【課題】ボールねじ軸とボールナットとの間に配置される鍔部を有した低コストなリテーナを備えるボールねじ装置、ボールねじ装置を用いたステアリング装置、及びボールねじ装置のリテーナの製造方法を提供する。
【解決手段】ボールねじ装置40は、ボールねじ軸20と、ボールナット21と、転動ボール24と、複数のリテーナ溝26を有するとともに円筒部27aの一端にボールナット21の端面21dと当接可能な鍔部27bを有するリテーナ27と、を備える。そして、リテーナ溝26の両側面は、リテーナ27の径方向外方への転動ボール24の移動を許容し且つリテーナ27の径方向内方への転動ボール24の移動を規制するように形成され、鍔部27b又は鍔部27b近傍の円筒部27aが周方向に断続空間部位Pを有して形成される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第一実施形態>
以下、本発明の第一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係るボールねじ装置が車両の電動パワーステアリング装置(ステアリング装置に相当)に適用された態様を例示する電動パワーステアリング装置の全体を示す図である。
【0013】
電動パワーステアリング装置は、操舵補助力によって操舵力を補助するステアリング装置である。なお、本発明のボールねじ装置は、電動パワーステアリング装置の他に、4輪操舵装置、後輪操舵装置、ステアバイワイヤ装置など、ボールねじ装置の適用が可能な様々な装置に適用できる。
【0014】
(1−1.ステアリング装置10の構成)
電動パワーステアリング装置10(以後、ステアリング装置10とのみ称する)は、車両の転舵輪(図略)に連結される転舵シャフト20を軸線方向D(
図1の左右方向)に往復移動させることにより、転舵輪の向きを変える装置である。
【0015】
図1に示すように、ステアリング装置10は、ハウジング11と、ステアリングホイール12と、ステアリングシャフト13と、トルク検出装置14と、電動モータM(以後、モータMと称す)と、転舵シャフト20と、操舵補助機構30と、ボールねじ装置40とを備える。
【0016】
ハウジング11は、車両に固定される固定部材である。ハウジング11は、筒状に形成され、転舵シャフト20(ボールネジ軸に相当)を軸線方向Dに相対移動可能に挿通する。ハウジング11は、第1ハウジング11aと、第1ハウジング11aのD軸方向一端側(
図1中、左側)に固定された第2ハウジング11bとを備える。
【0017】
ステアリングホイール12は、ステアリングシャフト13の端部に固定され、車室内において回転可能に支持される。ステアリングシャフト13は、運転者の操作によってステアリングホイール12に加えられるトルクを転舵シャフト20に伝達する。
【0018】
ステアリングシャフト13の転舵シャフト20側の端部には、ラックアンドピニオン機構を構成するピニオン13aが形成される。トルク検出装置14は、ステアリングシャフト13の捩れ量に基づいて、ステアリングシャフト13に加えられるトルクを検出する。
【0019】
転舵シャフト20は、軸線方向Dに延伸する。転舵シャフト20は、軸線方向Dに沿って直線的に往復移動可能にハウジング11に支持される。転舵シャフト20には、ラック22が形成される。ラック22は、ステアリングシャフト13のピニオン13aに噛合し、ピニオン13aとともにラックアンドピニオン機構を構成する。ラックアンドピニオン機構は、ステアリング装置10の用途等に基づいて、ステアリングシャフト13と転舵シャフト20との間で伝達可能な最大軸力が設定される。
【0020】
また、転舵シャフト20には、ラック22とは異なる位置にボールねじ部23が形成される。ボールねじ部23は、後述するボールナット21とともにボールねじ装置40を構成し、操舵補助機構30により操舵補助力を伝達される。転舵シャフト20の両端は、図略のタイロッドおよびナックルアーム等を介して左右の操舵車輪(図略)に連結され、転舵シャフト20の軸動によって操舵車輪が左右方向に操舵される。
【0021】
操舵補助機構30は、モータMを駆動源として転舵シャフト20に操舵補助力を付与する機構である。操舵補助機構30は、モータM、モータMを駆動する制御部ECU及び駆動力伝達機構32を備える。モータM、及びモータMを駆動するための制御部ECUは、ハウジング11の第1ハウジング11aに固定されるケース31に収容される。制御部ECUは、トルク検出装置14の出力信号に基づいて、操舵補助トルクを決定し、モータMの出力を制御する。
【0022】
図2に示すように、駆動力伝達機構32は、駆動プーリ36、従動プーリ34及び歯付きベルト35を備える。駆動プーリ36は、モータMの出力軸37に装着される。出力軸37は、転舵シャフト20の軸線と平行に配置される。従動プーリ34は、ボールナット21の外周側にボールナット21と一体回転可能に配置される。従動プーリ34の軸方向一端側(
図2において左側)は、第2ハウジング11bの内周面11b1に図略のボールベアリングを介して回転可能に支持される。歯付きベルト35は、駆動プーリ36と従動プーリ34とに懸架される。駆動力伝達機構32は、駆動プーリ36と従動プーリ34との間で、モータMが発生させる回転駆動力を、歯付きベルト35を介して伝達する。
【0023】
(1−2. ボールねじ装置40の構成)
図2に示すように、ボールねじ装置40は、転舵シャフト20(ボールねじ軸)のボールねじ部23,ボールナット21,複数の転動ボール24,デフレクタ25,リテーナ27及び壁部材29を備える。転舵シャフト20のボールねじ部23は、外周面に螺旋状に形成された外周ボール転動溝20aを備える。ボールねじ装置40は、主に第2ハウジング11b内に収容される。
【0024】
ボールナット21は、ボールねじ部23の外周側に配置される。ボールナット21の内周面は、螺旋状に形成された内周ボール転動溝21aを備える。複数の転動ボール24は、ボールねじ部23の外周ボール転動溝20a及びボールナット21の内周ボール転動溝21aとの間で形成されるボール軌道内を転動し循環可能となるよう配列される。デフレクタ25は、隣接する2つの各ボール転動溝20a、21a間で転動ボール24を循環させるための部材であり、ボールナット21の円周上に複数設けられる。
【0025】
壁部材29は、ボールナット21の端面21dに取付けられ、ボールナット21の端面21dと隙間を有して対向する端面29aを備える。このとき、端面21dと端面29aとの間の隙間の大きさは、後述するリテーナ27の鍔部27bが挿入可能な大きさである。なお、壁部材29は、ボールナット21の端面21dと隙間を有して対向する端面29aを備えていれば、どこに取付けてもよい。例えば、壁部材29は、従動プーリ34の端面に取付けてもよい。また、壁部材29は、第2ハウジング11bの一部に取付けてもよい。さらには、第2ハウジング11bの一部によって形成してもよい。
【0026】
(1−2−1.リテーナ27)
リテーナ27は、薄肉円筒状の円筒部27aと、円筒部27aの一端(
図2においては左側)側の端面にボールナット21の端面21dと当接可能な鍔部27bを備える。円筒部27aは、ボールねじ軸20の外周20bとボールナット21の内周21bとの間に配置される。また、リテーナ27は、円筒部27aの円周上に、複数の転動ボール24を保持するための複数のリテーナ溝26を備える。
【0027】
複数のリテーナ溝26は、
図2に示すように、転舵シャフト20(ボールねじ軸)の軸線方向Dに延在するよう長孔状で、且つ円筒部27aの円周上において等角度間隔(等ピッチ)で配置されるよう形成される。このとき、円筒部27aにおいて周方向に隣り合うリテーナ溝26を周方向で隔離する隔離部28は、その幅寸法が転動ボール24の直径寸法より十分に小さくなっている。これにより、リテーナ27の円筒部27aにボールねじ装置40の負荷容量を満たすに十分な数の転動ボール24を配列できる。
【0028】
リテーナ溝26は、ボールねじ軸20及びボールナット21の各ボール転動溝20a、21aと直角をなすように、ボールねじ軸20の軸線(リテーナ27の軸線)に対して所定角度傾斜されている。換言すると、リテーナ溝26は、各ボール転動溝20a、21aのリード角だけ傾斜され、各ボール転動溝20a、21aに対して直角に形成される。ただし、この態様には限らず、リテーナ溝26は、ボールねじ軸20の軸線と平行になるよう形成されてもよい。
【0029】
図3のリテーナ27の軸線に垂直な断面形状に示すように、リテーナ溝26は、両側面が傾斜面で形成される。詳細には、両側面は、円筒部27aの径方向外方に向かうにつれて幅広となるようにそれぞれ所定角度θだけ傾斜した傾斜面26a、26bで形成される。すなわち、リテーナ溝26の断面形状は、傾斜面26a、26bによってハの字形状となっている。また、
図4に示すように、リテーナ溝26の溝幅は、傾斜面26a、26bによって、リテーナ27の内周では転動ボール24の直径寸法Bより小さく、リテーナ27の外周では転動ボール24の直径寸法Bより大きくなるよう形成されている。つまり、リテーナ27の内周の溝幅を溝幅Aとし、リテーナ27の外周の溝幅を溝幅Cとすると、A<B<Cの関係を有する。
【0030】
このように、リテーナ27は、リテーナ溝26の傾斜面26a、26b(両側面)によって、リテーナ27の径方向外方への転動ボール24の移動を許容し且つリテーナ27の径方向内方への転動ボール24の移動を規制する。その結果、
図4に示すように、下方に位置するリテーナ溝26の傾斜面26a、26bが、ボールねじ軸20とボールナット21との間を転動する転動ボール24に当接することにより、リテーナ27の径方向(
図4において下方向)移動が規制され、リテーナ27がボールねじ軸20の外周20bもしくはボールナット21の内周21bに接触するのを阻止する。
【0031】
これにより、ボールねじ軸20の外周(面)20bとボールナット21の内周(面)21bとの間の隙間が小さくても、リテーナ27の半径方向移動によって、リテーナ27とボールねじ軸20もしくはボールナット21とが接触して擦れ合うのを防止することができ、リテーナ27とボールねじ軸20もしくはボールナット21との接触による摩擦の増加や、音の発生を抑制できる。このように、リテーナ溝26は、転動ボール24とリテーナ27との相対位置を精度よく制御して保持する機能を備える。
【0032】
図5に示すように、鍔部27bは、周方向において鍔部27bの鍔片27b1(部材)を断続的に形成させる断続空間部位Pを複数有して形成される。このとき、断続空間部位Pは、切り欠きであり、周方向に等角度間隔(等ピッチに相当)で形成される。つまり、鍔部27bは、断続空間部位Pによって外周側が接続されていない複数の鍔片27b1によって周方向に等角度間隔(等ピッチに相当)で形成される。
【0033】
なお、周方向における断続空間部位P及び鍔片27b1の周方向における等角度間隔の大きさは、任意に設定可能である。そして、鍔部27bは、
図2に示すように壁部材29の端面29aとボールナット21の端面21dとの間に配置されることによりリテーナ27の軸方向移動が規制される。
【0034】
(1−3.リテーナ27の製造方法)
次に、リテーナ27の製造方法について、
図6のフローチャート、
図7−
図9、及び
図10A−
図10Dに基づき説明する。しかし、説明の前に、従来技術におけるリテーナが有する課題について
図13に基づき簡単に説明しておく。説明のため、従来技術のリテーナとして、例えば特許第5120040号公報で開示される技術を例に挙げる。
【0035】
従来技術におけるリテーナは、本発明とは異なり、鍔部が、断続空間部位Pを有さず円環状で形成されている。このため、リテーナを、安価に製作するため、板状部材を打ち抜き、その後、フォーミング加工によって形成しようとする場合、以下のような課題がある。
【0036】
つまり、板状部材の一部を折り曲げ、鍔部の基になる部分を形成したのち、円筒部を形成するためのフォーミング加工を行なう際、鍔部は断続空間部位Pを有さず円環状に形成されるので、円環状の外径部及び内径部に変形量の差が発生する。これにより、鍔部に不均一な応力(変形)が生じ、延いては円筒部、及び円筒部に形成される複数のリテーナ溝を歪ませる虞がある。
【0037】
具体的には、
図13の矢印部分に示すように、円筒部、特に鍔部と円筒部との接続部が縮径方向に変形し、延いてはリテーナ溝が変形して、所望の形状公差を満たせない製品が出てくる虞がある。このため、製品の歩留まりが低下し、コスト高となる虞がある。以降で説明する製造方法は、上記課題を解決するものである。
【0038】
本発明に係るリテーナ27の製造方法は、工程S10−工程S40を備える(
図6参照)。工程S10(第一工程)は、
図7に示すように、例えば、鉄系の材料で形成された薄板の平板を打ち抜き、板状部材にリテーナ溝26に対応する素材溝26A及び断続空間部位Pに対応する素材空間部位PAを有する第一素材27Aを形成する。
【0039】
詳細には、工程S10は、リテーナ27の円筒部27a、及び鍔部27bをリテーナ27の軸方向の一箇所で切断し、平面に展開した形状を有する第一素材27Aをプレス加工によって形成する。なお、本実施形態において、リテーナ27における軸方向の切断位置は、一例としてリテーナ溝26(素材溝26A)の両端部とする(
図7参照)。
【0040】
このとき、鍔部27bの鍔片27b1に対応する素材鍔部27BB(第一板状部位に相当)の素材鍔片27BB1は、
図7に示すように左右方向に、断続空間部位Pに対応する素材空間部位PAを介して等ピッチで複数形成される。素材鍔片27BB1は、
図7に示すように、工程S20で屈曲させる折り曲げ部を示す折り曲げ線F(二点鎖線)より上方部分にある。
【0041】
また、リテーナ溝26に対応する素材溝26Aは、第一素材27Aの折り曲げ線F(二点鎖線)より下方部分の円筒部27aに対応する素材円筒部27AA(第二板状部位に相当)に形成される。このとき、各素材溝26Aの両側面は、下記工程S30において、第二素材27Bを丸め、円筒部27aと同一形状を形成した際に、リテーナ溝26の両側面(傾斜面26a、26b)形状が得られるよう形成される。
【0042】
工程S20(第二工程)は、第一素材27Aの素材鍔片27BB1を折り曲げ線Fで屈曲させて、鍔部27bに対応する素材鍔部27BBが屈曲した第二素材27Bを形成する(
図8参照)。
【0043】
工程S30(第三工程)は、第二素材27Bをフォーミング加工し、円筒部27aに対応する素材円筒部27AAと鍔部27bに対応する素材鍔部27BBとが、それぞれ円筒部27a及び鍔部27bと同一形状となるよう第三素材27Cを形成する(
図9参照)。つまり、工程S30は、円筒部27aに対応する素材円筒部27AAを円筒状に丸め、同時に折り曲げ線Fで屈曲された素材鍔片27BB1を鍔形状に形成する。
【0044】
工程S30において、第三素材27Cを円筒の形成型51−56によって形成する方法について具体的に説明する。第三素材27Cは、
図10A−
図10Dに示すように、円筒部27aの内径と同一外径で形成された円柱状の芯金50(
図10A参照)の外周面に第二素材27Bを巻きつけて形成する。このとき、屈曲させた素材鍔片27BB1は、芯金の周りを取り囲む6つの円筒形成型51−56が第二素材27Bをそれぞれ屈曲させる際、各円筒形成型51−56内に形成された溝内に進入して各円筒の形成型51−56に支持される。
【0045】
はじめに、
図10Aに示すように、芯金50の上方に載置された第二素材27Bの上面から第一円筒形成型51によって第二素材27Bを押さえる。次に、
図10Bに示すように、左右上方の第二,第三円筒形成型52,53を矢印方向に移動させ、円筒部27aの
図10Bにおける上側の半円形状を形成する。
【0046】
次に、
図10Cに示すように、左右下方の二つの第四,第五円筒形成型54,55を矢印方向に移動させ、円筒部27aの下部の半円の概略形状を形成する。そして最後に、
図10Dに示すように、円筒部27aの周方向端の当接部に下方から第六円筒形成型56を押付けて、第三素材27Cを形成する。
【0047】
なお、このとき、第三素材27Cでは、周方向で隣り合う素材鍔片27BB1同士の間隔は、円筒部27aの形状が完成に近づくほど拡大しながら鍔部27bが形成される。つまり、隣り合う素材鍔片27BB1(鍔片27b1)同士が、お互いの変形に伴って応力を及ぼしあうことはない。このため、素材鍔片27BB1(鍔片27b1)と接続される円筒部27aに対しても変形に伴う応力の影響を及ぼさず、延いてはリテーナ溝26の形状を変形させる虞も少ない。
【0048】
工程S40(第四工程)は、第三素材27Cの周方向端(
図10Dの27C1、27C2)同士を接合して
図5に示すリテーナ27を形成する。具体的には、素材溝26A(リテーナ溝26)の軸方向両端における当接部である周方向端27C1、27C2同士を溶接によって接続する。このとき、溶接はどのようなものでもよいが、抵抗溶接が好ましい。これにより、短時間での溶接が可能となり、低コストで製作できる。
【0049】
(1−4.ステアリング装置10の動作)
次に、上記のように構成されたステアリング装置10の動作について説明する。ステアリングホイール12を操舵すると、操舵トルクがステアリングシャフト13に伝達され、ピニオン13aとラック22とによるラックピニオン機構を介して転舵シャフト20が軸方向に移動される。
【0050】
ステアリングシャフト13に伝達された操舵トルクは、トルク検出装置14により検出される。また、モータMの出力軸37の回転位置等が図略の回転角検出センサによって検出される。これら操舵トルクおよびモータMの回転位置等に基づいてモータMが制御され、アシスト力が発生される。モータMによるアシスト力は、ボールねじ装置40によって転舵シャフト20の軸方向移動に変換され、運転者によるステアリングホイール12の操舵力が軽減される。
【0051】
ところで、モータMによって出力軸37とともにボールナット21が回転されると、転動ボール24が、ボールねじ軸20とボールナット21との間で同一方向に回転しながら円周方向に転動される。しかし、軌道内で隣り合う転動ボール24は、リテーナ27の隔離部28によって隔離されるとともに、隔離部28によって押されながら移動される。このため、ボール同士が衝突したり、滞留したりすることがなく、ボールねじ装置40の作動をスムーズに行うことができる。これによって、回転トルク変動を防止できるとともに、作動音を低減できるようになる。
【0052】
<2.第二実施形態>
次に、第二実施形態について
図11に基づき説明する。上記第一実施形態では、リテーナ27の鍔部27bは、
図5に示すように、周方向に断続空間部位Pを有して形成された。つまり、鍔部27bは、外周側が接続されていない複数の鍔片27b1が周方向に等角度間隔(等ピッチ)で形成された。しかしこの態様には限らない。第二実施形態として、
図11に示す板状部材(第一素材127A)によって、
図12に示すリテーナ127を形成してもよい。
【0053】
つまり、
図12に示すように、リテーナ127の鍔部127bは、外周を有した状態で、断続空間部位Pとしての孔129を周方向に等角度間隔(等ピッチ)で備えてもよい。説明を省略したが、リテーナ127の途中の製造工程は、全て第一実施形態と同様である。つまり、工程S10で第一実施形態の第一素材27Aに対応する第一素材127A(
図11参照)を形成し、工程S20で第一実施形態の第二素材27Bに対応する第二素材127B(図略)を形成する。また、工程S30で第一実施形態の第三素材27Cに対応する第三素材127C(図略)を形成し、工程S40で第三素材127Cの周方向端同士を接合して第一実施形態のリテーナ27に対応するリテーナ127(
図12参照)を形成する。なお、周方向における孔129の等角度ピッチ及び孔129の径は、任意に設定可能である。
【0054】
これにより、第一実施形態におけるリテーナ27と同様、工程S30において、
図11に示す板状部材(第一素材127A)から円筒部127aをフォーミング加工により丸める際に、鍔部127bで発生する変形(応力)が、鍔部127b(素材鍔部127BB)に形成された孔129(断続空間部位P)によって相応に吸収される。このため、第一実施形態と同様、鍔部127b(素材鍔部127BB)の変形に伴う円筒部127aの変形、延いては図略のリテーナ溝126の変形が軽減される。なお、このときのリテーナ溝126の両側面は、第一実施形態と同様、傾斜面26a、26bとする。
【0055】
<3.変形例>
第二実施形態の変形例1として、複数の孔129(断続空間部位P)を、鍔部127b(素材鍔部127BB)内ではなく、鍔部127b(素材鍔部127BB)と円筒部127a(素材円筒部127AA)との境界である折り曲げ部(折り曲げ線F)上に形成してもよい(図略)。また、変形例2として、複数の孔129(断続空間部位P)を鍔部127b(素材鍔部127BB)近傍の円筒部127a(素材円筒部127AA)に形成してもよい(図略)。これらによっても、相応の効果は得られる。
【0056】
なお、上記実施形態において、リテーナ溝26,126の両側面である傾斜面26a,26bは、上記実施形態の態様には限らない。リテーナ溝26,126の両側面によって転動ボール24が、リテーナ27,127における径方向外方への移動を許容され、且つ径方向内方への移動を規制されるのであれば、両側面は、いずれか一方の面のみが傾斜する態様であってもよい。
【0057】
<4.実施形態による効果>
上記実施形態によれば、ボールねじ装置40は、外周面に外周ボール転動溝20aを螺旋状に形成したボールねじ軸20(転舵シャフト)と、内周面に内周ボール転動溝21aを螺旋状に形成したボールナット21と、ボールねじ軸20およびボールナット21の各ボール転動溝20a,21a間に循環可能に配設された転動ボール24と、円筒部27a,127aがボールねじ軸20の外周とボールナット21の内周との間に配置され円筒部27a,127aに転動ボール24を保持する複数のリテーナ溝26,126を有するとともに円筒部27a,127aの一端にボールナット21の端面21dと当接可能な鍔部27b,127bを有するリテーナ27,127と、を備える。そして、リテーナ溝26,126の両側面は、転動ボール24の径方向外方への移動を許容し且つ径方向内方への移動を規制するように形成され、鍔部27b,127b又は鍔部27b,127b近傍の円筒部27a,127aが周方向に断続空間部位Pを有して形成される。
【0058】
このように、リテーナ27,127の鍔部27b,127bが、周方向に断続空間部位Pを有して形成される。つまり、鍔部27bは、外周側が接続されていない複数の鍔片27b1によって形成される。また、鍔部127bは、周方向に断続空間部位Pである孔129を有して形成される。これにより、リテーナ27,127を製作する際に、断続空間部位Pが鍔部27b,127bの変形(応力)を良好に吸収する。このため、鍔部27b,127bと接続される円筒部27a,127aが、鍔部27b,127bよって変形される虞と、延いてはリテーナ溝26,126の形状が変形される虞は少ない。
【0059】
このとき、リテーナ溝26,126の周方向の両側面には、転動ボール24が径方向内方に移動するのを規制する傾斜面26a、26bが形成されている。これにより、リテーナ27,127の径方向(下方向)移動が適切に規制され、リテーナ27,127がボールねじ軸20の外周20bもしくはボールナット21の外周21cに接触するのを低コストで防止できる。
【0060】
また、上記のボールねじ装置40を用いたステアリング装置10(電動パワーステアリング装置)によれば、低コストで形成されるリテーナ27,127によって隣り合う転動ボール24同士が互いに接触することがない。これによって、低コストで回転トルク変動を防止でき、ステアリング装置10の操舵フィーリングを向上させることができる。しかも、リテーナ27,127とボールねじ軸20もしくはボールナット21との接触を防止できることから、静粛性に優れた電動パワーステアリング装置を低コストで実現できるようになる。
【0061】
また、上記実施形態によれば、断続空間部位Pは、切欠き又は孔である。このように、断続空間部位Pが簡易に形成できるので、リテーナ27を低コストで形成できる。なお、この態様には限らず、断続空間部位Pは、切り欠きと孔の両者を備えて形成されてもよい。
【0062】
また、上記実施形態によれば、断続空間部位Pは、複数でありリテーナ27,127の周方向に等ピッチで設けられる。これにより、フォーミング加工(曲げ加工)による鍔部27b,127bの形成時においては、周方向でバランスよく鍔部27b,127bの変形(応力)が断続空間部位Pによって吸収されるので、円筒部27a,127a及びリテーナ溝26,126の変形を更に良好に抑制できる。
【0063】
また、上記第一、第二実施形態によれば、断続空間部位Pは、鍔部27b,127bに設けられる。これにより、フォーミング加工(曲げ加工)による鍔部27b,127bの形成時においては、鍔部27b,127bの変形をダイレクトに吸収できるので、円筒部27a,127a及びリテーナ溝26,126の変形が効果的に抑制できる。
【0064】
また、上記実施形態によれば、ステアリング装置10が、ボールねじ装置40を備える。このように、低コストに形成できるボールねじ装置40を適用するので、ステアリング装置10も低コスト化が図れる。
【0065】
また、上記実施形態によれば、ボールねじ装置40のリテーナ27,127の製造方法は、平板を打ち抜き、板状部材にリテーナ溝26,126に対応する素材溝26A,126A及び断続空間部位Pに対応する素材空間部位PAを有する第一素材27A,127Aを形成する工程S10と、第一素材27A,127Aを屈曲させて、鍔部27b,127bに対応する第一板状部位(素材鍔部27BB,127BB)が屈曲した第二素材27B,127Bを形成する工程S20と、第二素材27B,127Bを丸めて曲げ、円筒部27a,127aに対応する第二板状部位(素材円筒部27AA,127AA)と鍔部27b,127bに対応する第一板状部位(素材鍔部27BB,127BB)と、が、それぞれ円筒部27a,127a及び鍔部27b,127bと同一形状を有する第三素材27C,127Cを形成する工程S30と、第三素材27C,127Cの周方向端同士を接合してリテーナ27,127を形成する工程S40と、備える。
【0066】
このような製造方法により、第一板状部位(素材鍔部27BB,127BB)を屈曲させて鍔部27b,127bを形成する際、鍔部27b,127bは、円筒部27a,127aに対し、曲げによる変形(応力)の影響を与えることなく形成できる。従って、リテーナ溝26,126の形状にも影響を及ぼさないので、リテーナ溝26,126は、所望の形状を低コストで維持できる。
【0067】
<5.その他>
なお、上記した実施の形態においては、ボールねじ装置40を、電動パワーステアリング装置10等に適用した例について述べたが、本発明は、例えば、工作機械等に用いられるボールねじ装置にも同様に適用できる。
【0068】
また、上記実施形態では、操舵補助機構30は、転舵シャフト20のボールネジ軸と、回転軸が平行になるよう配置されたモータMを駆動源として転舵シャフト20に操舵補助力を付与した。しかし、この態様には限らない。操舵補助機構は、従来技術(特許第5120040号公報)に示す、モータの回転軸が転舵シャフト20のボールネジ軸と同軸に配置されるタイプのものでもよい。これによっても、同様の効果が期待できる。