(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-215027(P2017-215027A)
(43)【公開日】2017年12月7日
(54)【発明の名称】軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 17/10 20060101AFI20171110BHJP
F16C 9/04 20060101ALI20171110BHJP
【FI】
F16C17/10 Z
F16C9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-111006(P2016-111006)
(22)【出願日】2016年6月2日
(71)【出願人】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100147810
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 浩
(72)【発明者】
【氏名】村本 幸隆
【テーマコード(参考)】
3J011
3J033
【Fターム(参考)】
3J011BA06
3J011CA01
3J011CA05
3J011DA02
3J011JA02
3J011KA02
3J011KA03
3J011MA06
3J011MA08
3J011MA27
3J011PA01
3J011RA03
3J011SB01
3J011SB03
3J011SB04
3J011SC01
3J033AA05
3J033AB03
3J033AB04
3J033AC01
3J033GA04
3J033GA05
3J033GA07
3J033GA11
(57)【要約】
【課題】局所的な荷重を受ける使用環境においても局所的な損傷を抑制する。
【解決手段】軸受(10)は、軸と摺動する摺動面(111)を有する軸受本体(11)と、スラスト荷重を受けるスラスト面(121)を有し、軸受本体(11)と一体成形されたワッシャ(12、13)と、内周面(111)とスラスト面(121)との間の一部に、軸の周方向に沿って形成された隙間(14、15、16、17)とを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸と摺動する内周面を有する軸受本体と、
スラスト荷重を受けるスラスト面を有し、前記軸受本体と一体成形されたワッシャと、
前記内周面と前記スラスト面との間の一部に、前記軸の周方向に沿って形成された隙間と
を有する軸受。
【請求項2】
前記軸受本体が半円筒の形状を有しており、
前記隙間の一端が、前記軸受本体における前記周方向の端部に達している
ことを特徴とする請求項1に記載の軸受。
【請求項3】
前記軸受本体と前記ワッシャとが、前記周方向の中心において接続されている
ことを特徴とする請求項2に記載の軸受。
【請求項4】
前記軸受本体が半円筒の形状を有しており、
前記隙間が、前記軸受本体における前記周方向の中心を通る
ことを特徴とする請求項1に記載の軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワッシャを有するすべり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジンにおいて用いられる軸受として、ワッシャ(フランジ)と半割軸受とを一体成形した軸受が知られている。例えば特許文献1には、半円筒形状を有する軸受本体の軸方向の両端にワッシャが一体成形された軸受が記載されている。この軸受においては、一端のワッシャの厚さと他端のワッシャの厚さとが異なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−542657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
軸受は使用環境によって局所的な荷重を受けることがある。特許文献1に記載された軸受は、局所的な荷重による局所的な疲労または焼付きのような損傷が発生することがあった。
【0005】
これに対し本発明は、局所的な荷重を受ける使用環境においても局所的な損傷を抑制できる軸受を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、軸と摺動する内周面を有する軸受本体と、スラスト荷重を受けるスラスト面を有し、前記軸受本体と一体成形されたワッシャと、前記内周面と前記スラスト面との間の一部に、前記軸の周方向に沿って形成された隙間とを有する軸受を提供する。
【0007】
前記軸受本体が半円筒の形状を有しており、前記隙間の一端が、前記軸受本体における前記周方向の端部に達していてもよい。
【0008】
前記軸受本体と前記ワッシャとが、前記周方向の中心において接続されていてもよい。
【0009】
前記軸受本体が半円筒の形状を有しており、前記隙間が、前記軸受本体における前記周方向の中心を通ってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、軸受本体とワッシャとが一体成形された軸受において、局所的な荷重を受ける使用環境においても局所的な損傷を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る軸受1の外観を例示する図。
【
図3】
図2のA−A断面における構造を例示する図。
【
図4】半割軸受10に局所的なスラスト荷重がかかった例を示す図。
【
図6】半割軸受10の構造のさらに別の例を示す図。
【
図7】半割軸受10の構造のさらに別の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、一実施形態に係る軸受1の外観を例示する図である。軸受1は、軸9を支持するためのものであり、2つの半割軸受、半割軸受10および半割軸受20を組み合わせた軸受である。軸9は回転する軸、例えばエンジンのクランクシャフトである。すなわち軸受1は、エンジンのいわゆる主軸受として用いられる軸受である。半割軸受10は、軸受本体11、ワッシャ12、およびワッシャ13を有する。軸受本体11、ワッシャ12、およびワッシャ13は、一体成形されている。なお以下の説明において、軸9が延びる方向(図のz方向)を「軸方向」といい、軸9の回転に沿った方向(図のθ方向)を「周方向」といい、軸9の回転中心から放射状に延びる方向(図のr方向)を「径方向」という。
【0013】
軸受本体11は、半円筒の形状を有している。軸受本体11は、内周面111、外周面112、合わせ面113、および合わせ面114を有する。外周面112は、ハウジング(図示略)により支持される。内周面111は、少なくともその一部が軸9と摺動する(すなわち内周面111は摺動面を含む)。合わせ面113および合わせ面114は、他の半割軸受20と組み合わせるときに他の半割軸受20と対向する面である。軸受本体11の軸方向の一端(図の手前側)にはワッシャ12が、他端(図の奥側)にはワッシャ13が、それぞれ接続されている。
【0014】
ワッシャ12は、スラスト荷重を受けるスラスト軸受であり、半円形の板から径の小さい半円を抜いた形状(半ドーナツ型)を有する。ワッシャ12は、スラスト面121および背面122を有する(背面122は
図1では隠れていて見えない)。背面122は、ハウジング(図示略)により支持される。スラスト面121は、スラスト荷重を受けるための面である。スラスト面121には、油溝1211および油溝1212が形成されている。油溝1211および油溝1212は、軸受本体11の内周面111からスラスト面121への潤滑油の供給経路として機能し、さらに潤滑油を保持するための溝である。なお、ワッシャ13もワッシャ12と同じ構造を有している。
【0015】
図2は、半割軸受10の構造を例示する図である。図の下段は正面図を、上段は平面図を、それぞれ示している。軸受本体11とワッシャ12との間の一部には、周方向に延びる隙間(スリット)14および隙間15が形成されている。なお、軸受本体11、ワッシャ12、およびワッシャ13は一体成形されているので、軸受本体とワッシャ12またはワッシャ13との境界を厳密に定めることは難しい。「軸受本体11とワッシャ12との間」とは、具体的には、内周面111とスラスト面121との間を意味する。この例で、隙間14の一端は、合わせ面113まで達している。隙間14の他端は軸受本体11の周方向の中心までは達していない。なお周方向の中心とは、合わせ面113から合わせ面114を結ぶ線を基準(0°)として角度θを定義した場合に、θ=90°である位置をいう。隙間15は、一端が合わせ面114まで達しており、他端は周方向の中心までは達していない。また、内周面111とワッシャ13との間には、周方向に延びる隙間16および隙間17が形成されている。隙間16は、一端が合わせ面113まで達しており、他端は周方向の中心までは達していない。隙間17は、一端が合わせ面114まで達しており、他端は周方向の中心までは達していない。
【0016】
この例で、ワッシャ12と軸受本体11とは、周方向の中心(より詳細には中心を含む領域である接続部18)においてのみ接続されており、他の領域においては離間している。隙間14の周方向の距離Ls1および隙間15の周方向の距離Ls2はいずれも、接続部18の周方向の距離Lcよりも長い(当然、距離Ls1および距離Ls2の和も、距離Lcよりも長い)。なお、距離Ls1、距離Ls2、および距離Lcは、想定されるスラスト荷重等に応じて決定されるものであり、これはあくまで一例である。
【0017】
さらに、軸受本体11は、油孔19を有する。油孔19は、潤滑油の出入口となる孔である。また、内周面111には、油溝1111が形成されている。油溝1111は、潤滑油の供給経路、例えばコンロッドベアリング(図示略)への潤滑油の供給経路として機能する。
【0018】
図3は、
図2のA−A断面、すなわち隙間14および隙間16が形成されている領域における、軸方向に平行な断面の構造を例示する図である。この断面において、隙間14および隙間16は、径方向に沿って延びている(すなわち径方向に平行に形成されている)。換言すると、隙間14および隙間16は、内周面111から外周面112まで貫通している。図示は省略するが隙間15および隙間17についても同様である。
【0019】
なお既に説明したように、軸受本体11、ワッシャ12、およびワッシャ13は、それぞれ別体で形成したものを接合したのではなく、一体成形されたものである。したがって、「ワッシャ12と軸受本体11とが接続されている」とは、それぞれ独立した部品として形成されたワッシャ12と軸受本体11とが溶接等により接合されていることを意味するのではなく、ワッシャ12と軸受本体11との間で一体性または連続性が保たれていることをいう。また、「軸受本体11とワッシャ12との間に隙間が形成されている」とは、ワッシャ12と軸受本体11との間で一体性または連続性を乱す構造が形成されていることをいう。また、「ワッシャ12と軸受本体11との間」とは、スラスト面121と内周面111との間をいう。
【0020】
本願発明者らの研究によれば、エンジン軸受においては、ワッシャの特定の位置が損傷しやすいことが分かった。これは、ワッシャの特定の位置にスラスト荷重が集中する傾向があることを意味している。具体的に損傷する箇所は使用環境に応じて異なるが、ある種の軸受においては合わせ面近傍が損傷しやすいこと、すなわち合わせ面近傍にスラスト荷重が集中しやすいことが分かっている。
【0021】
図4は、半割軸受10に局所的なスラスト荷重がかかった例を示す図である。ここでは、スラスト面131において合わせ面113の近傍が局所的な荷重Fを受けた例を示している。荷重Fによりワッシャ13は弾性変形するが、本実施形態では隙間16があることにより、(隙間16が無い例と比較して)より大きな弾性変形が可能である。この弾性変形により局所的な荷重を他の箇所に逃がすことができ、合わせ面113の近傍におけるワッシャ13の損傷を抑制することができる。
【0022】
半割軸受10は、例えば、裏金およびライニング層を積層したバイメタルにより形成される。裏金は、例えば半割軸受10に機械的強度を与えるための層であり、例えば鋼により形成される。ライニング層は、摺動面またはスラスト面として露出し、例えば摺動特性を調整するための層であり、例えばアルミニウム合金や銅合金により形成される。なお、半割軸受10の材料の構造はこれに限定されない。例えば、半割軸受10は鋼等の単層の材料により形成されていてもよい。あるいは、ライニング層の上に樹脂を含むコーティング層が形成されてもよい。
【0023】
半割軸受10は、例えば以下のように製造される。まず、板材に対する曲げ加工により、ワッシャ12およびワッシャ13となる部分が形成される。次に、その板材が、さらに半円筒形状に曲げ加工される。続いて、切削加工により、隙間14〜17が形成される。
【0024】
なお半割軸受20の構造について詳細な説明は省略するが、例えば、半割軸受20は、油孔19および油溝1111を有さない点以外は半割軸受10と同じ構造を有している。
【0025】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。以下、変形例をいくつか説明する。以下の変形例のうち2つ以上のものが組み合わせて用いられてもよい。
【0026】
図5は、半割軸受10の構造の別の例を示す図である。軸受本体11とワッシャ12との間の隙間の数および位置並びに接続部の数および位置は、
図2の例に限定されない。
図2の例と対比すると、
図5の例は、接続部18を有しておらず、隙間21並びに接続部22および接続部23を有する。隙間21は、軸受本体11とワッシャ12との間の、周方向の中心を通っている。本願発明者らの研究によれば、ある種の軸受においては合わせ面近傍に加えて、周方向の中心近傍が損傷しやすいこと、すなわち合わせ面近傍および周方向の中心近傍にスラスト荷重が集中しやすいことが分かっている。周方向の中心を通る隙間21を形成することにより、周方向の中心近傍におけるワッシャ12の損傷を抑制することができる。ワッシャ13についても同様である。
【0027】
図6は、半割軸受10の構造のさらに別の例を示す図である。軸方向に平行な断面における隙間14および隙間16の向きは、
図3の例に限定されない。
図6の例では、隙間14および隙間16は、軸方向に沿って延びている(すなわち軸方向に平行に形成されている)。この例によれば、ワッシャ12またはワッシャ13が軸方向に変位しても軸受本体11と接触することがないので、より大きな変位マージンを得ることができる。隙間15および隙間17についても同様である。
【0028】
図7は、半割軸受10の構造のさらに別の例を示す図である。隙間14および隙間16は、内周面111から外周面112まで貫通しておらず、一方側にのみ形成されていてもよい。
図7の例では、隙間14および隙間16が外周面112側に形成されており、内周面111までは貫通していない。この例においても、弾性変形によるワッシャ12またはワッシャ13の変位量は、隙間14および隙間16が形成されていない例よりも大きくなり、スラスト面の損傷を抑制することができる。
【0029】
半割軸受10の具体的形状は実施形態で例示したものに限定されない。例えば、軸受本体11は、油孔19および油溝1111を有していなくてもよい。また、軸受本体11の形状は、円筒形、1/3円筒形、1/4円筒形など、半円筒形以外の形状であってもよい。ワッシャ12のスラスト面に形成される油溝の形状および数は
図2で例示したものに限定されない。さらに、半割軸受10の用途は、エンジンの主軸受に限定されない。例えばコンロッド軸受等、他の用途に用いられてもよい。
【符号の説明】
【0030】
1…軸受
10…半割軸受
11…軸受本体
111…内周面
1111…油溝
112…外周面
12…ワッシャ
121…スラスト面
1211…油溝
1212…油溝
122…背面
13…ワッシャ
14…隙間
15…隙間
16…隙間
17…隙間
18…接続部
19…油孔
21…隙間
22…接続部
23…接続部
20…半割軸受
9…軸