【実施例】
【0029】
以下、実施例を記載して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
セツキシマブは、メルクセローノ株式会社から入手した「アービタックス(登録商標)注射液100mg」を用いた。
トラスツズマブは、中外製薬株式会社から入手した「ハーセプチン(登録商標)注射用150」を用いた。
3,6,9,15-tetraazabicyclo[9.3.1]-pentadeca-1(15),11,13-trience-3,6,9-triacetic acid(PCTA)は、Macrocyclics, Inc.から入手した。
64Cuは、McCarthyらの方法(Nuclear medicine and biology,vol.24,1997,pp.35-43)及びObataらの方法(Nuclear medicine and biology,vol.30,2003,pp.535-539)に準じて製造・精製した。
ヒト大腸がん細胞(HCT116)のRFP過剰発現株(HCT116−RFPは、Yoshii et al 2016 International Journal of Oncology, vol.48, pp.1477-1484 4に従い作製した。
マウスは、日本エスエルシー株式会社から入手したBALB/c Slc−nu/nu(雌性)、6週齢のものを使用した。
【0030】
(実施例1)
64Cu標識セツキシマブ(
64Cu-PCTA-Cetuximab)の合成
標識は、以下の様な条件で行った。まず、セツキシマブ溶液(「アービタックス(登録商標)注射液100mg」そのまま)をホウ酸緩衝液(0.05mol/L,pH8.5)にbuffer置換し、2mg/mLに濃度調節を行った。その後、PCTAを5等量になるよう混合し、37°Cで一昼夜反応させた。その後、得られたセツキシマブ−PCTA溶液を0.1mol/Lクエン酸アンモウム緩衝液(pH5.5)にbuffer置換し、2mg/mLに濃度を調節した。得られた溶液に、0.1mol/Lクエン酸アンモウム緩衝液(pH5.5)で溶解した
64Cuを加え、40℃で60分間反応させ、セツキシマブ−PCTA結合体に
64Cuを標識した。必要があれば、標識後の
64Cu標識放射性抗体をゲルろ過カラムで精製し、その後、以下に条件を示すラジオTLCにより純度検定試験を行い、放射化学的純度95%以上の
64Cu標識放射性抗体を得た。
<ラジオTLCによる純度検定試験>
TLCプレート:シリカゲルプレート(製品名:Silica gel60、メルク株
式会社製)
展開相:80%メタノール
検出:フルオロイメージアナライザー(形式:FLA−7000,富士フイルム株式会社製)
【0031】
(実施例2)
64Cu標識トラスツズマブ(
64Cu-PCTA-Trastuzumab)の合成
標識は、以下の様な条件で行った。まず、「ハーセプチン(登録商標)注射用150」のトラスツズマブ含有バイアルにハーセプチン濃度が6mg/Lになるように生理食塩液を加えてトラスツズマブ溶液を調製した。このトラスツズマブ溶液をホウ酸緩衝液(0.05mol/L,pH8.5)にbuffer置換し、2mg/mLに濃度調節を行った。その後、PCTAを5等量になるよう混合し、37℃で一昼夜反応させた。その後、得られたトラスツズマブ−PCTA溶液を0.1mol/Lクエン酸アンモニウム緩衝液(pH5.5)にbuffer置換し、2mg/mLに濃度を調節した。得られた溶液に、0.1mol/Lクエン酸アンモニウム緩衝液(pH5.5)で溶解した
64Cuを加え、40℃で60分間反応させ、トラスツズマブ−PCTA結合体に
64Cuを標識した。必要があれば、標識後の
64Cu標識放射性抗体をゲルろ過カラムで精製し、その後、実施例1に示す条件と同じラジオTLCにより純度検定試験を行い、放射化学的純度95%以上の
64Cu標識放射性抗体を得た。
【0032】
(実施例3)体内動態
正常マウスに対し、実施例1に示す方法に従って合成した
64Cu標識セツキシマブ(3.7MBq/20μg/100μL)を尾静脈又は腹腔内に投与した。投与後、3時間、6時間、18時間、24時間、48時間後にマウスを犠牲死させ、各臓器を摘出した。摘出した臓器の重量を計測した他、放射能をγカウンターで測定し、放射能濃度(%ID/g)を決定した。
【0033】
正常マウスにおける体内動態における集積を
図1、
図2にそれぞれ示す。
図1は、尾静脈投与した結果であり、
図2は、腹腔内投与した結果である。各臓器への集積は、静脈投与・腹腔内投与ともにおおむね低いことが示された。腹腔内投与においては、腹水の放射能濃度は、6時間までは高かったが、それ以降は血中レベルまで低下していた。
【0034】
(実施例4)腹腔内腫瘍における集積
ヒト大腸がん細胞(HCT116)のRFP過剰発現株(HCT116−RFP)を用い、腹膜播種モデルを作成した。本検討で使用したモデルは、HCT116−RFP細胞(3×10
6細胞)を500μL PBSに溶解し、マウス腹腔内に移植し、1週間経たものを使用した。作製したモデルマウス4匹に対し、実施例1に示す方法に従って合成した
64Cu標識セツキシマブ(3.7MBq/20μg/100μL)を尾静脈又は腹腔内にそれぞれ投与した。3時間、6時間、18時間、24時間、48時間後に、マウスを犠牲死させ、蛍光実体顕微鏡で確認しながら腫瘍(2−3mm前後)を取り出し、OCTコンパウンドを用い、凍結切片(8μm)を作成した。同様に、100%ID/g、50%ID/g、25%ID/g、12.5%ID/g、6.25%ID/g、3.13%ID/gとなるように作成した標準サンプル(20%ゼラチン中)でも切片(標準切片)を作成した。腫瘍切片、標準切片ともに、イメージングプレートを使用し、オートラジオグラフィーイメージを得た。標準切片のシグナル強度から、検量線を作成し、腫瘍切片における放射能濃度(%ID/g)を計算した。なお、本法で腫瘍臓器(肝臓・腎臓・筋肉)についても放射能濃度を測定したが、γカウンターで決定した放射能濃度とほぼ一致していた。
【0035】
結果を
図3に示す。
64Cu標識セツキシマブは、静脈投与・腹腔内投与ともに、腫瘍に良好な集積を示すことが明らかとなった。特に、
64Cu標識セツキシマブを腹腔内投与することで、尾静脈投与と比較して、早期から腫瘍に対し高い集積を集められることが示された。
【0036】
実施例3、4の結果から、以下の放射免疫治療並びに術中迅速診断に関する検討は、マウス腹腔内に存在する腫瘍に対して、
64Cu標識抗体を腹腔内投与することで行った。また、術中迅速診断に関しては、腹水の放射能濃度が低減する投与後24時間後の時点で行った。
【0037】
(実施例5)抗体結合性事前診断〔放射能標識抗体のスクリーニング〕
ヒト大腸がん細胞(HCT116)細胞のRFP過剰発現株(HCT116−RFP)を用い、
64Cu標識セツキシマブ並びに
64Cu標識トラスツズマブの結合性を評価した。HCT116−RFP細胞(1×10
6細胞/mL)に実施例1に示す方法に従って合成した
64Cu標識セツキシマブ、及び、実施例2に示す方法に従って合成した
64Cu標識トラスツズマブを各々14.8kBqずつ加え、1時間氷上で反応させた後、遠心後細胞を回収した。直ちに、PBSで細胞を洗浄し、得られた細胞を1mLのPBSに溶解し、γカウンターを用いて放射能を測定し、細胞に結合した放射能の割合を算出した。
【0038】
結果を
図4に示す。
図4に示すとおり、HCT116−RFP細胞では、
64Cu標識セツキシマブの結合性が高い一方で、
64Cu標識トラスツズマブの結合性が低いことが明らかとなった。
【0039】
(実施例6)個別化放射免疫治療
HCT116−RFP細胞を移植した腹膜播種モデルを使用し、
64Cu標識セツキシマブ及び
64Cu標識トラスツズマブを用いた放射免疫治療実験を行った。
ヒト大腸がん細胞(HCT116)細胞のRFP過剰発現株(HCT116−RFP)を用い、腹膜播種モデルを作成した。本検討で使用したモデルは、HCT116−RFP細胞(0.5×10
6細胞)を500μL PBSに溶解し、マウス腹腔内に移植し、1週間経たものを使用した。作製したモデルマウスに対し、実施例1に示す方法に従って合成した
64Cu標識セツキシマブ、又は、実施例2に示す方法に従って合成した
64Cu標識トラスツズマブを腹腔内投与(22.2MBq/20μg/100μL)し、投与日を治療開始0日目として治療を行い、治療効果を生理食塩水を同様に投与したコントロール群と比較した。また、放射性標識していない抗体を用いた既存の分子標的治療の効果と比較する目的で、セツキシマブ投与群(1mg/kg,実験期間中週2回投与)、並びにトラスツズマブ投与群(1mg/kg,実験期間中週2回投与)の検討も行った。治療経過は、RFPシグナルを蛍光イメージング装置(IVIS)で計測したほか、体重測定・マウス全身状態の観察を経時的に行った。腹部の膨張、治療開始0日目の体重に対し20%を超える体重減少、全身虚弱をエンドポイントの指標とした。
【0040】
結果を
図5、6に示す。
図5は、腹膜播種モデルの治療効果をHCT116−RFP蛍光イメージングにより観察した結果を示す図である。また、
図6は、内照射治療又は既存の分子標的治療を受けた腹膜播種モデルの生存率をカプランマイヤー生存曲線で示す図である。本検討は、各群n=6で、生存率は、実験に使用した全匹数に対する生存匹数の割合を百分率で示したものとした。
図5に示すとおり、
64Cu標識セツキシマブによる内照射治療では、コントロール群と比較し、腫瘍の増殖が抑制されていることが明らかとなった。
64Cu標識トラスツズマブによる内照射治療、並びに、セツキシマブ及びトラスツズマブによる分子標的治療では、コントロール群と比較し、有意差は見られなかった。
また、
図6に示すとおり、
64Cu標識セツキシマブ投与群では、生存が有意に延長されていた(P<0.05)。一方、
64Cu標識トラスツズマブ投与群及びその他の群は、コントロール群と比較し、有意差は見られなかった。
これにより、抗体結合性事前診断により結合性が高かった
64Cu標識セツキシマブが腹膜播種モデルにおいて高い治療効果を有することが示された。また、その効果は既存の分子標的治療よりも高かった。
【0041】
(実施例7)術中迅速診断(リアルタイムPET手術)
ヒト大腸がん細胞(HCT116)のRFP過剰発現株(HCT116−RFP)を用い、腹膜播種モデルを作成した。本検討で使用したモデルは、HCT116−RFP細胞(1×10
7細胞)を50μL PBSに溶解し、50μLのマトリゲルと混合したうえで、マウス腹腔内に移植することで作成した。マウスA,Bについては下腹部脊椎付近に、マウスCについては腹腔中心部に移植した。1週間後、実施例1に示す方法に従って合成した
64Cu標識セツキシマブを腹腔内投与し(7.4MBq/20μg/100μL)、24時間後PETガイド下手術を行い、術中迅速診断が可能か評価した(
図7)。PETガイド下手術には、OpenPET(登録商標)(Yamaya et al. IEEE 2013, Tashima IEEE 2012他,WO2012−164664他)を使用した。
【0042】
図8〜9がマウスAのPETガイド下手術の様子を示す図であり、
図10がマウスBのPETガイド下手術の様子を示す図であり、
図11がマウスCのPETガイド下手術の様子を示す図である。
【0043】
図8(a)はマウスAを示す図である。
図8(b)は、術者から見えるリアルタイムPET画像であるが、左矢印で示すとおり、PETにより腹腔深部に腫瘍が発見された。同腫瘍は、
図8(c)で示すとおり、皮膚を切開し開腹した状態においては、臓器に隠れて肉眼で確認できなかった。
図8(d)は、リアルタイムPET画像を見ながら手術を行う様子を示す図であるが、
図8(d)で示すとおり、PETガイド下手術を行うことにより、リアルタイムに観察しながら、腫瘍の切除を行い、
図8(e)で示すように、13mm大の腫瘍を摘出した。
図8(f)は、腫瘍摘出後のPET画像であるが、左矢印で示すように、摘出後、腫瘍の残存部位には高い集積は確認されなかった。
【0044】
また、マウスAについては、PET装置に付属の蛍光イメージング顕微鏡でも観察を行った。
図9(a)、(c)はマウスAを用いたPETガイド下手術の様子をPET装置付属の蛍光顕微鏡で観察した様子を示す図である。
図9(b)で示すように、皮膚を切開し開腹した状態においては、同腫瘍は臓器裏に隠れて蛍光では観察できなかったが、
図9(d)で示すように、摘出組織からは蛍光が観察され、腫瘍であることが確認された。
【0045】
図10(a)はマウスBを示す図である。
図10(b)は、術者から見えるリアルタイムPET画像であるが、左矢印で示すように、PET画像により腹腔深部に腫瘍が発見された。
図10(c)で示すように、PETガイド下手術を行うことにより、リアルタイムに観察しながら、腫瘍の切除を行い、1cm程度の腫瘍を摘出した。摘出後、
図10(d)の左下の矢印で示すように、PET画像により腫瘍の取り残しが確認されたため、
図10(e)で示すように、PET画像により、リアルタイムに観察しながら、再度腫瘍を切除し、1cm程度の腫瘍を2個摘出した。
図10(e)中、右端の矢印が先に摘出した腫瘍であり、その他の矢印が摘出した残存腫瘍である。
図10(f)は、残存腫瘍摘出後のPET画像であるが、腫瘍の残存部位には高い集積は確認されなくなった。なお、マウスA、Bと同様に処理したマウスにおける腫瘍(約1cm大)への放射能集積は、17.56±5.18%ID/g(n=16)であった。
【0046】
図11(a)は、マウスCにおいてマウス腹腔内に腫瘍を移植した様子を示す図である。
図11(b)は、術者から見えるリアルタイムPET画像であり、
図11(c)は、(b)の拡大図であるが、
図11(b)、(c)の矢印で示す通り、右脇腹に比較的小さい腫瘍をPET画像により発見した。
図11(d)で示すように、PETガイド下手術により、リアルタイムに観察しながら、腫瘍の切除を行い、
図11(e)の矢印で示すとおり、3mm大の腫瘍を摘出した。摘出後、腫瘍の残存部位には高い集積は確認されなかった(
図11(f))。
【0047】
これらの検討から、抗体結合性事前診断に基づき選択された
64Cu標識セツキシマブを用い術中迅速診断を行うことで、肉眼では発見できない深部の腫瘍、残存腫瘍、比較的小さい数ミリ程度の腫瘍を摘出できることが示された。
【0048】
(実施例8)正常マウスによる検討
正常マウスに、実施例1に示す方法に従って合成した
64Cu標識セツキシマブ(7.4MBq/20μg/100μL)を正常マウスに腹腔内投与し、24時間後にPET撮像により画像を取得した。
【0049】
結果を
図12に示す。
図12(a)がPET解析画像であり、
図12(b)がリアルタイムPET画像である。
図12(a)、(b)の各図において、左が実施例7の腹膜播種モデルマウスAの画像であり、右が正常マウスの画像である。各画像の右矢印が肝臓を示す。腹膜播種モデルの左矢印が腫瘍を示す。
図12に示すとおり、腹部に生理的集積はほとんど見られず、バックグラウンドは低いことが確認された。
【0050】
(実施例9)放射免疫治療と術中迅速診断法の応用(リアルタイムPET手術と放射免疫治療の併用)
HCT116−RFP細胞を移植し病気が進行した進行性腹膜播種モデルを使用し、
64Cu標識セツキシマブを用いたリアルタイムPET手術と放射免疫治療の組み合わせ使用による効果を検討した。
本検討では、ヒト大腸がん細胞(HCT116)細胞のRFP過剰発現株(HCT116−RFP)を用い、進行性腹膜播種モデルを作成した。本検討で使用したモデルは、HCT116−RFP細胞(0.5×10
6細胞)を500μL PBSに溶解し、マウス腹腔内に移植し、4週間経たものを使用した。作製したモデルマウスを、(i)
64Cu−PETガイド下手術群(診断容量の
64Cu標識セツキシマブを投与し、24h後にPETガイド下で開腹・腫瘍摘出を行い、閉腹を行う)、(ii)
64Cu−PETガイド下手術+放射免疫治療群(治療容量の
64Cu標識セツキシマブを投与し、48時間後にPETガイド下で開腹・腫瘍摘出を行い、閉腹を行う)、(iii)偽手術群(
64Cu−PETガイド下手術群・
64Cu−PETガイド下手術+放射免疫治療群と同様に手術を行うがPETガイドは行わない、
64Cu標識セツキシマブは投与しない)に分け検討を行った。(i)は、診断容量の
64Cu標識セツキシマブ(7.4MBq/20μg/100μL)を、(ii)治療容量の
64Cu標識セツキシマブ(22.2MBq/20μg/100μL)をそれぞれ腹腔内投与した。また、(iii)では生理食塩水を同様に投与した。各群の投与日を治療開始0日目とした。治療経過は、RFPシグナルを蛍光イメージング装置(IVIS)で計測したほか、体重測定・マウス全身状態の観察を経時的に行った。腹部の膨張、治療開始0日目に比較して20%を超える体重減少、全身虚弱をエンドポイントの指標とした。
【0051】
結果を
図13、14に示す。
図13(a)は、
64Cu−PETガイド下手術群(i)を示し、
図13(b)は、
64Cu−PETガイド下手術+放射免疫治療群(ii)を示し、
図13(c)は、偽手術群(iii)を示す。
図13に示すとおり、蛍光イメージング観察より、
64Cu−PETガイド下手術+放射免疫治療群(ii)、及び、
64Cu−PETガイド下手術群(i)は、偽手術群(iii)と比較し、腫瘍の増殖が抑制されていた。
図14は、(i)〜(iii)の各群の生存率をカプランマイヤー生存曲線で示す図である。本検討は、各群n=8で、生存率は、実験に使用した全匹数に対する生存匹数の割合を百分率で示したものとした。
64Cu−PETガイド下手術+放射免疫治療群(ii)は、偽手術群(iii)及び
64Cu−PETガイド下手術群(i)と比較し、生存が有意に延長されていた(P<0.05)。
64Cu−PETガイド下手術群は、偽手術群と比較し、生存が延長する傾向が見られたが、有意差は見られなかった。
これらの検討から、
64Cu標識セツキシマブを用いた放射免疫治療と術中迅速診断法の組み合わせは、進行性腹膜播種に有用であることが示された。
【0052】
以上の結果から、本発明によれば、放射免疫療法を利用して腹腔内に散在する腫瘍を効果的に治療できることが示唆された。