ポリマーを得ることができる。より具体的には、例えば、媒体中に(A)成分、(E)成分、及び必要に応じて上記(B)成分、上記(C)成分及び上記(D)成分、並びに乳化補助剤又は分散補助剤を加え、この混合液を乳化又は分散させて、乳化物又は分散物を得る。得られた乳化物又は分散物に、重合開始剤を加えることにより、重合反応が開始され、単量体及び反応性乳化剤を重合させることができる。なお、上述した混合液を乳化又は分散させる手段としては、ホモミキサー、高圧乳化機又は超音波等が挙げられる。
【0117】
上記乳化補助剤又は分散補助剤等(以下、「乳化補助剤等」ともいう)としては、上記反応性乳化剤(B)以外のノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上を使用することができる。乳化補助剤等の含有量は、全単量体100質量部に対して、0.5〜30質量部であることが好ましく、1〜20質量部であることがより好ましく、1〜10質量部であることがさらに好ましい。上記乳化補助剤等の含有量が0.5質量部未満であると、乳化補助剤等の含有量が上記範囲にある場合と比較して、混合液の分散安定性が低下する傾向にあり、乳化補助剤等の含有量が30質量部を超えると、乳化補助剤等の含有量が上記範囲にある場合と比較して、得られる非フッ素系アクリル系ポリマーの撥水性が低下する傾向にある。
【0118】
乳化重合又は分散重合の媒体としては、水が好ましく、必要に応じて水と有機溶剤とを混合してもよい。このときの有機溶剤としては、特に制限はないが、例えば、メタノールやエタノールなどのアルコール類、酢酸エチルなどのエステル類、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテルなどのエーテル類等、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類が挙げられる。なお、水と有機溶剤の比率は特に限定されるものではない。
【0119】
上記重合開始剤としては、アゾ系、過酸化物系、又はレドックス系等の公知の重合開始剤を適宜使用できる。重合開始剤の含有量は、全単量体100質量部に対して、重合開始剤0.01〜2質量部であることが好ましい。重合開始剤の含有量が上記範囲であると、重量平均分子量が10万以上である非フッ素系アクリル系ポリマーを効率よく製造することができる。
【0120】
また、重合反応において、分子量調整を目的として、ドデシルメルカプタン、t−ブチルアルコール等の連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤の含有量は、全単量体100質量部に対して0.3質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることがより好ましい。連鎖移動剤の含有量が0.1質量部を超えると、分子量の低下を招き、重量平均分子量が10万以上である非フッ素系アクリル系ポリマーを効率よく製造することが困難となる傾向にある。
【0121】
なお、分子量調整のためには重合禁止剤を使用してもよい。重合禁止剤の添加により所望の重量平均分子量を有する非フッ素系アクリル系ポリマーを容易に得ることができる。
【0122】
重合反応の温度は、20℃〜150℃が好ましい。温度が20℃未満であると、温度が上記範囲にある場合と比較して、重合が不十分になる傾向にあり、温度が150℃を超えると、反応熱の制御が困難になる場合がある。
【0123】
重合反応において、得られる非フッ素系アクリル系ポリマーの重量平均分子量は、上述した重合開始剤、連鎖移動剤、重合禁止剤の含有量の増減により調整することができ、105℃における溶融粘度は、多官能単量体の含有量、及び、重合開始剤の含有量の増減により調整することができる。なお、105℃における溶融粘度を低下させたい場合は、重合可能な官能基を2つ以上有する単量体の含有量を減らしたり、重合開始剤の含有量を増加させたりすればよい。
【0124】
乳化重合又は分散重合により得られるポリマー乳化液又は分散液における非フッ素系アクリル系ポリマーの含有量は、組成物の貯蔵安定性及びハンドリング性の観点から、乳化液又は分散液の全量に対して10〜50質量%とすることが好ましく、20〜40質量%とすることがより好ましい。
【0125】
シリコーン系撥水剤としては、例えば、ハイドロジェンシリコーン、アミノ変性シリコーン、ジメチルシリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーンなどが挙げられる。得られる繊維製品の撥水性が良好となる観点で、ハイドロジェンシリコーン、アミノ変性シリコーンが好ましい。
【0126】
ハイドロジェンシリコーンは、例えば、「ドライポン600E」(日華化学株式会社製、商品名)などの市販品を用いることができる。
【0127】
アミノ変性シリコーンは、例えば、「ネオシードSF−200」(日華化学株式会社製、商品名)などの市販品を用いることができる。
【0128】
デンドリマー系撥水剤としては、放射状でかつ中心から規則的に分枝した構造を持つ樹状高分子化合物を含むものが挙げられる。樹状高分子化合物は、撥水性を得るために末端の枝部分に直鎖状もしくは分岐状の炭素数1以上の炭化水素基を有するものを用いることができる。
【0129】
樹状高分子化合物としては、例えば、国際公開WO2014/160906号パンフレットに開示の「a polymer extender(増量剤)」を用いることができる。例えば、イソシアネート、ジイソシアネート、ポリイソシアネート又はその混合物から選択されるイソシアネート基含有化合物の少なくとも1種と、下記式(Ia)、(Ib)又は(Ic)から選択されるイソシアネート反応性化合物の少なくとも1種とを反応させて得られる化合物を用いることができる。
【0131】
上記式中、R
20はそれぞれ独立に、−H、R
21、−C(O)R
21、−(CH
2CH
2O)
n(CH(CH
3)CH
2O)
mR
22、又は、−(CH
2CH
2O)
n(CH(CH
3)CH
2O)
mC(O)R
21を示し、nはそれぞれ独立に0〜20であり、mはそれぞれ独立に0〜20であり、m+nは0を超える。また、R
21はそれぞれ独立に、1以上の不飽和結合を含んでいてもよい、直鎖又は分岐鎖の炭素数5〜29のアルキル基を示し、R
22はそれぞれ独立に、−H、又は1以上の不飽和結合を含んでいてもよい、直鎖又は分岐鎖の炭素数6〜30のアルキル基を示す。
【0132】
なお、式(Ia)においては、R
20又はR
22の少なくとも一つが−Hである。
【0133】
上記式中、R
23はそれぞれ独立に、−H、−R
21、−C(O)R
21、−(CH
2CH
2O(CH(CH
3)CH
2O)
mR
22、又は−(CH
2CH
2O(CH(CH
3)CH
2OC(O)R
21を示し、R
24はそれぞれ独立に、−H、又は1以上の不飽和結合を含んでいてもよい、直鎖又は分岐鎖の炭素数6〜30のアルキル基、−(CH
2CH
2O)
n’(CH(CH
3)CH
2O)
m’R
22、又は−(CH
2CH
2O(CH(CH
3)CH
2OC(O)R
21を示し、n’はそれぞれ独立に0〜20であり、m’はそれぞれ独立に0〜20であり、m+nは0を超える。
【0134】
なお、式(Ib)においては、R
22、R
23又はR
24の少なくとも一つが−Hである。
【0135】
上記式中、R
25は、−H、−C(O)R
21、又は−CH
2C[CH
2OR
20]
3を示す。なお、式(Ib)においては、R
25又はR
20の少なくとも一つが−Hである。
【0136】
イソシアネート基含有化合物としては、特に制限されず、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、及びこれらの二量体や三量体などの変性ポリイソシアネートが挙げられる。「DESMODUR N−100」(Bayer社製、商品名)、「デュラネートTHA−100」(旭化成株式会社製、商品名)、「デュラネート24A−100」(旭化成株式会社製、商品名)などの市販品を用いることができる。また、反応は、例えば、80℃で1時間以上行うことができる。
【0137】
官能基含有繊維に非フッ素系撥水剤を付与する工程は、例えば、上述した、アクリル系撥水剤、シリコーン系撥水剤及びデンドリマー系撥水剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む処理液で官能基含有繊維を処理する方法が挙げられる。
【0138】
官能基含有繊維を上記処理液で処理する方法としては、例えば、浸漬、噴霧、塗布等の加工方法が挙げられる。また、処理液が水を含有する場合は、官能基含有繊維に付着させた後に水を除去するために乾燥させることが好ましい。
【0139】
処理液には必要に応じて添加剤等を加えることも可能である。添加剤としては、他の撥水剤、架橋剤、抗菌防臭剤、難燃剤、帯電防止剤、柔軟剤、防皺剤等が挙げられる。
【0140】
非フッ素系撥水剤の官能基含有繊維への付着量は、要求される撥水性の度合いに応じて適宜調整可能であるが、官能基含有繊維100gに対して、処理液に含まれる非フッ素系撥水剤(例えば、非フッ素系アクリル系ポリマー)の付着量が0.01〜10gとなるように調整することが好ましく、0.05〜5gとなるように調整することがより好ましい。非フッ素系撥水剤の付着量が0.01g未満であると、非フッ素系撥水剤の付着量が上記範囲にある場合と比較して、繊維製品が十分な撥水性を発揮できない傾向にあり、10gを超えると、非フッ素系撥水剤の付着量が上記範囲にある場合と比較して、繊維製品の風合が粗硬になる傾向にある。
【0141】
本実施形態の非フッ素系撥水剤を官能基含有繊維に付与した後は、適宜熱処理することが好ましい。温度条件は特に制限はないが、100〜130℃の温和な条件により繊維製品に十分良好な撥水性を発現させることができる。温度条件は130℃以上(好ましくは200℃まで)の高温処理であってもよいが、かかる場合は、フッ素系撥水剤を用いた従来の場合よりも処理時間を短縮することが可能である。したがって、本実施形態の撥水性繊維製品の製造方法によれば、熱による繊維製品の変質が抑えられ、撥水処理時の繊維製品の風合が柔軟となり、しかも温和な熱処理条件、すなわち低温キュア条件下で繊維製品に十分な撥水性を付与できる。
【0142】
特に、耐久撥水性を向上させたい場合には、非フッ素系撥水剤が含まれる処理液で官能基含有繊維を処理する上述の工程と、メチロールメラミン、イソシアネート基又はブロックドイソシアネート基を1個以上有する化合物に代表される架橋剤を、官能基含有繊維に付着させてこれを加熱する工程とを含む方法によって、繊維製品を撥水加工することが好ましい。更に、耐久撥水性をより向上させたい場合には、処理液が、上述の架橋剤と反応可能な官能基を有する単量体を共重合した非フッ素系ポリマーを含むことが好ましい。
【0143】
イソシアネート基を1個以上有する化合物としては、ブチルイソシアネート、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ナフタレンイソシアネートなどのモノイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートなどのジイソシアネート及びこれらのイソシアヌレート環である三量体、トリメチロールプロパンアダクト体が挙げられる。また、ブロックドイソシアネート基を1個以上有する化合物としては、上記イソシアネート基を有する化合物をブロック化剤でイソシアネート基を保護した化合物が挙げられる。このとき用いられるブロック化剤としては、2級又は3級アルコール類、活性メチレン化合物、フェノール類、オキシム類、ラクタム類などの有機系ブロック化剤や、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウムなどの重亜硫酸塩が挙げられる。上述の架橋剤は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせてもよい。
【0144】
架橋剤は、例えば、架橋剤を有機溶剤に溶解するか、水に乳化分散させた処理液に被処理物(繊維製品)を浸漬し、被処理物に付着した処理液を乾燥する方法により、被処理物に付着させることができる。そして、被処理物に付着した架橋剤を加熱することにより、架橋剤と被処理物及び非フッ素系撥水剤(特には、非フッ素系アクリル系ポリマー)との反応を進行させることができる。架橋剤の反応を十分に進行させてより効果的に洗濯耐久性を向上させるために、このときの加熱は110〜180℃で1〜5分間行うのがよい。架橋剤の付着及び加熱の工程は、上述の処理液で処理する工程と同時に行ってもよい。同時に行う場合、例えば、非フッ素系撥水剤及び架橋剤を含有する処理液を被処理物に付着させ、水を除去した後、更に、被処理物に付着している架橋剤を加熱する。撥水加工工程の簡素化や、熱量の削減、経済性を考慮した場合、処理液による処理工程と同時に行うことが好ましい。
【0145】
また、架橋剤を過度に使用すると風合を損ねるおそれがある。上記架橋剤は、被処理物(繊維製品)に対して0.1〜50質量%の量で用いることが好ましく、0.1〜10質量%の量で用いることが特に好ましい。
【0146】
こうして得られる本実施形態の撥水性繊維製品は、屋外で長期間使用した場合であっても、十分に撥水性を発揮することができ、また、上記撥水性繊維製品はフッ素系の化合物を使用していないことから、環境にやさしいものとすることができる。
【0147】
本実施形態の撥水性繊維製品は、所定の部分にコーティング加工を行うことができる。コーティング加工としては、スポーツ用途やアウトドア用途での透湿防水加工や防風加工等が挙げられる。加工方法としては、例えば、透湿防水加工の場合、ウレタン樹脂やアクリル樹脂等と媒体とを含むコーティング液を、撥水処理された繊維製品の片面に塗布し、乾燥することにより加工することができる。
【0148】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0149】
例えば、非フッ素系アクリル系ポリマーを製造する場合において、上記実施形態では、重合反応をラジカル重合により行っているが、紫外線、電子線、γ線のような電離性放射線などを照射する光重合により重合反応を行ってもよい。
【実施例】
【0150】
以下に、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0151】
<ポリマー分散液の調製>
表1及び2に示される組成(表中、数値は(g)を示す)を有する混合液を、以下に示す手順により重合して、ポリマー分散液を得た。
【0152】
(合成例1)
500mLフラスコに、アクリル酸ステアリル40g、塩化ビニル20g、ラテムルPD−430(花王株式会社製、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、HLB=14.4)2g、ラテムルPD−420(花王株式会社製、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、HLB=12.6)2g、ステアリルジメチルアミン塩酸塩3g、トリプロピレングリコール25g及び水207.70gを入れ、45℃にて混合攪拌し混合液とした。この混合液に超音波を照射して全単量体を乳化分散させた。次いで、アゾビス(イソブチルアミジン)二塩酸塩0.3gを混合液に添加し、窒素雰囲気下で60℃にて6時間ラジカル重合させて、非フッ素系撥水剤としてポリマー濃度21質量%の非フッ素系アクリル系ポリマー分散液を得た。
【0153】
(合成例2〜10)
表1及び2に記載の材料を用いた以外は、実施例1と同様に重合を行い、非フッ素系撥水剤として表1及び2に示すポリマー濃度の非フッ素系アクリル系ポリマー分散液をそれぞれ得た。
【0154】
(合成例11及び12)
表2に記載の材料を用いた以外は、実施例1と同様に重合を行い、フッ素系撥水剤として表2に示すポリマー濃度のフッ素系アクリル系ポリマー分散液をそれぞれ得た。
【0155】
なお、合成例1〜12で得られたポリマー分散液中の各ポリマーは、ガスクロマトグラフ(GC−15APTF、(株)島津製作所製)により、いずれも全単量体の98%以上が重合していることが確認された。
【0156】
表1及び2に示される材料の詳細は以下のとおりである。
ラテムルPD−420:「ラテムルPD−420」(花王株式会社製、商品名、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、HLB=12.6)
ラテムルPD−430:「ラテムルPD−430」(花王株式会社製、商品名、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、HLB=14.4)
カルダノール12.5EO:カルダノールのエチレンオキサイド12.5モル付加物(HLB=12.9)
カルダノール8.3EO:カルダノールのエチレンオキサイド8.3モル付加物(HLB=11.0)
ノイゲンXL−100:「ノイゲンXL−100」(第一工業製薬株式会社製、商品名、ポリオキシアルキレン分岐デシルエーテル、HLB=14.7)
ノイゲンXL−60:「ノイゲンXL−60」(第一工業製薬株式会社製、商品名、ポリオキシアルキレン分岐デシルエーテル、HLB=12.5)
【0157】
表中の「C8フルオロ基含有アクリレート」は、下記一般式(III):
【化15】
で表され、nの平均値が8となる混合物(なお、当該混合物にはnが6,8,10,12,14の化合物が混合されている)である。
【0158】
上記で得られたポリマー分散液及び以下に示す方法で得られたポリマーについて評価を行った。
【0159】
(ポリマーの物性評価)
合成例1〜10で得られたポリマー分散液50gにアセトン500mLを加えることによりポリマーと乳化剤を分離させポリマーを濾取し、このポリマーを25℃にて24時間減圧乾燥させた。得られたポリマーを以下のように評価した。結果を表1及び2に示す。
【0160】
(1)溶融粘度の測定方法
上記で得られた実施例及び比較例のポリマーについて、高架式フローテスターCFT−500((株)島津製作所製)を用い、ダイ(長さ10mm、直径1mm)を取り付けたシリンダー内にポリマーを1g入れ、105℃6分間保持し、プランジャーにより100kg・f/cm
2の荷重を加えて105℃における溶融粘度を測定した。
【0161】
(2)重量平均分子量の測定方法
上記で得られた実施例及び比較例のポリマーについて、GPC装置(東ソー(株)製GPC「HLC−8020」)により、カラム温度40℃、流量1.0ml/分の条件下で、溶離液にテトラヒドロフランを用いて測定し、標準ポリスチレン換算で重量平均分子量を測定した。なお、カラムは、東ソー(株)製の商品名TSK−GEL G5000HHR、G4000HHR、G3000HHRの3本を接続して装着した。
【0162】
【表1】
【0163】
【表2】
【0164】
(繊維材料の準備)
繊維材料として、染色を行ったナイロン100%布(表中、Nyで示す)、染色を行ったポリエステル100%(ポリエチレンテレフタレート製)布(表中、Petで示す)、及びカチオン可染ポリエステル(株式会社色染社製、染色試験用繊維「カチオン可染型ポリエステルニットスムース(加工糸)」)(表中、CD−PETで示す)を用意した。
【0165】
(前処理剤の準備)
下記の前処理剤1〜4を準備した。
【0166】
前処理剤1:下記の方法で合成したフェノールスルホン酸のホルマリン縮合物を含む水溶液。
反応容器に、フェノール70g、リン酸1.5g、及びホルムアルデヒド20gを入れ、95〜100℃で3時間反応し、次いで無水酢酸45gを30分かけて滴下した後に70℃まで冷却した。次に、90%硫酸25gを30分かけて滴下し、100℃で1時間反応した。反応後、水138.5gを加えて、フェノールスルホン酸のホルマリン縮合物の含有量が38質量%である前処理剤1を得た。
【0167】
前処理剤2:下記の方法で合成したスルホン化ビスフェノールSのホルマリン縮合物を含む水溶液。
反応容器に、ビスフェノールS 100g、及び無水酢酸45gを入れ、80℃に昇温した。次に、90%硫酸14.5gを30分かけて滴下した後、120℃で6時間反応した。次に、50℃まで冷却した後に、ホルムアルデヒド10.5gを添加し、100℃で6時間反応した。その後、70℃まで冷却し、水147gを加えて、スルホン化ビスフェノールSのホルマリン縮合物の含有量が40質量%である前処理剤2を得た。
【0168】
前処理剤3:分子量7000のポリアクリル酸ナトリウムを含む水溶液(日華化学株式会社製、商品名「ネオクリスタル770」、含有量43質量%)
【0169】
前処理剤4:ラウリルリン酸エステル(モノエステル及びジエステルの混合物)(東邦化学工業株式会社製、商品名「フォスファノールML−200」、含有量100%)
【0170】
<撥水性繊維製品の製造>
(実施例1)
染色を行ったナイロン100%布を、前処理剤1を含む処理浴(繊維への付与量が化合物濃度換算で2%o.w.f.)に浸漬し、浴比1:10、80℃で20分間の条件で処理した。処理後、130℃で2分間乾燥し、官能基含有繊維を得た。
【0171】
上記で得られた官能基含有繊維を、合成例1の非フッ素系撥水剤をポリマーの含有量が3質量%となるように水で希釈した処理液に浸漬処理(ピックアップ率60質量%)した後、130℃で2分間乾燥し、撥水性繊維製品を得た。
【0172】
(実施例2〜12、14〜35、比較例3〜6)
表3〜8に示される繊維材料、前処理剤、化合物濃度及び撥水剤を用い、実施例1と同様にして撥水性繊維製品を得た。なお、実施例32〜35における撥水剤は下記のものを用いた。
シリコーン系撥水剤1:「ドライポン600E」(日華化学株式会社製、商品名、ハイドロジェンシリコーン含有量53質量%)
シリコーン系撥水剤2:「ネオシードSF−200」(日華化学株式会社製、商品名、アミノ変性シリコーン含有量30質量%)
【0173】
(実施例13)
官能基含有繊維としてCD−PETを用いたこと以外は、実施例1と同様にして撥水性繊維製品を得た。
【0174】
(比較例1)
繊維材料の前処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして撥水性繊維製品を得た。
【0175】
(比較例2)
繊維材料として染色を行ったポリエステル100%(ポリエチレンテレフタレート製)布を用いたこと以外は、比較例1と同様にして撥水性繊維製品を得た。
【0176】
<各種評価>
実施例及び比較例の撥水性繊維製品の製造について下記の各種評価を行った。
【0177】
[繊維表面のゼータ電位測定]
官能基含有繊維の表面のゼータ電位を、ゼータ電位・粒径測定システムELSZ−1000ZS(大塚電子株式会社製)にて測定した。
【0178】
[繊維製品の撥水性評価]
JIS L 1092(2009)のスプレー法に準じてシャワー水温を20℃として試験をした。撥水性の結果は目視にて下記の等級で評価した。なお、特性がわずかに良好な場合は等級に「+」をつけ、特性がわずかに劣る場合は等級に「−」をつけた。
撥水性:状態
5:表面に付着湿潤のないもの
4:表面にわずかに付着湿潤を示すもの
3:表面に部分的湿潤を示すもの
2:表面に湿潤を示すもの
1:表面全体に湿潤を示すもの
0:表裏両面が完全に湿潤を示すもの
【0179】
[繊維製品の風合評価]
風合は、得られた繊維製品を、更に170℃で30秒間熱処理したものを用いて評価した。結果はハンドリングにて下記に示す5段階で評価した。
1:硬い 〜 5:柔らかい
【0180】
[処理浴安定性の試験]
撥水加工を行う処理浴の安定性について、以下の手順で評価した。前処理後の繊維材料(実施例13はCD−PET、比較例1及び2は前処理していない繊維材料)5g、撥水剤12g、NKアシストFU(架橋剤、日華化学株式会社製)1gを200mLとなるようにイオン交換水で希釈し、その希釈液を40℃で12時間放置した。その後、繊維材料を取り除き、40℃を維持したまま、TKホモミキサーにて5000回転/分の回転数で10分間攪拌した後、黒く染色した綿布にてろ過し、綿布表面上に残った凝集物を目視判定した。
5;凝集物無し
4:わずかに凝集物有り
3:全体的にうすく白化
2:全体的に白く凝集物がのこる
1:ろ過不能
【0181】
[耐久撥水性評価]
JIS L 1092(2009)のスプレー法に準じてシャワー水温を20℃として試験をした。本試験においては、官能基含有繊維を、ポリマーの含有量が3質量%、UNIKA RESIN 380−K(架橋剤、ユニオン化学工業株式会社製、トリメチロールメラミン樹脂)の含有量が0.3質量%及びUNIKA CATALYST 3−P(界面活性剤、ユニオン化学工業株式会社製、アミノアルコール塩酸塩)の含有量が0.2質量%となるように、撥水剤及び上記各薬剤を水で希釈した処理液に浸漬処理(ピックアップ率60質量%)した後、130℃で2分間乾燥し、更に繊維材料がPet及びCD−PETである場合、170℃で60秒間、Nyである場合160℃で60秒間熱処理して得られた布(L−0)、及びJIS L 0217(1995)の103法による洗濯を10回(L−10)行った後の布の撥水性を上記撥水性評価方法と同様に評価した。
【0182】
【表3】
【0183】
【表4】
【0184】
【表5】
【0185】
【表6】
【0186】
【表7】
【0187】
【表8】
【0188】
本発明に係る官能基含有繊維に、本発明に係る特定の非フッ素系撥水剤を用いて撥水加工した実施例1〜35では、本発明に係る官能基含有繊維を用いていない比較例1及び2に比較して優れた撥水性及び耐久撥水性を有する繊維製品が得られることが確認された。
【0189】
また、本発明に係る官能基含有繊維に、反応性乳化剤を用いて得られる非フッ素系アクリル系ポリマーが含まれるアクリル系撥水剤で撥水加工した実施例1〜25、28〜31では、繊維製品の撥水性及び耐久撥水性、並びに処理浴安定性を高水準で満足させることができることが確認された。
【0190】
なお、反応性乳化剤を用いて得られるフッ素系アクリル系ポリマーが含まれるフッ素系撥水剤を用いた比較例3及び4では、処理浴安定性が実施例1及び2に比較して劣る結果となった。これは、フッ素系撥水剤が凝集しやすくなっていることに起因するものと考えられる。