(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-210911(P2017-210911A)
(43)【公開日】2017年11月30日
(54)【発明の名称】形状記憶合金を利用したアクチュエータの駆動システム、駆動方法および電子機器
(51)【国際特許分類】
F03G 7/06 20060101AFI20171102BHJP
【FI】
F03G7/06 D
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-104263(P2016-104263)
(22)【出願日】2016年5月25日
(71)【出願人】
【識別番号】505205731
【氏名又は名称】レノボ・シンガポール・プライベート・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106699
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 弘道
(72)【発明者】
【氏名】山▲ざき▼ 充弘
(72)【発明者】
【氏名】塚本 泰史
(57)【要約】
【課題】形状記憶合金を利用したアクチュエータの駆動システムを提供する。
【解決手段】通電時間Wbの擬似的な単一パルス電圧75は、複数のサブ・パルス電圧75aで構成している。擬似的な単一パルス電圧75は、通常の単一パルス電圧71aをスイッチング制御して生成することができる。サブ・パルス電圧75aは、周期W、オン期間W1、オフ期間W2、および通電時間Wbのパラメータを備える。擬似的な単一パルス電圧75のパラメータを制御することで、通常の単一パルス電圧71aの波高値をV1からVnに低下させた通常の単一パルス電圧109と等価的にアクチュエータの変位量および変位速度を調整することができる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状記憶合金を利用したアクチュエータと、
パルス信号を出力するパルス信号生成部と、
連続的な複数の前記パルス信号で所定の電圧をスイッチング制御して生成した擬似的な単一パルス電圧を前記アクチュエータに印加するスイッチと
を有する駆動システム。
【請求項2】
前記アクチュエータが、1回の熱サイクルで目的とする振動を生成する衝撃駆動型アクチュエータである請求項1に記載の駆動システム。
【請求項3】
前記パルス信号のオフ期間が、前記形状記憶合金が完全収縮状態から完全伸張状態まで相転移する時間よりも短い請求項1に記載の駆動システム。
【請求項4】
前記パルス信号のオフ期間が、オン期間に収縮した前記形状記憶合金が伸張を開始するまでの時間より短い請求項1に記載の駆動システム。
【請求項5】
前記パルス信号のオフ期間が、オン期間に上昇した温度が低下を開始するまでの時間より短い請求項1に記載の駆動システム。
【請求項6】
前記パルス信号生成部は、単一パルス信号をPWM制御して前記連続的な複数のパルス信号を生成する請求項1に記載の駆動システム。
【請求項7】
前記パルス信号生成部は、前記形状記憶合金が完全収縮状態に移行する前に前記パルス信号の出力を停止する請求項1に記載の駆動システム。
【請求項8】
キーボードと、
前記キーボードに振動を与える形状記憶合金を利用したアクチュエータと、
前記キーボードが出力するキー・コードに応じて複数のパルス信号を生成するパルス信号生成部と、
前記複数のパルス信号に応じて所定の電圧をスイッチング制御して生成した擬似的な単一パルス電圧を前記アクチュエータに印加するスイッチと
を有する駆動システム。
【請求項9】
前記パルス信号生成部は、前記アクチュエータに前記擬似的な単一パルス電圧の通電時間に相当するパルス幅の通常の単一パルス電圧を印加するように前記スイッチを制御する請求項8に記載の駆動システム。
【請求項10】
振動体と、
前記振動体を振動させる形状記憶合金を利用したアクチュエータと、
前記振動体に対する指の操作に応じて動作イベントを出力するイベント生成部と、
前記動作イベントに応じて複数のサブ・パルス信号を出力するパルス信号生成部と、
前記複数のサブ・パルス信号で所定の電圧をスイッチング制御して生成した擬似的な単一パルス電圧を前記アクチュエータに印加するスイッチと
を有する電子機器。
【請求項11】
前記パルス信号生成部は、前記動作イベントに応じて通常の単一パルス電圧を印加するパルス信号または前記複数のサブ・パルス信号の任意のいずれか一方を出力する請求項10に記載の電子機器。
【請求項12】
形状記憶合金を利用したアクチュエータの駆動方法であって、
前記アクチュエータを通常の単一パルス電圧で駆動するステップと、
振動強度を調整するパラメータを設定するステップと、
前記パラメータに応じて前記通常の単一パルス電圧をスイッチング制御して生成した擬似的な単一パルス電圧で前記アクチュエータを駆動するステップと
を有する駆動方法。
【請求項13】
形状記憶合金を利用したアクチュエータの駆動方法であって、
動作イベントを受け取るステップと、
前記動作イベントに応じて前記アクチュエータに前記形状記憶合金が完全収縮状態から完全伸張状態に移行するまでの時間よりも短い周期で複数のサブ・パルス電圧を印加するステップと、
前記形状記憶合金が前記完全収縮状態に移行した後に前記サブ・パルス電圧を停止するステップと
を有する駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は形状記憶合金を利用したアクチュエータの駆動技術に関し、さらには振動強度を調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
タブレット端末のタッチスクリーン、キー・トラベリングがないフラットタイプのキーボードまたはキー・ストロークのないタッチ式の操作スイッチなどには、ユーザに操作感を与える触覚フィードバック(ハプティク・フィードバック)のためのアクチュエータを組み込む場合がある。これまではアクチュエータの駆動部分に、電磁石、圧電素子、または振動モータなどを採用していたが、近年、振動強度、応答性、およびサイズなどの利点を有する形状記憶合金(SMA:Shape Memory Alloy)を採用するようになってきた。
【0003】
特許文献1は、周囲温度に応じて形状記憶合金に与えるエネルギーを変化させる衝撃発生アクチュエータを開示する。同文献には、入力操作に応じて発生する単一パルス信号に基づく駆動信号を生成し出力する駆動信号発生部と、駆動信号によってスイッチング動作が制御されるスイッチング素子と、スイッチング素子がオンまたはオフする期間通電される形状記憶合金とを有し、周囲温度に応じて、スイッチング素子がオンまたはオフする期間を変化させることを記載する。
【0004】
特許文献2は、パルス電圧を印加して形状記憶合金を採用したアクチュエータを振動させて触覚に対する情報を伝達する装置を開示する。同文献は、パルス電圧の波高値を変化させること、および断続的に印加するパルス波の印加時間を可変にしながら印加する時間間隔を一定にすることを記載する。さらに、パルス電圧の波高値で形状記憶合金本体の振動の強弱を調整できることを記載する。
【0005】
特許文献3は、形状記憶合金を採用したアクチュエータ駆動装置を開示する。アクチュエータ駆動装置は、PNPトランジスタからSMAアクチュエータに電流を供給する電流回路と、SMAアクチュエータに直列に接続された検出抵抗と、検出抵抗による電圧の分圧によりSMAアクチュエータの抵抗値に対応した電圧を検出し、該検出電圧を増幅する増幅回路と、増幅回路の出力電圧に基づいてパルス幅変調したパルス信号により、PNPトランジスタのオン、オフ制御を行うパルス幅変調回路とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−15698号公報
【特許文献2】特開2008−262478号公報
【特許文献3】特開2012−159046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
衝撃駆動型アクチュエータでは、SMAに印加する単一パルス電圧の波高値およびパルス幅で振動体に付与する振動強度を調整することができる。しかし、電力源となるDC/DCコンバータの出力をユーザの触覚の好みに応じて調整することは回路が複雑になり困難である。また、パルス幅を調整すると衝撃駆動型アクチュエータの変位量が変化し、結果として加速度の周波数が変化する。加速度の周波数の変化は振動から指が受ける感覚が変化するため、加速度の周波数を変えないで振動強度を調整したい場合がある。
【0008】
そこで本発明の目的は、形状記憶合金を利用したアクチュエータの振動強度の調整が容易な駆動システムを提供することにある。さらに本発明の目的は、ユーザに触覚への違和感を与えないようにしながら振動強度を調整することが可能な駆動システムを提供することにある。さらに本発明の目的は、そのような駆動システムを適用した駆動方法および電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の態様は、形状記憶合金を利用したアクチュエータと、パルス信号を出力するパルス信号生成部と、連続的な複数のパルス信号で所定の電圧をスイッチング制御して生成した擬似的な単一パルス電圧をアクチュエータに印加するスイッチとを有する駆動システムを提供する。本発明の他の態様は、キーボードと、キーボードに振動を与える形状記憶合金を利用したアクチュエータと、キーボードが出力するキー・コードに応じて複数のパルス信号を生成するパルス信号生成部と、複数のパルス信号に応じて所定の電圧をスイッチング制御して生成した擬似的な単一パルス電圧をアクチュエータに印加するスイッチとを有する駆動システムを提供する。
【0010】
本発明の他の態様は、振動体と、振動体を振動させる形状記憶合金を利用したアクチュエータと、振動体に対する指の操作に応じて動作イベントを出力するイベント生成部と、動作イベントに応じて複数のサブ・パルス信号を出力するパルス信号生成部と、複数のサブ・パルス信号で所定の電圧をスイッチング制御して生成した擬似的な単一パルス電圧をアクチュエータに印加するスイッチとを有する電子機器を提供する。
【0011】
本発明の他の態様は、形状記憶合金を利用したアクチュエータを通常の単一パルス電圧で駆動し、振動強度を調整するパラメータを設定し、パラメータに応じてアクチュエータを通常の単一パルス電圧をスイッチング制御して生成した擬似的な単一パルス電圧で駆動するアクチュエータの駆動方法を提供する。
【0012】
本発明の他の態様は、動作イベントを受け取り、動作イベントに応じてアクチュエータに形状記憶合金が完全収縮状態から完全伸張状態に移行するまでの時間よりも短い周期で複数のサブ・パルス電圧を印加し、形状記憶合金が完全収縮状態に移行した後にサブ・パルス電圧を停止するアクチュエータの駆動方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、形状記憶合金を利用したアクチュエータの振動強度の調整が容易な駆動システムを提供することができた。さらに本発明により、ユーザに触覚への違和感を与えないようにしながら振動強度を調整することが可能な駆動システムを提供することができた。さらに本発明により、そのような駆動システムを適用した駆動方法および電子機器を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】、衝撃駆動型アクチュエータの構造を説明するための模式的な図である。
【
図2】熱サイクルによってSMA101の温度と長さが変化する様子を説明するための図である。
【
図3】衝撃駆動型アクチュエータ100に印加することが可能なパルス電圧の種類を説明するための図である。
【
図4】擬似的な単一パルス電圧75に対してSMA101が応答する様子を説明するための図である。
【
図5】衝撃駆動型アクチュエータ100の駆動システム200の構成を示す機能ブロック図である。
【
図6】駆動システム200の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[用語]
本明細書で使用する特別な用語を説明する。SMAを利用したアクチュエータは、マルテンサイト相(低温相)とオーステナイト相の間のヒステリシス・サイクル(熱サイクル)で動作する。アクチュエータは振動体に振動を与えるためにそれ自体が規則的な運動をする。SMAを利用したアクチュエータには、衝撃駆動型アクチュエータと振動型アクチュエータが存在する。
【0016】
衝撃駆動型アクチュエータは、1個の単一パルス電圧または1回の熱サイクルで目的とする振動を生成することができる。振動型アクチュエータは、熱サイクルを可能にする所定の間隔で繰り返し印加した複数の単一パルス電圧で目的とする振動を生成する。本発明にかかる駆動システムはいずれのタイプのアクチュエータにも適用できるが、本明細書では衝撃駆動型アクチュエータを例示して説明する。
【0017】
単一パルス電圧は、短い所定の通電時間だけ存在する電圧で、SMAにアクチュエータの1回の駆動に必要な熱を供給する。単一パルス電圧は、SMAの収縮に対して電流として作用するため単一パルス電流と言い換えることもできる。通電時間中の電圧波形は矩形波、微分波、三角波、またはステップ状に波高値が変化する階段波などのような任意の波形とすることができる。
【0018】
振動体は、衝撃駆動型アクチュエータに印加した1個の単一パルス電圧で必要な振動をする物体に相当する。振動体は特に限定する必要はないが、一例において、タッチパネル、キーボード、またはスイッチのような人間が操作をする際に触れた指に触覚フィードバックを付与する物体とすることができる。衝撃駆動型アクチュエータおよび振動型アクチュエータに、単一パルス電圧を連続して印加する場合には完全な熱サイクルを維持するために所定の間隔を設ける必要がある。
【0019】
本発明は、衝撃駆動型および振動型のいずれのアクチュエータの駆動に適用することができるが、以下においては衝撃駆動型アクチュエータ100を例示して説明する。
図1は、衝撃駆動型アクチュエータ100の構造を説明するための模式的な図である。衝撃駆動アクチュエータ100は、固定子103、可動子105、SMA101およびバイアス材107で構成している。衝撃駆動型アクチュエータ100は、振動体10に衝撃性または一過性の振動を与える。SMA101は、1方向性の形状記憶とバイアス力で繰り返し動作をする。ただし、本発明は2方向性の形状記憶をするSMAを適用したアクチュエータに適用することもできる。
【0020】
固定子103と可動子105が対向する対向面は、互いの凹凸が嵌合できるような波状に形成している。対向面の間には、線状のSMA101を配置している。SMA101は、例えばニッケル・チタン合金、チタン・ニッケル・銅合金などを選択できるが特に限定する必要はない。バイアス材107は、固定子103と可動子105が接近する方向にバイアス力を与える弾性体で構成することができる。
【0021】
図1(A)は、SMA101が、マルテンサイト変態終了温度Mf(
図2)以下の温度になって柔軟な性状を示したときの様子を示している。バイアス材107が、可動子105に付与したバイアス力で可動子105が固定子103に接近して対向面が嵌合する。対向面で塑性変形したSMA101は、固定子103と可動子105の波状の形状に沿って最大の長さまで伸張する。SMA101が対向面の形状およびバイアス材107によって塑性変形し長さが最大になっている状態を完全伸張状態という。
【0022】
図1(B)はSMA101が温度の上昇に伴って収縮および硬化してオーステナイト変態終了温度Af(
図2)を超え記憶していた形状に戻ったときの様子を示している。SMA101の収縮が終了した状態を完全収縮状態という。完全伸張状態から完全収縮状態に移行する間にSMA101から力を受けた可動子105は、バイアス力に抗して固定子103との間隔が広がるように変位する。衝撃駆動型アクチュエータ100は、単一パルス電圧を印加すると1回の熱サイクルでSMA101が完全伸張状態から完全収縮状態に相転移し、さらに、通電時間が終了すると完全伸張状態に戻る。
【0023】
図2は、熱サイクルによってSMA101の温度と長さが変化する様子を説明するための図である。横軸はSMA101の温度Tを示し、縦軸は長さLを示している。SMA101は、温度がマルテンサイト変態終了温度Mf以下のときは、全体がほぼマルテンサイト相に相転移している。マルテンサイト相では、SMA101が柔軟性を備えるため、バイアス力を与えて塑性変形させることができる。
【0024】
マルテンサイト相に相転移しているSMA101に電圧を印加して通電加熱すると、温度がオーステナイト変態開始温度Asを超えたときにマルテンサイト逆変態を開始して収縮が始まる。そして温度がオーステナイト変態終了温度Afに到達したときに収縮が終了して長さがL1(L1<L0)の完全収縮状態になる。温度がオーステナイト変態開始温度Asからオーステナイト変態終了温度Afまで上昇する過程を完全昇温過程ということにする。
【0025】
完全収縮状態のときに通電を停止すると、放熱により温度が低下してマルテンサイト変態開始温度Msでマルテンサイト変態が始まり徐々に軟化する。この間、軟化の程度とバイアス力によりSMA101は徐々に伸張する。そして、温度がマルテンサイト変態終了温度Mfに到達したときに伸張が終了して長さがL0の完全伸張状態になる。温度がマルテンサイト変態開始温度Msからマルテンサイト変態終了温度Mfまで下降する過程を完全降温過程ということにする。完全降温過程では、SMA101の長さが完全収縮状態から完全伸張状態まで変化する。
【0026】
SMA101は、1回の完全昇温過程と1回の完全降温過程が構成する完全熱サイクルの間にL0−L1=dだけ長さが伸縮する。可動子105は、振動体10に対して、長さL1の完全収縮状態で曲げ応力を加え、長さL0の完全伸張状態で解放する。振動体10は単一パルス電圧による急激な応力の付与と解放に応じて振動する。振動の大きさは可動子105の変位量と変位速度で調整することができる。
【0027】
可動子105の変位量は、SMA101の収縮量、すなわち温度に依存する。たとえば、波高値が同じ単一パルス電圧でもパルス幅が狭くてオーステナイト変態終了温度Afに到達する前の温度T1で通電時間が終了すると、SMA101は長さL2(L2>L1)までしか収縮しないため可動子105の変位量は完全昇温過程の熱サイクルよりも少ない。したがって、振動体10の変位は小さくなり加速度は低下する。
【0028】
オーステナイト変態終了温度Afに到達する前に通電時間が終了するようなパルス幅の狭い単一パルス電圧による昇温過程を不完全昇温過程ということにする。また、通電時間が同じ単一パルス電圧でも波高値が小さい場合は、完全収縮状態に移行する前に通電が停止する場合があり不完全昇温過程で相転移する。さらに、同じ通電時間であっても波高値が大きいほど長さL1まで収縮する時間が短く可動子105の変位速度は速くなる。なお、完全収縮状態に到達した後以降に継続する電圧は、可動子105の変位すなわち振動強度に影響を与えないため無駄なエネルギーとして消費される。さらに完全収縮状態での印加時間が長くなりすぎるとSMA101の劣化を促進する。
【0029】
図3は、衝撃駆動型アクチュエータ100に印加することが可能なパルス電圧の種類を説明するための図である。SMA101に単一パルス電圧を印加するとその時点の抵抗値の大きさに応じた単一パルス電流が流れ、抵抗値と電圧または電流の大きさに応じたジュール熱が発生する。
図3(A)は、波高値V1と通電時間に相当するパルス幅Waが同じ単一パルス電圧71a〜71cで構成したパルス電圧群71を示している。
【0030】
パルス電圧群71は、単一パルス電圧71a〜71cの間に非通電時間Wsを設定している。衝撃駆動型アクチュエータ100が所定の性能を発揮するためには、
図2で説明した熱サイクルにおける完全降温過程を終了する必要がある。完全収縮状態から完全伸張状態に相転移するために必要な時間を復帰時間ということにする。したがって、非通電時間Wsは、復帰時間より長くする必要がある。さらに非通電時間Wsは、衝撃駆動型アクチュエータ100が短時間で許容できるストレスの大きさから復帰時間よりも長くなる場合がある。パルス電圧群71を印加すると、各単一パルス電圧71a〜71cを印加したときの振動体10の加速度は同じ値になる。
【0031】
図3(B)は、パルス幅Waが等しく波高値V1〜V3が異なる単一パルス電圧73a〜73cを含むパルス電圧群73を示している。パルス電圧群73を印加すると、各単一パルス電圧73a〜73cを印加したときの振動体10の加速度が変化するが周波数はほとんど変化しないため、触覚フィードバックに適用すると、振動強度だけが異なった似た触覚になるので都合がよい。
【0032】
図3(C)は、波高値V1が等しくパルス幅Wa1〜Wa3が異なる単一パルス電圧74a〜74cを含むパルス電圧群74を示している。パルス幅Wa1の単一パルス電圧74aで、完全昇温過程を形成できる場合は、振動強度を調整するためのパルス幅Wa2、Wa3は、不完全昇温過程を形成するためにWa1より小さくなる。パルス電圧群74を印加したときに、各単一パルス電圧74a〜74cが生成する振動体10の加速度だけでなく周波数も変化するため、触覚フィードバックに利用すると、振動強度だけでなく触覚も変化するためユーザが違和感を覚えることがある。したがって、触覚フィードバックに利用する場合は、波高値を制御する方が望ましい。
【0033】
図3(D)は、通電時間Wb、波高値V1の複数のサブ・パルス電圧75aで構成した擬似的な単一パルス電圧75を示している。擬似的な単一パルス電圧75は、単一パルス電圧71aをスイッチング制御して生成することができ、そのときの通電時間Wbは、単一パルス電圧71aのパルス幅Waに相当する。擬似的な単一パルス電圧75に対して通電時間の間断続することのない単一パルス電圧71aを通常の単一パルス電圧という。
【0034】
図4は、擬似的な単一パルス電圧75に対してSMA101が応答する様子を説明するための図である。
図4では、比較のために通常の単一パルス電圧71aを印加したときの応答も示している。最初に通常の単一パルス電圧71aを印加したときの様子を説明する。通常の単一パルス電圧71aを時刻t0で印加するとSMA101はライン81に沿って収縮し、時刻t1で完全収縮状態になって時刻t3まで長さL1を維持する。時刻t3で通電時間Waが終了すると温度が低下して、バイアス力でライン83に沿って長さL0に戻る。
【0035】
擬似的な単一パルス電圧75は、通常の単一パルス電圧71aをPWM制御して生成した周期W、オン期間W1、オフ期間W2の複数のサブ・パルス電圧75aで構成することができる。サブ・パルス電圧75aは、PWM制御に代えて通常の単一パルス電圧71aからオン期間一定またはオフ期間一定のPFM制御で生成してもよい。オフ期間W2は、完全熱サイクルを実現するために必要な完全降温過程の時間より短い。
【0036】
オフ期間W2は、昇温過程においてオン期間W1が終了したあとにSMA101の温度がマルテンサイト変態終了温度Mfまで下がらないように選択することができる。一例ではオフ期間W2を、オン期間W1で上昇した温度がオフ期間W2の間に低下しないような時間にすることができる。さらに他の例では、オフ期間W2を、オン期間W1で収縮したときの長さが、それに続くオフ期間W2で伸張しないような時間にすることができる。
【0037】
SMA101に時刻t0で擬似的な単一パルス電圧75を印加すると、オン期間W1で温度が上昇して収縮し、オフ期間W2で収縮を停止させることができる。本実施の形態では、オフ期間W2をほとんど温度低下がない程度、または、伸張しない程度に短くしているため、オフ期間W2の間はSMA101の長さがほとんど変化しない。
【0038】
サブ・パルス電圧75aの断続によりSMA101はライン85に沿って収縮し、時刻t2で完全昇温過程が終了して完全収縮状態に移行した後は、時刻t3まで長さL1を維持する。時刻t3で通電時間Wbが終了すると、SMA101は温度が低下して通常の単一パルス電圧71aを印加した場合と同じようにバイアス力でライン83に沿って長さL0に戻る。
【0039】
擬似的な単一パルス電圧75は、複数のサブ・パルス電圧75aで構成して昇温過程における可動子105の変位速度および変位量を調整することができる。時刻t0から時刻t3までの間に擬似的な単一パルス電圧75が与える熱量は、波高値がVn(Vn<V1)の通常の単一パルス電圧91を印加した場合と等価になる。
【0040】
ライン81とライン85を比較すると明らかなように擬似的な単一パルス電圧75を印加すると、SMA101が完全収縮状態に移行するまでの時間は、通常の単一パルス電圧71aを印加した場合よりも長くなる。このことは、振動体10に与える加速度が小さくなることを意味する。また、擬似的な単一パルス電圧75を印加して、SMA101が完全収縮状態に移行する場合は、通常の単一パルス電圧71aを印加した場合と可動子105の変位量が同じになるため、加速度の周波数がほとんど変化しない。
【0041】
擬似的な単一パルス電圧75は、PWM制御またはPFM制御でサブ・パルス電圧75aのデューティ比を変えることで可動子105の加速度を調整することができる。擬似的な単一パルス電圧75を完全昇温過程が終了する前の時刻t4で停止すると長さはL2(L2>L1)まで縮小してからライン88に沿って長さL0まで伸張する。この場合はパルス幅を調整する単一パルス電圧74b、74c(
図3)と同様に加速度を調整することができるが加速度の周波数も変化する。
【0042】
[アクチュエータの駆動システム]
図5は、衝撃駆動型アクチュエータ100の駆動システム200の構成を示す機能ブロック図である。駆動システム200は、イベント生成部201、パルス信号生成部203、ユーザ・インターフェース204、フラット型のキーボード205、直流電圧源207、衝撃駆動型アクチュエータ100、N型のFET209およびコンデンサ211で構成している。イベント生成部201、パルス信号生成部203およびユーザ・インターフェースの一部は、SoC(System on Chip)や専用のコントローラで構成することができる。
【0043】
キーボード205は
図1の振動体10の一例に相当する。キーボード205は、入力したときにパンタグラフ式のキーボードのような操作感(タクタイル)がないタイプのキーボードである。キーボード205は、典型的にはキーが独立しておらず表面を連続したシートで覆われている。キーボード205は、キーのメーク・コードおよびブレーク・コードまたはいずれか一方のキー・コードをイベント生成部201に出力する。キーボード205は、タッチスクリーンで構成したソフトウェア・キーボードでもよい。
【0044】
イベント生成部201は、キー・コードを受け取るタイミングでパルス信号生成部203に動作イベントを出力する。イベント生成部201はパルス信号生成部203に、メーク・コードとブレーク・コードが識別できる動作イベントを送ることができる。イベント生成部201は、動作イベントの種類に、通常の単一パルス電圧71aまたは擬似的な単一パルス電圧を関連付けてパルス信号生成部203に指示することができる。パルス信号生成部203は、動作イベントを受け取ったタイミングで、通常の単一パルス電圧71aまたは擬似的な単一パルス電圧75を印加するためのパルス信号をFET209のゲートに出力する。擬似的な単一パルス電圧75を印加するためのパルス信号は、サブ・パルス電圧75aに対応するサブ・パルス信号で構成する。
【0045】
パルス信号生成部203は、連続するメーク・コードとブレーク・コードに対する通常の単一パルス電圧71aまたは擬似的な単一パルス電圧75を出力する場合は、ブレーク・コードに対する擬似的な単一パルス電圧75を出力する場合に、非通電時間Wsを確保する。ユーザ・インターフェース204は、タッチスクリーンを含み、ユーザがサブ・パルス電圧75aの周期W、オン期間W1、オフ期間W2および通電時間Wsといったパラメータを設定するためのインターフェースを提供する。ユーザ・インターフェース204はパラメータをパルス信号生成部203に設定する。
【0046】
ユーザはユーザ・インターフェース204を通じて設定したさまざまなパラメータで触覚フィードバックを体験してから好みの振動を設定することができる。パルス信号生成部203は、メーク・コードとブレーク・コードに対応する擬似的な単一パルス電圧75を印加する場合に、異なるパラメータのパルス信号を出力することができる。衝撃駆動型アクチュエータ100は、ユーザがキー入力をすると、指がキーにタッチしている間にキーボード205の基板に振動を付与する。
【0047】
直流電圧源207は、DC/DCコンバータで構成され所定の直流電圧を出力する。本実施の形態においては、直流電圧源207の出力電圧は変化しない。コンデンサ211は、FET209のオフ期間に充電しオン期間に放電して衝撃駆動型アクチュエータ100に通電する。FET209は直流電圧をスイッチング制御する半導体素子であり、バイポーラ・トランジスタを採用してもよい。また、直流電圧源207が十分な容量を備えていればコンデンサ211はなくてもよい。
【0048】
図6は、駆動システム200の動作を示すフローチャートである。ブロック301でパルス信号生成部203には、波高値V1、パルス幅Waの通常の単一パルス電圧71aが設定されている。ブロック303でイベント生成部201が動作イベントを出力するたびに、ブロック305で衝撃駆動型アクチュエータ100に、通常の単一パルス電圧71aが印加される。ブロック307で、ユーザはユーザ・インターフェース204を通じて振動強度を調整する。
【0049】
振動強度の調整のために、ブロック309でサブ・パルス電圧75aのデューティ比および必要に応じて通電時間Wbがパルス信号生成部203に設定される。ブロック311でイベント生成部201が動作イベントを出力するたびに、ブロック313で衝撃駆動型アクチュエータ100に、波高値V1、通電時間Wbの擬似的な単一パルス電圧75が印加される。パルス信号生成部203は、通電時間Wbを単一パルス電圧71aのパルス幅Waと同じ値にすることもできる。
【0050】
駆動システム200は振動体10をキーボード205に代えて、タブレット端末やスマートフォンなどのタッチスクリーンや、操作ストロークのないあらゆるタイプのスイッチに適用することができる。駆動システム200は、直流電圧源207の出力電圧を制御することなく、通常の単一パルス電圧71aから擬似的な単一パルス電圧75を容易に生成することができる。
【0051】
したがって、通常の単一パルス電圧71aと擬似的な単一パルス電圧75の切り換えは容易に行うことができる。この特徴を利用して、タッチスクリーンに適用する場合にイベント生成部201とパルス信号生成部203は、ソフトウェア・キーボード、またはアプリケーションの起動アイコンのような操作オブジェクトに応じて通常の単一パルス電圧71aおよび擬似的な単一パルス電圧75を使い分けることができる。あるいは、メーク・コードに応じて通常の単一パルス電圧71aを印加しブレーク・コードに応じて擬似的な単一パルス電圧75を印加することもできる。
【0052】
これまで本発明について図面に示した特定の実施の形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができることはいうまでもないことである。
【符号の説明】
【0053】
10 振動体
71a〜71c 通常の単一パルス電圧
75 擬似的な単一パルス電圧
75a サブ・パルス電圧
100 衝撃駆動型アクチュエータ
101 形状記憶合金(SMA)
103 固定子
105 可動子
107 バイアス材
200 駆動システム
V1〜V3 波高値
Wa、Wa1〜Wa3 パルス幅
W 周期
W1 オン期間
W2 オフ期間
Wb 通電時間
Ws 非通電時間
【手続補正書】
【提出日】2017年6月7日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の波高値と所定の通電時間の単一パルス電圧の印加で1回の熱サイクルを終了し目的とする振動を生成する形状記憶合金を利用した衝撃駆動型のアクチュエータと、
前記所定の通電時間の間に複数のサブ・パルス信号を出力するパルス信号生成部と、
前記複数のサブ・パルス信号で前記所定の波高値に相当する直流電圧をスイッチング制御して生成した複数のサブ・パルス電圧を前記アクチュエータに印加するスイッチと
を有する駆動システム。
【請求項2】
前記サブ・パルス信号のオフ期間が、前記形状記憶合金が完全収縮状態から完全伸張状態まで相転移する時間よりも短い請求項1に記載の駆動システム。
【請求項3】
前記サブ・パルス信号のオフ期間が、オン期間に収縮した前記形状記憶合金が伸張を開始するまでの時間より短い請求項1に記載の駆動システム。
【請求項4】
前記サブ・パルス信号のオフ期間が、オン期間に上昇した温度が低下を開始するまでの時間より短い請求項1に記載の駆動システム。
【請求項5】
前記パルス信号生成部は、単一パルス信号をPWM制御して前記サブ・パルス信号を生成する請求項1に記載の駆動システム。
【請求項6】
前記パルス信号生成部は、前記形状記憶合金が完全収縮状態に移行する前に前記サブ・パルス信号の出力を停止する請求項1に記載の駆動システム。
【請求項7】
キーボードと、
所定の波高値と所定の通電時間の単一パルス電圧の印加で熱サイクルを終了し前記キーボードに衝撃を与える形状記憶合金を利用した衝撃駆動型のアクチュエータと、
前記キーボードが出力するキー・コードに応じて前記所定の通電時間の間に複数のサブ・パルス信号を生成するパルス信号生成部と、
前記複数のサブ・パルス信号に応じて前記所定の波高値に相当する直流電圧をスイッチング制御して生成した複数のサブ・パルス電圧を前記アクチュエータに印加するスイッチと
を有する駆動システム。
【請求項8】
前記パルス信号生成部は、前記スイッチが前記アクチュエータに前記所定の通電時間の単一パルス電圧を印加するためのパルス信号を出力する請求項7に記載の駆動システム。
【請求項9】
振動体と、
所定の波高値と所定の通電時間の単一パルス電圧の印加で熱サイクルを終了し前記振動体に衝撃力を付与する形状記憶合金を利用した衝撃駆動型のアクチュエータと、
前記振動体に対する指の操作に応じて動作イベントを出力するイベント生成部と、
前記動作イベントに応じて前記所定の通電時間の間に複数のサブ・パルス信号を出力するパルス信号生成部と、
前記複数のサブ・パルス信号で前記所定の波高値に相当する直流電圧をスイッチング制御して生成した複数のサブ・パルス電圧を前記アクチュエータに印加するスイッチと
を有する電子機器。
【請求項10】
前記パルス信号生成部は、前記動作イベントに応じて前記スイッチが前記所定の通電時間の単一パルス電圧を印加するためのパルス信号または前記複数のサブ・パルス信号の任意のいずれか一方を出力する請求項9に記載の電子機器。
【請求項11】
所定の波高値と所定の通電時間の単一パルス電圧の印加で熱サイクルを終了し目的とする振動を生成する形状記憶合金を利用した衝撃駆動型のアクチュエータの駆動方法であって、
前記アクチュエータを前記単一パルス電圧で駆動するステップと、
振動強度を調整するパラメータを設定するステップと、
前記パラメータに応じて前記所定の通電時間の間に前記所定の波高値に相当する直流電圧をスイッチング制御して生成した複数のサブ・パルス電圧で前記アクチュエータを駆動するステップと
を有する駆動方法。
【請求項12】
所定の波高値と所定の通電時間の単一パルス電圧の印加で熱サイクルを終了し目的とする振動を生成する形状記憶合金を利用した衝撃駆動型のアクチュエータの駆動方法であって、
動作イベントを受け取るステップと、
前記動作イベントに応じて前記アクチュエータに前記形状記憶合金が完全収縮状態から完全伸張状態に移行するまでの時間よりも短い周期で前記所定の通電時間の間に前記所定の波高値の複数のサブ・パルス電圧を印加するステップと、
前記形状記憶合金が前記完全収縮状態に移行した後に前記サブ・パルス電圧を停止するステップと
を有する駆動方法。