【解決手段】血液細胞を含む生体試料中の好中球細胞外トラップを放出していない好中球中に含まれる核酸を核酸染色性蛍光色素により染色して測定用試料を調製する工程、測定用試料に光を照射して得られる蛍光情報を取得する工程、および蛍光情報に基づいて、好中球細胞外トラップを放出していない好中球から得られる蛍光強度よりも小さい蛍光強度を有する粒子を好中球細胞外トラップとして検出する工程を含む試料分析方法;血液細胞を含む生体試料中の好中球細胞外トラップを放出していない好中球中に含まれる核酸を核酸染色性蛍光色素により染色して測定用試料を調製するための試料調製部と、測定用試料に光を照射して得られる蛍光情報を取得するための検出部と、検出部によって取得された蛍光情報に基づいて、好中球細胞外トラップを放出していない好中球から得られる蛍光強度よりも小さい蛍光強度を有する粒子を、好中球細胞外トラップとして検出するための情報処理部とを備える試料分析装置;ならびに浸透圧調整剤と、核酸染色性蛍光色素とを含有し、試料分析方法に用いるための試薬。
工程(A)において、前記好中球の細胞膜に損傷を与え、前記核酸染色性蛍光色素を導入することにより、好中球細胞外トラップを放出していない好中球から得られる蛍光強度を好中球細胞外トラップから得られる蛍光強度より大きくする請求項1または2に記載の試料分析方法。
工程(C)において、リンパ球から得られる散乱光強度よりも大きい散乱光強度を有する粒子を、前記好中球細胞外トラップとして検出する請求項4または5に記載の試料分析方法。
前記工程(A)において、少なくとも前記生体試料と前記核酸染色性蛍光色素とを、浸透圧が245hPa以上1680hPa以下になるように混合し、前記測定用試料を調製する請求項1〜7のいずれか1項に記載の試料分析方法。
前記工程(A)において、少なくとも前記生体試料と前記核酸染色性蛍光色素と界面活性剤とを、浸透圧が2635hPa以下になるように混合し、前記測定用試料を調製する請求項1〜7のいずれか1項に記載の試料分析方法。
血液細胞を含む生体試料中の好中球細胞外トラップを放出していない好中球中に含まれる核酸を核酸染色性蛍光色素により染色して測定用試料を調製するための試料調製部と、
前記測定用試料に光を照射して得られる蛍光情報を取得するための検出部と、
前記検出部によって取得された蛍光情報に基づいて、好中球細胞外トラップを放出していない好中球から得られる蛍光強度よりも小さい蛍光強度を有する粒子を、好中球細胞外トラップとして検出するための情報処理部と、
を備える試料分析装置。
前記情報処理部は、好中球細胞外トラップを放出していない好中球から得られる蛍光強度よりも小さい蛍光強度を有し、かつリンパ球から得られる散乱光強度よりも大きい散乱光強度を有する粒子を前記好中球細胞外トラップとして検出する請求項11または12に記載の試料分析装置。
前記試料調製部は、少なくとも前記生体試料と前記核酸染色性蛍光色素とを、浸透圧が245〜1680hPaになるように混合し、前記測定試料を調製する請求項10〜13のいずれか1項に記載の試料分析装置。
前記試料調製部は、前記生体試料と前記核酸染色性蛍光色素と界面活性剤とを、浸透圧が2635hPa以下となるように混合し、前記測定試料を調製する請求項10〜13のいずれか1項に記載の試料分析装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.用語の説明
本明細書において、「X〜Y」のように、端点による数値範囲の記載は、各範囲内に含まれるすべての数および有理数ならびに記載されている端点を含む。
【0012】
本明細書において、「好中球細胞外トラップ放出後の粒子」は、好中球が好中球細胞外トラップを放出した後の残渣の粒子を意味する。
【0013】
2.試料分析方法
本実施形態に係る試料分析方法は、(A)血液細胞を含む生体試料中の好中球細胞外トラップを放出していない好中球中に含まれる核酸を核酸染色性蛍光色素により染色して測定用試料を調製する工程、
(B)測定用試料に光を照射して得られる蛍光情報を取得する工程、および
(C)蛍光情報に基づいて、好中球細胞外トラップを放出していない好中球から得られる蛍光強度よりも小さい蛍光強度を有する粒子を好中球細胞外トラップとして検出する工程、
を含む。本実施形態に係る試料分析方法は、例えば、後述の試料分析装置、後述の試薬などを用いることによって行なうことができる。
【0014】
好中球細胞外トラップは、細菌などからの感染防御や血栓、癌転移、自己免疫疾患等に重要な働きをしていることが知られてきている。このため、検体中における好中球細胞外トラップの有無を検出することは、臨床的に有意義である。例えば、臓器や骨髄等の細胞を移植後に免疫抑制を行う際に、患者の血液中に好中球細胞外トラップが生じていることを察知することにより、ステロイドの投与など、過度な炎症を抑制するための治療をタイミングよく実行することが可能となる。本実施形態に係る試料分析方法では、工程(A)において、以下の操作を行なうことにより、好中球細胞外トラップ放出後の粒子のクラスターを良好に形成できる。したがって、検体中の好中球細胞外トラップの存在を高精度に検出できる。また、検体中の好中球細胞外トラップの数を高精度に計数することも可能となる。具体的には、工程(A)では、血液細胞を含む生体試料中の好中球細胞外トラップを放出していない好中球中に含まれる核酸を核酸染色性蛍光色素により染色する。工程(A)により、測定用試料が得られる。好中球細胞外トラップ放出後の粒子は、好中球細胞外トラップの放出により、クロマチンを実質的に含まない。そのため、好中球細胞外トラップ放出後の粒子は、核酸染色性蛍光色素によりほとんど染色されない。したがって、測定用試料においては、好中球細胞外トラップ放出後の粒子における蛍光強度と、好中球細胞外トラップを放出していない好中球における蛍光強度との差が、好中球外トラップを放出していない好中球を染色ない場合と比較して大きくなり、より明確に区別化できる。
【0015】
生体試料は、血液細胞を含む試料である。生体試料としては、例えば、血液、骨髄液、肺洗浄液などが挙げられるが、特に限定されない。これらの生体試料のなかでは、血液、骨髄液および肺洗浄液が好ましい。血液細胞としては、白血球、赤血球および血小板が挙げられる。また、白血球としては、好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球および単球が挙げられる。
【0016】
工程(A)では、好中球の細胞膜に損傷を与え、核酸染色性蛍光色素を導入して測定用試料を調製することができる。工程(A)において、好中球の細胞膜に損傷を与え、核酸染色性蛍光色素を導入した場合、核酸染色性蛍光色素により、好中球に含まれる核酸がより確実に染色される。
【0017】
工程(A)において、好中球の細胞膜に損傷を与え、核酸染色性蛍光色素を導入することにより、好中球細胞外トラップを放出していない好中球から得られる蛍光強度を好中球細胞外トラップから得られる蛍光強度より大きくすることができる。これにより、好中球細胞外トラップ放出後の粒子と、好中球細胞外トラップを放出していない好中球とを、より明確に区別化できる。
【0018】
工程(A)において、好中球の細胞膜への損傷の付与および核酸染色性蛍光色素の導入は、同時に行なってもよく、好中球の細胞膜への損傷の付与後に核酸染色性蛍光色素の導入を行なう順序で行なってもよい。
【0019】
好中球の細胞膜における損傷部分の大きさは、核酸染色性蛍光色素が導入可能な大きさであればよい。好中球の細胞膜への損傷の付与は、例えば、(A−1)〜(A−3)などの手法によって行なうことができる。
(A−1)少なくとも生体試料と核酸染色性蛍光色素と浸透圧調整剤とを、浸透圧が245hPa以上1680hPa以下になるように混合することを含む手法
(A−2)少なくとも生体試料と核酸染色性蛍光色素と界面活性剤と浸透圧調整剤とを、浸透圧が2635hPa以下になるように混合することを含む手法
(A−3)電気穿孔、レーザ穿孔などの物理的手法
【0020】
手法(A−1)では、測定用試料の浸透圧が245hPa以上1680hPa以下になるように少なくとも生体試料と核酸染色性蛍光色素と浸透圧調整剤とを混合する。これにより、生体試料に含まれる好中球の細胞膜に損傷が与えられ、細胞膜における損傷部分から核酸染色性蛍光色素が好中球内に導入される。
【0021】
核酸染色性蛍光色素としては、例えば、プロピジウムアイオダイド、エチジウムブロマイド、エチジウム−アクリジンヘテロダイマー、エチジウムジアジド、エチジウムホモダイマー−1、エチジウムホモダイマー−2、エチジウムモノアジド、トリメチレンビス[[3−[[4−[[(3−メチルベンゾチアゾール−3−イウム)−2−イル]メチレン]−1,4−ジヒドロキノリン]−1−イル]プロピル]ジメチルアミニウム]・テトラヨージド(TOTO−1)、4−[(3−メチルベンゾチアゾール−2(3H)−イリデン)メチル]−1−[3−(トリメチルアミニオ)プロピル]キノリニウム・ジヨージド(TO−PRO−1)、N,N,N’,N’−テトラメチル−N,N’−ビス[3−[4−[3−[(3−メチルベンゾチアゾール−3−イウム)−2−イル]−2−プロペニリデン]−1,4−ジヒドロキノリン−1−イル]プロピル]−1,3−プロパンジアミニウム・テトラヨージド(TOTO−3)、2−[3−[[1−[3−(トリメチルアミニオ)プロピル]−1,4−ジヒドロキノリン]−4−イリデン]−1−プロペニル]−3−メチルベンゾチアゾール−3−イウム・ジヨージド(TO−PRO−3)、式(I)〜(XI)で表わされる蛍光色素などが挙げられるが、特に限定されない。
【0024】
〔式中、R
1およびR
4はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいベンジル基、R
2およびR
3はそれぞれ独立して水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルスルホニル基またはフェニル基、Zは硫黄原子、酸素原子、置換基を有していてもよいアルキレン基、mは0〜3の自然数、X
−はアニオンを示す〕。
【0025】
なお、式(I)において、R
1およびR
4のいずれか一方が炭素数6〜18のアルキル基の場合、他方は、水素原子または炭素数6未満のアルキル基であることが好ましい。炭素数が6〜18のアルキル基のなかでは、炭素数6、8または10のアルキル基が好ましい。アルキル基の置換基としては、例えば、ヒドロキシル基、エーテル基、エステル基などが挙げられるが、特に限定されない。R
1およびR
4において、ベンジル基の置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基などが挙げられるが、特に限定されない。ベンジル基の置換基のなかでは、メチル基およびエチル基が好ましい。R
2およびR
3において、アルケニル基としては、炭素数2〜20のアルケニル基が挙げられる。R
2およびR
3において、アルコキシ基としては、炭素数1〜20のアルコキシ基が挙げられる。これらのアルコキシ基のなかでは、メトキシ基およびエトキシ基が好ましい。R
2およびR
3において、アルキレン基の炭素数は1または2である。アルキレン基の置換基としては、メチレン基およびエチレン基が挙げられる。X
−において、アニオンとしては、例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン;トリフルオロメタンスルホナートイオン(CF
3SO
3−)、ホウフッ化物イオン(BF
4−)などが挙げられるが、特に限定されない。
【0028】
〔式中、R
5およびR
6は低級アルキル基、X
−はアニオン、Zは硫黄原子、酸素原子、または置換基を有していてもよいアルキレン基、nは1または2を示す)。式(II)において、R
5およびR
6は、互いに同一であってもよく。異なっていてもよい。式(II)の「低級アルキル基」は、炭素数1〜6のアルキル基である。炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられるが、特に限定されない。これらのアルキル基のなかでは、メチル基およびエチル基が好ましい。式(II)における置換基を有していてもよいアルキレン基は、式(I)における置換基を有していてもよいアルキレン基と同様である。また、Zのなかでは、硫黄原子が好ましい。X
−のアニオンは、ハロゲン化物イオン;ホウフッ化物イオン(BF
4−)、ホウ塩化物イオン(BCl
4−)、ホウ臭化物イオン(BBr
4−)などのハロゲン化ホウ素イオン;リン化合物イオン;ハロゲン酸素酸イオン;フルオロ硫酸イオン;メチル硫酸イオン;芳香環ハロゲンまたはハロゲノアルキル基を置換基として有するテトラフェニルホウ素化合物イオンなどが挙げられるが、特に限定されない。これらのアニオンのなかでは、ヨウ素イオンが好ましい。式(II)で表わされる蛍光色素のなかでは、式(IIa):
【0030】
で表わされる蛍光色素NK−321が好ましい。
【0031】
〔式(III)で表わされる蛍光色素〕
【化4】
【0032】
〔式中、R
7およびR
8は低級アルキル基、X
−はアニオン、nは1または2を示す〕。式(III)における低級アルキル基およびアニオンは、式(II)における低級アルキル基およびアニオンと同様である。
【0033】
式(III)で表わされる蛍光色素のなかでは、式(IIIa):
【0038】
〔式中、R
9は水素原子または低級アルキル基、R
10およびR
11はそれぞれ独立して水素原子、低級アルキル基または低級アルコキシ基、R
12は水素原子、アシル基または低級アルキル基、R
13は水素原子または置換基を有していてもよい低級アルキル基;Zは硫黄原子、酸素原子、置換基を有していてもよいアルキレン基、X
−はアニオン、nは1または2を示す〕。
【0039】
式(IV)における低級アルキル基、アニオンおよび置換基を有していてもよいアルキレン基は、式(I)における低級アルキル基、アニオンおよび置換基を有していてもよいアルキレン基と同様である。低級アルコキシ基は、炭素数1〜6のアルコキシ基である。炭素数1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられるが、特に限定されない。これらの炭素数1〜6のアルコキシ基のなかでは、メトキシ基およびエトキシ基が好ましい。アシル基は、脂肪族カルボン酸から誘導されたアシル基であることが好ましい。アシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基などが挙げられるが、特に限定されない。これらのアシル基のなかでは、アセチル基が好ましい。置換基を有していてもよい低級アルキル基において、低級アルキル基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;水酸基などが挙げられるが、特に限定されない。置換基を有していてもよい低級アルキル基は、1〜3個の置換基を有することができる。置換基を有していてもよい低級アルキル基のなかでは、1個の水酸基を有する低級アルキル基が好ましい。なお、Zは、硫黄原子であることが好ましい。X
−は、臭素イオンまたはホウフッ化物イオン(BF
4−)が好ましい。
【0040】
式(IV)で表わされる蛍光色素のなかでは、式(IVa)〜(IVc)で表わされる蛍光色素が好ましい。
【0046】
〔式中、A
−およびQ
−はそれぞれ独立して塩化物イオン(Cl
−)またはヨウ化物イオン(I
−)を示す〕。
【0049】
〔式(VII)で表わされる蛍光色素NK−1570〕
【0051】
〔式(VIII)で表わされる蛍光色素NK−1049〕
【0053】
〔式(IX)で表わされる蛍光色素NK−98〕
【0055】
〔式(X)で表わされる蛍光色素NK−141〕
【0057】
〔式(XI)で表わされる蛍光色素NK−321〕
【0059】
これらの核酸染色性蛍光色素のなかでは、式(XI)で表わされる蛍光色素NK−321が好ましい。
【0060】
核酸染色性蛍光色素は、適切な溶媒に溶解させて用いることができる。溶媒としては、水、有機溶媒、これらの混合物などが挙げられるが、特に限定されない。有機溶媒としては、例えば、アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジメチルスルホキシドなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0061】
生体試料と混合される核酸染色性蛍光色素の量は、血液細胞に含まれる核酸を染色するのに十分な量であればよい。生体試料と混合される核酸染色性蛍光色素の量は、血液細胞に含まれる核酸に対して過剰量であってもよい。通常、等張溶液1mLに懸濁した血液細胞である白血球10
4個または赤血球10
5個あたりの核酸染色性蛍光色素の量は、血液細胞に含まれる核酸を十分に染色する観点から、好ましくは0.5μM以上、より好ましくは1μM以上である。
【0062】
浸透圧調整剤としては、測定用試料の浸透圧を調整するための試薬、例えば、糖、アミノ酸、塩化ナトリウムなどが溶媒に溶解した溶液;有機溶媒などが挙げられるが、特に限定されない。糖としては、例えば、グルコース、フルクトースなどの単糖;アラビノースなどの多糖;キシリトール、ソルビトール、マンニトール、リビトールなど糖アルコールなどが挙げられるが、特に限定されない。アミノ酸としては、例えば、アラニン、プロリン、グリシン、バリンなどが挙げられるが、特に限定されない。溶媒としては、水;リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)緩衝液などの緩衝液などが挙げられるが、特に限定されない。有機溶媒としては、例えば、エチレングリコール、グリセリンなどが挙げられるが、特に限定されない。浸透圧調整剤の具体例としては、リン酸緩衝生理食塩水などが挙げられるが、特に限定されない。
【0063】
生体試料と混合される浸透圧調整剤の量は、測定用試料の浸透圧が249hPa以上1680hPa以下の範囲となる量である。測定用試料の浸透圧は、好中球細胞外トラップの検出感度を向上させる観点から、249hPa以上、好ましくは272hPa以上であり、同様の観点から、1680hPa以下、好ましくは568hPa以下である。このような浸透圧の影響により、好中球細胞外トラップを放出した後の粒子から好中球細胞外トラップは分離されると考えられる。
【0064】
手法(A−1)において、測定用試料には、芳香族有機酸をさらに配合してもよい。芳香族有機酸としては、例えば、フタル酸、安息香酸、サリチル酸、馬尿酸、p−アミノベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、それらの塩などが挙げられるが、特に限定されない。芳香族有機酸は、単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0065】
手法(A−1)において、測定用試料のpHは、好中球の細胞膜に効率よく損傷を与える観点から、好ましくは5.0〜9.0である。測定用試料のpHは、例えば、水酸化ナトリウム、塩酸などのpH調節剤によって調整できる。なお、浸透圧調整剤の溶媒として緩衝液が用いられている場合、浸透圧調整剤によって測定用試料のpHを調整できる。また、手法(A−1)において、芳香族有機酸が用いられている場合、芳香族有機酸によって測定用試料のpHを調整できる。
【0066】
手法(A−1)では、好中球の細胞膜への損傷の付与および核酸染色性蛍光色素の導入をより確実に行なう観点から、生体試料と核酸染色性蛍光色素と浸透圧調整剤と、任意に芳香族有機酸との混合後、測定用試料を25〜41℃で0.25〜3分間インキュベーションしてもよい。
【0067】
手法(A−1)では、必要に応じ、核酸染色性蛍光色素および浸透圧調整剤以外の助剤を用いてもよい。助剤としては、例えば、pH調整剤などが挙げられるが、特に限定されない。
【0068】
手法(A−2)では、測定用試料の浸透圧が2635hPa以下になるように少なくとも生体試料と核酸染色性蛍光色素と界面活性剤と浸透圧調整剤とを混合する。これにより、生体試料に含まれる好中球などの血液細胞の細胞膜に損傷が与えられ、損傷部位から核酸染色性蛍光色素が好中球などの血液細胞内に導入される。
【0069】
手法(A−2)に用いられる核酸染色性蛍光色素および浸透圧調整剤は、手法(A−1)に用いられる核酸染色性蛍光色素および浸透圧調整剤と同様である。手法(A−2)における生体試料と混合される核酸染色性蛍光色素の量は、手法(A−1)における生体試料と混合される核酸染色性蛍光色素の量と同様である。
【0070】
生体試料と混合される浸透圧調整剤の量は、測定用試料の浸透圧が2635hPa以下の範囲となる量である。
【0071】
界面活性剤としては、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤などが挙げられるが、特に限定されない。
【0072】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、第4級アンモニウム塩型界面活性剤、ピリジニウム塩型界面活性剤などが挙げられるが、特に限定されない。第4級アンモニウム塩型界面活性剤としては、例えば、式(XII):
【0074】
(式中、R
14は炭素数6〜18のアルキル基または炭素数6〜18のアルケニル基、R
15およびR
16はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルケニル基、R
17は炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルケニル基またはベンジル基、X
−はハロゲン原子を示し、炭素数の合計が9〜30である)
で表わされる界面活性剤などが挙げられるが、特に限定されない。
【0075】
式(XII)において、R
14のなかでは、炭素数が6、8、10、12または14のアルキル基および炭素数が6、8、10、12または14のアルケニル基が好ましく、炭素数が6、8、10、12もしくは14の直鎖アルキル基がより好ましい。R
14の具体例としては、オクチル基、デシル基、ドデシル基などが挙げられるが、特に限定されない。R
15およびR
16のなかでは、メチル基、エチル基およびプロピル基が好ましい。R
17のなかでは、メチル基、エチル基およびプロピル基が好ましい。
【0076】
ピリジニウム塩型界面活性剤としては、例えば、式(XIII):
【0078】
(式中、R
18は炭素数6〜18のアルキル基または炭素数6〜18のアルケニル基、X
−はハロゲノイオンを示す)
で表わされる界面活性剤などが挙げられるが、特に限定されない。
【0079】
式(XIII)において、R
18のなかでは、炭素数が6、8、10、12または14のアルキル基および炭素数が6、8、10、12または14のアルケニル基が好ましく、炭素数が6、8、10、12もしくは14の直鎖アルキル基がより好ましい。R
18の具体例としては、オクチル基、デシル基、ドデシル基などが挙げられるが、特に限定されない。
【0080】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、式(XIV):
【0082】
(式中、R
19は炭素数8〜25のアルキル基、炭素数8〜25のアルケニル基または炭素数8〜25のアルキニル基、R
20は酸素原子、エステル結合またはオキシフェニレン基、oは10〜50の整数を示す)
で表わされるポリオキシエチレン系ノニオン界面活性剤などが挙げられるが、特に限定されない。
【0083】
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンステロール、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0084】
これらの界面活性剤は、単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。2種類以上の界面活性剤を混合して用いる場合、界面活性剤の組み合せとしては、カチオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤との組み合わせ、カチオン性界面活性剤同士の組み合わせおよびアニオン性界面活性剤同士の組み合せのいずれであってもよい。
【0085】
界面活性剤は、溶液の形態であってもよい。界面活性剤を溶解するための溶媒としては、例えば、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合物などが挙げられるが、特に限定されない。有機溶媒としては、例えば、アルコール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシドなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0086】
生体試料と混合される界面活性剤の量は、測定用試料における界面活性剤の量が所定量となる量であればよい。界面活性剤がカチオン性界面活性剤である場合、測定用試料における界面活性剤の量は、通常、好ましくは10〜10000ppm、より好ましくは100〜1000ppmである。界面活性剤がノニオン性界面活性剤である場合、測定用試料における界面活性剤の量は、通常、好ましくは10〜100000ppm、より好ましくは100〜10000ppm、さらに好ましくは1000〜5000ppmである。
【0087】
手法(A−2)において、測定用試料には、芳香族有機酸をさらに配合してもよい。芳香族有機酸としては、例えば、フタル酸、安息香酸、サリチル酸、馬尿酸、p−アミノベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、それらの塩などが挙げられるが、特に限定されない。芳香族有機酸は、単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0088】
手法(A−2)において、測定用試料のpHは、好中球の細胞膜に効率よく損傷を与える観点から、好ましくは5.0〜9.0である。測定用試料のpHは、例えば、水酸化ナトリウム、塩酸などのpH調節剤によって調整できる。なお、浸透圧調整剤の溶媒として緩衝液が用いられている場合、浸透圧調整剤によって測定用試料のpHを調整できる。また、手法(A−2)において、芳香族有機酸が用いられている場合、芳香族有機酸によって測定用試料のpHを調整できる。
【0089】
手法(A−2)では、好中球の細胞膜への損傷の付与および核酸染色性蛍光色素の導入をより確実に行なう観点から、生体試料と核酸染色性蛍光色素と浸透圧調整剤と、任意に芳香族有機酸との混合後、測定用試料を25〜41℃で0.25〜3分間インキュベーションしてもよい。
【0090】
手法(A−2)では必要に応じ、核酸染色性蛍光色素、界面活性剤および浸透圧調整剤以外の助剤を用いてもよい。助剤は、手法(A−1)に用いられる助剤と同様である。
【0091】
つぎに、工程(B)において、測定用試料に光を照射して得られる蛍光情報を取得する。工程(B)は、例えば、フローサイトメータを用いて行なうことができる。
【0092】
測定用試料に照射される光は、用いられた核酸染色性蛍光色素の種類に応じて適宜選択できる。
【0093】
蛍光情報は、核酸染色性蛍光色素によって染色された核酸から得られる情報である。蛍光情報としては、例えば、蛍光強度などが挙げられるが、特に限定されない。蛍光強度は、核酸染色性蛍光色素によって染色された核酸の量が多いほど大きい。蛍光強度の差は、白血球の分類、好中球細胞外トラップの発生の有無などに用いることができる。
【0094】
工程(B)においては、測定用試料に光を照射して得られる散乱光情報をさらに取得することができる。散乱光情報としては、前方散乱光情報および側方散乱光情報が挙げられる。散乱光は、光の進行方向に血球のような粒子が障害物として存在する場合、粒子により光がその進行方向を変えることによって生じる。散乱光を検出することによって、粒子の大きさおよび材質に関する情報を得ることができる。前方散乱光からは、血液細胞などの粒子の大きさに関する情報を得ることができる。また、側方散乱光からは、粒子内部の情報を得ることができる。細胞へのレーザ光照射によって生じる側方散乱光の強度は、細胞内部の複雑さ、例えば、核の形状、核の大きさ、密度、顆粒の量などを反映する。したがって、これらの散乱光の強度は、白血球の分類などに利用できる。散乱光情報は、好中球細胞外トラップを放出した後の粒子をより確実に分類する観点から、側方散乱光情報であることが好ましい。
【0095】
その後、工程(C)において、蛍光情報に基づいて、好中球細胞外トラップを放出していない好中球から得られる蛍光強度よりも小さい蛍光強度を有する粒子を好中球細胞外トラップとして検出する。具体的には、例えば、好中球細胞外トラップを放出していない好中球のクラスターにおける蛍光強度の平均値よりも小さい蛍光強度を有する粒子を、好中球細胞外トラップを放出した後の粒子として検出できる。また、好中球細胞外トラップを放出していない好中球のクラスターにおける蛍光強度の最頻値よりも小さい蛍光強度を有する粒子を、好中球細胞外トラップを放出した後の粒子として検出できる。
【0096】
工程(B)において、散乱光情報をさらに取得した場合、工程(C)において、蛍光情報および散乱光情報に基づいて、好中球細胞外トラップを検出することができる。この場合、工程(C)においては、好中球細胞外トラップを放出していない好中球から得られる蛍光強度よりも小さい蛍光強度を有し、かつリンパ球から得られる散乱光強度よりも大きい散乱光強度を有する粒子を、好中球細胞外トラップを放出した後の粒子として検出できる。具体的には、例えば、好中球細胞外トラップを放出していない好中球のクラスターにおける蛍光強度の平均値よりも小さい蛍光強度を有し、かつリンパ球のクラスターにおける散乱光強度の平均値よりも大きい散乱光強度を有する粒子を、好中球細胞外トラップを放出した後の粒子として検出できる。また、好中球細胞外トラップを放出していない好中球のクラスターにおける蛍光強度の最頻値よりも小さい蛍光強度を有し、かつリンパ球のクラスターにおける散乱光強度の最頻値よりも大きい散乱光強度を有する粒子を、好中球細胞外トラップを放出した後の粒子として検出できる。
【0097】
フローサイトメトリーによるスキャッタグラムを用いる場合、スキャッタグラム上には、
図1に示されるように、検出領域A1、検出領域A2および検出領域A3が現れる。検出領域A1は、好中球細胞外トラップを放出した後の粒子のクラスターが現れる領域である。検出領域A2は、好中球細胞外トラップを放出していない好中球のクラスターが現れる領域である。検出領域A3は、リンパ球のクラスターが現れる領域である。検出領域A1は、検出領域A2の蛍光強度よりも小さい蛍光強度を示す。また、検出領域A1は、検出領域A3の散乱光強度よりも大きい散乱光強度を示す。検出領域A1に粒子が検出された場合、好中球により、好中球細胞外トラップが放出されていると判定できる。なお、好中球細胞外トラップ自体は、測定用試料の液体成分中に溶けるか、好中球と比較して非常に小さなデブリ成分としてスキャッタグラム上に現れると考えられる。
【0098】
[試料分析装置の全体構成]
前述した試料分析方法に用いられる試料分析装置(以下、単に「分析装置」ともいう)の一例を、添付の図面に基づき説明する。
図2に示されるように、分析装置10は、測定ユニット20と、情報処理ユニット30とを含む。測定ユニット20と情報処理ユニット30とは、通信可能に接続されている。
【0099】
[測定ユニットの構成]
図2に示されるように、測定ユニット20は、試料調製部100と、検出部200と、試薬収容部300と、生体試料が収容された生体試料収容部400と、制御部500とを含む。
【0100】
試料調製部100は、試薬収容部300の第1容器301および第2容器302のそれぞれから試薬を取得する。また、試料調製部100は、生体試料収容部400から生体試料を取得する。さらに、試料調製部100は、取得された試薬と生体試料とを混合する。これにより、試料調製部100は、血液細胞を含む生体試料中の好中球細胞外トラップを放出していない好中球中に含まれる核酸を核酸染色性蛍光色素により染色して測定用試料を調製する。試料調製部100は、チャンバー90と、生体試料搬送部111、第1試薬搬送部112と、第2試薬搬送部113と、測定用試料搬送部131とを含む。生体試料搬送部111、第1試薬搬送部112、第2試薬搬送部113および測定用試料搬送部131は、それぞれ、コンプレッサに接続されている。
【0101】
チャンバー90は、生体試料搬送部111を介して生体試料収容部400と接続されている。生体試料搬送部111は、生体試料を流すためのチューブである。生体試料搬送部111は、コンプレッサが発生する圧力により、生体試料収容部400から定量の生体試料を取得する。生体試料搬送部111は、取得された定量の生体試料を、コンプレッサが発生する圧力によってチャンバー90内に吐出する。
【0102】
チャンバー90は、第1試薬搬送部112を介して試薬収容部300の第1容器301と接続されている。第1試薬搬送部112は、第1試薬を流すためのチューブである。第1試薬搬送部112は、コンプレッサにより発生される圧力により、試薬収容部300の第1容器301から定量の第1試薬を取得する。第1試薬搬送部112は、取得された定量の第1試薬を、コンプレッサにより発生される圧力によってチャンバー90内に吐出する。
【0103】
チャンバー90は、第2試薬搬送部113を介して試薬収容部300の第2容器302と接続されている。第2試薬搬送部113は、第2試薬を流すためのチューブである。第2試薬搬送部113は、コンプレッサにより発生される圧力により、試薬収容部300の第2容器302から定量の第2試薬を取得する。また、第2試薬搬送部113は、取得された定量の第2試薬を、コンプレッサにより発生される圧力によってチャンバー90内に吐出する。
【0104】
チャンバー90は、測定用試料搬送部131を介して検出部200と接続されている。測定用試料搬送部131は、チャンバー90内で調製された測定用試料を検出部200へ搬送するためのチューブである。
【0105】
検出部200は、光照射部201と、受光部202と、シースフロー部203とを含む。受光部202は、受光した光の量に応じた電気信号を情報処理ユニット30の算出部31に出力する。
図3において、検出部200は、シースフロー部203のフローセル231に測定用試料とシース液とを送り込む。これにより、検出部200は、フローセル231中に液流を発生させる。また、検出部200は、フローセル231内を通過する液流に含まれる血液細胞などの粒子にレーザ光を照射する。さらに、検出部200は、レーザ光が照射された粒子から得られる光を測定する。
【0106】
光照射部201は、光源211から照射されたレーザ光と、コリメータレンズ212と、コンデンサレンズ213と、ビームストッパ214とを有している。光照射部201は、光源211から照射されたレーザ光を、コリメータレンズ212とコンデンサレンズ213とを介してフローセル231に照射する。光源211は、用いられる核酸染色性蛍光色素の種類および用いられるレーザ光の種類に応じて適宜選択できる。レーザ光としては、例えば、赤色半導体レーザ光、青色半導体レーザ光などの半導体レーザ光;アルゴンレーザ光などの気体レーザ光などが挙げられるが、特に限定されない。
【0107】
受光部202は、前方散乱光受光部202aと、側方散乱光受光部202bと、蛍光受光部202cとを有している。なお、受光部202は、前方散乱光受光部202aおよび側方散乱光受光部202bを有さず、蛍光受光部202cを有していてもよい。
【0108】
前方散乱光受光部202aは、前方集光レンズ221と、ピンホール222と、フォトダイオード223とを有している。前方散乱光受光部202aは、前方への散乱光を前方集光レンズ221によって集光する。また、前方散乱光受光部202aは、ピンホール222を通った光をフォトダイオード223で受光する。
【0109】
一方、側方散乱光受光部202bは、側方集光レンズ224と、ダイクロイックミラー225と、フォトダイオード226とを有している。側方散乱光受光部202bは、側方への散乱光を側方集光レンズ224にて集光する。また、側方散乱光受光部202bは、側方への散乱光の一部をダイクロイックミラー225で反射させる。さらに、側方散乱光受光部202bは、ダイクロイックミラー225で反射させた光をフォトダイオード226で受光する。
【0110】
蛍光受光部202cは、分光フィルタ227と、アバランシェフォトダイオード228とを有している。蛍光受光部202cは、ダイクロイックミラー225を透過した光を分光フィルタ227に通す。また、蛍光受光部202cは、分光フィルタ227を透過した光をアバランシェフォトダイオード228で受光する。
【0111】
シースフロー部203は、フローセル231を有している、シースフロー部203は、フローセル231内において、測定用試料がシース液に包まれた状態で流れるように構成されている。
【0112】
図2に戻り、試薬収容部300は、第1容器301と、第2容器302とを含む。第1容器301は、核酸染色性蛍光色素を含む第1試薬を収容する。また、第2容器302は、浸透圧調整剤と界面活性剤とを含む第2試薬を収容する。第1容器301および第2容器302のそれぞれには、各容器に収容された試薬の種類を識別するための識別子が設けられている。識別子としては、例えば、バーコードなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0113】
生体試料収容部400は、複数の生体試料容器401を備えている。複数の生体試料容器401のそれぞれには、互いに異なる種類の生体試料が収容されている。また、生体試料収容部400は、所望の生体試料を収容した生体試料容器401を試料吸引位置へ搬送する。複数の生体試料容器401それぞれには、各容器に収容された生体試料の種類を識別するための識別子が設けられている。識別子としては、例えば、バーコードなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0114】
制御部500は、CPU(Central Processing Unit)501と、記憶部502とを含む。制御部500は、コンピュータによって構成されている。
【0115】
記憶部502は、コンピュータプログラム、試薬収容部300に収容された試薬を識別するための試薬識別情報、測定用試料の調製方法に関する試料調製情報、および生体試料収容部400に収容された生体試料を識別するための試料識別情報を記憶している。コンピュータプログラムとしては、例えば、測定用試料の調製のためのコンピュータプログラム、測定用試料に関する蛍光情報および散乱光情報の取得のためのコンピュータプログラムなどが挙げられるが、特に限定されない。試薬識別情報としては、例えば、試薬の種類と試薬が収容された容器の位置と識別子との関連付けの情報などが挙げられるが、特に限定されない。また、試料識別情報としては、例えば、生体試料の種類と生体試料が収容された生体試料容器の位置と識別子との関連付けの情報などが挙げられるが、特に限定されない。
【0116】
CPU501は、記憶部502に記憶された試薬識別情報および試料調製情報を用い、測定用試料の調製のためのコンピュータプログラムを実行する。これにより、CPU501は、測定ユニット20の試料調製部100に測定用試料の調製を行なわせる。
【0117】
[情報処理ユニットの構成]
情報処理ユニット30は、
図2に示されるように、算出部31と、表示部32と、入力部33とを含む。情報処理ユニット30は、検出部200によって取得された蛍光情報に基づいて、好中球細胞外トラップを放出していない好中球から得られる蛍光強度よりも小さい蛍光強度を有する粒子を、好中球細胞外トラップとして検出する。本実施形態において、情報処理ユニット30は、コンピュータシステムによって構成されている。算出部31は、CPU601と、記憶部602とを含む。CPU601は、記憶部602に記憶されたコンピュータプログラムを実行する。表示部32としては、例えば、スクリーンディスプレイなどが挙げられるが、特に限定されない。表示部32は、例えば、好中球細胞外トラップの有無などの情報などを表示する。入力部33としては、例えば、キーボード、マウスなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0118】
記憶部602は、CPU601に実行させるためのオペレーティングシステム、アプリケーションプログラムなどのコンピュータプログラムおよびコンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。アプリケーションプログラムとしては、例えば、好中球細胞外トラップの検出のためのコンピュータプログラムなどが挙げられるが、特に限定されない。CPU601は、記憶部602に記憶された好中球細胞外トラップの検出のためのコンピュータプログラムを実行する。これにより、CPU601は、分析装置10に、好中球細胞外トラップの検出を行なわせることができる。
【0119】
核酸染色性蛍光色素と浸透圧調整剤と界面活性剤とは、同時に生体試料と混合してもよい。したがって、第1容器301および第2容器302の代わりに、共通の1つの容器に核酸染色性蛍光色素と浸透圧調整剤と界面活性剤とが収容されていてもよい。この場合、第1試薬搬送部112および第2試薬搬送部113の代わりに、1つの試薬搬送部が用いられる。
【0120】
[試料分析装置の処理手順]
つぎに、
図4に基づき、分析装置10の処理手順の概要を説明する。以下の処理手順においては、測定ユニット20の制御部500は、記憶部502から取得した試薬識別情報および試料調製情報を用い、記憶部502に記憶された測定用試料の調製のためのコンピュータプログラムを実行する。また、制御部500は、記憶部502に記憶された測定用試料に関する蛍光情報および散乱光情報の取得のためのコンピュータプログラムを実行する。情報処理ユニット30の算出部31は、取得された光学的情報を用い、記憶部602に記憶された好中球細胞外トラップの検出のためのコンピュータプログラムを実行する。
【0121】
まず、ステップS1において、測定ユニット20の制御部500は、試料調製部100に測定用試料の調製を実行させる。ステップS1の測定用試料の調製は、後述する
図5および
図6に示される処理手順にしたがって実行される。
【0122】
その後、ステップS2において、制御部500は、検出部200に、測定用試料から得られる蛍光および散乱光の測定を実行させる。ステップS2の蛍光および散乱光の測定は、
図7に示される処理手順に従って実行される。
【0123】
その後、ステップS3において、情報処理ユニット30の算出部31は、好中球細胞外トラップの検出のためのコンピュータプログラムを実行することにより、好中球細胞外トラップの検出を行なう。
【0124】
[測定用試料調製工程の処理手順]
つぎに、
図5および
図6に基づき、分析装置10による測定用試料調製工程の処理手順の概要を説明する。測定用試料調製工程は、前述の試料分析方法の工程(A)に対応する。
【0125】
まず、
図5に示されるように、ステップS101において、制御部500は、生体試料収容部400に、試料吸引位置への所望の生体試料容器401の搬送を実行させる。このとき、制御部500は、記憶部502に記憶された試料識別情報に基づき、生体試料収容部400に、所望の生体試料が収容された生体試料容器401を選択させる。そして、制御部500は、生体試料収容部400に、選択された生体試料容器401を試料吸引位置に位置するように搬送させる。
【0126】
つぎに、ステップS102において、制御部500は、試料調製部100に、生体試料容器401中の生体試料の定量吸引を実行させる。具体的には、制御部500は、試料調製部100に、生体試料搬送部111を介して生体試料容器401から定量の生体試料を吸引させる。
【0127】
つぎに、ステップS103において、制御部500は、試料調製部100に、チャンバー90への生体試料の吐出を実行させる。具体的には、制御部500は、試料調製部100に、吸引された定量の生体試料を、生体試料搬送部111を介してチャンバー90に吐出させる。
【0128】
つぎに、
図6に示されるように、ステップS104において、制御部500は、試料調製部100に、第1容器301中の第1試薬の定量吸引を実行させる。具体的には、制御部500は、試料調製部100に、第1試薬搬送部112を介して第1容器301から定量の第1試薬を吸引させる。つぎに、ステップS105において、制御部500は、試料調製部100に、チャンバー90への第1試薬の吐出を実行させる。具体的には、制御部500は、試料調製部100に、吸引された定量の第1試薬を、第1試薬搬送部112を介してチャンバー90に吐出させる。
【0129】
また、ステップS106において、制御部500は、試料調製部100に、第2容器302中の第2試薬の定量吸引を実行させる。つぎに、ステップS107において、制御部500は、試料調製部100に、チャンバー90への第2試薬の吐出を実行させる。ステップS106およびステップS107は、第2試薬搬送部113を介して第2試薬の吸引および吐出の一連の処理を行なうことを除き、
図6のステップS104およびステップS105と同様である。本実施形態においては、ステップS106およびステップS107は、
図6のステップS104およびステップS105と並行して実行される。
【0130】
つぎに、ステップS108において、制御部500は、試料調製部100に、チャンバー90内の生体試料、第1試薬および第2試薬の撹拌および混合を実行させる。これにより、血液細胞を含む生体試料中の好中球細胞外トラップを放出していない好中球中に含まれる核酸が核酸染色性蛍光色素により染色され、測定用試料が得られる。
【0131】
その後、
図4のステップS2における測定工程に処理が進行する。
【0132】
[測定工程の処理手順]
つぎに、
図7に基づき、分析装置10による蛍光および散乱光の測定工程の処理手順の概要を説明する。測定工程は、前述の試料分析方法の工程(B)に対応する。
【0133】
ステップS201において、制御部500は、試料調製部100に、検出部200のフローセル231への測定用試料の導入を実行させる。具体的には、制御部500は、試料調製部100に、測定用試料搬送部131を介してチャンバー90内の測定用試料を検出部200のフローセル231へ搬送させる。つぎに、ステップS202において、制御部500は、検出部200に、測定用試料への光照射を実行させる。具体的には、制御部500は、検出部200の光照射部201に、フローセル231内を流れる測定用試料に対し、光を照射する。また、ステップS203において、制御部500は、検出部200に、測定用試料から得られる蛍光および散乱光の測定を実行させる。具体的には、制御部500は、検出部200の受光部202に受光された蛍光および散乱光それぞれの強度に応じた電気信号として光学的情報を情報処理ユニット30の算出部31に出力させる。
【0134】
その後、
図4のステップS3における検出工程に処理が進行する。
【0135】
[検出工程の処理手順]
つぎに、
図8に基づき、分析装置10による好中球細胞外トラップの検出工程の処理手順の概要を説明する。検出工程は、前述の試料分析方法の工程(C)に対応する。
【0136】
ステップS301において、情報処理ユニット30は、測定ユニット20から光学的情報を受信する。つぎに、ステップS302において、CPU601は、受信された光学的情報を用い、粒子の分類を実行する。具体的には、CPU601は、受信された光学的情報を用い、蛍光強度および散乱光強度のスキャッタグラム上への粒子のプロットを実行する。蛍光強度および散乱光強度を用いることにより、
図1のスキャッタグラムに示されるように、粒子は、主に、検出領域A1に現れる粒子群、検出領域A2に現れる粒子群および検出領域A3に現れる粒子群に分類される。つぎに、
図8のステップS303において、CPU601は、好中球細胞外トラップの有無の判定を実行する。具体的には、CPU601は、検出領域A1に現れる粒子を抽出する。CPU601は、
図1のスキャッタグラムの検出領域A1において、粒子が抽出された場合、好中球により、好中球細胞外トラップが放出されていると判定する。その際、CPU601は検出領域A1に現れる粒子の数が所定値以上であるか否かに基づいて好中球細胞外トラップが放出されているか否かを判定してもよい。この所定値は、ノイズなどを考慮して好中球細胞外トラップが出現していないと判断できる値である。その後、CPU601は、検出結果を表示部32などに出力する。
【0137】
[処理手順の変形例]
生体試料への第1試薬および第2試薬の添加は、第1試薬の添加および第2試薬の添加の順で行なわれてもよい。具体的には、ステップS104およびステップS105の一連のステップの後、ステップS106およびステップS107の一連のステップを実行してもよい。生体試料への第1試薬および第2試薬の添加は、第2試薬の添加および第1試薬の添加の順で行なわれてもよい。具体的には、ステップS106およびステップS107の一連のステップの後、ステップS104およびステップS105の一連のステップを実行してもよい。第1試薬および第2試薬の代わりに、核酸染色性蛍光色素と浸透圧調整剤と界面活性剤とを含む試薬を用いてもよい。
【0138】
受光部202が前方散乱光受光部202aおよび側方散乱光受光部202bを有さず、蛍光受光部202cを有する場合、CPU601は、受信された蛍光強度を用い、好中球細胞外トラップを放出していない好中球から得られる蛍光強度よりも小さい蛍光強度を有する粒子を、好中球細胞外トラップとして検出する。
【0139】
4.試薬
本実施形態に係る試薬は、前述の試料分析方法に用いるための試薬である。本実施形態に係る試薬は、浸透圧調整剤と、核酸染色性蛍光色素とを含有する。
【0140】
本実施形態に係る試薬に用いられる浸透圧調整剤および核酸染色性蛍光色素は、前述の試料分析方法に用いられる浸透圧調整剤および核酸染色性蛍光色素と同様である。浸透圧調整剤および核酸染色性蛍光色素は、別々の試薬に含まれていてもよく、1つの試薬に含まれていてもよい。
【0141】
本実施形態に係る試薬は、界面活性剤をさらに含有していてもよい。本実施形態に係る試薬界面活性剤は、前述の試料分析方法に用いられる界面活性剤と同様である。本実施形態に係る試薬が界面活性剤を含有している場合、界面活性剤、浸透圧調整剤および核酸染色性蛍光色素は、それぞれ別々の試薬に含まれていてもよく、1つの試薬に含まれていてもよい。また、本実施形態に係る試薬が浸透圧調整剤を含む試薬と核酸染色性蛍光色素を含む試薬とから構成されている場合、界面活性剤は、浸透圧調整剤を含む試薬および核酸染色性蛍光色素を含む試薬のいずれか一方に含まれていてもよく、両方に含まれていてもよい。
【0142】
本実施形態に係る試薬は、芳香族有機酸、他の溶媒、助剤などをさらに含有していてもよい。本実施形態に係る試薬に用いられる芳香族有機酸は、前述の試料分析方法に用いられる芳香族有機酸と同様である。溶媒としては、水;緩衝液;有機溶媒、これらの少なくとも2種の混合物などが挙げられるが、特に限定されない。緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、HEPES緩衝液などが挙げられるが、特に限定されない。有機溶媒としては、例えば、アルコール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシドなどが挙げられるが、特に限定されない。助剤としては、例えば、キレート剤、防腐剤などが挙げられるが、特に限定されない。
【0143】
本実施形態に係る試薬は、浸透圧調整剤、核酸染色性蛍光色素および界面活性剤それぞれを試薬の形態に応じて適切な溶媒に配合することによって製造できる。
【0144】
本実施形態に係る試薬は、容器に封入された試薬キットとして提供できる。本実施形態に係る試薬キットの一例を
図9に示す。
図9に示される試薬キット800は、第1試薬801が入った容器802と、第2試薬803が入った容器804と、添付文書805と、箱806とを含む。第1試薬801は、核酸染色性蛍光色素を含む。また、第2試薬803は、浸透圧調整剤と界面活性剤とを含む。添付文書805は、試薬キット800を用いて好中球細胞外トラップの検出を行なう操作手順などの記載を含む。箱806は、第1試薬801が入った容器802と、第2試薬803が入った容器804と、添付文書805とを収容する。なお、
図9に示される試薬キットは、第1試薬801および第2試薬803それぞれが異なる容器に封入されたキットであるが、第1試薬801および第2試薬803の混合物が1つの容器に封入されていてもよい。
【実施例】
【0145】
略語の説明
PMA:ホルボール−12−ミリスタート−13−アセタート
NETs:好中球細胞外トラップ
【0146】
(実施例1および比較例1)
健常者末梢血1000μLに、PMAを終濃度が162nMになるように混合した。得られた混合物を室温(25℃)で3時間静置することにより、NETsを引き起こした。得られた混合物17μLと、細胞膜を透過しない核酸染色性蛍光色素〔サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製、商品名:Sytox green stain〕1μLと、リン酸緩衝生理食塩水〔組成:10mMリン酸緩衝液(pH7.4)および150mM塩化ナトリウム〕とを、浸透圧が317.8hPaになるように混合した。これにより、末梢血に含まれる好中球などの血液細胞の細胞膜に損傷を与え、損傷部位から核酸染色性蛍光色素を好中球などの血液細胞内に導入した。得られた試料を実施例1の測定用試料とした。また、PMAを用いる代わりに精製水を用いたことを除き、実施例1の測定用試料の調製と同様の操作を行ない、実施例1の測定用対照試料を得た。
【0147】
健常者末梢血1000μLに、PMAを終濃度が162nMになるように混合した。得られた混合物を室温(25℃)で3時間静置した。得られた混合物17μLと、核酸染色性蛍光色素1μLと、リン酸緩衝生理食塩水とを、浸透圧が6673.8hPaとなるように混合し、比較例1の測定用試料を得た。また、PMAを用いる代わりに精製水を用いたことを除き、比較例1の測定用試料の調製と同様の操作を行ない、比較例1の測定用対照試料を得た。なお、比較例1では、リン酸緩衝生理食塩水が用いられているため、比較例1の測定用試料および測定用対照試料に含まれる好中球の細胞膜には、損傷が与えられていない。
【0148】
フローサイトメータを用いて測定用試料および測定用対照試料それぞれに含まれる核酸からの蛍光および散乱光を測定し、スキャッタグラムを得た。
【0149】
実施例1の測定用試料および測定用対照試料それぞれのスキャッタグラムを
図10に示す。また、比較例1の測定用試料および測定用対照試料それぞれのスキャッタグラムを
図11に示す。図中、(A)は測定用対照試料の蛍光強度と側方散乱光強度との関係を調べた結果、(B)は測定用試料の蛍光強度と側方散乱光強度との関係を調べた結果、(C)は測定用対照試料の蛍光強度と前方散乱光強度との関係を調べた結果、(D)は測定用試料の蛍光強度と前方散乱光強度との関係を調べた結果を示す。
【0150】
図10に示された結果から、実施例1の測定用試料のスキャッタグラムの右下の部分にクラスターが見られるのに対し、実施例1の測定用対照試料のスキャッタグラムではクラスターが見られないことがわかった。実施例1の測定用試料では、NETsが引き起こされている。したがって、
図10において、実施例1の測定用試料のスキャッタグラムの右下の部分のクラスターAは、NETsを放出した後の粒子のクラスターであることが示唆された。通常、健常者の末梢血の白血球の大部分は、リンパ球および好中球である。リンパ球は、側方散乱光強度が好中球よりも低いことが知られている。
図10において、実施例1の測定用試料のスキャッタグラムの左上の部分のクラスターBは、小さい側方散乱光強度を有する粒子がまとまった集団であるため、リンパ球のクラスターであることが示唆された。また、実施例1の測定用試料のスキャッタグラムの右上の部分のクラスターCは、大きい側方散乱光強度を有するまとまった集団であるため、NETsを放出していない好中球のクラスターであることが示唆された。これらの結果から、NETsを放出していない好中球の蛍光強度よりも小さい蛍光強度を有し、かつリンパ球の散乱光強度よりも大きい散乱光強度を有する粒子のクラスターは、NETsを放出した後の粒子のクラスターであることがわかった。
【0151】
一方、
図11に示された結果から、比較例1の測定用試料のスキャッタグラムと測定用対照試料のスキャッタグラムとの間には、ほぼ差がないことがわかった。したがって、比較例1の測定用試料および測定用対照試料では、好中球などの血液細胞に損傷が与えられておらず、核酸染色性蛍光色素を好中球などの血液細胞に導入されていないことが示唆された。
【0152】
図10および
図11それぞれのスキャッタグラムにおける目的位置に出現する粒子の割合を式(XV):
〔目的位置に出現する粒子の割合〕
=〔[目的位置に出現する粒子の数]÷[スキャッタグラム中の全粒子の数]〕
(XV)
にしたがって求めた。なお、目的位置として、NETsを放出していない好中球の蛍光強度よりも小さい蛍光強度を示し、かつリンパ球の散乱光強度よりも大きい散乱光強度を示す位置を用いた。
【0153】
実施例1の測定用試料、実施例1の測定用対照試料、比較例1の測定用試料および比較例1の測定用対照試料それぞれのスキャッタグラムにおける目的位置に出現する粒子の割合を調べた結果を
図12に示す。図中、レーン1は実施例1の測定用試料のスキャッタグラムにおける目的位置に出現する粒子の割合、レーン2は実施例1の測定用対照試料のスキャッタグラムにおける目的位置に出現する粒子の割合、レーン3は比較例1の測定用試料のスキャッタグラムにおける目的位置に出現する粒子の割合、レーン4は比較例1の測定用対照試料それぞれのスキャッタグラムにおける目的位置に出現する粒子の割合を示す。
【0154】
図12に示された結果から、好中球の細胞膜に損傷を与えて核酸染色性蛍光色素を導入した実施例1では、比較例1と比べ、目的位置に出現する粒子の割合が高いことがわかった。したがって、これらの結果から、好中球の細胞膜に損傷を与えて核酸染色性蛍光色素を導入することにより、高精度にNETsを検出できることが示唆された。
【0155】
(実施例2〜9および比較例2〜5)
健常者末梢血およびPMAを含む混合物17μLと、核酸染色性蛍光色素〔サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製、商品名:Sytox green stain〕と、リン酸緩衝生理食塩水とを、浸透圧が249.7(実施例2)、272.4(実施例3)、317.8(実施例4)、385.9(実施例5)、567.5(実施例6)、885.3(実施例7)、1203.1(実施例8)、1679.8(実施例9)、1974.9(比較例2)、2860.2(比較例3)、3473.1(比較例4)または6673.8(比較例5)となるように混合したことを除き、実施例1と同様の操作を行ない、実施例2〜9および比較例2〜5の測定用試料を得た。また、PMAを用いる代わりに精製水を用いたことを除き、実施例2〜9および比較例2〜5の測定用試料の調製と同様の操作を行ない、実施例2〜9および比較例2〜5の測定用対照試料を得た。
【0156】
フローサイトメータを用いて測定用試料および測定用対照試料それぞれに含まれる核酸からの蛍光および散乱光を測定し、スキャッタグラムを得た。NETsの検出感度を式(XVI):
〔NETsの検出感度〕
=〔[目的位置に出現する粒子の数A]÷[目的位置に出現する粒子の数B]〕
(XVI)
(式中、[目的位置に出現する粒子の数A]は測定用試料のスキャッタグラムにおける目的位置に出現する粒子の数、[目的位置に出現する粒子の数B]は測定用対照試料のスキャッタグラムにおける目的位置に出現する粒子の数を示す。)
にしたがって求めた。目的位置に出現する粒子の数Aおよび目的位置に出現する粒子の数Bは、式(XV)にしたがって求めた。
【0157】
実施例2〜9および比較例2〜5それぞれの測定用試料および測定用対照試料を用い、浸透圧と、NETsの検出感度との関係を調べた結果を表1に示す。
【0158】
【表1】
【0159】
表1に示された結果から、測定用試料の浸透圧が245〜1680hPaである場合、感度が1.8を超えていることがわかった。これらの結果から、測定用試料の浸透圧が245〜1680hPaである場合、高精度にNETsを検出できることが示唆された。
【0160】
(実施例10)
第1試薬として染色剤〔シスメックス(株)製の商品名:ストマトライザー4DS〕を用いた。また、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドと、ポリオキシエチレン(30)セチルエーテルと、フタル酸水素カリウムと、エチレンジアミン四酢酸二カリウム塩とを表2に示される組成となるように精製水に添加して混合物を得た。水酸化ナトリウムを用い、得られた混合物のpHをpH6.0になるように調整して第2試薬を得た。末梢血20μLと第1試薬20μLと第2試薬1000μLとを混合した。得られた混合物を40℃で20秒間インキュベーションして測定用試料(浸透圧:2633.2hPa)を得た。
【0161】
【表2】
【0162】
フローサイトメータを用いて測定用試料および測定用対照試料それぞれに含まれる核酸からの蛍光および散乱光を測定し、スキャッタグラムを得た。
【0163】
実施例10の測定用試料および測定用対照試料それぞれのスキャッタグラムを
図13に示す。図中、(A)は測定用対照試料の蛍光強度と側方散乱光強度との関係を調べた結果、(B)は測定用試料の蛍光強度と側方散乱光強度との関係を調べた結果、(C)は測定用対照試料の蛍光強度と前方散乱光強度との関係を調べた結果、(D)は測定用試料の蛍光強度と前方散乱光強度との関係を調べた結果を示す。
【0164】
図13に示された結果から、NETsを放出した後の粒子のクラスターと、他のクラスターとを明確に判別できることがわかった。したがって、生体試料と核酸染色性蛍光色素と界面活性剤とを、浸透圧が2633.2hPa以下となるように混合することにより、NETsをより高精度に検出できることがわかった。