【解決手段】原水に凝集剤を注入する凝集剤注入工程と、注入された前記凝集剤と前記原水とを混和してフロックを形成し、前記フロックを含む処理対象水を得る混和工程と、活性炭を用いず、また、気体を吹き込んだ後、以下の関係式:原水回収率(%)=排出された浄水の体積/供給された処理対象水の体積×100=(供給された処理対象水の体積−排出された汚泥の体積)/供給された処理対象水の体積×100で表される原水回収率が90%以上となるように前記処理対象水を膜ろ過処理し、前記処理対象水から前記フロックの少なくとも一部が除去されてなる浄水および濃縮された前記フロックを含む汚泥を得る膜ろ過工程と、を備える、水処理方法。
前記膜ろ過工程において、前記処理対象水を膜ろ過処理するときに、常に、膜を浸漬する浸漬槽内に保持する前記処理対象水に前記フロックが含まれるように調整する、請求項1に記載の水処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明について詳細に説明する。
本発明は、原水に凝集剤を注入する凝集剤注入工程と、注入された前記凝集剤と前記原水とを混和してフロックを形成し、前記フロックを含む処理対象水を得る混和工程と、原水回収率が90%以上となるように前記処理対象水を膜ろ過処理し、前記処理対象水から前記フロックの少なくとも一部が除去されてなる浄水および濃縮された前記フロックを含む汚泥を得る膜ろ過工程と、を備える、水処理方法である。
このような水処理方法を、以下では「本発明の方法」ともいう。
【0018】
また、本発明は、原水に凝集剤を注入する凝集剤注入手段と、注入された前記凝集剤と前記原水とを混和してフロックを形成し、前記フロックを含む処理対象水を得る混和手段と、原水回収率が90%以上となるように前記処理対象水を膜ろ過処理し、前記処理対象水から前記フロックの少なくとも一部が除去されてなる浄水および濃縮された前記フロックを含む汚泥を得る膜ろ過手段と、を有する、水処理装置である。
このような水処理装置を、以下では「本発明の装置」ともいう。
【0019】
本発明の方法は、本発明の装置を用いて実施することが好ましい。
【0020】
以下、単に「本発明」と記した場合、本発明の方法および本発明の装置の両方を意味するものとする。
【0021】
本発明者が推定する本発明の効果の発現機構について、具体例を用いて説明する。本発明は以下の説明における具体例に限定されない。
【0022】
凝集剤を原水へ添加し、急速混和のみを行なった場合、緩速撹拌を行っていないために、生成するフロックは微細である。従来の沈殿法を用いて固液分離を行う場合、微細なフロックではフロックの沈降速度が遅いため、沈殿池での分離効率が悪化するので好ましくない。しかし、膜ろ過法の場合、膜表面の細孔よりも微細フロック径が大きければ、固液分離することが可能なため、急速混和のみで問題ないと考えられている。
本発明者は鋭意研究を進める中で、以下の2つの点で、凝集・膜ろ過プロセスには、改善の余地があることを発見した。
[1]急速混和のみでは、膜表面の細孔よりも大きくなれなかった超微細フロックやフロックになることができなかった色度または有機物成分が存在する。
[2]膜の細孔の大きさを示す公称孔径は、膜表面の全ての細孔の大きさを示すものではなく代表値であり、公称孔径よりも大きい細孔が存在する。そのため、その細孔から、超微細フロックが抜け出ることがある。
これらの急速混和をしたにも関わらず、膜を抜け出てしまう成分を膜で固液分離するためには、より多くの凝集剤を注入したり、緩速混和工程を追加するなどが考えられるが、いずれも運転費用の増加を招くため、好ましくない。
【0023】
そこで、発明者は、凝集剤の注入率を低く保ったまま、工程の追加を行なわずに、色度成分や有機物成分などのコロイド成分の除去率を高める装置および方法を考案した。
それは、膜ろ過装置において、原水回収率を高めた運転を行なうことである。
【0024】
この理由について、本発明者は以下のように推定している。
膜浸漬槽内には、急速混和で生成した微小フロックが膜で固液分離されて、濃縮されている。この微細フロックは、浸漬槽へ流入する水の流れや膜ろ過することによって生じる水の流れによって、膜浸漬槽内で互いに衝突し、互いに捕捉し合う。この現象は、微細フロックのみならず、微細フロックと膜細孔よりも小さい超微細フロックやフロックになることができなかった色度成分または有機物成分との間でも生じ、それらの大きさを膜細孔よりも大きくすることを可能とする。その結果、色度成分や有機物成分などの除去率を高めることができる。この現象を最大限有効に活用するには、膜細孔よりも小さい超微細フロックやフロックになることができなかった色度成分または有機物成分と、既に膜浸漬槽内に存在するフロックの接触確率を高めることが有効となると本発明者は考えた。さらに、そのためには、原水回収率を高く運転し、フロックの濃縮度を高めることが効果的であると本発明者は考えた。
フロックの濃縮度を高めるにつれて、フロック同士の衝突回数が増加するため、膜浸漬槽内に存在するフロック径は増大していくと考えられる。本発明は濃縮度が非常に高いため、フロック径が増大したフロックでも、超微細フロックやフロックになることができなかった色度成分または有機物成分との衝突回数が減ることは無く、より大きいフロックに吸合されるため、膜分離による除去率を高めることが可能となると考えられる。
【0025】
本発明について図を用いて説明する。
図1は、本発明の装置を示す概略図である。
図1において本発明の装置10は、原水1に凝集剤3を注入する凝集剤注入手段12と、注入された凝集剤3と原水1とを混和してフロックを形成し、前記フロックを含む処理対象水5を得る混和手段14と、原水回収率が90%以上となるように処理対象水5を膜ろ過処理し、処理対象水5から前記フロックの少なくとも一部が除去されてなる浄水7および濃縮された前記フロックを含む汚泥9を得る膜ろ過手段16とを有する。
【0026】
<原水>
本発明において原水1は、濁質成分、色度成分、有機物成分等の不純物を含む水であれば特に限定されない。
このような原水1として、水道原水(河川水、地下水、湖沼水など)、下排水、海水、汽水などが挙げられる。
また、上記の水道原水、下排水、海水、汽水などについて、生物接触ろ過、砂ろ過、マイクロフロック法、凝集沈殿ろ過、生物膜処理、オゾン処理、活性炭処理、イオン交換処理、UV酸化処理、促進酸化処理等の従来公知の処理等を施した後に得られる水を、原水1とすることもできる。
【0027】
原水1として、以下のような濁度、色度またはTOC(全有機炭素)を備えるものを例示できる。
・濁度:0〜500度(好ましくは0〜50度、より好ましくは0〜20度)
・色度:0〜100度(好ましくは0〜20度、より好ましくは0〜10度)
・TOC:0〜10mg/L(好ましくは0〜5mg/L、より好ましくは0〜3mg/L)
【0028】
なお、本発明において濁度、色度およびTOCは、上水試験法(2011年度版)で規定される方法で測定して得た値とする。
【0029】
原水1は、溶解性マンガンを含むものであってもよい。具体的には、原水1は0.005〜1mg/L程度の濃度の溶解性マンガンを含むものであってよい。
【0030】
なお、本発明において、溶解性マンガンの濃度は、測定対象水(ここでは原水)を孔径0.1μmのメンブランフィルターでろ過した後、そのろ過水を水質基準に関する省令の規定に基づき厚生労働大臣が定める方法(平成15年7月22日厚生労働省告示第261号(最終改正 平成24年3月30日厚生労働省告示第290号))に基づいて測定して得た値を意味するものとする。
【0031】
<凝集剤注入手段、凝集剤注入工程>
本発明の装置10における凝集剤注入手段12について説明する。
本発明の装置10において凝集剤注入手段12は、原水1に凝集剤3を注入する手段である。
【0032】
凝集剤3は、原水1に含まれる濁質成分、色度成分、有機物成分等の不純物を凝集することができるものであれば特に限定されず、例えば従来公知のものを用いることができる。例えば、無機系の凝集剤(具体的には例えばAl系および/またはFe系の凝集剤)を用いることができる。また、有機系の凝集剤を用いることもできる。さらに、複数の種類の凝集剤を例えば同時に用いてもよい。
【0033】
Al系の凝集剤とは、アルミニウム化合物を主成分とする凝集剤を意味する。ここで「主成分」とは、溶媒以外の成分における含有率が50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは100質量%である(実質的に他の成分を含まない)ことを意味するものとする。以下、特に断りがない限り「主成分」はこのような意味で用いるものとする。
アルミニウム化合物とはAl原子を含む化合物を意味する。アルミニウム化合物としてはポリ塩化アルミニウム、硫酸ばん土(硫酸アルミニウム)が挙げられる。
【0034】
Fe系の凝集剤とは、鉄系化合物を主成分とする凝集剤を意味する。
鉄系化合物とはFe原子を含む化合物を意味する。鉄系化合物としては塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄、鉄−シリカ無機高分子凝集剤が挙げられる。
【0035】
有機系の凝集剤としては、ポリアクリルアミド系、ポリアミン系、ポリアクリルエステル系、ポリエチレンイミン系が挙げられる。
【0036】
凝集剤3の原水1への注入量は特に限定されないが、原水1Lに対する添加量として0〜100mg/Lとすることが好ましく、0〜30mg/Lとすることがより好ましい。
【0037】
凝集剤3は粉状の態様のものであってよい。また、例えば、粉状の無機系の凝集剤(例えばAl系の凝集剤および/またはFe系の凝集剤)が液体に分散した態様のものであってもよい。
【0038】
凝集剤注入手段12は、原水1に凝集剤3を注入することできる手段であれば特に限定されない。例えば凝集剤3を貯留することができ、凝集剤3を連続的または間欠的に排出することができる、従来公知の凝集剤注入ポンプを凝集剤注入手段として用いることができる。
【0039】
本発明の方法における凝集剤注入工程は、凝集剤注入手段12によって行うことができる。
本発明の方法における凝集剤注入工程は、原水1に凝集剤3を注入する工程である。
【0040】
凝集剤注入工程では、原水1へ凝集剤3を注入する前にpH調整剤を原水1へ添加して、原水1のpHを凝集剤3の凝集能を高めることができるpHに調整することが好ましい。凝集剤3の凝集能を高めるpHは、凝集剤3の種類等によって異なる。pH調整剤としては従来公知の酸またはアルカリを用いることができる。また、pH調整剤は原水1へ凝集剤3を注入した後に添加してもよいし、原水1へ凝集剤3を注入しながら同時に添加してもよい。
【0041】
本発明の装置は、このようなpH調整剤を原水1へ添加する手段をさらに備えることが好ましい。
【0042】
<混和手段、混和工程>
本発明の装置10における混和手段14について説明する。
本発明の装置10において混和手段14は、注入された凝集剤3と原水1とを混和してフロックを形成し、前記フロックを含む処理対象水5を得る手段である。
【0043】
混和手段14は、凝集剤3と原水1とを混和することで(すなわち、凝集剤3が注入された原水1を流動させることで)、原水1に含まれる不純物を凝集剤3の作用によって凝集し、フロックを形成することができる手段であれば特に限定されない。
【0044】
混和手段14として、例えば、撹拌翼等の撹拌装置を備える凝集槽(反応タンク)を用いることができる。この場合、凝集剤3が注入された原水1を凝集槽に流入させ、撹拌装置によって撹拌することで、不純物が凝集してなるフロックを形成し、形成されたフロックを含む処理対象水5を凝集槽から排出することができる。このような手段による混和を、急速混和や急速撹拌ともいう。本発明では、混和手段または混和工程として、急速混和を行うことが好ましい。ただし、緩速混和(または、フロック形成)を行ってもよいし、急速混和と緩速混和との両方を行ってもよい。
【0045】
また、撹拌装置等を用いて撹拌しなくても、凝集剤3が注入された原水1が凝集槽内において流動してフロックが形成される場合は、撹拌装置を備えない凝集槽(反応タンク)を混和手段14として用いることもできる。
また、混和手段14として、配管接続型のもので管内で乱流を起こして混和を行なうスタティックミキサーを用いることができる。
さらに、混和手段14として、配管を用いることができる。配管の長さが一定以上であると、凝集剤3が注入された原水1を配管内に流すだけで、フロックを含む処理対象水5を得ることができる。
【0046】
本発明の方法における混和工程は、混和手段14によって行うことができる。
本発明の方法における混和工程は、注入された凝集剤3と原水1とを混和してフロックを形成し、前記フロックを含む処理対象水5を得る工程である。
【0047】
<膜ろ過手段、膜ろ過工程>
本発明の装置10における膜ろ過手段16について説明する。
本発明の装置10において膜ろ過手段16は、原水回収率が90%以上となるように処理対象水5を膜ろ過処理し、処理対象水5からフロックの少なくとも一部が除去されてなる浄水7と、濃縮されたフロックとを含む汚泥9を得る手段である。
【0048】
蒸発等による若干の損失は有り得るが、概ね、膜ろ過手段16によって、処理対象水5が浄水7と汚泥9とに分離されると考えてよい。すなわち、膜ろ過手段16に供給される処理対象水5の体積は、膜ろ過手段16から排出される浄水7および汚泥9の合計体積と同一になると考えてよい。
【0049】
膜ろ過手段16は、処理対象水5に含まれるフロックの少なくとも一部(通常、ほぼ全て)を、例えば従来公知の分離膜を用いて処理対象水5から分離し、除去する手段である。
【0050】
膜ろ過手段16として、例えば、原水回収率を90%以上とすることができる浸漬型膜ろ過装置やケーシング型膜ろ過装置が挙げられる。
【0051】
浸漬型膜ろ過装置は、槽、膜モジュールおよび吸引ポンプを有する態様のものを例示できる。また、ここで槽は、その下方に汚泥9を排出するための排泥部を備える態様であることが好ましい。また、膜モジュールは、例えば中空糸と呼ばれるマカロニ状の分離膜を備えるもので、槽内に貯留した処理対象水5に浸漬して用いるものが挙げられる。また、吸引ポンプが配管等によって膜モジュールと繋がっていて、吸引ポンプによって吸引することで処理対象水5の一部について分離膜を通過させて浄水7を得ることができる。
【0052】
このような浸漬型膜ろ過装置では、処理対象水5が連続的または間欠的に槽内へ供給され、吸引ポンプの作用によって、処理対象水5の一部について分離膜を通過させることで浄水7が連続的または間欠的に得られる。また、通常、間欠的に、排泥部から汚泥9が排出される。汚泥にはフロックが濃縮されているので、これを槽内から排出する。
【0053】
本発明の装置10では、膜ろ過手段16として浸漬型膜ろ過装置を用いることが好ましい。
【0054】
ケーシング型膜ろ過装置は、耐圧容器(ケーシング)内に膜モジュールが収められたものであり、通常、ポンプの作用でケーシング内に処理対象水5を圧入することでろ過して、浄水7および汚泥9を得るものである。
【0055】
浸漬型膜ろ過装置やケーシング型膜ろ過装置に代表される膜ろ過手段16では、得られた浄水7を用いて分離膜を逆洗洗浄することができる。
【0056】
浸漬型膜ろ過装置やケーシング型膜ろ過装置に代表される膜ろ過手段16における分離膜として、例えば、精密ろ過膜(MF膜)と呼ばれる孔径が0.01〜0.2μm程度の膜を用いることができる。また、限外ろ過膜(UF膜)、逆浸透膜(RO膜)やナノろ過膜(NF膜)を用いることもできる。
分離膜の公称孔径は、0.001μm〜0.2μmのものであることが好ましい。
【0057】
膜ろ過手段16は、さらに、気体を用いて処理対象水5を撹拌できる手段を有していることが好ましい。このような手段として散気装置が例示される。例えば浸漬型膜ろ過装置が備える槽内における下方に散気装置が設置されていると、これを用いて槽内に貯留している処理対象水5へ気体(空気等)を吹き込み、処理対象水5を撹拌することができるので好ましい。
【0058】
本発明の方法における膜ろ過工程では、気体を吹き込んだ後に処理対象水5を膜ろ過処理することが好ましい。また、本発明の方法における膜ろ過工程では、気体を吹き込みながら、処理対象水5を膜ろ過処理することが好ましい。
【0059】
例えば浸漬型膜ろ過装置の場合、これが備える槽の内部に存するフロックは、槽内の撹拌力が原水流入力などのみに由来していると、次第に沈降する可能性がある。この場合、フロックが存在する領域が、槽内の下方に向かって縮小していく可能性がある。そうすると、フロックと色度成分または有機物成分との接触効率が低下する場合がある。よって、できる限り槽内に均一にフロックを存在させるために、散気装置等を用いて、槽内の処理対象水5を撹拌することが好ましい。この散気装置等は、処理対象水の撹拌用にのみ使用される必要は無く、膜の洗浄用に散気を行なう装置を使用しても良く、洗浄用の散気が、処理対象水の撹拌を担っても良い。
なお、特許文献1に記載の方法のように粉末活性炭を用いる場合、凝集フロックよりも沈降速度が小さいため、撹拌をしなくても短時間に顕著に沈降することはない。しかし、沈降させるために凝集剤を添加して凝集させたフロックは、粉末活性炭に比べて著しく沈降性が高いため、接触効率を高めるためには、適宜撹拌を行うことが好ましい。したがって、粉末活性炭のみの場合は、接触効率を高めるための撹拌に気を使う必要性は低いが、フロックの場合には重要となる。
【0060】
ここで、処理対象水5へ気体を吹き込む時間は1秒から10分とすることが好ましく、10秒〜5分とすることがより好ましい。
また、処理対象水5へ気体を吹き込んだ後、次に再度、気体を吹き込むまでの間隔は1〜60分とすることが好ましく、10分〜50分とすることがより好ましい。
このような吹き込み時間および/または吹き込み間隔とすると、フロックと色度成分または有機物成分とが衝突しやすくなり、色度成分または有機物成分がフロックに取り込まれ、その結果、色度成分および有機物成分の含有率がより低い浄水7が得られるからである。
【0061】
本発明の装置10において膜ろ過手段16は、原水回収率が90%以上となるように処理対象水5を膜ろ過処理する。この原水回収率は94%以上であることが好ましく、97%以上であることがより好ましく、98%以上であることがさらに好ましい。また、99.999%以下であってよい。
【0062】
原水回収率は、膜ろ過手段16へ供給された処理対象水5の体積に対する、膜ろ過手段16から排出された浄水7の体積の比(百分率)として定義される。また、前述のように、膜ろ過手段16へ供給された処理対象水5の体積は、膜ろ過手段16から排出された浄水7および汚泥9の合計体積とほぼ同一になると考えてよいので、原水回収率は次式のように表わされる。
【0063】
原水回収率(%)=排出された浄水7の体積/供給された処理対象水5の体積×100
=(供給された処理対象水5の体積―排出された汚泥9の体積)/供給された処理対象水5の体積×100
【0064】
原水回収率は、膜ろ過手段16から排出される汚泥9の排出量を調整して90%以上とすることができる。
【0065】
原水回収率とは、すなわち、処理対象水5の濃縮度を表わす。例えば浸漬型膜ろ過装置の槽内における処理対象水5の濃縮度を表す。原水回収率を90%以上に高めると、槽内の処理対象水5の濃縮度が上昇するためフロック濃度が濃くなる。すると、既フロックと超微細フロックなどとの接触効率が高まり、かつ大きなフロックに成り易くなるため、色度成分または有機物成分の除去率が上昇すると考えられる。
【0066】
膜ろ過手段16によって処理対象水5を膜ろ過処理する際に、常に、膜を浸漬する浸漬槽内に保持する処理対象水5にフロックが含まれるように調整することが好ましい。例えば、膜ろ過手段16として浸漬型膜ろ過装置を用いた場合、前述のように、通常、間欠的に排泥部から汚泥9を排出するが、全ての汚泥9を排出するのではなく、槽内に汚泥9が残存するように排出することで、処理対象水5を膜ろ過処理するときに、常に、膜を浸漬する浸漬槽内に保持する処理対象水5にフロックが含まれるように調整することができる。また、例えば、排泥部から排出された汚泥9の一部を再度、処理対象水5を貯留されている槽内へ加えることで、常に、膜を浸漬する浸漬槽内に保持する処理対象水5にフロックが含まれるように調整することもできる。
【0067】
例えば膜ろ過手段16として浸漬型膜ろ過装置を用いた場合に、排泥部から全量の汚泥9を排出してしまうと、膜ろ過処理を再開したときに、処理対象水5における色度成分や有機物成分を捕捉するためのフロックが減少してしまう可能性がある。すると、原水1に由来するフロックによって、再び処理対象水5におけるフロックの濃度が上昇するまでに、色度成分および有機物成分の除去率が低下してしまう可能性がある。そこで、例えば、槽内に貯留されている処理対象水5の0.01体積%以上を残存させるように、汚泥9を排出することが好ましい。槽内に貯留されている処理対象水5の99体積%以下、好ましくは95体積%以下、より好ましくは30体積%以下、さらに好ましくは10体積%以下を残存させてもよい。
【0068】
膜ろ過手段16における膜透過流速は特に限定されないが、0.4〜10m/dとすることが好ましい。
膜ろ過手段16における膜供給水量は特に限定されないが、膜ろ過水量と均衡する程度が好ましい。
膜ろ過手段16における散気風量は膜設置面積1m
2当り、1〜350m
3/hとすることが好ましい。
【0069】
本発明の装置10では、膜ろ過手段16において活性炭を用いなくてよい。例えば膜ろ過手段16として浸漬型膜ろ過装置を用いる場合に、槽内に活性炭を添加する必要はない。活性炭を添加しなくても、不純物を処理対象水5から分離除去できる。
同様に、本発明の方法における膜ろ過工程においても、活性炭を用いなくてよい。
【0070】
本発明の方法における膜ろ過工程は、膜ろ過手段16によって行うことができる。
本発明の方法における膜ろ過工程は、原水回収率が90%以上となるように処理対象水5を膜ろ過処理し、処理対象水5から前記フロックの少なくとも一部が除去されてなる浄水7および濃縮された前記フロックを含む汚泥9を得る工程である。
【0071】
次に、上記のような本発明の装置10によって原水1を処理した場合の処理の流れを説明する。この説明は、本発明の方法についての説明でもある。
【0072】
初めに、凝集剤注入手段12によって、原水1へ凝集剤3を注入する(凝集剤注入工程)。そして、混和手段14によって、注入された凝集剤3と原水1とを混和してフロックを形成する。そして、フロックを含む処理対象水5が得られる(混和工程)。
次に、膜処理手段16によって、原水回収率が90%以上となるように、処理対象水5を膜ろ過処理する。そして、浄水7および汚泥9が得られる(膜ろ過工程)。
【0073】
本発明によると、凝集剤注入率を低くしても色度成分や有機物成分の含有率が低い浄水が得られる。具体的には、例えば、凝集剤3の原水1への注入量を原水1Lに対する添加量として0〜100mg/L(好ましくは0〜30mg/L)とした場合に、低い色度の浄水7を得られる。具体的には、原水1の色度に対する浄水7の色度の比として、例えば1/10000〜1/2(好ましくは、例えば1/10000〜1/10)とすることができる。
【0074】
本発明によって得られる浄水7として、例えば、以下のような濁度、色度またはTOC(全有機炭素)を備えるものが挙げられる。
・濁度:0.1度以下(好ましくは0.01度以下、より好ましくは0.0001度以下)
・色度:1度以下(好ましくは0.1度以下、より好ましくは0.01度以下)
・TOC:3mg/L以下(好ましくは0.5mg/L以下、より好ましくは0.1mg/L以下)
【0075】
次に、本発明の好ましい態様について、図を用いて説明する。
図2は、本発明の装置の好ましい態様の一つを説明するための概略図である。
図2において装置20は、原水1に凝集剤3を注入する凝集剤注入ポンプ22と、注入された凝集剤3と原水1とを混和してフロックを形成し、前記フロックを含む処理対象水5を排出する急速混和槽24と、原水回収率が90%以上となるように処理対象水5を膜ろ過処理し、処理対象水5から前記フロックの少なくとも一部が除去されてなる浄水7および濃縮された前記フロックを含む汚泥9を得る浸漬型膜ろ過装置26とを有する。
【0076】
装置20は、さらに、凝集剤3を注入する前の原水1へpH調整剤を添加するpH調整手段を有している。このpH調整手段によって原水1へpH調整剤8(酸および/またはアルカリ)を添加して、原水1のpHを凝集剤3の凝集能を高めることができるpHに調整することができる。
装置20は、さらに、浄水7を貯留する浄水池28を有している。
装置20は、さらに、浄水地28に貯留された浄水7を用いて浸漬型膜ろ過装置26が有する分離膜261aを逆洗洗浄するために用いる逆洗ポンプ281および配管282を有している。
【0077】
凝集剤注入ポンプ22はタンクおよびポンプを有しており、そのタンク中に凝集剤を貯留することができ、さらにこのタンク中からポンプの作用によって凝集剤3を所望量、排出できる態様のものである。凝集剤注入ポンプ22によって、急速混和槽24に貯留されているpH調整剤が添加された後の原水1へ、凝集剤3を所望量、注入することができる。
【0078】
凝集剤注入ポンプ22は、本発明の装置における凝集剤注入手段に相当する。
【0079】
急速混和槽24は2段の槽(第1槽241、第2槽242)を有している。そして、第1槽241において、凝集剤3と、pH調整剤8が添加された原水1とを受け入れて、これらを混和することができる。その後、第2槽242にて再度、混和し、処理対象水5を排出する。第1槽241および第2槽242は、各々、攪拌機(243、244)を有しており、この攪拌機によって凝集剤3が注入された原水1を撹拌して凝集剤3と原水1とを混和することで、原水1に含まれる不純物が凝集してなるフロックを形成することができる。
【0080】
急速混和槽24は、本発明の装置における混和手段に相当する。
【0081】
本発明の装置における混和手段は、
図2に示すような2段の槽を有する急速混和槽であってよいが、1段の槽を有する態様のものであってもよく、3段以上の槽を有する態様のものであってもよい。
【0082】
浸漬型膜ろ過装置26は、膜モジュール261、槽262、吸引ポンプ263、配管264、および排泥弁265を有している。膜モジュール261は分離膜261a、集水部261b、および下部支持体261cを有している。そして、集水部261bと浄水地28とが配管264によって繋がれていて、その途中に吸引ポンプ263が配置されており、吸引ポンプ263を運転することによって、槽262内の処理対象水5から浄水7を得ることができる。また、得られた浄水7は配管264を通じて浄水池28に達し、ここに貯留できるように構成されている。また、排泥弁265を開けることで、槽262の下部から、槽262内の処理対象水5の一部を汚泥9として排出できるように構成されている。
【0083】
浸漬型膜ろ過装置26では、槽262の内部に処理対象水5が貯留される。膜モジュール261は、槽262の内部に貯留された処理対象水5に浸漬して用いられる。そして、吸引ポンプ263を運転すると、その作用によって、処理対象水5の一部が分離膜261aを通過して浄水7となり、配管264を通って浄水地28に達し、ここに貯留される。また、処理対象水5に含まれるフロックは、分離膜261aを通過できないため、槽262内に滞留する。
【0084】
フロックを含む汚泥9は槽262の下部の排泥部から排出される。汚泥9を槽262の排泥部から排出する頻度は特に限定されない。例えば数日に一回、排泥弁265を開けて汚泥9を槽262の内部から排出することができる。ただし、原水回収率が90%以上となるように排出する。
【0085】
浸漬型膜ろ過装置26は、本発明の装置における膜ろ過手段に相当する。
【0086】
次に、上記のような装置20によって原水1を処理した場合の処理の流れを説明する。この説明は、本発明の方法の好ましい態様についての説明でもある。
【0087】
初めに、原水1へpH調整剤8(酸またはアルカリ)が加えられ、その後、急速混和槽24における第1槽241へ流入される。そして、第1槽241において、ここに貯留している原水1へ凝集剤注入ポンプ22から凝集剤3が添加され(凝集剤注入工程)、攪拌機243の作用によって混和された後、第2槽242へ移動され、第2槽242にて再度、攪拌機244の作用によって混和された後、処理対象水5として排出される(混和工程)。処理対象水5には、原水1に含まれる不純物が凝集剤3の作用によって凝集してなるフロックが含まれる。
その後、処理対象水5は浸漬型膜ろ過装置26における槽262に貯留される。貯留された処理対象水5に膜モジュール261が浸漬されるように設置されており、吸引ポンプ263を運転することで、処理対象水5の一部が分離膜261aを通過して浄水7となり、配管264を通って浄水地28に達し、ここに貯留される。また、処理対象水5に含まれるフロックは分離膜261aを通過できないため、槽262内に滞留する。ここで浸漬型膜ろ過装置26に、槽262へ流入する処理対象水5の流量を測定する流量計と、排出される浄水7の流量を測定する流量計とを設置することが好ましい。そして、これらの流量計が示す流量がほぼ同一となるように操業することが好ましい。また、各流量計の値を監視し、槽262内の処理対象水5の水位が特定範囲内となるように調整して操業することが好ましい。
次に、フロックを含む汚泥9は槽262の下部の排泥部から排出される。汚泥9を槽262から排出する頻度は特に限定されない。例えば数日に一回、排泥弁265を開けて汚泥9を槽262の排泥部から排出することができる。ただし、原水回収率が90%以上となるように排出する。
また、逆洗ポンプ281を運転することで、浄水地28に貯留された浄水7を用いて浸漬型膜ろ過装置26が有する分離膜261aを逆洗洗浄することができる。逆洗洗浄の頻度は特に限定されない。例えば数十分に一回、逆洗洗浄をすることが好ましい。
【0088】
次に、本発明の別の好ましい態様について、図を用いて説明する。
図3は、本発明の装置の別の好ましい態様の一つを説明するための概略図である。
図3では、
図2に示した態様と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下では、
図2に示した態様と異なる点を中心に説明する。
【0089】
図3において装置30は、
図2に示した態様と同様の凝集剤注入ポンプ22と、急速混和槽24と、pH調整手段と、浄水池28と、逆洗ポンプ281および配管282とを有している。
そして、浸漬型膜ろ過装置36は、
図2に示した浸漬型膜ろ過装置26に、さらに電極37および界面計38を有する態様のものである。電極37および/または界面計38によって槽262内の処理対象水5の排水時の水位を監視することが好ましい。そして、排水時に水位が特定レベル以下になった場合、電極37および/または界面計38から電気的な信号を発信して排泥弁265を閉め、汚泥9を槽262から排出する量を調整することが好ましい。
【0090】
電極37および界面計38は、例えば従来公知のものを用いることができる。従来公知の排水工程タイマーを用いることでも、電極37および界面計38と同様の操作を行うことができる。
【0091】
次に、本発明の別の好ましい態様について、図を用いて説明する。
図4は、本発明の装置の別の好ましい態様の一つを説明するための概略図である。
図4では、
図2に示した態様と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下では、
図2に示した態様と異なる点を中心に説明する。
【0092】
図4において装置40は、
図2に示した態様と同様の凝集剤注入ポンプ22と、急速混和槽24と、pH調整手段と、浄水池28と、逆洗ポンプ281および配管282とを有している。
そして、浸漬型膜ろ過装置46は、
図2に示した浸漬型膜ろ過装置26に、さらに散気装置47およびブロワ48を有する態様のものである。ブロワ48を運転することで散気装置47から槽262の内部へ空気を送り込み、ここに貯留されている処理対象水5を撹拌することができるように構成されている。適量の空気を槽262の内部へ送り込んで処理対象水5を撹拌すると、槽262の内部にフロックをより均一に存在させることできるので、フロックと色度成分または有機物成分との接触効率を高めることができて好ましい。そして、色度成分および有機物成分の含有率がより低い浄水7を得ることができるので好ましい。
【0093】
次に、本発明の別の好ましい態様について、図を用いて説明する。
図5は、本発明の装置の別の好ましい態様の一つを説明するための概略図である。
図5では、
図2に示した態様と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下では、
図2に示した態様と異なる点を中心に説明する。
【0094】
図5において装置50は、
図2に示した態様と同様の凝集剤注入ポンプ22と、急速混和槽24と、浸漬型膜ろ過装置26と、pH調整手段と、浄水池28と、逆洗ポンプ281および配管282とを有している。
そして、装置50は、さらに、溶解性マンガンろ過塔51を有している。溶解性マンガンろ過塔51は、内部にマンガン砂からなる層511および支持層512を有しており、原水1が溶解性マンガンを含む場合、これを原水1から除去することができるので好ましい。ポンプ513を運転することで原水1を溶解性マンガンろ過塔51の下部から流入させ、上部へ向かって移動させると、その過程において原水1に含まれる溶解性マンガンがマンガン砂の作用によって原水1から分離され、少なくともその一部が除去される。その後、溶解性マンガンの少なくとも一部が除去された原水1は、溶解性マンガンろ過塔51の上部から、急速混和槽24へ向かって送られる。以降は
図2に示した態様の場合と同様に処理される。
溶解性マンガンろ過塔51としては、例えば従来公知のものを用いることができる。
【実施例】
【0095】
以下、本発明に関する実験について説明する。
【0096】
<実験1>
図2に示す態様の本発明の装置(装置20)を用いて原水1を処理して、浸漬型膜ろ過装置26における原水回収率と、色度成分又は有機物成分の除去率の比との関係を測定すると、
図6に示すグラフが得られる。
図6においてY軸の色度成分又は有機物成分の除去率の比は、原水回収率が80%の場合の色度成分又は有機物成分の除去率を1とした場合の値として示している。
図6のグラフに示すように、原水回収率が90%以上と高くなると、色度成分および有機物成分の除去率が高くなる。
【0097】
<実験2>
図2に示す態様の本発明の装置(装置20)を用いて原水1を処理する。そして、十分な時間が経過した後、浸漬型膜ろ過装置26における排泥弁265を開けて、槽262の下部の排泥部から汚泥9を排出する。この際に、槽262の内部に貯留されている処理対象水5を全て排出せずに、槽262の内部に一部を残存させると、浸漬型膜ろ過装置26による膜ろ過処理を再開した後、特定時間経過後における色度成分又は有機物成分の除去率が良化する傾向がある。
図7はこれを示すグラフである。すなわち、
図7は、槽262の内部に残存させた処理対象水5の残存率(X軸)と、膜ろ過を開始し、特定時間経過後の色度成分又は有機物成分の除去率の比(Y軸)との関係を表わすグラフである。
図7においてY軸の、膜ろ過を開始し、特定時間経過後の色度成分又は有機物成分の除去率の比は、処理対象水の残存率が20%の場合を1とした場合の値として示している。
図7のグラフに示すように、処理対象水の残存率が0.01体積%以上の場合に、色度成分又は有機物成分の除去率の維持に効果が認められる。
【0098】
<実験3>
図4に示す態様の本発明の装置(装置40)を用いて原水1を処理して、浸漬型膜ろ過装置46において散気装置47から空気を吹き込む時間および間隔と、濁度比(T
A/T
B)との関係を測定すると、
図8に示すグラフが得られる。ここで濁度比(T
A/T
B)は濁度T
Bに対する濁度T
Aの比である。また、濁度T
Aは、
図9に示すように、浸漬型膜ろ過装置46における槽262の内部における集水部261bの水位レベルにおける処理対象水5の濁度を意味しており、濁度T
Bは、
図9に示すように、浸漬型膜ろ過装置46における槽262の内部における下部支持体261cの水位レベルにおける処理対象水5の濁度を意味している。槽262の内部における濁度が均一化していると濁度比(T
A/T
B)が1となり、固形分等の沈降が進むと濁度比(T
A/T
B)は小さくなる。そして、濁度比(T
A/T
B)が1に近いと、槽262の内部の処理対象水5の濁度がより均一化していると解されるので好ましい。
図8のグラフに示すように、処理対象水5へ空気を吹き込む時間が1秒から10分であって、かつ、処理対象水5へ空気を吹き込んだ後、次に再度、気体を吹き込むまでの間隔が1〜60分であると、濁度比(T
A/T
B)がより高くなり(概ね0.8以上)、好ましい。