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特開2017-210909形状記憶合金を利用したアクチュエータの駆動システム、電子機器、パルス幅の決定方法および触覚フィードバックの調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-210909(P2017-210909A)
(43)【公開日】2017年11月30日
(54)【発明の名称】形状記憶合金を利用したアクチュエータの駆動システム、電子機器、パルス幅の決定方法および触覚フィードバックの調整方法
(51)【国際特許分類】
   F03G 7/06 20060101AFI20171102BHJP
【FI】
   F03G7/06 E
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-104173(P2016-104173)
(22)【出願日】2016年5月25日
(71)【出願人】
【識別番号】505205731
【氏名又は名称】レノボ・シンガポール・プライベート・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106699
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 弘道
(72)【発明者】
【氏名】山▲ざき▼ 充弘
(72)【発明者】
【氏名】柳井 賢司
(57)【要約】
【課題】形状記憶合金を利用したアクチュエータの振動強度の調整が可能な駆動システムを提供する。
【解決手段】形状記憶合金は、試験電圧61を印加すると温度が上昇するとともに抵抗カーブ57sに沿って抵抗が変化する。抵抗カーブ57sには、変曲点51xが存在する。通電中の抵抗を計測することで変曲点51xを検出する。試験電圧の通電時間が変曲点51xに到達する時刻t3に対応する単一パルス電圧から最大加速度Gxmを得ることができる。また、そのときのパルス幅は最大加速度を得るのに必要な最小のパルス幅に相当する基準パルス幅Wxmとなる。任意の振動強度nに対応する調整パルス幅Wxaは、基準パルス幅Wxmを基準にして計算することができる。あるいは、基準アクチュエータの基準パルス幅Wsm、振動強度n、および調整パルス幅Wsaを基準にして計算することができる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状記憶合金を利用したアクチュエータの駆動システムであって、
前記アクチュエータにパルス電圧を印加するスイッチと、
前記形状記憶合金に電圧を印加したときの抵抗の変化と経過時間に基づいて最大振動強度を得るための基準パルス幅を取得するパルス幅調整部と、
前記基準パルス幅のパルス電圧で前記スイッチの動作を制御するパルス信号生成部と
を有する駆動システム。
【請求項2】
前記パルス幅調整部は、前記抵抗が極大値を経由した後に存在する変曲点の近辺に到達するまでの経過時間を、前記基準パルス幅として選択する請求項1に記載の駆動システム。
【請求項3】
前記パルス幅調整部は、前記抵抗が前記変曲点に到達するまでの経過時間を、前記基準パルス幅として選択する請求項2に記載の駆動システム。
【請求項4】
前記パルス幅調整部は、前記抵抗が極大値を経由した後に変化しないとみなせる状態に到達するまでの経過時間を、前記基準パルス幅として選択する請求項1に記載の駆動システム。
【請求項5】
前記パルス幅調整部は、前記基準パルス幅に基づいて前記最大振動強度より小さい所定の振動強度に対応するパルス幅を取得する請求項1に記載の駆動システム。
【請求項6】
基準アクチュエータの振動強度に対応するパルス幅を記憶した参照テーブルを有し、
前記パルス幅調整部は、前記参照テーブルを参照して前記最大振動強度より小さい所定の振動強度に対応するパルス幅を取得する請求項1に記載の駆動システム。
【請求項7】
前記アクチュエータが衝撃駆動型アクチュエータである請求項1に記載の駆動システム。
【請求項8】
触覚フィードバックを付与する振動体と、
形状記憶合金を利用したアクチュエータと、
前記アクチュエータにパルス電圧を印加するスイッチと、
前記形状記憶合金に電圧を印加したときの抵抗の変化と経過時間に基づいて最大振動強度を得るための基準パルス幅を取得するパルス幅調整部と、
前記基準パルス幅のパルス電圧で前記スイッチの動作を制御するパルス信号生成部と
を有する電子機器。
【請求項9】
形状記憶合金を利用したアクチュエータに印加するパルス電圧のパルス幅を決定する方法であって、
前記形状記憶合金に電圧を印加するステップと、
前記形状記憶合金の通電中の抵抗の変化を検出するステップと、
前記抵抗の変化と通電時間に基づいてパルス幅を決定するステップと
を有する方法。
【請求項10】
前記パルス幅が、最大の振動強度を得るための最小のパルス幅である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記最大の振動強度と前記最小のパルス幅に基づいて、前記最大の振動強度より小さい振動強度に対応するパルス幅を取得するステップを有する請求項10に記載の方法。
【請求項12】
基準アクチュエータの振動強度に対応するパルス幅を取得するステップと、
前記基準アクチュエータのパルス幅と振動強度から、前記アクチュエータの所定の振動強度に対応するパルス幅を計算するステップと
を有する請求項9に記載の方法。
【請求項13】
形状記憶合金を利用した衝撃駆動型アクチュエータが付与する触覚フィードバックを調整する方法であって、
前記衝撃駆動型アクチュエータに試験通電をするステップと、
前記試験通電中の前記形状記憶合金の抵抗を測定するステップと、
ユーザから触覚フィードバックの振動強度の指示を受け取るステップと、
前記抵抗の変化に基づいて前記指示された振動強度に対応するパルス幅の単一パルス電圧を生成するステップと
を有する調整方法。
【請求項14】
前記試験通電中にユーザに最大振動強度の触覚フィードバックを与えるステップを有する請求項13に記載の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は形状記憶合金を利用したアクチュエータの駆動技術に関し、さらには振動強度を調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
タブレット端末のタッチスクリーン、キー・トラベリングがないフラットタイプのキーボードまたはキー・ストロークのないタッチ式の操作スイッチなどには、ユーザに操作感を与える触覚フィードバック(ハプティク・フィードバック)のためのアクチュエータを組み込む場合がある。これまではアクチュエータの駆動部分に、電磁石、圧電素子、または振動モータなどを採用していたが、近年、振動強度、応答性、およびサイズなどの利点を有する形状記憶合金(SMA:Shape Memory Alloy)を採用するようになってきた。
【0003】
特許文献1は、周囲温度に応じて形状記憶合金に与えるエネルギーを変化させる衝撃発生アクチュエータを開示する。同文献には、常温を基準にして単一パルス信号のデューティー比を設定した場合に、周囲温度が常温より低い場合には、加熱不足によるSMAの伸縮時間の増大や収縮量の低下を招くおそれがあり、周囲温度が常温より高い場合には、SMAの伸縮時間の短縮や過剰加熱を招くおそれがあると記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−15698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SMAを利用したアクチュエータは、印加する単一パルス電圧の波高値やパルス幅を調整して振動強度を調整することができる。波高値を変化させるためにはDC/DCコンバータの出力電圧を変化させる必要があり回路構成が複雑になる。また、同じタイプのアクチュエータに同じ波高値と同じパルス幅の単一パルス電圧を印加しても、アクチュエータの個体差、使用環境温度、駆動電圧および組み込み条件などが相違するため、同じ加速度を得ることはできない。さらに電子機器に組み込んだ状態のアクチュエータでは、試験が制約されるため所定の振動強度に対応するパルス幅を取得することは困難である。
【0006】
そこで本発明の目的は、形状記憶合金を利用したアクチュエータの振動強度の調整が可能な駆動システムを提供することにある。さらに本発明の目的は電子機器に組み込んだ状態で振動強度の調整が可能な駆動システムを提供することにある。さらに本発明の目的は、消費電力の低減を図る駆動システムを提供することにある。さらに本発明の目的は、そのような駆動システムを適用した電子機器、パルス幅の決定方法および触覚フィードバックの調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる形状記憶合金を利用したアクチュエータの駆動システムは、アクチュエータにパルス電圧を印加するスイッチと、形状記憶合金に電圧を印加したときの抵抗の変化と経過時間に基づいて最大振動強度を得るための基準パルス幅を取得するパルス幅調整部と、基準パルス幅のパルス電圧でスイッチの動作を制御するパルス信号生成部とを有する。
【0008】
本発明にかかる電子機器は、触覚フィードバックを付与する振動体と、形状記憶合金を利用したアクチュエータと、アクチュエータにパルス電圧を印加するスイッチと、形状記憶合金に電圧を印加したときの抵抗の変化と経過時間に基づいて最大振動強度を得るための基準パルス幅を取得するパルス幅調整部と、基準パルス幅のパルス電圧でスイッチの動作を制御するパルス信号生成部とを有する。
【0009】
本発明にかかる形状記憶合金を利用したアクチュエータに印加するパルス電圧のパルス幅を決定する方法は、形状記憶合金に電圧を印加し、形状記憶合金の通電中の抵抗の変化を検出し、抵抗の変化と通電時間に基づいてパルス幅を決定する。本発明にかかる形状記憶合金を利用した衝撃駆動型アクチュエータによる触覚フィードバックの強さを調整する方法は、衝撃駆動型アクチュエータに試験通電し、試験通電中の形状記憶合金の抵抗を測定し、ユーザから触覚フィードバックの振動強度の指示を受け取り、抵抗の変化と通電時間に基づいて取得した基準パルス幅から前記指示された振動強度に対応するパルス幅の単一パルス電圧を生成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、形状記憶合金を利用したアクチュエータの振動強度の調整が可能な駆動システムを提供することができた。さらに本発明により電子機器に組み込んだ状態で振動強度の調整が可能な駆動システムを提供することができた。さらに本発明により、消費電力の低減を図る駆動システムを提供することができた。さらに本発明により、そのような駆動システムを適用した電子機器、パルス幅の決定方法および触覚フィードバックの調整方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】衝撃駆動型アクチュエータの構造を説明するための模式的な図である。
図2】熱サイクルによってSMA101の温度と長さが変化する様子を説明するための図である。
図3】完全熱サイクルで伸縮する際の、SMA101の温度Tと抵抗Rの関係を説明するための図である。
図4】時刻t0で衝撃駆動型アクチュエータに電圧V1の直流電圧61を印加したときの経過時間t、加速度Gおよび抵抗Rの関係を説明するための図である。
図5】アクチュエータ駆動システム200の概略の機能ブロック図である。
図6】アクチュエータ駆動システム200の動作手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[用語]
本明細書で使用する特別な用語を説明する。SMAを利用したアクチュエータは、マルテンサイト相(低温相)とオーステナイト相の間のヒステリシス・サイクル(熱サイクル)で動作する。アクチュエータは振動体に振動を与えるためにそれ自体が規則的な運動をする。SMAを利用したアクチュエータには、衝撃駆動型アクチュエータと振動型アクチュエータが存在する。
【0013】
衝撃駆動型アクチュエータは、1個の単一パルス電圧または1回の熱サイクルで目的とする振動を生成することができる。振動型アクチュエータは、熱サイクルを可能にする所定の間隔で繰り返し印加した複数の単一パルス電圧で目的とする振動を生成する。本発明にかかる駆動システムはいずれのタイプのアクチュエータにも適用できるが、本明細書では衝撃駆動型アクチュエータを例示して説明する。
【0014】
単一パルス電圧は、短い所定の通電時間だけ存在する電圧で、SMAにアクチュエータの駆動に必要な熱を加える。単一パルス電圧は、SMAの収縮に対して電流として作用するため単一パルス電流と言い換えることもできる。通電時間中の電圧波形および電流波形は矩形波、微分波、三角波、またはステップ状に波高値が変化する階段波などのような任意の波形とすることができる。
【0015】
振動体は、衝撃駆動型アクチュエータに印加した1個の単一パルス電圧で必要な振動をする物体に相当する。振動体は特に限定する必要はないが、一例において、タッチパネル、キーボード、またはスイッチのような人間が操作をする際に触れた指に触覚フィードバックを付与する物体とすることができる。衝撃駆動型アクチュエータおよび振動型アクチュエータに、単一パルス電圧を連続して印加する場合には完全熱サイクルを維持するために所定の間隔を設ける必要がある。
【0016】
図1は、衝撃駆動型アクチュエータ100の構造を説明するための模式的な図である。衝撃駆動アクチュエータ100は、固定子103、可動子105、SMA101およびバイアス材107で構成している。衝撃駆動型アクチュエータ100は、振動体10に衝撃性または一過性の振動を与える。SMA101は、1方向性の形状記憶とバイアス力で繰り返し動作をする。ただし、本発明は2方向性の形状記憶をするSMAに適用することもできる。
【0017】
固定子103と可動子105が対向する対向面は、互いの凹凸が嵌合できるような波状に形成している。固定子103と可動子105の対向面の間には、線状のSMA101を配置している。SMA101は、例えばニッケル・チタン合金、チタン・ニッケル・銅合金などを選択できるが特に限定する必要はない。バイアス材107は、固定子103と可動子105が接近する方向にバイアス力を与える弾性体で構成することができる。
【0018】
図1(A)は、SMA101が、マルテンサイト変態終了温度Mf(図2)以下の温度になって柔軟な性状を示したときの様子を示している。バイアス材107が、可動子105に付与したバイアス力で可動子105が固定子103に接近して対向面が嵌合する。対向面で塑性変形したSMA101は、固定子103と可動子105の対向面の形状に沿って最大の長さまで伸張する。SMA101が対向面の形状およびバイアス材107によって塑性変形し長さが最大になっている状態を完全伸張状態という。
【0019】
図1(B)はSMA101が温度の上昇に伴って収縮および硬化してオーステナイト変態終了温度Af(図2)を超え記憶していた形状に戻ったときの様子を示している。SMA101の収縮が終了した状態を完全収縮状態という。完全伸張状態から完全収縮状態に移行する間に可動子105は、バイアス力に抗して固定子103との間隔が広がるように変位する。衝撃駆動型アクチュエータ100は、基準パルス幅Wsm、Wxm(図4)の単一パルス電圧を印加すると1回の熱サイクルでSMA101が完全伸張状態から完全収縮状態に相転移し、さらに、通電時間が停止すると完全伸張状態に戻る。
【0020】
図2は、熱サイクルによってSMA101の温度と長さが変化する様子を説明するための図である。横軸はSMA101の温度Tを示し、縦軸は長さLを示している。SMA101は、温度がマルテンサイト変態終了温度Mf以下のときは、全体がほぼマルテンサイト相に相転移している。マルテンサイト相では、SMA101が柔軟性を備えるため、バイアス力を受けて塑性変形している。
【0021】
マルテンサイト相に相転移しているSMA101に電圧を印加して通電加熱すると、温度がオーステナイト変態開始温度Asを超えたときにマルテンサイト逆変態を開始して収縮が始まる。そして、温度がオーステナイト変態終了温度Afに到達すると収縮が終了して長さがL1(L1<L0)の完全収縮状態になる。温度がオーステナイト変態開始温度Asからオーステナイト変態終了温度Afまで上昇する過程を完全昇温過程ということにする。
【0022】
完全収縮状態のときに通電を停止すると、放熱により温度が低下してマルテンサイト変態開始温度Msでマルテンサイト変態が始まり徐々に軟化する。この間、軟化の程度とバイアス力によりSMA101は徐々に伸張する。そして、温度がマルテンサイト変態終了温度Mfに到達すると伸張が終了して長さがL0の完全伸張状態になる。温度がマルテンサイト変態開始温度Msからマルテンサイト変態終了温度Mfまで下降する過程を完全降温過程ということにする。
【0023】
SMA101は、1回の完全昇温過程と1回の完全降温過程が構成する完全熱サイクルの間にL0−L1=dだけ長さが伸縮する。可動子105は、振動体10に対して、長さL1の完全収縮状態で曲げ応力を加え、長さL0の完全伸張状態で解放する。振動体10は、単一パルス電圧による急激な応力の付与と解放に応じて振動する。振動の大きさは可動子105の変位量と変位速度で調整することができる。
【0024】
可動子105の変位量は、SMA101の収縮量、すなわち温度に依存する。たとえば、波高値が同じ単一パルス電圧でもパルス幅が短くてオーステナイト変態終了温度Afに到達する前の温度T1で通電時間が終了すると、SMA101は長さL2(L2>L1)までしか収縮しないため可動子105の変位量は完全昇温過程よりも少ない。
【0025】
したがって、振動体10の変位は小さくなり加速度は低下する。オーステナイト変態終了温度Afに到達する前に通電時間が終了するような単一パルス電圧による昇温過程を不完全昇温過程ということにする。完全昇温過程が終了した後以降に継続する電圧は、可動子105の変位に影響を与えないため無駄なエネルギーとして消費される。また、印加時間が長くなりすぎるとSMA101の劣化を促進する。
【0026】
図3は、完全熱サイクルで伸縮する際の、SMA101の温度Tと抵抗Rの関係を説明するための図である。図3には、完全昇温過程の抵抗カーブ57と完全降温過程の抵抗カーブ59を示している。SMA101に直流の電圧Vを印加するとジュール熱で温度が上昇する。昇温時のSMA101の抵抗は、電圧VとSMA101に流れる電流IからR=V/Iで計算することができる。完全昇温過程では、温度が上昇するとともに抵抗が増加し、オーステナイト変態終了温度Afの近辺で抵抗Rが極大値53に達する。
【0027】
さらに電流を流し続けると抵抗Rは、変曲点51を過ぎるとほぼ一定の値になる。変曲点51は、抵抗Rと温度Tの関数R=f(T)の二次導関数の符合が変化する点または所定値になった点として特定することができる。SMA101は、オーステナイト相への相移転が終了すると可動子105を変位させることはないため、振動体の加速度も上昇しない。単一パルス電圧の通電時間を必要以上に長くして温度を上昇させると、SMA101の劣化を促進しかつ無駄に電力を消費することになる。
【0028】
実験では、衝撃駆動型アクチュエータ100の加速度は、SMA101が変曲点51を超えた後はほぼ一定になることを確認している。したがって、変曲点51を知ることができれば、最大加速度を得るために必要な最小の通電時間を設定して消費電力を低減することができる。最大加速度を得るために必要な単一パルス電圧の最小の通電時間を基準パルス幅ということにする。
【0029】
図4は、時刻t0で衝撃駆動型アクチュエータ100に直流電圧V1の試験電圧61を印加したときの経過時間t、振動体10の加速度Gおよび抵抗Rの関係を説明するための図である。経過時間tは、時刻t1〜t5で通電を停止したときの単一パルス電圧のパルス幅に相当する。時刻t1は、基準パルス幅を取得するために設定した十分に長い通電時間(試験パルス幅Wp)に対応する。
【0030】
試験電圧61が印加されたSMA101の抵抗は完全昇温過程において抵抗カーブ57s、57xに沿って上昇する。ここに、抵抗カーブ57s、加速度カーブ63sは、基準となる衝撃駆動型アクチュエータに関するデータに相当し、抵抗カーブ57x、加速度カーブ63xは、適切なパルス幅に調整するための調整対象となる衝撃駆動型アクチュエータ100に関するデータに相当する。
【0031】
衝撃駆動型アクチュエータ100の振動強度は、振動体の変位量、変位速度、または変位加速度のような振動強度で特定することができる。本実施の形態では、触覚フィードバックの強さを評価するのに適した加速度を例示して説明するが、他の特性を利用してもよい。加速度カーブ63xは、経過時間tで確定したパルス幅の単一パルス電圧に対応する加速度Gを示している。実験では、抵抗が変曲点51xに到達したときの経過時間t3で最大加速度Gxmに到達し、それ以降はパルス幅Wを広くしても加速度Gは上昇しないことを確認している。最大加速度Gxmに到達している状態では、マルテンサイト逆変態が完了してSMAの長さがL1まで収縮していると考えられる。
【0032】
基準パルス幅Wxmは、最大加速度Gxmを得るために必要な経過時間t3が確定する最小のパルス幅に相当する。基準パルス幅Wxmの単一パルス電圧を印加すると、最大加速度Gxmを付与するように動作する衝撃駆動型アクチュエータ100の電力効率を最大にすることができる。ただし、衝撃駆動型アクチュエータ100は個体差や使用条件の相違などで最大加速度Gxmが変化するため、基準パルス幅Wxmは個々に変化する。基準パルス幅Wxmは、抵抗が変曲点51xに到達するまでの経過時間t3、極大値53xを超えてから変曲点51xに到達するまでの間の経過時間t(t6<t<t3)、または、変曲点51xを超えてから抵抗が変化しないとみなせる状態に到達するまでの経過時間t(t3<t)としてもよい。
【0033】
不完全昇温過程を経由することで最大加速度Gxmより小さい範囲の調整加速度nGxmを得ることができる。調整加速度nGxmを得るためのパルス幅を調整パルス幅Wxaということにする。ここにnは振動強度n(n<1)で、最大加速度Gxmに対する相対的な加速度を示す定数である。ユーザは、試験パルス幅Wpの単一パルス電圧を印加したときに知覚した衝撃駆動型アクチュエータ100が振動体10に付与する最大加速度Gxmを認識して、希望する振動強度nを想定することができる。
【0034】
これまでは、希望する振動強度nの加速度を得るために、基準パルス幅Wxmを超える十分に長いパルス幅の単一パルス電圧で最大加速度Gxmを得るとともに、十分に長いパルス幅に対する所定の割合で調整パルス幅を設定していた。しかし、最大加速度Gxmを得るために設定していたパルス幅は、基準パルス幅Wxmよりも長く、かつ基準パルス幅Wxmを超える長さを特定できないため、調整パルス幅はユーザの意図する触覚フィードバックの強さを反映しなかった。
【0035】
衝撃駆動型アクチュエータ100の最大加速度Gxmは製品の基本特性として製造時に一定の範囲に入ると想定できるが、加速度カーブ63xは未知である。出荷する前にすべての衝撃駆動型アクチュエータ100の加速度カーブ63xのデータを取得することは困難であるが、基準となる衝撃駆動型アクチュエータについて加速度カーブ63sで示す最大加速度Gsmとこれに対応する基準パルス幅Wsmおよび振動強度nに対応する調整加速度Gsmと対応する調整パルス幅Wsaを取得することは可能である。
【0036】
しかし、あらかじめ求めておいた加速度カーブ63sのデータを、加速度カーブ63xを備える衝撃駆動型アクチュエータ100に適用しても個体差などにより正確性に欠ける。本実施の形態では、試験電圧61を印加して衝撃駆動型アクチュエータ100の基準パルス幅Wxmを取得し、さらに、基準となる衝撃駆動型アクチュエータの加速度カーブ63sに対応するデータから調整対象の衝撃駆動型アクチュエータ100の調整パルス幅Wxaを計算する。
【0037】
図5は、アクチュエータ駆動システム200の概略の機能ブロック図である。アクチュエータ駆動システム200は、キーボード、タッチスクリーン、スイッチなどの触覚フィードバックを必要とする電子機器全般に搭載することができる。ただし、本発明にかかるアクチュエータ駆動システム200の用途は、触覚フィードバックの付与に限定する必要はなく、制約された条件で正確な基準パルス幅および調整パルス幅を得る必要がある電子機器に適用することができる。またアクチュエータ駆動システム200は、衝撃駆動型アクチュエータだけでなく振動型アクチュエータに適用することもできる。
【0038】
アクチュエータ駆動システム200は一例において、パルス幅調整部201、参照テーブル203、パルス信号生成部205、直流電圧源207、電圧電流検出器209、衝撃駆動型アクチュエータ100、キーボード213、N型のFET215および電力源を構成するコンデンサ211で構成している。直流電圧源207は、DC/DCコンバータで構成され所定の直流電圧を出力する。
【0039】
コンデンサ211は、FET215のオフ期間に充電し、オン期間に放電して衝撃駆動型アクチュエータ100に通電する。電圧電流検出器209は、SMA100に印加する単一パルス電圧の電圧および電流を検出する。キーボード213は図1の振動体10の一例に対応する。衝撃駆動型アクチュエータ100は、キーボードが操作されたタイミングで、キーボード213の基板に触覚フィードバックを付与する。
【0040】
FET215は直流電圧をスイッチング制御する素子であり、バイポーラ・トランジスタを採用してもよい。また、直流電圧源207が十分な容量を備えていればコンデンサ211はなくてもよい。パルス幅調整部201、参照テーブル203およびパルス信号生成部205は、SoC(System on Chip)や専用のコントローラで構成することができる。
【0041】
パルス幅調整部201は、電圧電流検出器209から、SMA101に印加する電圧および電流を取得し、参照テーブル203を参照して計算した調整パルス幅Wxaをパルス信号生成部205に設定する。参照テーブル203は、基準となる衝撃駆動型アクチュエータの加速度カーブ63sに対応する参照データを含む。参照データは、単一パルス電圧の、波高値ごとの振動強度nと調整パルス幅Wsaの複数のペアで構成され、最大加速度に対応する基準パルス幅Wsmを含む。
【0042】
パルス幅調整部201は、ユーザが振動強度nを調整するためのユーザ・インターフェースを備えている。ユーザはユーザ・インターフェースを通じて最大加速度での触覚フィードバックを知覚してから好みの振動強度nを認識することができる。パルス信号生成部205は、キーボード213からキー・イベントを受け取ったタイミングでパルス幅調整部201が設定した調整パルス幅Wxaまたは基準パルス幅Wxmの単一パルス信号をFET215のゲートに印加する。
【0043】
図6は、アクチュエータ駆動システム200の動作手順を示すフローチャートである。ここでは、加速度カーブ63sが既知の衝撃駆動型アクチュエータ(基準アクチュエータ)が存在するときに、基準アクチュエータと同じタイプで、加速度カーブ63xが未知の衝撃駆動型アクチュエータ100(対象アクチュエータ)で振動強度nに対する基準パルス幅Wxmおよび調整パルス幅Wxaを取得する手順を説明する。対象アクチュエータは、電子機器に搭載されていることを想定する。
【0044】
ブロック301で、工場で基準アクチュエータに対して所定の試験電圧を印加して、加速度カーブ63sに対応する参照データを取得する。基準アクチュエータに対して、さまざまなパルス幅の単一パルス電圧を印加して、極大値53sと変曲点51sから加速度カーブ63sを構成するパルス幅Wsaと加速度nGsmの組を取得し参照テーブル203に格納する。加速度nGsmは、パルス幅を徐々に広げてn=1の最大加速度Gsmに到達するまで取得する。
【0045】
最大加速度Gsmに到達したときのパルス幅が基準パルス幅Wsmとなる。ブロック303で、ユーザは対象アクチュエータのパルス幅調整部201が提供するユーザ・インターフェースを通じて、振動強度nを変更するための操作をする。ここでパルス幅調整部201は、試験パルス幅Wpの単一パルス電圧を数回印加して、ユーザに最大加速度Gxmでの触覚フィードバックを知覚させることができる。ブロック305でパルス幅調整部201はパルス信号生成部205に、あらかじめ設定した試験パルス幅Wpの試験電圧61(図4)を時刻t0で印加する。
【0046】
ブロック307でパルス幅調整部201は、時刻t0からの経過時間を計測する。ブロック309でパルス幅調整部201は、SMA101に印加している電圧Vと電流Iから定期的に抵抗Rを計算する。抵抗Rは、衝撃駆動型アクチュエータ100が電子機器に組み込まれていても比較的容易に取得できる。パルス幅調整部201はブロック311で、抵抗カーブ57xを示す関数R=f(t)に対する二次導関数を計算して、変曲点51xに到達したときの時刻t3を取得する。ブロック313でパルス幅調整部201は、時刻t3から基準パルス幅Wxmを取得する。
【0047】
ブロック315でユーザは、アクチュエータ駆動システム200が提供するユーザ・インターフェースを通じて知覚した最大加速度Gxmを基準として選択した振動強度nを入力する。パルス幅調整部201は、最大加速度Gxmに対する割合を記述した強、中、弱のような文字情報または10、7、5、3のような数字情報を振動強度nとしてユーザに選択させることができる。
【0048】
加速度カーブ63xと63sでは、最大加速度Gsm、Gxm、および基準パルス幅Wsm、Wxmは異なるが、加速度カーブ63s、63xの形状は類似していると想定できる。すなわち、振動強度nに対する基準パルス幅Wsmと調整パルス幅Wsaの比と、基準パルス幅Wxmと調整パルス幅Wxaの比は等しいと想定することができる。ブロック317でパルス幅調整部201は、参照テーブル203から基準アクチュエータで振動強度nに対する加速度nGxmを得る調整パルス幅Wxaを取得する。
【0049】
パルス幅調整部201は、対象アクチュエータの調整パルス幅Wxaを式(1)で計算することができる。
Wxa=Wsa×(Wxm/Wsm) (1)
本実施の形態では、試験電圧61を印加して取得した基準パルス幅Wxmを利用して、調整パルス幅Wxaを、参照テーブル203を利用しないで計算することができる。たとえば、基準パルス幅Wxmを振動強度1に対応させ、パルス幅0を振動強度n=0に対応させてその間を直線またはその他の近似曲線で近似して調整パルス幅Wxaに対応する振動強度nを得ることができる。ここで、それぞれの対象アクチュエータの最大加速度Gxmは製品の基本特性として製造時に一定の範囲に入ると想定でき、その振動強度nは基準アクチュエータの振動強度nに一定の範囲内で揃うと想定できる。ブロック319でパルス幅調整部201は、パルス信号生成部205に調整パルス幅Wxaを設定する。
【0050】
なお、パルス幅調整部201は、パルス信号生成部205に調整パルス幅Wxaを設定しないときは、最大加速度Gxmに対応する基準パルス幅Wxmを設定することができる。基準パルス幅Wxmは、最大加速度Gxmを得るための最も電力効率が高いパルス幅であるため、アクチュエータ駆動システム200は、正確な振動強度nの調整を実現するとともに最小のエネルギーで最大の振動強度を得ることができる。また、アクチュエータ駆動システム201は、電子機器に搭載した状態で試験電圧61を印加するだけで容易に所定の振動強度nに対する調整パルス幅Wxaを取得できる。
【0051】
これまで本発明について図面に示した特定の実施の形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができることはいうまでもないことである。
【符号の説明】
【0052】
10 振動体
51、51s、51x 変曲点
53、53s、53x 抵抗の極大値
57、57s、57x 抵抗カーブ
61 試験電圧
63s、63x 加速度カーブ
100 衝撃駆動型アクチュエータ
101 形状記憶合金(SMA)
103 固定子
105 可動子
107 バイアス材
200 アクチュエータ駆動システム
Wxm、Wsm 基準パルス幅
Wxa、Wsa 調整パルス幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2017年6月7日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状記憶合金を利用したアクチュエータの駆動システムであって、
前記アクチュエータにパルス電圧を印加するスイッチと、
前記形状記憶合金に電圧を印加したときに変化する抵抗の極大値に基づいて前記アクチュエータが最大振動強度を発生する最小のパルス幅に相当する基準パルス幅を取得するパルス幅調整部と、
前記基準パルス幅のパルス電圧で前記スイッチの動作を制御するパルス信号生成部と
を有する駆動システム。
【請求項2】
前記パルス幅調整部は、前記抵抗が前記極大値を経由した後に存在する変曲点の近辺に到達するまでの経過時間を、前記基準パルス幅として選択する請求項1に記載の駆動システム。
【請求項3】
前記パルス幅調整部は、前記抵抗が前記変曲点に到達するまでの経過時間を、前記基準パルス幅として選択する請求項2に記載の駆動システム。
【請求項4】
前記パルス幅調整部は、前記抵抗が前記極大値を経由した後に変化しないとみなせる状態に到達するまでの経過時間を、前記基準パルス幅として選択する請求項1に記載の駆動システム。
【請求項5】
前記アクチュエータと同じタイプの基準アクチュエータが最大振動強度を発生する最小のパルス幅に相当する基準パルス幅と前記基準アクチュエータの最大振動強度に対する所定の割合の振動強度を発生する調整パルス幅を含む参照データを記憶する参照テーブルを有し、
前記パルス幅調整部は、前記アクチュエータの基準パルス幅と前記参照データに基づいて前記アクチュエータの最大振動強度に対する前記所定の割合の振動強度を発生する調整パルス幅を取得する請求項1に記載の駆動システム。
【請求項6】
前記アクチュエータが衝撃駆動型アクチュエータである請求項1に記載の駆動システム。
【請求項7】
触覚フィードバックを付与する振動体と、
形状記憶合金を利用したアクチュエータと、
前記アクチュエータにパルス電圧を印加するスイッチと、
前記形状記憶合金に電圧を印加したときに変化する抵抗の極大値に基づいて最大振動強度を発生する最小のパルス幅に相当する基準パルス幅を取得するパルス幅調整部と、
前記基準パルス幅のパルス電圧で前記スイッチの動作を制御するパルス信号生成部と
を有する電子機器。
【請求項8】
形状記憶合金を利用したアクチュエータに印加するパルス電圧のパルス幅を決定する方法であって、
前記形状記憶合金に電圧を印加するステップと、
前記形状記憶合金の通電中の抵抗の変化を検出するステップと、
変化する前記抵抗の極大値に基づいて前記アクチュエータが最大振動強度を発生する最小のパルス幅に相当する基準パルス幅を決定するステップと
を有する方法。
【請求項9】
前記アクチュエータと同じタイプの基準アクチュエータが最大振動強度を発生する最小のパルス幅に相当する基準パルス幅と前記基準アクチュエータの最大振動強度に対する所定の割合の振動強度を発生する調整パルス幅を含む参照データを取得するステップと、
前記アクチュエータの基準パルス幅と前記参照データに基づいて前記アクチュエータの最大振動強度に対する前記所定の割合の振動強度を発生する調整パルス幅を取得するステップと
を有する請求項8に記載の方法。