【解決手段】空燃比がフィードバック制御されるエンジン10の燃料噴射システムに関する故障を診断する診断装置1において、空燃比の目標値と計測値との差に基づき燃料噴射量の補正値を算出する算出部2を設ける。燃料噴射形態の切り換えに際し、故障の診断が保留されるマスク期間を補正値に基づいて設定する設定部3を設ける。マスク期間内で診断を実施せず、マスク期間外で診断を実施する診断部4を設ける。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、燃料噴射形態が変更されたときに一律に故障判定を禁止すると、その一定の時間内に発生した故障の発見が必然的に遅れることになるため、故障診断精度が低下する。また、故障の発見が遅れることで、エンジンの燃焼状態が不安定なまま空燃比が不適切に制御され続けることとなり、エンジン制御の安定性,信頼性が低下しうる。このような課題は、特にエンジン回転速度が大きい状態であるほど顕著となる。
【0006】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑みて創案されたものであり、故障の誤判定を効率的に抑制して診断精度を改善できるようにした診断装置を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)開示の診断装置は、空燃比がフィードバック制御されるエンジンの燃料噴射システムに関する故障を診断する診断装置である。本診断装置は、前記空燃比の目標値と計測値との差に基づき燃料噴射量の補正値を算出する算出部を備える。また、前記燃料噴射システムによる燃料噴射形態の切り換えに際し、前記故障の診断が保留されるマスク期間を前記補正値に基づいて設定する設定部を備える。さらに、前記マスク期間内で前記診断を不実施とし、前記マスク期間外で前記診断を実施する診断部を備える。
【0008】
(2)前記算出部が、前記差の積算値と前記積算値の定常成分に相当する学習値とを算出することが好ましい。また、前記設定部が、前記積算値と前記学習値とを用いて前記マスク期間を設定することが好ましい。
(3)前記設定部が、前記切り換えの直前での前記積算値と、前記切り換えの直後での前記学習値とを用いて前記マスク期間を設定することが好ましい。
【0009】
(4)前記切り換えが、異なる前記学習値を有する前記燃料噴射形態への切り換えであることが好ましい。
なお、前記学習値が同一である前記燃料噴射形態への切り換えに際しては、前記設定部が前記マスク期間を非設定とすることが好ましい。つまりこの場合、前記切り換えの直後から前記診断部が前記診断を実施することが好ましい。
【0010】
(5)前記設定部が、前記目標値を基準とした前記学習値の偏り方向と、前記目標値を基準とした前記積算値の偏り方向とが一致する場合に、前記マスク期間を設定することが好ましい。
(6)前記設定部が、前記目標値を含む正常範囲外に前記積算値がある場合に、前記マスク期間を設定することが好ましい。
【0011】
(7)前記設定部が、前記積算値の前記正常範囲からのずれ量に応じた長さの前記マスク期間を設定することが好ましい。
(8)前記設定部が、前記エンジンの行程を単位として前記マスク期間を設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
マスク期間を可変の期間とすることで、エンジンの運転状態に見合った診断保留時間を設定することができ、誤診を効率的に抑制して診断精度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して、実施形態としての診断装置について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0015】
[1.エンジン]
図1は、車両に搭載されるエンジン10の燃料噴射システムと、燃料噴射システムに関する故障を診断する診断装置1とを示す模式図である。ここでは、複数気筒のうちの一つを示す。燃料噴射システムとしては、筒内噴射(DI)とポート噴射(MPI)とを使用した燃料噴射を実施するものを例示する。各気筒には、筒内で燃料を噴射する筒内噴射弁5と、吸気ポート内で燃料を噴射するポート噴射弁6とが設けられる。また、エンジン10の吸気系には、スロットル弁9が配置される。筒内に導入される混合気の空燃比(A/F)は、筒内噴射弁5及びポート噴射弁6から噴射される燃料量と、スロットル弁9の開度によって制御される吸気量とに応じて変動しうる。
【0016】
排気系には、空燃比(あるいは空気過剰率や当量比)を計測するためのセンサが取り付けられる。
図1に示す例では、排気浄化触媒の上流側に第一空燃比センサ7が設けられ、排気浄化触媒の下流側に第二空燃比センサ8が設けられている。これらの空燃比センサ7,8は、排気ガス中の酸素濃度や炭化水素濃度に応じた信号を出力しうるセンサであり、例えばリニア空燃比センサ(LAFS)やジルコニア式酸素濃度センサなどである。空燃比センサ7,8から出力される信号は、排気ガス中の酸素濃度や炭化水素濃度から推定される実際の空燃比(すなわち、空燃比の計測値)に相当する。
【0017】
エンジン10の筒内で燃焼する混合気の空燃比は、空燃比の目標値と計測値との差に基づき、図示しないエンジン制御装置によってフィードバック制御(F/B制御)される。フィードバック制御では、空燃比の目標値と計測値との差が小さくなるように、燃料量や吸気量が行程毎に補正される。一般に、フィードバック制御での補正値には、空燃比の目標値と計測値との差に応じて設定される比例補正値や、差の微分値に応じて設定される微分補正値や、差の積分値に応じて設定される積分補正値などが含まれる。本実施形態のフィードバック制御には、少なくとも積分補正値(差の積算値)であるF/B積分値と、その定常成分に相当するA/F学習値とが含まれる。これらの算出手法については後述する。
【0018】
エンジン10には、複数種類の噴射モード(燃料噴射形態)があらかじめ設定されており、エンジン10に要求される出力の大きさや作動状況(エンジン回転速度,負荷など)に応じて、燃料噴射システムによって切り換えられる。噴射モードを設定するためのマップを
図2(A)〜(C)に例示する。
図2(A)は、MPI噴射モード,MPI+DI一括噴射モード,MPI+DI分割噴射モードの三種類が設定された燃料噴射システム用のマップである。
図2(B)は、拡散燃焼噴射モード,予混合燃焼噴射モードの二種類が設定された燃料噴射システム用のマップである。
図2(C)は、DI圧縮行程噴射モード,DI吸気行程噴射モード,MPI+DI吸気行程噴射モードの三種類が設定された燃料噴射システム用のマップである。各マップ上の実線及び破線は、各噴射モードの境界に付与されたヒステリシス特性(履歴特性)を表す。
【0019】
MPI噴射モードは、ポート噴射弁6を用いて燃料噴射を実施する噴射モードである。これに対し、MPI+DI一括噴射モード,MPI+DI分割噴射モードは、おもに筒内噴射弁5を用いて、場合によってはポート噴射弁6を併用しながら燃料噴射を実施する噴射モードである。これらのモードのうち、前者では筒内噴射弁5からの噴射が単噴射(噴射回数を複数回に分けずに燃料を噴射すること)とされ、後者では分割噴射(複数回に分けて燃料を噴射すること)とされる。
拡散燃焼噴射モードは、エンジン10の筒内で拡散燃焼が実現されるように、圧縮行程から燃焼行程にかけての多段噴射を実施する噴射モードである。一方、予混合燃焼噴射モードは、予混合燃焼が実現されるように、圧縮行程内のみでの燃料噴射を実施する噴射モードである。
DI圧縮行程噴射モードは、圧縮行程で筒内噴射を実施する噴射モードである。DI吸気行程噴射モードは、吸気行程で筒内噴射を実施する噴射モードであり、MPI+DI吸気行程噴射モードは、筒内噴射とポート噴射とを併用する噴射モードである。
【0020】
診断装置1は、エンジン10の燃料噴射システムに関する故障を診断する機能を持った電子制御装置(コンピュータ,ECU)であり、エンジン10が搭載された車両の車載ネットワークに接続される。車載ネットワーク上には、上記の空燃比センサ7,8のほか、エンジン10や補機類,各種センサ類なども接続される。診断装置1の内部には、バスを介して互いに接続されたプロセッサ,メモリ,インタフェイス装置などが内蔵される。なお、上述のエンジン制御装置の内部に診断装置1の機能を内蔵させてもよい。
【0021】
プロセッサは、例えば制御ユニット(制御回路)や演算ユニット(演算回路),キャッシュメモリ(レジスタ)などを内蔵する処理装置である。また、メモリは、プログラムや作業中のデータが格納される記憶装置であり、ROM,RAM,不揮発メモリなどを含む。診断装置1で実施される制御の内容は、ファームウェアやアプリケーションプログラムとしてメモリに記録,保存されており、プログラムの実行時にはプログラムの内容がメモリ空間内に展開されプロセッサで実行される。
【0022】
[2.制御構成]
図1中の診断装置1は、その機能をブロック図で模式的に表したものである。診断装置1には、算出部2,設定部3,診断部4が設けられる。本実施形態では、これらの要素の各機能がソフトウェアで実現されるものとする。ただし、各機能の一部又は全部をハードウェア(電子制御回路)で実現してもよく、あるいはソフトウェアとハードウェアとを併用して実現してもよい。
【0023】
算出部2は、空燃比の目標値と計測値との差に基づき、燃料噴射量の補正量を算出するものである。ここでは補正量として、上記の積分補正値であるF/B積分値と、上記の学習値であるA/F学習値とが算出される。F/B積分値は、エンジン10の作動中は常に算出される。また、A/F学習値は、所定の学習条件が成立する状況下で算出される。学習条件には、前回のA/F学習値の算出から所定行程数(あるいは所定時間)が経過していることや、エンジン10の作動状態が安定していることなどが含まれる。本実施形態のA/F学習値は、噴射モード毎に異なる値が設定されるものとする。ただし、共通のA/F学習値を有する噴射モードが存在してもよい。
【0024】
F/B積分値は、空燃比の目標値から計測値を減じたものの積算値に基づいて算出され、例えばその積算値に所定のゲインを乗じた値とされる。この場合、空燃比の計測値が目標値と比較してリーンであれば(計測値が目標値よりも大きければ)F/B積分値が負の値となり、リーンの度合いが強いほどその絶対値が大きくなる。反対に、計測値が目標値と比較してリッチならばF/B積分値が正の値となり、リッチの度合いが強いほどその絶対値が大きくなる。ただし、次に説明するA/F学習値がゼロ以外の数値に設定された場合には、その時点のF/B積分値からA/F学習値を減じた値が、最終的なF/B積分値として算出される。
【0025】
A/F学習値は、F/B積分値に遅延処理(例えば、一次ローパスフィルタや移動平均処理などのなまし処理)を施した値とされる。空燃比の計測値が目標値と比較してリーン傾向であれば、A/F学習値が負の値となり、その傾向が強いほどその絶対値が大きくなる。反対に、計測値が目標値と比較してリッチ傾向であればA/F学習値が正の値となり、その傾向が強いほどその絶対値が大きくなる。F/B積分値に遅延処理を施すことで、F/B積分値に含まれるノイズや高周波振動成分が除去され、その定常成分に相当する値が抽出される。なお、F/B積分値,A/F学習値の具体的な算出手法については、このような算出手法に限らず、公知のフィードバック制御の手法を採用することができる。
【0026】
設定部3は、燃料噴射システムによる噴射モード(燃料噴射形態)の切り換えに際し、燃料噴射量の補正量(例えば、上記のF/B積分値,A/F学習値など)に基づいてマスク期間を設定するものである。マスク期間とは、故障の診断が保留される期間を意味する。マスク期間が設定される条件を以下に例示する。マスク期間は、少なくとも条件1〜4のいずれかが成立する場合に設定され、好ましくは条件1〜4のすべてが成立する場合に設定される。
条件1.異なるA/F学習値を有する噴射モードへの切り換えがなされた
条件2.A/F学習値が正常範囲の上限値または下限値に達している
条件3.F/B積分値の符号とA/F学習値の符号とが一致する
条件4.F/B積分値が正常範囲外にある
上記の条件1〜4に含まれるF/B積分値は、噴射モードが切り換えられる直前のF/B積分値であることが好ましい。一方、A/F学習値は、噴射モードが切り換えられた直後のA/F学習値であることが好ましい。
【0027】
マスク期間は、F/B積分値の正常範囲からのずれ量に応じた長さに設定される。例えば、F/B積分値が正の場合には、F/B積分値から正常範囲の上限値を減じた値に基づいて、マスク期間が設定される。また、F/B積分値が負の場合には、正常範囲の下限値からF/B積分値を減じた値に基づいて、マスク期間が設定される。つまり、正常範囲からの逸脱量が大きいほどマスク期間が延長されるため、噴射モードの切り換えによって生じうる故障の誤判定が効率的に抑制される。
【0028】
本実施形態の設定部3は、エンジン10の行程を単位としたマスク期間を設定する。すなわち、マスク期間が行程数(いわゆるIG数)で与えられる。例えば
図3に示すように、マスク期間がC
0に設定されると、その値がマスクカウンタCに入力され、行程が進むたびにその値が所定値D(例えばD=1)ずつ減算される。その後、マスクカウンタCの値が0以下になるまでの時間が、故障診断の保留時間とされる。保留時間は、マスク期間が一定であってもエンジン回転速度が大きいほど短縮される。つまり、エンジン10の行程単位でマスク期間を設定することで、エンジン回転速度に見合った故障診断の保留時間を付与することが可能となり、故障の診断精度が向上する。
【0029】
診断部4は、設定部3で設定されたマスク期間を除いて、燃料噴射システムの故障診断を常に実施するものである。ここでは、A/F学習値が正常範囲の上限値または下限値に達しており、かつ、F/B積分値が正常範囲外にある状態が所定時間継続した場合に、燃料噴射システムに故障が発生したと診断される。診断結果は、故障コード(ダイアグコード)としてメモリに記録,保存されるとともに、車室内に設けられたメーターパネルに表示される。
【0030】
[3.フローチャート]
図4は、燃料噴射システムの故障診断の手順を例示するフローチャートである。エンジン10の作動状態に基づいて噴射モードが選択,設定され(A1)、空燃比の目標値と計測値との差に基づいてF/B積分値が算出される(A2)。所定の学習条件が成立すると(A3)、F/B積分値に基づいて噴射モード毎にA/F学習値が更新,学習される(A4)。なお、学習条件が成立しなければ、それまでのA/F学習値の値が変更されずに維持される。
【0031】
また、ステップA1で噴射モードが切り換えられていた場合(A5,条件1に相当)には、マスク期間の設定条件が成立するか否かが判定される。まず、A/F学習値が制限値(例えば、正常範囲の上限値または下限値)に到達するほど偏っているか否かが判定される(A6,条件2に相当)。次に、F/B積分値がA/F学習値と同じ方向に偏っているか否かが判定される(A7,条件3に相当)。また、F/B積分値が正常範囲外に偏って存在しているか否かが判定される(A8,条件4に相当)。これらの条件判定では、噴射モードが切り換えられる直前のF/B積分値と、噴射モードが切り換えられた直後のA/F学習値とが参照される。これらの条件が成立すると、燃料噴射量の補正量に基づき、エンジン10の行程単位でマスク期間が設定される(A9)。
【0032】
その後、マスク期間が経過したか否かが判定され(A10)、この条件が成立しなければ今回の演算周期での制御が終了する。次回以降の演算周期において、マスク期間が経過するまでの間は故障診断が保留される。これにより、噴射モードの切り換え直後における故障の誤判定が抑制される。マスク期間が経過した後には、燃料噴射システムの故障判定条件が成立するか否かが判断される(A11)。例えば、A/F学習値が制限値に達した状態で、F/B積分値が正常範囲外にある状態が所定時間継続したか否かが判定される。この故障判定条件が成立すると、診断部4において、燃料噴射システムに故障が発生したものと診断され(A12)、診断結果がメモリに記録,保存されるとともに、メーターパネルに表示される。
【0033】
[4.作用,効果]
(1)噴射モードの切り換え前後におけるF/B積分値の変化を
図5(A)に示し、マスクカウンタCの変化を
図5(B)に示す。
図5(A)中のK
LはF/B積分値及びA/F学習値の正常範囲の下限値であり、K
Rは正常範囲の上限値である。噴射モードの切り換え前において、F/B積分値がK
Lよりも小さい負の値であっても、A/F学習値が正常範囲内にあれば故障との診断はなされない。しかし、噴射モードの切り換えによってA/F学習値の値が変更されてその値がK
Lに達している場合、F/B積分値がK
Lよりも小さい状態が長く続けば故障との誤診断が発生しうる。
一方、本診断装置1では噴射モードの切り換えに際し、燃料噴射量の補正値に基づいてマスク期間が設定される。マスク期間は、F/B積分値やA/F学習値に応じた可変の期間として設定される。これにより、エンジン10の運転状態に見合った診断保留時間を設定することができ、誤診を効率的に抑制して診断精度を向上させることができる。また、故障診断の信頼性が向上することから、エンジン10の制御安定性を高めることができる。
【0034】
(2)マスク期間の設定に際し、F/B積分値とA/F学習値とを併用することで、診断保留時間を適正化することができ、誤診を予防することができる。
(3)噴射モードが切り換えられる直前のF/B積分値と、切り換えられた直後のA/F学習値とを用いることで、噴射モードを切り換えたことの影響のみを考慮して診断保留時間を設定することができ、故障の誤診をより確実に防止することができ、診断精度を向上させることができる。
(4)本診断装置1では、異なるA/F学習値を有する噴射モードへの切り換えがなされたことを条件の一つとして、マスク期間を設定している。つまり、たとえ噴射モードが切り換えられたとしても、A/F学習値が変更されていなければマスク期間が設定されず、故障診断が実施される。これにより、故障診断が過度に保留,禁止されるような事態を回避することができ、診断精度を向上させることができる。
【0035】
(5)本診断装置1では、F/B積分値の符号とA/F学習値の符号とが一致する場合(すなわち、空燃比の目標値を基準としたA/F学習値の偏り方向と、空燃比の目標値を基準としたF/B積分値の偏り方向とが一致する場合)に、マスク期間を設定している。これにより、誤診が生じない状態では切り換え直後から診断を実施することができ、診断精度を向上させることができる。
(6)本診断装置1では、F/B積分値が正常範囲外にある場合に、マスク期間を設定している。言い換えれば、F/B積分値が正常範囲内にあれば、マスク期間が設定されないため、誤診を回避しつつ切り換え直後から診断を実施することができ、診断精度を向上させることができる。また、エンジン制御の安定性,信頼性を向上させることができる。
【0036】
(7)マスク期間の長さは、
図5(A)中に示すように、F/B積分値の正常範囲からのずれ量Xに応じて設定される。これは、たとえ燃料噴射システムに故障がない場合であっても、F/B積分値が正常範囲に入るまでには、ある程度の時間がかかる場合があるからである。ずれ量Xに応じて診断保留時間を設定することで、診断保留時間を適正化することができ、誤診を効率的に抑制することができる。
(8)なお、F/B積分値が正常範囲に入るまでの時間は、
図6(A)に示すように、エンジン回転速度が大きいほど短縮される。したがって、エンジン回転速度が大きいほど、マスク期間が短く設定されることが望ましい。この点、本診断装置1では、マスク期間が行程単位で設定されるため、
図6(B)に示すように、エンジン回転速度に応じてマスク期間が適正化される。このように、エンジン回転速度に見合った故障診断の保留時間を付与することが可能であり、診断精度を向上させることができる。
【0037】
(9)なお、本診断装置1では、A/F学習値が正常範囲の上限値,下限値に達している場合に、マスク期間を設定している。このように、A/F学習値の制限値への張り付きを前提としたマスク期間の設定により、誤診が生じない状態(生じにくい状態)でのマスク期間の設定に制限を加えることができ、診断精度を向上させることができる。
【0038】
[5.変形例]
上記のマスク期間の設定は、
図2(A)〜(C)に示すように、多様な噴射モードの切り換えに際して適用可能であり、具体的な燃料噴射形態の種類は何ら限定されない。また、エンジン10の種類は任意であり、ガソリンエンジン,リーンバーンエンジン,ディーゼルエンジンに適用可能である。燃料噴射方式についても同様であり、筒内噴射のみを実施する燃料噴射システムを前提としてもよいし、ポート噴射のみを実施する燃料噴射システムを前提としてもよい。なお、実空燃比を検出するためのセンサは、少なくとも排気系に一つ以上設けられていればよい。