(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-214625(P2017-214625A)
(43)【公開日】2017年12月7日
(54)【発明の名称】蒸着用マスク及び有機ELパネルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/04 20060101AFI20171110BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20171110BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20171110BHJP
【FI】
C23C14/04 A
H05B33/10
H05B33/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-109789(P2016-109789)
(22)【出願日】2016年6月1日
(71)【出願人】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田所 豊康
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 保博
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC33
3K107CC35
3K107CC42
3K107GG04
3K107GG33
4K029BA62
4K029CA01
4K029HA03
(57)【要約】
【課題】 有機ELパネルの大面積化や高精細化に関わらず、安定して蒸着を行うことが可能な蒸着用マスク及び有機ELパネルの製造方法を提供する。
【解決手段】 蒸着源3から気化した蒸着材料4を所定のパターンで透光性基板1に蒸着させるための複数の開口孔部2aを有する板状の蒸着用マスク2であって、透光性基板1側の面に形成され、面方向からみて複数の開口孔部2aを囲む第1の凹部2bと、第1の凹部2bの底面に形成され、面方向からみて複数の開口孔部2aと隣り合う第2の凹部2cと、第1の凹部2bの底面から蒸着源3側の面を貫通するように形成される複数の開口孔部2aと、を備えてなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着源から気化した蒸着材料を所定のパターンで基板に蒸着させるための複数の開口孔部を有する板状の蒸着用マスクであって、
前記基板側の面に形成され、面方向からみて前記複数の開口孔部を囲む第1の凹部と、
前記第1の凹部の底面に形成され、面方向からみて前記複数の開口孔部と隣り合う第2の凹部と、
前記第1の凹部の底面から前記蒸着源側の面を貫通するように形成される前記複数の開口孔部と、
を備えてなることを特徴とする蒸着用マスク。
【請求項2】
前記第1の凹部を構成する第1の開口部が形成されてなる第1の金属板と、
前記第2の凹部を構成する第2の開口部と、前記複数の開口孔部を構成する複数の第3の開口部とが形成されてなる第2の金属板と、
前記複数の開口孔部を構成する複数の第4の開口部が形成されてなる第3の金属板と、
が前記蒸着部材側から順に重ねられてなることを特徴とする請求項1に記載の蒸着用マスク。
【請求項3】
前記複数の開口孔部が形成された複数の領域を有し、
前記第1の凹部が前記複数の領域の各々に対応して複数形成されてなる、
ことを特徴とする請求項1に記載の蒸着用マスク。
【請求項4】
前記複数の開口孔部は、その断面が前記基板側に向かって幅狭となることを特徴とする請求項1に記載の蒸着用マスク。
【請求項5】
前記基板上に一対の電極間に少なくとも有機発光層を含む機能層を挟持してなる有機EL素子を形成してなる有機ELパネルの製造方法であって、
請求項1から請求項4の何れかに記載の蒸着用マスクを用いた蒸着によって、前記機能層の少なくとも1層を形成する工程を含む、
ことを特徴とする有機ELパネルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着装置内に配設され、基板上に蒸着材料を蒸着するための蒸着用マスク及び有機ELパネルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有機ELパネルとしては、ガラス材料からなる透光性基板上に、ITO(Indium Tin Oxide)等によって陽極となる透明電極と、正孔注入層,正孔輸送層,有機発光層,電子輸送層及び電子注入層からなる機能層と、陰極となるアルミニウム(Al)等の非透光性の背面電極とを順次積層して積層体である有機EL素子を形成し、この積層体を覆うガラス材料からなる封止部材を透光性基板上に配設してなるものが知られている。このような有機ELパネルは、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
かかる有機ELパネルは、有機EL素子を構成する各層(正孔注入層,正孔輸送層,発光層,電子輸送層,電子注入層,背面電極)に対応する複数の蒸着室を有する蒸着装置に透明電極の形成された透光性基板を投入し、各層を形成することで得られるものである。かかる蒸着装置における各蒸着室は、例えば真空ポンプによって高真空に保たれ、これらの蒸着室内の下側に、蒸着材料を収納するルツボとこのルツボを取り巻くように巻回される加熱コイルとルツボ及び加熱コイルを包囲するように配設される熱遮蔽部材とを有する蒸着源が配設され、加熱コイルに電流が供給されることで蒸着材料が気化する。一方、各蒸着室の上側には、透光性基板を有する基板ホルダーと、基板ホルダーの背後に配設され蒸着用マスクを有するマスクホルダーとが配設されている。マスクホルダーに備えられる蒸着用マスクは、金属材料からなり、透光性基板に所定の蒸着パターンを形成するための複数の開口孔部と、透光性基板への蒸着パターンの形成を阻止するマスク部(遮蔽部)とを有しており、蒸発した蒸着材料が蒸着用マスクに設けられる各開口孔部を通過することで透光性基板上に所定の蒸着パターンが形成されるようになっている。このような蒸着用マスクは、例えば特許文献2に開示されている。
【0004】
また、蒸着用マスクとして、基板との間隙を一定に保つために、蒸着用マスクを構成する板体自身の表面を押圧変形によって突出させて突出部を設けるものが特許文献3に開示されている。これによれば、蒸着用マスクの着脱時に蒸着膜や他の構成部材に損傷を与えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−267066号公報
【特許文献2】特開2000−192224号公報
【特許文献3】特開2004−214015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、押圧変形による突出部を形成した蒸着用マスクは、加工精度が低く蒸着の精度が低下し、また、たわみによる構成部材への接触のおそれがある。そのため、有機ELパネルの大面積化や高精細化に十分に対応することができず、安定して蒸着を行うことができないという点で更なる改善の余地があった。
【0007】
本発明の前述した問題点に着目し、有機ELパネルの大面積化や高精細化に関わらず、安定して蒸着を行うことが可能な蒸着用マスク及び有機ELパネルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の蒸着用マスクは、前述した課題を解決するため、
蒸着源から気化した蒸着材料を所定のパターンで基板に蒸着させるための複数の開口孔部を有する板状の蒸着用マスクであって、
前記基板側の面に形成され、面方向からみて前記複数の開口部を囲む第1の凹部と、
前記第1の凹部の底面に形成され、面方向からみて前記複数の開口孔部と隣り合う第2の凹部と、
前記第1の凹部の底面から前記蒸着源側の面を貫通するように形成される前記複数の開口孔部と、
を備えてなることを特徴とする。
【0009】
またさらに望ましくは、本発明の蒸着用マスクは、前記第1の凹部を構成する第1の開口部が形成されてなる第1の金属板と、
前記第2の凹部を構成する第2の開口部と、前記複数の開口孔部を構成する複数の第3の開口部とが形成されてなる第2の金属板と、
前記複数の開口孔部を構成する複数の第4の開口部が形成されてなる第3の金属板と、
が前記蒸着部材側から順に重ねられてなることを特徴とする。
【0010】
またさらに望ましくは、本発明の蒸着用マスクは、前記複数の開口孔部が形成された複数の領域を有し、
前記第1の凹部が前記複数の領域の各々に対応して複数形成されてなる、
ことを特徴とする。
【0011】
またさらに望ましくは、本発明の蒸着用マスクにおいて、前記複数の開口孔部は、その断面が前記基板側に向かって幅狭となることを特徴とする。
【0012】
本発明の有機ELパネルの製造方法は、前述した課題を解決するため、前記基板上に一対の電極間に少なくとも有機発光層を含む機能層を挟持してなる有機EL素子を形成してなる有機ELパネルの製造方法であって、
前述した本発明の蒸着用マスクを用いた蒸着によって、前記機能層の少なくとも1層を形成する工程を含む、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、有機ELパネルの大面積化や高精細化に関わらず、安定して有機ELパネルを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態における蒸着室内を示す簡略断面図。
【
図2】同上実施形態における蒸着用マスクを示す分解断面図。
【
図3】同上実施形態における蒸着用マスクの一例を示す上面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。
【0016】
図1は、一般的な蒸着装置の蒸着室内を簡略的に示す断面図である。蒸着室内には、透光性基板1と、蒸着用マスク2と、蒸着源3と、が配設されている。
【0017】
透光性基板1は、透明ガラス材からなる矩形状の板状部材である。透光性基板1上には蒸着用マスク2を介して蒸着源3から気化する蒸着材料4が所定のパターンで蒸着される。
【0018】
蒸着用マスク2は、厚さが50μm〜200μm(大型化する場合は更に厚くすることができる)程度の板状部材であり、透光性基板1と蒸着源3との間に配設される。蒸着用マスク2は、SUS430やSUS304等の金属板を複数重ねてなり、本実施形態においては、4枚の金属板21,22,23,24を重ねてなる。蒸着用マスク2は、蒸着源3から気化(蒸発あるいは昇華)する蒸着材料4を所定のパターンで透光性基板1上に蒸着させるための複数の開口孔部2aを備えている。蒸着用マスク2のうち、複数の開口孔部2aが形成された以外の個所は、蒸着材料4を遮るマスク部(遮蔽部)となる。
【0019】
蒸着源3は、蒸着材料4が収納される容器であり、例えば蒸着材料4を収納するルツボと、このルツボを取り巻くように巻回される加熱コイルと、前記ルツボ及び前記加熱コイルを包囲するように配設される熱遮蔽部材と、を有する。前記加熱コイルに電流が供給されることで蒸着材料4が気化し、蒸着経路4aを経て透光性基板1に向けられる。
【0020】
次に、蒸着用マスク2の特徴点について述べる。蒸着用マスク2は、複数の開口孔部2aと、透光性基板1側の面に形成され、面方向からみて複数の開口孔部2aを囲む第1の凹部2bと、第1の凹部2bの底面に形成され、面方向からみて複数の開口孔部2aと隣り合う第2の凹部2cと、を備える。
【0021】
複数の開口孔部2aは、第1の凹部2bの底面から蒸着源3側の表面を貫通するように形成され、その断面が蒸着源3側から透光性基板1側に向かって幅狭となる台形状に形成されている。複数の開口孔部2aの平面形状は、蒸着パターンに応じて任意であるが、例えば正方形や長方形の矩形状や円状に形成される。このように開口孔部2aを形成したので、蒸着源3側の開口孔部2aの縁部で蒸着材料4が遮られるのを抑制し、微細な蒸着パターンを精度よく形成することができる。なお、開口孔部2aの断面形状は透光性基板1側に向かって幅狭となる形状であれば、台形状以外にも階段状などであってもよい。
【0022】
第1の凹部2bは、透光性基板1に形成された蒸着材料4(蒸着膜)や電極、配線、絶縁膜あるいは隔壁などの透光性基板1上の有機ELパネルの構成部材が蒸着用マスク2の表面と接触しないように、これら構成部材の高さよりも深く形成することが望ましい。これにより、透光性基板1との間隔を一定に保つことができる。なお、複数種類の蒸着用マスク2を用いて蒸着材料4の塗り分けを行う場合、第1の凹部2bは、複数の開口孔部2aを囲み、かつ、透光性基板1のうち有機EL素子(発光部)が形成される領域である発光領域1aよりも大きくなるように形成することが望ましい。
【0023】
第2の凹部2cは、第1の凹部2bの底面に、面方向から見て複数の開口孔部2aの間及び開口孔部2aと第1の凹部2bの側面との間に位置するようにそれぞれ形成されている。このように、第1の凹部2bの底面に、面方向から見て複数の開口孔部2aと隣り合うように第2の凹部2cを設けたので、有機ELパネルの大面積化や高精細化に伴って蒸着用マスク2が大面積化、高精細化して多少のたわみが生じても、蒸着用マスク2(第1の凹部2bの底面)が透光性基板1上の構成部材に接触することを避けることができ、安定して蒸着を行うことができる。
【0024】
図2に示すように、蒸着用マスク2は、透光性基板1側から順に、金属板21,22,23,24が重ねられてなる。金属板21〜24は溶接や接着などの方法で互いに固定される。金属板21(第1の金属板の一例)は、第1の凹部2bを構成する第1の開口部21aが形成されてなる。第1の開口部21aは、例えばエッチングによって形成される。金属板22,23(第2の金属板の一例)は、第2の凹部2cを構成する第2の開口部22a,23aと、複数の開口孔部2aを構成する複数の第3の開口部22b,23bと、が形成されてなる。第2の開口部22a,23a及び第3の開口部22b,23bは、例えばエッチングによって形成される。金属板24(第3の金属板の一例)は、複数の開口孔部2aを構成する複数の第4の開口部24aが形成される。第4の開口部24aは、例えばエッチングによって形成される。蒸着用マスク2は、予めそれぞれ開口部21a,22a,23a,22b,23b,24aが形成された金属板21〜24を重ねてなる。このように、蒸着用マスク2をそれぞれ開口部21a,22a,23a,22b,23b,24aを有する複数の金属板21〜24を重ねて形成したので、精度よく複数の開口孔部2a,第1の凹部2b及び第2の凹部2cを設けることができ、精度よく蒸着することができる。
【0025】
なお、1つの透光性基板1から複数の有機ELパネルを製造するいわゆる多面取りを行う場合、蒸着用マスク2は、
図3(a)に示すように、複数の開口孔部2aが形成された領域25が複数形成され、複数の領域25の各々に対応するように第1の凹部2bが複数形成される。また、
図3(b)に示すように、1つの第1の凹部2bが複数の領域25を囲むように形成されてもよい。
【0026】
図4は、上述の蒸着用マスク2を用いて製造される有機ELパネル100の一例を示す概略断面図である。
有機ELパネル100は、透光性基板1上にITO等の透明導電材料からなる透明電極(陽極)11と、絶縁性樹脂からなる絶縁膜12と、機能層13と、アルミニウム等の低抵抗金属材料からなる背面電極(陰極)14と、を形成してなる。透明電極11と背面電極14とは一対の電極として機能し、両電極11,14の間に機能層13が積層された個所が発光部である有機EL素子10となる。絶縁膜12は、有機EL素子10の形状を画定するべく縁部が透明電極11に重なるように形成され、有機EL素子10以外での両電極11,14の絶縁を確保する。機能層13は、少なくとも有機発光層を含む単数あるいは複数層からなり、一例としては透明電極11側から順に正孔注入層,正孔輸送層,有機発光層,電子輸送層及び電子注入層が形成される。
有機ELパネル100は、例えば機能層13のうち、有機発光層が上述の蒸着用マスク2を用いた蒸着によって形成される。有機発光層を形成する工程において、まず、透明電極11、絶縁膜12及び機能層13の一部(前述の例においては正孔注入層及び正孔輸送層)が形成された透光性基板1を蒸着用マスク2が配置された前記蒸着室に投入し、蒸着室内の基板ホルダー(図示しない)に蒸着用マスク2と対向するように配置して固定する(
図1参照)。そして、蒸着材料4として有機発光層となる有機材料を収容した蒸着源3の前記ルツボを加熱し、蒸着材料4を気化させる。気化した蒸着材料4は蒸着経路4aを経て蒸着用マスク2に達し、さらに複数の開口孔部2aを通過して透光性基板1上に蒸着され、所定のパターンで有機発光層が成膜される。なお、有機発光層が例えば赤色、緑色、青色の3色の層を塗り分けして形成される場合、各色の発光層のパターンに応じた複数の開口孔部2aが形成された蒸着用マスク2を用いて各色の発光層毎に蒸着を行う。なお、機能層13のうち、有機発光層以外を形成する工程において、蒸着用マスク2を用いた蒸着を行ってもよい。
【0027】
なお、前述の実施形態は本発明の一例を示すものであって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更(構成要素の削除を含む)が可能であることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、蒸着装置内に配設され、基板に所定のパターンで蒸着材料を蒸着するための蒸着用マスク及び有機ELパネルの製造方法に好適である。
【符号の説明】
【0029】
1 透光性基板(基板)
1a 発光領域
2 蒸着用マスク
2a 開口孔部
2b 第1の凹部
2c 第2の凹部
3 蒸着源
4 蒸着材料
4a 蒸着経路
10 有機EL素子
11 透明電極
12 絶縁膜
13 機能層
14 背面電極
21 金属板
21a 第1の開口部
22 金属板
22a 第2の開口部
22b 第3の開口部
23 金属板
23a 第2の開口部
23b 第3の開口部
24 金属板
24a 第4の開口部
25 複数の開口孔部が形成された領域
100 有機ELパネル