【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成27年12月5日に第58回日本大学工学部学術研究報告会にて発表、平成28年2月17日に平成27年度建築学専攻修士学位論文発表会にて発表、平成28年3月25日に平成27年度修士論文要旨集にて公開
【解決手段】鉄筋3が内部に配設されたコンクリート基部2に、外壁面1aに開口部4aを有する中空路4を形成する中空路形成工程と、上記中空路4に撥水性含浸材を流入させると共に加圧状態で一定時間上記撥水性含浸材を保持することにより上記中空路4の周囲に撥水層2aを形成する撥水層形成工程とを有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような外壁面に形成された撥水層は、表面が太陽光や雨等の外的な環境変化に直接晒されることとなる。このため、撥水層は、紫外線による劣化やシラン系撥水剤の流出により、長期的に保持すること難しく、シラン系撥水剤の再塗布等のメンテナンスが必要となる。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、コンクリート構造物の施工方法であって、撥水層を長期的に保持することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、コンクリート構造物の施工方法に係る第1の手段として、 鉄筋が内部に配設されたコンクリートに、外壁面に開口部を有する中空路を形成する中空路形成工程と、上記中空路に撥水性含浸材を注入すると共に加圧状態で一定時間上記撥水性含浸材を保持することにより上記中空路の周囲に撥水層を形成する撥水層形成工程とを有する、という構成を採用する。
【0007】
コンクリート構造物の施工方法に係る第2の手段として、上記第1の手段において、上記中空路は、上記鉄筋に沿って形成される、という構成を採用する。
【0008】
コンクリート構造物の施工方法に係る第3の手段として、上記第2の手段において、上記中空路は、上記鉄筋よりも外壁面側に形成される、という構成を採用する。
【0009】
コンクリート構造物に係る第1の手段として、鉄筋が内部に配設されたコンクリート構造物であって、外壁面に開口部を有する中空路と、上記中空路の周囲に形成された撥水層とを有する、という構成を採用する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、撥水性含浸材は、コンクリート構造物の外壁面に開口部を有する中空路に注入され、さらに加圧状態で保持される。これにより、撥水性含浸材は、中空路の内壁から周囲へと含浸し、中空路の内壁の周囲に撥水層を形成することができる。このような撥水層は、外部に露出する部分が少ないため、外的環境の影響を受け難く、長期的に保持される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明に係るコンクリート構造物の施工方法及びコンクリート構造物の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
図1は、本実施形態に係るコンクリート構造物1の一部を示す模式断面図である。
【0013】
図1は、本実施形態に係るコンクリート構造物1の一部を示す模式断面図である。本実施形態に係るコンクリート構造物1は、コンクリート基部2と、鉄筋3と、中空路4とを有する鉄筋コンクリート構造物である。また、コンクリート構造物1は、外部に露出している外壁面1a、1b、1cを有している。このようなコンクリート構造物1には、例えば、梁、柱等の建築構造物や、ダム等の土木構造物が好適である。
【0014】
コンクリート基部2は、型枠にコンクリートが打設されることにより形成されており、撥水層2aを有している。撥水層2aは、
図1に示すように、中空路4を中心として、鉄筋3を含む円柱状の領域に形成されている。このような撥水層2aは、中空路4の内壁面からシラン系撥水剤(撥水性含浸材)を含浸させることにより形成されている。シラン系撥水剤は、コンクリートに含浸することにより、含浸した範囲を疎水化する特性を有している。鉄筋3は、この撥水層2aにより、近接する外壁面1cより侵入した水分及び塩化物イオンと接触することがなく、劣化しにくくなる。
【0015】
鉄筋3は、コンクリート基部2の引張強度を補強するため、コンクリート基部2に配設されている細長状の鋼材である。このような鉄筋3は、コンクリート構造物1において、外壁面1cから所定のかぶり厚さが確保された位置に内設されている。この中空路4は、鉄筋3よりも外側、すなわち、鉄筋3と、鉄筋3と近接する外壁面1cとの間において、鉄筋3に沿ってコンクリート基部2に形成されている。この中空路4は、円柱状の空洞とされ、一方の外壁面1bに第1中空路開口4aを有し、他方の外壁面1aに第2中空路開口4bが形成されている。なお、この中空路4の体積は、コンクリート構造物1の体積に対して、コンクリート構造物1の強度を損なわないように十分小さく設定されている。
【0016】
このようなコンクリート構造物1の施工方法を
図2及び
図3を参照して説明する。
図2は、本実施形態に係るコンクリート構造物1の中空路形成工程の過程を示す模式断面図である。
図3は、本実施形態に係るコンクリート構造物1の撥水層形成工程の過程を示す模式断面図である。
【0017】
まず、本実施形態に係るコンクリート構造物1の施工過程では、中空路形成工程が行われる。
図2(a)に示すように、不図示の型枠に鉄筋3と、鋼棒Sとが配置され、さらに、コンクリート原料が型枠に打設され、所定の期間養生されることにより、鉄筋3及び鋼棒Sを内設した状態でコンクリート基部2が硬化する。また、鋼棒Sは、事前に外周面全体に剥離剤等が塗布されており、コンクリート基部2が硬化した後に抜去可能とされている。所定期間後に、コンクリートの硬化が完了すると、
図2(b)及び(c)に示すように、鋼棒Sが引き抜かれ、鋼棒Sが配置されていた空間が中空路4となる。
【0018】
中空路形成工程が行われた後に、撥水層形成工程が行われる。
撥水層形成工程では、まず、第1中空路開口4aに、一端がポンプPと接続されたホースHがシラン系撥水剤注入用プラグp1を介して接続される。また、第2中空路開口4bには、シラン系撥水剤吐出用プラグp2が取り付けられる。このポンプPは、中空路4内にシラン系撥水剤を加圧状態で注入する装置である。このようなポンプPにより、第1中空路開口4aから、中空路4内にシラン系撥水剤が加圧注入される。このときのポンプPの注入圧力は、例えば5MPa〜10MPa程度とされる。
【0019】
さらに、ポンプPによりシラン系撥水剤の加圧注入が継続されることにより、中空路4内が一定期間にわたり加圧状態で保持される。これにより、中空路4内のシラン系撥水剤は、内壁面より徐々にコンクリート基部2へと含浸することにより撥水層2aを形成する。なお、この撥水層2aは、シラン系撥水剤の注入圧力及び加圧時間を増大させることにより、より広範囲に含浸する特性を有している。このため、シラン系撥水剤の注入圧力及び加圧時間を適宜調節することにより、鉄筋3を含む範囲に撥水層2aを形成することができる。このようにして形成された撥水層2aは、外的影響を受けにくくシラン系撥水剤の再注入の必要がない。したがって、撥水層形成工程は、コンクリート構造物1の建設時に一度実施するのみで良い。
【0020】
このような撥水層2aを形成するためのシラン系撥水剤の注入条件についての検証結果を以下に示す。
検証においては、鉄筋3が内設されると共に中空路4が形成されたコンクリート供試体が作成された。このコンクリート供試体は、水セメント比57.9%であり、水318kg/m
3に対して、セメント184kg/m
3、細骨材855kg/m
3、粗骨材936kg/m
3、AE減水剤3.180kg/m
3を混合したコンクリート材である。また、検証に用いたシラン系撥水剤は、主成分として、シラン・シロキサンを含有し、活性成分が90%以下であり、粘度が500mPa・S/25℃である。
【0021】
図4は、(a)がシラン系撥水剤の注入時間に対するシラン系撥水剤の浸透深さ及び浸透量の相関を示すグラフであり、(b)がシラン系撥水剤の浸透面積率と浸透量との相関を示すグラフであり、(c)がシラン系撥水剤の浸透量とコンクリートの中性化深さとの相関を示すグラフである。
【0022】
図4(a)に示すグラフは、シラン系撥水剤の注入圧力を2MPa及び5MPaとして、それぞれにおいて、シラン系撥水剤の浸透深さ及び浸透量を注入時間ごとに比較している。このグラフに示すように、注入圧力2MPa及び注入圧力5MPaのいずれの場合においても、シラン系撥水剤の注入時間を増加させることにより、浸透深さ及び浸透量が増加していることがわかる。また、注入圧力を上昇させることにより、より短時間で、シラン系撥水剤を深くまで浸透させることができることがわかる。すなわち、高い圧力を加えることにより、シラン系撥水材の時間当たりの浸透深さ及び浸透量が増加すると考えられる。
【0023】
図4(b)に示すグラフは、横軸にシラン系撥水剤の浸透量、縦軸にシラン系撥水剤の浸透面積率を取っている。このグラフに示すように、浸透面積率は、シラン系撥水剤の浸透量を増加させることにより、上昇する傾向があることがわかる。すなわち、シラン系撥水剤の浸透量を増加させることにより、撥水層2aの形成範囲が大きくなると考えられる。
【0024】
図4(c)のグラフは、横軸に注入時間、縦軸に中性化深さを取っている。コンクリートの中性化は、内部の鉄筋3の腐食の要因となる現象である。
図4(c)に示すように、注入圧力が2MPaの場合、5MPaの場合共に、注入時間を増加させることにより、中性化深さを抑制できることがわかる。さらに、注入圧力が5MPaの場合は、注入圧力が2MPaの場合と比較して、中性化をより抑制できると考えられる。
【0025】
上記の検証結果から、シラン系撥水剤の注入圧力が高いほど、または、注入時間が長いほど撥水層2aの形成範囲が大きくなる。また、このような撥水層2aには、中性化を抑制する効果があると認められる。
【0026】
このような本実施形態においてシラン系撥水剤は、第1中空路開口4aを有する中空路4に注入され、さらに加圧状態で保持される。これにより、シラン系撥水剤は、中空路4の内壁面から周囲へと含浸し、中空路4の内壁面の周囲に撥水層2aを形成することができる。このような撥水層2aは、外部に露出する部分が少ないため、外的環境により流出または劣化しづらく、長期的に保持される。
【0027】
また、シラン系撥水剤は、中空路4に加圧注入されることにより、コンクリート基部2への浸透量が、コンクリート構造物1の外壁に塗布される場合と比較して増加する。したがって、一度のシラン系撥水剤注入作業により、十分な浸透深さを得ることができる。また、シラン系撥水剤の注入圧力及び注入時間を適宜変更ことにより、コンクリート基部2への浸透量を調節することが可能である。これにより、所定の浸透量となるまでシラン系撥水剤を複数回塗布する等の作業の必要がなく、一度の作業で必要な浸透量を確保できるため、作業工程を簡略化することができる。したがって、従来工法と比較して、本実施形態に係る施工方法は、時間的なコストを削減することができる。
【0028】
さらに、本実施形態に係るコンクリート構造物1の中空路4は、鉄筋3に沿って形成されている。これにより、撥水層2aは、鉄筋3を含む範囲に形成可能であり、鉄筋3に水分または塩化物イオンが接触することを効果的に防止でき、鉄筋の劣化を効果的に抑止することができる。
【0029】
また、本実施形態に係るコンクリート構造物1の中空路4は、鉄筋3よりも外壁面1cに近い位置に形成されている。したがって、撥水層2aは、鉄筋3から外壁面1cの近傍にかけて形成されることとなる。これにより、撥水層2aは、外壁面1cから浸透する水分及び塩化物イオンが鉄筋3に到達することを、より確実に阻止することができる。
【0030】
このような本実施形態に係る施工方法では、中空路4にシラン系撥水剤を注入しているため、外壁面1cにシラン系撥水剤を塗布する従来工法と比較して、表面の凹凸や表面の付着物を除去する必要がなく、施工が容易である。また、本実施形態に係る施工方法は、温度変化によるシラン系撥水剤の粘度の低下の影響を受けず、実施可能である。さらに、本実施形態に係る施工方法は、外壁面が濡れている場合等にも実施することができる。したがって、本実施形態に係るコンクリート構造物1の施工は、天候の変化に左右されずに実施可能である。
【0031】
また、シラン系撥水剤は臭気があるため、外壁面1cに塗布する場合には近隣居住者に悪臭被害が発生する可能性がある。しかしながら、中空路4にシラン系撥水剤を注入する本実施形態に係る施工方法では、外気に触れるシラン系撥水剤の量が少ないため、空気中に揮発するシラン系撥水剤の成分の量が少なく、臭気が発生しづらい。
【0032】
また、本実施形態に係る施工方法は、コンクリート構造物1の外壁面1cに影響を与えないため、施工後にコンクリート構造物1の外壁面に塗料などを塗布することも容易である。
【0033】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態においては、中空路4は、1本のみを図示しているが、本発明はこれに限定されない。中空路4は複数形成されるものとしてもよい。また、中空路4同士が接続されるものとしてもよい。中空路4を複数形成することにより、コンクリート基部2に対してより広範囲に撥水層2aを形成することが可能である。
【0034】
(2)また、コンクリート構造物1の内部に亀裂等が発生した場合には、中空路4の周囲に撥水層2aが形成されていても、中空路4から補修剤や再アルカリ化剤を注入することが可能である。中空路4から補修剤や再アルカリ化剤を注入することにより、コンクリート構造物1内部の亀裂を補修することができる。
さらに、シラン系撥水剤に対して、鉄筋3の防錆剤や、コンクリート基部2の中性化抑止剤等を混合して撥水層2aを形成することも可能である。この場合、鉄筋3の防錆や、鉄筋3の周囲におけるコンクリート強度低下防止を撥水と同時に行うことができる。
【0035】
(3)また、上記実施形態においては、中空路4は、鉄筋3と外壁面1cとの間に形成されるものとしたが、本発明はこれに限定されない。
図5は、上記実施形態に係るコンクリート構造物1の変形例である。
図5(a)に示すように、中空路4は、外壁面1cから見て鉄筋3よりも内側に形成されるものとしてもよい。例えば、鉄筋3におけるかぶり厚さが少ない場合等に、中空路4を外壁面1cから見て鉄筋3よりも内側に形成することにより、コンクリート構造物1の強度を確保することができる。
【0036】
(4)さらに、上記実施形態においては、撥水層2aは、鉄筋3を含む範囲に形成されていることとしたが、本発明はこれに限定されない。撥水層2aは、
図5(b)に示すように、鉄筋3を含まない範囲に形成されているものとしてもよい。なお、このような場合には、鉄筋3と、外壁面1cとの間に撥水層2aを形成することが好ましい。
【0037】
(5)また、中空路4が複数形成されている場合、隣接する撥水層2a同士が、
図5(c)に示すように、互いに重複するように形成されているものとしてもよい。この場合、隣接する撥水層2a同士の間に隙間ができず、より確実に鉄筋3の周囲を撥水することができる。
【0038】
(6)さらに、撥水層2aは、
図5(c)に示すように、外壁面1cに到達するように形成されているものとしてもよい。この場合、撥水層2aが外壁面1cを保護することができ、コンクリート構造物1の美観を保持することができる。