【解決手段】ガラス繊維織物と、ガラス繊維織物に含浸される光硬化樹脂を有する不燃性シートである。光硬化樹脂は、少なくとも基本樹脂として、主鎖中に臭素が付加されたビニルエステルを含有する。光硬化樹脂に対して、リン濃度が0.6重量%以上となるようにリン酸エステルを添加することで、不燃性シートの不燃性がさらに向上する。また、光硬化樹脂に、アルキルフェノン系光重合開始剤とアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の混合触媒を添加することで、光硬化樹脂をブラックライトの光にて硬化させることができる。
【背景技術】
【0002】
火災による被害の低減の観点から建築基準法及び建築基準法施行令では、「内装制限」という規定で、多くの人が集まる劇場、病院及び百貨店等の大規模な建築物では、内装(壁や天井)に不燃・準不燃・難燃等防火築材を使うことが義務付けられている。
【0003】
火災対応の代表例として、オフィスビルやショッピングモール等の建築物には、建築基準法に則って、排煙設備や遮煙設備のひとつとして防煙垂壁や遮煙スクリーンが設置される。
【0004】
防煙垂壁は、天井から垂れさがっている壁で、火災時に発生する一酸化炭素・有毒ガス等の煙が、廊下や上層階へ流動することを一時的に遮断し、避難に必要な時間を確保する目的で、床面積が500m
2以下になるように設置される。防煙垂壁は、視野を妨げず、不燃材料という観点から、通常は透明な板ガラスにより形成される。
【0005】
建築物には、地震の心配が欠かせない。特に、日本は、面積は地球の陸地の0.3%以下であるが、世界で発生する地震の10%が日本で発生し、その内マグニチュード6以上の地震の約20%が日本で発生しているとされている。
【0006】
防煙垂壁は天井に設置されるので、地震の観点から見ると1枚あたり十数kgのガラスが天井に下がっていることは大きな脅威となる。例えば、震度5弱の地震では、防煙垂壁が落下する事例が多数報告されている。万が一、落下した防煙垂壁が割れて破片が散乱すると、人的被害だけでなく商品や生産設備にも大きな被害が出るおそれがあり、火災と地震の両方に対応するために、不燃・透明性を有し、軽量で割れにくい製品が求められている。
【0007】
なお、遮煙スクリーンは、エレベータ前等の天井部に設けられた格納箱に、不燃性に優れ、火災の時にも燃えず、また地震を受けても割れないポリイミド製フィルムの巻体を格納し、災害時にポリイミド系フィルムを引き出すようになっている。ポリイミド系フィルム自体は透明であるが、黄色味を帯びているため、更なる透明性に優れた製品が望まれている。
【0008】
現在、不燃性と視野を妨げない透明性の両観点から防煙垂壁として、従来使用されている板ガラスに替わってガラス繊維織物に透明な樹脂を含浸して硬化させた不燃性シートが耐震対策品として実用化されている(例えば、特許文献1,2)。
【0009】
この不燃性シートは、不燃性を実現するため、ガラス繊維織物は1枚以上を使用し、含浸させる硬化樹脂との割合は、ガラス繊維織物が30〜70%、含浸硬化樹脂が70〜30%の範囲で、シート1m
2当たりの含浸硬化樹脂層の重量は、15〜500gの範囲である。
【0010】
これらの条件を満たすことで、国土交通省が規定している輻射電気ヒータからシートの表面に50kW/m
2の輻射熱を照射する発熱性試験で、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m
2以下、且つ、加熱開始後20分間、最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m
2を超えないという不燃評価基準を満たす不燃性シートを得ることができるとされている。
【0011】
一方、透明性を実現するために、ガラス繊維織物を構成するガラス組成物と含浸硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以下で、アッベ数の差が30以下にならなければ、透明性の尺度である全光線透過率が80%以上、ヘーズが20%以下を得ることができないとされている。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の不燃性シート及び不燃性シートの製造方法について、図を参照して詳細に説明する。本発明において、不燃性とは、少なくとも輻射電気ヒータから不燃性シート表面に50kW/m
2の輻射熱を照射した場合に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m
2以下であり、且つ加熱開始後20分間、最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m
2を超えない難燃性を有することをいう。また、透明とは、少なくとも全光線透過率が80%以上、ヘーズが20%以下であることをいう。
【0025】
図1に示すように、発明者らは、鋭意研究の結果、ガラス繊維織物と、ガラス繊維織物に含浸される含浸硬化樹脂とを有する不燃性シートにおいて、一般的な樹脂を用いた場合、ガラス繊維含有量がどのような値であれ樹脂重量が200g/m
2以上になると不燃認定を取得することができなかった課題を解決し、本発明の完成に至ったものである。不燃性シートを構成する樹脂重量が少ないと、不燃性シートの透明性を確保させるために、不燃性シート内に厚さ0.1mmのガラス繊維織物を1枚程度しか入れることができない。その結果、不燃性シートは、薄く、硬さがないことにより、防煙垂壁として製造する際の作業性が悪く、板ガラスと比較して透明性が劣るおそれがある。
【0026】
そこで、本発明の不燃性シートは、ガラス繊維織物と、ガラス繊維織物に含浸される光硬化樹脂とを有する不燃性シートにおいて、光硬化樹脂として臭素化ビニルエステルを含有する組成物を硬化させて得られる光硬化樹脂を用いることで、光硬化樹脂の不燃性を向上させるものである。
【0027】
一般的に、含浸硬化樹脂の重量を増加させると、不燃性シートの不燃性が低下することが知られている。そこで、本発明の不燃性シートは、光硬化樹脂の不燃性を向上させることで、不燃性シートに占める含浸硬化樹脂の重量を増加させ、不燃性シートの透明性を向上させることを特徴としている。
【0028】
また、本発明の不燃性シートは、含浸硬化樹脂として光硬化樹脂を用いることで、不燃性シートの製造設備をコンパクトにすることを特徴としている。
【0029】
以下、具体的な実施形態を挙げて本発明の不燃性シート及び不燃性シートの製造方法について説明する。
【0030】
本発明の不燃性シートは、ガラス繊維織物と、ガラス繊維織物に含浸される光硬化樹脂と、を有する。
【0031】
ガラス繊維織物は、溶融したガラスを糸状にしたガラス繊維(グラスファイバーともいう)を縦糸及び横糸として用いて織ったものである。ガラス繊維織物の織り方としては、平織、朱子織、綾織、斜子織、畦織等が挙げられる。
【0032】
ガラス繊維は、汎用の無アルカリガラス繊維(Eガラス)、耐酸性の含アルカリガラス繊維(Cガラス)、高強度・高弾性率ガラス繊維(Sガラス、Tガラス等)、耐アルカリ性ガラス繊維(ARガラス)等により形成される。ガラス繊維のフィラメント直径は、1〜20μmであることが好ましく、3〜12μmであることがさらに好ましい。
【0033】
ガラス繊維織物中の隣接する縦糸(及び横糸)の間の隙間は、0.5mm以下であることが好ましく、0.2mm以下であることがさらに好ましい。ガラス繊維織物の縦糸又は横糸の隙間を狭くすることで炎がガラス繊維織物を通過し難くなるからである。
【0034】
なお、ガラス繊維織物は、一種類のガラス繊維で織られていてもよいし、2種類以上のガラス繊維で織られていてもよい。また、ガラス繊維織物をシランカップリング材で処理することにより、ガラス繊維織物と光硬化樹脂とを良好に接合させることができ、不燃性シートの耐久性が向上する。
【0035】
光硬化樹脂は、少なくとも基本樹脂として、主鎖中に臭素が付加されたビニルエステルを含有した組成物を硬化させて得られる。基本樹脂中の臭素の付加量を30〜40重量%とすると、透明性と不燃性に優れた光硬化樹脂を得ることができる。光硬化樹脂は、例えば、メタクリレート、アクリレート(特に、エポキシアクリレート、アクリルアクリレート)、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、モノマー及び/又はオリゴマーの状態のものを使用すればよい。なお、臭素化ビニルエステルの具体的な構造式としては、以下のものを例示することができる。
【0038】
光硬化樹脂を形成する組成物(未硬化の光硬化樹脂)は、少なくとも主鎖中に臭素が付加されたビニルエステルを含有していればよいので、その他の光硬化樹脂を構成する分子等を含有していてもよい。例えば、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン系化合物;酢酸ビニル、N−ビニルピロリドン等のビニル化合物;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノ(メタ)アクリレート、テトラフロロプロピル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、モノアクリロキシコハク酸エチル、(メタ)アクリロキシエトキシジヒドロキシフォスフィンオキサイド、(メタ)アクリロイルモルホリン、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド等の単官能モノマー;1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニルジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールAジアクリレート、亜鉛ジ(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド等の2官能モノマー;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート等の3官能以上のモノマー;ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、脂環型のエポキシ(メタ)アクリレート、エポキシ化油(メタ)アクリレート、ポリエステル型、ポリエーテル型、スピラン環型のウレタン(メタ)アクリレート、不飽和ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリアクリル(メタ)アクリレート、ビニル/アクリルオリゴマー、ポリオール/ポリチオール、シリコン(メタ)アクリレート、ポリブタジエン(メタ)アクリレート、ポリスチリルエチル(メタ)アクリレート等のオリゴマーが挙げられる。
【0039】
その他の光硬化樹脂を構成する分子等を、反応希釈剤として用いる場合は、基本樹脂100重量部に対して、反応希釈剤を、5〜150重量部より好ましくは10〜50重量部の範囲で添加することで、不燃性及び透明性を損なうことなく、光硬化樹脂の硬化速度を調節することができる。
【0040】
光重合開始剤は、ラジカル型光重合開始剤であるアルキルフェノン型、アシルフォスフィンオキサイド型、チタノセン型及びオキシムエステル型からなる群から選択される少なくとも1種を用いる。特に、アルキルフェノン系光重合開始剤とアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の混合系の光重合開始剤を用いることで、波長370nm近傍に強い吸収のある光重合開始剤が形成され、ブラックライトからの紫外光により不燃性シートの硬化を行うことができる。
【0041】
具体的には、例えば、アルキルフェノン型としては、ベンジルケタール(2,2−ジメトキシ−1,2ジフェニルエタン−1−オン等)、α−ヒドロキシアセトフェノン(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン等)、α−アミノアセトフェノン(2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1等)が挙げられる。アシルフォスフィンオキサイド型としては、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド等が挙げられる。また、チタノセン型としては、ビス(η6−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム等が挙げられる。また、オキシムエステル型としては、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)]等が挙げられる。
【0042】
なお、光硬化樹脂に対する光重合開始剤の配合量は特に限定されず、光硬化樹脂と光重合開始剤の種類に応じて設定できるが、通常は光硬化樹脂100重量部に対して光重合開始剤0.1〜10重量部程度が好ましく、0.1〜5重量部程度がより好ましい。
【0043】
光硬化樹脂とガラス繊維織物との屈折率の差を0.02以下とすることで、不燃性シート中のガラス繊維織物を視認することが困難となり不燃性シートの透明性が向上する。そこで、光硬化樹脂の屈折率を屈折率調整剤により調整してもよい。屈折率調整剤は、例えば、ロジン、水素化ロジン、不均化ロジン等のロジン類、スチレン系樹脂、若しくはメチルスチレン系樹脂等が用いられる。屈折率調整剤は、例えば、光硬化樹脂100重量部に対して、30〜100重量部、より好ましくは40〜60重量部の範囲で添加すると、不燃性シートの不燃性を損なうことなく、光硬化樹脂の屈折率を調整することができる。
【0044】
光硬化樹脂には、さらに、難燃補助剤、紫外線吸収剤、ラジカル捕捉剤が添加される。また、必要に応じて、充填剤や帯電防止剤等の添加物が添加される。充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、タルク等が挙げられ、帯電防止剤としては、界面活性剤等が挙げられる。
【0045】
難燃補助剤は、ハロゲン系難燃補助剤と、非ハロゲン系難燃補助剤があるが、非ハロゲン系難燃補助剤が好ましく、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート等の有機リン系のものが特に好ましい。また、リン酸エステル中のリン濃度は、5〜10%の範囲であることが好ましい。
【0046】
紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、トリアジン系、ベンゾフェノン系、シュウ酸アニリド系の紫外線吸収剤が用いられる。
【0047】
ラジカル捕捉剤としては、ヒンダードアミン系、ベンゾエート系のラジカル捕捉剤が用いられる。
【0048】
これら、紫外線吸収剤やラジカル捕捉剤は、2種類以上併用してもよい。特に、ヒンダードアミン系のラジカル捕捉剤は、紫外線吸収剤と高い相乗効果を示すため、これらを同時に用いることがより好ましい。
[実施例]
具体的な実施例を挙げて、本発明の不燃性シートについてより詳細に説明する。
【0049】
実施例では、ガラス繊維織物として、無アルカリガラス繊維(Eガラス)から形成されたガラス繊維を平織したガラス繊維織物(旭化成 ♯2116)を用いた。ガラス繊維織物は、予めシランカップリング剤により表面処理を行った。表面処理を行うことで、ガラス繊維織物と光硬化樹脂との接合が良好となり、不燃性シートの耐久性が向上する。
【0050】
ガラス繊維織物に含浸させる光硬化樹脂は、基本樹脂としてEO変性テトラブロモビスフェノールAジメタクリレート(日本ユピカ製ネオポール8197 臭素含量38%)を用いた。なお、ネオポール8197には、反応希釈剤として、基本樹脂100重量部に対して45.0重量部のスチレンが反応希釈剤として添加されている。
【0051】
この基本樹脂に、反応性希釈剤と屈折率調整剤としてネオペンチルグリコールメタクリレート(NPG)、難燃補助剤であるトリクレジルホスフェート(TCP、第八化学製)、光硬化触媒であるアルキルフェノン系光重合開始剤とアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の混合系触媒を表1に示す配合比で混合した。表1では、リンは、TCP中に8.5%含まれるものとしてリン濃度を算出している。
【0053】
なお、表1で得られた光硬化樹脂には、紫外線吸収剤であるヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤を光硬化樹脂100重量部に対して0.2重量部添加し、ラジカル捕捉剤であるヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤を光硬化樹脂100重量部に対して1.0重量部添加した。
[製造方法]
図2を参照して、本発明の実施形態に係る不燃シートの製造方法について説明する。
【0054】
まず、ポリエチレンテレフタレートシート1(以下、PETシートと称する)上に、未硬化の光硬化樹脂2を塗布し、ドクターブレード3で余分な光硬化樹脂2を掻き出した。
【0055】
次に、塗布した光硬化樹脂2上にガラス繊維織物4を載置し、さらにガラス繊維織物4上に未硬化の光硬化樹脂5を塗布して、光硬化樹脂2,5をガラス繊維織物4に含浸させた。ガラス繊維織物4上に塗布された光硬化樹脂5上にPETシート6を載せて、光硬化樹脂2,5が含浸されたガラス繊維織物4を2枚のPETシート1,6で挟んだ積層シートを得た。
【0056】
この積層シートの厚みを厚み調整ロール7で調整した後、ブラックライト8から紫外光を照射して光硬化樹脂2,5を硬化させた。
【0057】
表2に示すように、ガラス繊維織物重量と光硬化樹脂重量の異なる3つの不燃シートを作製して、不燃性及び透明性の評価を行った。実施例1では、0.1mmと0.05mmのガラス繊維織物を1枚ずつ用いて不燃性シートを作成し、実施例2,3では、0.1mmまたは0.05mmのガラス繊維織物を1枚用いて不燃性シートを作成した。ガラス繊維含有率は、それぞれ、実施例1(28.3%)、実施例2(27.8%)、実施例3(26.3%)であった。
【0059】
[評価方法]
不燃性シートの不燃性の評価は、輻射電気ヒータから不燃性シート表面に、50kW/m
2の輻射熱を照射する発熱試験によって評価した。評価基準としては、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m
2以下であり、且つ加熱開始後20分間、最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m
2を超えない場合を、不燃性が良好であるとした。
【0060】
不燃性シートの透明性の評価は、全光線透過率によって評価した。全光線透過率は、日本工業規格(JIS K 7361−1)にしたがって、試験片の平行入射光束に対する全透過光束の割合として算出し、全光線透過率が80%以上の場合を、透明性が優れていると評価した。実施例1〜3の不燃性評価の結果を表3に示す。なお、表において、発熱速度が、200kW/m
2を超えない場合は「超過無し」と記載し、200kW/m
2を超えた場合は、「超過時間」を記載している。
【0062】
表3から明らかなように、実施例1〜3の不燃性シートは、それぞれ不燃性が良好であった。また、実施例1〜3の不燃性シートはすべて全光線透過率が90%以上であった。
【0063】
上記の実施例1〜3を含めた不燃性シートの物性をまとめた図を
図3に示す。
図3に示すように、ガラス繊維含有率が、70〜20重量%の範囲で、不燃性・透明性に優れた不燃性シートを得ることができた。ガラス繊維含有量が70重量%を超えると、良好な透明性を有する不燃性シートが得られない場合があり、ガラス繊維含有量が20重量%より低い場合、得られた不燃性シートに反りが発生する場合があり、製品として製造する際の作業性が悪化するおそれがある。特に、実施例1〜3に示したように、ガラス繊維含有量が30重量%以下であっても、不燃性に優れるとともに、透明性に優れた(全光線透過率が90%以上)不燃性シートを得ることができた。しかも、樹脂重量が400g/m
2付近の不燃性シートであっても不燃性シートが不燃性を有するので、割れにくく剛性の強い不燃性シートを得ることができる。
[不燃性シートの不燃性とリン濃度との関係]
不燃性シート中のリン濃度と不燃性シートの不燃性との関係を調べるために、表1に示した光硬化樹脂において、リンの濃度を変化させて、光硬化樹脂の不燃性の評価を行った。まず、リン濃度が0.4重量%,0.6重量%,0.8重量%,1.0重量%,1.5重量%の光硬化樹脂の試料を作成し、不燃性の評価を行った。不燃性の評価は、不燃認定試験で採用されているコーンカロリーメータを用い、各試料の総発熱量(MJ/m
2)で不燃性の評価を行った。評価結果を
図4に示す。
【0064】
図4に示すように、リン濃度の割合の増加にしたがって光硬化樹脂の総発熱量が低下している。不燃認定試験では、総発熱量が8MJ/m
2以下の場合に、不燃性が良好であると判断されるので、リン濃度が光硬化樹脂の総重量に対して0.6重量%以上となるように難燃補助剤を添加することで光硬化樹脂の不燃性を不燃認定基準以上とすることができる。
[不燃性シートに添加する紫外線吸収剤とラジカル捕捉剤の効果]
光硬化樹脂に、紫外線吸収剤とラジカル捕捉剤を添加しない試料と、光硬化樹脂に紫外線吸収剤とラジカル捕捉剤のいずれか一方を添加した試料と、光硬化樹脂に紫外線吸収剤とラジカル捕捉剤とを添加した試料とを作成し、キセノンランプ(180W/cm
2)で劣化試験を行った結果を
図5に示す。紫外線吸収剤は、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤を用い、光硬化樹脂100重量部に対して0.2重量部添加した。ラジカル捕捉剤は、ヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤を用い、光硬化樹脂100重量部に対して1.0重量部添加した。
【0065】
図5から明らかなように、紫外線吸収剤、ラジカル捕捉剤のいずれかを添加することで、劣化による不燃性シートの透明性の低下を抑制することができる。特に、光硬化樹脂に紫外線吸収剤とラジカル捕捉剤とを添加した試料では、劣化による色差の変化が著しく抑制されており、不燃性シートの透明性が維持されることがわかる。
【0066】
光硬化樹脂として、主鎖中に臭素が付加されたビニルエステルを用いた場合、臭素ラジカルが遊離することにより、不燃性シートの透明性が時間の経過とともに損なわれるおそれがある。これに対して、紫外線吸収剤とラジカル捕捉剤とを添加することで、臭素ラジカルの発生と、発生した臭素ラジカルによる不燃性シートの透明度の劣化抑制とを行うことができる。
【0067】
以上のように、本発明の不燃性シートは、不燃性シートに対するガラス繊維織物の重量を20〜70重量%とし、不燃性シートに対する光硬化樹脂重量を80〜30重量%とすることで、国土交通省の不燃性試験で不燃材料と認定される不燃性を有し、全光線透過率が90%以上である透明性に優れた不燃性シートを得ることができる。
【0068】
また、本発明の不燃性シートは、光硬化樹脂の基本樹脂として主鎖中に臭素が30〜40重量%付加されたビニルエステルを用いることで、光硬化樹脂の不燃性が向上し、ガラス繊維織物の含有量を低下させても不燃シートの不燃性を向上させることができる。
【0069】
また、本発明の不燃性シートは、光硬化樹脂にリンを含有する難燃補助剤を添加することで光硬化樹脂の不燃性が向上し、不燃性シートの樹脂重量を増加させた場合においても不燃性シートの不燃性が損なわれない。その結果、不燃性シートの樹脂重量の範囲を100〜400g/m
2とした場合でも、良好な不燃性を得ることができ、不燃性・透明性に優れた不燃性シートを得ることができる。
【0070】
また、本発明の不燃性シートは、アルキルフェノン系光重合開始剤とアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の混合系の光重合開始剤を用いることで、370〜380nmの波長により光硬化樹脂を硬化させることができる。その結果、光硬化樹脂を硬化させる光源としてブラックライト(波長:315nm〜400nm、ピーク370nm〜380nm付近)を用いることができる。ブラックライトを用いることで、不燃性シートの製造装置がコンパクトとなるとともに、光硬化樹脂を素早く硬化させることができる。光硬化樹脂をブラックライトで硬化させる製造方法によれば、安全でプリプレグを使用せず、1工程で2枚以上のガラス繊維織物に含浸された光硬化樹脂を光硬化させることもできるので、厚物の不燃性シートを効率的に製造することができる。
【0071】
また、本発明の不燃性シートは、紫外線吸収剤及びラジカル捕捉剤を添加することで、劣化による不燃性シートの透明性の低下を抑制することができる。特に、光硬化樹脂にヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤とヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤を添加することで、不燃性シートの耐候性や耐光性が向上する。その結果、不燃性シートの透明性を維持することができる。
【0072】
本発明の不燃性シートは、無色透明のシートであり、落下して割れるおそれが低減されているので、視界を損なわない、安全な防煙垂壁や遮煙スクリーンを形成することができる。また、不燃性シート全体の樹脂重量を増加させても不燃性を維持することができるので、ガラス繊維織物の割合を減少させた不燃性シートの剛性を増加させることができ、不燃性シートの製造や取扱いが容易となる。
【0073】
不燃性シートを製造する際に、ガラス繊維織物に含浸させる樹脂に対して熱をかけて硬化させる場合、樹脂が酸化して透明な不燃性シートを製造することが困難となる場合がある。また、樹脂を硬化させるために不燃性シートを加温する装置は大掛かりなものとなってしまう場合がある。
【0074】
これに対して、本発明の不燃性シートの製造方法では、ブラックライトを用いて光硬化樹脂を硬化させるので、不燃性シートを硬化させる装置がコンパクトになる。また、光硬化樹脂は、熱硬化樹脂と比較して硬化する速度が速いので不燃性シートの生産効率が向上する。また、光硬化樹脂をPETシートで挟んだ後に、光硬化樹脂を硬化させることで、PETシートが酸素を遮断するので、酸素による光硬化樹脂の硬化阻害を抑制することができる。その結果、透明性に優れた不燃性シートを効率よく製造することができる。
【0075】
つまり、本発明の不燃性シートの製造方法は、ブラックライトを用いて光硬化樹脂を硬化させることで、不燃性シートの製造装置がコンパクトとなり、不燃性シートの生産性が向上する。
【0076】
以上、本発明の不燃性シート及び不燃性シートの製造方法について、具体例を示して詳細に説明したが、本発明の不燃性シート及び不燃性シートの製造方法は、上述した実施形態に限らず、本発明の特徴を損なわない範囲で適宜設計変更が可能であり、そのように変更された形態も本発明に技術的範囲に属する。
【0077】
例えば、本発明の光硬化樹脂は、ブラックライトの紫外光(近紫外)で硬化させることに限定されるものではなく、製造コストを考慮しない場合には、波長の短い紫外光や可視光で硬化させてもよい。