【解決手段】フッ素系基油およびフッ素系増ちょう剤を含むフッ素系グリースと、非フッ素系基油および非フッ素系増ちょう剤を含む非フッ素系グリースと、分散剤としての添加剤と、を含有するグリース組成物であって、前記非フッ素系増ちょう剤は、脂肪‐芳香族ウレア、脂環‐脂肪族ウレア、および、脂肪族ウレアのうち少なくとも一種を含み、前記分散剤は、ポリカルボン酸金属塩、含フッ素基・親油性基含有オリゴマー、フッ化エーテル系ジアミド、および、有機酸金属塩のうち少なくとも一種を含むことを特徴とするグリース組成物を封入した。
前記非フッ素系グリースは、グリース組成物全体に対して10wt%以上50wt%以下の含有比率で含まれていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の転がり軸受。
前記非フッ素系グリースは、グリース組成物全体に対して10wt%以上30wt%以下の含有比率で含まれていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の転がり軸受。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照して、本発明の実施形態に係る転がり軸受および当該転がり軸受に封入されるグリース組成物について詳細に説明する。なお、以下の実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0015】
図1は、本実施形態に係る転がり軸受10の断面図である。転がり軸受10は、内輪11と外輪12と複数の転動体13と保持器14とシール材15とを具備する。内輪11は、図示を省略するシャフトの外周側に設置される円筒形の構造体である。外輪12は、内輪11の外周側で、内輪11と同軸上に配置される円筒形の構造体である。複数の転動体13は、内輪11と外輪12との間に形成される軌道内に配置された球体であり、したがって、転がり軸受10は玉軸受の転がり軸受である。保持器14は、軌道内に配置されて複数の転動体13を保持する。シール材15は、外輪12の内周面から内輪11側に突起し、軸受の内部空間を密封する。シール材15により密封された内部には、グリース組成物Gが封入されている。以上の構成を有する転がり軸受10において、グリース組成物Gは、転動体13と保持器14との間、および、転動体13と内輪11ないし外輪12との間における摩擦を低減するように作用している。
図1に示される構成から解るように、転がり軸受10に封入されたグリース組成物Gは、転がり軸受10が回転する際に、転動体13と内輪11ないし外輪12との間に侵入することになる。
【0016】
本発明者らは、グリース組成物Gとしてハイブリッドグリースを用いた場合について鋭意検討した結果、転がり軸受10にグリース組成物Gを封入して高温環境(例えば180℃以上)で長期間使用した場合、ウレア増ちょう剤が熱劣化に伴い硬化および凝集し、グリース組成物中の分散性が低下することにより、転がり軸受の低速トルクが増大することを確認した。
【0017】
ハイブリッドグリース中では、フッ素オイルとウレアグリースとは、溶解されずに、分散された状態で存在している。したがって、ハイブリッドグリースの分散性が低下した場合に、フッ素オイルの増ちょう剤としてのフッ素樹脂粒子ないしその凝集物が転動体13と内輪11ないし外輪12との間に侵入し、転がり軸受10の回転に対する抵抗を発生させる。このことが、転がり軸受10の低速トルクの増大を招いていると考えられる。
【0018】
そこで、本実施形態に係る転がり軸受に封入されるグリース組成物は、下記に説明するような特定の分散剤を含有し、さらに、下記に説明するような特定の増ちょう剤と組み合わせる。以下、これら特定の分散剤および増ちょう剤について具体的に説明する。
【0019】
本実施形態に係る転がり軸受に封入されるグリース組成物は、フッ素系グリースと非フッ素系グリースとを組み合わせた、いわゆるハイブリッドグリースであり、フッ素系グリースとしての基油と増ちょう剤とを含有し(以下これらをフッ素系基油およびフッ素系増ちょう剤と云う)、非フッ素系グリースとしての基油と増ちょう剤とを含有し(以下これらを非フッ素系基油および非フッ素系増ちょう剤と云う)、さらに分散剤としての添加剤を含有している。
【0020】
ハイブリッドグリース全体に対する非フッ素系グリースの含有比率は、10wt%以上50wt%以下の範囲とすることが好ましく、10wt%以上30wt%以下の範囲とすることが特に好ましい。ハイブリッドグリース全体における、非フッ素系グリースの含有比率が高くなるほど、フッ素系グリースの含有比率(ひいては、フッ素樹脂粒子の含有比率)が抑制されるから、転動体がフッ素樹脂粒子(フッ素オイルの増ちょう剤)を乗り越える際に発生するトルクが抑制される。したがって、トルクを抑制する観点からは、非フッ素系グリースの含有比率は、10wt%以上30wt%以下の範囲では、高くなるほど好ましいと言える。
【0021】
フッ素系基油の種類は、例えばパーフルオロポリエーテル(PFPE)を主成分とする。なおPFPEは、一般式:RfO(CF
2O)
p(C
2F
4O)
q(C
3F
6O)
rRf(Rf:パーフルオロ低級アルキル基、p、q、r:整数)で表される。
【0022】
フッ素系増ちょう剤の種類は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の粒子を用いることが好ましい。PTFEは、テトラフルオロエチレンの重合体であり、一般式:[C
2F
4]
n(n:重合度)で表される。その他、採用し得るフッ素系増ちょう剤として、例えばパーフルオロエチレンプロピレンコポリマー(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニールエーテル共重合体(PFA)が挙げられる。
【0023】
非フッ素系基油の種類は特に限定されるものではなく、一般的にグリース基油として使用される、合成炭化水素油、アルキルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、エステル油、鉱油、フッ素油、シリコーン油などを単独または混合して使用できる。
【0024】
合成炭化水素油としては、例えばノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−デセンオリゴマー、1−デセントエチレンオリゴマーなどのポリアルファオレフィンが挙げられる。エステル油としては、例えばジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジオクチルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルタレート、メチル・アセチルシノレートなどのジエステル油、トリオクチルトリメリテート、トリ−2−エチルヘキシルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート、テトラ−2−エチルヘキシルピロメリテート等の芳香族エステル油、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンベラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネートなどのポリオールエステル油、炭酸エステル油などが挙げられる。アルキルジフェニルエーテル油としては、モノアルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリアルキルジフェニルエーテルなどが挙げられる。上述した中でも、芳香族エステル油が好ましく、単独または混合して使用できる。特に、トリ−2−エチルヘキシルトリメリテートとテトラ−2−エチルヘキシルピロメリテートとを混合した基油を使用することが好ましい。
【0025】
非フッ素系増ちょう剤の種類は、例えばウレア化合物を使用することが好ましい。ウレア化合物としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、ポリウレア化合物などのウレア化合物を使用できる。特に、耐熱性及び音響特性(静音性)の点から、ジウレア化合物を使用することが好ましい。また、ウレア化合物の種類としては、脂肪‐芳香族ウレア、脂環‐脂肪族ウレア、または、脂肪族ウレアとすることが好ましい。
【0026】
すなわち、本実施形態に適した非フッ素系増ちょう剤は、下記一般式(1)で示すことができるジウレア化合物である。
R
1−NHCONH−R
2−NHCONH−R
3・・・(1)
ここで、R
1、R
3は脂肪族炭化水素基でも脂環式炭化水素基でも芳香族炭化水素基でもよいが、R
1、R
3のうち少なくとも一方は、脂肪族炭化水素基または脂環式炭化水素基である。R
2は、芳香族炭化水素基である。
【0027】
これらを合成する際に使用する原料には、アミン化合物とイソシアネート化合物を用いる。アミン化合物として、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキアデシルアミン、オクタデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンなどに代表される脂肪族アミンや、ヘキシルアミンなどに代表される脂環式アミンの他に、アニリン、p−トルイジン、エトキシフェニルアミンなどに代表される芳香族アミンが用いられる。イソシアネート化合物として、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネートが用いられる。脂肪族アミンと芳香族アミンをアミン原料に用いて、芳香族イソシアネートとで合成する脂肪芳香族ジウレア化合物を用いることが好ましい。
【0028】
分散剤として添加する添加剤の種類は、例えば有機酸金属塩が好ましく、特にポリカルボン酸のナトリウム塩が好ましい。ポリカルボン酸を構成するカルボン酸としては、脂肪族カルボン酸が好ましく、脂肪族飽和カルボン酸でも脂肪族不飽和カルボン酸でもよい。不飽和カルボン酸ではアクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、3−ブテン酸、メタクリル酸、アンゲリカ酸、チグリン酸、4−ペンテン酸、2−エチル−2−ブテン酸、10−ウンデセン酸、オレイン酸などがあり、飽和ジカルボン酸ではシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸がある。飽和カルボン酸ではギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸があり、不飽和ジカルボン酸では、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などがある。また、これらのカルボン酸によって構成されるポリカルボン酸は、モノカルボン酸のポリマーやジカルボン酸のポリマーでもよい。
【0029】
特にカルボキシル基を1個または2個含む不飽和カルボン酸のポリマーであることが好ましい。なお、これらのカルボン酸の金属塩は炭化水素化合物との共重合体を形成してもよい。すなわち、グリース組成物は、分散剤としてカルボン酸の金属塩との共重合体を含んでいても良い。また、グリース組成物は、ポリカルボン酸の金属塩またはカルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体の少なくとも一方を含む構成としても良い。ポリカルボン酸の金属塩またはカルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体を形成するカルボン酸金属塩の具体例としては、たとえばアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。アルカリ金属塩としては、グリース組成物Gのナトリウム塩の他に、リチウム塩、カリウム塩などが好ましく、アルカリ土類金属塩としてはマグネシウム塩やカルシウム塩などが好ましい。カルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体においてカルボン酸金属塩と重合(重合反応)させる炭化水素化合物としては、例えばイソブチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエンなどがある。具体的な化合物として、ポリアクリル酸ナトリウム塩やマレイン酸ナトリウム塩とイソブチレンの共重合体が挙げられる。
【0030】
ポリカルボン酸の重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリエチレングリコール換算の重量平均分子量(Mw)が5000以上200000以下であることが好ましく、より好ましくは7000以上80000以下、さらに好ましくは9000以上16000以下である。
【0031】
その他、分散剤として添加する添加剤の種類としては、例えば含フッ素基・親油性基含有オリゴマー、フッ化エーテル系ジアミド、または、有機酸金属塩が挙げられる。有機酸金属塩の有機酸としては、芳香族系有機酸、脂肪族系有機酸、または脂環族系有機酸等の塩であればいずれも分散性が期待できる。また、有機酸としては一塩基性、多塩基性有機酸を使用できる。有機酸の具体例を例示すれば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキン酸等の1価飽和脂肪酸、アクリル酸、クロトン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ガドレイン酸等の1価不飽和脂肪酸、マロン酸、メチルマロン酸、コハク酸、メチルコハク酸、ジメチルマロン酸、エチルマロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ジメチルコハク酸、ピメリン酸、テトラメチルコハク酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ブラシル酸等の2価飽和脂肪酸、フマル酸、マレイン酸、オレイン酸等の2価不飽和脂肪酸、酒石酸、クエン酸等の脂肪酸誘導体、安息香酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族有機酸が挙げられる。有機酸はその金属塩であることが好ましく、金属塩の中でもナトリウム塩が好ましい。好ましい有機酸の金属塩としては、安息香酸ナトリウム、セバシン酸一ナトリウム塩、セバシン酸二ナトリウム塩、コハク酸一ナトリウム塩、コハク酸二ナトリウム塩が挙げられる。含フッ素基・親油性基含有オリゴマーの含フッ素基としては、例えば、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルケニル基などが挙げられ、親油性基としては、例えば、アルキル基、フェニル基、シロキサン基などの1種又は2種以上が挙げられ、親水性基としては、例えば、エチレンオキサイドや、アミド基、ケトン基、カルボキシル基、スルホン基などの1種又は2種以上が挙げられる。
【0032】
グリース組成物G中において、分散剤として添加する添加剤の量は、0.5wt%以上含有されることが好ましい。
【0033】
また、グリース組成物には、その他の添加剤として、極圧添加剤、酸化防止剤、摩擦防止剤、金属不活性剤、錆止め剤、油性剤、粘度指数向上剤などを必要に応じて含有させることができる。
【0034】
以上のような構成とされた本実施形態に係る転がり軸受に封入されるグリース組成物は、フッ素系グリースと非フッ素系グリースとを組み合わせたハイブリッドグリースであり、上記説明した特定の分散剤を含有し、上記説明した特定の非フッ素系増ちょう剤(脂肪‐芳香族ウレア、脂環‐脂肪族ウレア、および、脂肪族ウレアのうち少なくとも一種)と組み合わせることによって、ハイブリッドグリース中におけるフッ素系増ちょう剤の分散性が向上する。その結果、当該グリース組成物を封入した転がり軸受は、良好な低速トルクが維持されるとともに、高温環境で長期間使用しても良好な潤滑特性(高温耐久性)が維持される。
【0035】
(検証実験)
次に、上記説明したグリース組成物を封入した本実施形態に係る転がり軸受は、良好な低速トルクが維持されるとともに、高温環境で長期間使用しても良好な潤滑特性(高温耐久性)が維持されることを検証した実験の結果について説明する。
【0036】
具体的には、各種のグリース組成物を作製し、添加剤の種類の違い(比較検討1)、非フッ素系増ちょう剤の種類の違い(比較検討2)、および、フッ素系グリースと非フッ素グリースとの含有比率の違い(比較検討3)に関して、転がり軸受の特性を比較検討する。なお、いずれの比較検討においても、評価項目には(1)低速トルクと(2)高温耐久性とを用いる。
【0037】
評価項目の(1)低速トルクは、予圧39Nを加えた転がり軸受を回転数0.1rpmで回転させ、回転初期の1分間において測定したトルクの最大値とし、当該実測値が10mN・m以下であるものを良品と判定する。また、評価項目の(2)高温耐久性は、予圧39Nを加えた転がり軸受を温度環境180℃において回転数3000rpmで15000時間回転させ、その後、常温下で回転数30rpmで1分間回転させてトルクを測定した後の値とし、5mN・m以下であるものを良品と判定する。
【0038】
(比較検討1)
比較検討1では、分散剤を添加したグリース組成物を封入した実施形態に係る転がり軸受(A群)と、添加剤を加えないグリースまたはA群とは異なる添加剤を加えたグリース組成物を封入した転がり軸受(B群)とを比較する。表1は、比較検討1の結果をまとめたものである。
【0040】
表1に示すように、A群に属する実施例1から実施例4は、フッ素系基油およびフッ素系増ちょう剤を含むグリースと、非フッ素系基油および非フッ素系増ちょう剤を含むグリースとを含有し、マレイン酸ナトリウム塩とイソブチレンの共重合体、含フッ素基・親油性基含有オリゴマー、フッ化エーテル系ジアミド、または、セバシン酸二ナトリウム塩を分散剤として含有しているグリース組成物を封止した転がり軸受である。なお、比較検討1では、ポリカルボン酸金属塩の具体例として、マレイン酸ナトリウム塩とイソブチレンの共重合体を用いるとともに、有機酸金属塩として、セバシン酸二ナトリウム塩を用いた場合を例示している。
【0041】
検証実験では、評価の正確性を担保するため、表1に例示されるとおり、A群に用いるグリース組成物は、フッ素系基油、フッ素系増ちょう剤、非フッ素系基油、および、非フッ素系増ちょう剤の成分を同一とし、グリース組成物全体に対する非フッ素系グリースの含有比率も同一としている。
【0042】
一方、B群に属する比較例1から比較例3は、フッ素系基油およびフッ素系増ちょう剤と、非フッ素系基油および非フッ素系増ちょう剤とを含有するが、添加剤を含まないグリース組成物を封入した転がり軸受である。また、B群に属する比較例4および比較例5は、添加剤を含むが、その添加剤が上述した添加剤、すなわち、マレイン酸ナトリウム塩とイソブチレンの共重合体、含フッ素基・親油性基含有オリゴマー、フッ化エーテル系ジアミド、または、セバシン酸二ナトリウム塩ではないグリース組成物を封入した転がり軸受である。
【0043】
A群とB群とを比較すると解るように、A群のグリース組成物を封入した転がり軸受では、(1)低速トルクおよび(2)高温耐久性のいずれの評価項目においても良品判定を得られたが、B群のグリース組成物を封入した転がり軸受では、(2)高温耐久性の評価項目において良品判定を得られない。
【0044】
したがって、比較実験1によれば、フッ素系グリースと非フッ素系グリースとを含有するグリース組成物において、マレイン酸ナトリウム塩とイソブチレンの共重合体、含フッ素基・親油性基含有オリゴマー、フッ化エーテル系ジアミド、または、セバシン酸二ナトリウム塩を添加したA群のグリース組成物を封入した転がり軸受は、B群のグリース組成物を封入した転がり軸受と比較して、(1)低速トルクにおいて良好な低速トルクが維持されること、および、(2)高温環境における長期間使用において良潤滑性が維持されること(高温耐久性)が確認された。
【0045】
(比較検討2)
比較検討2では、上記説明した非フッ素系増ちょう剤(脂肪‐芳香族ウレア、脂環‐脂肪族ウレア、および、脂肪族ウレアのうち少なくとも一種)を用いたグリース組成物を封入した転がり軸受(C群)と、上記説明した非フッ素系増ちょう剤とは異なる非フッ素系増ちょう剤を用いたグリース組成物を封入した転がり軸受(D群)とを比較する。表2は、比較検討2の結果をまとめたものである。なお、比較検討2でも、比較検討1と同様に、ポリカルボン酸金属塩の具体例として、マレイン酸ナトリウム塩とイソブチレンの共重合体を用いるとともに、有機酸金属塩として、セバシン酸二ナトリウム塩を用いた場合を例示している。
【0047】
表2に示すように、C群に属する実施例1、実施例5および実施例6は、フッ素系基油およびフッ素系増ちょう剤と、非フッ素系基油および非フッ素系増ちょう剤と、分散剤としての添加剤とを含有し、非フッ素系増ちょう剤が脂肪‐芳香族ウレア、脂環‐脂肪族ウレア、または、脂肪族ウレアであるグリース組成物を封入した転がり軸受である。なお、表2に示すように、評価の正確性のため、C群に用いるグリース組成物は、添加剤の成分および添加量を同一としている。
【0048】
一方、D群に属する比較例6から比較例11は、脂肪‐芳香族ウレア、脂環‐脂肪族ウレア、または、脂肪族ウレアとは異なる非フッ素系増ちょう剤(芳香族ウレア、または、金属石けん系増ちょう剤)を含有するグリース組成物を封入した転がり軸受である。D群に属する比較例6では、C群に属する実施例1、実施例5、および実施例6と、グリース組成物全体に対する非フッ素グリースの含有比率を同一(10wt%)としている。他方、D群に属する比較例7ないし比較例11では、実施例1、実施例5、および実施例6よりも、非フッ素系グリースの含有比率を高くしている。具体的には、C群に属する実施例1、実施例5、および実施例6では、非フッ素グリースの含有比率が10wt%であるのに対し、D群に属する比較例7ないし比較例11では、非フッ素グリースの含有比率が30wt%である。なお、比較例6ないし比較例11と、実施例1、実施例5、および実施例6とは、分散剤の成分および添加量は同一(1%)である。
【0049】
C群とD群とを比較すると解るように、C群に属する転がり軸受では、(1)低速トルクおよび(2)高温耐久性のいずれの評価項目においても良品判定を得られたが、D群に属する転がり軸受では、(1)低速トルクの評価項目において良品判定を得られない。
【0050】
以上の判定結果から把握される通り、比較検討2では、フッ素系グリースと非フッ素系グリースとを含有するグリース組成物において、非フッ素系増ちょう剤として脂肪‐芳香族ウレア、脂環‐脂肪族ウレア、または、脂肪族ウレアを含有するC群に属するグリース組成物を封入した転がり軸受は、D群のうち芳香族ウレアを含有する比較例6および比較例7のグリース組成物を封入した転がり軸受と比較して、(1)低速トルクにおいて良好な低速トルクが維持されることが確認された。
【0051】
また、C群に属する転がり軸受は、非フッ素系増ちょう剤として金属石けん増ちょう剤を含有する比較例8〜比較例11の転がり軸受と比較しても、(1)低速トルクにおいて、良好な低速トルクが維持されること、および、(2)高温環境における長期間使用において良潤滑性が維持されること(高温耐久性)が確認された。
【0052】
ところで、前述したようにグリース組成物全体に対する非フッ素系グリースの含有比率は、10wt%以上30wt%以下の範囲では高くなるほど好ましい。しかし、上述した判定結果から、C群(10wt%)は比較例7ないし比較例11(30wt%)と比較して、非フッ素系グリースの含有比率を下回るにもかかわらず、(1)低速トルク、(2)高温耐久性の双方において、D群よりも良好であることが確認された。以上の説明から把握される通り、非フッ素系増ちょう剤として脂肪‐芳香族ウレア、脂環‐脂肪族ウレア、または、脂肪族ウレアを含有するC群に属するグリース組成物によれば、良好な低速トルクが維持されるとともに、高温環境における長時間使用において良潤滑性(高温耐久性)が維持される、という効果が実現される。
【0053】
(比較検討3)
比較検討3では、グリース組成物全体に対する非フッ素系グリースの含有比率が10wt%以上50wt%以下であるグリース組成物を封入した転がり軸受(E群)と、含有比率が当該範囲外であるグリース組成物を封入した転がり軸受(F群)とを比較する。表3は、比較検討3の結果をまとめたものである。なお、比較検討3でも、比較検討1および比較検討2と同様に、ポリカルボン酸金属塩の具体例として、マレイン酸ナトリウム塩とイソブチレンの共重合体を用いるとともに、有機酸金属塩として、セバシン酸二ナトリウム塩を用いた場合を例示している。
【0055】
表3に示すように、E群に属する実施例1、実施例7および実施例8は、グリース組成物全体に対する非フッ素系グリースの含有比率が10wt%以上50wt%以下であるグリース組成物を封入した転がり軸受である。なお、表3に示すように、評価の正確性のため、E群に用いるグリース組成物は、フッ素系基油、フッ素系増ちょう剤、非フッ素系基油、非フッ素系増ちょう剤、および、添加剤の成分を同一としている。
【0056】
一方、F群に属する比較例12および比較例13は、それぞれ、グリース組成物全体に対する非フッ素系グリースの含有比率が5wt%および60wt%であるグリース組成物を封入した転がり軸受である。同様に、評価の正確性のため、F群に用いるグリース組成物は、フッ素系基油、フッ素系増ちょう剤、非フッ素系基油、非フッ素系増ちょう剤、および、添加剤の成分を同一としている。
【0057】
E群とF群とを比較すると解るように、E群に属する封入した転がり軸受では、(1)低速トルクおよび(2)高温耐久性のいずれの評価項目においても良品判定を得られたが、F群に属する比較例11の転がり軸受では、(1)低速トルクの評価項目において良品判定を得られず、また、F群に属する比較例12の転がり軸受では、(2)高温耐久性の評価項目において良品判定を得られない。
【0058】
以上の判定結果から把握される通り、比較検討3では、フッ素系グリースと非フッ素系グリースとを含有するグリース組成物において、グリース組成物全体に対する非フッ素系グリースの含有比率を10wt%以上50wt%としたE群では、非フッ素グリースの含有比率が10wt%を下回る比較例11や50wt%を上回る比較例12と比較して、良好な低速トルクが維持され、且つ、高温環境における長期間使用において良潤滑性が維持されること(高温耐久性)が確認された。
【0059】
(比較検討4)
比較検討4では、転がり軸受の転動体の径とトルクとの関係に着目し、転動体の径を変化させた場合のトルク比への影響について考察する。ここで、「トルク比」とは、実施形態に係る転がり軸受の低速トルクの測定値と、比較例に係る転がり軸受の低速トルクの測定値との比をいう。すなわち、トルク比=(比較例に係る転がり軸受の低速トルクの測定値)/(実施形態に係る転がり軸受の低速トルクの測定値)である。表4に、相異なる4つの転がり軸受(TypeA〜TypeD)の夫々における内径寸法と外径寸法と転動体の径とトルク比とを示す。
【0061】
各転がり軸受(TypeAからTypeD)の内径寸法は、15mm(TypeA)、10mm(TypeB)、8mm(TypeC)、6mm(TypeD)であり、各転がり軸受(TypeAからTypeD)の外径寸法は、35mm(TypeA)、26mm(TypeB)、22mm(TypeC)、12mm(TypeD)である。転動体の径は、転がり軸受における内輪と外輪との間に形成される軌道内に配置された球体の直径である。トルク比は、実施形態に係る転がり軸受として実施例2の転がり軸受を用い、比較例の転がり軸受として比較例8の転がり軸受を用いた例を示している。すなわち、トルク比=(比較例8のグリース組成物を封止した転がり軸受の低速トルクの測定値)/(実施例2のグリース組成物を封止した転がり軸受の低速トルクの測定値)である。
図2は、表4のトルク比を表すグラフである。
【0062】
表4および
図2から把握される通り、各転がり軸受(TypeAからTypeD)の転動体の径は、6.35mm(TypeA)、4.76mm(TypeB)、3.97mm(TypeC)、1.59mm(TypeD)であり、各転がり軸受のトルク比は、1.00(TypeA)、1.13(TypeB)、2.57(TypeC)、3.50(TypeD)である。表4および
図2から理解される通り、転動体の径が5mm以下の転がり軸受(TypeB,TypeC,TypeD)は、転動体の径が5mmを上回る転がり軸受(TypeA)と比較して、トルク比が大きくなることが判る。換言すれば、実施形態に係る転がり軸受に封入されるグリース組成物は、転動体の径が5mm以下の転がり軸受に用いた場合に、転動体の径が5mmを上回る転がり軸受に用いた場合と比較して良好な低速トルクが得られることが判る。
【0063】
さらに、転動体の径が4mm以下の転がり軸受(TypeC,TypeD)に着目すると、転動体の径が4mmを上回る転がり軸受(TypeB)と比較して、トルク比の増加が顕著であることが判る。換言すれば、実施形態に係る転がり軸受に封入されるグリース組成物は、転動体の径が4mm以下の転がり軸受に用いた場合に、転動体の径が4mmを上回る転がり軸受に用いた場合と比較して、さらに良好な低速トルクが得られることが判る。
【0064】
ここで、転動体の径が大きい転がり軸受では、前提となる低速トルクの値が一般的に高いので、従来のグリース組成物を用いても大きな問題は認識されていなかった。一方、転動体の径が小さい転がり軸受では、低速トルクの値を低く抑えることが要求されており、従来のグリース組成物を用いた場合、要求される低速トルクの値を達成することが困難となってきていた。
【0065】
先述のグリース組成物を、転動体の径が小さい(例えば5mm以下)の転がり軸受に封入した構成によれば、当該グリース組成物を、転動体の径が大きい(例えば5mmを上回る)転がり軸受に封入した構成と比較して、良好な低速トルクが実現される。また、実施形態に係る転がり軸受に封入されるグリース組成物を、転動体の径が4mm以下の転がり軸受に封入した構成では、転動体の径が4mmを上回る転がり軸受に封入した構成と比較して、良好な低速トルクが得られるという効果は更に顕著である。
【0066】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の実施形態において分散剤としての添加剤は1種のみを添加しているが、これらを組み合わせて、ポリカルボン酸金属塩、含フッ素基・親油性基含有オリゴマー、フッ化エーテル系ジアミド、および、有機酸金属塩のうち少なくとも一種を含むものとしても構わない。
【0067】
また、上述の実施形態において非フッ素系増ちょう剤は1種のみを用いているが、これらを組み合わせて、脂肪‐芳香族ウレア、脂環‐脂肪族ウレア、および、脂肪族ウレアのうち少なくとも一種を含むものとしても構わない。
【0068】
また、上述の実施形態において添加剤は分散剤のみを添加しているが、使用用途に応じて、その他の添加剤として、極圧添加剤、酸化防止剤、摩擦防止剤、金属不活性剤、錆止め剤、油性剤、粘度指数向上剤などを含有させることができる。