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特開2017-212643A/D変換回路、クーロンカウンタ回路、電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-212643(P2017-212643A)
(43)【公開日】2017年11月30日
(54)【発明の名称】A/D変換回路、クーロンカウンタ回路、電子機器
(51)【国際特許分類】
   H03M 1/10 20060101AFI20171102BHJP
【FI】
   H03M1/10 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-105397(P2016-105397)
(22)【出願日】2016年5月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】鮒谷 研治
【テーマコード(参考)】
5J022
【Fターム(参考)】
5J022AA01
5J022AC04
5J022CB01
5J022CD02
5J022CF01
5J022CF08
(57)【要約】
【課題】A/Dコンバータの信頼性を向上する。
【解決手段】第1マルチプレクサ104は、アナログ信号VANLGと診断用電圧VDIAGを受け、それらのひとつを選択して出力する。A/Dコンバータ106は、第1マルチプレクサ104の出力信号S1をデジタル信号S2に変換する。メモリ108は、正常であるA/Dコンバータ106に診断用電圧VDIAGを入力したときのデジタル信号S2の期待値に応じた診断データS4を格納する。ロジック回路110は、通常動作時において第1マルチプレクサ104にアナログ信号VANLGを選択させて、そのとき得られるデジタル信号S2を処理する。またロジック回路110は自己診断時において第1マルチプレクサ104に診断用電圧VDIAGを選択させ、そのとき得られるデジタル信号S2と診断データS4の関係にもとづいて、A/Dコンバータ106の異常を検出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の診断用電圧を生成する基準電圧源と、
アナログ信号と前記診断用電圧を受け、それらのひとつを選択して出力する第1マルチプレクサと、
前記第1マルチプレクサの出力信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータと、
正常である前記A/Dコンバータに前記診断用電圧を入力したときの前記デジタル信号の期待値に応じた診断データを格納するメモリと、
(i)通常動作時において前記第1マルチプレクサに前記アナログ信号を選択させて、そのとき得られる前記デジタル信号を処理するとともに、(ii)自己診断時において前記第1マルチプレクサに前記診断用電圧を選択させ、そのとき得られる前記デジタル信号と前記診断データの関係にもとづいて、前記A/Dコンバータの異常を検出するロジック回路と、
を備えることを特徴とするA/D変換回路。
【請求項2】
前記ロジック回路は、前記デジタル信号と前記診断データにもとづくしきい値との比較結果にもとづいて、前記A/Dコンバータの異常を検出することを特徴とする請求項1に記載のA/D変換回路。
【請求項3】
前記診断データは、上側しきい値を含み、前記ロジック回路は、前記デジタル信号が前記上側しきい値を超えたときに、異常と判定することを特徴とする請求項1または2に記載のA/D変換回路。
【請求項4】
前記診断データは、下側しきい値を含み、前記ロジック回路は、前記デジタル信号が前記下側しきい値を下回ったときに、異常と判定することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のA/D変換回路。
【請求項5】
前記A/Dコンバータは、ΔΣA/Dコンバータであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のA/D変換回路。
【請求項6】
前記通常動作時と前記自己診断時において前記A/Dコンバータの入力基準値が切りかえられることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のA/D変換回路。
【請求項7】
前記第1マルチプレクサの前段に設けられ、前記アナログ信号を増幅するアンプをさらに備えることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のA/D変換回路。
【請求項8】
前記第1マルチプレクサは、複数のアナログ信号を受け、複数のアナログ信号および前記診断用電圧からひとつを選択することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のA/D変換回路。
【請求項9】
前記ロジック回路は、前記A/D変換回路の温度に応じて、前記しきい値を変化させることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のA/D変換回路。
【請求項10】
ひとつの半導体基板に一体集積化されることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のA/D変換回路。
【請求項11】
バッテリの充放電電荷量を計算するクーロンカウンタ回路であって、
差動入力ポートであって、それらの間に前記バッテリの電流を示す検出電圧が入力される差動入力ポートと、
前記差動入力ポートの電位差を、所定電圧を基準として増幅するアンプと、
所定の診断用電圧を生成する基準電圧源と、
前記アンプの出力信号と前記診断用電圧を受け、ひとつを選択する第1マルチプレクサと、
前記所定電圧と接地電圧を受け、ひとつを選択する第2マルチプレクサと、
前記第1マルチプレクサの出力信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータと、
正常である前記A/Dコンバータに前記診断用電圧を入力したときの前記デジタル信号の期待値に応じた診断データを格納するメモリと、
(i)通常動作時において前記第1マルチプレクサに前記アンプの出力信号を選択させ、前記第2マルチプレクサに前記所定電圧を選択させ、そのとき得られる前記デジタル信号を積算処理するとともに、(ii)自己診断時において前記第1マルチプレクサに前記診断用電圧を選択させ、前記第2マルチプレクサに前記接地電圧を選択させ、そのとき得られる前記デジタル信号と前記診断データの関係にもとづいて、前記A/Dコンバータの異常を検出するロジック回路と、
前記ロジック回路が生成した前記バッテリの電流の積算値を示すデータを外部に出力するためのインタフェース回路と、
を備えることを特徴とするクーロンカウンタ回路。
【請求項12】
前記ロジック回路は、前記デジタル信号と前記診断データにもとづくしきい値との比較結果にもとづいて、前記A/Dコンバータの異常を検出することを特徴とする請求項11に記載のクーロンカウンタ回路。
【請求項13】
前記診断データは、上側しきい値を含み、前記ロジック回路は、前記デジタル信号が前記上側しきい値を超えたときに、異常と判定することを特徴とする請求項11または12に記載のクーロンカウンタ回路。
【請求項14】
前記診断データは、下側しきい値を含み、前記ロジック回路は、前記デジタル信号が前記下側しきい値を下回ったときに、異常と判定することを特徴とする請求項11から13のいずれかに記載のクーロンカウンタ回路。
【請求項15】
前記A/Dコンバータは、ΔΣA/Dコンバータであることを特徴とする請求項11から14のいずれかに記載のクーロンカウンタ回路。
【請求項16】
アナログ信号を受けるシングルエンドの入力ポートをさらに備え、
前記第1マルチプレクサは、前記アンプの出力信号、前記入力ポートの信号および前記診断用電圧を受け、ひとつを選択することを特徴とする請求項11から15のいずれかに記載のクーロンカウンタ回路。
【請求項17】
前記ロジック回路は、前記クーロンカウンタ回路の温度に応じて、前記しきい値を変化させることを特徴とする請求項11から16のいずれかに記載のクーロンカウンタ回路。
【請求項18】
ひとつの半導体基板に一体集積化されることを特徴とする請求項11から17のいずれかに記載のクーロンカウンタ回路。
【請求項19】
バッテリと、
前記バッテリを充電する充電回路と、
前記バッテリの負荷と、
前記バッテリの充放電電荷を検出する請求項11から18のいずれかに記載のクーロンカウンタ回路と、
前記クーロンカウンタ回路の出力にもとづいて、前記バッテリの残量を検出する残量検出回路と、
を備えることを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A/D変換に関する。
【背景技術】
【0002】
さまざまな電子機器において、内部回路の電気的状態や電子機器の物理的状態を検出してデジタル信号処理するために、これらの状態を表すアナログ信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−014029号公報
【特許文献2】特開2015−102318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、A/Dコンバータについて検討した結果、以下の課題を認識するに至った。
【0005】
A/Dコンバータが完全に故障して動作不能となった場合には、デジタル信号は、アナログ信号と相関を持たなくなる。この場合には、A/Dコンバータの出力信号を利用する後段のプロセッサや回路において、異常を認識することが可能である。
【0006】
しかしながらA/Dコンバータには、経年劣化により、不完全な故障が生ずる場合がある。不完全な故障とは、何らかの異常が生じているが、A/Dコンバータは一見すると動作しており、不正確ではあるが何らかの出力信号が生成される故障モードをいう。不完全な故障が生ずると、後段のプロセッサや回路は、誤った出力信号に基づいて動作することとなるため、システムの誤動作の要因となる。
【0007】
本発明者はかかる課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、信頼性を高めたA/Dコンバータの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様はA/D変換回路に関する。A/D変換回路は、所定の診断用電圧を生成する基準電圧源と、アナログ信号と診断用電圧を受け、ひとつを選択して出力する第1マルチプレクサ(セレクタ)と、第1マルチプレクサの出力信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータと、正常であるA/Dコンバータに診断用電圧を入力したときのデジタル信号の期待値に応じた診断データを格納するメモリと、(i)通常動作時において第1マルチプレクサにアナログ信号を選択させて、そのとき得られるデジタル信号を処理するとともに、(ii)自己診断時において第1マルチプレクサに診断用電圧を選択させ、そのとき得られるデジタル信号と診断データの関係にもとづいて、A/Dコンバータの異常を検出するロジック回路と、を備える。
【0009】
この態様によると、A/D変換回路が自己診断を実行することにより、A/Dコンバータが動作不能となる故障のみでなく、不完全な故障も検出でき、信頼性を高めることができる。
【0010】
ロジック回路は、デジタル信号と診断データにもとづくしきい値との比較結果にもとづいて、A/Dコンバータの異常を検出してもよい。この場合、大小比較の簡単な処理で、A/Dコンバータの異常を判定できる。
【0011】
診断データは、上側しきい値を含み、ロジック回路は、デジタル信号が上側しきい値を超えたときに、異常と判定してもよい。診断データは、下側しきい値を含み、ロジック回路は、デジタル信号が下側しきい値を下回ったときに、異常と判定してもよい。
【0012】
A/Dコンバータは、ΔΣA/Dコンバータであってもよい。
【0013】
通常動作時と自己診断時においてA/Dコンバータの入力基準値が切りかえられてもよい。
【0014】
A/D変換回路は、第1マルチプレクサの前段に設けられ、アナログ信号を増幅するアンプをさらに備えてもよい。
【0015】
第1マルチプレクサは、複数のアナログ信号を受け、複数のアナログ信号および診断用電圧からひとつを選択してもよい。
【0016】
ロジック回路は、A/D変換回路の温度に応じて、しきい値を変化させてもよい。これにより、温度ドリフトの影響を考慮した異常判定が可能となる。
【0017】
A/D変換回路は、ひとつの半導体基板に一体集積化されてもよい。「一体集積化」とは、回路の構成要素のすべてが半導体基板上に形成される場合や、回路の主要構成要素が一体集積化される場合が含まれ、回路定数の調節用に一部の抵抗やキャパシタなどが半導体基板の外部に設けられていてもよい。回路を1つのチップ上に集積化することにより、回路面積を削減することができるとともに、回路素子の特性を均一に保つことができる。
【0018】
本発明の別の態様は、バッテリの充放電電荷量を計算するクーロンカウンタ回路に関する。クーロンカウンタ回路は、差動入力ポートであって、それらの間にバッテリの電流を示す検出電圧が入力される差動入力ポートと、差動入力ポートの電位差を、所定電圧を基準として増幅するアンプと、所定の診断用電圧を生成する基準電圧源と、アンプの出力信号と診断用電圧を受け、ひとつを選択する第1マルチプレクサと、所定電圧と接地電圧を受け、ひとつを選択する第2マルチプレクサと、第1マルチプレクサの出力信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータと、正常であるA/Dコンバータに診断用電圧を入力したときのデジタル信号の期待値に応じた診断データを格納するメモリと、(i)通常動作時において第1マルチプレクサにアンプの出力信号を選択させ、第2マルチプレクサに所定電圧を選択させ、そのとき得られるデジタル信号を積算処理するとともに、(ii)自己診断時において第1マルチプレクサに診断用電圧を選択させ、第2マルチプレクサに接地電圧を選択させ、そのとき得られるデジタル信号と診断データの関係にもとづいて、A/Dコンバータの異常を検出するロジック回路と、ロジック回路が生成したバッテリの電流の積算値を示す診断データを外部に出力するためのインタフェース回路と、を備える。
【0019】
クーロンカウンタ回路は、アナログ信号を受けるシングルエンドの入力ポートをさらに備えてもよい。第1マルチプレクサは、アンプの出力信号、入力ポートの信号および診断用電圧を受け、ひとつを選択してもよい。
【0020】
ロジック回路は、クーロンカウンタ回路の温度に応じて、しきい値を変化させてもよい。
【0021】
クーロンカウンタ回路は、ひとつの半導体基板に一体集積化されてもよい。
【0022】
本発明の別の態様は、電子機器に関する。電子機器は、バッテリと、バッテリを充電する充電回路と、バッテリの負荷と、バッテリの充放電電荷を検出するクーロンカウンタ回路と、クーロンカウンタ回路の出力にもとづいて、バッテリの残量を検出する残量検出回路と、を備えてもよい。
【0023】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、A/Dコンバータの信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施の形態に係るA/D変換回路のブロック図である。
図2】A/D変換回路の動作を示すフローチャートである。
図3図3(a)、(b)は、図2のフローチャートの比較処理におけるA/D変換回路の状態を説明する図である。
図4】A/D変換回路の構成例を示す回路図である。
図5】実施の形態に係るクーロンカウンタ回路を備える電子機器のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0027】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合や、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0028】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0029】
図1は、実施の形態に係るA/D変換回路100のブロック図である。A/D変換回路100は、基準電圧源102、第1マルチプレクサ104、A/Dコンバータ106、メモリ108を備える。A/D変換回路100は、通常動作時において、アナログ入力電圧VANLGをデジタル信号DOUTに変換し、所定の信号処理を施す。またA/D変換回路100は、A/Dコンバータ106の異常や故障等を自己診断する機能を備える。
【0030】
基準電圧源102は、所定の診断用電圧VDIAGを生成する。診断用電圧VDIAGは、A/Dコンバータ106の入力レンジのセンター付近に規定されるが、その限りではない。
【0031】
第1マルチプレクサ104は、アナログ信号VANLGと診断用電圧VDIAGを受け、それらの中からロジック回路110からの選択信号S6に応じたひとつを選択して出力する。A/Dコンバータ106は、第1マルチプレクサ104の出力信号S1をデジタル信号S2に変換する。
【0032】
メモリ108は、正常であるA/Dコンバータ106に診断用電圧VDIAGを入力したときのデジタル信号S2の期待値S3に応じた診断データS4を格納する。たとえばA/D変換回路100の出荷前の検査工程において、第1マルチプレクサ104に診断用電圧VDIAGを選択させ、そのときのA/Dコンバータ106からのデジタル信号S2を、期待値S3としてもよい。あるいは期待値S3として設計値を用いてもよい。
【0033】
メモリ108は、不揮発性メモリであってもよい。この場合、A/D変換回路100の出荷前に、期待値S3に応じた診断データS4が、メモリ108に書き込まれる。診断データS4は、期待値S3から定まるしきい値S5であってもよい。
【0034】
ロジック回路110は、(i)通常動作時において第1マルチプレクサ104にアナログ信号VANLGを選択させて、そのとき得られるデジタル信号S2を処理する。これを通常処理と称し、ロジック回路110は、通常処理のための回路ブロック(あるいは機能)112を有する。
【0035】
さらにロジック回路110は、(ii)自己診断時において第1マルチプレクサ104に診断用電圧VDIAGを選択させ、そのとき得られるデジタル信号S2とメモリ108に格納される診断データS4の関係にもとづいて、A/Dコンバータ106の異常を検出する。ロジック回路110は、自己診断のための回路ブロック(あるいは機能)114を有する。
【0036】
メモリ108に格納される診断データS4は、上側しきい値S5Uを含み、ロジック回路110は、デジタル信号S2が上側しきい値S5Uを超えたときに、異常と判定する。さらに診断データS4は、下側しきい値S5Lを含み、ロジック回路110は、デジタル信号S2が下側しきい値S5Lを下回ったときに、異常と判定する。回路ブロック114は、デジタルコンパレータを含んでもよい。
【0037】
以上がA/D変換回路100の構成である。続いてその動作を説明する。図2は、A/D変換回路100の動作を示すフローチャートである。A/D変換回路100が起動すると、初期化シーケンスS100が実行され、続いて自己診断シーケンスS200に移行する。自己診断シーケンスS200は、処理S202〜S214を含む。
【0038】
基準電圧源102が診断用電圧VDIAGを生成し(S202)、第1マルチプレクサ104が診断用電圧VDIAGを選択してA/Dコンバータ106に入力する(S204)。A/Dコンバータ106は、診断用電圧VDIAGをデジタル信号S2に変換する(S206)。
【0039】
ロジック回路110は、メモリ108から診断データS4をリードし、しきい値S5U,S5Lを取得する(S208)。そしてデジタル信号S2をしきい値S5U,S5Lと比較する(S210)。S5L<S2<S5Uのとき(S210のY)、A/Dコンバータ106は正常と判定され(S212)、通常動作S102に移行する。S5L>S2あるいはS2>S5Uのとき(S210のN)、A/Dコンバータ106は異常と判定され(S214)、必要に応じてエラー処理S104が実行される。
【0040】
なお、図2のフローチャートや処理の順序を限定するものではなく、処理が破綻しない限りにおいて、各処理の順序を入れかえてもよい。
【0041】
図3(a)、(b)は、図2のフローチャートの比較処理S210におけるA/D変換回路100の状態を説明する図である。上述のようにロジック回路110は、デジタルコンパレータCOMPを含む。図3(a)に示すように、デジタルコンパレータCOMPの非反転入力に、デジタル信号S2が、反転入力に上側しきい値S5Uが入力される。このとき、S2>S5Uであれば、異常判定信号S8がアサート(ハイレベル)となる。また図3(b)に示すように、デジタルコンパレータCOMPの非反転入力に、下側しきい値S5Lが、反転入力にデジタル信号S2が入力される。このとき、S2<S5Lであれば、異常判定信号S8がアサート(ハイレベル)となる。デジタルコンパレータCOMPを2個設け、図3(a)、(b)の比較処理を同時に実行してもよい。
【0042】
以上がA/D変換回路100の動作である。このA/D変換回路100によれば、自己診断を実行することにより、A/Dコンバータ106が完全に動作不能となる故障のみでなく、不完全な故障も検出でき、信頼性を高めることができる。
【0043】
本発明は、図1のブロック図や回路図、あるいは図2のフローチャートとして把握され、あるいは上述の説明から導かれるさまざまな装置、回路、方法に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。以下、本発明の範囲を狭めるためではなく、発明の本質や回路動作の理解を助け、またそれらを明確化するために、より具体的な構成例や実施例を説明する。
【0044】
図4は、A/D変換回路100の構成例(100a)を示す回路図である。A/D変換回路100aは、図1のA/D変換回路100に加えて、第2マルチプレクサ116、アンプ120、インタフェース回路122を備え、ひとつの半導体基板に集積化されたA/DコンバータICである。
【0045】
差動入力ポートINP,INNは対をなしており、それらの電位差VINが、アナログ入力となる。アンプ120は第1マルチプレクサ104の前段に設けられ、電位差VINを増幅し、アナログ電圧VANLG1を生成する。アンプ120は、加算増幅器であってもよく、VANLG1=α×VIN+β×VREFを出力してもよい。VREFはオフセット量を規定する。アンプ120の利得は可変であってもよい。
【0046】
さらにA/D変換回路100aは、アナログポートPORT1,PORT2を備え、それらにはアナログ電圧VANLG2,VANLG3が入力可能となっている。第1マルチプレクサ104は、アナログ電圧VANLG1〜VANLG3および診断用電圧VDIAGを受け、選択信号S6に応じたひとつを選択する。具体的には自己診断時には診断用電圧VDIAGを選択し、通常動作時には、複数のアナログ電圧VANLG1〜VANLG3を時分割で選択する。
【0047】
A/Dコンバータ106は、ΔΣA/Dコンバータである。上述のように、通常動作時においてアンプ120は入力電圧VINを、基準電圧VREFにもとづいてオフセット(シフト)させる。このオフセットに対応して、通常動作時に、A/Dコンバータ106の入力基準値Vaとして、基準電圧VREFが与えられる。A/Dコンバータ106は差動入力を有し、入力基準値Vaは、A/Dコンバータ106の反転入力端子に供給される電圧であってもよい。これにより、アンプ120における基準電圧VREFの影響を除いて、差動入力ポートINP,INNの電位差VINをデジタル値S2に変換できる。
【0048】
一方で自己診断時では、A/Dコンバータ106の入力基準値Vaはゼロでよい。そこで第2マルチプレクサ116は、基準電圧VREFと接地電圧VGNDを受け、ロジック回路110からの選択信号S7に応じた一方を選択し、A/Dコンバータ106に供給する。
【0049】
インタフェース回路122は、通常動作時においてロジック回路110の信号処理により得られたデータを、OUTピンに接続される外部のマイコンやプロセッサに出力する。あるいは自己診断シーケンスにおいてA/Dコンバータ106の異常を検出した場合、異常を通知してもよい。
【0050】
以上がA/D変換回路100aの構成である。続いてA/D変換回路100aの用途を説明する。A/D変換回路100aは、汎用のA/DコンバータICとして利用可能であるが、ロジック回路110にさまざまな機能を追加することにより、特定用途向けのICを構成するができる。上述のようにA/D変換回路100aは、自己診断機能を備えるため、長期間にわたり高信頼性が要求される用途に好適である。
【0051】
図5は、実施の形態に係るクーロンカウンタ回路200を備える電子機器300のブロック図である。このクーロンカウンタ回路200は、図4のA/D変換回路100aをもとに構成されている。クーロンカウンタ回路200は、電子機器300に搭載される。
【0052】
電子機器300は、クーロンカウンタ回路200に加えて、バッテリ302、電流センサ304、マイコン306、充電回路308、負荷310を備える。バッテリ302は、リチウムイオン電池やニッケル水素電池などの再充電可能な2次電池である。
【0053】
充電回路308は、外部から電源供給を受け、バッテリ302を充電する。負荷310は、バッテリ302からの電力供給を受けて動作する。
【0054】
クーロンカウンタ回路200の接地ピン(GND,DGND)は接地されている。また電源ピン(VCC)にはアナログブロックの電源電圧が供給され、電源ピン(VDD)にはデジタルブロックの電源電圧が供給される。
【0055】
電流センサ304は、バッテリ302に流れる充放電電流IBATを測定する。電流センサ304は、たとえばバッテリ302と直列に設けられたセンス抵抗Rで構成することができ、センス抵抗Rの電圧降下Vが、電流量を示すアナログ電圧VINとして、クーロンカウンタ回路200の差動入力ポートINP,INNに入力される。電流センサ304は、電流センスアンプであってもよい。
【0056】
基準電圧源202および内部電圧源204は、それぞれ異なる電圧レベルの基準電圧VREF25,VREF15を生成する。基準電圧(VREF25)端子および内部電圧(VREF15)端子はそれぞれ、基準電圧源202および内部電圧源204の出力と接続され、外付けの平滑キャパシタが接続される。またクーロンカウンタ回路200の外部回路から、基準電圧VREF25および内部電圧VREF15が参照可能となっている。なお、基準電圧源102を、基準電圧源202あるいは内部電圧源204と共通化してもよい。
【0057】
アンプ120は、非反転型の差動増幅器であり、入力アナログ信号Vを、基準電圧VREF25を基準として増幅し、アナログ電圧VANLG1を生成する。A/Dコンバータ106は、基準電圧VREF25およびVREF15を利用して、第1マルチプレクサ104が選択したアナログ信号VANLGをデジタル信号S2に変換する。検出信号Vに対応するデジタル信号S2は、バッテリ302の充放電電流IBATを示す。
【0058】
クーロンカウンタ回路200は、クーロンカウント法によるバッテリの残量検出に使用され、バッテリの充電電荷量の積算値(CCC:Charge Coulomb Count)、バッテリの放電電荷量の積算値(DCC:Discharge Coulomb Count)、累積カウント値(ACC:Accumulate Coulomb Count)の少なくともひとつを生成する。
【0059】
オシレータ206は、内部クロックを発生する。ロジック回路110は、内部クロックと同期して動作する。ロジック回路110は、積算器130、データレジスタ132などを含む。これらは図1図4の回路ブロック112に相当する。積算器130は、正の電流IBATに対応するデジタル信号S2を積算し、CCC値を生成してもよい。また積算器130は、負の電流IBATに対応するデジタル信号S2を積算し、DCC値を生成してもよい。また積算器130は、正負にかかわらずデジタル信号S2を積算し、ACC値を生成してもよい。
【0060】
積算器130が生成したクーロンカウント値は、データレジスタ132に書き込まれる。データレジスタ132の値は、インタフェース回路122を介してマイコン306からアクセス可能となっている。インタフェース回路122は、たとえばSPI(Serial Peripheral Interface)である。SDIはデータ入力端子、SDOはデータ出力端子、CSはチップセレクト端子、CLKはシリアルクロックの入力端子である。
【0061】
マイコン306は、クーロンカウント値にもとづいて、バッテリ302の残量を計算する。マイコン306は、ヒューエルゲージIC(残量検出回路)とも称される。
【0062】
さらにロジック回路110は、自己診断回路134およびアラーム出力回路136を含む。これらは図1図2の回路ブロック114に相当する。自己診断回路134は、自己診断時における比較処理を行い、A/Dコンバータ106の異常の有無を判定する。またアラーム出力回路136は、A/Dコンバータ106の異常、あるいはそのほかの異常が検出されると、ALARMピンの信号をアサートし、マイコン306に通知する。
【0063】
またクーロンカウンタ回路200は割り込み出力ピンINTをさらに備える。INTピンには、外部のマイコン306が接続されており、ロジック回路110は、クーロンカウンタ回路200の内部で所定の割り込みイベントが発生すると、INTピンを介してマイコン306に割り込みをかける。割り込みイベントとしては、キャリブレーションの完了などが例示される。
【0064】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0065】
(第1変形例)
実施の形態では、メモリ108に格納される診断データS4がしきい値S5であるとしたがそれに限定されない。たとえば診断データS4は、期待値S3であってもよい。ロジック回路110は、期待値S3にマージンを加算・減算することにより、しきい値S5を生成してもよい。
【0066】
実施の形態では上側、下側の2個のしきい値を設けたが、診断用電圧VDIAGをフルスケールの最大値の近傍に設定し、下側しきい値のみを規定してもよい。反対に診断用電圧VDIAGをフルスケールの最小値の近傍に設定し、上側しきい値のみを規定してもよい。
【0067】
(第2変形例)
実施の形態では、ロジック回路110が自己診断時に、診断データS4と期待値S3を比較することで、A/Dコンバータ106の異常の有無を判定したがそれに限定されない。ロジック回路110は、診断データS4に所定の演算処理を施した結果得られる値にもとづいて、A/Dコンバータ106を診断してもよい。たとえばロジック回路110は、診断用電圧VDIAGに応じたデジタル信号S2を複数回、測定し、複数の測定値の平均値をしきい値と比較してもよい。
【0068】
(第3変形例)
A/D変換回路100は、診断用電圧VDIAGを二値、あるいは三値以上で変化させてもよい。メモリ108の診断データS4は、診断用電圧VDIAGの各値ごとに用意され、ロジック回路110は、診断用電圧VDIAGの各値ごとにA/Dコンバータ106の正常、異常を判定してもよい。この場合、精度を高めることができる。
【0069】
(第4変形例)
A/Dコンバータ106は、温度依存性を有する場合がある。この場合、ロジック回路110は、温度に応じて、しきい値S5を変化させてもよい。A/Dコンバータ106の温度依存性が大きく、かつしきい値S5を一定とする場合、しきい値S5を規定する際に、大きいマージンを考慮する必要がある。これに対して、しきい値S5に温度依存性を持たせる場合には、マージンを小さくできるため、より正確な診断が可能となる。
【0070】
(第5変形例)
メモリ108は、レジスタ、SRAM、DRAMなどの揮発性メモリであってもよい。この場合、A/D変換回路100と接続されるホストプロセッサ側に、不揮発性メモリを設けておき、A/D変換回路100の起動毎に、診断データS4をA/D変換回路100のメモリ108に書き込むようにしてもよい。
【0071】
(第6変形例)
図5のクーロンカウンタ回路200は、電子機器以外にも、家庭用あるいはプラント用の蓄電システムや、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車にも利用可能である。
【0072】
(第7変形例)
A/Dコンバータ106の形式は特に限定されず、ΔΣA/Dコンバータの他、SAR(逐次比較型)A/Dコンバータであってもよいし、その他のA/Dコンバータであってもよい。
【0073】
(第8変形例)
自己診断を行うタイミングは適切なタイミング、あるいは周期で実行すればよく、必ずしもA/D変換回路100の起動時に実行する必要はない。
【0074】
実施の形態にもとづき、具体的な用語を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0075】
100…A/D変換回路、102…基準電圧源、104…第1マルチプレクサ、106…A/Dコンバータ、108…メモリ、110…ロジック回路、112,114…回路ブロック、116…第2マルチプレクサ、120…アンプ、122…インタフェース回路、200…クーロンカウンタ回路、202…、300…電子機器、302…バッテリ、304…電流センサ、306…マイコン、308…充電回路、310…負荷、S2…デジタル信号、S3…期待値、S4…診断データ、S5…しきい値。
図1
図2
図3
図4
図5